第1章 - 中部経済産業局

Ⅰ.観光的要素が強い地域資源の
活用の取り組み
1.目的と事業概要
中山間地域においては、地域を活性化する一手法として、地域の人達が中心となって、
特色ある資源を活かした取り組みが行われている。このような取り組み(行政主導ある
いは、民間主導を問わず)には、キーパーソンの存在が大きい。キーパーソンの存在は、
自らが発議し、仲間を集め、活動を企画し、実際に活動を行うといった点によりその活
動自体を左右するため、最も重要な要素である。
これらキーパーソンが中心となり、地域の魅力づくりを進め、これらの取り組みを更
に活発化させることが必要であるが、現実問題として必要な人材やアイデア・ノウハウ
等が不足している地域活動が多く見られる。例えば取り組んではいるものの地域活性化
に結びついていない場合、活動している当事者は効果があると思っていても第三者的あ
るいは外部から見ると課題などが含まれている場合もある。これらの課題を克服し、取
り組みが持続的に発展する仕組み、つまり、ビジネスとして成立させるためのノウハウ
の取得が必要である。
本取り組みは、我が国の中山間地域によく見られる活性化手法である観光資源などの
地域資源を活用した活性化について調査検討を行うことを目的とする。
具体的には、広域連携企画ワーキンググループが、活性化に取り組んでいる4つの地
域におもむき、各地域における取り組み事例をとおして、地域における実践状況を把握
するとともに、有効な地域活性化手法の検討を行うものである。
対象とした事例について、主にマーケティング戦略や企業戦略立案で使われる分析の
フレームワークを参考にして、組織の強み(Strength)、弱み(Weakness)、外部環境
の機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの軸から評価することにより、取り組み
の方向性を探るものである。(SWOT分析の手法を参考にした:資料編参照)
分析の手順としては、各地域の事業主体(地域の活動を行っている主体)を取り巻く
外部環境を「機会」と「脅威」とに分類し整理する。例えば高速道路が開通したという
事実は、時間距離が短縮されることからビジネスチャンスが生まれると考えられ、機会
として整理される。また、人口が減少しているという場合は、購買力が低下するという
点から脅威となる。市町村合併は、市域の拡大や財政力の強化から見ると機会であり、
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旧来の地域に対する行政支援が減少するという点からは脅威となる。
次に、内部要因であるが事業主体が持つ「強み」と「弱み」とに分類する。例えば、
キーパーソンや彼らを取り巻く人材がいることは強みであり、行政や産業界の支援体制
がない場合は弱みとなる。
その上で、内部要因の強みで外部要因の機会を活かしていく方向・方策を検討する。
例えば全国的なネットワークをもつ事業主体が特産品をいかして産直販売を行うことに
より地域ブランドの確立を目指すといったことである。そしてそれを実現するための具
体的な方策をプロジェクトとして立案するのである。次に、強みを活かして脅威を回避
する方策、弱みを克服して機会を活かす方策、弱みを認識した上で脅威を回避させる方
策を検討していくことになる。
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2.事例研究
2-1.大野市・勝山市(福井県)
①概要
大野・勝山地域は外部からは奥越前という一体的地域として捉えられているが、構
成する大野市と勝山市は、隣接しているにもかかわらず地域活性化という観点では交
流が少ないと思われる。
両地域の奥越前という地元の資源を再認識するとともに現況調査を行い、連携を視
野に入れた広域観光による産業活性化などの地域活性化方策について、課題の抽出や
解決に向けた方策などの検討を行った。
②地域の特徴
<大野市>
大野市は、県の東部、九頭竜川上流の大野盆地に位置し、石川・岐阜両県に接する。
奥越前の中心都市として発展し、白山連峰の支脈に囲まれた盆地であり、豊かな自然、
美しい自然景観に恵まれた地域である。
市域の83%を森林が占め、そこから湧出する「水」は、名水百選御清水に代表される
ように、大野市の大きな魅力となっている。豊かな水は、農業をはじめ、豊かな食文
化を育んできたほか、地場産業である繊維工業の振興にも大きな役割を果たしてきた。
大野市は1576年に織田信長の部将金森長近が越前大野城を築き、市街地中心部に見
られる碁盤目状の街並みは「北陸の小京都」と呼ばれている。市街地は戦国時代から
の町割が色濃く残り、城下町の風情が味わえる歴史と文化に満ち、幕末の大野藩に代
表される進取の精神や、シンボルの亀山、越前大野城、寺町など歴史的な町並みが今
も残っている。
大野市の総人口(平成16年3月31日現在)は39,051人であり、近年の自然動態と社
会動態は、いずれもマイナスであり人口は減少している。産業別就業者比率は、1次
産業 11.1%、2次産業 39.7%、3次産業 49.1%である。また、大野市の財政力指数は
0.455であり、福井県下で15位となっている。
農林業は市場価格の低迷、産地間競争の激化、後継者不足などに直面しており、全
体的には生産活動が停滞している。そこで農林業の持つ自然保護や環境保全機能にも
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着目しながら、特産品の開発や付加価値の高い農林業を目指すとともに、都市との交
流を核としたグリーンツーリズムなどの受け皿づくりが求められている。
製造業では出荷額の半数近くを占める電気機械器具部門は比較的順調であるが、地
場産業である繊維関係部門は停滞している。産業を一層活性化するためには、独自技
術の研究や付加価値の高い製品の開発、ベンチャー企業の育成、新たな企業誘致、IT
時代に即した新しい産業の創出が求められている。
観光面では歴史の路などの一体的な整備や観光拠点施設「平成大野屋」の開設に伴
い、城下町の風情が味わえるまちなか観光は近年入り込み数が増加している。自然環
境を生かしたアウトドアレジャーとともに人気となっている。
当地域の特産品としては、水引工芸(全国の60%生産)、草木染、里芋、おうれん、
そば、酒、白山やまぶどうワインなどがある。
空洞化の進む中心市街地の対策として、亀山周辺整備計画があげられる。これは小
学校に公民館・生涯学習センターの役割を備えた文化拠点「シビックセンター」とし
ての機能を付加し、小学校の体育館や特別教室を、学校が使用しない時に広く一般市
民に開放する、いわゆるタイムシェアリングによって有効活用する取り組みである。
また、移転後の小学校跡地は「シティゲート」として、外来者と市民との出会いや
触れ合いの場として位置付け、伝承・交流・接客をテーマとした施設を整備する計画
がある。
なお、大野市と和泉村は合併に向けて動き出している。
<勝山市>
勝山市は、県東北部、加越国境の山々に囲まれ、南北に九頭竜川が貫流している。
養老元年(717年)に泰澄大師によって白山中宮平泉寺が開かれ、白山信仰の拠点として
発展してきた。平泉寺は、戦国時代の全盛期に、48社、36堂、6000坊を誇り、寺を中心
に座がつくられ、商工業、文化の繁栄をみたが、一向一揆によってその栄華を失った。
江戸時代になると、交通の要衝となっていた勝山市は、九頭竜川右岸の河岸段丘上
に袋田町、後町などのまちが形成され、小笠原家が入封してすぐに町割りを実施し、
城(現市庁舎周辺)の南側に屋敷町が展開した。
明治以降は、機業が本格化し、こうした旧市街地周辺に工場が立地し繊維産業が地
域の経済基盤の中心になってきた。
勝山市の人口は(平成16年3月31日現在)27,892人であり、大野市と同様人口は減
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少傾向にある。
産業別就業者比率は1次産業 8.3%、2次産業 42.8%、3次産業 48.8%であり大野市
に比較して2次産業比率が高くなっている。 勝山市の財政力指数は0.500であり、福
井県下で13位となっている。
農業は、山間畑作が早くから発達し、中世以後さまざまな商品作物の生産が行われ、
江戸期を通じて、葉たばこ産地が形成された。葉たばこは幕末に最盛期を迎えたが、
明治期にたばこの専売制が始まると徐々に衰退した。現在、農産物では、良質米(コ
シヒカリ)や里芋、勝山水菜などの特産品の生産が盛んである。
製造業は、明治期に興った製糸業と機業が中心で、機業は、羽二重を中心とする絹
織物から昭和初期には人絹織物に変わり、また昭和20年代後半には合繊織物に切り変
わるなど、その時代に対応した事業転換を図りつつ、織物の一大産地・勝山を築き、
今日に至っている。しかしながらその繊維産業も、国際競争力の低下から活力を失い
つつあり、地域産業にとって大きな課題となっている。
一方、近年活況をみせているのが観光・レクリエーション産業であり、観光資源は、
国史跡の平泉寺をはじめとする歴史的遺産や、左義長まつり、年の市といった伝統行
事に加えて、昭和62年には越前大仏が落慶し、平成5年には、通年型リゾート施設ス
キージャム勝山がオープンした。これらの観光資源により、年間観光入込客は約130万
人(平成10年)を超える規模に達している。また、平成12年には、福井県立恐竜博物
館がオープンした。
当地域の特産品としては、合繊織物、絹織物、コシヒカリ、五百万石(酒米)、勝
山水菜、大仏里芋、若猪野メロン、酒などがある。
勝山市では、市内に残る歴史、自然、産業、その他の各遺産を活用し、市全体を博
物館とみなす「エコミュージアム構想」を展開している。この構想は、地域住民が勝
山市の各地域で築いてきた自然、文化、産業、歴史をしっかりと見つめなおして、そ
の価値を再認識し、存続整備を進めていく。そのことによって、住民の地域への愛着
が高まり、自信と誇りを持って、地域を未来に継承していくことができる。そのよう
な地域住民の熱意と創意が勝山の各地域でかたちになって、勝山市全体がまるごと博
物館、「ふるさと元気博物館」になることを目指している。
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③活性化事例の取り組み状況調査
○実施時期
平成16年11月13日(土)、14日(日)の2日間
○キーパーソン(敬称略)
平田
光邦
市民活動支援センター大野
事務局長
平塚
英昭
㈱東急リゾートサービス
統括総支配人
谷口
一雄
㈱白山やまぶどうワイン
代表取締役
稲山
幹夫
大野商工会議所
副会頭
荒井
由泰
勝山商工会議所
会頭
○活性化への取り組み状況
大野市、勝山市においては県、市、商工会議所などが地域の活性化を目的とした取
り組みを行っている。
現在、福井県では、交流人口の増加を促す目的で、ニューツーリズム(グリーンツ
ーリズム(*1)、エコツーリズム(*2))を考えている。スローライフや自然を体感する
旅行へのニーズが高まっていることを背景に、「エコ・グリーンツーリズム(*3)」が
福井県内で推進されている。
(福井県: 福井型エコ・グリーンツーリズム推進特
区)
*1
グリーンツーリズム:ヨーロッパで生まれ広まった「山村・農村・漁村の暮らしを味わう」新し
い旅のスタイル。山・里・海の「食」、「暮らし」、「人」に出合う、田舎の生活・楽しさを味わ
う旅をすること。
*2
エコツーリズムとは、
①自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光を成立させること。
②観光によってそれらの資源が損なわれることがないよう、適切な管理に基づく保護・保全を図る
こと。
③地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護
+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方である。それにより、旅行者に魅力的な
地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていく
ことを目的とする。
*3
エコ・グリーンツーリズムとは、地域の自然や歴史、特産品、観光施設を最大限に活用し、農林
水産業と観光産業等が連携して、魅力ある農林水産業と滞在型・体験型観光の確立を目指す取り組
みである。
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【大野市における取り組み(市、商工会議所など)】
大野市では観光面で歴史の路などの一体的な整備や観光拠点施設「平成大野屋」の
開設に伴い、城下町の風情が味わえるまちなか観光は、近年入り込み数が増加してい
る。
<平成大野屋事業>
大野市では、平成大野屋事業として、本店
主に市長、市民で構成する番頭会、全国の大
野姓の人から選ばれた支店主会、市内店舗の
協賛により、市民のまちづくり、ひとづくり
の意識高揚と大野市のイメージアップを図る
ことを目的に実施している。具体的には本店
番頭会がイベントなどの企画運営、支店主会
は、大野市の文化や情報を広報する役割を担
平成大野屋
い、協賛店はイベントなどへの協賛を通して、町中の活性化に協力している。
㈱平成大野屋は、まちおこしのために大野市と大野市民が出資して設立された市
民参加型の第3セクターの会社である。大野の特産品を広く紹介し、自ら商業活動
を行うと同時に観光案内業務や情報受発信など公共的な活動を行っている。具体的
には、平成大野屋事業の業務委託を受け、地場産良品の販売(含む通信販売)、は
いから茶屋経営(食事休憩コーナー)、観光拠点関連施設の管理受託(まちなか観
光拠点施設「平成大野屋」の運営・維持管理)、市民の交流支援事業を行っている。
また、大野市朝市出荷組合が主催している七間朝市(春分の日から大晦日まで毎日、
ただし降雪期を除く)も開催され、七間朝市を中心としたまちづくり活動が越前大野
七間朝市振興協議会によって行われている。
<七間朝市>
大野市のほぼ中央を走る七間通りは、創業
150年以上の老舗が軒を連ねる商いの道であ
り、明治の町屋風の建物「元町会館」や「七
間本陣」などがある。ここで春分の日から大
晦日まで毎日開かれる朝市は、400年の歴史
を持つ大野市の名物の1つであり、採れたて
の野菜はどれも新鮮で格安であるため観光客
七間朝市
のほか、地元の人にも親しまれている。この朝市は集客と地元産品の紹介を兼ね、
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大野市観光協会などにより特産の里芋を使った「のっぺい汁」を来訪者に振る舞う
