P24_P25_山川章光奮闘記-OT682-初校.indd - 全国商工会連合会

経営指導員
山川章光
会員脱退で募る僕らの危機感
布施 早苗
この秋、会員の脱退や脱退申し込み
が相次いだ。脱退の理由を整理する
〝3ます活動〟の見直しで、
えれば、これから脱退者数が増加する
出されていた
『3ます活動の見直し案』
さんの脱退をきっかけに緑川さんから
「お疲れのところ残っていただいた
のは、ほかでもありません。伊藤畳店
全職員で意見交換
のでは…という危機感は募る一方だ。
についてみなさんと意見交換をしたい
と、いわゆる“自然減”に相当する理
全国の倒産件数は小康状態という
データ(表1)はあるものの、ショウ
と考えたからです」
由が多いのは事実だ。しかし環境を考
コウが気になっているのは、金融円滑
・ ・ ・
化法活用後倒産の増加だ(表1、2)
。
事務局長、指導課長、総務課長を含
め城北市商工会のほぼ全員がストーブ
法的手続きを踏んだ倒産
が横ばいにとどまってい
るのは、嵐の前の静けさ
なのかもしれない。
脱退を決意したり考えた
・ ・
45 28,241
~
『 商工会は行きます 聞きます 提案します 』を再点検~
中小企業診断士
ありません」
。緑川さんがうなだれた。
し、金融機関から支払い
城北市商工会会員の中
にも、この時限法を活用
「緑川さん、伊藤さんは近年商工会
の事業にはほとんど参加されていな
猶予を受けた事業所が少
「長い間お世話になりました」
。白髪
交じりの頭を下げた男性が静かに玄関
を出て行く。
かったんだ。君がお会いしたことがな
なからずあるからだ。ま
のように廃業という決断
た、今日の伊藤畳店さん
くても仕方ないよ」
金融円滑法活用後倒産などで 「こちらこそ行き届きませんで…」
。
気落ちした様子で見送ったのは、城北
市商工会事務局長とベテラン指導員の
赤城さんだ。重苦しい空気が商工会を
「でも、僕ら
青木指導員が言うと、
これまで“会員満足度向上運動”に取
りしている事業者の方々
をする事業所も増えるの
り組んできたんじゃないですか。これ
に対し“行きます 聞き
・ ・
・ ・
会員の脱退が相次ぐ
「あの~、今の方はどちらさまです
か?」
。若い緑川指導員が聞いた。
じゃ『商工会は行きます 聞きます 提案します』ってキャッチコピーがむ
ます 提案します”とい
・ ・ ・
う“3ます活動”を徹底
覆った。説得もむなしく、また1人会
「奥戸地区で畳屋さんをやっておら
れた伊藤新造さんだよ。緑川さんは、
なしいですよ」
。正義感の強い緑川さ
してきただろうか?
かもしれない。僕らは、
お会いしたことがなかったかい?」
んは自分が許せないようだ。
員さんが脱退したのだ。
「はい、今日初めてでした。申し訳
41 45,705
16
24 17,050
22 34,063
※金融円滑化法活用後倒産は
2009 年に導入された金融円滑
化法により返済条件などを見
直した企業の倒産を指してい
(帝国データバンクのプレス発表より)
る。
本稿作成直近 5ヵ月を見ると、倒産件数・負債額
ともにピークは2012 年 5 月だったことが分かる。
2012 年 8 月と7 月を比較すると、倒産件数で6エ
リア、倒産金額で 6 エリアそれぞれ減少し、
“改善
傾向”が感じられるが…。
34
3,543
28
9,039
383 84,429
138 18,868
20
4,427
199 26,792
38
3,485
23
9,149
68 14,894
931 174,626
17,523
41
5,052
34 39,928
349 68,120
128 24,028
30 27,329
241 23,378
48
6,231
18
4,720
78 17,848
967 216,634
※円滑化法
活用後倒産
(件)(百万円) (件)(百万円) (件)(百万円)(件)(百万円) (件)(百万円)
2012 年 8 月
件数 負債額
2012年 6 月
2012年 5 月
件数 負債額
42 15,544
26
9,120
371 79,461
136 21,290
19
4,407
267 28,391
32
9,000
21
6,347
61
8,041
975 181,601
41
4,414
41
6,290
29 11,540
30 14,023
405 72,850 442 123,751
125 44,261 168 24,534
31
6,944
28
2,914
248 40,026 284 88,043
50
9,254
35
5,930
21
3,091
21
4,434
82 10,987
71 38,231
1,004 228,959 1,148 282,558
北海道
東 北
関 東
中 部
北 陸
近 畿
中 国
四 国
九 州
合 計
2012年 7 月
件数 負債額 件数 負債額
2012年 4 月
件数 負債額
エリア
(東京商工リサーチ)
(帝国データバンク)
〈表1〉
全国企業倒産情報
24
Shokokai 2012.12
いながら、メンバーと環境の厳しさを
会を買って出た僕は先の表1、2を使
の焚かれた会議室に集結していた。司
