教育講演2 (1006KB)

日本臨床細胞学会宮城県支部
2008年度会報
第22回学術集会
教育講演2
尿路上皮腫瘍の
世界的な流れからみた尿細胞診
仙台厚生病院病理部
遠藤
表示
希之
Top
臨床細胞学会宮城県支部会教育講演
尿路上皮腫瘍の
世界的な流れからみた尿細胞診
仙台厚生病院病理部
遠藤希之
[email protected]
結論
自然尿の細胞診(尿路上皮系腫瘍)では・・・
1)高悪性度尿路上皮腫瘍
2)低悪性度尿路上皮腫瘍
3)腫瘍・反応性変化の鑑別が困難な細胞
の三種類を見抜ければよい!
尿路上皮腫瘍には・・・
・乳頭状病変 と 平坦病変
・頻度=乳頭状9:平坦 1
・生物学的悪性度:平坦>乳頭状
(平坦型は早期にびまん性浸潤
をきたしやすい)
尿路上皮腫瘍の予後規定因子
・初回診断時のステージ(病期)
・腫瘍のサイズ、多発性
・腫瘍のグレード(ステージと密な
相関関係あり)
・上皮内癌の存在
尿路上皮腫瘍:乳頭状病変:1973年分類
1)乳頭腫
2)尿路上皮(移行上皮)癌 Grade 1
乳頭状、多層化、細胞極性の乱れ、軽度異型
3)尿路上皮(移行上皮)癌 Grade 2
G1 とG3の中間(観察者間で大きく異なる)
4)尿路上皮(移行上皮)癌 Grade 3
細胞極性の喪失、大小不同・多型性の
増大、N/C 比の上昇、核濃染
尿路上皮腫瘍:平坦病変:1973分類
1)移行上皮、上皮内癌(CIS)
2)異型上皮/異形成(atypia/ dysplasia)
正常とは異なるが、CIS とまでは言えないもの
(1973分類は現在も広く国際的に使用されている)
(Mostfi, 1973)
1973WHO分類について
問題点
・G1 vs. G2 について病理診断医間の不一致がある
・G1の中には経過中に進行例がみられるが、5%未満。
それらを「癌」と称するのは・・・?
利点
・臨床・治療上の長期予後、evidence の十分な蓄積が
ある(現場に浸透している)
・少なくとも Grade 3 については観察者間での一致率
が高く、臨床経過とも有意に相関がある
進行:Grade の上昇・CIS/ 浸潤癌の出現・転移・癌死
WHO Classification (2004):Urothelial tumors
○ Non-invasive urothelial neoplasms
Urothelial papilloma
Non-invasive papillary urothelial neoplasm
with low malignant potential (PUNLMP)
Non-invasive papillary UC, low grade (LGUC)
Non-invasive papillary UC, high grade (HGUC)
Urothelial carcinoma in situ
Urothelial dysplasia
(cf. Infiltrating urothelial carcinoma)
乳頭状病変の分類の変遷
1973年
乳頭腫
1998年ISUP/WHO & 2004 WHO
乳頭腫
G1
低悪性度乳頭状尿路上皮新生物
(PUNLMP)
G2
Low-grade papillary
urothelial carcinoma
High-grade papillary
urothelial carcinoma
G3
低悪性度乳頭状尿路上皮新生物
Papillary urothelial neoplasm
of low malignant potential
・LMPは「再発するが、転移・浸潤なし」の意
・細胞層の厚みが若干増し、 核異型最小限、
細胞が均一、細胞配列が規則的(coreに垂直)
・従来のG1がほとんど転移・浸潤しないことから
「癌」の乱発を防ぐために考えられた(節がある)
・乳頭腫・低悪性癌との鑑別は???
(J. Epstein, 1998)
LMP
LMP
LMP
Papilloma
Papilloma
LGUC
LGUC
LGUC
平坦病変の分類の変遷
1973年
1998年ISUP/WHO & 2004 WHO
過形成
Atypia/dysplasia
尿路上皮過形成
反応性異型
意義不明の異型
尿路上皮異形成
上皮内癌
上皮内癌
尿路上皮腫瘍の予後規定因子
・初回診断時のステージ(病期)
・腫瘍のサイズ、多発性
・腫瘍のグレード(ステージと密な
相関関係あり)
・上皮内癌の存在
1973WHO分類について
利点
・臨床・治療上の長期予後、evidence の十分な蓄積が
ある(現場に浸透している)
・少なくとも Grade 3 については観察者間での一致率
が高く、臨床経過とも有意に相関がある
問題点
・G1 vs. G2 について病理診断医間の不一致がある
・G1の中には経過中に進行例がみられるが、5%未満。
「癌」と称するのは・・・?
進行:Grade の上昇・CIS/ 浸潤癌の出現・転移・癌死
2004年版では・・・
*低悪性度乳頭状尿路新生物
*異形成の定義(診断基準)
2004WHO分類を用いた研究による知見
★ 再発率(5-7y):PUNLMP vs. LGUC=
35% vs. 71% (p<0.001)
(1999, Holmang ら)
★ pTa 進行率:
PUNLMP vs. LGUC= 6.9% vs. 9.6%
G1 vs. G2 = 7.1% vs. 13.9% (90mo)
(2002, Samaratunga ら)
★ pTa の PUNLMP, LGUC, HGUC 間に
進行率、再発率の差はない (79mo)
(2002, Oosterhuisら)
2004WHO分類を用いた研究による知見
★ 複数観察者間の診断再現度
PUNLMP – LGUC vs. G1 – G2 →
k= 0.56 vs. k= 0.48
(2003、Yolukogluら)
★ 同観察者による診断再現度(教育前後)
PUNLMP vs. LGUC : k = 0.12 to k = 0.50
(2002、Murphy ら)
PUNLMP ・・・
・現在のところ、生物学的悪性度が有意に LGUC
に対して異なる、との evidence はない(特に長期
予後;絶対に浸潤癌・癌死が生じないとの保証が
ない)
・PUNLMP vs. LGUC の診断に関して、診断病
理医間の不一致率が、かならずしも G1 vs. G2 よ
り低いとは言えない(実は鑑別が難しい!)
異形成 ・・・
・本邦、泌尿器病理専門医9人による診断で・・・
*反応性上皮:正常2、反応性異型3、意義不明
異型上皮2、異形成2
*異形成(ないし低悪性度尿路上皮内病変):
異形成5、CIS 4
*CIS: 反応異型1、異形成2、CIS 6
(Tanaka S, 病理と臨床, 26, 2: 2008)
尿細胞診で異形成を診断可能と言う研究者もいる
・背景が清浄、異型細胞は少数、孤在性
・異型細胞は小型、N/C 比大、核濃染
・細胞集塊はない、あるいはあっても小型、少数
*異形成は平坦病変であるが、上記所見をもって
「平坦」であると言えるのか?
*「異形成」と診断された場合、ほとんどの臨床医は
困惑する
∵膀胱鏡、上部尿路の検索など臨床的診断が困難
経過観察も困難
urothelial carcinoma,
low-grade
urothelial carcinoma, high-grade
結論
自然尿の細胞診(尿路上皮系腫瘍)では・・・
1)高悪性度尿路上皮腫瘍
2)低悪性度尿路上皮腫瘍
3)腫瘍・反応性変化の鑑別が困難な細胞
の三種類を見抜ければよい!
(気を楽に、無理しない!!)
最後に・・・
Papillary urothelial neoplasm
with low malignant potential
・・・
などという「造語」に惑わされな
いこと
(東北大法学部卒)