富士通の考えるERPモダナイゼーション - Fujitsu

富士通の考えるERPモダナイゼーション
Fujitsu’s Idea of ERP Modernization
● 大石理絵 ● 尾上 豊 ● 木村高士 ● 多東正人 ● 畠山敦史
あらまし
昨今の速いビジネス環境の変化に対応するため,お客様のニーズをより早く,より正
確にキャッチし,
的確なタイミングでお客様に商品を提供する必要がある。そのためには,
ICTを活用し,単なる効率化・コスト削減のためだけでなく,お客様システムのリアルタ
イム性,双方向性,運用保守の容易性と革新の両立を追求し,お客様の企業競争力を強
化する必要がある。更に,お客様の企業競争力強化への活用
(イノベーション)が求めら
れている。既にこれらの先進的な取組みを実施しているお客様事例も出てきている。そ
の中で,基幹システムの根幹を担う主流ERP
(Enterprise Resource Planning:企業資源
計画)であるSAPを取り上げる。SAPは従来の業務アプリケーションによるERPから,イ
ンメモリによる高速化・ユーザーエクスペリエンス向上・クラウド提供など,大きく枠
組みを広げている。また,導入後10年以上経過したシステムも数多く存在し,運用保守
を含めたシステム運用基盤全体を見直す時期にきている。
本稿では,SAPの新ソリューションと富士通の新ソリューションを活用し,ビジネス
イノベーションに向けた富士通の考えるERPモダナイゼーション全体像を適用シーン,
実践などをピックアップしながら紹介する。
Abstract
In order to keep up with rapid changes in the recent business environment,
enterprises must identify customers needs more quickly and accurately to offer
products to them at appropriate timings. To that end, they must use information and
communications technology (ICT) not merely to improve efficiency and reduce costs, but
also to ensure that customer systems can work in real time, be interactive, and be easy
to operate and maintain, along with achieving innovation, so as to increase customers
corporate competitiveness. Furthermore, what is required is to innovatively apply
ICT to the strengthening of customers corporate competitiveness. There are already
some examples of customers implementing these advanced approaches. Among them,
we take up SAP, the mainstream enterprise resource planning (ERP) software that
provides the core of mission-critical systems. SAP is significantly expanding its
framework from the conventional business-application-based ERP to acceleration by
in-memory technology, improvement of user experience and provision of a cloud. In
addition, there are many systems that have been in place for over 10 years and it
is time for the owners to revise the entire system operation platform including its
operation and maintenance. This paper describes Fujitsu s general idea about ERP
modernization that takes advantage of SAP s and Fujitsu s new solutions for business
innovation by presenting some scenes of application and practice.
74
FUJITSU. 65, 5, p. 74-80(09, 2014)
富士通の考えるERPモダナイゼーション
ま え が き
SAP
(注)
システムを導入されるお客様の多くは,
以下に示す様々な悩みを抱えている。
(1)ICTインフラにおける課題
SAPシステム環境では,開発,検証,本番とい
う複数の環境が推奨されており,サーバ・ストレー
ジといったインフラ環境を複数保持する必要が
(1)既存SAPシステムの運用コストが高い。
あった。この環境の保守切れ対応で,一時費用や
(2)拠点ごとに異なるバージョン,インスタンス,
非互換対応という,本来の業務運用では不要な部
