Issue 1,1999 First issue Results, reports and refinements for life science researchers GE imagination at work 取扱代理店 製品のご注文は左記の代理店まで 製品お問い合わせバイオダイレクトライン 71-1618-01 電話番号:(03)5331-9336 FAX番号:(03)5331-9370 A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h Technologies of GeneChip® system G E N E C H I P A R R A Y S マイクロアレイテクノロジーの核酸分析への応用がポストゲ ノムテクノロジーとして注目を集めています。現在、ゲノム 関連分野の研究者は様々なアレイテクノロジーを利用する事 が可能です。例えば、フィルター上に多種のcDNAをアレイ 上にスポットしたもの、スライドガラス上にcDNAや合成 DNAをスポットして利用するもの、そして、GeneChipなど があります。 GeneChipシステムは、マイクロアレイテクノロジーの1種 で、世界で唯一規格標準化された、広く一般に購入可能な DNAチップ "GeneChip" を利用する優れたシステムです。 GeneChipシステムは多種のGeneChipを使い分けることによ り単なる遺伝子発現の検出に留まらず、定量あるいは検出し た信号から塩基配列情報を直接・間接的に解析することがで きるので (1-3)、様々な目的に利用することが可能です。 核酸を用いたアレイテクノロジーの利用による実験の流れ を図1に示します。基本的には従来のブロッティングを利用 したハイブリダイゼーション法を応用した手法ですが(4)、 プローブやサンプルにどのような材料を用いるかによって得 られるデータの持つ意味合いが変化します。プローブをアレ イ状に直径1 mm未満のスポットとして作成したものがマイ クロアレイ材料と呼ばれています。また、プローブをアレイ 状にスポットする材料として同じ材質のものを用いたマイク ロアレイは "チップ" と呼ばれています。プローブがDNAで 構成されているものを特に"DNAチップ"と呼びます。 "チ ップ" という言 葉 は半 導 体 チップを連 想 させますが、 GeneChipはまさに半導体と同様の工程を経て製造されてい ます(5, 6)。これに対して、ガラススライドのような材料に プローブアレイを プローブ用 チップ用 配置したものは、 核酸調製 基材調製 サンプル調製 正確には"チップ 様"アレイと呼ぶ チップ作成 ラべリング べきかも知れませ ん。このように、 ハイブリダイゼーション実験 世界で唯一商品化 された、正確な意 信号検出 味でのDNAチッ プがAffymetrix社 データ解析 GeneChipシステ ムのコアテクノロ 図1:マイクロアレイ利用実験の概略 ジーなのです。 GeneChipでは、プローブを数十 µmの矩形毎に高密度に 光化学反応を利用して合成しています(5, 6)。この矩形をプ ローブセルと呼び、各プローブセルには数百万個にもおよぶ 同一の塩基配列のプローブが固定されています。DNAプロ ーブは塩基配列情報をもとにDNAプローブを光化学反応に より合成していますので、目的に応じて様々なプローブセル をチップ上に自由に配置することが可能です。このプローブ セルをどのように配置するかは、ちょうどタイルを限られた 面積の中に並べることを考えるのと同様なため、"タイリン グストラテジー"と呼ばれています。 Specific Hybridization Perfect Match Mismatch Cross Hybridization Perfect Match Mismatch 図2:パーフェクトマッチ・ミスマッチタイリング Affymetrix社ではすでに5年以上のチップ製作の経験に基 づいて、遺伝子発現量や塩基配列の解析などの目的に応じ た独特のタイリングストラテジーを採用しています。 遺伝子発現解析をするためのタイリングストラテジーは "パーフェクトマッチ・ミスマッチタイリング"(図2)と呼 ばれています。これはハイブリダイゼーション実験により得 られた信号から、プローブとサンプルの非特異的な結合によ って発生する擬陽性信号を除外するために、完全に一致し た塩基配列を持つ真のプローブ(パーフェクトマッチ)と1 塩基だけ塩基配列の異なるプローブ(ミスマッチ)をペアに して配列することにより、信号を数値処理して真の信号量 を正確に測定する方法です。実際には、25塩基から成るパ ーフェクトマッチプローブとその中央の13番目の塩基をホモ メリックミスマッチ(G塩基に対してC塩基、T塩基に対し てA塩基)で置き換えたミスマッチプローブをペアにして用 いています。 Affymetrix社では、HIVウイルスのプロテアーゼおよび逆 転写酵素、p53やCYP450遺伝子の塩基配列の解析のための GeneChipを提供していますが、ハイブリダイゼーション実 験は一般的に多くの擬陽性を伴うことから、塩基配列を解 析するためにはさらに複雑なタイリングストラテジーが必要 になります。基本的には、解析の対象部位の塩基にG,A, T,Cの4種類と、必要に応じてその部位を欠損させたプロ ーブの計4∼5種類のプローブセルを使用します。これをコド ン単位に、連続する3つの塩基について用意したものを"ブ ロックタイリング"(図3)と呼びます。この1つのブロック だけでは、まだ偽信号を読み取ってしまう可能性がありま す。そこで、sense鎖とantisense鎖の両方を解析し、偽信号 を除去します。さらに、解析の対象部位の塩基の位置を約 20塩基長のプローブの中で、様々に変化させたタイルを用 意しています。この解析では、変異が存在していればプロー ブ上の位置に依存しない陽性信号が測定できるはずで、塩 基をより正確に読み取る目的に利用しています。この解析 対象の塩基の位置を様々に変化させたタイル群を"オールタ ネイティブタイリング"と呼んでいます。 以上のようなタイリングストラテジーは通常のcDNAを並 べただけのマイクロアレイでは不可能であり、光リソグラフ ィーによって正確な合成が可能なGeneChipならではのテク Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech A m e r s h a m 5’ Wildtype レファレンスシーケンス T P h a r m a c i a エクソン7,コドン248 B i o t e c h 3’ G G G C G G C A T G A A C C G G A G G C C C A T C G C C G T A C T T G G A C T C C G G 相補的センスプローブセット: プローブセルに含まれる 各プローブタイプ G C C G T A C T T G G C C T C C G G G C C G T A C T T G G G C T C C G G G C C G T A C T T G G T C T C C G G G C C G T A C T T G G ━ C T C C G G G 置換部位 図4:高密度アレイチップ 1塩基欠損 Wildtypeターゲット ハイブリダイゼーション イメージ C G G Wildtypeターゲットコドン 塩基読取G : wildtype 変異ターゲット ハイブリダイゼーション イメージ C A / G G 変異ターゲットコドン 塩基読取A/G : mutantとwildtypeの混在 図3:ブロックタイリング ノロジーといえます。 さらに、チップ上の数千の遺伝子の発現量を正確に定量 するために、チップ上にコントロール遺伝子用のプローブを 様々に配置しています。コントロール遺伝子由来のcRNAの 一定量をサンプル中に混合することにより、サンプル中の遺 伝子の定量を実現しています。同時に、実験操作過程の精 度をチェックすることもできます。加えて、ハウスキーピン グ遺伝子のGAPDHやアクチンなどのプローブを利用した測 定結果を合わせて利用することにより、複数の実験結果の 比較解析が可能になります。 ハイブリダイゼーション法によらず、核酸のような生体物 質のサンプル調製自体の再現性(収量や純度、含有される 分子種の構成比など)の低さが、マイクロアレイテクノロジ ーの定量性の議論を本質的に困難なものにしています。そこ で、定量性を議論する際には、サンプルの調製法やサンプル の品質を分けて評価する必要があります。まず、ハイブリダ イゼーション実験によってサンプルとプローブが結合して信 号(蛍光)を発すると想定してみます。ハイブリダイゼーシ ョン実験における定量は、サンプルを測定する場合の最大の 信号と最小の信号が測定でき、信号がサンプルの量に応じ て変化することを利用する技術です。GeneChipの場合、プ ローブセル1個(すなわち、1つのタイル上に固定された1種 類の塩基配列)あたり107個を超えるプローブを作成し、1つ のチップは数万個のプローブセルで構成されますので、合計 約1012個におよぶプローブをハイブリダイゼーション実験で 利用しています。GeneChipの場合、mRNAサンプル量とし て0.2∼1 µgが推奨されていますので、十分量のプローブが 用意されている計算になり、最大の信号は十二分に測定で きる系と考えられます。一方、最小の信号については、感 度の高い共焦点レーザー光検出を用いて、数十ピコモル程 度のサンプルに混合した数フェムトモルのコントロール遺伝 子を測定できますので、サンプル中の数万分の一分子の検 出が可能であり、細胞あたり1分子の遺伝子の検出を実現し ています(3)。 さらに、この定量性の再現性や実際に応用した際の感度 などが、一般的な機器分析の議論の対象となっていますが (7)、GeneChipによる定量の再現性についてはすでに定評が 得られています(8)。また、最近では、遺伝子発現の定量実 験において、マイクロアレイによって従来のRT-PCR法と同 様の定量結果が得られること、従来不可能であった多面的 な遺伝子発現が正確に把握できること、および今まで困難 であった1時間未満の時間変化を追従できることが立証さ れてきています(9)。 現在、GeneChipとしてプローブセルの矩形が一辺50 µm と一辺24 µmの高密度チップ(図4)をご用意しています。 