IPマルチキャスト マルチキャストサービス技術 IP放送 次世代ネットワーク IPマルチキャスト放送の転送技術と技術課題 さ と う ひろあき 佐藤 裕昭 次世代ネットワークの提供サービスとして,IPマルチキャストを用いたIP 放送が注目されています.本稿ではIPマルチキャスト転送制御技術について NTTネットワークサービスシステム研究所 紹介します. ある」とうたわれています.このように IP放送を取り巻く状況 ユニキャストとマルチキャストの違い IPマルチキャスト放送が期待される背 次世代ネットワークにおけるトリプ 景の1つとして,FTTH(Fiber To 現在のインターネット動画配信で一 ルプレイサービスの1つの柱として,IP The Home)の普及により,放送に 般的に普及しているユニキャスト配信 マルチキャスト放送が期待されていま ふさわしい安定的なパケット転送が可 と,IP放送に適用するマルチキャスト す.また通信放送融合の観点からも, 能になったことと,ルータのマルチキャ 配信の違いを図1に示します. 情 報 通 信 審 議 会 中 間 答 申 において スト対応が進みマルチキャストネット ユニキャストでは,図1(a)に示すよ 「IPマルチキャストを用いた光ファイバ ワークの構築が容易になったことが うに,受信端末は,映像データを保持 等の通信インフラについては,地上波 挙げられます.現在では,1,000チャ している配信サーバに直接アクセスし, 放送と同等のサービスの実現に必要な ネル以上のマルチキャストに対応する 配信サーバはアクセスしてきた受信端 一 定 の条 件 が満 たされた場 合 には, ルータも登場しています. 末を認識し,直接,映像データのパ ケットを送信します. (中略),これを積極的に活用すべきで IPパケット 2.2.2.2行 データ 1.1.1.1発 IPネットワーク データ要求 受信端末 IP=2.2.2.2 1.1.1.1行 IPパケット 2.2.2.2発 配信サーバ IP=1.1.1.1 (a) ユニキャスト配信 IPパケット 233. 0. 3.3.3 0.1行 .3発 デー 受信端末 IP=4.4.4.4 受信端末 IP=5.5.5.5 8 タ マル チキ (23 ャス ト 3.0.0 .1行, 要求 3.3.3 .3発) 行 データ 0.0.1 233. 発 .3 要求 3.3.3 ) スト キャ , 3.3.3.3発 チ マル .0.1行 3.0 (23 NTT技術ジャーナル 2006.10 IPネットワーク IPパケット 233.0.0.1行 データ 3.3.3.3発 ルータ ルータ (サーバ (ユーザ エッジ) エッジ) マルチキャスト要求 (233.0.0.1行, 3.3.3.3発) (b) マルチキャスト配信 図1 ユニキャストとマルチキャスト IPパケット 233.0.0.1行 データ 3.3.3.3発 配信サーバ IP=3.3.3.3 特 集 一方,マルチキャストでは,受信端 どり着きます) ,そのルータからマルチ ルータ間で使用されるPIM(Protocol 末と配信サーバが直接通信する訳では キャスト要求の転送されてきた方向を Independent Multicast)がありま ありません.受信端末は直近のルータ 逆にたどって(S,G)パケットをコ す.PIMにはいくつかの種類があり (ユーザエッジ)にチャネル番号を示し ピー転送します.このような仕組みで ますが,ここでは,今後主流となる たマルチキャスト要求を送信します. 放送データが(S,G)パケットとして PIM-SSM について説明します. このとき,受信端末は,事前に,放送 受信端末に届きます. (3) IGMPとMLDは,それぞれIPv4と このユニキャストとマルチキャストの IPv 6のプロトコルであり,IPバージョ 組 表 ホームページにアクセスして, 動作の相違から,ユニキャストとマル ンが異なるだけで動作としては同じで チャネル番号を取得することが考えら チキャストには適応性の違いがありま す.PIM-SSMはIPv4とIPv6のどち れます. す.ユニキャストは,受信端末と配信 らにも対応しています. 事業者(コンテンツプロバイダ)の番 マルチキャストにおいて,チャネル番 サーバ間で直接制御するため,早送 I G M P / M L D とP I M - S S M の動 作 号は,配信サーバのIPアドレスである り・巻戻し・一時停止等の特殊再生 は,図2に示すように,配信サーバ方 SとマルチキャストアドレスGの組み合 制 御 を 実 施 す る VOD( Video On 向の隣接ルータにマルチキャスト要求 わせ(S,G)で識別されます.図1 Demand)に適しています.しかし, としてJoinメッセージを送信する点は (b)の例では,受信端末は配信サーバ 多数の受信端末に配信するには,配信 同じです.しかし,ルータ間プロトコ 3.3.3.3発でマルチキャストアドレス サーバに膨大な送信能力が必要である ルであるPIM-SSMでは,Helloメッ 233.0.0.1のチャネルを要求します.マ という問題があります. セージによりPIMプロトコルが動作し ルチキャストアドレスはIPアドレスのう 一方,マルチキャストは受信端末と ている隣接ルータの存在を確認する機 ち特定の割り当てられた範囲です.具 配信サーバ間の直接制御がないため, 能があります.この機能によりPIMプ 体 的 には, I P v 4 では, 2 2 4 . 0 . 0 . 0 ∼ 特殊再生制御は難しいです.しかし, ロトコルが動作していないルータを回 239.255.255.255の範囲で,IPv6で 配信サーバは受信端末数に依存せず1 避してマルチキャスト制御することが はFFで始まるアドレスです.この範囲 本のパケット流だけを送信すれば良く, できます. のアドレスは,マルチキャスト転送の 送信負荷が極めて小さいことから,マ 一方,端末とルータ間のプロトコル ためだけに使用され,PCなどの機器に ルチキャストは放送に適しています. であるIGMP/MLDでは,ルータが, IPアドレスとして設定することはでき ません.