11 2011 November http://www.molecular-activation.jp 研 究 紹 介 不活性結合活性化を鍵とする不斉触媒反応の開 発 A01 班(東農工大知財セ)田中 健 我々はこれまで、カチオン性ロジウム(I)錯体を中心とし たカチオン性遷移金属錯体の特性を活かした、触媒的付加 環化反応や芳香環化反応を研究してきた。そしてこれらの 触媒反応を不斉触媒反応へと展開し、中心不斉のみならず 軸不斉/面不斉/らせん不斉といった非中心不斉の触媒的 かつエナンチオ選択的な構築法を報告した。その研究途上 において、カチオン性ロジウム(I)錯体などのカチオン性遷 移金属錯体が、炭素–水素、炭素–ヘテロ原子、および炭素 –炭素結合を触媒的に活性化することを見出した。本研究 紹介において、その一例を紹介する。 O 10 mol % [Rh((R)-H8-BINAP)]BF4 O H R1 + R2 Z Y H CH2Cl2, rt ロ原子で架橋された 5-アルキナールを還元剤と反応させ ると、オキサロダサイクル中間体を経由する還元的環化反 応が進行し、環状アリルアルコール誘導体が高収率で得ら れることが報告されている。 我々は、 還元剤非存在下では、 ヘテロ原子架橋 5-アルキナールから生成するオキサロダ 49–69% yield 98–>99% ee そこで次に我々は、カチオン性ロジウム(I)錯体触媒存在 下、ヘテロ原子架橋 5-アルキナールとロジウムへのキレー ト配位が可能なアシルホスホネートの反応を検討した。そ の結果、カチオン性ロジウム(I)/(R)-H8-BINAP 錯体触媒存 在下、ヘテロ原子架橋 5-アルキナールとアシルホスホネー トを 80 °C 加熱条件下で反応させると、アシルホスホネー トの炭素–リン結合切断を伴う不斉環化反応が極めて高い 2) エナンチオ選択性で進行した 。一方、カチオン性ロジウ ム(I)/(R)-Segphos 錯体触媒存在下、同基質を 80 °C 加熱 条件下で反応させると、5-アルキナールの炭素–水素結合切 断を伴う不斉環化反応が極めて高いエナンチオ選択性で進 行した 。これら 2 つの異なる反応経路は、ビアリール配 位子の二面角と、5-アルキナールとアシルホスホネートの 1 3 置換基(R と R )の嵩高さにより決定されるという興味 深い結果が得られた。これらの要因により、アシルホスホ ネートのロジウムへの配位形式が異なっているのではない かと現在考えている。 サイクル中間体と、アルキンあるいはアルデヒドとの反応 Rh(I)+/ (R)-H8-BINAP catalyst が進行するのではないかと考え検討を行った。その結果、 O カチオン性ロジウム(I)/(R)-H8-BINAP 錯体触媒存在下、ヘ テロ原子架橋 5-アルキナールを室温で反応させると、5-ア Z H Z O H R1 + R2 P(O)(OR3)2 (CH2Cl)2, 80 °C Rh(I)+/ (R)-Segphos catalyst ルキナールの炭素–水素結合切断を伴う不斉環化反応が極 1) めて高いエナンチオ選択性で進行した 。 R H R Z Z = NTs, O 10 mol % [Rh((R)-H8-BINAP)]BF4 CH2Cl2, rt O H Z H R1 2) これまでに、カチオン性ロジウム錯体触媒存在下、ヘテ O Y R2 O Z (2 equiv) Y, Z = NTs, O O H Z O O R2 P(O)(OR3)2 R1 up to 73% yield up to >99% ee O O P(O)(OR3)2 2 R1 H R up to 72% yield up to >99% ee 今後、ロジウムへキレート配位可能な様々なアシル誘導 体を用いた炭素–ヘテロ原子結合切断を伴うアルキナール の不斉環化反応や、アルデヒド/アルキン/アシル誘導体 H R Z O 72–83% yield 98–>99% ee を用いた完全分子間での不斉 3 成分カップリング反応へ展 開していきたいと考えている。 また、カチオン性ロジウム(I)/(R)-H8-BINAP 錯体触媒存 在下、ヘテロ原子架橋 5-アルキナールとヘテロ原子で置換 されたアセトアルデヒドを室温で反応させると、アセトア ルデヒドの炭素–水素結合切断を伴う交差不斉環化反応が 1) 極めて高いエナンチオ選択性で進行した 。 (1) Tanaka, R.; Noguchi, K.; Tanaka, K. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 1238. (2) Masuda, K.; Sakiyama, N.; Tanaka, R.; Noguchi, K.; Tanaka, K. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 6918. タンパク質マトリクスを用いた新触媒の開拓 にデザインすることで、高活性の人工生体触媒に変換でき る可能性を示した。現在、これらの再構成タンパク質を用 A03 班(阪大院工)林 高史 いて、より難度の高いアルキル基の水酸化について検討を 既存の有機合成では難易度が高い反応を非常に穏和な条 重ねている 1。 件下で進行させる酵素は、 今日の物質変換化学においても、 学ぶべき点は数多くある。特に、その中でも金属イオンや 金属錯体の関与した酵素(金属酵素)は、難しい活性種を 水中で発生させながら、本来不活性な分子を巧みに変換し ている。これまで、金属酵素に対する研究は、主に分子生 物学及び生物化学の立場からその構造及び中間体の同定、 反応機構の解明に全力が注がれ、近年、既知の金属酵素の 構造の多くが明らかとなってきた。