事故車損傷写真と事故調査結果からの速度推定 立正大学 ○内田 翼, 伊石裕志, 小川 進 1.はじめに 交通事故で被害をこうむったにも関わらず, 十分な損害賠償がなされない,あるいは過失 が一方的になるといったトラブルが多く発生 している.特に事故で片側の当事者が,死亡 (または瀕死の重傷)といった場合に生存者 側の一方的な証言で,死者の側に過失が押し つけられるといったことがある.警察の調書 で一度不利な証拠ができてしまうと,それを 覆すには,被害者側が証拠を揃えて,相手の 過失を証明しなければならない.今回は速度 の推定には 2 つの異なる経験式を用い事故原 因の解明を行った. 2.事故の概要 平成 15 年 4 月 20 日の正午過ぎ,交差点で 右折したトラックに優先道路を直進してきた 図 1 事故発生現場状況図 乗用車が衝突したものである.事故当時の天 候は晴れ,現場道路は商店等が連立する市街 地内,国道 19 号線と国道 155 号線の交わる信 3.方法 号交差点であり,交差点内まではアスファル 事故調査書をもとに,被害者乗用車の写真 ト舗装され,横断歩道南方はコンクリート舗 からの損傷度から佐藤式1)による衝突速度推 装され,平坦で乾燥していた.法定速度 60 定及びスリップ痕2)からの初速の推定を行っ km/h と規制されている.被疑者のトラックは た.また,事故現場道路での交通量(台数)・平 現場信号交差点南東角の店舗駐車場フェンス 均速度・平均車間距離の調査及び縦断測量を に衝突停止し,相被疑者の乗用車は国道 19 号 行った. 線名古屋方面車線交差点付近にそのまま停止 (1)佐藤式による衝突速度推定 した(図 1).この事故の裁判では事故車の衝突 この方式は,車両の永久変形量Xf(m)と有 速度が争点になっており,本論では残された 効衝突速度Ve(km/h)の関係式から衝突速度を 証拠から衝突速度の推定を試みた. 求めるものである. Xf=0.0076Ve (1) 図 2 事故車両写真 この方法では,衝突車両の変形量(図 2)を長さ で求めなくてはならない.また,実験式の誤 差として約 20%が見込まれる. (2)スリップ痕からの衝突速度推定 スリップ痕S (m)から摩擦係数(μ=0.5),重 力加速度g(=9.8(m/s2))及び速度V(km/h)の関 係式3)より衝突速度を求めるものである. s= v 2 − v0 2 µg 図 4 車体損傷部分図 2 (2) (グレイの部分を損傷部とする) (2)スリップ痕からの衝突速度 危険を認知しブレーキを掛けている状態と 二つのスリップ痕の平均 28.2mとVeより推 衝突が終わり車両が破壊された後に停止位置 定された速度は(2)式より次のように求まる. まで移動する状態では多くの場合,運動エネ ルギーが路面にスリップ痕(図 3)として残る. v= 2 sµg + Ve2 ≒22.7(m/s) よって,初速は約 82 km/h と推定される. 5.結論 この二つの計算結果からの推定速度,また 当日の交通量から考えられるように,本件で 図3 事故現場見取り図からのスリップ痕 争点となっている被害者乗用車の衝突前の速 4.結果 度は 100 km/h は出ていなかったと考えられる. (1)佐藤式による衝突速度 参考文献 図 4 より被害車両車種MARKⅡの永久変 形量Xf(m)が 0.423mであるので(1)式より次 のように求まる. Ve=0.423÷0.0076≒55.7(km/h) よって,衝突速度は約 56 km/h と推定される. 1) 佐藤武ほか,自動車の衝突の力学,自動車 技術,p.906-909,1967. 2) 江守一郎,自動車事故工学,技術書院,261 p.,1993. 3) 上山勝,交通事故の実証的再現手法,技術 書院,419p.,1992.
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