この高密度チップは1つのチップ上に約8,500の遺伝子が配置 されており、これを用いると、数千∼数万の遺伝子について 生理現象の変化に起因する一時的な発現パターンの変化量 を簡便に捉えられることができます(9)。これにより、例え ば従来法によるスクリーニングで除外された医薬品のリード が多面的に解釈され、全く新しい効能を持つ医薬品として 復活する可能性が生まれるかもしれません。 1. Fodor, S.P.A. et al., Science 251, 767-773 (1993) 2. Pease, A.C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 91, 5022-5026 (1994) 3. Pirrung, M.C. and Fallon, L., J.Org.Chem. 63, 214246 (1998) 4. Southern, E.M. et al., Genomics 13, 1008-1017 (1992) 5. Kreiner, T., American Laboratory 28, 39-43 (1996) 6. Lipshutz, R.J. et al., Nature Genetics Supplement 21, 20-24 (1999) 7. 穂積 啓一郎, 「機器分析通論」 (廣川書店)(1980) 8. Wodicka, L. et al., Nature Biotechnology 15, 13591367 (1997) 9. Iyer, V.R. et al., Science 283, 83-87 (1999) GeneChip Fluidics Station 400 (自動ハイブリダイゼーション装置) ( 左 ) HP GeneArray TM Scanner (GeneChip専用 読み取りスキャナー) (右)GeneChip Workstation System (GeneChipデータ解析シ ステム) ORDERING INFORMATION 製品の開発は随時進んでおりますので、製品の種類、価格などの詳細についてはお問い合わせください。 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h Quantitative analysis of biomolecules with FluorImagerTM B I O M O L E C U L A R 生体分子の検出法としては、RI、蛍光、色素を用いた標識に よる検出が一般化されていますが、現在、安全性および環境 面からも非放射性検出法に切りかえる方向にあり、中でも高 感度かつ定量性を示す蛍光を用いた検出法の開発が注目をあ び て い ま す 。今 回 は 、蛍 光 イ メ ー ジ ア ナ ラ イ ザ ー FluorImagerを用いた様々なサンプルにおける定量解析法を ご紹介します。 D E T E C T I O N 一般的なFluorImagerのアプリケーションとしては、蛍光 ディファレンシャルディスプレイ(F-DD法)の様なパターン解 析が注目されています。しかし、FluorImagerを用いた蛍光 検出法の大きな特徴として、高感度検出かつ高い定量性を 示すことが挙げられます。また、多様な解析ツールを持つ解 析ソフトウェアImageQuantTMを用いた画像解析をもとに定 量化を行うため、アガロースやアクリルアミドゲル以外にも マイクロタイタープレート(MTP)や、メンブレン、TLCプレ ートなどの様々なサンプル形状の定量化を容易に行うことが できます。ここでは、FluorImagerを用いた mRNAの発現 量測定、dsDNAの定量およびウエスタンブロッティング法 による定量の3つの定量解析法をご紹介します。 細胞内mRNAの発現レベルを定量するノーザンブロット 法などの従来法は、作業が煩雑であるだけでなく、細胞内 mRNAの相対量しか決定できないため、再現性に欠けると いう問題点がありました。これを克服するため、内部スタン ダードを基準としたRT-PCRによるmRNAの定量法が開発 されました(2)。この方法ではmRNAの発現レベルを細胞1個 当たりのコピー数、あるいはトータルRNA 1 µg当たりの分 子数として定量でき高い再現性が得られるようになりまし た。また、PCR産物測定に蛍光検出法を採用することによ り格段に簡便化されています。 . RT-PCR mRNA定量化システムの最も特徴的な点は、 RT-PCR用の合成内部スタンダードが組み込まれたプラスミ ドOQ-1を使用することです。プラスミドOQ-1には、22種 類のガン遺伝子と3種類のコントロ−ル遺伝子に対応する15 bpのPCRプライマーサイトブロックが挿入されています。こ のDNAインサート部位はSP6ポリメラーゼ読み取り開始部と ポリAコード部との間に位置するため、RNA転写産物には ポリAが付加されます。また、DNAインサートの各ガン遺 伝子プライマー部位の配列は調整されているため、PCR産 物が細胞内mRNA由来か、またはスタンダードRNA由来か を長さで区別することができます。 RT-PCRのステップは、まず最初に出発材料のトータル RNAを合成スタンダードRNAと混合してcDNAを増幅しま す。次に特定のmRNAを増幅するために、得られたcDNA を用いて対象となるガン遺伝子に特異的なプライマーでPCR 反応を行います。PCR増幅後に高感度インタカレーター試 薬(VistraGreenなど)を含むゲルを用いて電気泳動を行い、 細胞内mRNAとスタンダードRNA由来のPCR産物を分離し ます。最終的にFluorImagerを用いて蛍光を検出します。 従来の放射性検出法では、フィルムあるいはストレージフ ォスフォスクリーンに露光する前に、DNAをナイロンメン ブレンに転写する必要がありました。しかし、高感度インタ カレーター試薬とFluorImagerを用いる蛍光検出法に切りか えることで、操作手順が格段に簡略化されました(図2)。ま た、32P標識プライマーによるPCR定量法と比較した場合で も、ほぼ同等の検出限界値が得られています(3)。 ここでは2種類のヘルパーT細胞株D10およびHDKを出発 材料として高感度インタカレーター試薬を用い、代表的な3 種類のガン遺伝子c-myc (成長因子)、 lck (プロテインキナ ー ゼ )、 p 53 (ガ ン 抑 制 遺 伝 子 )の mRNA発 現 レ ベ ル を FluorImagerで解析した例を示します(図3)。解析には ImageQuantソフトウェアを用いて、ガン遺伝子mRNAの相 対的な発現量を算出しました。次に、合成内部スタンダード RNAを基準として細胞内mRNAの絶対量を決定しました。 図1:FluorImager Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech p53 c-myc HDK p53 lck c-myc D10 p53 lck 細胞内トータルRNAと 合成スタンダードRNAを調製します。 HDK c-myc 細胞内トータルRNAと合成スタンダードRNAを 調製します。 D10 p53 蛍光検出法 lck 放射性検出法 B i o t e c h lck P h a r m a c i a c-myc A m e r s h a m 32 P標識PCRプライマーを調製します。 テンプレートを加えて逆転写を行い、 PCR増幅を行います。 テンプレートを加えて逆転写を行い、 PCR増幅を行います。 アガロースゲル電気泳動を用いて PCR産物を分離します。 高感度インタカレーター試薬を含む アガロースゲルあるいは ポリアクリルアミドゲルを用いて、 PCR産物を電気泳動します。 32 P標識PCR産物をナイロンメンブレンに 転写します*。 メンブレンをフィルムあるいは ストレージフォスフォスクリーンに露光します。 スキャナーあるいはPhosphorimagerを用いて、 結果を数値化します。 FluorImagerを用いてゲルをスキャンし、 結果を数値化します。 所用時間: 5∼7日 所用時間:2日 *露光段階でのバンド拡散を防止するために行います。 図3:ガン遺伝子のmRNA発現量を示すゲルの蛍光イメージ 合成スタンダードRNAをコントロ−ルとして加えた細胞のトータルRNAをテンプ レートとしてRT-PCR反応を行い、2種類のT細胞株D10とHDKに発現される3種 類のガン遺伝子(c-myc, lck, p53) mRNAを増幅しました。それぞれの細胞内 mRNAを正確に分析するため、RT-PCR反応を2回ずつ行いました。電気泳動に は高感度インタカレーターを用いて作成したゲルを用いて蛍光検出を行いました。 図2:ガン遺伝子mRNA定量のためのRI検出法と蛍光検出法の比較 . 合成スタンダードRNA、高感度インタカレーター試薬、 FluorImagerを使用し、ガン遺伝子 mRNAの発現レベルを 再現性良く迅速に決定することができました。D10細胞、 HDK細胞に発現されるガン遺伝子のc-myc, lck, p 53 の mRNA量を比較した結果、c-myc遺伝子とp53遺伝子の発現 レベルはどちらの細胞でもほぼ同等でしたが、lck遺伝子は HDK細胞の方がD10細胞よりも7倍も発現されており(図 4) 、ヘルパーT細胞のタイプの違いが発現に関係している可 能性が示唆されました。 この方法には、他のmRNA定量法と比較して、次のよう な利点があります。 1) 内部スタンダードRNAを使用しているため、細胞1個 当たりのコピー数あるいはトータルRNA 1 µg当たり の分子数としてmRNAの絶対量を決定できます。し たがって、実験間あるいは研究室間の比較が容易で、 チューブ間の増幅効率を補正できるばかりでなく、測 定エラーの発見も可能です。 2) 蛍光検出法を採用しているため、放射性検出法に匹 敵する高い感度が得られます。 一般的なDNA定量法として260 nmの吸光度を測定する方 法があります。しかし、この方法は定量範囲が狭く、RNA やタンパク質などの夾雑物の存在が大きく定量結果に影響 するなどの問題点があります。また、測定には通常の分光光 度計を用いるため多サンプル処理にも適していません。しか し、近年、double-stranded DNA (dsDNA)に特異的にイン タカレートする蛍光試薬PicoGreen®*1 を用いることで多サ ンプルの正確な定量が可能になりました。このプロトコール は、ハイスループット・キャピラリーDNAシークエンサー MegaBACE1000におけるシークエンス反応用DNAテンプレ ート量の測定に至適化されています。