日本溶接協会60年史 ― 12. はんだ・微細接合部会 - 溶接情報センター

12. はんだ・微細接合部会
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12
はんだ・微細接合部会
12.1 設立と沿革
当部会は,「はんだ」の ISO(国際標準化機構)
となって,国内の JIS(日本工業規格)や ISO,
規格への対応と最新のはんだ付技術に対応できる
IEC(国際電気標準会議)規格等の国際規格審議
「はんだ」とその関連材料および評価法などの諸
および共同研究などの活発な活動を続け,はんだ
体系の整備推進を目的として,1987(昭和 62)
付実装関連業界に貢献してきた。
年 12 月に工業技術院(現:経済産業省 産業基盤
しかし,2007 年度に委員会設立 20 周年を迎え
標準化推進室)の協力を得て設立された「はんだ
るにあたり,本会の定款・細則に基づいて,はん
研究委員会」が母体である。
だ組合としての参加形態から,
「はんだ」メーカー
当時の構成組織としては,はんだメーカーの組
個々が単独で本会の団体会員として加入すること
織としての専門部会が適切であろうとのことで
となった。また,
「はんだ研究委員会」は,はん
あったが,はんだメーカーが「企業個々での参加」
だ材料メーカーを主体とした微細接合技術を用い
ではなく,「既存のはんだ組合としての参加」を
る電機・電子機器製造業界の専門部会組織として
希望したため,組合が委員会費を負担する「はん
改組し,はんだ・微細接合部会が設立された。初
だ研究委員会」として設立された。
代部会長には田口稔孫(千住金属工業)が,副部
その後,20 年を経て,ユーザー企業等の単独
会長には岩淵 充(タムラ化研)が就任した。
参加もあり,現在では 40 社を超える研究委員会
12.2 活動状況
12.2.1 国内規格整備
主な活動状況は下記のようである。
(1)JIS Z 3197(はんだ付用フラックス試験方法)
ISO との整合化のため,2000 年からフラックス
関連の JIS 規格体系について検討し,2001 年に 5
年見直しを行った。
(2)JIS Z 3198(鉛フリーはんだ試験方法)
─第 5 部:はんだ継手の引張及びせん断試験方法
−第 6 部:QFP リードのはんだ継手 45 度プル
試験方法
─第 7 部:チップ部品のはんだ継手せん断試験
方法
(3)JIS Z 3282(はんだ─化学成分及び形状)
1999年にISO 9453に整合化したJISが公布され,
2001 年にはその 5 年見直しを行った。2003 年から
2001 年に,NEDO プロジェクト「有害化学物
は,本会から ISO および IEC へ提案した,鉛フリー
質の排出削減に関する標準化研究開発−環境負荷
はんだ合金を含めるための見直し作業を行い,
低減化に対応したはんだ接続に必要な試験方法等
2004 年に,追加された鉛フリーはんだ合金も含
の標準化」の成果に基づいて,下記 7 部の JIS 原
めた改正原案を作成した。2005 年 11 月の ISO 会
案を提案した。
議で,ISO 9453 が FDIS となったことに対応して,
─第 1 部:溶融温度範囲測定方法
これに整合した JIS Z 3282 改正原案を原案作成委
─第 2 部:機械的特性試験方法
─第 3 部:広がり試験方法
─第 4 部:ウェッティングバランス法及び接触
角法によるぬれ性試験方法
員会に提出し,当年度に公布された。
(4)JIS Z 3283(やに入りはんだ)
1999 年に,ISO において審議中のドラフト,ワー
キンググループ案などとの整合性および海外規格
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第 3 編 専門部会
との比較検討を行い,2000 年に JIS Z 3283 が公
布された。
前述の JIS Z 3282(2005 年)に鉛フリーはんだ
が追加され,本規格と JIS Z 3282 との不一致が
生じたため,鉛フリーはんだ対応も含めて本規格
を改正することとした。本会にて新しい規格素案
表 12.1 ISO/TC44/SC12/WG8 会議への審議参加
開催年月
2004/2
2004/7
2004/11
2005/11
2007/11
場 所
ベルリン
パリ
ロンドン
ベルリン
ミュンヘン
派遣人数(国際幹事,関係者)
1名
1 名 2 名
1 名 1 名
1 名 1 名
1名
を作成し,原案作成委員会に提出した後,2006
により,ISO 9453 改定の最終原案が完成したこ
年 9 月 20 日に公布された。
ととなり,投票へ移行した。2005 年 11 月にベル
(5)JIS Z 3284(ソルダペースト)
