Twinkle:Tokyo Womens Medical University - 東京女子医科大学

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身長の標準化成長速度曲線とその臨床応用
田原, 佳子; 村田, 光範
東京女子医科大学雑誌, 57(10):1161-1166, 1987
http://hdl.handle.net/10470/6353
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
55
〔東女医大誌 第57巻 第10号頁1161∼1166昭和62年10月〕
原
著
身長の標準化成長速度曲線とその臨床応用
東京女子医科大学第二病院 小児科(部長:草川三治教授)
タ
ハラ
ケイ
コ
ムラ
タ
ミツ
ノリ
田原佳子・村田光範
(受付 昭和62年6月19日)
Standardized Height Growth Velocity Curve
and its Clinical Application
Ke撒。 TAHARA and Mitsunori MURATA
Department of Pediatrics(Director:Prof. Sanji KUSAKAWA)
Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital
The physique of Japanese children, which rapidly improved after the World War II, has
reached the peak, and secular trend of the adolescent growth acceleration phenomenon has been
stabilized. This has necessitated the establishment of standardized height growth velocity curves
in adolescence. Therefore, we produced standardized height velocity curves for Japanese chil−
dren. Longitudinal personal data of height obtained at school were processed by a microcomputer
using the cubic smoothing spline function, and standardized height growth velocity curves for
males and females were obtained. In addition, indices of midgrowth spurt and take off age for
Japanese children were obtained. These curves seemed to be useful also for early detection and
evaluation of causes of height growth dlsorders in children as well as evaluation of therapeutic
effects. Therefore, we report, in addition to the results of the data analysis, evaluation of patients
with various height growth disorders such as pituitary dwarfism, Cushing syndrome, hypothyr−
oidism and high or low stature of unknown etiology.
緒
成長速度曲線と比較してみることによって,病因
言
日本の小児の体位の向上と,思春期乱訴年齢の
の早期診断と早期治療に役立てられることを証明
若年化傾向という現象は,すでに安定化してきて
し,成長障害,特に低身長に悩む子供達にとって
いると考えられるD今日,思春期の発育に関する
種々の問題の解析,特に,現代のほぼ至適な環境
は,早期解決への道をひらく一助となると思われ
るので報告する.
に生活していると思われる日本の小児の成長速度
対
象
曲線の標準化が,是非とも必要な時期になったと
1.標準化成長速度曲線の作成
思われる.しかしながら,これに関しては現在の
対象は,1963年∼1964年に主に首都圏で生まれ,
ところ,まだ報告はみうけられない.そこで,比
1981年度に高校3年生になっていた,男子110名,
較的計測しやすく,短期間に大きく変動すること
女子103回目,学校保健における個人の身長計測値
のない,身長についての男子と女子の標準化成長
の縦断的資料を用いた.
速度曲線の作成を試み,あわせて,思春期成長促
2.臨床への応用例
進現象としての各パラメーターを求めた.その結
身長の成長障害を主訴に,当科外来を受診し,
果,臨床的に用い得る標準化成長速度曲線が得ら
経過観察のできた症例から,代表的なものとして,
れたので,実際に,小児科外来を訪れる患児達の
下垂体性小人症の女児,先天性異所性甲状腺腫に
一1161一
56
よる甲状腺機能低下症の女児,クッシング症候群
速度曲線を作成した.次に,各症例の患児の,学
の男児,高身長をきたした女児,低身長の女児を
校保健法における身長の記録と,外来受診時の身
選んだ.
長計測値から,1年間毎の身長の伸びを,従来か
方
らの成長曲線にプロットし,さらにそれらのデー
法
従来,コンピュータが普及するまでは,自在定
ターを,マイクロコンピュータを使って平滑化ス
規(spline)を使って, by eyeで各測定値を結ん
プライン関数にあてはめ,得られた各個人の成長
で描いていた曲線は,数学的には,splineの3次曲
速度曲線を描き,前述した標準化成長速度曲線の
線に極めてよく近似することが知られている2)の
パターンと比較してみた.標準化成長速度曲線の
で,平滑化スプラインによる成長曲線のあてはめ
作成方法の詳細については,別の論文3)4)を参照さ
を,Apple IIコンピュータで行って,標準化成長
れたい.
