[ 連載:ライフサイクル3次元計測の活用 ] - SPARJ

[ 連載:プラントライフサイクルにおける 3 次元計測の活用 ]
第3回
劣化・保全
合同会社スパーポイントリサーチ
河村幸二
Koji Kawamura
1.
はじめに
プラントや社会インフラの設備の高経年化にともない、安全確保および長寿命化にむけ
てメンテナンスの重要性が増してきている。今回のシリーズで繰り返し述べているように、
メンテナンス単独の効率化だけではなく、プラントライフサイクルにわたる全体最適化を
達成するために、情報の 3 次元モデル化と高度化が必要であり、3 次元計測が大きな役割を
果たす。また効果的なメンテナンスを行う上で、設備の劣化状態を正確に把握するために、
3 次元計測手法が用いられることが多くなってきた。
本報では、これらの二つの視点を中心に解説を試みる。
2.保全における 3 次元計測の位置づけ
工場設備の保全活動には、さまざまな呼び方があり、その分類の仕方も目的によってい
くつかの表現方法がある。図1は「メンテナンス便覧」
(文献[1])に記載のひとつの分類様
式に、3 次元計測の可能性のあるところを関係付けたものである。
保全
維持活動
計画保全
予防保全
劣化診断
事後保全
非計画保全
改善活動
改良保全
緊急保全
3 次元計測
現場調査
保全予防
図1
保全の種類と 3 次元計測
設備が故障もしくは損傷した後に行われる「事後保全(Breakdown Maintenance )」も
しくは「緊急保全(Emergency Maintenance)」においても、損傷の度合いを精密に計測
する場合もありうるが、極めて例外的であろう。故障したら直ちに修理もしくは交換作業
が行われるわけではない。重要な機能で、予測される故障に対しては、予備機の作動や代
替手段が講じられていて、生産活動は継続しておき、適切なるタイミングをみて修理が行
われる。それが、計画保全 / 事後保全である。
1
予防保全(Preventive Maintenance )は、さらに時間基準保全(TBM : Time Based
Maintenance)と状態基準保全(CBM : Condition Based Maintenance)に分類されるが、
最近は劣化進捗状況を計測する技術が進歩してきたこともあり、CBM が適用される割合が
増えてきている。この劣化進捗把握に 3 次元計測が大きな役割をになうことがある。
保全予防(Maintenance Prevention) とは、抜本的に設備もしくは機器を改善し、保全し
なくて済むような設備とする、もしくは保全するとしても極めて簡単にできるようにする、
という考え方であり、家電製品や消費者向けの商品においては、普及した概念であるが、
プラント設備に対しては、それほど浸透していない。このことは、メンテナンスで得られ
た知見が、設計過程に十分には反映されていない、ということを表しており、ライフサイ
クルにわたる最適化の視点から、今後重要性が増してこよう。
3.3 次元モデルのメンテナンスへの活用
(財)石油産業活性化センターは、この問題についての体系的な研究と机上検証の報告
書(文献[2])をだしており、その一部を引用し紹介する。
図2は、プラントの 3 次元モ
デルのライフサイクルわたる活用イメージを表したものであり、メンテナンスもその重要
な活用局面である。
図2
製油所における 3D CAD モデル活用イメージ 出典 :文献[2]
2
本研究ではPEC研究員、製油所所員、エンジ会社社員、工事業者が参加し、保全、改造工事、
運転、教育・訓練の4つのテーマを中心に、3D CAD モデルの具体的な活用アイディアを抽出・整
理した。抽出された活用アイデアは全体で101 件(保全:30 件、改造工事:25 件、運転:20 件、
教育・訓練:26 件)であった。 これまで3次元プラントCADの効用については、エンジニアリング会
社によるEPC業務中心の議論が多かったが、オーナの立場にたっての運転・保全(O&M)への効
用について、真正面から考察を加えたものであり、極めて意義深いものである。