また、ほぼ同様のプロ トコールは、ダイレクト・サイクルシークエンスにおける PCR産物の定量などにも応用されています(4)。 . PicoGreenを用いたDNA定量法は、dsDNAを特異的に測 定できますので、DNAシークエンスにおけるテンプレート 量測定に適しています。また、96 well MTPおよび、96 well用マイクロディスペンサーを用いることでハイスループ ット化を実現しています。このプロトコールではdsDNA量 を最終的に4∼100 ng/µlの範囲内で定量できます。 mRNA Expression (copies/cell) 25000 D10(TH2) HDK(TH1) 20000 15000 10000 5000 0 p53 1ck c-myc p53 1ck c-myc 図4:2種類のT細胞株におけるガン遺伝子発現量 2種類のT細胞株に発現される c-myc 遺伝子、lck 遺伝子、p53 遺伝子の mRNA量を比較しました。細胞内mRNAの絶対量を決定するため、それぞれ のPCR反応の際に加えられた内部スタンダードにより標準化を行いました。 . dsDNA ( ~ ng/ml) 透明・平底のMTPを使用します。まず、MTPのA2-10, B2-10のウェルにTE バッファー(10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA, pH 7.5)を50 µlずつ加えます。TEバッファーに溶解 した2 µg/mlのdsDNA溶液をA1, B1に各50 µlずつ加え、A2, B2には各100 µlずつdsDNA溶液を加え混合した後、A2, B2 からA3, B3へ100 µlずつ移します。同様の操作をA9, B9まで 行い、A9, B9からは100 µlずつ除きます。次に、PicoGreen 溶液(1:200 in TE)をA1-10, B1-10に50 µlずつ加え混合しま す。 . マイクロディスペンサーなどを用いて透明・平底のMTP 各wellにTEバッファーを49 µlずつ分注します。各ウェルに サンプルdsDNA溶液を1 µlずつ分注した後、PicoGreen溶液 (1:200 in TE)を50 µlずつ加え混合します。 . FluorImagerの検出条件は488 nm, 530DF30, PMT 500 V, 200 µmで測定しました。検出したイメージはImageQuant お よ び Microsoft Excel * 2を 用 い て 解 析 し ま し た 。 ImageQuantで数値化を行う際、各ウェルの中央値を比較す ることでより高い再現性が得られます。 . 40∼1000 ng/mlの範囲で作成した検量線(図5)からサンプ ルDNA量を決定しました。サンプルは100倍希釈しているた め、最終的にDNAテンプレート量を4∼100 ng/µlの範囲で 決定できました。 Non-RIウエスタンブロッティングの高感度検出法として ケミルミネッセンス法が一般的に用いられています。しか し、ケミルミネッセンス法では検出時にX線フィルムを用い るため、10倍程度の定量性しか得られません。FluorImager Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech A m e r s h a m P h a r m a c i a c) a) b) 図5:マイクロプレート(MTP)を用 いたdsDNA定量 dsDNAの定量を目的として、既知 濃度のdsDNA (39∼1000 ng/ml)(a) をスタンダードとして未知サンプル の濃度(b、c)を算出することができ ます。 ケミフローレッセンス法の検出限界と定量性を確かめるた め、チューブリンの検出を行った例を図7に示します。精製 チューブリンを12 %アクリルアミドゲルで電気泳動後、 PVDFメンブレンに転写しウエスタンブロットを行いました。 検出にはアルカリフォスファターゼ標識2次抗体とVistra ECF substrate (AttoPhos)を用いました。 . レーン1-12の精製チューブリンの添加量は、それぞれ400, 300, 200, 100, 50, 25, 12.5, 6.25, 3.12, 1.6, 0.8, 0.4 ngで、 lane 11のバンドまで検出できました(図7a) 。これは一般的 なケミルミネッセンス法を用いた場合とほぼ同等の検出感度 に 相 当 し ま す 。ま た 、各 バ ン ド の 蛍 光 シ グ ナ ル を ImageQuantを用いて定量したところ0.8-100 ngの範囲で定 量性が認められました(図7b) 1 では蛍光酵素増感法であるケミフローレッセンス法を用いる ことで10∼100倍範囲での定量が可能になります。 . ケミフローレッセンス用試薬キット Vistra ECF Western blotting kit の検出原理を図6に示します。このシステムでは 抗原を1次抗体と反応させた後、フルオレセイン標識2次抗 体で検出を行います。十分なシグナルが得られる場合には、 この段階でFluorImagerを用いて検出可能です。さらに微量 タンパク質を検出する場合には、アルカリフォスファターゼ 標識抗フルオレセイン3次抗体とケミフローレッセント基質 (AttoPhos TM*3 )を用いて蛍光シグナルを増幅します。 FluorImagerは蛍光化してメンブレン上に蓄積したAttoPhos をスキャニングによって直接検出します。 Fluorescence 550∼570 nm Excitation Substrate Fluorescent product Alkaline phosphatase B i o t e c h 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 1 ng 4 図7a:チューブリンを用 いたケミフローレッセン ス法の検出感度 Volume x107 (rfu) 3 2 0.5 0.4 0.3 1 0.2 0.1 0 0 2 4 6 8 図7 b:ImageQuantを用い た蛍光シグナルの定量性 0 0 25 50 75 100 125 Tubulin (ng) 蛍光標識による生体分子の検出(BioMolecular Detection) には、高感度で高い定量性を持つFluorImager を用いた解析 が、強力なツールとなるでしょう。FluorImagerを用いた定 量解析では、蛍光イメージとして直接データが得られるた め、様々な形状のサンプルからの迅速で再現性の高い定量結 果が可能になります。 Phosphate group 3rd antibody Fluorescein Fluorescence 510∼530 nm 2nd antibody 1st antibody Target protein Solid support 1. Product News No.8, Molecular Dynamics Japan 2. Scheuermann, RH., et al., Meth. In Enzymo 218, 446473 (1993) 3. Application Note No. 53, Molecular Dynamics Japan (1992) 4. Chadwick, RB. et al., BioTechniques 20, 676 (1996) 5. Product News No.15, Molecular Dynamics Japan *1 Pico GreenはMolecular Probes, Inc.の登録商標です。 Microsoft Excelは米国マイクロソフト社の登録商標です。 AttoPhosはJBL Scientific Inc.の登録商標です。 *2 図6:Vistra ECF Western blotting kitの検出原理 *3 ORDERING INFORMATION 製品名 包装 FluorImager** 1セット Vistra Green 500µl Vistra ECF Western blotting kit for 2500cm2 membrane Vistra ECF Western blotting kit reagent pack for mouse antibody for 2500cm2 membrane Vistra ECF Western blotting kit reagent pack for rabbit antibody for 2500cm2 membrane Vistra ECF substrate sufficient for 2500cm2 membrane Hybond-P, (PVDF) membrane 20x20cm, 10 sheets コード番号 ** 蛍光スキャナー本体、コンピュータセット、プリンタを含みます。 PCR (polymerase chain reaction) is covered by U.S. Patents Nos. 4,683,195 and 4,683,202 owned by Hoffmann-La Roche Inc. Use of the PCR process requires a license. Nothing in this catalog should be construed as an authorization or implicit license to practice PCR under any patents held by Hoffmann-La Roshe Inc. Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech 価格 お問い合わせ ¥12,000,000∼ RPN5786 ¥21,000 RPN5780 ¥68,000 RPN5781 ¥43,000 RPN5783 ¥43,000 RPN5785 ¥20,000 RPN2020F ¥19,000 A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h A novel DNA polymerase for DNA sequencing : Thermo SequenaseTM II Thermo Sequenase IIは、サイクルシークエンシング反応に レートでも正確なDNA塩基配列解析を行うことができます よるDNA塩基配列解析のために開発された新しい耐熱性 (図1) 。