ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat日皮会誌:90 JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 (4), 359-361, 1980 (昭55) なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ 廠風病変部の皮脂 れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 古野 和廣 松尾 車朗 安部 隆 大城戸宗男 要 旨 はオリーブ油の添加を必要とすること4)などから,疲風 搬風発症に関する生体側条件を知るため,14症例の患 の発症には何らかの皮脂成分が関与することか想像され 者と11名の健康者を選び,患者の病変部と非病変部およ ている,これは,臨床的には本病巣が局面性でしかも菌 び健康者の皮mの定量的解析を行なった.その結果,患 が角質層に多数発見されるか,時に毛包中心性であるこ 者の病変部は非病変部に比べ,平常皮脂の総脂質量,ス と5)により支持される意見である.本症病変部の皮脂の クワレソ量,遊離コレステロール量が有意に多かった. 研究にはBurke", 健康人と患者の非病変部との平常皮脂の総脂質量は変化 患者あるいは,かって搬風に罹患したことのある元患者 なかった.また患者の病変部は非病変部に比べ,回復皮 と健康者との皮脂量の比較を行なったものであり,患者 脂の総脂質量,スクワレソ量が有意に多かった.即ち, 自身の病変部と非病変部の皮脂についての比較はなされ 患者の病変部での皮表には,皮脂腺由来の脂質の増量が ていない. 認められた. そこで,我々は本症の発症条件を解明する目的の一つ Gloorら6)の報告がある.それらは, として,疲風患者病変部と非病変部との皮脂について比 I はじめに 較検討をすると同時に,健康者との皮脂について検討し 疲風は本邦では夏期に多発し易く,諸外国では亜熱 たので,ここに報告する. 帯あるいは熱帯地方で頻度の多い真菌性皮膚疾患であ 11 対象および方法 る1).温帯地方の夏期でも,また熱帯地方でも,この原因 1. 対象:疲風患者群は,男子10名(15歳∼42歳),女 真菌に接触する機会は多いにもかかわらず,すべての人 子4名(15歳∼35歳)の計14名.いずれも,昭和53年 達が発症するとは限らない.その為,本症の発症要因と 夏,東海大学病院皮膚科を受診し,臨床的に蛮風と診断 して宿主の抵抗性の減弱が考えられている1).しかし, されKOHテストでMalassezia ある地域では住民の50%も罹患している(中南米,アフ 者を選んだ.正常対照群は健康な成人男子11名(20歳∼ リカの一部,サモア,インド)2)ともいわれ,宿主側抵 29歳)で皮膚疾患を有しない者を選んだ. furfur が証明された 抗性減弱説も疑わしい面がある.一方,不衛生,発汗, 2. 皮脂の採取:皮脂採取部位は背部または胸部とし 栄養不良,結核などの慢性感染症さらに妊娠などが本症 た.病変部に対する非病変部は体幹のほぼ対応する反対 の罹患を促進するといわれる2).また罹患しやすい遺伝 側で,病変のない部位(臨床的にも正常で, 的体質,さらにはコルチコステロイド療法の影響を考え トでMalassezia る説もあるl).しかし,今のところ,本症発症に関与す 性)である.対照群の皮脂採取部位は,背部6例,胸部 る生体側の因子は不明といえよう. 5例で,患者の皮脂採取と同様に体幹にほぼ対応する左 さて本症の原因菌であるMalassezia furfur のイース 右より採取した・ ト型とも考えられている Pityrosporum orbiculareは毛 包を中心として多数存在すること3),また本菌の培養に 東海大学医学部皮膚科学教室(主任 大城戸宗男教 授) Kazuhiro Yoshino, Itsuro Matsuo, Takashi Abe, and Muneo Ohkido : Sebaceous lipidsin Tinea versi color 昭和54年10月U日受理 別刷請求先:(〒259―11)神奈川県伊勢原市望星 台 東海大学医学部皮膚科学教室 大城戸宗男 KOHテス furfur が証明されずwood light 陰 皮脂の採取にはカップ法を用い,平常皮脂(casual lipids)と2時間後の回復皮脂(replacement lipids)は アセド/で,3分間放置を3回繰り返して採取した.ま た室温は20°C,湿度は70%に保ち,発汗のない状態にし た. 3. 皮脂の測定:総脂質量は溶媒を濾過濃縮後,重 量法により測定した.スクワレソ,遊離および総コレス テロール量は,安部7)の方法に従いガスクロマトグラ フ4−を用いて定量した, 360 吉野 和廣ほか 表1 疲践患者病変部と非病変部における平常・ 回復皮脂中の総脂質量,スクワレン量,遊離お よび総コレステp−ル量. Non Involved involved Toal lipids Casual lipids 113.1 土14.92 5.35 Squalene 士1.132 Free 1.86 cholesterol 士0.412 Total 5.73 cholesterol 士1.271 80.7 土10.06 2.95 土0.434 0.98 士0.195 3.24 土0.677 Total lipids 63.7 52.2 土9.74 士9.24 O、76 1.41 Replace- Squalene 土0.287 土0.150 ment Free 0.41 0.25 lipids cholesterol 土0.294 Total 1.18 cholesterol 土0.192 土0.192 0.99 士0.202 t-paired test 3.074 p<0.01 2.272 p<0.05 2.445 p<0.05 1.759 3.370 p<0.01 3.279 P<0.01 0.424 0.786 mean士S.E. unit :μg/cm' pityriasis control versicolor n-22 (riqht+left) (non-involved) n≪l4 m 結 果 図1 廠風患者非病変部とそれに対応する健康対照 1.