図3は、そのうちのメンテナンス情報の 3 次元モデルとの対応の一例を示したものである。
図3 3D CAD システムにおいて3D CAD モデル上の場所と保全管理データベースの内容との
関連付けおよび相互検索を行うイメージ図 出典 :文献[2]
本研究では 3D CAD モデル活用有効性を、(イ)習熟期間の短縮、エラー防止、利便性・快適
性などによる経済評価、 (ロ)「3 次元位置情報の活用」、「1元管理情報の利用(全ての 2D CAD
図面が集約)」、「理解の容易さ」などの効果、(ハ)「日常点検箇所」、「外面腐食データ」、「操作手
順」などの保全データ項目を 3D CAD モデルに直結させることの効果、さらには(二)将来展望とし
て、①オンライン状態監視情報の 3D CAD モデルへの出力、②3D CAD モデルとプロセスシミュ
レータとの連携による 3D CAD モデル上での仮想運転トレーニング、③環境影響・災害影響シミュ
レーション結果の 3D CAD モデル上への出力、など、センサーやシミュレータとの連携により、製
油所設備の現場情報の取込みや、仮想トレーニングツールとして活用され、バーチャルプラントの
色彩を強めて行く発展性を示唆している。
4. 3 次元計測の手法の比較
3
プラント設備の 3 次元計測には、写真法とレーザスキャナ法があるが一長一短があり、場所と目
的に応じて使い分けるべきであろう。 前記文献[2] の中でも比較検討がおこなわれているが、評
価した時機がちょうどレーザスキャナが市場に出回り始めた時であり、概してその適用範囲が狭く
評価されている。
この4,5 年でレーザスキャナは、 ①価格低下、②測定性能向上、③軽量化、④対環境性、⑤
処理ソフトウェアの機能向上 など、大幅に改善してきているので、現時点で比較すればかなり違
ったものになるであろう。 ただし、写真法の特徴が発揮できるところも多々残されており、その使い
分け、もしくは共用で計測していくのが実用的な解であろう。
5.改造工事のための計測
改良保全の中には、一部機器の入れ替えや
配管の引き直しなどの、工事をともなうことも少
なくない。 機器モジュールやプレハブ配管を、
短期間でできるだけ火気を使わずに据付する
ためには、既設プラントとの取り合い点、および
干渉チェックや搬入・搬出検討のための周りの
環境制約条件の正確な3次元情報が不可欠で
ある。 3次元計測が最も力を発揮する場面で
ある。 図5は、写真計測によるプラントの3次元
モデルと、そのアニメーションの例である。
図 5 プラントの 3 次元モデル化とアニメーション
出典:大浦工測 文献[4]
改造工事のための3次元計測については、本
シリーズ(2)工事 (文献[3])で紹介したものと重なると
ころが多いので、ここでは省略するが、一点だけ補足す
る。
保全改造工事で一部の配管を設置するだけで済む
場合、時間をかけて周辺の3次元モデルを作り上げる
必要はない。 精度の高い取り合い点に関わる情報だ
けが得られれば、プレハブおよび工事は可能である。
高価なレーザスキャナではなくて、汎用のトータルステ
ーションに PC を組合せ、その部分だけをモデル化する
システムも登場してきている。 しかも、配管部品ライブ
ラリーを内臓させることによって、現場測定しながら即モ
デルが作成されていく、という簡便さも持ち合わせてい
る。 文献[5]
図 6 fieldPipe 出典:文献[5]
4
6.劣化状態の3次元計測
図7は、プラントや社会インフラとしての大型構造物の劣化と寿命予測、延命化の課題のイメージ
を表したものである。 この中での3次元計測は非破壊検査のセンサーとして、また破損監視のモ
ニタリングのセンサーとして位置づけられる。
図7 : 社会インフラの劣化・寿命管理システム 出典:科学技術振興機構 文献[6]
コンクリートおよび鉄骨構造物について、劣化診断技術が進んでおり、3次元情報を扱えるものも
増えている。 その中で公開されている情報からいくつかを紹介する。
1) コンクリート非破壊 3 次元健全性診断
飛島建設と日本大学(小林義和
文
献[7])は、コンクリート構造物の健全
