5.蒸発散

森林水文・水資源学
第5章
(大槻)
5.蒸発散
地表に降り注がれた降水は,流出・浸透などの過程を経て陸域・海域に配分され,蒸発散によって水蒸気に形を変えて
再び大気中へ放出される。
5.1 はじめに
5.1.1 蒸発散の定義
蒸発(evaporation)とは,一般に液体の水が気体の水に相変化する過程をいう。ただし,地表面から大気中へ放出され
る水蒸気の輸送過程を扱う場合,蒸発現象は
蒸発(evaporation):
・海や湖などの自由水面からの蒸発
・土壌面からの土壌水の蒸発
・植物や建造物に遮断された水の蒸発
蒸散(transpiration):
・植物体内の水が細胞壁で気化して水蒸気として大気中に放出される現象
に分けられ,両者を一括した現象が蒸発散(evapotranspiration)として定義されている。
水 1g が蒸発するのに必要なエネルギは約 2470J(590cal)である。この値は水 1g を 1℃加熱するのに必要なエネルギの
約 600 倍に相当する。この大量のエネルギは水蒸気に潜熱(latent heat)として貯えられ,水蒸気と共に大気中を移動する。
すなわち,蒸発散は地球大気の水環境のみならずエネルギ環境にも多大な影響を及ぼしている。
5.2 蒸発散量の測定法
蒸発散量は,いまだにルーチン観測に適した実用的な測定法が確立されていない。したがって,現段階では,蒸発散量
は目的に応じて様々な方法で測定されている。
5.2.1 微気象学的方法
地表面に接し,地表面の影響を直接受けている気層を接地境界層(surface boundary layer)と呼ぶ。接地境界層内では,
大小様々な空気の乱渦(eddy)が乱流(turbulent flow)と呼ばれる時間的・空間的に不規則な運動を繰り返すことによって
水蒸気や運動量,熱,CO2 を輸送している。
(1) 渦相関法
渦相関法(eddy correlation method)は,図 5.1 に示したよう
な乱流変動を測定し,物理量と風速の鉛直成分の共分散を計算
して物理量のフラックスを求める方法である。
E = ρ ω ' q'
(5.1)
ここに,E は蒸発散量(kg m-2 s-1)
,ρ は空気の密度(kg m-3),
-1
ω は風の鉛直成分(m s )
,q は比湿(kg kg-1)で,’は変動成
分を示す。
空気の密度 ρ(kg m-3)次式で求められる.
ρ=
1.293
P
1 + 0.00367 Ta 1013
図 5.1 森林上の乱流変動(平野,1997)c:CO2 濃度
(5.2)
ここに,P(hPa)は気圧,Ta は気温(oC)である.
(2) 空気力学法
空気力学法(aerodynamical method)は,拡散係数(diffusivity)と物理量の傾度
を用いて物理量のフラックスを求める方法で,傾度法(gradient method)とも呼
ばれている。
∂q
(5.3)
E = − ρK e
∂z
2 -1
,z は高度(m)である。大気が中
ここに,Ke は水蒸気の乱流拡散係数(m s )
立な場合,水蒸気の拡散係数は運動量の拡散係数と等しいと仮定できるので,蒸
発散量は接地気層内における 2 高度の風速と比湿の測定値を用いて次式より算定
される。
1
写真 5.1 微気象観測
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第5章
(大槻)
(3) バルク法
バルク法(bulk transfer method)は,物理量のフラックスを,接地気層内の 1 高度における風速と,その高度および地
表面における物理量の差によって表す方法で,水面や積雪面等の完全湿面からの蒸発量の測定に有効である。
E=
ρc p
ρc
(es − ea ) ≈ p (es − ea )
λγrE
λγra
(5.4)
ここに,cp 乾燥空気の定圧比熱(J kg-1 K-1)
,λ は水の蒸発潜熱(J kg-1)
,γ は乾湿計定数(hPa oC-1)である.rE は水蒸気
-1
-1
,
輸送に関する抵抗(s m )であるが,空気力学的抵抗 ra(s m )と等しいと置かれる事が多い.es は表面の水蒸気圧(hPa)
ea は大気の水蒸気圧(hPa)である。
(4) 熱収支法
地表に到達した純放射は,蒸発散のために消費される潜熱フラックス(latent heat flux)
,大気を温める顕熱フラックス
(sensible heat flux),地中を温める地中熱フラックス(soil heat flux)に配分され
る。
Rn = λE + H + G
ここに,Rn(W m-2)は純放射量,H は顕熱フラックス(W m-2),G は地中熱
フラックス(W m-2)である。
顕熱と潜熱の比 H/ lE はボーエン比(Bowen ratio)β と呼ばれている。顕熱と潜
熱の乱流拡散係数が等しいと仮定すると,ボーエン比は接地気層における 2 高度
の気温,比湿から次式で表される。
β=
c p (T1 − T2 )
λ (q1 − q 2 )
Rn
(5.5)
lET
H
(2-29)
T −T
≈γ 1 2
e1 − e2
(5.6)
G
図 5.2 熱収支
ボーエン比 β を用いれば,蒸発量は次式より算定できる。
E=
Rn − G
λ (1 + β )
(5.7)
(5.8)式より蒸発散量を算定する方法は熱収支法(energy balance method)あるいはボーエン比法(Bowen ratio method)と
呼ばれている。
5.2.2 水収支法
ある閉じた系では次の水収支式が成立する。
(
) (
P
)
E = P + Qsi + Qgi + Qso + Qgo + M − ∆S
I
ET
(5.8)
Qsi
Qso
ここに,E は蒸発散量(mm),P は降水量(mm),Qsi は地表流入量(mm),
Qgi は地下流入量(mm),Qso は地表流出量(mm),Qgo は地下流出量(mm),