また、ピーク高の減衰により解析が難しかったホモ DNAポリメラーゼです。従来の耐熱性DNAポリメラーゼと比 ポリマー直後の配列解析でも高いパフォーマンスを発揮しま べて、GC含量の高いサンプルやホモポリマー直後の配列解 す(図2) 。 析能に優れています。ダイプライマー法に匹敵する均一なピ ークパターンで、より長いDNA配列の解析が可能になるばか りでなく、伸長反応に要する時間も大幅に短縮されました。 また、困難だった高塩濃度のサンプル解析も可能で、幅広い サンプル調製法に対応します。 DNAオートシークエンサーは塩基配列解析の一般的な手 法として定着しています。従来のチェーンターミネーション 法(1)に加えて、耐熱性DNAポリメラーゼを利用したサイ クルシークエンシング法(2, 3)が開発され、強固な二次構 造をもつ配列の解析や二本鎖DNA塩基配列解析も容易にな りました。しかしながら、サイクルシークエンシング法は1 サイクル6∼8分の反応を20∼30サイクル繰り返すために反 応時間が長く、誤ったヌクレオチドの取り込みによるフルス トップ現象など、酵素活性そのものに起因する問題も指摘さ れています。 Thermo Sequenase IIは従来の耐熱性DNAポリメラーゼで 問題とされた多くの点を改良した酵素です。中でも顕著な点 は、ヌクレオチド類似体(dITPや標識ddNTP)の取り込み 能が飛躍的に向上した上、取り込み率のばらつきが少なく、 均一なピークパターンが得られることです。また、高い塩濃 度下においてもシークエンス反応を行うことができます。 ここでは、Thermo Sequenase II 酵素によるシークエンス 反応の 特徴と ハ イ ス ル ー プ ッ ト DNAシ ー ク エ ン サ ー MegaBACETMによる塩基配列解析例をご紹介します。 シークエンシング反応にdITPを使用すると、塩基配列の 偏りによるコンプレッションが解消されて精度の高い配列解 析が可能になります。Thermo Sequenase IIはdITPもdGTP と同様に取り込むことができるため、GC含量の高いテンプ 図2:ホモポリマーを含むサンプルの解析 イヌcDNAクローンをキット添付のプロトコールに従いシークエンシングしま した。 ジデオキシヌクレオチドの取り込み性能が向上したことに より、伸長反応に要する時間が従来の1/4に短縮されました。 従って、従来の酵素では 96℃ 1分間 約2時間(20サイクル反 応)かかっていたサイク 96℃ 30秒間 20∼30 50℃ 15秒間 ルシークエンシング反応 サイクル 60℃ 1分間 の所要時間が半分の約1時 サーマルサイクル反応条件 間になります。 Thermo Sequenase IIでは、異なるジデオキシヌクレオチ ド間の取り込み効率のばらつきが小さくなりました。そのた め、ダイプライマー法に匹敵する均一なピークパターンでよ り長いDNA配列の解析が可能になります。図3は、均一な ピークパターンを利用して遺伝子中のヘテロな点突然変異を 検出した例を示しています。 ACTGTAGATATCCAGAAGAATGGTGTTAAATTTACCAACAGGTTTG GCAAGTCATTATTATATTTTTAACCCTTTATTAATTCCCTAAATGCTCTAA a) A homozygote ACTGTAG ATATCCAGAAG AATGGTGTTAAATTTACCAACAGGTTTG GCAAGTCNTTATTATATTTTTAACCCTTTATTAATTCCCTAAATGCTCTAA N b) A/G heterozygote ACTGTAGATATCCAGAAGAATGGTGTTAAATTTACCAACAGGTTTGCAAGTCGTTATTATATTTTTAACCCTTTATTAATTCCCTAAATGCTCTAA c) G homozygote 図3:ヘテロ突然変異を含むサンプルの解析例 図1:高GC含量サンプルの解析 GC含量65%以上のプラスミドサンプルをキット添付のプロトコールに従いシー クエンシングしました。 従来の酵素は、塩に対する感受性が高く、サンプル中に 50 mM程度の塩が存在するだけで反応が著しく阻害されま す。Thermo Sequenase IIは耐塩性を向上させることにより、 200 mMの塩存在下でもシークエンシング反応を行うことが Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech D N A S E Q U E N C I N G A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h 図4:反応液中の塩濃度の影響 (左)Thermo Sequenase II dye terminator cycle sequencing kitを用い、100 mM KCl存在下でpUC18をシークエンシングしました。 (右)A社terminator sequencing kitを用い、100 mM KCl存在下でpUC18をシークエンシングしました。 できます。そのため、DNAサンプルの調製条件に依存せず、 様々なDNAをテンプレートとして用いることができます。 100 mMのKClを含むサンプルを用いて、他のダイターミネ ーターキットと比較した結果を図4に示します。 Thermo Sequenase IIを用いて実際のサンプル解析を行な った例を図5に示します。解析にはマルチキャピラリーDNA シークエンサーMegaBACE(図6)を用いました。この例で はプラスミド自動分離装置にて調製した二本鎖プラスミド DNAをテンプレートに用いていますが、プライマー直後か ら600 bp以上まで均一なピークパターンをもつシークエンス データが得られています。 ヒトをはじめとする各種ゲノムの塩基配列解析が盛んに行 われ、多サンプル処理を行える塩基配列決定法が求められて います。今後は、決定された塩基配列を基にして、疾病関 連遺伝子などの突然変異を一塩基レベルで正確に比較解析 する研究がますます広まっていくことと考えられます。 Thermo Sequenase IIは、サンプルの塩基配列の偏りや反応 液中の塩濃度などに左右されず、従来と比べてより迅速で正 確な塩基配列解析を可能にしました。このように、Thermo Sequenase IIは最先端の研究ニーズにマッチした、次世代の DNA塩基配列解析用耐熱性DNAポリメラーゼです。 1. Sanger, F.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 74, 54635467 (1977) 2. Carothers, AM. et al., Biotechniques 7, 494-6, 498-499 (1989) 3. Lee, JS., DNA Cell Biol. 10, 67-73 (1991) 図5:Thermo Sequenase IIを用いた解析例 pUC18にクローニングされた二本鎖DNAサンプルをテンプレートとしてサイク ルシークエンシング反応を行い、マルチキャピラリーDNAシークエンサー MegaBACEにて解析を行いました。 図6:マルチキャピラリーDNAシークエンサーMegaBACE 使用上の注意 *ABI373/377/310 すべてのシークエンサーにおいてデータの解析ができます。ただし、シークエンサーのフィルターセットをAに設定する必要があります。 シークエンサー上におけるmobility fileおよびmatrix file等の設定につきまして、パーキンエルマー社dRhodamineおよびBigDyeTMの設定では解析できませんのでご注意ください。 弊社既存のThermo Sequenase Dye Terminator (US79765/US79865/US79965/US79565/US80765/US80865) をお使いになっている方は、シークエンサーの設定は今まで通りに行ってください。 尚、詳細については弊社までお問い合わせください。 ABI PRISM and BigDye are trademarks of Applied Biosystems, Inc. a Division of the Perkin-Elmer Corporation. pGEM is trademark of Promega Corporation and is registered with the U.S. Patent and Trademark Office by Promega Corporation, Madison,WI,USA NOTICE TO PURCHASER ; LIMITED LICENSE These kits are sold pursuant to Authorization from PE Applied Biosystems under one or more of the following US Patents : 4,849,513; 5,015,733; 5,118,800; 5,118,802; 5,151,507; 5,171,534; 5,332,666; 5,242,796; 5,306,618; 5,366,860; 4,855,225 and corresponding foreign patents and patent applications. Further information on purchasing licenses to perform DNA sequence and fragment analysis may be obtained by contacting the Director of Licensing at PE Applied Biosystems, 850 Lincoln Centre Drive, Foster City, California 94404 AMERSHAM IS LICENSED AS A VENDER FOR AUTHORIZED SEQUENCING AND FRAGMENT ANALYSIS INSTRUMENTS. NOTICE TO PURCHASE ABOUT LIMITED LICENSE The purchase of these kit (reagent)s include a limited non-exclusive sublicense under certain patents* to use the kit (reagent) to