といった活動も行われている。
【大野市における取り組み(その他)】
<本願清水イトヨの里>
「本願清水・イトヨの里」は、国の天然
記念物指定地の本願清水の池の脇に、淡水
型イトヨ生息の保全を目的とするものであ
る。湧水の減少により適した生息域がなく
なっていることからイトヨが減少している
が、大野盆地は湧水が豊富であることから
イトヨの生息が可能であった。
本願清水のイトヨ棲息地
「イトヨの里」では大野市の自然環境を
学習し、その保全に参加する目的を持つ住民の交流の場となるべく、イベントや学
習会、また各地の生物をテーマにした連携交流会などの活動を行っている。
<白山ワイナリー>
新商品開発による活性化の動きとしては、
地元で取れる山ぶどうを使用したワイン造り
を行っている白山ワイナリーがある。
奥越地方には「山ぐんど」と呼ばれる山ぶ
どうが自生しており、昔から白山修験者や地
元の人はぶどう酒を造って滋養強壮、貧血、
白山ワイナリー
疲労回復のために飲んでいた。
「白山ワイナリー」は、福井県初の自家農
園を持つワイナリーであり、四季折々のイベ
ントやワインの樹オーナー制度などを実施し
ている。
ワインの樹オーナー制度
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<スターランドさかだに>
「スターランドさかだに」(中山間地域
農村活性化施設)は、高原の牧歌的風景の
雄大な自然に恵まれた条件の中で、都市住
民との交流の場として、また市民の憩いの
場、会議・会合の場として整備された。
そば打ち体験や有機肥料を使った農業体
スターランドさかだに
験、その他イベントなどが行われている。
<ミルク工房奥越前>
大野市にある六呂師高原には、「ミルク工房奥越前」があり、新鮮な牛乳を使っ
て、アイスクリーム・バター・カッテージチーズなどの乳製品の体験制作などが行
われている。
六呂師ハイランドホテル、トロン温泉「うらら館」とあわせて高原散策やスキー
など、四季を通じたレジャーを楽しむことができる。
カッテージチーズ作りを体験
六呂師高原
<亀山>
街中にある山で四季の彩りが美しい。所
々に見られる石垣は、石を立てずに横に寝
かせ、大きい石を奥に押し込んで積む野面
積みという工法で貴重な史跡と言われてい
る。頂上には越前大野城があり、山頂付近
にはお福池という夏でも水の涸れない不思
議な池があり、名称は濃姫(織田信長の正
室)の付き人で後の金森長近の夫人となっ
亀山(野面積)
たお福の方にあやかってつけられた。また大野藩所有の洋式帆船大野丸を型どった
遊具、金森長近銅像、土井利忠銅像、亀山観音(30体)などがある。
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はんげしょう
<半夏生さば>
大野の食文化における風習の一つ。
暑い夏を元気に過ごすために、全国的に
は土用の丑の日にうなぎを食べるという
習慣があるが、奥越地方には「半夏生さ
ば」という風習がある。
江戸時代の大野藩は越前海岸沿いに飛
び地があったので、殿様の計らいで田植
半夏生さば
えで疲れた農民の栄養補給のために領民
に奨励したのが定着したと言われている。山あいの集落の人が海で獲れるさばを食
べることは大変楽しみだった。
主に夏至から数えて11日目の「半夏生」の日、太陽暦で7月2日頃に、市内のほ
とんどの魚屋が店先でさばを一匹丸焼きして販売する。この頃になると、さばを焼
いた香ばしい匂いが市街地各所で漂う。
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【勝山市における取り組み(市、商工会議所など)】
勝山観光協会では勝山市から支援を受け、勝山市最大のイベントである勝山左義長
を実施している。
<勝山左義長>
勝山市の「左義長」は江戸時代に、
小笠原公が勝山に入封以来、300年以
上の歴史がある。赤い長襦袢で女装し
た太鼓の打ち手が三味線、笛、鉦によ
る軽快なリズムでお囃子に合わせて太
鼓をたたく様や、カラフルな色彩の短
冊による町中の装飾も「勝山左義長」
勝山左義長
だけの特徴である。
左義長は、五穀豊穣と鎮火を祈願する「触れ太鼓」に始まる。町内の辻々には豪
華な櫓が立ち並び、女装した浮き男が太鼓をたたき踊る。太鼓には2人の奏者がつ
き、1人は単調な「地」のリズムを刻み、もう1人は踊るように浮いて独特の演技
を見せる。太鼓を打つとは言わず「浮く」と言うが、浮き手には決まった演奏方法
はなく、滑稽な仕草や表情で浮かれて、「地」のリズムにのりながら独自の間合い
でバチを操る。
フィナーレには冬の夜空に美しく映えて燃えさかる「ドンド焼き」で神おくりを
し、2日間にわたる火祭りの幕が閉じる。
また、勝山観光協会では平泉寺への観光客に対して、勝山市からの委託によりボラン
ティアガイド事業(勝山市観光ガイドボランティアクラブ)を行っている。
<平泉寺>
平泉寺は、白山信仰の開祖、泰澄大師に
よって開山され、緑のじゅうたんを思わせ
る境内の美しい苔は、見事である。苔の宮
の平泉寺として知られ、長い歴史にはぐく
まれた天然の美とロマンを十分に満喫する
ことができる。
この地域共通の資源は白山であり、禅定
道(信仰の道)である。現在、信仰の中心
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平泉寺
であった平泉寺は、48社、36堂、6000坊と
いわれる境内の発掘が進められ将来的には
一大寺院の復活が期待される。
白山は加賀、越前、美濃の3国にまたが
って位置している。白山は「泰澄」が養老元
年(714年)に開山したと伝えられている。
当初は、修行(修験)のためのもので、禅
定と言われていた。信仰の拠点として白山
発掘現場の石積が往時を偲ばせる
禅定の起点となる遙拝地が加賀馬場(白山
寺白山本宮)・美濃馬場(長滝寺白山本地
中宮)・越前馬場(平泉寺)であり、9世
紀中頃には成立し、そこより頂上までの禅
お
し
定道が出来た。白山の信仰を伝える御師の
活躍などにより、信仰は全国に広まった。
中世の記録などを見ると、木曾義仲、源頼
朝、義経、北条頼時などの崇敬が篤く、土
地や神馬などを寄進したことが書かれてい
ガイドによる説明
るという。
禅定道の整備によりここを中心とした白
山文化のネットワークを構築する動きがあ
り環白山文化圏(白山を中心とした信仰を
基盤とした圏域)を再構築しようとする動
きも見られる。
平成10年8月からスタートした「勝山市
観光ガイドボランティアクラブ」は、今年
参道では地元の特産品を販売
で7年目を迎え、現在、27名が加盟している。メンバー全員が地元住民であり、ガ
イド料は無料で、交通費としてガイド一人あたり1,000円を利用者が負担する。
【勝山市における取り組み(その他)】
<スキージャム勝山>
奥越高原・法恩寺山に広がるスケールの大きなリゾート。ホテルは、西日本最大
級のスキー場「スキージャム勝山」のゲレンデの目の前に立地している。冬は銀世
界を存分に楽しめるのはもちろんのこと、春夏秋の季節も満喫できる本格的リゾー
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トとして誕生した。良質の天然温泉も湧
出、雄大なパノラマ眺望が楽しめる露天
風呂など、スパリゾートとしても楽しめ
る。
この施設はリゾート開発が盛んであっ
た時期に計画され、平成5年にスキー場
が、平成10年にホテルが整備された。こ
の施設は第3セクターが開発し運営を㈱
東急リゾートサービスに委託している。
スキージャム勝山
スノースポーツ市場が縮小傾向にあることにより、入り込み客は平成8年の38万人
が平成15年には25万人へ減少した。オフシーズンの集客を図るため、歴史文化資源
を活用した「道元」ゆかりの地のツアーを実施した。そのツアーでは、前日に訪れ
る先の謂われなど説明を受け、翌日実際に現地を歩くというシステムで好評である。
<福井県立恐竜博物館>
日本の恐竜化石のほとんどを産出して
いる勝山市に「福井県立恐竜博物館」が
ある。卵型の恐竜ホール内では、まるで
太古の恐竜王国へタイムスリップしたよ
うな気分が味わえる。30体以上の恐竜の
全身骨格が展示されているほか、200イン
福井県立恐竜博物館
チの大型スクリーンによるダイノシアタ
ー、ティラノサウルス・レックスの骨格をいろいろな角度から観察できるダイノラ
ボなど、子どもから大人まで幅広い人々のロマンをかきたてる参加・体感型の博物
館である。
昭和57年に、北谷町杉山の手取層群で、約1億2千万年前のワニの化石が見つか
ったことから、勝山は日本有数の化石発掘の宝庫として注目されるようになった。
恐竜博物館などが主催して、恐竜化石発掘現場へ行き、地層の観察や発掘体験を
行うイベントが行われている。現場の岩からは主にシダ植物や貝を発掘することが
できる。
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④外部環境と内部要因の整理
大野・勝山地域における外部環境と内部要因を機会・脅威、強み・弱み別に整理す
ると以下のようになる。
外
部
環
境
内
部
要
因
機会
・豊かな自然、美しい自然景観に恵まれている(山岳景観、水)
・白山文化圏に属している(平泉寺、平泉寺発掘)
・古い歴史遺産がある(城下町、城、街並み)
・観光関連施設が立地している
(スキージャム、恐竜博物館、六呂師高原)
・豊かな食文化がある(そば・半夏生サバなど)
・特産品がある(米、里芋、水菜、白山ワイナリーなど)
・グリーンツーリズム・エコツーリズムの振興を行っている
・繊維製品などの高付加価値化を目指している
脅威
・人口が減少傾向にある
・農林業が停滞している
・基幹産業であった繊維産業が衰退傾向にある
・周辺観光地の入り込み客が減少している
・スキー人口が減少している
強み
・㈱平成大野屋の設立による中心市街地活性化の兆しがある
・㈱平成大野屋の全国ネットワークが存在している
・その他のネットワーク(ワインの樹オーナー制度、東急リゾート)がある
・歴史的な朝市が開催され、買い物客を集客している
弱み
・資源発掘が十分でない
・情報の蓄積整理が出来ていない
・商工会議所・観光協会などの活動が活性化に寄与していない
・情報発信力が弱い
・地域での取り組みの観光産業としてのポジショニングが明確でない
・キーパーソンを中心とした活動に協力してもらえる人材が少ない
<課題の整理>
以上の結果を整理すると以下のような課題が抽出された。
●活性化に取り組む組織(事業主体)はあるものの、活性化の方向性や、支援体制が
確立できていない。
●活性化に向けて、誰を対象として交流をしていくのかが明確になっていない。
●地域資源の発見・発掘が十分でなく、資源を活用するための整理が必要である。
●大野・勝山地域の統一した地域イメージができていない。
●地域の産品を活用して、特産品化することにより地域ブランドにまで高める必要が
ある。
●情報発信の方法が少ないため、より多様化した情報発信方法が求められる。
●大野・勝山地域としての連帯感が希薄である。
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⑤地域活性化に向けての具体的方策例
(1)行政・商工会議所などが主体となった取り組みの必要性
地域を活性化させる取り組みは、民主導でビジネスとして行わなければ持続的な成
果は得られない。しかしながら地域での取り組みは、特に立ち上がり段階では様々な
制約がある。実際には、発足当初では行政なり商工会議所(商工会)が立ち上げ、そ
の後、組織自体が自立することを目指す場合が多いが、支援なくしては維持存続が難
しいのも現実である。
そこで、キーパーソンを核として周辺を巻き込み、地域全体に活動を広げていくに
は行政・商工会議所の支援が必要である。ただ、支援すると言ってもその方法やタイ
ミングに留意する必要がある。立ち上げ時、自立移行時、自立定着時などそれぞれの
段階にあった支援がなければ、活動組織の存続が難しいのが現実である。
地域には、資金・人材といった活性化事業のための資源が限られているので、行政
・商工会議所とキーパーソンが一体となって、取り組んでいく必要があろう。
●主体となる組織の立ち上げ
<具体的方策例>
ア)行政・商工会議所を中心にキーパーソンとの関係を密接にし、最終的な事業プラ
ンを作成するための研究会を持つ。
イ)たとえば大野市が行った人材育成事業「大野明倫館」の卒業生で結成された「平
成美濃街道物語実行委員会」「越前大野もてなし隊」など市民団体とも協力し、行
政や会議所が予算措置できるような事業プランを作成する。
ウ)その事業プランをもとに、行政、会議所に働きかけ支援を得る仕組み(まちづく
り組織など)をつくる。
エ)実際に事業プランを作成するにあたっては、他地域で成功したキーパーソンに協
力を依頼したり(キーパーソンのネットワーク化)、専門的なコンサルタントの協
力を得ることも必要になるかもしれない。
オ)たとえ小さなイベントでも、まず実施してみることから始まる。実際にやってみ
ないとわからないことや、やってみなければ得られないノウハウが多く存在する。
カ)事業は継続することが必要である。補助金をあてにした事業は補助金がなくなれ
ば消えてしまう。継続させるためには、収入により生活向上がもたらされ、事業を
行う当事者が楽しいと思えることが重要である。
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(2)地域活動のポジショニングとターゲットの明確化
現在の地域活性化への取り組み(まちなか観光や平成大野屋事業など)は地元の雇
用確保や経済的に地域が潤うという本来の地域活性化にまでは至っていないように見
られる。こういう点をキーパーソンが明確に意識し、各取り組みを行う必要がある。
地域で行っている活動が、観光という範疇でどのようなポジションにあり、それをど
のように活かすと活性化に結びつけられるかという点を地元キーパーソンは客観的に
評価し、明確化する必要がある。
ポジショニングが明らかになれば、次に誰をターゲットにするかを明確化する。
当地域は、マスで誰でもいいから無制限に情報発信し、地域を訪れてくれればいい
という考え方ではなく、特定の人に何度でも訪れて欲しい、地域のファンになって欲
しいというスタンスも重要である。
<具体的方策例>
前項で述べた研究会において、実際に活動を行う人がポジショニングや取り組みの
目的など共通の認識をもてるような話し合いの場を持つ。
(3)地域の資源の発見・発掘・データーベース化
平泉寺を始め、大野・勝山地域には歴史、自然、体験施設といった様々な資源があ