M は下方浸透量(mm),ΔS は貯留量変化(mm)である。すなわち,蒸発
散量は水収支の残差として算定できる。
Qgi
ΔS
Qgo
M
図 5.3 水収支
E = P − Qso − ∆S
← 降水量 P
(1) 流域水収支法
水界で区切られた流域では,地表流入量 Qsi,地下水流入量 Qgi,地下水
流出量 Qgo,下方浸透量 M が無視できるので,次の水収支式が成立する。
基底流出の逓減期において流出量が等しい期間あるいは年平均では,ΔS
が無視できるので,蒸発散量は次の水収支式より算定される。
E = P − Qso
流出量 Qso →
(5.9)
ET 1 =P 1 -Q so1
ET 2 =P 2 -Q so2
ET 3 =P 3 -Q so3
(5.10)
図 5.4 短期水収支
(2) 土壌水分減少法
土層別に土壌水分減少量を測定し,土層の厚さを乗じた値から蒸発散量を算定する方法を土壌水分減少法(soil moisture
depletion method)と呼ぶ。ただし,下方浸透量が多い場合,土壌水分減少に加え,下方浸透量を見積もる必要がある.
n
E=
∑ (θ
i ,t −1
)
− θ i ,t Di
(5.11)
i =1
ここに,θは体積含水率(m3 m-3),Di は土層の厚さ(mm)で, 添え字 i は土層を,t は時刻を表す。
2
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(3) ライシメータ法
ライシメータ法(lysimeter method)は,ライシメータ(lysimeter)と呼ばれる水収支
測定のために造られた金属製やコンクリート製の土壌槽の水分減少量を測定すること
によって蒸発散量を算定する方法である。
土壌槽の重さを直接秤量するウェイングライシメータ,土壌槽を水に浮かせ,浮か
せた水の水位変化から土槽の水分量を測定するフローティングライシメータ,水田な
どに有底の箱を設置し湛水深の変動を測定することによって土槽の水分減少量を測定
する水位測定ライシメータ,土槽内の土層ごとの土壌水分と排水量を測定して土槽の
水分減少量を求める排水型ライシメータなどがある。
(4) チャンバー法/ポロメータ法
植物体をチャンバーで完全に覆い,チャンバーへの通
気の出入り口の湿度差と通気量から蒸発散量を測定する
方法をチャンバー法(chamber method / porometer method)
という。チャンバーで法は通気出入り口の CO2 濃度を測
定することによって光合成量も同時に測定できる。
チャンバー法は自然状態の植物体の蒸(発)散量を直
接測定できるという利点を有するが,植物体を覆うこと
によって大気の環境条件が不自然になるという欠点を有
する。
写真 5.3 グロースチャンバー
写真 5.2 ウェイングライシメータ
写真 5.4 ポロメータ
5.3 蒸発散モデル
5.3.1 湿潤面蒸発散量
蒸発散量の中で最も扱いやすい条件は,地表面が湿潤で飽和している状態である。
(1)蒸発散位
蒸発散量の中で最も扱いやすい条件は,水面や降雨直後の土壌面や樹冠面(完全湿面)等,表面が湿潤で飽和している
状態である。
顕熱フラックス H,蒸発フラックス E は次式で表される.
ρc p
ρc
(es − ea ) ≈ p (es − ea )
(5.12)
E=
λγrE
λγra
H =
ρc p
rH
(Ts − Ta ) ≈
ρc p
ra
(Ts − Ta )
(5.13)
ここに,Ts は表面温度(oC)
,Ta は気温(oC)
,rE は水蒸気輸送に関する抵抗(s m-1),rH は顕熱輸送に関する抵抗(s m-1),
-1
ra は運動量輸送に関する抵抗(s m )である.
完全湿面では,表面近傍の空気塊は水蒸気に対して飽和しているので,表面の水蒸気圧は飽和水蒸気圧であると考えら
れる.飽和水蒸気圧は温度の関数であるので,表面の水蒸気圧は表面温度の関数として,次式で表される。
es = esat (Ts )
(5.14)
ここに,esat は飽和水蒸気圧(hPa)である。湿潤で飽和した表面の蒸発フラックスを蒸発散位 Ep とすると,(5.12)式は次
式で表される。
Ep =
ρc p
{esat (Ts ) − ea }
λγra
(5.15)
(5.15)式中の表面温度 Ts は計測の難しい物理量であるので,計測が容易な気温 T による表現を考える.温度-飽和水蒸
気圧曲線上で気温 T 上を通る接線の傾きΔは次式で近似できるので,
∆=
desat esat (Ts ) − esat (Ta )
≈
dT
Ts − Ta
(5.16)
この式を用いて,表面の水蒸気圧を次式で近似する。
esat (Ts ) = ∆ (Ts − Ta ) + esat (Ta )
(5.18)
(5.18)式を(5.15)式に代入してまとめると次のようになる。
3
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Ep =
=
=
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ρc p {∆(T s−Ta ) + esat (Ta ) − ea }
λ γ ra
ρc p ∆(T s−Ta ) + ρc p {esat (Ta ) − ea }
(5.19)
λ γ ra
ra ∆H + ρc p {esat (Ta ) − ea }
λ γ ra
この式の H に,熱収支式 H=Rn-lEp(G を無視した)を代入して Ep についてまとめると,次のようになる。
ra ∆ (Rn − lE ) + ρc p {esat (T ) − ea }
Ep =
Ep +
(5.20)
λ γ ra
∆
γ
Ep =
ra ∆Rn + ρc p {esat (T ) − e}
(5.21)
λ γ ra
ra ∆Rn + ρc p {esat (Ta ) − ea }
 ∆
∆+γ
1 +  E p =
Ep =
γ
γ
λ γ ra