perform one or more patented DNA sequencing methods in those patents solely for use with Thermo Sequenase DNA polymerase purchaced from Amersham for research activities. No other license is granted expressly, impliedly or by estoppel. For information concerning availability of additional licenses to practice the patented methodologies, contact Amersham Life Science, Inc., Director, Business Development, 2636 S.Clearbrook Dr., Arlington Heights, IL 60005. *US Patent number 4,962,020; 5,173,411; 5,409,811; 5,498,523. Patent Pending. ORDERING INFORMATION 製品名 包装 Thermo Sequenase II dye terminator cycle sequencing kit (ABI Model373、ABI PRISMTM377/310オートシークエンサー用) Thermo Sequenase II dye terminator sequencing kit (MegaBACE) (MegaBACE用) 100回分 1,000回分 5,000回分 500回分 10,000回分 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech コード番号 US80975 US80970 US80980 US79695 US79690 価格 ¥76,000 ¥620,000 ¥2,700,000 お問い合わせ お問い合わせ A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h New direct EIA for quick and simple measurement of intracellular, secreted and total cellular PGE2 J. K. Horton, A. S. Williams, Z. Smith-Phillips and R. C. Martin Amersham Pharmacia Biotech UK Ltd., Cardiff Laboratories, Forest Farm, Whitchurch, Cardiff, UK BiotrakTM Prostaglandin E2 Enzyme Immunoassay(EIA) システムは、細胞培養および血漿サンプル中のProstaglandin E2(PGE2)を効率良くかつ正確に定量するために開発され たキットです。新しいリシス試薬*(可溶化試薬)を使用する ことにより面倒なサンプル抽出工程を省くことができ、5種類 のプロトコールで細胞内、分泌そして総PGE2を測定するこ とができます。ダイレクト細胞内測定法は分泌PGE2測定法 に比べて細胞応答を10倍高感度にモニターすることができま す。また、細胞応答により合成されたPGE2を直接測定しま すので、細胞に刺激を与えた化合物の影響を正確にモニター することができます。 色々な種類の哺乳類系細胞や組織はアラキドン酸を酸化 してプロスタグランジンのような生理活性物質を産生しま す。PGE2は腎臓で産生されるアラキドン酸主代謝物で、バ ソプレシンで刺激された浸透性の流れを制御することにおい て重要な役割を担っています。精漿中PGE2の免疫抑制効果 は生殖において重要な役割を果すことが知られています。ま た、PGE2はマクロファージでも産生されており隣接の細胞 に影響をおよぼしています。このようなPGE2の作用は多く の研究のテーマになっています。 しかしながら血漿中PGE2の測定は測定前に反応液から抽 出試薬を除くステップなどの面倒なサンプル前処理工程を伴 います。 基礎研究用に開発されたBiotrak PGE2 EIAシステムは新 しいリシス試薬を採用することにより、培養細胞や血漿サン プルからのPGE2抽出を簡単にかつ迅速にしました。また、 測定前に抽出試薬の除去を行う必要がありません。従って 10000 10000 このPGE2 EIA システムを用いると測定時間は大幅に短縮さ れ、細胞内・分泌そして総PGE2を正確に測定することがで きます(図1) 。 アッセイは非標識PGE2と一定量のペルオキシダーゼ標識 PGE2の競合反応に基づいていますので、添加する非標識 PGE2の濃度は、抗体に結合するペルオキシダーゼ標識PGE2 の量に逆比例します。抗体と結合したペルオキシダーゼ標識 PGE2はマイクロタイタープレートのウェルに固相化された 第二抗体と反応します。結合しなかったPGE2を洗浄により 全て除いた後、Tetramethylbenzidine(TMB)と過酸化水 素を加えて固相抗体に結合したペルオキシダーゼ標識PGE2 を発色させ、OD450 nmの吸光度として定量します。この 工程を図2に示します。 PGE2 EIAシステムは以下の5種類のプロトコールで使用す ることができます。 EIA 尿・細胞培養上清をサンプルとする場合は抽出操作の必 要はありません。また、組織サンプルの場合は従来の前処理 法により室温下で測定可能で、測定範囲は2.5∼320 pg/well になります。 EIA 従来法のアッセイを2∼8 ℃で行うことで、測定可能範囲 は1∼32 pg/wellに向上します。 培養した細胞からの抽出液中のPGE2を2.5∼320 pg/well の範囲で測定できます。細胞をリシス試薬で溶解し、その一 部をアッセイ用プレートに移して測定します。 PGE2 (pg/ml) 7500 solid phase assay reagent substrate standard or unknown 5000 Goat antimouse Ab 2500 Mouse antiPGE2 Ab PGE2-peroxidase + TMB well PGE2 Stop reaction, measure OD 0 intracellular supernatant total Incubate 1 hr 図1:A23187で刺激した3T3細胞が産成するPGE2の測定 3T3細胞を100 mM のA23187で5分間刺激し、細胞内・培養上清・総PGE2を Biotrak PGE2 EIA システムにより測定しました。細胞内のPGE2レベルは細胞 上清の57 %で、全PGE2の35 %に相当しました。 図2:Biotrak PGE2 EIA システムの測定原理 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech Incubate 30 min D R U G S C R E E N I N G A N D D E V E L O P M E N T A m e r s h a m P h a r m a c i a PGE 細胞内と上清中のPGE2量を合計した値で測定範囲は2.5∼ 32 pg/wellになります。この方法では培養上清を除去する必 要がありません。 リシス試薬を血漿サンプルに加え、その一部を用いて PGE2をダイレクトに測定する方法です。面倒な抽出工程が 除かれ2.5∼320 pg/wellの範囲でPGE2を測定できます。リシ ス試薬を利用することで他の方法に比べPGE2の回収率は2倍 高められます。 リシス試薬1を培養細胞あるいは血漿サンプルに加え、5分 間インキュベーションすることで、細胞膜は加水分解されま す。血漿サンプルの場合、リシス試薬1はPGE2を可溶性レセ プターあるいは阻害結合タンパクより解離させる働きをしま す。抗体とペルオキシダーゼ標識PGE2の複合体は、リシス 試薬2を加えた時点で再構成されます。リシス試薬2はリシ ス試薬1の主成分を隔離しPGE2を確実に測定できるような働 きをします。リシス試薬の混合によって生じる複合体や界面 活性剤は抗原抗体反応を阻害しません。 B i o t e c h 細胞内PGE2の測定は分泌したPGE2を測定するよりも多く の利点があります。細胞内法は実際の細胞応答を測定する ことになり、細胞反応における薬物、刺激、アゴニスト、阻 害剤の影響を正確にモニターすることができます。分泌 PGE2の測定だけでは、これらの化合物の影響を過小に測定 することになります(図3)。細胞内測定法ではPGE2を経時的 に測定することが可能ですが、分泌PGE2の測定では経時的 変化をみることはできません。さらに、細胞内測定法は分泌 PGE2測定法に比べて細胞応答を10倍高感度にモニターする ことができます(図4)。 PGE2の正確な測定は免疫応答、炎症、疾病やその他の生 理的現象の研究に非常に重要です。Biotrak PGE2 EIAシス テムは、抽出試薬を除去することなしにPGE2を正確に測定 できる効率の良い方法です。 Biotrak EIAシステムには、細胞の刺激応答を測定する系 として、ここでご紹介したPGE2 EIAシステムのほか、細胞 内情報伝達物質(Cyclic AMP/GMP)の測定系も取りそろ えております。これらの系を用いることにより、細胞応答を 分子レベルから細胞レベルに至る幅広い視点で研究すること が可能になります。 Inhibitor Indomethacin Stimulator A23187 6000 2000 intracellular 4000 1000 0 PGE2 (pg/ml) PGE2 (pg) supernatant 5 10 15 30 60 120 2000 Time (min) intracellular supernatant 図3:A23187刺激3T3細胞のPGE2産生に対するインドメタシンの影響 A23187で細胞を5分間刺激後、PGE2産生阻害剤であるインドメタシンを加え ると、細胞内PGE2レベルが培養上清レベルより早く下がることがわかります。 0 0.1 0.2 0.5 1.0 5.0 10.0 50.0 100.0 A23187 (µM) 図4:A23187刺激3T3細胞のPGE2産生 刺激時間を5分間に固定し、A23187濃度を変えた時のPGE2の変化をBiotrak PGE2 EIA システムで測定しました。 