{cm1年)
〔cm!年)
14
14
12
12
国
身lo
長
身lo
長
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速
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年齢
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10
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年齢
(歳)
16
18
20
幟)
*高石らの定義q隼問の身長の伸びが,lcm以下になった年齢)
図1 身長の標準成長速度曲線(左図:男子,右図:女子)
表1 平滑化スプライン関数により,標準化した成長速度曲線(身長)の解析結果
対象:1963年∼1964年生
男子:110例
女子:103例
take
mid−growth
唐垂浮窒狽フ期間
@ (歳)
男
女
標準化
オた値
標準化
オた値
n匠age
take off
PHA
i歳)
icm/年)
iCM)
PAH
MA
i歳)
@から
eHAまで
2.67
13.37
8.95
153.52
/
2.06
10.84
8.03
140.46
12.01
≠№?ゥら
i歳)
oHAまで
10.70
8.78
PHA
PHV
FH
FHA
i歳)
iCM)
3.76
17.13
169.7
4.55
15.39
158.01
7.82
@∼
X.12
5.76
@…
V.24
mid−growth spurt(中間期成長促進現象)
take o廷age(思春期スパートの立ち上り年齢)
PHV:Peak Height Velocity(身長の最大発育量,最大成長速度)
PHA:Age When Reached Peak Height Velocity(身長最大発育量を示す時の年齢)
PAH:Height When Reached Peak Height Velocity(身長最:大発育量を示す時の身長)
MA :Menarche Age(初潮年齢)
FHB=Final Height Age(最終身長時の年齢)
FH :Final Height(最終身長)
一1162一
57
結
果
ておいた.
1.身長の標準化成長速度曲線の作成
2.臨床への応用
図1の如く,充分実用性があると思われる現代
症例1は,低身長を主訴に,11歳で当科を初診
の日本人の男子と女子の,各々の身長の標準化成
し検査の結果,下垂体性小人症と診断された症例
長速度曲線が得られた.併せて,従来は明確では
である.成長ホルモン投与を開始したところ,急
なかった,日本の小児のmid growth spurt, take
速に身長が伸びはじめたが,ずっと,一3SD∼一
off ageなどの,思春期成長促進現象に関する各パ
2.5SDで経過してきた成長曲線の上からは,治療
ラメーターをも,この標準化成長速度曲線を解析
後の年月が浅いために,治療後の伸びがはっきり
することによって,得ることができた.それらの
とはわかりにくいが,成長速度曲線の方では,急
男女の各パラメーターは,表1にまとめて表示し,
激な立ち上りが明確に認められ,治療効果の判定
用いる用語に関しては,表1の下に記入した.さ
に役立つことを示している(図2).
らに各パラメーターの平均値と標準偏差について
症例2は,生後1歳8ヵ月で当科を初診し甲状
は,表2に,他の報告例5)吻と比較したものを示し
腺機能低下症を診断され,即,甲状腺ホルモンの
表2 身長の成長速度曲線の各指標の平均値と標準偏差の比較
研究者
村田・田原ら
@ 1963∼1964
村田ら
男
10.70±1.19
11.0±L2
10.71±0.85
8.78±1.14
9.4±0.81
9.6±1.1
8.96±0.71
PHA
一
一
10.9±0.94
女
男
13.37±1.09
12,73±0.88
13.3±0.79
13.9±0.8
14.96±0.91
@
女
10.84±1.49
10.72±0.98
11.6±0.82
12.2±1.0
1L8±0.74
男
8.95±0.94
9.41±1.24
10.9±L46
9.0±1.1
8.23±1.17
@ (cm/年)
女
8.03±1.17
8.15±0.87
8.8±1.37
7.1±1.0
7.47±0.76
FHA
男
17.13±0.84
17.1±0.80
@
女
15.39±1.1
男
169.7±5.41
170.3±5.49
168.G±6.13
一
一
177.4±6.2
174.6±6.G
女
158.01±4.43
156.3±5.21
156.0±4.71
164.8±5,7
163.4±5.1
w標
take off
≠№?
