Title Rhylogenetic classification of Japanese mtDNA assisted by

Title
Author(s)
Journal
URL
Rhylogenetic classification of Japanese mtDNA
assisted by complete mitochondrial DNA sequences
野平, 千鶴
歯科学報, 109(6): 612-613
http://hdl.handle.net/10130/1178
Right
Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
612
歯科学報
氏
名(本
Vol.109,No.6(2009)
の
ひら
ち
づる
籍)
野
平
千
鶴
学
位
の
種
類
博
士(歯
学
位
記
番
号
第 1640 号(甲第 939 号)
(千葉県)
学)
学 位 授 与 の 日 付
平成17年3月31日
学 位 授 与 の 要 件
学位規則第4条第1項該当
学
Rhylogenetic classification of Japanese mtDNA assisted by
位
論
文
題
目
complete mitochondrial DNA sequences
掲
載
論
文
雑
審
誌
査
委
名
International Journal of Legal Medicine Epub 2008
員
(主査)
水口
清教授
(副査)
奥田
克爾教授
柴原
孝彦教授
論
1.研 究
目
文
内
容
の
要
木崎
治俊教授
旨
的
ミトコンドリア DNA は核 DNA と比較して1細胞当たりのコピー数が多いところから,高度変性資料から
の PCR 法による検出効率が高く,またタンパクをコードしない control 領域は高度に多型的で,法医学上の
個人識別に広く利用されている。ミトコンドリア DNA 多型を法医学に応用する際には対象者の集団における
多型の頻度を知ることが必要である。近年の研究成果から,ミトコンドリア DNA の coding 領域の多型を含
めた系統分類が,より進化の過程を反映していると考えられるようになってきた。Coding 領域による系統分
類は法医学においては対象者の地理的由来の推定にも利用が可能である。近年の日本における国際化の波は,
事件や事故の際に対象者の地理的由来を同時に識別する必要性を増大させてきている。そこで本研究は日本人
におけるミトコンドリア DNA 多型のデータベースを拡大すると共に,研究報告の少ない南アジアの系統と,
その変異を知るため,日本人およびマレー人の集団調査を実施した。
2.研
究
方
法
試料はインフォームドコンセントを得た80人の日本人から得た血液および30人のマレー系マレー人の歯牙を
試料とし DNA の1.
15kb の control 領域の塩基配列,
10172−10656の塩基配列,COII/tRNALys9­bp deletion,
3010と5178変異をすべての資料について検査した。さらに日本人に頻度の高い D4系統については7591−9951
の塩基配列を決定し,その他の系統については系統決定に必要な coding 領域の多型を sequencing および
SSCP 法により検査した。マレー人については1.
15kb の control 領域の塩基配列,COII/tRNALys9­bp deletion,3010と5178変 異,お よ び10305−10420,3163−3400,4710−4838,7569−7766,9822−9951,14460−
14695の変異を SSCP 法および sequencing によりすべての資料を検査し,M および新しい N 系統について
11860−12752の塩基配列を決定し,既存の系統に特徴的な変異部位の有無を確認した。
3.研究成績および考察
80人の日本人に control 領域の変異で68型の異なるハプロタイプが見い出された。そのうち60型は1人にの
み認められた。8型は2人以上に認められた。日本人における gene diversity は99.
43%で,ランダムに選ん
だ2人の型が一致する確率は1.
81%であった。80人の資料は coding 領域の検査で44のハプログループに分け
られ,gene diversity は99.
71%に増加し,ランダムに選んだ2人の型が一致する確率は1.
53%に上昇した。
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歯科学報
Vol.109,No.6(2009)
613
日本人は特にD4系統の割合が極めて高いが,coding 領域の多型検査を加えることで頻度の高い系統が細分
された。ハプログループ解析では,多くの試料が既存の系統に相当したが,新しいG系統が見い出され,仮に
G5と名付けた。さらに特に稀な M11,B5b2,Z3,F1b,F1c 系統がそれぞれ1例ずつ認められた。今回の
M11は日本人および中国人にすでに報告されているものとも異なる系統に属する可能性がある。
マレー人は control 領域の検査で30人すべてが異なる型として分類されたところから,gene diversity は
100%で,ランダムに選んだ2人の型が一致する確率は3.
33%であった。系統分類ではすべてがMおよびN系
統に含まれたが,
20系統が確認され,20人は10の既存の系統に属した。残り10人中1例は中国人に共通する
mofif を持つ個体が存在したため,M14系統と命名した。その他の9人は7例はM系統で,2例はN系統に相
当したが,既存の報告の系統特異的 site の変異を検査した結果,いずれの系統に属することも否定され,そ
れぞれの試料がM,N系統の中で上流の枝に相当する新しいハプログループに属すると考えられた。これらの
新しいハプログループは東アジアのデータベースに認められないところから,南アジアに存在する系統の可能
性が高い。Control 領域の変異の比較においては,2系統がタイに類似のハプロタイプが存在したのみであ
り,30人の検査でも20もの系統が存在したところから,マレーシアのマレー人は極めて多様性が高いことが示
された。さらに東アジアに共通する系統においても,control 領域で稀な変異を共有する個体が認められたと
ころから,マレー人と日本人に共通するハプログループでもそれぞれ異なる系統を構成している可能性が示唆
された。
論
文
審
査
の
要
旨
本研究の成果は,ミトコンドリア DNA 多型の系統を確立することが,日本およびマレーシアにおける法医
学的個人識別に応用可能であるのみでなく,広く東南アジアを含めた対象者の地理的由来の推定,人類学的な
ヒトの移動の研究においても極めて有用な情報を与えることを示したものと言える。
ミトコンドリア DNA 多型は,法医学における極めて重要な検査対象であるが,考古学,人類学,臨床遺伝
医学分野を含め研究対象は極めて広い。この分野における近年の研究の進展は急速で,個人識別のみでなくヒ
トの進化や拡散の過程を知るために世界的なデータを蓄積しようとする試みが進んでいる。これらの目的のた
めに今後は coding 領域を含めた解析データが主流となってくると考えられる。アジア人集団のミトコンドリ
ア DNA 多型データは特に東アジアについてはかなり多くのデータベースが蓄積されてきたが,詳細な比較の
ためには未だ十分と言うには程遠い。
本論文は coding 領域を含めたミトコンドリア DNA 多型の日本人におけるデータベースを増加させると共
に,ほとんど研究されていない,南アジア系統の多型解析を行い,詳細な比較を行ったもので,日本人におけ
る新しい系統と,マレー集団における多くの未発見の系統の存在を証明したものである。
本審査委員会は論文内容の報告を受けた後,本論文の内容について,①日本人を証明できる可能性,②頻度
の確率計算,③多様性の程度の表わし方,④系統の命名法,⑤資料の出身地の由来の記載法,⑥多型と疾患と
の関連,⑦ミトコンドリア DNA のヘテロプラスミー,⑧母集団の数,⑨マレー人の由来,⑩論文記載方法な
どの質問がなされたが,概ね妥当な回答が得られた。
以上より,本研究で得られた結果は今後の歯学の進歩発展に寄与するところ大であり,学位に価するものと
判定した。
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