るが、都市住民が期待する資源への磨き上げが十分であるとは言えない。また、それ
らの地域情報を整理し蓄積しなければ発信するコンテンツが準備できないため情報発
信機能の充実と同時に、コンテンツの充実が図られなければならない。
●地域資源調査組織の発足
<具体的方策例>
ア)キーパーソンを中心に、行政が地域資源調査組織を立ち上げ、調査員を募集(自
薦・他薦)する。調査員は地域のことに詳しい人であれば誰でもなり得る。(基本的
には無償ボランティア20名ほど)
イ)調査組織は学識経験者などをチーフに組織化し、体系的に地域資源の発掘を行う。
既存の観光地という枠にとどまらず、調査員独自の判断も含めて調査を行う。
ウ)収集した資源は、統一のフォームで整理しデータベース化する。
(4)地域イメージ戦略の構築
大野・勝山地域の統一したイメージを構築する。この地域の地域イメージは「白山」
であり、この白山を中心とした「環白山文化圏」をキーワードにしたイメージづくり
38
を行う。
環白山文化圏は、中世において白山信仰を中心とした全国レベルのネットワークで
あり、このネットワークを新しく再構築することにより地域イメージを高める手段と
する。
●環白山文化圏をキーワードにした地域イメージ戦略
<具体的方策例>
ア)地域イメージの構築は短期間でできるものではないため、長期的な戦略が必要で
ある。
イ)地元特産品の活用や、物と物語の組み合わせなどにより地域がイメージできるよ
うな工夫をしなければならない。(具体的な項目の1つである特産品のブランド化
を参照)
(5)地域特産品のブランド化
現在平成大野屋事業で行われている特産品の全国販売は、ひとつの取り組みとして
は重要であると思われるが、これらが地域の活性化にまで至るかと言えば難しい面が
ある。
地域における特産品の付加価値を高めるには、地域内における循環市場を目指すか、
全国市場を目指すかに大きく分けられる。全国市場を目指すには単一産品の大量生産
が必要であり(全国市場に対応するためには絶対的な量が求められる)、当地域では
困難である。そこで自己の地域内に循環型市場を形成し、「多品種少量生産」を前提
とした「地域内循環型市場の形成」を積極的・意図的に進めようというものである。
当地域においては、地産地消型の循環の中で地域内での市場形成を図ることがポイ
ントになる。
ただし、現在平成大野屋事業で行っているような全国販売も、地域の認知度を高め、
ブランド化を目指すひとつの方法である。
●地域内循環市場の形成
<具体的方策例>
ア)地域特産品の販売戦略は、グリーンツーリズムなどの地域内循環型の市場形成
(極めて素朴で、土の匂いのする地域内の産物であり、先人から受け継がれた、手
間を惜しまず、愛情を込めた、質の高い特産品を、地域を訪れる「交流人口」に提
供する。交流人口を活用した市場形成。観光客がターゲットであり、ターゲットと
する観光客の特性を理解した上で展開を図る)であり、あくまでも大市場(都市
部)から交流人口を地元に呼び込み、地元で消費してもらう仕組みを構築すること
である。
39
イ)最初に地域資源の確認を行う。地域生産物(農産物・青果物、畜産物、その他)、
地域伝統技術(伝統工芸/木工、陶芸、その他)、歴史、文化資源、その他地域資
源などであり、これらの何を選択するか、どう付加価値をつけるかが問題である。
例えば、当地域の特産品である米、里芋、水菜などにおいては安全健康志向から見
て有機無農薬栽培が必要ではないかと考える。地域内循環型の市場形成の場合は、
少量多品種生産であるので特産品は特産品として必要であるが、その他のものにつ
いての地産地消の観点から生産体制を整える必要がある。
ウ)付加価値の付け方は、パッケージ、カットなど加工方法と、有機農法など他の産
地商品と差別化できる商品の開発である。例えば里芋は、皮をむくと痛みやすいた
めそのままでは出荷できない、生のまま皮をむき、冷凍するなどして保存と利便性
を高めるような加工が必要かも知れない。
エ)次に農産品であれば調理加工し食品化することにより付加価値をつける。木材で
あれば木工品として付加価値をつける。
オ)ここで、地域の統一イメージ(地域のアイデンティティ)との整合を図り、他の
分野(歴史や文化)などとの組み合わせで新たな付加価値をつける。「白山麓でと
れた里芋」「白山麓の城下町勝山の水菜」といった地域のアイデンティティに沿っ
た商品開発が必要である。
カ)最後に統一パッケージやネーミングにより地域イメージとして販促を行う。
キ)また、地元の特産品を使った料理コンテストやコンクールなどにより地域の特産
品などの露出を高めることも必要になる。有名料理人の監修や実演なども有効であ
る。
(6)情報発信手段の多様化
1)㈱平成大野屋を情報拠点とした情報発信機能の高度化
現在、㈱平成大野屋では、全国的な会員のネットワークを持っている。この他にも、
大野・勝山地域にある団体・組織にも、少なからずリストが存在するであろう。これ
らのそれぞれのネットワークを活用できるようにする。現在、㈱平成大野屋では、地
元産品の全国販売を行っているが、地元商店街や、民間企業、商工会議所青年部、婦
人部などが開発・試作した商品の販売ルートとして活用できる可能性がある。
<具体的方策例>
ア)大野・勝山地域の各団体や企業が持っているネットワークの相互利用を目指す。
そのためには各団体の協力を取りつけることからはじめなければならない。当初は
㈱平成大野屋の協力を得て、そのネットワークに共同で当地域の情報を載せること
からはじめる。㈱平成大野屋にとっては、コンテンツが増えることになり、さらな
40
るネットワークの拡大が見込まれる。
イ)相互に情報を提供し、各ネットワークで発信することにより、あたかも一体的な
ネットワークが構築されたものとして機能する。
ウ)㈱平成大野屋は当地域におけるネットワークあるいは情報発信の拠点とし、個人、
民間企業、NPOその他団体を問わず利用してもらい、利用料金を取れる仕組みを
構築する。
エ)最終的には大野・勝山ブランドを確立し、地元産品の新しい販売ルートの構築を
目指すことになろう。
2)パブリシティの有効活用
ア)情報発信の手段として、マスコミを利用することは非常に有効である。例えば新
聞記事やテレビ・ラジオの取材・放送は地域の一般市民に対する訴求としては非常
に影響力が大きい。
イ)そのためには、定期的な記者発表やイベント開催などが、紙面に掲載されたり放
送されるような体制を作ることが重要である。もっとも記事や放送になるためには、
材料となる情報を常時提供できることが必要である。
(7)広域イベントの開催と通年観光への取り組み
広域連携を考えるメリットの一つの理由は、メニューの多様化である。単一市町村
では限られている資源メニューを広域で展開することにより多様化させることができ
る。このことにより交流人口を増加させることが可能になる。また、機能分担するこ
とにより全ての機能を限られた地域で持つという非効率性を排除できる。
当地域では、冬期のスキー客の集中など自然依存型観光形態であるが故に、季節性
・短期的な来訪が中心であり、これを通年型にすることが、活性化のポイントのひと
つである。
1)広域(大野、勝山、その他)イベントの開催
<具体的方策例>
ア)最初のステップとして、大野・勝山地域において連携し、統一イベントを開催す
る。両地域にある資源を活かし、時期や内容を協議し、共同開催を行う。例えば桜
祭り、盆踊り、秋祭り、雪祭りなど季節ごとに開催する。
イ)テーマ別催事の連携も考えられる。大野・勝山は資源的には共通する部分が多い
ため城下町、白山信仰など統一テーマで両市の施設や町並みを使って統一イベント
を行う。
41
ウ)イベントが定着してくれば、より広いエリアの市町村を巻き込み、季節ごとに分
散させることで入り込み客を配分できる。
エ)広域で連携することによりメニューが多様化すれば、その様々な要素を組み合わ
せ、夏のスキー場でアウトドアイベントや歴史散策を行ったり、冬の城下町で明か
りと、陶芸、木工品など伝統産業の組み合わせで、通年観光客を誘致することも可
能である。
2)受け入れ態勢の充実
<具体的な方策例>
ア)地域において、来訪者に接する商店、宿泊施設などの従業員に、当地域(大野・
勝山地域)の資源やその楽しみ方などを教育することにより、当地域間における訪
問者の流動を促進する。
イ)そのためには、教育機会を設け、当地域の資源等に対する認識を高める必要があ
る。商店、宿泊施設などの従業員に対して研修会を開催したりすることにより地域
全体でのホスピタリティの醸成が求められる。
42
2-2.旧清見村(岐阜県高山市清見町)
①概要
旧清見村(*1)では、行政が主体となって組織した「ひだきよみ自然館」(資料編参
照)を中心に、住民が取り組んでいる地域単独の地域活性化への取り組みを調査し、
その方法や課題などについて把握し、地域として一層の活性化方策を探ることを目的
とした。
②地域の特徴
旧清見村は、平成17年2月1日に高山市と合併し、高山市清見町となった。高山市
西部に位置する旧清見村は、豊かな森林と美しい清流に囲まれた県内屈指の面積を誇
る地域であった。地域を南北に通る「せせらぎ街道」は、初夏の新緑に秋の紅葉、白
樺・カラマツ林に渓流と、車窓から自然を満喫できる岐阜県の看板街道である。7月
には、村内各地にラベンダーが咲き誇り、四季折々の美しい風景を楽しむことができ
る。観光都市高山市に隣接していたため、東海北陸自動車道やせせらぎ街道を利用す
る観光客も多いものの、今後は中部縦貫自動車道の整備により、通過点となる可能性
が高い地域である。旧清見村の魅力は自然との共生であり、手つかずの自然が数多く
残されていることである。
人口は、2,635人(平成16年3月31日現在)であり平成7年(2,568人)に比較すると
若干ではあるが人口は増加している。 産業別就業者比率は1次産業 26.0%、2次産
業 29.5%、3次産業 44.5%となっていた。旧清見村の財政力指数は0.254とかなり低
く、岐阜県下においても74位となっていた。
農林業、サービス業が多く次いで飲食業、製造業となっている。製造業では、木材
を加工する業者や工房が村内に点在し、一部はブランド化が進んでいる。代表的な特
産品として、旧清見村のきれいな水を使った豆腐や味噌、餅などが村の特産品になっ
ている。
畜産業では、肥育牛・繁殖牛・乳牛を合計すると、約3千頭となり、旧清見村の人
口よりも多い牛が飼育され、飛騨牛の生産地となっている。野菜では高地栽培のホウ
レンソウ、トマト農家が多く、関西方面に出荷されている。最近はしいたけの出荷量
も増えてきている。
*1
平成17年2月1日、高山市として、旧高山市、旧清見村など10町村が合併
43
新高山市において清見町は、豊かな自然を生かした環境教育や自然体験学習を基調
とする観光・交流の振興を目指し、中部縦貫自動車道高山西インター周辺では、「道
の駅」と連携した観光・交流機能の向上と農畜産物の加工・販売などを中心とする産
業の集積を図る。また、農用地や里山の景観に恵まれたゆとりある田園居住環境の整
備と定住を促進し、高山市街地への通勤圏としての機能発揮をめざすとともに、地域
における経済活動の活性化に向けて、産業の集積や観光・交流機能の向上を目指して
いる。
自然条件を活かしたホウレンソウやトマトをはじめ、ラベンダーやトルコギキョウ
など花卉の生産を中心とした農業の振興と、飛騨牛発祥の地として畜産業の振興を図
るとしている。
③活性化事例の取り組み状況調査
○実施時期
平成16年9月29日(水)
○キーパーソン(敬称略)
鈴村 仁孝
ひだきよみ自然館
総括マネージャー
大矢 正樹
里人学校
大坪 正一
清見村森林組合
隣垣 秋子
ひだ清見
上坪 道利
JAひだ
中村 直人
岐阜県清見村農林商工課
小鳥地域マネージャー
代表理事組合長
小鳥ハーモニー
金融部
会長
部長
課長(調査時点)
○活性化への取り組み状況
旧清見村では、行政が主体となって様々な地域の活性化に対する取り組みが行われ
てきた。当地域における様々な取り組みはそのほとんど全て旧清見村の取り組みと言
っても過言ではない。
その契機となったのが15年前から行政が施設を作り運営をしてきた、すのまた「ふ
るさと学校」(*2)である。現在は、行政がひだきよみ自然館へ運営を委託しており、
以下のような活動を行っている。
*2
すのまた「ふるさと学校」では古くから飛騨地方の生活に根付いた伝承文化を体験学習できる。
●食文化体験(五平餅・豆腐づくり、餅つき)
●工芸(わらじ、木工品)
●仕事(飛騨牛の飼育、炭焼き、まき割り)
●遊び(川遊び、魚取り、ハイキング)
44
など
旧清見村では、地域の自然と農業という特色を活かし、グリーンツーリズム事業に
早くから取り組んでおり、都市生活者のふるさとを目指した取り組みを進めている。
<里人交流事業>
旧清見村では、田舎生活にあこがれる
都会の人たちが、農村体験を通して地域
の人々とふれあい、共に里づくりを行い
ながら継続的に来村していただくことを
目的としたグリーンツーリズム事業「里
なつまや
人交流事業」を推進している。旧夏厩小
お
学校校舎を起点とした「里人学校」を小
どり
鳥地域住民で組織する「小鳥振興協会」
で運営。宿泊型研修施設として学校団体
里人学校(青少年学習センター)
などの合宿受け入れを中心に、そば打ち体験などのできる食体験での受け入れも行
ってきた。
都市農村交流活動をさらに推進するため、地域と都市住民の有志による地域の素
むら
材や人材の掘り起こしを行いながら地元での受け入れ準備を進め、「里人邑」なる
組織を立ち上げ、モニタープログラム(里山散策とマイタケ収穫祭)を実施した。
参加者には、農業体験やそばの手打ち体験、里山保全活動などのプログラムのほ
か、お好みの体験メニューで地域の人たちと交流を深め、気楽に訪れることの出来
る第2のふるさととなるよう計画している。
これまでイベントなどによる来訪者への一方的なサービスや還元効果が見えない
部分で、地域住民への負担が交流事業の課題となっていた。そこで、地域住民の有
志が自由に集まり、農村に関心のある都市住民からみた農村の魅力を再確認するこ
とで、無理なく受け入れが出来る体制を模索することとなった。そうした中で地元
にもメリットのある交流活動を組み立て、双方で地域を活性化していこうという機
運が少しずつ高まってきている。
自然や環境に対する関心の高まりから、山野を訪れる人々が増加している。それに
ともない、環境を守り、自然を楽しんでもらうための案内人の養成が求められてきた。
それらに対応するため旧清見村では岐阜県の支援を受けインタープリターの養成を行
っている。
<飛騨インタープリターアカデミー>
岐阜県の支援を受け高山市(旧清見村)が運営しているひだの自然案内人養成講