したがって、次のステ ップとして化学の立場から金属酵素を眺め、今までに得ら れた知見を駆使し、金属酵素のもつユニークな反応場や活 性種を利用したり、我々の手で新しい酵素を創製して直截 的反応の開拓に利用すべき時代が到来したと言える。 次に、ヘムタンパク質に全く異なる機能を付与する試み 我々のグループでは、上記の課題を意識して、タンパク として、電子移動タンパク質チトクロム c をヒドロゲナー 質の内部に存在する空間や表面に隣接するくぼみなどに着 ゼモデルにする試みを実施した。まず、チトクロム c のヘ 目し、そのユニークな構造(タンパク質マトリクス)に金 ムを常法により除去した後に、ヘムポケット内に存在する 属錯体を挿入することにより、新たな活性や特異性を有す 2つのシステイン残基(Cys14, Cys17)に二核鉄カルボニル る生体触媒の構築をめざしてきた。例えば、ヘムタンパク 本来の二核鉄 錯体を結合した[(µ-S-Cys)2Fe2(CO)6]を構築し、 質は、タンパク質マトリクス内に、補欠分子であるヘム(鉄 ヒドロゲナーゼ様活性を追跡した。ここでは、ルテニウム ポルフィリン)を有し、ヘムとタンパク質の共同作業によ 錯体を光触媒、アスコルビン酸を犠牲試薬として加え、光 り、興味深い活性種を発生させ、従来困難な反応を触媒し 照射を行うことにより、 電子を鉄カルボニル錯体に供給し、 ていることが知られている。そこで我々は、活性中心のヘ 水中(pH 4.7)で水素発生を確認した (TN = ca. 60 /h)。本反応 ムを非天然の合成補欠分子に置換することにより、タンパ は、オリゴペプチドで形成した同様な錯体では触媒活性が ク質の反応性を制御し、より活性の高い生体触媒の開発に 極めて低いことからも、タンパク質ポケットの効果が重要 挑戦している。 この紙面では、 近年の幾つかの成果のうち、 であることが明らかとなった 2。 二つの例について記したい。 まず、天然のヘム酵素(ペルオキシダーゼ)の酸化活性 を凌駕するタンパク質の獲得や、本来触媒能を持たないヘ ムタンパク質(酸素貯蔵ミオグロビン)を酸化酵素へ変換 する手法を見出した。具体的には、西洋ワサビペルオキシ ダーゼ(HRP)の天然ヘムを除去して得られた空洞のヘムポ ケットに、ヘムの構造異性体である鉄ポルフィセン(FePc) を挿入して調製した再構成 HRP は、過酸化水素を酸化剤と したチオアニソールの酸素化において天然の HRP の約 12 倍の触媒活性を示した。一方、本来我々の体内で酸素貯蔵 を行うミオグロビンに対して、天然のヘムを次の図に示す ような側鎖末端修飾ヘム(FePor(CO2H)8)に置換することに 以上、タンパク質マトリクス中に、天然には存在しない より、ほとんど酵素活性を示さないミオグロビンが、 金属錯体を自在に設計・合成し、導入することにより、新 2-methoxyphenol の酸化に対して 1600 倍の活性向上を獲得 たな生体触媒の開発への道がひろがってきた。 し、高活性の HRP とほぼ同程度の触媒能を示すまでに至っ 1. Matsuo, T. et al. Chem. Asian J. 2011, 6, 2491. た。以上、ヘム酵素のヘムを、より適した構造の金属錯体 2. Sano, Y. et al. Chem. Commun. 2011, 47, 8177. 報 告 W I L E Y S E R I E S O N R E AC T I V E I N T E R M E D I AT E S I N C H E M I S T RY AND BIOLOGY Steven E. Rokita, Series Editor 第二回若手セミナー A01 班(京大院工)中尾 佳亮 COPPEROXYGEN CHEMISTRY 9 月 23 日(金)および 24 日(土)の 2 日間、北海道の サンパレス洞爺にて本新学術領域研究の第二回若手セミナ Edited by Kenneth D. Karlin and Shinobu Itoh ーを開催いたしました。昨年度から参加している計画班の 若手の先生方に加え、本年度からは、30 代の公募班の先生 方と、 領域外からの若手招待講演者として上野隆史先生 (京 都大学 iCeMS)および大橋理人先生(大阪大学)にご参加 いただき、遷移金属触媒反応から錯体化学、生物無機化学 に至る幅広い分野について研究討議および情報交換を行な いました。領域内からの依頼講演 8 件と、領域外からの招 待講演 2 件は、いずれも所定の時間を大幅に超過するほど に研究討議が白熱しました。通常の学会では顔を合わせる ことがないような分野外の研究者とも積極的に議論して、 久枝良雄教授(九大院工、A03班)らの研究成果がイ ギリス化学会の学術誌Chem. Commun. (2011年、39号) のBack Coverに採用されました(左下)。 Discover something NEW 加者それぞれがお互いに大変いい刺激を受け、本領域にお Create a free account to get the most from chemistryworldjobs.com Get headhunted Create a profile and publish your CV so potential employers can discover you Stay ahead of your competition Set up your job alerts and receive relevant jobs in your inbox as soon as they appear Discover your next career move Detailed searches by role, salary and location Save time and