∆Rn + ρc p {esat (Ta ) − ea }/ ra
Ep =
λ (∆ + γ )
Ep =
(5.22)
(5.23)
∆Rn + ρc p g a {esat (Ta ) − ea }
(5.24)
λ (∆ + γ )
ここに,ga は空気力学的コンダクタンス(m s-1)であり,抵抗 ra の逆数である.
(5.23)式,(5.24)式は Penman 式と呼ばれる蒸発散物理モデルの基礎式である。Penman 式地表面が飽和しているという仮
定の下に熱収支法と空気力学的方法を組み合わせた式で,その算定結果は,定義の条件を満たす芝地の他,湿潤な土壌面,
無植生の湛水田や大型蒸発計などからの蒸発散量とほぼ一致する。
(2)基準蒸発量
基準蒸発散量(reference evapotranspiration)は,基準とする作物に十分に水を供給した場合の蒸発散量である。例えば,
Jensen et al.(1971)は「草高 20cm 以上のアルファルファに水が十分に供給されている場合に生じる蒸発散量」を基準蒸発
散量としている。基準蒸発散量推定法の多くは,経験定数を導入した修正ペンマン法である。
(3)平衡蒸発量
平衡蒸発量(equilibrium evaporation)は,飽差が 0 になった場合の蒸発散位である(Slatyer and McIloy,1961)。平衡蒸発量は,
ペンマン法の第 1 項に相当する。
Eeq =
∆  Rn 