ORDERING INFORMATION 製品名 Prostaglandin E2 EIA システム* Cyclic AMP EIA システム Cyclic GMP EIA システム 包装 コード番号 価格 96 wells 96 wells 96 wells RPN222 RPN225 RPN226 ¥68,000 ¥37,100 ¥37,000 *特許出願中 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h 2-D electrophoresis with immobilized pH gradients using IPGphorTM isoelectric focusing system A. Görg, G. Boguth, C. Obermaier, A. Hader and W. Weiss Technical University of Munich, Dept. of Food Technology, D-85350 Freising-Weihenstephan, Germany IPGphor等電点電気泳動装置は、固定化 pH 勾配等電点電気 泳動 (IPG-IEF)を用いて二次元電気泳動のための等電点電気 泳動をよりシンプルにしかも迅速に行うことができます。こ の報告では、等電点電気泳動にIPGストリップ pH 4-7, 3-10 L(linear), 3-10 NL (non-linear) を用いてマウス肝臓タンパク 質の二次元電気泳動を行い、パターンを比較しました。また、 リボソームタンパク質の分離をIPGストリップpH 4-12 で展 開しました。IPGphor等電点電気泳動装置を用いて、IPG ス トリップの膨潤時にサンプルを添加する場合、低電流を通電 しながら膨潤を行うとサンプル浸透効率が改善されることが わかりました。 一次元目の等電点電気泳動 (IEF) に固定化pH勾配 ( IPG ) を用いた二次元電気泳動 (2-D PAGE)は、従来の両性担体 キャリアアンフォライトを用いた2-D PAGE と比較して高分 離能で再現性に優れた結果が得られます(1-3)。IPG-IEF は、 タンパク質の保持能力が大きいため微量分取も可能です(4)。 そのため、シークエンス分析やマススペクトロメトリーによ るスポットの同定にも用いることができます(5, 6)。塩基性 タンパク質の場合、一般的に 両性担体を用いた非平衡化 pH 勾配ゲル法(non-equilibrium pH gradient : NEPHGE) が用いられていましたが、再現性に乏しいなどの欠点があり ました。しかし、IPGを用いることによって pH 12まで平衡 化条件で分離することができるようになりました(7, 8)。こ れらの特徴は、プレキャストゲルのIPGストリップを用いる ことによってデータベースの標準化に必須の条件である再現 性の高い 2-D PAGE の結果を得ることができます。異なる 研究室で得られた結果を研究室を越えて比較することも可 能になります。 近年まで2-D PAGE は、数多くのステップを含むために繁 雑な解析手法の 1 つでした。IPGphor等電点電気泳動装置 はIPG-IEF を行うための専用装置で、一次元目の等電点電 気泳動に必要ないくつかのステップと時間を削減して簡単に 行うことができます(9)。IPGphor 等電点電気泳動装置 は、 温度コントロールと8000 V、1.5 mA出力、プログラム可能 なパワーサプライを含んだ統合型等電点電気泳動システムで す。IPG ストリップをストリップホルダーにセットするだけ でストリップの膨潤から、サンプル添加、一次元目泳動ま でを自動的に行うことができます。ここでは、マウス肝臓タ ンパク質を用いて異なるpH 勾配を持つ 2-D PAGEパターン の比較しました。また、IPGストリップ pH 4-12 を用いて塩 基性リボソームタンパク質を分離した例についても紹介しま す。 等電点電気泳動装置としてIPGphor等電点電気泳動装置、 二次元目展開のためにMultiphorTMII水平型電気泳動装置、 またはHoeferTMDALT マルチプルスラブ型電気泳動ユニッ ト を 用 い ま し た 。 EPS 3500XL パ ワ ー サ プ ラ イ 、 MultiTemp III恒温循環装置、また、電気泳動関連試薬 (Immobiline II, Pharmalyte (両性担体) pH 3-10、IPG バッ ファー、アクリルアミド、ビスアクリルアミド、過硫酸アン モニウム、TEMED、ウレア、CHAPS)はアマシャム ファル マシア バイオテク社製品を用いました。 IPGストリップは、アマシャム ファルマシア バイオテク社 製Immobiline DryStrip pH 4-7 L, 3-10 L, 3-10 NL を用い ました。IPGストリップpH4-9および水平型、縦型電気泳動 SDSゲルは、文献に従って作製しました(1, 10, 11)。IPGス トリップpH 4 -12 は、参考文献 8 にしたがって作製しまし た。 マウス肝臓タンパク質は、凍結したマウス肝臓を液体窒素 存在下で破砕し、9 M ウレア あるいは、7 M ウレア + 2 M チオウレア , 2 % CHAPS, 0.8 % Pharmalyte pH 3-10, 10 mM DTT の含んだサンプル溶解液で可溶化しました。IPG ストリップを膨潤する前に、抽出液 (タンパク量 約 10 mg/ml)を、8 M ウレア, 0.5 % CHAPS, 20 mM DTT, 0.5 % (v /v) IPG バッファーを含んだ膨潤バッファーで、微 量分取の時は、1 : 1に、分析には 1 : 19 に希釈しました。 リボソームタンパク質 (pI 10.5∼11.5(14)) は、HeLa細胞 (J. J. Madjar氏提供) のリボソームから分離しました。 サンプルを含んだ膨潤液 350 µlをストリップフォルダーに 添加し、その上に18 cm IPG ストリップを設置しました。高 分子量タンパク質の浸透を改善するために、膨潤中に、低 電流 (20∼50 V) を流しました。 少なくとも6 時間以上膨潤した後、プログラムされたパラ メータ(表1) に従って一次元目のIEF 泳動を行いました。IEF 後、すぐに使用しないIPGストリップは、プラスチックシー トの間にはさんで、-78 ℃で数ヶ月保存しました。二次元目 の SDS-PAGE は、参考文献 (1, 10, 11) に従って作成しまし た。 マウス肝臓タンパク質を異なるpH勾配を用いた 2-D PAGE によって分離しました。(図1)。2-D パターンを比較 すると、pH10 まで球状のシャープなスポットが得られてい ることがわかります。それらの解像度は、選んだpH 勾配に より変わります。IPGストリップpH4-7 Lを用いた2-Dパタ ーンは、ゲル全体を通して分離の良いタンパク質のスポット を示しています。IPG 4-9では、ほとんどのマウス肝臓タン Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech P R O T E O M I C S A m e r s h a m P h a r m a c i a 表1:18 cm IPG ストリップを用いたIPGphor等電点電気泳動装置 の泳動条件 温度 電流値 サンプル量 膨潤条件 泳動条件 20 ℃ 0.05 mA / IPGストリップ 350 µl 30 V で10∼12 hr IPG 4-7の場合 200 V ,1 hr 500 V ,1 hr 500∼8,000 V, 0.5 hr 8,000V, 3 hr IPG3-10 L, 3-10 NL, 4-12の場合 200 V, 1 hr 500 V, 1 hr 500∼8,000 V, 0.5 hr 8,000 V, 2 hr パク質のスポットが存在しています。IPG 3-10 LとIPG 3-10 NLを比較するとIPG 3-10 NLのpH勾配が pH 5から pH 7の間で緩やかなために塩基性側にスポットが集中して います。膨潤時にサンプルを添加すると、作業ステップは最 小限になりますが(12, 13)、高分子タンパク質が完全にゲル へ浸透したことを確認する必要があります。最高の結果を 得るためには、膨潤時に添加するサンプルの溶液量は、IPG ストリップを膨潤するために必要な溶液量と同量であるこ と、IPGストリップのゲル組成がT = 4 %, C = 3% を越えな B i o t e c h いことが必要です。また、IPGストリップの膨潤中に、低電 流をかけることにより、高分子タンパク質のゲルへの浸透が 改善されました(図2)。 塩基性タンパク質は、膨潤時でのサンプル添加や狭いpH 勾配を持つ塩基性IPGストリップを用いて良好な分離を得る のは困難でした。しかしながら pH 4-12 のIPGストリップを 用いて、膨潤時に低電流を流しながらサンプル添加をする ことによってpI 10.5 ∼11.5の等電点を持つ塩基性リボソー ムタンパク質を高解像度で分離することができました(図3)。 IPGphor等電点電気泳動装置は、2-D PAGE の一次元目 のIPG-IEFを簡便にし、性能を最大限に発揮させます。 また、膨潤時のサンプル添加は、IPGストリップの膨潤と サンプル添加を1 ステップにすることで一元目の泳動を簡便 にします。しかしながら高分子タンパク質の場合、IPGスト リップへの浸透が不十分である結果が観察されました。この 図1:異なるpH 勾配のIPG ストリップを用いたマウス肝臓タンパク質の2D-PAGE 一致するタンパク質のスポットをA, B, C, Dとラベルしました。一次元目は、18 cm のIPG ストリップを用いIPGphor等電点電気泳動装置で泳動をしました。 二次元目のSDS - PAGE (T = 13%) は、Hoefer- DALT マルチプルスラブ電気泳動装置で泳動し、ゲルは銀染色により検出しました。 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h kDa 94 図2:膨潤と同時にサンプル添加を行う際のマウス肝臓高分子タンパク質の IPGストリップへの移行に与える低電流通電効果 A. 膨潤の間、通電しない場合 B. 