@
(歳)
(歳)
PHV
(歳)
FH
@
(cm)
高石ら
@1962∼1963
17.37±0.94
15.55±0.85
Largoら
P94ト45,1946∼50
@ 1955∼1976
14.7±0.69
「
Preece l948∼1972
『
‘鴇1
(cm’年〕
■ 標準成長速度曲線
●症 例
14
180
二鴇
s2
『
170
12
.1
160
身10
長
増
ノ
ノ
身150
長140
速
度6
ノ ノ
ノ
110
2
100
0
4
6
8
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10
12
年齢
図2
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14
謬6
18
20
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456789101112131415】61718
(症例1)下垂体性小人症,50,9.25生,女.
一1163一
ド コ
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年齢
(歳)
〆一一一一一一
ノノ
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ノ
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4
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ノ
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130
120
ノ
ノ
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−4
加8
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魂//…一一
=1
(歳)
58
投与を開始した例である.治療後,2歳から4歳
本来あるはずのmid growth spurtが認められず,
にかけて急速な伸びがあって,その後は標準曲線
9歳頃からは,明らかに,正常パターンとは異っ
に一致してくるパターンはcatch up growthを示
た成長速度の遅れを示していることがわかる.精
すものであり,早期に適切な治療を開始すれぽ,
査の結果,下垂体腺踵によるクッシング症候群と
以後の成長は,殆んど正常なパターンをとること
判明し,摘出手術を施行され,以後は急速な伸び
がでぎることを示している(図3).
を示している(図4).
症例4は,高身長を主訴に,12歳11ヵ月で初診
症例3は,12歳11ヵ月で当科を初診してきたが,
した症例である.成長曲線の方からみると,確か
毎年の学校健診のデーターを,もっと注意深く分
析してさえいれぽ,より早期に,身長の成長障害
に身長は+3SDを越える伸びを示しているが,成
に気付いて,治療を開始することができたと思わ
長三度曲線の方を検討してみると,成長速度が正
れる症例である.従来の成長曲線の方からは,11
常と比較して異常に大きいということではなく
歳を過ぎるまでは,はっきりとした成長の遅れに
て,PHAに達してからも,そのレベルの成長速度
は気付きにくいが,成長速度曲線を描いてみると,
を維持し続ける期間が長いために,結果的に高身
(謂
(cm!年}
■標準成長速度曲線
●症 例
14
180
ひ
二轟易
SD
3
2
170
12
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長
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ノ
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456789聾0盲112131415161718
年齢
(劇
年齢
図3 (症例2)甲状腺機能低下症,44.11.1生,女.
遇
留
{cmノ年)
■標準成長速度曲線
●症 例
14
180
1ア0
12
160
10
身
身150
長
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140
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度
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ノ
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(歳)
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年齢
健)
図4 (症例3)クッシソグ症候群,46.10.29生,男.
一1164一
幟)
59
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{cmノ年)
■標準成長速度曲線
●症 例
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年齢
(歳)
456789書0書112τ31415161718
年齢
(歳)
図5 (症例4)高身長,47,1.21生,女.
鴇)
{cm!年1
楓標準成長速度曲線
●症 例
14
180
170
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SD
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痘薰P2141618(謂
年齢
(劇
団6 (症例5)低身長,42.7.23生,女,
長をきたしたことがわかった.この症例には女性
ホルモンの投与にて,成長速度の減少をはかった
(図5).
考
察
PHAの異な:る多くのカーブを標準化して図1
に示したような,なめらかな標準化成長速度曲線
症例5は,14歳で低身長を主訴に来院した症例
を得られたことは,この平滑化スプラインによる
である.身長の記録を従来の成長曲線でみると,
解析方法が妥当であることを示していると思われ
身長は一2SD∼一1.5SDの範囲で経過しており,
る.本来,成長速度曲線は少なくとも3ヵ月毎に
12.8歳頃からは,身長の伸びを殆んど示していな
測定した資料によって描くのが理想的であるとは
い.病的原因の有無を検討するため,成長速度曲
いえ,そのようなlongitudinal dataを集めるのに
線を描いてみると,そのパターンは,殆んど正常
は,莫大な時間と費用がかかる.幸い,我が国に
であり,PHAに達したのが,通常より約1歳半
は,学校保健法があり,全国規模で年一回定期的
程,早かったにすぎないことがわかる.結果的に
にしかも一定の時期(4月∼6月)に,全児童・
は,原発性低身長と考えられた(図6).