∆ +γ  λ 
(5.25)
(4)可能蒸発量
可能蒸発量(potential evaporation)は,移流のない広大で均一な湿潤面で生じる蒸発散量である。この定義を満たす様々
な表面における観測結果から,可能蒸発量は平衡蒸発量の約 1.26 倍になることが知られている(Priestley and Taylor,1972,
Nakagawa,1986)。
Epot = 1.26
∆  Rn 


∆ +γ  λ 
(5.26)
5.3.1 実蒸発散量
乾燥と湿潤を繰り返している自然条件下の地表面からの蒸発散量を実蒸発散量(actual evapotranspiration)と呼ぶ。実蒸発
散量の場合,乾燥条件を考慮する必要があるため,推定手順は煩雑である。
(1)ペンマン・モンティース法
ペンマン・モンティース法(Penman-Monteith method)は,ペンマン法に抵抗の概念を導入して実蒸発散量を推定する法で
ある。
Ea =
∆Rn + ρ c p D / ra
(5.27)
λ {∆ + γ (1 + rc / ra )}
ここに,Ea は実蒸発散量,ra は空気力学的抵抗,rc は群落抵抗である。
最近では,ペンマン・モンティース式は,抵抗よりコンダクタンスで表すことが増えてきている。
4
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Ea =
第5章
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∆Rn + ρ c p g a D
λ {∆ + γ (1+ g c / g a )}
(2)平衡モデル
平衡モデル(equilibrium model)は,平衡蒸発量に土壌水分や降水量のパラメータを導入することによって経験的に実蒸
発散量を推定する方法である。
Ea = a
∆  Rn 

 f (W )
∆ +γ  λ 
(5.28)
ここに,a は経験定数,W は体積含水率である。
平衡モデルは経験的性格が強く対象とする地点によって較正が必要である。
(3)作物係数法
潅漑作物の蒸発散量は,生育段階別にみると蒸発散位あるいは基準蒸発散量にほぼ比例している。したがって,潅漑作
物の蒸発散量は,生育段階別の作物係数 Kc (crop coefficient)を蒸発散位あるいは基準蒸発散量に乗じることによって求め
るのが一般的である。
E a = Kc E p
あるいは
E a = Kc E ref
(5.29)
ここに,Eref は基準蒸発散量である。
(4)補完法
補完法(complementary method)は,「ペンマン法による蒸発散位は地域の乾湿状態に応じて実蒸発散量に対して補完的
に変化する」という観測結果に基づいた方法で,次式で表される(Morton, 1978)。
2 Epot = E p + E a
(5.30)
5.3.3 経験モデル
経験モデルは,気象資料と蒸発散量を経験的に関連づけたものである。経験法は農業分野で開発されたものが多く,主
として潅漑圃場のように水が十分に供給された湿潤面からの蒸発散量を対象とする場合が多い。
経験モデルは,温度法,湿度法,放射法,蒸発計法に大別される。この中では,蒸発計法と放射法の精度が高いといわ
れている。温度法は,気温の観測資料が世界的に豊富であることから,適用性は高い。
(1)ブラネイクリドル法
ブラネイクリドル法(Blaney-Criddle method)は潅漑計画における消費水量を推定する方法として開発されたものである。
Ep=Kc dL Ta
(5.31)
ここに,dL は年可照時間に対する月可照時間の割合である。
ブラネイクリドル法は,国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nationes, FAO)の潅漑計画にお
ける最も簡便な消費水量推定方法として採用されている。
(2)ソーンスウェイト法
ソーンスウェイト法(Thornthwaite method)は,気候学,水文学の分野で広く適用されている方法で,気温と可照時間を
変数とした経験式である.
a
 10T   N  1 
E p = 16
   