性診断を非破壊で行う分野で、今まで
に無い技術として、3 次元構造物健全性
診 断 シ ス テ ム 『 DaCS-3D 』 ∼ Damage
Diagnosis System for Civil Structure with
3D Tomography∼を完成させた。
3次元弾性波トモグラフィ技術を用
い、医療で使用する CT スキャンと同じ
様にコンクリート構造物の内部の様子
図8:任意の断面で構造物内部の健全度を詳細
に把握することが可能 凡例:青は健全、黄∼赤にな
るほど健全性低い
5
を様々な断面で切断・可視化でき、より正確な健全性評価が可能になった。また、従来よ
り数少ないセンサで構造物の 3 次元健全性評価が可能で、解析期間を大幅に短縮できるよ
うになった。
2) 三次元赤外線構造物劣化診断システム
クラボウは、市販のデジタルカメラで撮影した可視画像とサーモグラフィによる赤外線画像や温
度差画像を重ね合わせ、モルタル吹付のり面やのり面背面のうき・剥離、密着不良、空洞化などの
変状、構造物の内部腐食・劣化具合などを三次元診断するシステムを開発し商品化している。(文
献[8]) 三次元解析により、正確な劣化面積・形状、
傾斜角などが得られるため、診断精度が格段に向
上できる。3次元写真計測ソフトウェア「クラベスシリ
ーズ」(Kuraves-K、Kuraves-G2)で培った 3D技術
をベースとして、3次元化された地形モデルや構造
物モデルにサーモグラフィ(赤外線熱画像装置)から
図 9:劣化診断図 (可視光線+赤外線
温度差画像)
の赤外線画像や温度差画像をマッピングすることが
できる。
3)カラー画像処理による鋼管内面の腐食の検出
香川大学工学部石井研究室では、画像処理を用
いた材料腐食の検出自動化の研究を進めている。
その中のひとつに工業用ファイバースコープで鋼管
内部を検査し、その画像から腐食による減肉をリアル
タイムで自動判定する試みがある。(文献[9])
図 10 は、配管内面を検査し、実時間で赤錆領
域を小ブロック(16*16 画素)単位で検出することによ
り腐食を自動判定した結果である。
図 10:配管内面の腐食自動判定
7.おわりに
大型対象物のレーザスキャンから得られた点群データの実用的な処理ソフトウェアは、欧米が先
行しているが、デジタル写真からの3次元モデル生成や、小型対象物の精密画像処理を用いた各
種検査解析については、わが国にも優れた研究と実用化が行われている。この両者の技術の融合
が始まってきており、日本発のソフトウェアが広く世界に広がることを期待したい。 その原動力とな
るのが、現場からの具体的なニーズである。 高い目標をぶつけて、研究者やシステム開発者の意
欲をかきたててもらいたい。
6
参照文献
[1] 日本プラントメンテナンス協会「メンテナンス便覧」(2001)
[2] (財)石油産業活性化センター PEC-2002T-06「生産システム高度化技術小委員会報告書
(平成 14 年度石油環境対策基盤等整備事業)」 の中の「3D CAD 活用による保全、改造工
事、教育・訓練適用の研究開発 」編
[3]「配管技術」Vol.50 No.4 p.36-40
[4] URL : http://www.oura.co.jp
[5] URL : http://www.coade.com
CADWorxfieldPipe
[6] 科学技術振興機構 「社会インフラ劣化診断・寿命管理技術」CRDS-FY2007-SP02
研究開発戦略センター
井上グループ
[7] 日本大学理工学部土木工学科
小林義和
URL :http://www.civil.cst.nihon-u.ac.jp/%7Ekobayasi/LABHP
[8]
URL :http://www.kurabo.co.jp/el/3d/kuraves_th_01.html
[9]
URL :http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/ ishii
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