膨潤の間、低電流で通電した場合 一次元目は、18 cmのIPG ストリップ pH4-9を用いIPGphor等電点電気泳動 装置で泳動をしました( 分離長18 cm)。二次元目のSDS - PAGE (T=12 %) は、Multiphor II 水平型電気泳動装置で泳動し、銀染色で検出しました。 図 3 :HeLa 細胞の塩基性リボソームタンパク質( pI= 10.5∼11.5 ) の2-D PAGE 一次元目は、18 cmのIPG ストリップ pH 4 - 12を用いIPGphor等電点電気泳 動装置で泳動をしました(分離長 18 cm)。二次元目のSDS-PAGE ( T=13 %) は、Multiphor II 水平型電気泳動装置で泳動し、銀染色で検出しました。 制約は、膨潤中に低電流を流すことによって改善することが できました。また、2-D PAGE の解像度は、サンプルに合わ せてIPG ストリップの選択をすることによって、ある程度ま で至適化することができました。 12. Rabilloud, T.et al., Electrophoresis 15, 1552-1558 (1994). 13. Sanchez, J. C.et al., Electrophoresis 18, 324-327 (1997). 14. Madjar J.J. et al., Mol. Gen. Genet. 171, 121-134 (1979). 1. Görg, A.et al., Electrophoresis 9, 531-546 (1988). 2. Corbett, J.et al., Electrophoresis 15, 1205-1211 (1994). 3. Blomberg, A.et al., Electrophoresis 16, 1935-1945 (1995). 4. Bjellqvist, B.et al., Electrophoresis 14, 1375-1378 (1993). 5. Hanash, S.M.et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88, 57095713 (1991). 6. Wilm, M.et al., Nature 379, 466-469 (1996). 7. Görg,A. et al., Electrophoresis 18, 328-337 (1997). 8. Görg, A. et al., Electrophoresis 19, 1516-1519 (1998). 9. Islam, R.et al., Science Tools,Amersham Pharmacia Biotech, 3,14-15 (1998). 10. Görg, A. and Weiss,W., in cell Biology. A Laboratory Handbook (Celis, J., ed.) Vol.4, Academic Press New York, pgs. 386-397. 11. Görg, A.et al., Electrophoresis 16, 1079-1086 (1995). IPGpor等電点電気泳動装置とストリップフォルダー ORDERING INFORMATION 製品名 ※1 IPGphor等電点電気泳動装置 ストリップフォルダー※2 18 cm Immobiline DryStrip pH4-7 L ,18 cm※3 Multiphor II電気泳動装置 Immobiline DryStrip pH3-10 L ,18 cm※3 Immobiline DryStrip pH3-10 NL ,18 cm※3 Hoefer-DALTマルチプルスラブ型電気泳動ユニット 包装 コード番号 1 unit 6本 12本 1unit 12本 12本 1 unit 80-6414-02 80-6416-68 17-1233-01 18-1018-06 17-1234-01 17-1235-01 80-6068-79 ※1 ストリップフォルダーは含みません。別途ご購入ください。 7cm, 11cm, 13cmの長さのストリップホルダーや1本入りもございます。 その他7cm, 11cm, 13cmの長さやpH6-11 Lもご用意しています。 詳細は、バイオダイレクトラインまでお問い合わせください。 ※2 ※3 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech 価格 ¥1,350,000 ¥240,000 ¥13,300 ¥330,000 ¥13,300 ¥13,300 ¥720,000 A m e r s h a m P h a r m a c i a B i o t e c h Rapid and efficient purification and refolding of a (His)6-tagged recombinant protein produced in E. coli as inclusion bodies P R O T E I N P U R I F I C A T I O N ヒスチジンタグを持つ組換えタンパク質の精製と再生(refolding)の方法をご紹介します。大腸菌の菌体内に封入体として 発現された産生物を可溶化し、アフィニティークロマトグラ フィーによる精製とカラム内での簡単で効果的な再生操作に より、活性のあるタンパク質を得ることができました。この プロトコールはいくつかのヒスチジンタグ組換えタンパク質 の精製に応用され、成功例が報告されています。 大腸菌で外来遺伝子を発現させる際には、組換えタンパク 質を菌体内またはペリプラズム間隙へ分泌、蓄積するように 設計することができます。分泌発現の場合には、タンパク質 の可溶化、高次構造形成やシステインの酸化などの点で有 利ですが、菌体内の発現の方がタンパク質の発現量が高いこ とが知られています(1)。しかしながら、菌体内に発現、蓄 積された組換えタンパク質は、しばしば、封入体といわれる 生物学的活性がないミスフォールドタンパク質の凝集体にな ることがあります(2-5)。 封入体は高密度の凝集体ですので、遠心操作によって可 溶性の大腸菌タンパク質や菌体破砕物から安易に分離する ことができます(4-6)。ミスフォールド組換えタンパク質の再 生操作は、従来、透析や中性付近のバッファーによる穏や かな希釈操作などにより行われてきました。また、ゲルろ 過、イオン交換、疎水性相互作用クロマトグラフィーによっ ても再生が促進されることが示されています(9-11)。組換え タンパク質にヒスチジンタグ(His-tag)を付加すると、ア フィニティークロマトグラフィー(Ni2+などの2価金属を付 加したキレーティングカラム)による効果的な精製を行うこ とができ、同じカラム内で再生操作を行う手法の開発も可能 になります。 固定化された2価金属イオンとヒスチジンの結合は高濃度 のカオトロピック試薬(ウレアや塩酸グアニジン)の存在下 でも起こります。カオトロピック試薬と還元剤によって封入 体His-tagタンパク質は可溶化されて、アフィニティーマト リックスに直接結合します。このとき、目的のタンパク質は 夾雑タンパク質から分離されます。その後、バッファーを非 変性バッファーに徐々に換えることによって再生操作を行う ことができます。このように、目的の組換えタンパク質をカ ラムから溶出する前にすべての操作を完了することが可能に なります(12)。 一般的なプロトコールを図1に示します。 His-tag組換えタンパク質を発現している大腸菌(100 ml 培養液)を4 mlの20 mM Tris-HCl, pH8.0に懸濁しました。 菌体を氷冷しながら超音波によって破砕し、4℃で10分間遠 大腸菌培養液 菌体ペースト 菌体破砕 遠心分離(5∼10,000×g) 沈殿 洗浄・遠心分離 封入体の分離 可溶化 HiTrap Chelating(Ni2+) カラムによる精製・再生 図1:大腸菌で封入体として産生されたHis-tag組換えタンパク質の抽出、可 溶化、再生手法の一般的スキーム 心分離を行いました。封入体を含む沈殿物を冷却した3 ml の2 Mウレア, 20 mM Tris*1-HCl, 0.5 M NaCl, 2 % Triton XTM*1-100, pH8.0に懸濁し、さらに超音波処理、遠心分離 を行いました。続いて同様の操作により2回目の洗浄を行い ました。この段階で、沈殿物はウレアを除いたバッファーで 一度洗浄し、凍結保存することができます。 沈殿物を5mlの結合バッファー(20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 5 mM イミダゾール, 6 M 塩酸グアニジン, 1 mM 2-メルカプトエタノール, pH8.0)に懸濁し、室温で30∼60 分間攪拌しました。 4℃で15分間遠心分離を行った後に、残 在する不溶物を0.22 µmまたは0.45 µmフィルターで除きま した。還元に最適な2-メルカプトエタノールの濃度 (0∼5 mM)は、それぞれのタンパク質について実験的に決める必 要があります。 HiTrapTM Chelating 1 mlカラムは5 mlの蒸留水で洗浄し、 0.5 mlの0.1 M 硫酸ニッケル溶液を添加した後、5 mlの蒸留 水で洗浄しました。続いて、5∼10 mlの結合バッファーを送 液してカラムを平衡化しました。 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech A m e r s h a m P h a r m a c i a サンプル添加後にカラムを10 mlの結合バッファーで洗浄 しました。続いて10 mlの洗浄バッファー(20 mM TrisHCl, 0.5 M NaCl, 20 mM イミダゾール, 6 M ウレア, 1 mM 2-メルカプトエタノール, pH8.0)でカラムを洗浄しました。 カラムに結合したタンパク質の再生操作は6 Mから0 Mの ウレアのリニアグラジエントにより行いました。開始バッフ ァーは上述の洗浄バッファーで、終了はウレアを含まない洗 浄バッファー(再生バッファー)を使用しました。グラジエ ント容量は30 ml、流速は0.1~1.0 ml/minで行い、グラジエ ント終了後は10 mlの再生バッファーを送液しました。最高 の再生率を得るには、それぞれのタンパク質についてグラジ エント、流速を予備実験によって決定する必要があります。 