 I   12  30 
12
1.514
∑
a = (492390 + 17920 I − 77.1I
I=
 Ti 
 
 5
i =1
(5.32a)
(5.32b)
2
)
+ 0.675I 3 × 10 −6
(5.32c)
,N は月平均可照時間(h)である。
ここに,Ti は月平均気温(℃)
ソーンスウェイト法は,蒸発散位を乾燥地域では過小評価,湿潤地域では過大評価するという構造的欠陥があり,利用
が滞っていた.しかし,近年,地理情報システム(GIS)の普及が進み,各種情報のメッシュ化データベースの構築が進む
中で,実質的に気温データのみを必要とするソーンスウェイト法の利便性が再認識されるようになっている.
5
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第5章
(大槻)
5.4 蒸発散に関する様々な要素
蒸発散量は,一般に水が十分にあれば,放射が多いほど,気温が高いほど,湿度が低いほど,風速が速いほど大きくな
る.ここでは,蒸発散に関する様々な要素について学ぶ.
5.4.1 放射に関する要素
蒸発散量に直接関与する放射量は,放射収支すなわち純放射量 Rn である.
Rn = (Rs − αRs ) + (Ld − Lu )
(5.33)
Ld
,Rs は全天日射量(W m-2)
,Ld は大気からの長波放
ここに,Rn は純放射量(W m-2)
-2
,Lu は表面からの放射量(W m-2)である.α はアルベドと呼ばれる反射
射量(W m )
率である.放射の単位は,日単位の場合は MJ m-2(=MJ m-2 d-1),年単位の場合は GJ m-2
(=GJ m-2 y-1)を用いることが多い.
アルベドは,表 5.1 に示すような値をとる.森林は他の表面と比較してアルベドが
小さい.すなわち,日射を吸収しやすいことが分かる.
長波放射は,次式に示すステファンボルツマン式で計算できる.
L=εσT4
αRs
Lu
図 5.5 放射収支
(5.34)
-8
-2
Rs
-1
,T は表面温度(K)である.様々な表面の射
ここに,ε は射出率,σ はステファンボルツマン定数(5.57×10 W m K )
出率を表 5.2 に示す.表に示すように,射出率は金属表面を除けば,放射率は 0.97 前後である.
表 5.1 様々な表面のアルベド
表 5.2 様々な表面の射出率
大気外日射量
全天日射量
40
表面
放射率
0.94
人の皮膚
0.98
タバコの葉
0.97
カンジキウサギ
0.99
マメ類の葉
0.94
カリブー
1.00
ワタの葉
0.96
タイリクオオカミ
0.99
サトウキビの葉
0.99
ハイイロリス
0.99
ポプラの葉
0.98
窓ガラス
0.90 - 0.95
サボテン
0.98
コンクリート
0.88-0.93
磨いたクロム
0.05
土壌
0.93-0.96
アルミニウム箔
0.06
水
0.96
可照時間
日照時間
14
35
12
30
日照時間(hr)
2
放射率
トウモロコシの葉
16
45
日射量(MJ/m )
表面
25
20
15
10
8
6
4
10
2
5
0
0
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
1/1
10/1 11/1 12/1
a)大気外水平面日射量と全天日射量
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
10/1 11/1 12/1
b)可照時間と日照時間
図 5.6 大気外水平面日射量,全天日射量,可照時間,日照時間(福岡市,2005 年)
6
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第5章
(大槻)
(1)全天日射量 RS の推定方法(日照時間を用いる方法)
1.0
-2
全天日射量 Rs(MJ m )は,日照率 n/N を用いて,次式
に示す推定式を用いて推定できる.
日射率(=Rs/Ra)