またルータは,宛先アドレス マルチキャストを希望する受信端末の 従来のマルチキャスト技術 存在を,周期的に確認する機能があり がこれらの範 囲 のパケットをマルチ デファクト標準として使用されるマ ます.具体的には,図2に示すように, キャストパケットと自動認識するよう ルチキャストプロトコルには,受信端 ルータはQueryメッセージを送信し, になっています. 配信サーバは,放送データを,宛先 (1) 末とルータ間で使用されるIGMP お それに対 するJ o i n メッセージ応 答 が (2) よびMLD と,IPネットワーク内の なければ,マルチキャスト受信を希望 アドレスがGで送信元アドレスがSであ るマルチキャストパケット〔(S,G)パ ケット〕として,直近のルータ(サー バエッジ)に送信します.IPネット ワーク内では,ユーザエッジからサーバ エッジまでの各ルータが,チャネル番 号のうちS(配信サーバのIPアドレス) PIM-SSM IGMP/MLD Query Join (S,G) マルチキャスト アドレス:G Hello ルータ Join (S,G) ルータ 配信サーバ IPアドレス:S に向かって,マルチキャスト要求をバ ケツリレーします.マルチキャスト要求 が(S,G)パケットを受信中のルー タにたどり着けば(遅くとも図1(b)の 図2 従来のマルチキャストプロトコル動作 ようにサーバエッジまでさかのぼればた NTT技術ジャーナル 2006.10 9 マルチキャストサービス技術 表 IP放送のネットワークに対する要求条件 要件 要件内容 現状技術の課題 課題を解決する新技術 高品質転送 ・マ ル チ キ ャ ス ト M P L S ト ラ ・網は回線帯域を確保し,受信者が安定的 ・ベストエフォートでは,安定的に10 Mbit/s以上のパケット転送 ヒックエンジニアリングによる に視聴可能なこと することは難しい パス指定 ・HDTVレベルとして映像レートに応じた ・チャネル帯域を考慮したルート指定が難しい ・マルチキャストAAAによるアド (10 Mbit/s以上)帯域を確保すること ・予備ルートの帯域確保が難しい ミッション制御連携 高信頼転送 ネットワーク故障発生時の断時間(ルート ・PIMのルート切替時間は,数10秒かかる.さらにチャネル数増 ・マルチキャストMPLSによる一 切替時間)が極力短いこと 加とともに切替時間が増加する 括高速経路切替 高速チャネ チャネル切替要求発行から映像表示開始され ・IGMP/MLDでは,切替前チャネル終了時に端末状態確認のため ・IGMP/MLDホストトラッキング るまでの時間を極力短くすること の時間が数秒かかる ベースのファーストリーブ ル切替 限定配信 配信を放送対象地域内に限定すること ・ルータにフィルタ設定すれば機能的には可能であるが,各ルー ・IPマルチキャストAAAによる一 タに分散する配信条件の管理が難しい 括配信条件管理 保守運用性 ・故障解析が容易であること ・予備ルートの予防保全が可能であること ・データフローの経路が反対方向の経路制御に依存するため,経 ・マルチキャストMPLSのMPLS路を把握し故障切分けすることが難しい OAMによる高度な現用・予備パ ・PIMでは最適ルートではない予備ルートの正常性確認は難しい ス管理 ③経路テーブルにおけ る最適ルート変更 IGMP/MLD Join(S,G) 経路テーブル Sはルータ2方向 ↓変更 Sはルータ3方向 ②リンク状態 変化通知 (OSPF等) ①リンク故障 ルータ2 ルータ1 ④PIM-Join 送信方向変更 ルータ4 (S,G) PIM-Join ルータ3 配信サーバ (S) G)⑤Join受信方向変化 によりパケット 送信方向変更 (S, 図3 高信頼転送の課題 する端末がなくなったと判断します. があります.さらに,PIMプロトコル この理由は,受信端末の電源停止や では,ルータがチャネルごとに転送状 再起動によりマルチキャストが不要に 態を管理するために,多チャネルでは, なった場合に,無駄なマルチキャスト チャネル数増加に伴い切替時間も長く パケットを転送しないためです. なります. 従来のマルチキャスト技術の課題 マルチキャストの新技術 IP放送のネットワークに対する主な 表に示す課題を解決する技術とし 要求条件と,IPマルチキャストを適用 て,マルチキャストAAAとマルチキャ する場合の課題を表に示します.この ストMPLSが期待されます.これらの 中で,特に重要である高信頼性につい 新技術については本特集『IPマルチ て,図3に詳細を示します. キャストにおける配信制限技術』『帯 信頼性転送の観点では,網故障が 域保証型の高信頼化マルチキャスト技 発生した場合に,ルート切替時間をで 術』で説明します. きるだけ短 くすることが重 要 です. ■参考文献 PIMプロトコルによるルート切替は, (1) “Internet Group Management Protocol, Version3,”RFC3376. (2) “Multicast Listener Discovery Version 2 (MLDv2),”RFC3810. (3) “Protocol Independent Multicast - Sparse ユニキャストルート変更後に実施され るため,切替時間が大きいという問題 10 NTT技術ジャーナル 2006.10 Mode (PIM-SM),”draft-ietf-pim-sm-v2-new12.txt. 佐藤 裕昭 IPネットワークの高度化の研究開発によ り,NTTグループの提供サービス向上だけ でなく,社会における情報基盤の発展に貢 献したいと思います. ◆問い合わせ先 NTTネットワークサービスシステム研究所 ブロードバンドネットワークシステム プロジェクト TEL 0422-59-4683 FAX 0422-59-5636 E-mail [email protected]
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