「人によっては夏休みを減らしてま
で会えなかった方に会おうとした人も
す」
て、かなり会員さんにお会いしていま
がないんです」
。桜さんの言いたいこ
会いできているか? というと、自信
しい時に行ったのか? キーマンにお
す。ただ、事業所さんが本当に来てほ
提案した。
「僕は、会員データを徹底活用すべ
きだと思うんです」
。緑川さんも熱く
ホワイトボードに書き込んだ(表3)
。
・ ・ ・
共有した後、3ます運動についての協
とはよく分かる。
・ ・ ・ ・
いたくらいです」
。口々に“行きます
小さな工夫でフォローする
「皆さん、巡回でキーマンに会えな
かった時の工夫があったらご披露願え
ませんか」
。青木指導員が口を開いた。
聞きます
・単なる連絡や世間話ではなく、
“意思疎通”を図るための上質な会話
をしよう
・会員事業所からの小さなサインを見逃さないようにしよう(
“そろそ
ろ”
“どうせ”
“やっぱり”などに隠された気持を受け止めよう)
・聞いた情報の共有化も徹底しよう
(データ化はもちろん、アナログな
回覧板や口頭連絡なども大いに利用する)
・コミュニケーション能力を磨くための内部講習会を開催する
提案
します
・おせっかいを恐れず切り込もう
・たとえば“資金繰り表作成”を一緒にやろうと提案してみよう
・総力を結集してアドバイスをしよう(担当枠を緩やかにして皆で考
える)
・朝礼に、
“儲かり事例発表タイム”を設けて、順番に儲かってる事例
紹介をし合おう(大手・中小無関係、TV・新聞・ネットなど入手経路
は問わない)
・これまで学んだことを整理して、使えるノウハウを洗い出そう
マンの机の上に置かせて
もらうんだ。その上で、日
が前向きなアイデアを出
か?」
。支援員の梅木さん
す か ら、皆 で 使 い ま せ ん
「それいいですね。訪問
カードとして私が作りま
だ。巡回はプロなのだ。
が、さ す が は 元 営 業 マ ン
お調子者の青木指導員だ
ようにしている」
。日ごろ
話をかけて必ず声を聞く
感じた。このまとまりを厳しい冬の季
て、職員が一つにまとまっていくのを
葉として選んだ。僕は、危機を共有し
せっかいを恐れず切り込もう」を合言
最後に、
“提案します”活動では、
「お
“聞きます”活動では、
「小さなサイン
よう」が最優先事項として選ばれた。
“行きます”活動では「優
その結果、
先順位を決めて、早期巡回先を訪問し
会議は白熱して夜更けまで続いた。
強化テーマを決定
〝3ます活動〟の
のこもった声で後押しをした。
「そうだな、職員全員で共有してい
ることは大事だな」
。赤城さんが自戒
データ管理が必要だと思うんです」
れていないかをチェックできるような
でした。会員さんとのつながりが途切
議をスタートさせた。
活動”を自賛する声があがった。 「でも、桜さんは気になる点がある
んでしたよね?」
キーマンに会えなかった時は
「伊藤畳店さんの件は、恥ずかしな
がら僕にとってはとても唐突な出来事
・ ・ ・ ・
「最初は“行きます活動”について
の意見をお願いします」
「自分で言うのもなんですが、
〝行き
ます活動〟については、わが城北市商
表に出ない廃業等は大幅増
休 廃 業・解 散 の 件 数 は、県
によって地区ごとに差はみ
られるものの、倒産件数の
2 ∼ 4 倍となっている
「僕は、名刺の裏に一言書いてキー
行きます
・会員事業所が“来てほしい時”に行っているかを再確認しよう
・キーマンに会えているかも重視して巡回をしよう
・会えなかったら、訪問カードを残し、間をおかず再アプローチしよう
・会員データ分析で優先順位を決めて、早期巡回先を訪問しよう
(“最後にお会いした日”を会員データに盛り込むか?要検討)
(メンバー認知率も検討中:全員が知っていれば 100とする)
僕は事前アンケートに問題意識を記
入していた支援員の桜さんに振った。
〈表3〉
城北市商工会の “3 ます活動” 強化決定事項
工会は相当頑張っていると思います」
・2009 年に施行された金融円滑化法は、延長を繰り返したが、い
よいよ 2013年 3 月に期限を迎える
・これを機に倒産が増加すると見る経済・経営関係者は多い
・金融庁は円滑化法の出口戦略として、金融機関や支援機関のコン
サルティング力アップを期待している
・一方で、ネットや経済雑誌には“倒産より廃業を!”
と勧めるサイ
トの記事も少なからずあり、ショウコウたちの悩みは深い
「はい。確かにローラー作戦で事業
所に伺ってご挨拶はできたと思うんで
支援策活用後の倒産が増加
倒産件数には「金融円滑化
法利用後倒産」が含まれる。
2011 年に比べ 2012 年は 2
倍に達する見込みである
(帝国データバンク発表資料より)
を置かずにフォローの電
してくれた。
節を乗り越えるパワーにしよう。
※このお話はフィクションです。登場組織
や人物は架空です。
を見逃さない」ことを意識統一した。
「賛成!」
「そうしよう」
賛同の声が大きくなった
ところで、決定事項として
Shokokai 2012.12
25
(帝国データバンク発表資料より)
「私もそう思います。この夏だって、
みんな計画通りローラー作戦を実行し
〈表2〉
倒産データに隠された諸事情