リンで行われた改正審議では,特許権のある鉛フ
1999 年に,ISO において審議中のドラフト,ワー
リーはんだ合金は,RAND 合意されたもののみ
キンググループ案などとの整合性および他の海外
掲載することとした FDIS が作成された。2006 年
規格との比較検討を行った。
には,ISO 9453(2006)
:FDIS が各国投票の結果,
(6)JIS Z 3910(はんだ分析方法)
承認された。2006 年 10 月に制定された ISO 9453
2003 年 に 見 直 し 作 業 を 行 っ た。2004 年 か ら
の再改定に関して,2007 年 11 月にミュンヘンで,
2006 年に,機器分析の導入と鉛フリーはんだ対
韓国および日本からの提案についての審議が行わ
応を含めた見直しのためのラウンドロビンテスト
れた。韓国からの提案は鉛フリーはんだ合金の特
を実施し,分析方法ならびにその精度向上のため
許についての見直しについてであるが,審議の結
の検証を実施した。2006 年に改正案を作成し,
果,各国投票で審議するかどうかを判断すること
原案作成委員会に提出した。
12.2.2 国際規格
(1)ISO 関係(ISO/TC44/SC12)
となった。
(2)IEC 規格への対応
(a)フラックス関連規格の審議
IEC TC91 の国内審議団体である㈳電子情報
は ん だ 関 連 規 格 を 審 議 し て い る ISO/TC44/
技術産業協会(JEITA)との協議の結果,は
SC12 との連携をとるべく,ほぼ毎年,年次会議
んだおよびフラックス関連の IEC 規格について
へ国際幹事委員を派遣している。また,ワーキン
は,当部会で審議をすることとなった。また,
ググループへの登録も行って,審議中の各種 ISO
はんだ関連規格が ISO と IEC とでダブルスタン
原案に対する賛否投票,および日本の意見の取り
ダードとはならないように,ISO ならびに IEC
まとめなど,日本の意見を反映させるための体制
の関連委員会に働きかけ,IEC TC91 と ISO/
を維持している。最近では ISO/TC44/SC12 と
TC44/SC12 とが協調して規格作成にあたるこ
IEC TC91 との国際規格間の調整,業務分担につ
いての提案,あるいは日本から IEC に提案した鉛
とを確認した。
2002 年 6 月のロンドンおよび 11 月のヘルシン
フリーはんだ材料組成の ISO への提案など,国際
キ で 開 催 さ れ た IEC/TC91 国 際 会 議 で は,
的発言力を高めている。
NEDO プロジェクトの成果について報告した。
2002 年 11 月 に ISO/TC44/SC12/WG8 か ら ISO
2006 年には,フラックスおよびはんだ材料試験
9453 の改定に関して,「鉛フリーはんだをどのよ
規格改訂の審議に参加し,FDIS が承認された。
うに取り扱うか」について打診があり,日本案(鉛
(b)鉛フリーはんだ材料規格の提案
フリーはんだ材料の追加)を提出した。2003 年
2003 年 3 月 7 日に,IEC/TC91 国内委員会を通
11 月に改定案が出され,各国からコメントが提
じ て,IEC/TC91 へ IEC 61190-1-6(Lead free
出された。これをもとに,2004 年 2 月にドイツに
solder)および IEC 61190-1-7(Lead free solder
て審議が行われ,日本案がほぼ取り入れられるこ
paste)を新しく提案をした。2003 年 8 月に行わ
ととなった。2004 年 7 月のパリ会議では,前年の
れた投票の結果,2 件とも新提案として成立し,
ベルリン会議で日本が提案した,20 種類余の鉛
専門委員としてドイツ,フィンランド,イギリ
フリーはんだの掲載が合意され,改訂の骨格が
ス,日本の 4 ヵ国が参加することとなった。ま
整った。2004 年 11 月にロンドンで行われた ISO/
た,当部会国際幹事(鶴田加一氏)がプロジェ
TC44/SC12/WG8 会議では,前回のパリ会議後に
クトリーダーを引き受け,2003 年 11 月にシン
投票された ISO 9453 の CD が賛成多数で承認され
ガポールで開催された IEC/TC91/WG2 会議で
たのを受けて,CD に対する各国コメントが審議
の審議の結果,本提案が既存の IEC 61190-1-2
された。その結果,コメントに対する委員会案が
および IEC 61190-1-3 に盛り込まれることとな
作成され,DIS が提出されることになった。これ
り,2004 年 3 月に日本から改定案を提出した。
12. はんだ・微細接合部会