be the first to apply Online vacancy application Be efficient Showcasing research from the laboratory of Bookmark jobs that interest you, so you can come back to them later Yoshio Hisaeda, Kyushu University, Japan As featured in: Upload your CV and profile today! Photosensitizing catalysis of the B12 complex without an additional photosensitizer www.rsc.org/dalton Volume 47 | Number 39 | 21 October 2011 | Pages 10841–11156 Volume 40 | Number 40 | 28 October 2011 | Pages 10245–10776 Themed issue: Dalton Transactions 40th Anniversary デアを得る大変いい機会になったものと思います。 Dalton Transactions ChemComm Your NEW recruitment site dedicated to chemistry and the chemical sciences ける各自の研究テーマの展開に役立つ新しい考え方やアイ Dalton Transactions Chemical Communications An international journal of inorganic chemistry www.rsc.org/chemcomm g in at s br ar le ye Ce 40 研究者の高いアクティビティを改めて実感できました。参 Volume 40 | Number 40 | 2011 Volume 47 | Number 39 | 2011 懇親を深めようとする姿勢が随所に見られ、本領域の若手 A cobalamin derivative, heptamethyl cobyrinate perchlorate, was activated by UV light irradiation to form a Co(I) species in the presence of triethanolamine and used for a dechlorination reaction, and this photochemical reaction was accelerated in an ionic liquid. See Yoshio Hisaeda et al., Chem. Commun., 2011, 47, 10921. Registered Charity Number 207890 Pages 10245–10776 Pages 10841–11156 www.rsc.org/chemcomm www.chemistryworldjobs.com Registered Charity Number 207890 Themed issue: Dalton Transactions 40th Anniversary ISSNISSN 1359-7345 1477-9226 COMMUNICATION W.COVER Seth Horne et al. ARTICLE Itoh, Cramer, Ogura et al. formation Promoting peptide -helix II)-alkylperoxo Reactivity of copper( with dynamic covalent oxime complexes side-chain cross-links dt040040_cover_PRINT_LITHO.indd 1-3 1359-7345(2011)47:39;1-6 1477-9226(2011)40:40;1-S 9/27/11 7:14:55 PM 伊東 忍教授(阪大院工、A02 班)らの研究成果が イギリス化学会の学術誌 Dalton Trans. 40 周年記念特集 号(2011 年、40 号)の Front Cover に採用されました(右 上)。 洞爺湖湖畔にて お知らせ トピックス 「分子活性化」第1回国際シンポジウム 1st International Symposium on Molecular Activation 伊東 忍教授(阪大院工、A02班)とKenneth D. Karlin 教 授 (Johns Hopkins 大 ) 編 の 著 書 “ Copper-Oxygen Chemistry” (Wiley Series on Reactive Intermediates in 日時:平成23年11月9日(水)〜10日(木) Chemistry and Biology)が Wiley から出版されました。 場所:淡路夢舞台国際会議場 http://www.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-04705 http://www.molecular-activation.jp/ 28354.html 発行・企画編集 連 絡 先 新学術領域研究「直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発」広報担当 領域広報担当 伊東 忍(大阪大学大学院工学研究科)
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