45
座「飛騨インタープリターアカデミー」によりインタープリター(*3)の養成を図っ
ている。
現在は、環境保全あるいはグリーンツー
リズム・エコツーリズムの担い手としての
人材育成が中心であり、このアカデミーの
卒業生が各地でこれらの活動を実践してい
る。
インタープリターアカデミーは、総合イ
ンタープリターコース(幅広い知識を持ち、
コーディネートまでできるインタープリタ
講義の様子
ーを目指す)と専門インタープリターコース(総合インタープリターをアシストし、
山菜キノコなどに特化したインタープリターを目指す)の2コースである。
原則として1年間で全ての講座を受講し終了となる。修了者はこの資格により就
職が決まるわけではなく、日常的に別の仕事を持つ場合が多い。(林業関係や山岳
レンジャーなども受講している)
この受講者は全国というわけではないが、岐阜県下を中心に集まっており卒業後
はそれぞれの地域でこれを活かすことになる。
*3
インタープリターとは、自然観察、自然体験などの活動を通して、自然を保護する心を育て、自
然にやさしい生活の実践を促すため、自然が発する様々な言葉を人間の言葉に翻訳して伝える人を
いう(interpret=通訳)。植生や野生動物などの自然物だけでなく、地域の文化や歴史などを含
めた対象の背後に潜む意味や関係性を読み解き、伝える活動を行う人をさす。一般には、自然観察
インストラクターなどと同義に用いられることも多い。
なお、インタープリターの行う活動をインタープリテーション(自然解説と訳されることも多
い)という。(EICネット:国立環境研究所)
46
○その他の活性化への取り組み状況
<森林たくみ塾>
民間レベルでは、飛騨の木工を活かし、製品製作販売と共に人材育成の場である
「森林たくみ塾」があり、全国から研修生を集めている。
民間企業であり、木工職人養成を主眼として、技術の習得と自立を目的として運
営されている。
当施設は民間施設であるが、制作工房研修コースと環境教育研修コースがある。
初心者を対象に2年間の研修期間で年間15名程度募集し、終了後は全国のメーカー
などに就職する場合が多い。
<パスカル清見>
旧清見村には、道の駅パスカル清見がせせ
らぎ街道(郡上市八幡町から旧清見村へ通じ
る)沿いにある。このパスカル清見は平成3
年にオープンし都市住民が都市生活では充足
することが出来ない機能、「豊かな自然」
「綺麗な空気」「緑の樹木」「素朴な人情」
を背景に地域の活性化に結びつけようとした
パスカル清見
ものである。管理は旧清見村、運営は財団法人ふるさと清見21があたり、オリジナ
ル商品であるパスカル農園で取れた素材によるドレッシングの開発や附帯施設の充
実(宿泊施設、ラベンダー園など)があり、オープン当初は、多くの来訪者を得て
いた。最近では東海北陸自動車道の飛騨清見ICまでの延伸や、中部縦貫自動車道
の共用により高山方面へはせせらぎ街道の利用者が減少し、当施設への来訪者も減
少してきている。
<地域の自治体活動>
旧清見村の上小鳥地区の女性チーム
「おどりハーモニー」は、手作りで防腐
こうじ
剤などを使わず、地元の米から 糀 をおこ
し地元の大豆を使用し味噌造りを行って
いる。各家庭で昔からつくられてきた伝
統の味を守り商品化している。元々冬場
の仕事として地元住民の日常であったも
のから、それを地域内の土産物店などで
販売している。
47
おどりハーモニーによる味噌づくり
④外部環境と内部要因の整理
旧清見村における外部環境と内部要因を機会・脅威、強み・弱み別に整理すると以
下のようになる。
外
部
環
境
内
部
要
因
機会
・豊かな自然(里山景観)がある
・高山市との合併があった
・東海北陸、中部縦貫自動車道の完成による都市部からの時間距離短縮が
可能になった
・ブランド化した家具製造業企業が存在している
・特産品(水、豆腐、餅、飛騨牛、パスカル清見のドレッシング)があ
る
・行政主導による先進的な取り組みが行われている
・グリーンツーリズム、エコツーリズムによる振興を図っている
・里山の文化(炭焼など)が継承されている
脅威
・人口の少子高齢化が進んでいる
・県内有数の豪雪地帯である
・東海北陸自動車道の延伸、中部縦貫自動車道の一部完成による通過客が
増加してきている
・類似施設との競合が激化してきている
・家具・木製品産業が停滞している
・農林業が停滞傾向にある
・合併により行政支援が縮小する可能性がある
・学校など施設の廃校化が進んでいる
強み
・キーパーソン(ひだきよみ自然館など)の活動が定着してきている
・行政がトリガーになり行政主導で比較的早い時期に交流活動を開始した
・全国的なネットワーク構築が存在している
森林たくみ塾(生徒は全国から応募)
インタープリターアカデミー
ひだきよみ自然館(体験学習の中核)
・里人交流事業による都市部との交流(村の生活の体験)が盛んである
・ひだ清見源流の森づくりにより富山県側などとの交流がある(NPO
ドングリの会)
・道の駅が情報発信機能を持つ
弱み
・人口の少なさによる人材不足、高齢化が進んでいる
・道の駅の入り込み客数が減少してきている
・施設、提供メニューに目新しさがない
・若者が定住できる仕組み(雇用の場など)がない
<課題の整理>
以上の結果を整理すると以下のような課題が抽出された。
●市町村財政の逼迫や合併などにより、既存事業組織に対する支援が減少する可能性
があり、早急な対応が求められる。
48
●グリーンツーリズムや、体験観光の先進地域であるがゆえに、多くの後発施設の参
考にされ、結果的に競合を増やす形になっている。他地域との差別化を今一度図っ
ていく必要がある。
●全国的・広域的なネットワークを持つ組織があり、他地域にはないメリットになる
可能性がある。
⑤地域活性化に向けての具体的方策例
(1)行政主導から民間への移行
合併や、市町村財政逼迫の折から行政支援が減少する可能性が高く、そのため既存
の組織である「ひだきよみ自然館」や「(財)ふるさと清見21」などについても組織形
態を変えなければならなくなることが考えられる。市町村合併により、行政主体の取
り組みが困難となることも考えられ、地域住民が中心となり、行政と一体になった民
間主導の形態に円滑に移行していくことが課題としてあげられる。また、若者が一層
定住できるような雇用の場の確保に繋がる取り組みが必要となる。
そのためには、地域の自治会組織などと協力して取り組みを行っていく必要がある。
●収益性の向上
第3セクターなどの運営組織は、基本的には公設民営(行政が建築物を建設し、運
営だけを運営組織に委託する。公的施設の管理に対しては委託費とする場合がほとん
ど)であるため、日常的な運営だけを行うことになる。しかしながら当然公共的要素
の強い部分もあり、収益性を追求するばかりではない。
行政主導の事業の収益性を高めることは非常に難しい。収益性を高めるには売上
(収益)を上げること、経費を削減することである。収益性を高めるには次のような
仕組みを検討する必要がある。
<具体的方策例>
ア)売上が上がらなければ利益は出ないことはあきらかである。いかにして売上を上
げるかがポイントである。そのためには新たに売上を上げる部門を導入しなければ
ならない。
イ)一つの方策は地域特産品の販売である。パスカル清見がドレッシングを製造しブ
ランド化に成功した例もあるように新商品開発を積極的に進めることが必要である。
ウ)朝市や、産直販売機能を持つことも考えられる。産直販売については各地で行わ
れているが、消費者の本物志向、健康志向に支えられ、盛況を得ているところが多
い。現在、旧清見村には、清見新鮮野菜直売所(高山市清見町三日町)と七杜野菜
直売所(高山市清見町牧ヶ洞 道の駅七杜内)があるが、これらの施設と連携しつつ
49
かつ旧高山市内の朝市などとも役割分担をしながら運営を行うことができれば収益
事業になる。
エ)ひだきよみ自然館などの施設利用者のネットワークを活用し、清見のファンを確
保すると共にこれらのネットワーク上に特産品販売をのせ、産地直送販売を行う事
も考えられる。
(2)競合に対する差別化戦略
旧清見村の行政主導で行われた地域活性化への取り組みが先進的であったが故に、
各地域における活性化の先進事例となり、これを参考にした他地域での取り組みが数
多く行われてきている。その結果、手作り体験や農業体験のできる類似施設や類似の
活動が各地で行われることになってきた。これらは言い換えれば競合地域、競合施設
であり、これらの施設と限られたマーケット(体験観光やグリーンツーリズムなど旧
清見村が取り組んできた活動に対応する都市住民層)をシェアすることになる。
1)既存のネットワークを活用した利用促進
先進地域であることのメリットは、利用客の延べ人数が多いことである。つまり古
くから行っていることによる累積のメリットである。これらの中には、リピーターと
してその後も訪れている人もいれば、1回限りの場合もある。この地域へ来た人がこ
の地域を良く評価してもらえればリピーターとなる可能性が高い。そこでひだきよみ
自然館を利用した人を中心に、PR活動を行う。
<具体的方策例>
ア)ひだきよみ自然館の利用者リストから複数回訪れた人をピックアップしDMを送
付する。再訪問時にはプレミアムをつけるなどして利用者の囲い込みを図る。
イ)ひだきよみ自然館だけでなくその他の施設などのリストも含め、既存のネットワ
ークを駆使して再来訪を促していく。
2)付加価値をつけることによる差別化
リピーターを確保する場合の売り物は、「人」である。「あの人にもう一度会いた
い」、「あの人の話をもう一度聞いてみたい」、「あの人に違うところを教えてもら
いたい」と思わせることによりリピーターとなり、訪問回数も増加し滞留時間も増え
ることになる。
<具体的方策例>
地域を語ることができる語り部を養成するために、専門的な講師を擁する語り部
講座を開設する。この講座では、資源情報の習得だけではなく話術としての訓練を
行う。
50
3)新商品開発による差別化
パスカル清見が、商品開発を行い、パスカルブランドを確立させたように、新商品
開発を行い、地域のブランドイメージを構築することにより他地域と差別化を図るこ
とも重要である。
<具体的方策例>
ア)地元の商品開発に意欲的なキーパーソンと、外部の専門的コンサルタントなどの
協働により、新しい商品開発を進める企画組織を設立する。この組織は、プロダク
トアウトにならないように、売れる商品・サービス・技術などを探し出す(商品ハ
ンター)機能と、売れる商品を作り出す(商品プロダクト)機能を併せ持ち、農産
品から加工品、土産物、製造品、サービスまでをフォローできる組織とする。
イ)清見という地域コンセプトにのっとり、自然と安全、手作りと本物志向による新
商品開発を進める。
(3)地域の独自性を活かした広域ネットワークの構築
旧清見村にある広域的ネットワークを持つ2つの組織を活用し、地域のPRと、清
見ファンを形成する。
1)森林たくみ塾の活用
<具体的方策例>
ア)飛騨の木工という伝統的技術を基本にした施設である。民間企業であるため協力
の受諾は必要であるが、この施設を拠点とした広域ネットワークの構築が可能であ
ろう。
イ)この森林たくみ塾を拠点施設として卒業生のネットワークが構築できれば、木工
をテーマにし、旧清見村と全国各地の木工産地、メーカー、職人の連携が生まれる。
このことにより各地との交流を深めることができる。
ウ)交流イベントの開催、展示会、コンクールなどにより交流の機会を増加させるこ
とも必要である。
エ)最終形としては、共同販売や同一ブランドによる展開も考えられ、地域活性化の
柱になることが期待できる。
2)インタープリターアカデミーの活用
<具体的方策例>
ア)インタープリター養成機関や講座は、全国で開催されており、インタープリター
だけでなくグリーンツーリズム、エコツーリズムなど自然や環境、体験といった専
門家養成講座と連携する事により、講師の派遣、受講生の交流などを通じて総合的
な専門家養成機関として機能する可能性がある。
51
イ)インタープリターアカデミー卒業生のネットワーク構築のために、インタープリ
ターアカデミー学会といった連絡組織を作り、アフターフォローも兼ねてネットワ
ーク化するのも一手法である。
52
2-3.郡上市八幡町(岐阜県)
①概要
郡上市八幡町は、(財)郡上八幡産業振興公社の取り組みを中心に、まちづくりと、
人を呼び寄せ、もてなす仕組みを作っている。郡上市八幡町における最大のイベント
であり活性化の核となっている郡上踊り観光客をいかに地元の他の資源と結びつける
かがポイントになる。
学校教育用あるいは企業研修用として、「郡上八幡修学旅行・研修旅行用プログラ
ム」を用意している。また、「郡上八幡達人座」は郡上踊り以外の一般観光客など対
象として、郡上市八幡町の資源である「城下町の町並み」「おどり」「水」「職人
技」等をキーワードに、住民あるいは商業者、職人も先生として参加するパッケージ
プログラムである。
これらの取り組みを調査し、その方法や課題の抽出し活性化方策などの検討を行っ
た。
②地域の特徴
郡上市は八幡町・大和町・白鳥町・高鷲村・美並村・明宝村・和良村の7町村が合
併し、平成16年3月1日に誕生した。
郡上市は、岐阜県のほぼ中央部に位置し、東部は下呂市に接し、北部は高山市に、
西部は関市、福井県大野市および和泉村に、南部は美濃、関市に接している。郡上市
の中核である八幡町の、城下町としての歴史は永禄2年(1559年)に遠藤盛数によっ
て八幡山に城が築かれたことにはじまる。その後城主遠藤慶隆は城下町の整備に力を
いれ、神社の建立や寺院の開基につとめた。またそれまであちこちで踊られていた盆
おどりをひとつにして城下で踊ることを奨励したが、これが現在の郡上八幡の観光の
基礎となっている。その50年後の承応元年(1652年)城下の片すみで起きた火事は、
折からの風にあおられてまたたく間に燃え広がり、町全体を焼きつくした。6代城主
の遠藤常友は寛文7年(1667年)、焦土と化した町を綿密な計画のもとにその復興を
手がけ、まず4年がかりで小駄良川の上流3キロから水を引き入れ、城下の町並みに
そって縦横に走る水路を建設した。これは生活用水であると同時に大火を繰り返さな
いための防火の目的もあった。また近在の寺院を城下に集めて「八家九宗」を形づく
り、辻の突きあたりに配置して戦時のための防禦とした。通りの突きあたりに寺があ
り、道の両側を水路が走るという現在の町の景観の特徴はこの頃の名残りである。
53
郡上市の総人口は49,719人(平成16年3月31日現在)である。
産業別就業者比率は、1次産業が 6.2%、2次産業が 41.4%、3次産業が 52.4%