生徒の身体計測が行われている.この学校保健の
データーは,少々正確さに欠けてはいるが,数が
1165一
60
多いという利点を生かして統計学的処理を加えれ
て,標準化成長速度曲線と比較してみることに
ば,平均値あるいは標準値として十分に使用に耐
よって,もっと早期に,患児のかかえている成長
え得ると考えられる.
障害の種類と程度を明らかにすることが可能とな
今回得られた各パラメーターの数値が,以前の
り,あわせて,治療効果の判定にも役立つことを
中間報告3)4)の値と一部異なるのは,PHAを中心
証明した.今後,この方法は,小児科の日常診療
にして,前後0.5年きざみで求めた各ポイントの成
ぽかりでなく,学校保健の場でも,大いに役立つ
長速度をプロットした点について,平滑化スプラ
であろうことを確信している.
イン関数で処理をしたために,わずかなズレが生
御校閲をたまわりました,草川三治教授に深謝いた
じるためであり,今回は,平滑化スプライン処理
します.
後の値に統一して報告した.
本論文の要旨は,第60回日本内分泌学会において報
ある小児の身長の伸びの遅れが,個人差の範囲
なのか,それとも,絶対的な意味のある病的な遅
告した.
れであるのかを見分けるには,現量値成長曲線
文
(distance curve)だけに頼っていたのでは,数年
間の経過をみないと明確にはなってこない場合が
ある(例,症例3).しかし,同じ身長のデーター
化について.第1編。思春期成長促進現象の若年
化の限界年齢とその速度の年次変化について,日
シ巳言志
から,一年間の伸びの速度を計算して,その児の
成長速度曲線を描ぎ,標準化成長速度曲線を比較
してみると,従来よりもかなり早期に明確に遅れ
献
1)村田光範,多田羅裕子,田原佳子ほか:身体計測
値の変動係数を用いた思春期成長促進現象の若年
86:2222−2226, 1982
2)市田浩三,吉本富士市共著:スプライン関数とそ
の応用.シリーズ新しい応用の数学,20巻,教育
出版,東京(1979)
3)田原佳子,多田羅裕子,村田光範ほか:思春期成
と異常なパターンになっていることに気付くこと
がでぎる.しかし,ある個人の身長成長速度を検
討する際には,でぎるだけ多数の身長計測値があ
長促進現象に関する数学的解析について一丁1報
一.思春期学 4:51−58,1986
4)田原佳子,多田羅裕子,村田光範ほか:思春期成
ることが望ましいが,もし短期間での測定値に誤
長促進現象に関する数学的解析について一第2報
りがあった際には,1年間の成長速度に換算する
一。思春期学 5:185−190,1987
5)Preece MA, Baines MJ:Anew family of
mathematical models describing the human
ときにその誤差が大変大きくなるので,できるだ
け正確に(前回の値とも比較した上で)身長計測
growth curve. Ann Hum Bio15:1−24,1978
を行うように注意する必要がある.
結
6)1.argo RH, Gasser TH, Pmder A et al:
Analysis of the adolescent growth spurt using
論
smoothing spline functions. Ann Hum Bio15:
現代の日本人の小児の,身長の標準化成長速度
421−434, 1978
曲線を作成し,あおせて思春期成長促進現象の鈍
7)村田光範,多田羅裕子,高石昌弘ほか:思春期身
化がみられるようになってからの資料では,明確
体発育評価における縦断的資料の活用について
(第2報).身長成長曲線の数学的解析.日児誌
にされていなかった,思春期成長促進現象に関す
る現代の日本人の小児の各パラメーターを得るこ
とができた.さらに,個人の成長速度曲線を描い
一1166一
86:1812−1813, 1982