 n 
R S =  a + b   R a
 N 

y = 0.5700 x + 0.2083
R2 = 0.9063
0.8
(5.35)
ここに,a,b は経験定数,n は日照時間(h)
,N は可照時
間(h)である.Ra は大気外水平面日射量(MJ m-2)であ
り,緯度と日付から計算できる.
0.6
0.4
0.2
0.0
福岡市気象官署の 2005 年の観測データを用いた場合,
a=0.2083,b=0.5700 である.
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
図 5.7 日照率と日射率の関係(福岡市,2005 年)
日照率(=n/N)
(2)全天日射量 RS の推定方法(気温日較差を用いる方法)
大気上端に達した日射量は,地表面に達するまでに,雲や水蒸気,大気汚染などの影響を受けて減衰する。篠原(2007)
は,気温の日較差ΔT(=Tmax-Tmin)を利用して大気透過率τt を求め,全天日射量 RS を推定している.
R S = τ t Ra
(5.36)
ここに,τt は大気透過率である。
大気透過率τt は Bristow and Campbell 式(1984)により,次式で表現される。
[
τ t = A 1 − exp(− B∆T C )
]
(5.37)
ここに,A,B,C は経験定数,∆T は気温( C)の日較差(=日最高気温-日最低気温)である。なお,日最低気温は,当日
最低気温と翌日最低気温の平均値を用いる.Bristow and Campbell は,降水のある日は気温日較差を 0.75 倍にするという
補正を行っているが,ここでは降水による補正は行わない。篠原ら(2007)は,全国平均では A = 0.76,C = 2.2,福岡で
は A = 0.78,C = 2.2 という値を得ている。
経験定数 B は,気温の日較差∆T と大気透過率τt との関係が季節によって変化するのを調節する定数で,月平均日較差
より求めた(Bristow and Campbell, 1984)
。
o
B = 0.036 exp(−0.154∆T )
(5.38)
ここに, ∆T は気温の日較差の月平均値( C)である。
o
45
45
大気外日射量
全天日射量
大気外日射量
40
全天日射量(推定)
35
30
全天日射量(推定)
35
2
日射量(MJ/m )
2
日射量(MJ/m )
40
全天日射量
25
20
15
30
25
20
15
10
10
5
5
0
0
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
6/1
7/1
8/1
9/1
10/1 11/1 12/1
1/1
2/1
3/1
4/1
5/1
a)日照時間による推定値
6/1
7/1
8/1
9/1
10/1 11/1 12/1
b)気温日較差による推定値
図 5.8 全天日射量の実測値と推定値.a)日照時間による推定値.b)気温日較差による推定値(福岡市,2005 年)
35
(3) 純放射量 Rn の推定
日照時間による推定 y = 0.9878x
気温較差による推定
30
2
推定日全天日射量(MJ/m )
純放射量の推定式は多数提案されている.Komatsu et al.
(2008)は森林の純放射量 Rn は,次式に示す簡便式で推
定できるとしている.
(5.39)
Rn = 0.8 RS
-2
ここに,Rn は純放射量(MJ m )である.
25
20
15
y = 0.9176x
10
5
0
0
5
10
15
20
25
30
実測日全天日射量(MJ/m2)
35
図 5.9 全天日射量の実測値と推定値(福岡市,2005 年)
7
森林水文・水資源学
第5章
(大槻)
5.4.2 気温と湿度に関する要素
気温は最も入手しやすい気象データの一つである.湿度のデータも比較的多いが,AMeDAS データには含まれておら
ず,データ入手は難しい.湿度データは一般に相対湿度で表されている.図 5.10 に福岡(福岡県)
,広島(広島県)
,浜
田(島根県)
,清水(高知県)の年平均気温と相対湿度の推移をしました.1950 年頃から気温が上昇し,相対湿度が低下
していることがわかる.
80
Hamada
Hiroshima
Shimizu
Fukuoka
18
17
Average Relative Humidity (%)
Average Temperature (C)
19
16
15
14
1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
75
70
Hamada
Hiroshima
Shimizu
Fukuoka
65
1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
Year
(a)年平均気温
Year
(b)年平均相対湿度
図 5.10 年平均気温と年平均相対湿度の推移
相対湿度 RH とは,飽和水蒸気圧 esat(Ta)に対する実際の水蒸気圧 ea の比である.
RH =
ea
× 100
es (Ta )
(5.40)
ここに,RH は相対湿度(%)
,Ta は気温(oC)
,esat(Ta)は気温 Ta における飽和水蒸気圧(hPa)
,ea は水蒸気圧(hPa)
飽和水蒸気圧 esat(Ta)は,気温 Ta の大気が含むことができる水蒸気量を圧力表示したもので,気温 Ta の関数で表すこと
ができる.気温 Ta から飽和水蒸気圧 esat を推定する経験式として,Murray 式がある.
 bT 
esat (Ta ) = aexp a 
T +c
(5.41)
ここに,a,b,c は定数で,a=6.10781hPa,水面上では b=17.2693882,c=237.3,氷面上では,b=21.8745584,c=265.5 である.
水蒸気圧 ea は,飽和水蒸気圧 esat(Ta)に相対湿度比率(RH/100)を乗じて求めることができる.
 RH 
ea = esat (Ta )