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その後 WG2 で,日本から提案した鉛フリーは
を得たが,4 カ国のエキスパートの登録が得ら
んだ組成および元素の略記号方式“shortname”
れなかったため,再度,WG3 の各国との調整
が追加された改正案(2 件)が審議された。
が行われた。
2005 年のワシントン会議で,日本から提案
2007 年 6 月のシンガポール,2007 年 10 月の
した鉛フリーはんだ組成を中心とした改正案が
ソウルで開催された IEC/TC91/WG3 では,鉛
審 議 さ れ,CD と し て 承 認 さ れ た。 さ ら に,
フリーはんだ合金の基礎的物性の一つである融
2005 年 9 月 に フ ラ ン ク フ ル ト で 開 催 さ れ た
点測定法を国際標準化したいという提案を行
WG2 で,特許権のある鉛フリーはんだ合金は,
い,電子材料の試験方法の規格:IEC 61189-6
RAND 合意されたもののみ掲載することとし,
に,修正条項として「はんだの融点測定方法」
ISO と整合性を図った CDV が作成された。
を規定することが了承され,改訂作業を進める
2006 年 5 月にベルリン,2006 年 10 月にロン
ドンで開催された IEC/TC91/WG2 に,日本か
ら提案した 2 件の鉛フリーはんだ材料関連規格
改訂の審議に参加し,プロジェクトリーダーと
ことになった。
12.2.3 研究 WG 活動
(1)めっきワーキンググループの設置
して FDIS を作成し,IEC 事務局に提出して,
はんだ接続対象である部品・基板の表面処理と
各国投票のための回覧待ちの状況まで進んだ。
はんだのぬれ性に焦点を当てた体系だった報告は
また,ISO 9453 の改訂審議との調整も図り,
少ない。電子機器組立に用いられる部品や基板表
両規格案の整合性維持を図った。
面の表面処理を想定して,めっき材料とその処理
2007 年 4 月に日本提案が大幅に盛り込まれた
が鉛フリーはんだのぬれ性に及ぼす影響を調査
FDIS が承認され,鉛フリーはんだ材料関係規
し,界面状態と機械的特性との関係を明らかにす
格の国際標準化は終了した。
るために,2001 年より「めっきワーキンググルー
(c)鉛フリーはんだ試験方法規格の提案
プ」を立ち上げ,鉛フリーはんだのめっき処理材
2003 年 6 月 に ド イ ツ で 開 催 さ れ た IEC/
へのぬれ性に関する文献調査,実験材料の選定,
TC91/WG3 において,JIS Z 3198-1 および JIS
Z 3198-2 の 2 つの鉛フリーはんだ試験方法を紹
介し,2003 年 11 月 IEC/TC91/WG3 会議(シン
実験条件の検討および実験を行った。
(2) 鉛フリーはんだ材料試験方法に基づくデー
タの整理
ガポール)で上記 2 つの JIS を新しく提案して,
ISO/TC44/SC12 ならびに IEC/TC91 へ規格化
2004 年 1 月に投票が行われた。なお,2003 年に
を提案した 20 種類の鉛フリーはんだを含む各種
日本から提案した 2 件の鉛フリーはんだ試験方
のはんだ合金について,2003 年に JIS Z 3198-1
法(JIS)は,2004 年 1 月の投票で各国の賛成
表 12.2 IEC/TC91/WG2 会議への審議参加
開催年月
2003/11
2004/9
2005/5
2005/9
2006/5
2006/10
場 所
派遣人数(国際幹事,関係者)
シンガポール
サンノゼ
ワシントン
フランクフルト
ベルリン
ロンドン
1名
1名
1名
1名
1名
1名
表 12.3 IEC/TC91/WG3 会議への審議参加
開催年月
2000/11
2001/11
2002/6
2002/10
2003/6
2003/11
2004/5
2005/5
2005/9
2006/5
2006/10
2007/6
2007/10
場 所
派遣人数(国際幹事,関係者)
ロンドン
オーランド
ロンドン
ヘルシンキ
Regensbrug
シンガポール
香港
ワシントン
フランクフルト
ベルリン
ロンドン
シンガポール
ソウル
1名
1名
1名
2名
1名
1名
1名
1名
1名
1名
1名
1名
1名
および JIS Z 3198-2 に基づく共同実験を実施し
た。2004 年には,その実験結果から得られた鉛
フリーはんだを含む各種はんだ合金のデータを整
理した。
(3) 鉛フリーはんだ対応フロー槽エロージョン
プロジェクト WG
汎用のはんだ付工法の一つであるフローはんだ
付の溶融はんだ槽に使用されているステンレス鋼
が損傷する事故が多発した原因の調査およびその
写真 12.1 IEC ロンドン会議 WG2 風景