となっている。経年的には、3次産業就業者数が増加しているのに対し、1次産業就
業者数、2次産業就業者数も急激な減少を示している。財政力指数は合併前の八幡町
では0.35と県全体よりも低くなっていた。
郡上市の産業は、観光産業のウエイトがかなり高く、郡上市全体では、約690万人
(平成14年)の入り込み客があり、地域を代表する郡上踊り、歴史文化探訪、温泉、
冬期のスキー客がその多くを占めている。
郡上市八幡町には宗祇水(日本の名水百選の第一番目に選ばれた)、郡上八幡城
(歴代郡上藩主の居城、木造の再建城としては日本一古く、町重要無形文化財に指定
されている)、いがわ小みち(手づくり郷土賞受賞)、郡上おどり(7月中旬~9月
上旬、400年以上の歴史を持ち、国の重要無形民俗文化財に指定されている。4日間で
のべ10万人)などがあり、その他清流吉田川ジャンプコンテスト、郡上八幡春まつり、
郡上本染寒ざらしなどがある。
郡上市では、「快適で活力あふれる“わ”の里」を基本理念に、産業の振興など
「にぎわいと躍動感あふれるまち」、生活環境の向上など「快適で安らぎのあるま
ち」、伝統文化の継承と人づくりなど「すこやかで誇りのもてるまち」を目標に施策
を展開している。
も た い いぶ
特産品としては、鮎料理、みょうがずし、郡上本染、郡上紬、母袋燻り豆腐、みそ
など歴史文化や、水を活かしたものが多くなっている。
③活性化事例の取り組み状況調査
○実施時期
平成16年9月30日(木)
○キーパーソン(敬称略)
兼山 勝治
食品サンプル創作館
五味川 康浩
財団法人
古池 五十鈴
郡上踊りお囃子保存会
さんぷる工房
郡上八幡産業振興公社
54
館長
経営企画本部長
○活性化への取り組み状況
旧八幡町は、観光交流を基軸とした産業振興を図り、豊かで活力ある郡上八幡作り
を進めるために(財)郡上八幡産業振興公社を設立した。(財)郡上八幡産業振興公社で
は、産業振興に関わるイベント、コンベンションならびに新たな観光開発事業を展開
している。
<(財)郡上八幡産業振興公社>
(財)郡上八幡産業振興公社は、平成11年
7月の発足以来、公営施設(郡上八幡旧庁
舎記念館・郡上八幡博覧館・郡上八幡城・
八幡町サイクリングタ-ミナル・郡上八幡
城下町プラザ・愛宕駐車場・日吉駐車場・
記念館駐車場・博覧館駐車場)の管理運営
及び観光を主体とした産業振興ソフト事業
の企画開発及び推進を行っている。
郡上八幡旧庁舎記念館
具体的なソフト事業としては、以下の事業を実施している。
<郡上八幡博覧館>
博覧館では、郡上八幡の歴史や風土、
生活などの展示が行われており、短時間
で八幡についての紹介ができる。市内散
策などの起点としている場合が多い。
博覧館には踊りのコーナーがある。踊
りを見たいという要望が多く11時と1時
の2回、踊りの実演を行っている。体験
をするなら記念館、踊りを見るなら博覧
博覧館でのおどりの実演
館という位置づけになっている。
<郡上踊り講習会の開催>
郡上といえば郡上おどり(おどり・お囃子)であり、伝統ある郷土文化に触れ、
400年余りの歴史をもつ郡上おどりは、数千数万の踊り子で七重八重に輪が広がる一
大絵巻である。郡上おどりが成立した歴史的背景を学習し、体験館で踊りのレクチ
ャーを受け、郡上おどり保存会員の指導による郡上おどり体験講習等を実践してい
る。
郡上踊りの体験は、例年3千人程度だが、平成15年は大型ツアーにより屋外で屋
55
形を組み立て、踊り講習を行ったことにより、6,161人が踊り講習の体験を受けた。
この講習を受けることにより、認定書が授与され、受講者にとって記念となってい
る。
<体験型観光・郡上八幡達人座>
町を舞台に、腕自慢の職人さんや名人が力を合わ
せて創ったのが「郡上八幡達人座」である。自然や
遊び心いっぱいの人たちと、職人技の見学や体験を
通じて、観光客とのコミュニケーションと情報発信
を行っている。
ここのメニューは、川を活用したボートなどのア
ウトドアスポーツと伝統産業・地場産業を中心とし
たものである。
この郡上八幡達人座をビジネスに結びつけている
企業もある。食品サンプルの製造メーカーでは、10
食品サンプルづくりを体験
年ほど前から体験制作を行っていたが、非常に評判
が良かったため本格的な体験施設として整備した。その結果、この店を訪れる客が
増加し、店売り(店頭販売及び体験制作)が売上全体の大部分を占め、本業の注文
制作品の割合は相対的に低くなっている。この店では「郡上地域は、体験型観光が
ビジネスになる地域である」と言う。他の地域にない物を提供することにより成功
している好事例である。
その他のソフト事業としては、公社主催の体験教室の開催(トレッキングと雑穀
食文化)、観光イベント・ツアーの企画実施(郡上八幡七夕祭り、博覧館ウィーク、
郡上八幡城もみじ祭など)、郡上八幡とっておき食べ歩き、特産品の開発及び販促
(ふるさと便のインターネット販売、地場産品販促会の開催など)、見本市の開催
(浴衣フェスタ、地場産フェスティバル、郡上八幡本染め展)なども行っている。
郡上市八幡町では、観光客は町を訪れる
が各店の中に入らない課題があった。「郡
上八幡とっておき食べ歩き」は、その対策
として財団法人郡上八幡産業振興公社が観
光客を店に送り込もうと、食べ歩きマップ
を作成し、郡上八幡の特産品もつけて、こ
の地図を500円で販売している。
また、「郡上八幡修学旅行・研修旅行用
56
古い町並み
プログラム」を用意し、八幡町の資源である「城下町の町並み」「おどり」「水」
「職人技」等をキーワードに、住民も先生として参加するパッケージプログラムと
している。
郡上市八幡町では、歴史的な水路のある町並みを保存するために、町並み保存地区
(柳町筋、鍛冶屋町・職人町筋)を指定している。
○その他の活性化への取り組み状況
<やなか水の小径>
住宅に挟まれた水辺の小径であり、現在
でも生活と密接に関連した水路がある。切
り玉石による水の流れや水飲み場、水の湧
き出る石などがあり、観光客も多く訪れて
いる。小径沿いに「やなか三館」(奥美濃
おもだか家民芸館、斎藤美術館、遊童館の
3施設)がある。
やなか水の小径
<宗祇水>
全国名水百選に第1番に選定された銘水である。昔から住民の生活水として利用
されてきた泉水で、県の史跡文化財に指定されている。名前は、この地で草庵を結
んだ連歌の宗匠・飯尾宗祇が愛飲したことに由来している。
<いがわ小径>
郡上市八幡町で最も大きな水路沿いの
道。1mほどの狭い幅の水路にはカワド
(洗い場)が点在し、洗濯物のすすぎや
野菜を洗うのに利用され、また防火用水
としても役割を果たすなど、昔から地域
にとって重要な水路であった。清らかな
流れには、イワナ、アマゴ、鯉などが泳
いでいる。
いがわ小径
また、住民レベルでも町並み保存の動きがある。
郡上市八幡町の水利用システムが研究発表されたことにより、一般の人に郡上の
57
水路が認識され、そのことがきっかけとなり地元でも水路の保存が意識されるよう
になった。住民が水路を修理し管理することにより、きれいな水の流れを見えるよ
うにしたところ、観光客がたくさん見に来るようになった。それによって地域の人
も、町並みと水の大切さを感じるようになり、町並み保存会を結成した。保存会に
は、いくつかの委員会がつくられ、「建物審査委員会」は、住民自らの手で建築物
の基準を定め、審査を行い、「水路委員会」では、水路の維持管理をしている。
ゆうらくあん
「柳楽庵運営委員会」では、特産品などの土産物店を運営している。行政も、住
民の「まちづくり協議会」の立ち上げの支援、優れた建築物の表彰、美しい町並み
づくりのための活動に対する助成を行っている。
<観光案内人制度>
郡上八幡観光協会では訪れた観光客が城下町郡上八幡の風景や歴史を楽しく理解
できるよう観光案内人の手配をしている。このボランティアガイドは、郡上八幡観
光協会が全国に先がけて生み出した観光案内人制度であり、地元の人たちによるガ
イドである。案内料金は1回、案内人1名に付き2,000円(90分まで同じ)となって
いる。
58
④外部環境と内部要因の整理
郡上市八幡町における外部環境と内部要因を機会・脅威、強み・弱み別に整理する
と以下のようになる。
外
部
環
境
内
部
要
因
機会
・東海北陸自動車道・中部縦貫自動車道(油坂)の開通により高速交通網
整備が進む
・合併により市域が拡大した
・清流吉田川、宗祇水など水に関する資源が豊富である
・歴史的町並みが残存している
・郡上踊りの知名度が高い
・まちなかの散策路が整備されている(いがわ小径、水路など)
・特産品がある(鮎、郡上味噌など)
・せせらぎ街道をはじめとする優れた景観がある
・年間690万人(郡上地域全体)の観光入り込み客がある(郡上踊り、歴
史文化探訪など)
・古くからの地域の中心であり、他地域とのつながりが強かった
脅威
・人口減少傾向にある
・製造業をはじめ産業の停滞(観光産業のみに特化)
・行政支援の縮小が懸念される
強み
・行政主体の財団法人郡上八幡産業振興公社が活動している
郡上八幡修学旅行・研修旅行用プログラムを進めている
郡上八幡達人座において職人技の見学や体験を通じて観光客とのコミ
ュニケーションを図っている
・達人(職人)が存在する
・踊り、お囃子保存会が組織化されている
・市民レベルの町並み保存会がある
弱み
・自立的組織への移行ができていない(システムの再構築)
・郡上八幡達人座のプログラムにおいて実施する人の負担が大きい(ビジ
ネス化されていない)
・特産品が少ない
・NPO団体などとのつながりが弱い
<課題の整理>
以上の結果を整理すると以下のような課題が抽出された。
●郡上踊りという全国的に知名度が高いイベントを活用することにより、広域ネット
ワークを構築できれば、より地域活性化に結びつけることができる可能性がある。
●既存の観光資源に付加価値を与えることにより、リピート率を高め、滞留時間を延
59
ばすことで、地元での消費を増加させる必要がある。
●観光と交流に基軸をおいた(財)郡上八幡産業振興公社であるが、行政からの委託事
業が中心であり、自立した組織とはなっていない。今後行政からの支援が縮小する
ことも考えられ、自立が必要になる。
●郡上八幡達人座においては、各職人間において連携がとれていないこと、各施設が
点在しているため一体感がないことが指摘できる。郡上八幡達人座のメニューは豊
富であるが、これらを再整理することが必要である。
●(財)郡上八幡産業振興公社の存在が大きく、この組織が今後も中心となってまちづ
くりや観光振興を図っていくことになる。自立した組織として継続していくために
は、行政はもとより、地元産業界や市民も巻き込んだ支援体制が必要になる。
⑤地域活性化に向けての具体的方策例
(1)知名度の高い郡上踊りによる広域連携
郡上市八幡町は、多くの観光客が立ち寄り地として訪れているものの、宿泊を伴う
場合は少ない。今後、より観光客の満足度を高めるためには広域でメニューを増やす
ことにより少しでも滞留時間を伸ばすことも一つの方法である。そこで、知名度の高
い、観光客も多く訪れる郡上踊りで広域連携を図ることを検討する。
<具体的方策例>
ア)郡上踊りについても富山県八尾町で行われている民謡セッション(詳しくは八尾
町の章を参照)のイベントに参加することにより、踊りをテーマにした交流が生ま
れることになる。
イ)また、郡上市八幡町でイベントを行う場合には、民謡で有名な八尾町や五箇山に
協力を求め、郡上踊りのシーズンだけでない時期に観光客を呼び込むことによりオ
フシーズンを減らすことができる。(通年観光化)
(2)観光産業における付加価値化
郡上市八幡町は観光に特化した地域である。郡上踊り、歴史文化探訪、豊かで美し
い水、町並み、歴史文化施設などを目的に年間690万人(郡上市全体)の入り込みがあ
る。しかしながら従来型の見て回る観光はリピート率が低くなることは否めない。ま
た観光需要が今後とも拡大していくことも期待できない。そこでリピート率を高める
こと、滞在時間を長くして観光消費を促すことなどが必要になる。
60
<具体的方策例>
ア)地域において資源に付加価値を付け、リピート率を高め、滞留時間を延ばすには
ソフト面の方法を考えなければならない。その方法の一つは住民レベルでホスピタ
リティを高めることである。ホスピタリティを高めるということ自体は、決して難
しいことではないが、地域全体で行うことはかなり難しい。例えば観光客に気軽に
声を掛け会話をするとか、そこまでしないまでも挨拶をするといったことを地域に
住む多くの人が行わなければならないからである。
イ)最初は、商店の人や、サービス業の人から始め、住民運動にまで広げることがで
きれば、地域のイメージとしてホスピタリティのある町だということになり、観光
客の印象がよくなる場合が多い。
ウ)また、ホスピタリティの専門家としてのガイドの存在も重要である。地域の良さ
を伝えるプロとして、専門的な教育を受けた有償ガイドなど地域の語り部としての
人材育成を行うことにより、専門的なホスピタリティを発揮することができる。
岩手県遠野市は、柳田国男の小説等の舞台になったこともあり、他の地域にない
「語り部」のシステムが整備されている。観光協会が窓口になり高齢者による昔話
を地元の言葉で語っている。
エ)もう一つの側面として、来訪者に対し地元らしいもてなしを行うことも必要であ
る。その一つの方法は「食」である。地元の郷土料理を手軽に楽しんでもらうため
の商品開発と、その提供方法がポイントである。
大野・勝山地域では、おろしそばを地域商品として開発し、地元の代表的な食と
して成立させている。当地域においても、郡上らしい商品開発が必要である。
(3)(財)郡上八幡産業振興公社の自立化
(財)郡上八幡産業振興公社は、行政主体(依存)の組織であり行政から人的、金銭
的支援(委託事業)を受けている。現在、委託事業と、収益事業を合わせると、採算
的にはあっているが、行政の財政的状況により委託事業の減少など支援が減る可能性
があると思われる。
現在、行政が行っている町並み保全や歴史的文化資源の保存についても、行政サイ
ドの支援が減少することも考えられ、市民、行政、地元民間企業、経済団体などと共
に行わなければならない資源維持が、最大のポイントになる可能性がある。そのため
には、人材確保や収益性などの面が問題となる。
●収益性の向上
行政主導の事業の収益性を高めることは非常に難しい。収益性を高めるには売上
(収益)を上げること、経費を削減することである。収益性を高めるには次のような
仕組みを検討する。
61
<具体的方策例>
ア)郡上市八幡町では周辺地域もふくめ数多くの直販所が立地している。常設農産物
販売コーナー(郡上市八幡町小野Aコープ郡上本店内)、郡上八幡楽市楽座(郡上
市八幡町常盤町郡上八幡旧庁舎記念館前)の運営を譲り受けることにより収益の増