 100 
(5.42)
また,蒸発散の解析では,比湿という単位もよく使用される.比湿とは湿り空気 1kg における水蒸気の質量(kg)の比
で,次式で与えられる.
ε ea
(5.43)
q=
P − (1 − ε )ea
ここに,ε は水蒸気と乾燥空気の密度比(=0.622)
,P は大気圧(hPa)である.
図 5.11 に上記 4 地点の飽和水蒸気圧 esat(Ta)と水蒸気圧 ea の推移を示す.図より,飽和水蒸気圧 esat(Ta)は気温の上昇に
対応し,ほぼ同じ増加傾向を示している.一方,水蒸気圧 ea は安定しており,約 100 年間概ね一定であることがわかる.
図 5.11 より,近年の相対湿度 RH の減少は,飽和水蒸気圧 esat(Ta)の上昇に起因していることがわかる.
21
20
18
Hamada
Hiroshima
Shimizu
Fukuoka
17
Vapor Pressure (hPa)
Saturated Vapor Pressure (hPa)
22
19
18
17
16
Hamada
Hiroshima
Shimizu
Fukuoka
15
14
13
12
11
16
1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
10
1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
Year
Year
(a)年平均飽和水蒸気圧
(b)年平均水蒸気圧
図 5.11 年平均飽和水蒸気圧 esat(Ta)と年平均水蒸気圧 ea の推移
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第5章
(大槻)
飽和水蒸気圧 esat(Ta)と水蒸気圧 ea の差は飽差と呼ばれる.
D = esat (Ta ) − e
(5.44)
ここに,D は飽差(hPa)である.
飽差 D は大気中の水蒸気の空き容量を示すものであり,大気の蒸発力の指標となる.図 5.12 に上記 4 地点の飽差の推
移を示す.飽和水蒸気圧 esat(Ta)が増加し,水蒸気圧 ea がほぼ一定であるため,飽差 D は 1950 年頃以降増加しており,特
に福岡における増加が顕著である.
Vapor Pressure Defisit (hPa)
8
7
6
5
Hamada
Hiroshima
Shimizu
Fukuoka
4
3
2
1
0
1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
Year
図 5.12 年平均飽差 D の推移
ところで,上述したように湿度の観測データは気温と比較すると少ない.湿度データが得られない場合,水蒸気圧 ea
の日変化が少なく,明け方の日最低気温出現時頃に相対湿度が安定的に高くなることを利用して,水蒸気圧を推定できる.
ea = βesat (Tmin )
(5.45)
ここに,Tmin は日最低気温(oC)であり,βは補正係数である.福岡市の 2005 年における補正係数βは 0.815 で,推定誤
差は±2.0hPa あった.図 5.13 に日平均水蒸気圧の推定値と実測値の比較を示す.
実測水蒸気圧(hPa)
40
30
20
10
0
0
10
20
30
推定水蒸気圧(hPa)
40
図 5.13 福岡市の 2005 年における日平均水蒸気圧の実測値と推定値の比較
ところで,温度-飽和水蒸気圧曲線の傾き Δ(hPa oC-1)も,蒸発散の解析において欠かすことのできない要素である.
気温 Ta における温度-飽和水蒸気圧曲線の Δ は次式より得られる.
∆=
bc
esat (Ta )
(c + T ) 2
(5.46)
また,乾湿計定数 γ(hPa/oC)も蒸発散の解析において欠かすことのできない要素である.
γ=
CpP
(5.47)
ελ
,λ は水の蒸発潜熱である.
ここに,Cp は空気の定圧比熱(1.0042kJ oC-1 kg-1 )
水の蒸発潜熱 λ(J kg-1)は気温 Ta の関数であり,次式より求められる。
λ = 2500.8 − 2.3668 Ta
(5.48)
気圧 P は,実測値が得られない場合は,次式を用いて標高によって推定できる.
 −A 
P = 1013exp