テンプレートが乱立している。
分にコストが発生することが課題であった。
(3)M&Aなどの業務,業容の変化に迅速に対応で
SAPの複数ランドスケープで本番機のデータを
きない。
利用したテストを実施したいという要望があった
これらの解決に向けて,大きく以下の四つの利
場合を仮定してみる。オンプレミス環境の場合,
用シーンを想定している(図-1)。
たとえそれが短期間であっても,サーバ,ストレー
・レガシー ICT資産の最適化
ジなどの環境を購入し保有することが必要である。
・革新的技術の適用と新たな価値創出
このための費用対効果を考えて,実際のテストは
・俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用
本番機より少ないリソース環境で我慢しているお
・グローバル共通基盤の導入
客様も多い。
本稿では,富士通の考えるERPモダナイゼーショ
(2)クラウド化による解決
ン全体像の適用シーン,実践例などを述べる。
レガシー ICT資産の最適化
前記の課題は,クラウドやNetAppストレージの
FlexClone機能(1)を活用することで解決できる。ク
ラウドでは,必要な期間のみ必要なリソースの契
本章では,ICTインフラの仮想化,クラウドを活
約ができるため,本番機データを使って検証した
用したDR(Disaster Recovery)システムについ
い期間のみサーバとストレ−ジの契約をすれば良
て述べる。
く,過剰なコストの削減が可能となる。このように,
(注)
ERP市場最大手のソフトウェアメーカー。SAPの主力
製 品 は「SAP CRM」「SAP ERP」「SAP PLM」「SAP
SCM」などで構成される「SAP Business Suite」であ
る。自社ソフトウェアを中心に各種サービスを提供する
ソリューションベンダーでもある。
1 レガシーICT資産の最適化
高額な
維持運営費用
からの脱却
・アプリ/インフラ/運用
の見える化,
スリム化,
最適化
・SAPトータル診断サービス
一時的に必要となるリソースを利用したい期間だ
け契約できるという点が,クラウドの利点である。
(3)ストレージ機能による検証環境作成
NetAppストレージのFlexClone機能は,利用領
2
革新的技術の適用と新たな価値創出
画一的な
現場のシステム
からの変革
・ICTインフラの仮想化,
ERPクラウド
3
俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用
・業務プロセス改善
コンサルティング
・アドオン資産最適化
分析・改善
・フロント統合
(BPM/SOA)
・SAP® BW powered
by SAP HANA®
・SAP® Business Suite
powered by SAP HANA®
4
グローバル共通基盤の導入
・共通基盤(SOA)
・BPM,BRMS
変化を阻害する
非効率な保守
からの脱却
・ビッグデータ技術
・モバイル技術
部門や拠点の
個別最適な
サイロ型の解決
・グローバルERP統合
・グローバルコミュニケー
ション基盤
多層化するERP
・SAPグローバルロールアウト
・Multi-Tier ERPロールアウト
・SAPグローバル
運用保守サービス
(GEMS)
図-1 SAPモダナイゼーションの実践パターン
FUJITSU. 65, 5(09, 2014)
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富士通の考えるERPモダナイゼーション
域の更新可能なスナップショットを作成する機能
保守サービスを充実させたクラウドサービス。
である。これにより,本番データを活用し,重複
・ニフティクラウド
を排除することで容量を抑えた検証環境を利用す
VMwareベースのパブリッククラウドサービス。
ることが可能となる(図-2)。
お客様のNetAppストレージとのリモート接続に
(4)クラウド活用によるDRシステム構築
よるディスクコピー(SnapMirror機能)に対応し
SAPでのクラウド利用のもう一つのトレンドが,
災害対策用システム(DRシステム)の構築である。
ている。
富士通では,クラウドサービス上でのSAP動作
DRシステムは緊急事態にのみ必要となるため,コ
の実機検証など安心してクラウド上で業務を稼働
ストを最低限にしたいという要望がある。クラウ
させられるようノウハウを蓄積している。
ドを活用することで,通常時はストレージ間のデー
タコピーのみ稼働させてサーバは停止させる。災
害時にサーバを起動するという運用で,通常時の
革新的技術の適用と新たな価値創出
本章ではマイグレーションターゲットとな
る,SAP® BW Powered by SAP HANA®,SAP®
サーバ課金を最小化することが可能となる。
Business Suite powered by SAP HANA® の2製品
(5)富士通の提供するSAPクラウド(2)
富士通では,SAPを稼働させるためにお客様に
最適な環境を選択できるよう,以下の4種類のクラ
に対する取組み状況について述べる。
(1)富士通が提供するSAP HANAアプライアンス
ウドプラットフォームを用意している。4種類のク
SAP HANA® とは,大量データの高速分析をす
ラウドサービスとも,SAP認定ハードウェア,も
るために開発されたインメモリデータベースであ
しくは認定サービスで構築され,SAP動作保証が
り,高速化を実現するための技術(インメモリデー
得られる構成となっている。
タストア,インメモリ演算,カラムストア型デー
・FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted LCP
タベース,超圧縮など)が結集した製品である。
VMwareベースのクラウドサービス。
本製品はアプライアンス製品で,富士通はそのア
・FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted A5+ for
プライアンスベンダーに指定されている。
富士通のSAP HANAアプライアンス製品は,シ
Windows Server
Hyper-Vベースのリソース共用型クラウドサー
ングルノード,マルチノードの2種類に大きく分類
ビス。
できる。シングルノードは,IAサーバのFUJITSU
・FUJITSU Cloud A5 for Microsoft Azure
Server PRIMERGY RX4770 M1と,予備システム
SAP認 定 サ ー ビ ス で あ る マ イ ク ロ ソ フ ト 社 の
ボード搭載可能で信頼性を確保した高信頼IAサー
「Windows Azure Iaas環境」に富士通独自の運用
バ FUJITSU Server PRIMEQUEST 2000 シ リ ー
本番サーバ
System Rename・後処理
品証サーバ
フレックスクローン
ボリューム
本番業務
ボリューム
業務チームA
FlexClone
System Rename・後処理
開発サーバ
フレックスクローン
ボリューム
フレックスクローン
ボリューム
業務チームB
差分ボリューム A
業務チームC用の仮環境
業務チームC
図-2 FlexCloneイメージ
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FUJITSU. 65, 5(09, 2014)
富士通の考えるERPモダナイゼーション
ズの2種類の構成を用意している。PRIMEQUEST
実システム構築で重要となる機能について順次検
2000シ リ ー ズ のHANAア プ ラ イ ア ン ス は 最 大
証を実施し,ノウハウを蓄積している。また,既
8CPU,6 Tバイト(SAP Business Suite powered
存環境のマイグレーションだけでなく,新規導入
by SAP HANA 専用)をサポートしている。
においても活用できるよう導入手法の確立を図っ
®
®
マルチノード構成は,PRIMERGYのサーバノー
ド配下にNetAppストレージを配置した構成であ
り,スケールアウトとN +1の冗長化が可能となっ
ている。
ている。
(3)今後の課題と対応
SAP® Business Suite powered by SAP HANA®
化に当たっては,データベースマイグレーション
SAP BW powered by SAP HANA ,SAP
®
®
®
だけでなく,実運用で必要となる監視,ジョブ,
Business Suite powered by SAP HANA は,SAP
帳票といったSAPシステムの周辺環境の移行に対
BW,ERP,CRMと い っ たSAP製 品 を 利 用 す る
する考慮が重要である。富士通では,蓄積された
際,今まで使用していたデータベース部分をSAP
数々のマイグレーションノウハウを活用し,この
HANAに置き換えた環境となる。これにより,デー
課題に対応している。
®
タベースがインメモリ化され高速処理が可能と
なる。
(2)富 士 通 の SAP® Business Suite powered by
SAP HANA 対応
®
俊敏性を向上するアーキテクチャーの適用
本章では,フロント統合の事例を紹介する。
(1)SAP導入企業が抱える課題
(3)
−
(5)
SAP Business Suite powered by SAP HANA
®
®
グローバル化をはじめ,市場やビジネスモデル
においては,標準機能の一部とアドオンプログラ
の変革,多様なステークホルダーへの対応が企業
ムの処理をSAP HANA側で実行可能とするPush
に求められている。システム部門は,企業内外の
Down処理がある。
業務システムやクラウドサービスを効率的に連携
このPush Down処理を利用することで,データ
させ,安く・早く変化に強いICT基盤の構築に迫ら
ベースのインメモリ化に加え,更に処理速度の向
れている。ユーザーインターフェースを一元化す
上が見込める。現在通常のBusiness Suite製品を
るとともに,複数システムをシームレスに利用可
お使いのお客様が,SAP Business Suite powered
能とする,フロント統合が一つの解決策となる。
by SAP HANA 環 境 を 利 用 す る に は,Business
本事例企業における問題点を以下に挙げる。
®
®
Suite製品をEHP7までアップグレードし,マイグ
レーションを行う必要がある(図-3)。
富士通では,この作業手順やPushDownによる処
理 の 高 速 化, ま た SAP HANA Replication,SAP
HANAと Solution Manager間 連 携 作 業 と い っ た
・業 務 プ ロ セ ス が 複 雑 で, 基 幹 シ ス テ ム(SAP
ERP)と周辺の多数システムの使い分けが煩雑
・ビジネス領域の拡張にシステム改修が追従でき
ない
・複雑化するシステムの保守工数が増大
(2)問題解決に向けた施策
現環境
中間機
SAP ERP 6.0 EHP6
WIN/
SQL Database
SAP ERP 6.0EHP7
WIN/
SQL Database
ERP(AP)
SAP ERP 6.0 EHP7
WIN/
.