癩風病変部と非病変部の皮脂 群の正常部における平常皮脂中の総脂質量. 結果を表1に示す.統計手法は一対応のあるt検定 −を使用した.平常皮脂の総脂質量は病変部と非病変部 考 察 で比較すると病変部で明らかに高値を示し,統計的に有 蛮風患者の皮脂については,すでにBurke3)および 意の差が認められた(t Gloor ら6)の報告がある. Burkeは患者と健康人で0皮 = 3.074, p<0.01).また病変部 の平常皮脂中のスクワレソ量(tニ2.272, 離コレステロール量(t=2.445, p<0.05),遊 p<0.05)についても 脂量の比較を行ない,両群での皮脂量には変動が高く, 有意差を認めていない.今回の我々の実験でも,患者の 同様でともに統計的に有意の高値を示した.総コレステ 病変部と健康者のこれに対応する部位との平常皮脂中の ロール量も病変部が多い傾向にあったが,有意差はな 総脂質量は,変動が大きいため,両者での平均値の差の かった. t検定では差はみられなかった. 回復皮脂でも病変部が非病変部に比べ総脂質量が有意 に皮疹の治癒した患者の元病変部と健康人との皮脂量を に高値を示し(t 比較したものであり,両者の間には差はまったく認めて = 3.370, p<0.01),脂質分画ではス クワレソ量のみが有意に高値を示した(t=3.279, pく Gloorらの場合,完全 いない. 0.01).遊離および総コレステロール量は変動が大きく しかし今回の我々の結果では,本症患者の病変部と非 有意差は認められなかった. 病変部の皮脂量を比較すると,前者は後者に比べ著しく 2. 健康者と蛮風患者非病変部の皮脂 高値を示していた.すなわち,病変部では総脂質量,そ 正常対照群の平常皮脂の総脂質量は,体幹の対応した 左右共にほぼ同量(左:71.6土7.93μg/c ±10.54μg/c 「,右:75.4 「)で,左右差はまったくなかった.また の内でもスクワレソ量が平常・回復皮脂ともに非病変部 に比べ統計的に有意の差をもって高値を示した. 皮表に存在する脂質は,皮脂腺由来の脂質と表皮細胞 正常対照群の回復皮脂の総脂質量についても同様に左右 由来の脂質とから構成されているが,その大半は皮脂腺 差はなかった(左:38.5±7.16μg/cm2,右:40.4±7.64 由来の脂質で占めているといわれる8).本症病変部で総 μg/cm2). 脂質量が高く,とりわけ皮脂腺機能のマーカーと考えら そこで健康正常部位と疲風患者の非病変部との平常皮 れているスワレソ量9)が高いことから考えあわせると, 脂の総脂質量を比較してみると(図1),両者の間には 感染病巣部では皮脂腺由来の脂質が増加していると云え 差を認めなかった. よう.この病変部での皮脂腺由来の脂質増加の要因につ 361 家風病変部の皮脂 いては,次の可能性を考えたい. 脂中に,表皮細胞由来と考えられるコレステロール量も 1)皮脂腺での合成能が高まっている部位に本症が発 多かったことから,4)の鱗屑中に溜まった脂質を採取し 症しやすい,2)本症が発症すると皮脂腺での脂質合成 た結果であろう.しかし,回復皮脂が増加している事実 能が高まる,3)疲風菌が菌体内で脂質を合成し,菌体 より,5)の可能性を強く考えたい.すなわち,皮脂の毛 外へ排泄している,4)病変部鱗屑の角質層よりカップ 包より皮表への排泄は,トリグリセリドの分解により促 法で脂質を抽出したので,鱗屑内の脂質(平常皮脂)さ 進されるのであり,事実,貧風菌の細胞壁にリパーゼ酵 らにはその下のreservoir脂質(回復皮脂)を抽出して 素活性が局在しているのが知られている10)また, いるだけかもしれない.5)本症の罹患により皮脂腺で rosporum Pity- orbiculareをウサギ,ヒトの皮膚にプラスチッ の合成能には変化かないが,皮表への脂質排泄が促進さ クフイルムを用いて圧定させることで,実験的に菌の れる. 感染に成功し,その際,オリーブ油を加えて圧定した方 1)については,患者の左右対称部位を選び,一側を対 か,感染頻度は高いという11)√また,蛮風患者は脂漏性 照としているので,体幹片側のみ皮脂合成能か完進して 皮膚炎に合併することが多いなどの報告も見られる12) いるとは考えにくい.さらに,本症患者の非病変部と正 それらを併せて考えると,疲風病変部での平常ならびに 常対照部との平常皮脂量か変らないことを示したことか 回復皮脂量の増加は,単に病変鱗屑に脂質が蓄積した結 らも,この可能性は少ない.2)・3)については,現在証 果というより本症発症に何らかの関与をしているのでは 明不可能なので,この可能性は残ろう.病変部の平常皮 ないかと推論したい. 文 1) Blaylock, W.K., S,: Tinea Shadomy, 献 H.J. versicolor, & Shadomy, 7)安部 隆:皮表脂質とTransepidermal Dermatology in General Medianらed. by Fitzpatrick, MaGraw-Hill, New T.B. 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