 8200 
P = 1013 − 0.1093 A
(5.49a)
(5.49b)
ここに,A は標高(m)である.
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第5章
(大槻)
5.4.3 風速に関する要素
森林は高い樹木を骨格とした群落であるため,風に対して強い摩擦
力を及ぼし,風環境に大きな影響を及ぼしている.樹冠上に風速の対
数分布が成立すると仮定すると,樹冠上の風速分布は次式で近似でき
る.
u
z−d
(5.50)
u ( z ) = * ln
k
z0
地面修正量
ここに,zは樹冠上の高さ(m),u(z)は樹冠上の高さ z における風速(m
s-1),u*は摩擦速度(m s-1),k はカルマン定数(=0.4)
,d は地面修正量
(m),zo は粗度長(m)である.
粗度長
植物面積指数(PAI)が 3~4 の植物群落では,地面修正量 d および粗
度長 zo は,植物群落の高さ h(m)の関数として次式で推定できる.
d = 0.7 h
z 0 = 0.1h
PAI
図 5.14 地面修正量と粗度長
(5.51)
(5.52)
【例題 5.2】草高 3cm の芝生露場の高さ 3m で測定した平均風速が 2.7m/s であった.高さ 3cm,10m の風速はいくらか.
【解答】 式 5.51,式 5.52 より,
d=0.7×0.03=0.021m
z0=0.1×0.03=0.003m
である.したがって,z=3m では,
u * 3 − 0.021
u (3) = 2.7 m/s =
ln
0.4
0.003
となる.この式を解くと u*=0.157m/s が得られる.したがって,
高さ 3cm では, u (h) =
u * 0.03 − 0.021 0.16 0.009
ln
=
ln
= 0.4 m s-1
0.4
0.003
0.4 0.003
高さ 10m では, u (h) =
u * 10 − 0.021 0.157 9.9979
ln
=
ln
= 3.2 m s-1
0.4
0.003
0.4
0.003
ga =
k 2u( z )
 z−d 
 ln

z0 

2
=
境界層コンダクタンス(m/s)
森林
20
10
畑
0.2
森林
0.1
畑
0
0
0
1
2
風速(m/s)
3
4
0
1
2
3
4
風速(m/s)
図 5.15 樹高と空気力学(境界層)コンダクタンス
0.4 2 u( z )
 z−d 
 ln

z0 

0.3
30
高さ(m)
図は,15m 高さの森林と 1m 高さの作物の群落上 2m
で風速 2m s-1 の風が吹いていると仮定して計算した風
速プロファイルである.図に示すように,農地と比較
すると森林では樹冠上の風速勾配が大きく,森林が風
速分布に大きな影響を及ぼしていることがわかる.
なお,風速が対数分布すると仮定すると,図のよう
に風速は樹冠直下付近でゼロになる.しかし,実際に
は樹冠上の風が森林内の空気を引っぱり,森林内にも
風が吹く.ただし,樹体が風に抵抗するため,森林内
では風は樹冠から徐々に減速し,地表面近くで弱いピ
ークを持つ形の風速分布を取る(近藤,1994)
.風に対
する樹体の抵抗は葉量が多いほど大きいので,落葉広
葉樹では落葉期の方が着葉期より林内の風は強くなり
やすい(渡辺,1998)
.
空気力学的コンダクタンス ga は次式で表される.
(5.53)
2
図より,森林では樹冠上の風速勾配が大きく,空気力学的コンダクタンス ga が大きいため,樹冠上で運動エネルギー
輸送が盛んであることがわかる.境界層内における各種物理量の輸送メカニズムは類似していることから,樹冠上では水
蒸気(潜熱)
,顕熱,CO2 の輸送も盛んであることがわかる.
10