App. Server
SOA(Service Oriented Architecture) 基 盤 を
確立して,以下の改善を図る。
・SAP GUI画面からWebブラウザへの変更で柔軟
なユーザーインターフェースを実現
(SAP ERPはクライアント/サーバ方式が標準。
マイグレーション・
アップグレード
DBマイグレーション
ERP(DB)
SAP HANA Database
1.0 SPS07
通常クライアント端末側にSAP GUIと呼ばれるプ
ログラムのインストールが必要。)
・Webサービス化することで,再利用性の向上と,
機能の変更や追加を容易にする。
・複数システムを集約するポータルサイトを構築
図-3 Suite on HANAマイグレーション
FUJITSU. 65, 5(09, 2014)
し事務処理の一元化を図る。
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富士通の考えるERPモダナイゼーション
(3)適用例
(4)導入効果
期間契約における,契約期限の監視やアラーム
通知を実装し,更新や解約,関連帳票を出力する。
仕入先との契約関係の同期化を考慮した自動化を
行う。業務ポータルにアクセスすれば,システム
が事務処理を誘導してミス防止や処理を効率する
・画面とビジネスロジックを分離したことで,改修
や機能追加が効率化
・当該機能のユーザー利用(アクセス数)が4倍と
なり,契約漏れや遅延件数が12%以上改善
・利用部門の工数削減と契約漏れ防止により,年間
5千万円の削減効果
(図-4)。
①フロント構築
事 例 企 業 で は, 継 続 し て 適 用 範 囲 を 拡 大 し て
・FUJITSU Software INTARFRM(設計基盤)
・FUJITSU Software Interstage Application
Server V9.2(実行基盤)
いる。
(5)課題と今後の改善
初期導入時において,フロント(Java)とサー
②サービスバス
ビ ス バ ス(SAP PI),Webサ ー ビ ス(ABAP) の
・SAP Process Integration(SAP PI)
3層開発での品質確保とコスト低減が重要である。
・RFC,IDOCといった,SAP独自規格と,SOAP
フロント開発とサービス開発の同期を取ったスケ
やJDBC,FTPといった業界標準規格に対応
③Webサービス
ジュール管理を誤ると開発者のアイドリングが発
生する。
・事例企業には,Add-Onプログラムが多数あるこ
これらによって,3層の各開発状況の可視化を強
とから,SAP社の標準Webサービス(Enterprise
化したプロジェクト管理が必要となる。標準化と
Service)を使用せず,インターフェースから設計・
テスト計画は,ステークホルダー間の共有を徹底
開発
する。
・現状システム構成や業務特性を踏まえ,Webサー
ビスの粒度と独立性を考慮
今 後 は, フ ロ ン ト( ユ ー ザ ー イ ン タ ー フ ェ ー
ス)ビジネスプロセス管理,サービス連携などの
・Webサービスの粒度は,業務処理上,独立した
機能をオールインワンで提供するミドルウェア
品(FUJITSU Software Interstage Business
実行単位で作成。粒度が細かいと呼出回数が増え
製
て,性能悪化となり,逆に粗いと再利用性が悪化
Operations Platform)を利用し,フロントからサー
・Webサービスの独立性は,1回の呼出しでトラン
ビスまでが効率的に構築可能なソリューションモ
ザクションが完結し,Webサービス間で非依存
関係
デルを提供する。
グローバル共通基盤の導入
本章では,グローバルERP統合について述べる。
(1)SAPグローバル展開の課題
実行環境
設計環境(リポジトリ)
る。IT部門では,こうした状況に対応するため,
Webブラウザ
Internet Explorer
HTTP over SSL
Webアプリケーション
ユーザーインターフェース
INTARFRM(Java Web)
HTTP1.0/XI3.0
サービスインターフェース
Enterprise Service Repository※
(WSDL1.1)
の標準機能にビジネスプロセスを合わせていく
ケースが多数を占めている。その場合,事前設定
済みのビジネスプロセス,およびビジネスシナリ
バックエンドシステム
SAP ERP(ECC6.0)
※SAP PIの一部
図-4 SOAアーキテクチャー概要