加を見込む。
イ)郡上八幡達人座に対するコーディネートをすることにより、紹介料(斡旋手数
料)という形で収入を得ることも可能であろう。
ウ)地場産品を生かした特産品開発も大きな収入源になる可能性がある。現在郡上市
八幡町には、特に著名な特産品や名産品がなく、明宝ハムなど市内特産品と連携でき
るような商品開発が必要である。
(4)地域としての活動への再構築
郡上八幡達人座は、地元の達人(その道の専門家)が教える体験型観光であり、ス
ポーツ、文化、産業などの様々な体験ができる。しかしながら、行政の働きかけで構
築されたプログラムであり、地域内においても「達人」間(企業間)においてすべて
連携がとれているとは言えず、個別の体験プログラムに留まっている。今後は、引き
続き各「達人」の確保による多彩なプログラムの提供と、各企業や、個人、団体を統
合した新しいネットワークの構築が必要である。
現在公社が行っている郡上八幡達人座の管理を収益事業に移行することを考えれば、
システムの見直しが必要になるであろう。
●郡上八幡達人座プログラムの再検討
<具体的方策例>
ア)郡上八幡達人座においても、郡上市八幡町でしか体験できないものというのは限
られており多くのものは他地域でも体験することができる。他地域と差別化を図る
には、様々な体験を組み合わせ、メニューの多様性を図ることである。他地域では
その多くが単体の体験であり、郡上のように様々な体験が一地域でできる場所は多
くないことから、他地域との差別化を図ることはできる。
イ)郡上八幡達人座は、そのメニューが多彩であるが故に空間的な広がり(地域内に
散在している)が大きい。そのため移動がともない、メニュー構成が難しい面があ
ると思われる。単体だけの体験ではなく、組み合わせの体験を考慮する必要がある。
そのためには市街地に施設を集約することも必要になると考えられる。
ウ)実際にこの郡上八幡達人座を利用してビジネスに結びつけている企業もあること
から、参加各企業がお付き合いで参加するのではなく、自らも楽しめ、ビジネスに
結びつけようとする意欲が必要である。訪れた客と一緒になってふれあい楽しめる
62
ようなホスピタリティービジネスと考える必要があるのではないかと考えられる。
(5)地域が一体となった支援体制
郡上市八幡町において地域資源を活かした取り組みは行政主導で行われ、基礎的な
部分は整備されている。しかしながら、地域の活性化という観点からは、それぞれの
取り組みがビジネスとして(収益を上げ雇用機会を増大させる)成立しているものは
多くない。個々の企業におけるビジネスだけではない、行政や経済界の支援も含めた
地域としてのビジネスの方向性を探ることが必要である。
現在公社が行っている機能をビジネスとして収益事業に移行する場合、現在、公社
の行っていた業務をそのまま行っていては、今までと変わらない。先にも述べたよう
に収益性の上がる事業を行うことによって事業として成立しなければならない。
●コーディネート機能の設置
<具体的方策例>
収益が上がる事業を行うとともに、まちづくり機関としての役割を果たす必要があ
る。そこで最も重要になるのが、まちをコーディネートする機能である。現在のよう
に委託業務中心から、より積極的に収益事業を行うために、新事業開発や、新商品開
発を企画立案する機能を持った組織とする。住民、行政、経済界、NPOなどがこの
組織を支持し、組織の形態によっては出資し、事業として成立できる組織にする必要
がある。
理想からいえば、この組織の収益で、まちづくりをコーディネートできるまでにな
ることが望ましい。
最終的には、まちづくり組織まで発展させ、行政と連携したまちづくりを進める事
業主体になることが目標である。
63
2-4.八尾町(富山県)
①概要
「おわら」をはじめとする資源を地域活性化に活かし、広域ネットワークへの取り
組みが行われている地域である。現時点で一応ビジネスとして自立しており、持続的
な展開の可能性がある。
五箇山のこきりこ(旧平村(富山県南砺市))や郡上市八幡町の郡上踊りとの広域
ネットワーク形成の現況と可能性を把握するとともに、実際の成果について把握する。
ここでの取り組みは広域ネットワーク構築段階初期にある。地元の資産である踊り
を中心にした地域づくりを行っており、連携によるビジネス化に向け自立した組織を
持ち、取り組みが行われている。
②地域の特徴
八尾町は、富山県の中南部にあり、岐阜県に接する。総面積は236.86平方キロメー
トル。岐阜県境には、金剛堂山(標高1,638メートル)を主峰に、白木峰、小白木峰、西
新山が連なる。町域の8割は山地。冬季間は積雪が1メートルを超える。この山々に
源を発する室牧、野積、別荘、久婦須川は北流して流域に段丘平野を形成し、町中央
部で合流、井田川になる。
寛永13年(1636年)加賀藩から町建ての許可を得て、町建てされてから約350年余の
歴史ある町である。かつて、養蚕、和紙などの商いで栄え、「富山藩の御納戸」とも
呼ばれ、「曳山」や「おわら」の文化が生まれた。また、坂の町としても有名な八尾
町には、往時から伝わる謂われや名称がある坂や路地が多く存在する。
人口は22,394人(平成16年3月31日現在)となっている。
産業別就業者比率は、第2次産業・第3次産業共に47.5%、第1次が5.8%である。
財政力指数は0.469であり、富山県下で18位となっている。
昭和55年から富山八尾中核工業団地の造成が始まり、ハイテク企業等の進出がめざ
ましい。
八尾町では、他の地方都市と同様、中心市街地の空洞化という問題を抱えていた。
しかも、町の財政の悪化により、観光振興などに対する町からの補助金がカットされ
るという厳しい状況が重なっていた。そこで「伝統文化という財産」を「観光という
産業」にすることが求められたのである。
そこで「おわら風の盆」という観光資源を「まちづくり」に生かして、「観光によ
る振興」と「地域ブランドの確立」を進めることこそが、八尾町の中心市街地、ひい
64
ては町全体の経済活性化にとって最も有効な手段であると考え、「おわら風の盆」を
主とした「伝統文化という財産」を、「観光という産業」に生かしていくことになっ
たのである。
おわらの歴史は「風の盆」を核として発展してきた。その始まりは元禄15年(1702
年)3月、祭礼の日を中日に三日間、お触れによって行われた祝事の廻り盆である。後
に陰暦七月の孟蘭盆となり、近代になって二百十日の台風よけと五穀豊饒を願う風の
盆に変わった。その間、大正から昭和の初期にかけて、おわらは胡弓や新作の歌詞、
初期の豊年踊りの改正、そして新作の男・女踊りが加えられ、発展してきたのである。
平成17年4月には、富山市、大沢野町、大山町、八尾町、婦中町、山田村、細入村
の7市町村が合併し富山市となる。
65
③活性化事例の取り組み状況調査
○実施時期
平成17年2月13日(日)、14日(月)
2日間
○キーパーソン(敬称略)
中村
美智則
八尾町商工会
事務局長
高島
正人
八尾町商工会
経営指導員
田代
忠之
浦野
光ヒロ
㈱池田屋安兵衛商店
布谷
博之
越中八尾観光協会
〃
企画部長
○活性化への取り組み状況
八尾町は著名な「おわら風の盆」を基軸として、八尾町商工会、越中八尾観光協会、
住民が一体となって地域の活性化、年間を通して観光客が訪れるまちづくりを進めて
いる。
すでに述べたように八尾町は、「おわら風の盆」で全国的に知られた町である。
この八尾町の知名度を上げ、これを起爆剤にして地域の活性化に向けた取り組みを
行っている主体は、越中八尾観光協会である。この取り組みの当初は、八尾町商工
会とともに、地元のイベントを活性化の主役にまで高めたキーパーソンや、越中八
尾観光協会の活動があった。現在、越中八尾観光協会の事業は、越中八尾観光会館
(曳山展示館)事業及び売店における販売事業、そして上記のおわら風の盆と、曳
山祭り関連の事業部門の3部門で構成されている。これらの各部門とも、町からの
受託費用を受けておらず、全て自主事業となっている。その中で中心になっている
のが事業部門である。この事業部門では、おわら関連商品の開発販売事業と、イベ
ント事業がその大半を占めている。人件費を含めた会館の管理運営事業、売店事業、
事業部門収支は現時点では黒字となっている。
越中八尾観光協会の取り組みは、おわら関連事業、および曳山関連事業、坂のま
ちアート関連事業が中心となっている。
66
<資源の資産化と、季節性のある資源・イベントの通年化への取り組み>
「おわら風の盆」を本格的な観
光資源にするためには、9月初め
の一時期に集中させることなく、
通年にわたって観光客が「おわら」
を楽しむことができる環境を作る
ことが必要であった。通年にわた
って「おわら」を体験できるよう
にするためには、「おわら」をい
つでも見ることができる場の確保
越中八尾冬浪漫
が必要であり、「越中八尾観光会
館(曳山展示館)」(昭和60年八尾町設置により開館)が建設された。また、より
踊りの「発表」の機会が増えることから、技能向上や保存育成という面でも効果が
あると考えたのである。
団体客からの要望に応えて実施する「おわら鑑賞」や「踊り方教室」を組み合わ
せ、9月の「おわら風の盆」では混雑のためになかなか味わってもらえない情緒と
雰囲気を感じ取っていただく機会を通年的に創出した。「おわら」の舞台としての
八尾町の町並みに惹かれて訪れる観光客に、9月の祭りの期間以外にも「本物」を
見せることができるようになった。
<通年観光の確立に向けての取り組み>
通年観光の確立のため、雪に埋もれる冬の時期に観光客を呼ぶことができるイベ
ントとして、「風の盆ステージ」にさまざまなサブイベントとアトラクションを交
えた「越中八尾冬浪漫」を平成10年から始めた。最近では、県内の代表的な民謡の
競演や、民謡のあり方をはじめとする地域活性化の方策、更には「まちづくり」を
考えるシンポジウムなどがプログラムに含まれるようになった。
また、笛や太鼓、三味線が奏でる囃子に乗せて、重さ4トンの曳山を男衆が曳き
回す勇壮な祭りである「曳山祭り」の関連で、囃子の後継者の確保と技術向上を目
的として、「曳山囃子鑑賞会」を創出した。こちらも冬のイベントとして定着して
いる。
また、八尾町を訪れる観光客にはリピーターが多いのも特徴の1つだが、住民が
総出で「おわら風の盆」の雰囲気を醸し出す装置としての町並みづくりを継続的に
取り組んでおり、その姿勢そのものも観光資源として多くのファンを虜にしている。
「おわら風の盆」の観光客数が近年毎年25万人程度で安定している一方、八尾町
への通年の入り込み客数は、平成10年度に34万人であったものが、平成14年度には
67
65万人にまで増加した。
<広域連携に向けての取り組み>
現在、越中八尾観光協会が中心となって他地域との踊りをテーマとした交流を行
っている。平成17年2月の「越中八尾冬浪漫」では、越中五箇山筑子唄保存会、越
中五箇山民謡保存会、越中五箇山麦屋節保存会、富山県民謡おわら保存会、西馬音
内盆踊り保存会(秋田県羽後町)が保存会レベルであるが参加している。
また、郡上踊りとおわらと五箇山筑子、麦屋節をセットにした旅行商品の開発も
進んでいる。
<坂のまちアート>
10月に開催される「坂
のまちアート」は町屋や
通りを展覧会場とした美
術展である。当初は有志
による取り組みだったも
のが今や周辺市町村にも
同様の取り組みがなされ
るようになってきた。ア
ートといった文化的な側
面も、観光として中心市
八尾町の町並み
街地に人を呼び込み、賑
わいの創出に効果的だと評価されてきているが、八尾町が発信元となり得たのも、
通年観光の一環として、あらゆる面に波及効果を生み出し続けていく、というまち
づくりへの理念が八尾町には形成されているからである。
<各分野との連携>
平成15年5月に、越中八尾観光協会が主体となって町全体のイベントをコーディ
ネートし、産業の活性化に貢献する「八尾町観光イベント連絡協議会」が設立され
た。
このことにより、既存の商店街や旅館組合などがバラバラに行っていたイベント
などを計画的に連携して実施されるとともに、一つひとつのイベントについても、
その効果や採算性への意識も生まれ、新たなイベントの創出も期待されるようにな
る等、さらなる観光の振興と地域の活性化が期待されている。
68
④外部環境と内部要因の整理
八尾町における外部環境と内部要因を機会・脅威、強み・弱み別に整理すると以下
のようになる。
外
部
環
境
内
部
要
因
機会
・富山市との合併を予定している
・踊りをはじめ伝統文化が残されている
・グリーンツーリズムの振興が行われている
・中心市街地が活力を取り戻しつつある
・古くは「養蚕・和紙・薬草」で物流の拠点であった
・中核工業団地がある
脅威
・合併で八尾の名前が消える
・人口が減少傾向にある
・高齢化、若年層の流出
・モータリゼーションの進展とライフスタイルの変化
・周辺の大型店へ消費者が流出
・商店街の後継者不足
・高山線が不通
強み
・活動の担い手としての越中八尾観光協会が自立している
・年間を通じてイベント(おわら風の盆、曳き山祭などの行事)を開催で
きる
・もてなしの心・共同体的気運が強く、積極的な市民参加ができる(坂の
町アートなどに住民が積極的に参加)
・市街地の活性化に対してTMOなどを活用している
・踊りを通じて他地域との交流がある
弱み
・駐車場、宿泊施設など受け入れ態勢が十分ではない
・先進的であるがゆえに新たな取り組みを続けなければならない
・組織維持(今後のビジョン、人材など)に課題が残る
<課題の整理>
以上の結果を整理すると以下のような課題が抽出された。
●おわら風の盆は全国的に知名度が高いイベントであるが、その伝統を維持保存する
ためには現在の支持層の拡大や次世代の後継者の育成などが必要である。
●おわら風の盆を活用し、すでに行われている広域ネットワークをより拡大すること
により、単に広域観光ルートの目玉としてPR活動を行い集客力を高めるだけでな
く、一層の通年化など新しいビジネスチャンスを広げることにもなる。
69
●新しいビジネスとして特産品の開発も必要である。おわら風の盆というイメージを
利用することにより、来訪者に買ってもらえる土産物や、ネームバリューを生かし
た商品の販売など可能性は大きいと考えられる。
●風の盆の3日間にどうしても集中する観光客を制限することにより付加価値を高め
ることも検討する必要がある。その、希少性により参加できることにステータスを
与えることができれば、顧客の満足度を高める効果が期待できる。
⑤地域活性化に向けての具体的方策例
越中八尾観光協会は、八尾町商工会と一体となって、おわら風の盆による地域づくり
を進めてきた。また、坂のまちアートなどによる住民を巻き込んだ取り組みも成功して
