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長波方程式による液体潤滑剤の変形・流動特性解析
(気体圧力による有限幅界面の数値解析)
Lubricant deformation using long wave equation
○学
頼野
一也(鳥取大・院) 非 小西 範和(鳥取大・工) 正 山根 清美(鳥取大・工)
正 松岡 広成(鳥取大・工)
正 福井 茂寿(鳥取大・工)
Kazuya YORINO,
Norikazu KONISHI,
Kiyomi YAMANE,
Hiroshige MATSUOKA,
Shigehisa FUKUI,
Tottori University, Koyama-cho, Tottori city, 680-0945
Tottori University
Tottori University
Tottori University
Tottori University
In the head disk interface (HDI) of a hard disk drive, lubricant deformation have an effect on flying attitude of
head slider, as the flying height is decreasing. The time evolution of lubricant deformation is analyzed using long
wave equation. We obtained the lubricant deformation of finite scale. This analysis can be useful for HDI study and
other tribological studies that need to investigate the behavior of lubricant on solid.
Key Words: Long wave Equation, Lubricant, Gas-liquid lubrication, Head disk interface (HDI), Hard disk drive.
1. はじめに
磁気ディスク装置(HDD)の高記録密度化のためには、
磁気ヘッドとディスク間の浮上すきまの低減が必要である。
浮上すきまが 10nm 程度以下になると、ディスク面に塗布
されている液体潤滑剤の厚さ(1∼2 nm)と同オーダーと
なり、液体潤滑剤の変形・流動特性を考慮した設計が必要
となる(図 1)。現在、スライダの浮上による潤滑剤の変形
・流動特性を明らかにするための研究が行われている [1-3] 。
著者らは、HDI の気液2層潤滑問題に適用できる長波方程
式[4]を導出し、これによる液膜変形の解析を行った[5, 6]。た
だし、これらは無限幅の解析であり、現実的な HDI 問題に
適用するためには、有限幅への拡張、さらにディスクの周
期性を考慮した拡張を行う必要性があった。
本報告では、幅方向も考慮した変形特性を解析するため、
2次元の長波方程式を用いた解析を行った。具体的には、
気体圧力を与えた場合の液膜変形の数値解析を行い、変形
の基本特性を調べた。また、周期境界条件を適用すること
で繰り返し圧力が作用する場合の解析も行った。
2. 気液界面の釣り合いと長波方程式
長波方程式は、液体の広がりに対して、厚さが小さい液
体薄膜の流動を記述する式であり、Navier-Stokes 方程式を
潤滑問題に適用し、気液界面の釣り合いの関係を用いるこ
とで得られる。図 1 のような HDI 問題における液体潤滑剤
の液膜厚さ hL の時間変化は、次式で与えられる。
∂hL
1 ∂ ⎛ 3 ∂pL ⎞
1 ∂
−
(τ Lx hL2 ) + uDx ∂∂hxL
⎜ hL
⎟+
∂t 3µ L ∂x ⎝ ∂x ⎠ 2 µ L ∂x
−
∂ ⎛ 3 ∂pL ⎞
1 ∂
(τ Ly hL2 ) + uDy ∂∂hyL = 0
⎜ hL
⎟+
3µ L ∂y ⎝ ∂y ⎠ 2 µ L ∂y
1
z = hL
τ Lx
z = hL
⎛ ∂ 2 hL ∂ 2 hL ⎞
−
+ 2 ⎟
γ
⎜
GL
2
z = hL
∂y ⎠
⎝ ∂x
∂γ GL
= τ Gx z = h +
L
∂x
= τ Gy
z = hL
+
∂γ GL
∂y
(4)
3. 気体圧力による液体潤滑剤の変形解析(有限幅)
ここでは、図2(a), 図3(a)に示すような、気体の点圧力に
よる液体潤滑剤の変形解析を、固体(ディスク)面が走行
する場合と静止している場合について計算を行った。潤滑
剤の液膜厚さhLは、まず変形の原因となる気体圧力pG、せ
ん断応力τGを与え、これを釣り合い式(2) ∼ (4)に代入して液
体圧力pLおよびせん断応力 τLを求め、次にこれを式(1)に代
入して数値計算することによって求められる。なお、今回
は簡単化のため、せん断応力をゼロ(τGx = τGy = 0)とした。
計算には差分法およびNewton-Raphson逐次近似法を用いた。
潤滑剤はPFPE Zdolとし、表面張力は一様(γGL = 24×10−3)
とした。また、計算領域は0.5 µm四方(lx = ly = 0.5µm)、x,y
座標はそれぞれディスクの走行方向、半径方向とし、分割
数はX (= x/lx),Y (= y/ly)方向を100×50とした。境界条件はx,
y方向ともに周期境界条件を適用した。
図 2(a)は、液膜中央部に気体の点圧力が作用し、固体面
が速度 uDx = 1 mm/s で右に移動する場合の液膜変形である。
気体圧力は pG = 1.2 atm とし、液膜厚さは hL0 = 10nm とし
た。図 2(b)は、ほぼ定常状態に達したと思われる実時間 t =
0.04 sec の変形で、計算領域の全分割数(100×50)を表示し
た。図から、圧力印加点で大きく変形するとともに、走行
方向が全体的に沈み込みを生じていることを確認した。こ
の結果は、液膜に圧力が繰り返し印加される場合には、そ
の部分が溝状に変形することを示唆している。図 2(c)は、
Head s
li
pG と、せん断応力τG との釣り合いにより次式で与えられる。
γGL は表面張力である。
= pG
z = hL
(1)
ここで、uDy,uDx はディスクの走行速度、 µL は液体の粘性