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る傾向にある。しかし,計画から稼働開始までの
非常に高くなっている。一方,海外ではSAP ERP
HTTP1.1/SOAP1.1
SAP PI 7.1 EHP1
グローバルで利用できるERPパッケージを選定す
期間は大幅に短く,低コストを求められ難易度が
Interstage AP Server(JavaEE/JDK6)
サービスバス
近年,日系企業の海外展開は加速度を増してい
オが盛り込まれたSAP社提供の無償テンプレート
「SAP Best Practices」を活用するケースが多く,
SAPのノウハウに基づいて短期間で円滑なグロー
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富士通の考えるERPモダナイゼーション
バル展開の支援を実現している。
(2)問題解決に向けた施策
富士通はSAP Best Practicesの有効性に着目し,
となる。特に,帳票はSAPでは対応していないも
のが多い。こうした場合,国別の税制・法制度・
商慣習に対応する各国要件を盛り込むことで,効
富士通グループの豊富な実績をベースに,日本企
率的な海外展開が可能となる。
業が求めるきめ細かいドキュメントや導入・展開
④導入・展開手法の標準化
手法などを融合した「SAPグローバルテンプレー
複数国,地域にグローバル展開の作業標準化と
ト」をリリースした。これを用いることで,加速
品質の向上が可能である。各国,地域での展開手
する多拠点展開にスピーディーかつ低コストに対
法を統合することで,プロジェクト遂行における
応できると同時にSAPのノウハウに基づいて短期
共通の考え方や言葉を持ち,国や会社などが異な
間で円滑なグローバル展開が実現可能である。
るメンバーであっても,円滑なコミュニケーショ
①複数国対応への実現
ンを取ることが可能となる。また,プロジェクト
SAPグローバルテンプレートは複数国への対応
の進捗管理や品質のフレームワークが統一され,
が可能である。通常,SAP Best Practicesは複数
マネジメントの質が向上する。更に,導入手法と
国向けに個別にリリースしているが,1か国のみの
合わせ,グローバルテンプレートを海外拠点へ展
対応であるため,多国展開対応に必要な業務プロ
開する手順やドキュメントなどのノウハウを体系
セスや現地法制度対応機能などは,新規に構築す
化し,適用する。こうすることにより,海外展開
る必要があった。そこで,各プロセスを構成する
におけるリスクを事前に確認できるため,早い段
部品間の関係性を整理するなど,富士通独自の工
階での対策検討と作業品質向上が可能である。
夫を施し,各パッケージを統合したテンプレート
を提供することによって迅速なグローバル展開が
(3)今後の展開
近年,グローバルERP統合に向けた効果的な導
可能となる。
入手法として,2層ERPモデル(2 Tier ERP)が増
②富士通業種業務ノウハウによる業種機能の実現
加している。2層ERPモデルとは,2000年代後半
これまでの経験と豊富な業種ノウハウを体系化
したアドオンライブラリーを適用することで,お
から米ガートナー社によって提唱されてきた考え
方である。本社に導入した大企業向け「コアERP」
客様の業種プロセスや機能拡張を強化している。
(1層目のERP)を保持したまま,それとは別のあ
これまでの豊富な部品群を組み合わせることによ
る業務分野に特化した,あるいは中堅・中小企業
り,お客様の業種機能要件を満たすことが可能で
向けのERPを「2層目のERP」として海外拠点など
ある。これにより,特に海外現地法人は,生産工場,
に短期間で導入する方法である。
販社など業務・業態が異なるお客様の要件に対応
2層ERPモデルが注目されている背景には,ク
可能となる。
ラウドサービスの急速な進化・発展も挙げられる。
③グローバルナレッジデータベース
クラウドサービスは,メールやスケジュール共有
基幹システム展開,および多数のお客様でのプ
などの情報共有系ソリューションが先行して発展
ロジェクト経験などからノウハウを体系的に収集・
を 遂 げ て き た。 近 年 は, ク ラ ウ ド サ ー ビ ス の パ
蓄積したグローバルナレッジデータベースを整備
フォーマンスや信頼性が向上したことで,基幹系
している。システム展開に当たっては,各国のロー
業務への活用も増加傾向である。
カル要件への対応も重要となる。特に初めての国