いる。加えて、風の盆の知名度が上がり、来訪者の増加にともない通年観光化を進め、
越中八尾観光協会自体も、自立していると言える。この結果だけを見れば、現在の段階
では成功していると言える。
(1)おわら風の盆の継承
現時点では多くのイベントを支えているのは11の町内にある保存会である。踊り手、
お囃子、歌などそれぞれにパートがあり、伝統芸能の伝承という側面からは機能してい
るといえる。また、人材育成という面でも後継者育成プログラムが伝統的にあり、それ
自体も一応機能している。
1)水平的維持プログラムの必要性
<具体的方策例>
ア)将来的に見ると、他地域の伝統芸能がそうであるように地域内の人だけではそれ
らの維持が難しい状況になると考えられる。そこで、現在11の町内に限られている
伝承者を八尾町全体、あるいは他地域の人も含め支持層を拡大していくことが必要
である。
イ)講習会あるいは研修会制度を設けおわらの神髄を伝授し、収得者には免許を出す
などにより支える底辺を拡大していくことも重要である。地域の中だけでは維持し
続けることが難しいという認識を持つ必要がある。
2)垂直的維持プログラムの必要性
<具体的方策例>
ア)他地域の人にもおわらを踊ることを認めるという水平的な維持方法に対し、地域
に住む子どもに対し小さい頃から教育することにより垂直的(世代的)維持プログ
70
ラムを策定する。
イ)具体的には、小学校や中学校で、教育プログラムの一環としておわらを経験させ、
八尾町に住む人なら誰でも、おわらを踊れ、歌え、お囃子ができる状況を創り出す。
このことは、単に伝承すると言うだけではなく、八尾町あるいは八尾町に住む人の
アイデンティティともなり得る。
(2)おわら風の盆のビジネス化
おわら風の盆をビジネスとして活用し、地域の活性化を図ることも重要である。
●踊り手、歌い手、お囃子のプロ化
<具体的方策例>
ア)おわら風の盆をビジネスとして成立させるには、保存会に依存するだけでなくい
わゆるプロ化する必要がある。支持する底辺が広がれば、おわらを職業として成立
させることができる可能性がある。民謡で言うならば津軽三味線に代表されるよう
に、芸術の域にまで達することができれば、アーティストとしてビジネス化できる。
各地でコンサートを開いたり、出演料を取ってイベントに参加したりすれば、ビジ
ネスとして成立し得ると考えられる。
イ)おわらという民謡は、大衆的なものからお座敷芸的なものまで広いジャンルを持
っている。そこでそれらを体系的に整理し、大衆向けには踊り方教室や、お囃子体
験の取り組みや、お座敷芸的なものは芸術性を高める取り組みを行うことによって、
ターゲットを決めた商品として展開する。
(3)おわらを通した広域ネットワーク化
現在でも、五箇山とは通年交流があり、八尾町のイベントに五箇山のこきりこが
参加することは頻繁に行われている。また、郡上踊りとの連携も、具体化しつつあ
る。
<具体的方策例>
ア)連携のメリットは来訪者のルート化であり、ルート化することにより来訪者の増
加を目指すのである。来訪者が増えれば、地元で消費される金額(飲食・お土産な
ど)も増え、地域の活性化を進めることになる。五箇山、郡上市八幡町だけでなく
踊りをテーマにした連携を積極的に進める。
イ)岐阜県北部から北陸地域の各観光資源とのネットワーク化を図る。その観光資源
を巡るルートを地元で商品化する。観光資源単体を販売するより、他地域と連携し、
メニューを増した方がより多くのメリットがある。
71
(4)特産品、土産物の開発
八尾町にはお土産・特産品として地域の独自性のある商品として確立されたもの
が少ない。そこで地元農産品の特産品化や、かつての主要産品であったかいこ(養
蚕)や和紙を活用した新しいおみやげ物の開発を行う。
<具体的方策例>
ア)コンサルタントなどの協働により、新しい商品開発を進める企画組織を設立する。
この組織は、プロダクトアウトにならないように、売れる商品・サービス・技術な
どを探し出す(商品ハンター)機能と、売れる商品を作り出す(商品プロダクト)
機能を併せ持ち、農産品から加工品、土産物、製造品、サービスまでをフォローで
きる組織とする。
イ)おわらあるいは八尾町が持つ歴史性・文化性を取り入れた地域コンセプトに乗っ
取り、一貫したイメージの新商品開発を進める。
(5)来訪者を制限することによる高付加価値化
<具体的方策例>
来訪者を増やすことだけでは、その弊害も発生する。八尾町にしろ五箇山にしろ、
そこに収容できる量は限られている。それ以上に来訪者があれば、その満足度が低
下し、リピーターを失うことになりかねない。そこで、白川郷や尾瀬などで行われ
ている入場制限を設け、適正な人数だけを来訪者として迎え入れるようにする。入
場料を取ることは難しいが、駐車料金や保存のための協力金などを徴収することに
よって収益とする。これを使って維持補修、育成のための基金とする。
72
3.観光的要素が強い地域の資源活用の留意点
地域には、様々な資源がある。しかし多くの人がそれに気づかないことが多い。自分で
見て歩き、自分の住んでいる地域を深く掘り下げ、自分の言葉で語って、地域を自覚し、
ものづくり、地域づくりに役立てていく、このことが資源の発見・発掘である。地元の人
が自ら調べて詳しくならなければ地域を活性化する当事者には成り得ない。
地元の人は、日頃見慣れているモノに対して、その価値に殆ど気が付かない。そこで外
の人の目や耳を借りながら資源を発見・発掘していくことが必要である。地元の人にとっ
て価値があるとは思えないモノが、他地域の人にとっては大きな価値を持っていることは
多い。
1)地域活性化のステップ
<第Ⅰステップ>地域活動の萌芽段階
地域において危機感や意欲を持った個人が現れることが当然ながら必要である。そ
の個人がキーパーソンである。そのキーパーソンを中心に少人数のグループが形成さ
れる。このグループを中心に、活動がスタートする。
実際にはこのような少人数のグループが形成される以前は、各個人がバラバラであ
り、互いの情報も持たない、行政や商工会議所・商工会の取り組みの情報もない状況
がある。このことは逆に行政や商工会議所・商工会が支援したくてもその対象がわか
らない状況でもある。
もう一つの方法として、行政主導での活動がある。これは、行政サイドで地域の活
性化のために地域住民を巻き込んで活動を進めていくもので、日本各地で数多く行わ
れている。もっとも、最後のステップまで行政だけで行うことはできないため、この
ステップをきっかけにするというものである。
実際にこのステップにおける活動内容は、地元にどのような資源があるか、知られ
ていない資源で来訪者に感動を与えることができるものはあるか、それらを発見・発
掘することである。もちろん発掘するものは「もの」だけではなく、「人」であった
り、「物語」であったり、「歴史」であったりする。これらを体系的に整理し情報発
信できるレベルまで高める必要がある。そのためには発掘のための組織作りも必要に
なる。
今回の調査では、大野市・勝山市で調査を行った限りの取り組み状況がこのステッ
プにあたる。地元に危機感があり、キーパーソンは存在するものの、具体的な取り組
73
みにまでは至っていない。
このステップの重要な点は、資源の掘り起こしを行い、再認識した上で、資源の情
報を蓄積し、そしてその情報を発信することである。
調査対象とした両地域においては、地域外の人(この場合は広域連携企画ワーキン
ググループメンバー)から見ると貴重な資源が豊富に存在するにもかかわらず、地元
の人は、気がついていない状況にある。地域資源を評価、再発見するため、本調査に
おいては、地元キーパーソンを中心とした調査組織と広域連携企画ワーキンググルー
プメンバー(地域外の人)とが一緒になり、地域を調べる。その結果、地元の人にと
って、あたりまえであると思っているものの中に、実は地域外の視点からは、資源と
して価値の高いもの(人が興味を抱くもの)を見つけ出すことができるはずである。
それを情報として整理しデータベース化することが必要である。いつでも取り出せる
状況にあれば、このデータベースを使ってインターネットなり、文字情報(パンフレ
ットなど)で情報発信が可能になる。
資源の発掘方法
●地域資源調査組織の発足
・地域資源の発掘は、キーパーソンを中心に、行政が支援し、調査員を募集(自
薦・他薦)する。調査員は地域のことに詳しい人であれば誰でも参加できる。
(基本的には無償ボランティア20名ほど)
・調査組織は学識経験者などをチーフに組織化し、体系的に地域資源の発掘を行
う。既存の観光地という枠にとどまらず、調査員独自の判断も含めて調査を行
う。
・収集した資源は調査組織内部で検討評価を加える。この際には、地域外の人も
加え、都市住民など他地域の人が見た視点を加えなければならない。
・検討した結果として、地域におけるコンセプト(地域の売り物)に合致したも
のが発見され、それらの組み合わせで他地域の人にとって価値あるモノが見つ
かることが望ましい。
・また。多様性も重要である。多様なメニューはより多くの人を引きつけること
になるからである。
・収集した資源は、統一のフォームで整理しデータベース化する。
・この情報に新たな価値(後述)をつけ、インターネットや機関誌、メディアな
どにより発信する。
本調査の対象地域には、自然景観、歴史文化や建造物など活性化に資する地域独自
の資源を有している。これらは、他の地域にないオリジナルなものであり、これらを
74
活かして地域を活性化したいと考えるのは当然のことである。
資源は存在であってそこから生み出される価値は社会生活においてほとんど無関係
である。資源を資産化するとは、資源に価値を与えることである。
たとえば、物に物語を付加する、あるいは同じ資源を違う見方で見直すことである。
モノに物語を付加し、資産価値を高める取り組み事例
・スキージャム勝山では、夏場にどのようにして観光客に来て頂くかが課題の1
つである。そこで、リゾート会員を対象に、吉峰寺から永平寺に至る山道を歩
くツアーを1泊2日で企画して、前夜祭として道元禅師や白山の話を講師が語
る。
・当日山道を歩くことにより、前日の講演の内容が現実になる。観光客は、パン
フレットによる薄い知識より、講義による深く広い知識を得た上で、道元禅師
が歩いた道を自分が歩くことにより、道元禅師の気持ちまで汲み取ることがで
きる味わい深い経験を得たのである。 (スキージャム勝山(福井県勝山市))
資源を資産化すると言うことは、在るものを他の地域の人に見せられるようにする
ことだとも言える。歴史的な資源を整備することにより観光地として成立させること
は、多くの地域で実践されている。
歴史的資源を活用し、広域から観光客を集めている事例
・郡上市八幡町は、郡上踊りで知られた城下町である。踊り、町並み、豊かで美
しい水を資源とした奥美濃最大の観光地である。
・郡上市八幡町では(財)郡上八幡産業振興公社が、まちづくりと、人を呼び寄
せ、人をもてなす仕組みを作っている。最大のイベントである郡上踊りの客以
外の観光客を当地域へ如何に呼ぶかがポイントであった。
・そこで八幡町(当時)は、城下町の保存と整備を積極的に行い(宗祇水、博覧
館、いがわの小径、水路のある風景など)散策路を整備した。あわせて、これ
らをルート化し、観光客が立ち寄った各施設で積極的にPR活動を進めた。
・あわせて、修学旅行・研修旅行用プログラム、職人技や、スポーツなどを体験
できる郡上八幡達人座を通じて観光客とのコミュニケーションを図っている。
・また伝統芸能である郡上踊りを保存するため、保存会を結成し、これを利用し
た体験なども行い、踊りの季節以外でも楽しめる工夫を凝らしている。
(郡上市八幡町)
75
農業が主幹産業の小さな温泉地が我が国有数の健康保養地になった事例
・温泉、スポーツ、芸術文化、自然環境といった生活環境を整え、住民の暮らし
をより充実し落ち着いたものにし、湯布院独自の保養温泉地を形成した。その
ために、美しい自然と豊かな温泉、そしてそれらをいつでも誰でも享受できる
施設と、洗練された文化が最大の資本となる。
・昭和56年には、環境庁から国民保養温泉地の指定を受け、それまで守り育んで
きた自然の山野と温泉、そして新しく育んだ文化は、湯布院町の経済活性化の
「打ち出の小槌」となり、町づくりへの百年の大計がここにきて定まった。
・湯布院町は「もっとも住み良い町こそ優れた観光地である」との考えを持ち、
豊かな自然と温泉、そこに住む人々の充実し落ち着いた生活が、湯布院町の最
大の観光資源であるという住民の合意が形成された。
・住民・行政の協働システムは、クアオルト構想推進委員会など、その後の住
民、行政が一体となった町づくり方式として定着。一連のイベントは、やがて
湯布院町を一躍全国レベルの知名度を持つ町へと引き上げた。
(大分県大分郡湯布院町)
76
<第Ⅱステップ>地域活動の確立段階
第Ⅰステップでの小グループでの活動を、地域(行政、住民、企業など)が支援す
ることによって、地域活動へとレベルアップが重要である。このステップでは、キー
パーソンを中心とする小グループでは資産・情報・人材などの面で対応しきれないた
め、キーパーソンの拡大、言い換えれば、核となる組織づくりが必要になる場合が多
い。その形態はNPOであったり、第3セクターであったり、株式会社であったりす
るが、これらが組織化されることにより地域活動として強化される。
更に人を呼ぶためには、受け入れ態勢や、もてなし方等のホスピタリティを高める
ノウハウ、つまりソフト面での充実が必要である。
今回の調査では、旧清見村のひだきよみ自然館、および郡上市八幡町の(財)郡上八
幡産業振興公社の取り組みがこのステップにあたる。これらの地域では、旧清見村の
自然と木工、郡上市八幡町の郡上踊りと水と文化をそれぞれのテーマとし、行政が中
心となってハード面の整備や組織作りが進んでいる。あとはここにソフト面の能力が
確立できれば、ビジネス化へ発展できる可能性が非常に高くなる。
○キーパーソンと取り組み組織の役割
地域における取り組みには、各取り組みの中心となって進めている人「キーパーソ
ン」(行政主導であれ、民間主導であれ)の存在が大きい。キーパーソンの存在は、
自らが発議し、仲間を集め、活動を企画し、実際に活動を行うといった点でその活動
自体を左右するため、最も重要である。
しかしながら、取り組みが具体的になり、実際の事業を実施するにはキーパーソン
といった個人の集まりではなく、どうしても組織が必要となる。特に取り組みを持続
発展させるためには個人の力だけでは難しい部分があり、また、行政などの支援を受
ける場合でも、その受け皿としての組織が必要になる。この組織の構成メンバーにつ
いても、各段階で様々な役割を持ったメンバーが必要になる。初期の段階では問題意