である。また、液層の圧力 pL とせん断応力τL は、気体圧力
pL
τ Ly
≈10 nm
Air
z
y
x
hL
Lubricant
τ Gx +
Air
Lube
≈ 2 nm
uDx
Disk
(2)
(3)
der
∂γ GL
∂x
pL
⎛ ∂ 2 h ∂2 h ⎞
pG − γ GL ⎜ 2L + 2L ⎟
∂y ⎠
⎝ ∂x
τ Lx
Fig. 1 Head disk interface and balance of stresses
on the gas liquid interface
X = 0.5 および Y = 0.5 での断面図である。圧力印加点の前
方で、液膜はわずかに持ち上げられ、後方では沈み込む。
また、幅方向は対称に変形する。なお、固体面が静止して
いる場合についても同様の解析を行い(付録、図 3)、両者
の比較から、面が走行すると変形量が小さくなることを確
認した。
4. おわりに
2次元の長波方程式による液膜変形の数値解析を行い、
潤滑剤の表面変形の基本特性を調べた。特に、ディスクの
回転により周期的な圧力が印加される状況を再現するため
z
pG = 1.2 atm
y
x
0
ly =
.5 µ
lx = 0.5 µm
m
hL0 = 10 nm
PFPE Zdol
Disk
uDx = 1 mm/s
(a) Schematic of initial lubricant thickness
t = 0.04 sec
に、計算領域の右端と左端がつながっているとする周期境
界条件を適用した。その結果、液膜に気体圧力が繰り返し
印加される場合には、溝状の変形が生じることなどを示し
た。
5. 参考文献
[1] A. Pouwer, Y. Kawakubo and R. Tsuchiyama, IEEE Trans. on Mag., 37(2001)1869.
[2] Q. Dai, C. S-Olive, R. Pit and B. Marchon, IEEE Trans. on Mag., 38(2002)2111.
[3] 柳沢,川久保,吉野,トライボロジー会議予稿集(東京2004-5),155-156
[4] A. Oron, S. H. Davis and S. G. Bankoff, Reviews of Modern Physics, 69 (1997)
931-980
[5] 山根,頼野,松岡,福井,トライボロジー会議予稿集(新潟2003-11),383-384
[6] 山根,頼野,小西,松岡,福井,日本機械学会年次大会講演論文集(2004)、
発表予定
付録. 固体面が静止している場合
図 3 は、図 2 と同一条件で、固体面が静止している場合
(uDx = 0)について解析を行った。図 3(b)は、変形途中の実時
間 t = 0.001 sec における液膜形状を鳥瞰図として示したも
のである。図では、全体の分割数(100×50)のうち、中心部
分(40×20)を表示した。対称形の変形を確認した。図 3(c)
は、X = 0.5 および Y = 0.5 での断面図である。なお、図中
には参考のために無限幅解析の結果を破線で示している。
同時刻で比較すると、有限幅の方が変形量は小さい。
z
pG = 1.2 atm
y
x
ly =
lx = 0.5 µm
µm
hL0 = 10 nm
PFPE Zdol
1.00
Disk
uDx = 0 m/s
0.98
0.96
(a) Schematic of initial lubricant thickness
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
t = 0.001 sec
)
0.94
/l
y
0.92
1.0
(b) Bird view of lubricant deformation
1.00
0.95
0.90
0.7
0.6
0.85
y = 0.25 µm
0.4
pG = 1.2 atm
1
0.5
0.6
/ lx )
0.7
0.3
(b) Bird view of lubricant deformation
1.2
0.8
PFPE Zdol
0.6 hL0 = 10 nm
0.5
0.4
1.2
0.4
X(=x
x = 0.25 µm
t = 0.001 sec
t = 0.04 sec
uDx = 1 mm/s
lx = 0.5 µm
0.5
Position, X (=x / lx)
Lubricant thickness, HL (=hL / hL0)
Lubricant thickness, HL (=hL / hL0)
0.80
Y(
0.5
1.2
)
lx )
0.0
y
X(=x/
0.8
/l
0.6
HL ( = hL / hL0 )
0.4
1.05
Y(
0.2
=y
0.90
=y
H L ( = h L / h L0
)
1.02
0.5
0.6
pG = 1.2 atm
1
0.8
PFPE Zdol
0.6 hL0 = 10 nm
0.5
0
t = 0.001 sec
t = 0.04 sec
uDy = 0 mm/s
ly = 0.5 µm
0.5
Position, Y (=y / ly)
(c) Cross section of lubricant at X = 0.5 and Y = 0.5
1
y = 0.25 µm
pG = 1.2 atm
1
Finite
Ininite
0.8 t = 0.001 sec
uDx = 0 m/s
PFPE Zdol
0.6 h = 10 nm
L0
0.5
0
1.2
x = 0.25 µm
lx = 0.5 µm
0.5
Position, X (=x / lx)
1
pG = 1.2 atm
1
0.8 t = 0.001 sec
Finite
uDy = 0 m/s
PFPE Zdol
0.6 h = 10 nm
L0
0.5
0
ly = 0.5 µm
0.5
Position, Y (=y / ly)
1
(c) Cross section of lubricant at X = 0.5 and Y = 0.5
Fig. 2 Lubricant film Deformation by gas pressure
(uDx = 1 mm/s)
Fig. 3 Lubricant film Deformation by gas pressure (uDx = 0)