(2006. 10. 24)
114
第 3 編 専門部会
対策法の検討を行うために,鉛フリーはんだ対応
先の損傷,こて先のぬれおよび電気絶縁性の 4 因
フロー槽検討分科会を 2003 年 11 月に設置した。
子を規格化することを目指して,最適な試験・評
2004 年は,その原因の調査および対策法の検討を
価方法を作成する段階まできている。まずは,
行うために,フロー槽エロージョンプロジェクト
WES として制定することを目指している。
WG を立ち上げ,今後の対応を 2004 年 9 月 14 日と
10 月 5 日に協議し,2005 年には測定機器,方法,
12.2.4 鉛フリーはんだ実装推進教育・広報
試験装置および試験片形状などを決め,基礎因子
この 10 年間に実施した講習会・セミナーの主
の影響を明らかにするための試験を実施した。
題と参加者数は次のようである。
(4) ソルダペーストのぬれ性試験とその評価方
法の規格化の検討
JIS Z 3284 におけるぬれ試験について,新しい
(1)2003 年 12 月 5 日,12 日「鉛フリーソルダリ
ングの信頼性確保のために」島津製作所(大阪)
88 名,総評会館(東京)183 名
評価試験方法の追加を視野に入れた検討を実施
(2)2004 年 1 月 20 日「鉛フリーはんだによるス
し,プロファイル昇温,急速加熱および変位測定
テンレス鋼のエロージョン共通評価指標の構築
による標準試験方法の提案がなされ,規格化のた
と解決に向けて」化学会館(東京)80 名
めの素案作成段階へと移行した。今後,標準操作
(3)2004 年 10 月 6 日「鉛フリーはんだシンポジウ
手法について吟味し,最終的にはラウンドロビン
ムJISに基づく鉛フリーはんだ共同試験報告と規
テストを実施して,この手法を確定させていく予
格化・EUの動向」芝浦工業大学(東京)204名
定である。
(5)鉛フリーはんだ対応はんだごての規格制定に
ついて
(4)2005 年 10 月 12 日「鉛フリーはんだセミナー
鉛フリーはんだ対応フラックス」芝浦工業大学
(東京)161 名
鉛フリーはんだの仕様が標準となりつつあっ
(5)2007 年 6 月 29 日「鉛フリーはんだ特性に対
て,マニュアルソルダリングに使用されるはんだ
応した継手信頼性評価─弱点・懸念はどこまで
ごてで,「鉛フリーはんだ対応」を表示したもの
が多種でてきているが,定義がはっきりしないな
克服できたか─」芝浦工業大学(東京)150 名
(6)2008 年 11 月 12 日「鉛フリー実装技術〜成熟
ど,ユーザーには判断しにくいことも多い。この
期の鉛フリー実装技術と最近の優位化状況〜」
ため,鉛フリーはんだに対応した「はんだごて」
総評会館(東京)97 名
の規格制定を目的に,「鉛フリーはんだ対応はん
(7)2008 年 12 月 16 日「鉛フリーはんだの凝固組
だごて WG」を設置し,規格内容を検討してきた。
織基礎論と継手信頼性」千里ライフサイエンス
現在,こて先の温度復帰性(温度応答性),こて
センター(大阪)54 名
12.3 今後の展開
本部会の今後の展開として,国内規格について,
タンダードを防止するための IEC と ISO のジョイ
JIS Z 3198(鉛フリーはんだ試験方法」の改正に
ントミーティングを提案していたが,IEC 規格と
向けての検討を予定している。第 1 部:溶融温度
ISO 規格は同じである必要が無いこと,また ISO
範囲測定方法については,液相線温度(凝固開始
会議に IEC 委員が参加して欲しいとの逆提案が出
温度)の測定方法に DSC 測定の適用を検討し,
されたことから,この提案は事実上否認された状
IEC TC91 へ国際規格としても提案することを考
況にある。その結果,2008 年度からの鉛フリー
えている。また,第 2 部:機械的特性試験方法─
はんだ材料規格再改定の進め方について国内委員
引張試験については,共同実験を実施し,試験方
会で審議し,はんだ地金価格高騰の影響や鉛フ
法のさらなる改良,とくに微少部の機械的特性を
リーはんだ付技術の進歩によって低 Ag 鉛フリー
精度良く測定できる方法や高ひずみ速度での試験
はんだ合金材料の採用が進んでいる状況を勘案し
の確立に向けて,中立機関を中心に検討を進める。
て,できるだけ早い国際標準化を図るために,新
これらの結果を規格見直し時の参考資料として有
規鉛フリーはんだ合金の追加を中心とした国際標
効に利用するとともに,有効に利用できる方法や
準再改訂は IEC を中心に作業を進めることとし,
公開手法ならびに各種データの蓄積,データベー
ISO に対しては IEC に準じた改訂作業を進めるこ
ス化なども検討する。
ととした。
国際規格については,審議の迅速化とダブルス