再生操作後の組換えタンパク質はイミダゾールのリニアグ ラジエント(グラジエント容量10∼20 ml)により溶出しま した。 (溶出バッファー:20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 500 mM イミダゾール, 1 mM 2-メルカプトエタノール, pH8.0)(図2)溶出されたタンパク質を含む画分を集め、 HiTrap DesaltingまたはPD-10カラムによるゲルろ過クロマ トグラフィーでイミダゾールを除去しました。このようにし ニッケル添加したHiTrap Chelating 1 ml N末端に(His)6-tagを持つ大腸菌発現組換えタンパク質 0.1∼1 ml/min (サンプル添加と再生) 1 ml/min (洗浄と溶出) 結合バッファー: 20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 5 mM イミダゾール, 6 M 塩酸グアニジン, 1 mM 2-メルカプトエタノール, pH8.0 洗浄バッファー: 20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 20 mM イミダゾール, 6 M ウレア, 1 mM 2-メルカプトエタノール,pH8.0 再生バッファー: 20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 20 mM イミダゾール, 1 mM 2-メルカプトエタノール,pH8.0 再生グラジエント:30 ml 溶出バッファー: 20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 500 mM イミダゾール, 1 mM 2-メルカプトエタノール,pH8.0 溶出グラジエント:10 ml 画分サイズ: 3 ml (サンプル添加、洗浄と再生) 1 ml (溶出) システム: FPLCTMシステム て精製されたHis-tag組換えタンパク質は本来の高次構造に 再生されているので、生物学的活性の分析に用いることがで きます。 カラムの洗浄は、5 mlの6 M 塩酸グアニジン, 20 mM Tris-HCl, 0.5 M NaCl, 50 mM EDTA, pH8.0で洗浄後、 10 mlの蒸留水を送液して行いました。続いて10 mlの20 % エタノールを送液するとカラムを4℃で保存することができ ます。 HiTrap Chelatingカラムから溶出した再生後のHis-tag組 換えタンパク質の純度をSuperdex® 75 HR 10/30を用いたゲ ルろ過クロマトグラフィーとSDSポリアクリルアミドゲル電 気泳動により確認しました(図3、図4) 。クロマトグラフィー の結果から、精製タンパク質はメインピークとして認めら れ、わずかに高分子量凝集体も存在することがわかりまし た。 カラム: サンプル: Superdex 75 HR 10/30 0.2 ml (HiTrap Chelatingカラムから溶出した His-tag組換えタンパク質の画分) バッファー: 0.15 M NaCl 流速: 0.5 ml/min 画分サイズ: 1 ml システム: FPLCシステム カラム: サンプル: 流速: ウレア イミダゾール (mM) (M) A280 6 1.0 B i o t e c h A280 1.0 0.75 0.5 500 5 再生操作開始 0.75 fr. fr. fr. 38 40 42 0.5 fr. 46 fr. 49 4 3 溶出開始 0.25 サンプル添加、 塩酸グアニジン洗浄、 ウレア洗浄は シリンジを用いた マニュアル操作 250 0.25 2 1 0 0 10 20 30 40 2+ 50 60 65 ml 図2: HiTrap Chelating (Ni 添加)カラムによる精製と再生 0 5 10 15 20 図3:ゲルろ過クロマトグラフィーによる凝集体と純度の確認 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech ml A m e r s h a m P h a r m a c i a 大腸菌から封入体として産生されたHis-tag組換えタンパ ク質を遠心操作により分離し、変性剤による可溶化後に HiTrap Chelatingカラムで精製、続いて、同じカラム内で 効果的に再生操作を行うことができました。ここでは HiTrap Chelating 1mlカラムを使用しましたが、タンパク質 の発現量あるいは処理量によってスケールアップすることも できます。 10 mg以 上 の組 換 えタンパク質 の場 合 は、 HiTrap Chelating 5 mlカラムの使用をお薦めします。更な るスケールアップにはChelating SepharoseTM Fast Flowを使 用することもできます。 ここでご紹介した精製方法はFPLCシステムを用いて行わ れていますが、ÄKTAFPLC®をご利用いただくと、至適流速 条件の検討を自動化することができます。 ゲル: PhastGelTM Gradient 10-15 サンプル前処理:15 % SDS, 30 % 2-メルカプトエタノール, 10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA で5倍に希釈 サンプル量: 1 µl 分子量マーカー:Low Molecular Weight Calibraion Kit (LMW) 染色: クマシー染色 泳動システム: Phast SystemTM B i o t e c h 1. Marston, F.A.O., Biochem J. 240, 1-12 (1986) 2. Williams, D.C, et al., Science 215, 687-689 (1982) 3. Harris, T.J.R., In: Williamson, R.(Ed.) Genetic Engineering. Vol.4, Academic Press, London, 127-185 (1983) 4. Marston, F.A.O. et al., Bio/Technology 2, 800-804 (1984) 5. Lowe, P.E. et al., Protein Purification:Micro to Macro, Alan, R. Liss, Inc., 429-442 (1987) 6. Kelley, R.F. et al., Genetic Engineering 12, 1-19 (1990) 7. Mitraki, A. et al., Bio/Technology 7, 690-697 (1989) 8. Knuth, M.W. et al., Protein Purification: Micro to Macro, Alan, R, Liss, Inc., 279-305 (1987) 9. Werner, M.H. et al., FEBS Letter 345, 125-130 (1994) 10. Hoess, A. et al., Bio/Technology 6 ,1214-1217 (1988) 11. Application Note, code No. 18-1112-33, Amersham Pharmacia Biotech 12. Colangeli, R. et al., J of Chromatography B, 714, 223235 (1998) *1 Tris とTritonX-100は Union Carbide Chemicals and Plastic Co.の登録商標です。 kD レーン1: レーン2: LMW HiTrap Chelating 1 ml に添加したサンプル レーン3-6: 塩酸グアニジンによる 洗浄 (フラクション1-4) レーン7-8: ウレアによる洗浄 (フラクション1-2) 94 67 43 30 20.1 14.4 1 2 3 4 5 6 7 8 レーン1: レーン2: レーン3: レーン4: レーン5: レーン6: レーン7: レーン8: kD 94 67 43 30 20.1 14.4 1 2 3 4 5 6 ゲートラック 開いて使用することも でき、カラム、バルブ、 その他のアクセサリー を装着することが可能 モニターUPC-900 UV、イオン強度(コンダクティ ビティー) 、pHをオートスケール で測定することが可能 LMW フラクション38 フラクション39 フラクション40 フラクション41 フラクション42 フラクション46 フラクション49 ポンプP-920 ツインシリンダー式ポンプなら ではの安定した送液を実現 タンパク質精製の新しいスタンダードÄKTAFPLC FPLCで培われたタンパク質精製分取のノウハウをÄKTAFPLCに集積しました。 コンピュータ制御により多彩なスカウティングとオートメンション化が可能で す。 7 8 図4:SDS-電気泳動による純度の確認 ORDERING INFORMATION 製品名 HiTrap Chelating HiTrap Chelating Chelating Sepharose FF HisTrap HiTrap Desalting PD-10 Superdex 75 HR 10/30 ÄKTAFPLC* 包装/カラムサイズ コード番号 5×1 ml 1×5 ml 50 ml 1キット 5×5 ml 30本 1.0×30 cm 17-0408-01 17-0409-01 17-0575-01 17-1880-01 17-1408-01 17-0851-01 17-1047-01 18-1129-78 価格 ¥9,900 ¥8,900 ¥36,000 ¥15,000 ¥25,200 ¥26,500 ¥190,000 ¥5,500,000 キャンペーン価格 ¥4,800,000 * スタンダードシステムにはポンプP-920、UV・電気伝導度・pHモニターUPC-900、フラクションコレクター、コンピュータ、カラープリンタ、UNICORNソフトウエアが含まれます。 ÄKTAFPLC用のカラムセットやオプションに関する詳細はバイオダイレクトラインまでお問い合わせください。 Life Science News 1, 1999 Amersham Pharmacia Biotech
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