富士通は,2層ERPを発展させた多層ERPモデ
で導入する場合,税制・法制度・商慣習に関する
ル(Multi-Tier ERP) を 提 唱 し て い る。 こ れ は,
調査に大きく時間を要し,ローカル要件への対応
お客様の特性に合わせて複数のERPを柔軟に組み
作業が肥大化してしまうケースがある。
合わせる導入手法である。本社のコアERPには,
その際,グローバルナレッジデータベースを適
SAP ERPなどの大規模ERPをお客様のビジネスプ
用し,国別の税制・法制度・商慣習に対応する各
ロセスに合わせて各種テンプレートやアドオン開
国要件を盛り込むことによって,SAP標準機能で
発を伴いながら導入する。一方,海外拠点などの
は対応できない法定帳票などの法制度対応が可能
2 層 目 以 降 のERPと し て は,SAP Best Practices
FUJITSU. 65, 5(09, 2014)
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富士通の考えるERPモダナイゼーション
やMicrosoft Dynamics AXの標準機能を活用して
ズに合わせて組合せ提供することで,システム運
短 期 間・ ロ ー コ ス ト で 導 入 し て い く。 更 に, ス
用の最適化やコスト削減と,変化に強い柔軟なシ
モールオフィスなどの業務については,FUJITSU
ステムを実現し,お客様のビジネスイノベーショ
Enterprise Application GLOVIA OMな ど のSaaS
ンに貢献していく。
も活用していく。
このように,経営環境の変化やビジネスの不確
実性の高い海外拠点などで導入するシステムとし
参考文献
(1) NetApp社:Back to Basics:FlexClone.
てはスケーラブルなパフォーマンス増強に柔軟に
http://www.netapp.com/jp/communities/tech-ontap/
対応可能なクラウド(IaaS/SaaS)を活用すること
tot-btb-flexclone-1104-ja.aspx
が,最適な選択肢と考えられる。富士通は,SAP
(2) 富士通:クラウド・コンピューティング ソリュー
ERPやMicrosoft Dynamics AXに つ い て もIaaS対
ションラインナップ.
応のみならずERPクラウドとして提供していく方
http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/lineup/
(3) 富士通:SAP HANA Powered by Fujitsu.
針である。
む す び
富士通のERPモダナイゼーションは,ITインフ
http://jp.fujitsu.com/solutions/sap/services/hana/
(4) SAP社:SAP Business Suite powered by SAP
HANA.
ラ最適化から業務アプリケーション,フロント統
http://global.sap.com/japan/campaigns/2013_soh/
合まで次世代アーキテクチャーを適用したサービ
index.epx
スを提供するものである。富士通は,「ERPモダナ
イゼーション」サービス群をお客様の課題,ニー
(5) SAP社:SAP HANA Academy.
http://www.saphana.com/community/hana-academy
著者紹介
大石理絵(おおいし りえ)
産業・流通システム事業本部ERPビジ
ネスセンター 所属
現在,ERPソリューション企画,開発
に従事。
尾上 豊(おのうえ ゆたか)
(株)富士通システムズ・イースト
業 務 ソ リ ュ ー シ ョ ン 本 部ERP事 業 部
所属
現在,SAPインフラ・BASIS領域にお
けるデリバリーに従事。
多東正人(たとう まさひと)
(株)富士通システムズ・イースト
業 務 ソ リ ュ ー シ ョ ン 本 部ERP事 業 部
所属
現在,SAPアプリケーション領域にお
けるデリバリーに従事。
畠山敦史(はたけやま あつし)
産業・流通システム事業本部エンター
プライズビジネス推進統括部 所属
現在,産業・流通ソリューション拡販,
開発に従事。
木村高士(きむら たかし)
産業・流通システム事業本部ERPビジ
ネスセンター 所属
現在,ERPソリューション企画,開発
に従事。
80
FUJITSU. 65, 5(09, 2014)