識と情熱があれば発議することができる。しかしながら地域の取り組みとするために
は、これに同調する人が必要になる。また実際の行動を起こすに当たっては、グルー
プを引っ張っていくリーダーが必要である。次には他の組織・団体やあるいは自分達
のメンバーを調整することも必要になる。このように組織を構成するメンバーはそれ
ぞれの段階で様々な役割を持った人が必要になる。
このように、地域活性化を成功させるためには、それを担う人材を確保することが
特に重要である。地域活性化が実現している地域をみると、そこには、地域づくりに
熱い情熱を持った強いリーダシップを発揮している市民や行政職員がいる場合が多い。
先ず地域おいてこのような人材を発掘することが必要である。その強力なリーダーの
元に、それを支える人材を確保し、効果的な推進体制を構築していく。また、地域づ
77
くりの取り組みに継続性をもたせていくためには、そのリーダーに続く多数の人材を
発掘・育成するシステムを構築していくことが重要となる。
また、本調査のもう一つの目的である広域連携を図るためには、人レベルのネット
ワークから、組織同士での地域間の広域ネットワーク化を図ることが地域の活性化を
より推進することになる。
地域を支える人材の育成の事例
・大分県では、実践的な活動家の育成として、豊の国づくり塾という施策を実施し
ている。地域づくりのリーダーを育成するため、地域の若手を中心とする塾を設
置し、地域課題にそったテーマについて、調査・研究や実践活動を行っている。
・地域づくり団体の充実のために、地域づくり団体間の情報交換、相互交流等を促
進し、活動の活性化を図るため、研修会の開催、全国交流会議への参加、地域づ
くり団体へのコーディネーターの派遣、情報紙の発行等に要する経費を負担して
いる。
・実際に、この塾の卒業生は平成16年度には累計2,000人を超えている。
(大分県文化振興課一村一品運動推進室)
○ソフト面の整備
①対外的なプログラム
基本的には情報発信であるが、ただ発信すればよいのではなく、誰にどの様な情報
を、どういう方法で、いつ、どこで発信するのかを確定しなければならない。ただイ
ンターネットに載せるだけでは、情報発信したことにはならない。基本的には、地域
のPRであると考えるべきである。チラシの配布、DM、テレビ・ラジオ・新聞・雑
誌などのマスメディアなど活用できる手段は数多く存在する。
しかし、ここで最も重要なのは、コンテンツとターゲットである。どのような人に
来てもらいたいか、そのためにはどのようなコンテンツが必要か、また適した媒体は
何か、予算はどの程度でどれぐらいのリターンを求めるかが明確である必要がある。
もう一つには旅行エージェントとのタイアップがある。地元側で資源を確保・ルー
ト化し、それを旅行エージェントに売り込む。旅行エージェントは資源の掘り起こし
をしなくてすむ分だけコストが節約でき、両者にメリットが生じる。
また、顧客の囲い込みという側面からは会員システムも考えられる。そのためには
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実際に来て頂いた来訪者をいかに会員にさせるかというノウハウが必要であり、その
最大のポイントは地元の人達の対応ホスピタリティであろう。またフィルムコミッシ
ョン(国内外からの映画テレビ番組、CM、などのロケーション誘致を行うと共に、
地域として制作活動に協力、支援する。関連組織住民との調整などを行う。)や、小
説の舞台、絵画や詩や楽曲など素材としての提供も考えられる。
中山間地域におけるフィルムコミッションの事例
信州上田フィルムコミッションでは
1.上田地域全体のロケーション紹介(場合によっては、周辺市町村)と協力した
ロケーションハンティングおよびロケーション撮影の手配
2.ロケーションハンティング時のナビゲーターと地元協力を得るための手配
3.ロケ時の弁当、ケータリングサービス、クラフトサービスの紹介
4.宿泊の紹介
5.撮影機材、車両、備品等のレンタル紹介
6.エキストラ手配
7.各種許可申請の代行および仲介
8.文化財等のロケに関する手配
9.ロケーション撮影時の同行
10.FCサポーター登録制度
などを実施し、映画、ビデオ、ミュージックテープ、スチールなど数多くのロケ
地となっている。市内および周辺地域の宿泊施設、飲食店等に波及効果が大きい。
(信州上田フィルムコミッション(上田観光CV協会))
②地域的なプログラム
基本的にはホスピタリティ(もてなしの気持ち)の醸成である。
宿泊施設、各観光資源、飲食店、物販店だけではなく、まち全体がホスピタリティ
を持って来訪者に接することが出来れば、来訪者にとっては安らぎや安心感や親しみ
といった付加価値が醸成される。その為には、地域活動として定着させることが必要
である。
例えば、子ども達も含め挨拶をする「挨拶運動」から始まり、地元の人は来訪者と
見れば必ず声をかける「一声運動」、宿泊施設や店舗の従業員や経営者が、ツアーコ
ンダクターとして地元を紹介できるガイドとなること、住民一人一人が地元に対し誇
りを持ち、自信を持って地元の良さを語ることができること、そしてプロの語り部が
79
有償でガイドとして成立するような仕組みを作ることなどができれば来訪者は「人」
の満足度が感動に変わることになる。
資産化された資源は、ただ持っているだけでは新しい価値を生み出さない。これを
活用・運用しなければ新たな価値は生まれないのである。その生み出された価値に対
して来訪者や住民は対価を払う。その収入により生計を維持する事で、継続性が生ま
れる。ここではこのことを資本化と表現する。資源を資産化し資本化すること、これ
がビジネス化するということである。
80
<第Ⅲステップ>地域活動の発展
このステップでは資産を資本化する事によりビジネスとして確立するステップであ
る。資産は持っているだけでは価値を生み出さないので、価値を生み出す仕組み(ビ
ジネスモデル)づくりが必要である。地域がこの段階を迎え、ビジネスが成立するこ
とによって、地域の活性化は成る。
地域独自のビジネスを展開するには、第2ステップで述べた地域における組織が最
も重要である。この組織は、単に行政等の支援の受け皿ではなく、また、イベントな
どを開催するにとどまらず、地域活性化におけるその組織の使命を明確化し、ビジョ
ンを提案し、そのための戦略を構築していく必要がある。その戦略に沿って、実際の
事業を実施することが求められるのである。
活性化に取り組む組織の自立化に向けた事例
今回の調査地域における組織としては、越中八尾観光協会や、郡上市八幡町の
(財)郡上八幡産業振興公社などがこれにあたる。
越中八尾観光協会は、おわらをテーマに観光の通年化により地域の活性化を図ろ
うとしているし、五箇山などとの連携を進めており、広域連携への入り口的事例と
考えられる。越中八尾観光協会は、行政からの受託費用は受けておらず、自主事業
を行うことで収入を得ており、雇用も創出している。
(八尾町)
(財)郡上八幡産業振興公社は、地域ビジョンである「水とおどりと心のふるさと
郡上八幡」の発展により、観光交流を基軸とした産業振興を図ろうとしている。
(財)郡上八幡産業振興公社は、行政が作った組織であり、実際には行政からの受託
事業により存立している。博覧館などの売店売り上げが前年に比べ伸びており、徐
々に自立化へ向けた取り組みを進めている。
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(郡上市八幡町)
<第Ⅳステップ>広域ネットワーク構築段階
そしてもう一つの側面が、広域連携である。いくつかの地域が互いに補完しあうこと
により、より魅力のあるビジネスに展開できる可能性は少なくない。たとえば観光とい
う機能を宿泊機能、飲食機能、レジャー機能、文化機能などに分割し各地域がそれぞれ
の機能を分担しあうことにより一つのまとまった魅力ある地域の形成が考えられる。
もう一つの連携は、例えばテーマ(祭などのイベントなど)での連携である。この場
合は、近接している必要はなく空間的な自由度は大きい。実際には連携していないが、
東北3大祭や、陶磁器祭などが連携できる可能性がある。
今回調査の目的の一つである広域連携は、言葉で言うほど簡単なものではない。加え
て地域の活性化を目的とした広域連携は、プランやビジョンなど計画レベルのものにと
どまっている場合が多い。
ただ、(広域)連携は有効な手段であることは言うまでもない。地域に存在する資源
は限られたものであり、これを広域化、連携化することによりメニューを増やしたり、
バリエーションを広げたりすることは新しいビジネスを生み出すためには必要であり、
有効である。従来ではできなかった事業が、連携することにより他地域の資源を使って
実現できる場合もある。また広域観光といったルート化、滞在時間の延長が実現すれば
地元の産業へも良い影響を与えることができる。
広域連携は地域的なつながり(隣接している地域)であったり、一つのテーマによる
つながりであったり、歴史的なつながりの再構築であったり様々な形態がある。しかし
ながら、実際に広域連携を行ったことにより地域が活性化した例は多くない。
その要因は連携を求める側に問題があるのではないかと思われる。今回調査において
検証できたことは、連携という関係ができるためには双方が自分達の取り組みを確実に
成果として発信できることが前提であり、自らは何を連携先に提供でき、連携先からは
何を得られるのか、そしてそれを自分達の活性化にいかに役立てることができるかを認
識したうえでなければ成立しない。言い換えればギブ&テイクの関係が成立するかどう
かである。自らが何を提供できるかが明らかでなければ連携関係は成立し得ないのであ
る。
地域での取り組みを地域が一体となって積極的に進めてこそ次のステップとして、地
域連携が成立するということである。
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本調査において、地域資源の発掘・資源の資産化、資産の資本化の過程、およびキーパ
ーソンと取り組み組織、活性化のステップを図に示すと、以下の図のように整理できる。
広域連携
広域ネットワーク
化
組織の拡大
地域内ネットワーク化
活動の自立化
地域活性化へのステップ
キーパーソンの拡大
取り組みの組織化
行政との協働
キーパーソンの存在
行政主導
資産の資本化
資源の資産化
広域としての活動
資源の発掘
小グループでの活動
Ⅰ.地域活動の萌芽
地域としての活動
ビジネスの成立=地域の活性化
Ⅱ.地域活動の確立
83
Ⅲ.地域活動の発展
Ⅳ.広域ネットワーク構築
2)地域活性化の支援機能
○アドバイザーの支援
地域の活性化を進めるためには、組織作りが必要である。この組織が中心となって、
地域の魅力づくりを進め、これらの取り組みを更に活発化させることが必要であるが、
現実問題として必要な人材やアイデア・ノウハウ等が不足している地域での取り組みが
多く見受けられる。実際に取り組んではいるもののうまくいかない場合、活動している
当事者は良いと思っていても、第三者的あるいは外部から見ると課題がある場合など様
々な状況がある。更に、これらの取り組みが持続的に発展する仕組み、つまり、ビジネ
スとして成立させる必要がある。
これらの状況を打破するために、1つの有効な手段としてアドバイザー的な機能が求
められる。本調査では、そのアドバイザー的な機能として、対象となった各地域に広域
連携企画ワーキンググループメンバー(他地域の人材で構成)が訪問し、地元のキーパ
ーソンや組織の中核的メンバーと交流することにより、新たな視点からのアプローチを
試みた。今回の広域連携企画ワーキンググループのメンバーは、実際に各地元において
活性化の活動を経験し、かつ理論的にも卓越した方々であり、地域活動におけるコンサ
ルタント的な役割を果たすことができる人材である。
アドバイスは、前述のステップの全ての局面において、様々な立場の様々なアドバイ
ザーにより、様々な問題点や課題に応じて的確なアドバイスができる仕組みが必要であ
る。
●アドバイザ-機能の今後の展開方向としては次のようなことが考えられる。
・地域づくりの専門家を組織化する。実際には、行政が地域づくりの専門家を集め組
織化したり、既存の地域づくり専門組織の活用を図る。
・今回調査の場合であれば広域連携企画ワーキンググループを核とし、人的ネットワ
ークを構築する。各地でプロとして、地域づくりや活性化に携わっている人、成功
させた地域のキーパーソンなどのネットワークを構築する。このネットワークを活
用し、現在取り組み途上の地域活性化のキーパーソンに対して、実際の取り組みを
通じて指導し、取り組みを円滑に進めたり、キーパーソンや組織の人材育成のため
の研修などを行う。
・行政と民間の中間的な存在とし、行政の支援を受けつつも独立性を維持し、ビジネ
スとして各事業は成り立つような調整機能を果たす。
・各取り組み間の調整を行うとともに、地域が一体としてまとまりがあるよう、行政
機関などとも調整を行う。
84
本調査における地域とキーパーソンとアドバイザーの役割
地域活性化組織
地域活性化組織
地域における
個々の活動
資源発掘
、
、
農行活
協政動
キーパーソン
資源の資産化
資産の資本化
ビジネスの成立
、
金商支
融工援
機会
関議
な所
ど ・
商
工
会
地域の活性化
キーパーソン
問
題
点
・
課
題
地域における
個々の活動
地域活性化組織
キーパーソン
広域連携
地域における
個々の活動
地域活性化組織
キーパーソン
地域における
個々の活動
ア ド バ イ ザ ー
○地元行政、経済界の支援
地域における取り組みはキーパーソンやそれを取り巻く組織の情熱や努力だけでは、
地域としての流れとはなりにくい。地域での活動を実践しようとすれば、最初に課題と
なるのは人材面と経済面である。これらは活動の両輪になるものであり、キーパーソン
やその周囲の人達だけの組織では自ずと限界がある。そこで必要となるのが地域の活動
に対する支援である。ひとつは行政の支援であり、もう一つが商工会議所や商工会、商
店街組合、観光協会などを始めとする経済界の支援である。
実際に、今回の調査地域においては、行政における支援はある程度行われている場合
が多い。特に行政主導で活動に取り組んでいる地域(岐阜県旧清見村や郡上市八幡町な
ど)では積極的な支援策がとられている。しかしながら、経済界の支援となると、実際
に行われている場合は少ないようである。イベントにおける寄付や協賛といった一時的
なものはあるが、活動自体への支援や、キーパーソンやその組織と一体となって活動を
推進するといった事例は余り見られない。今後はキーパーソンを中心とする組織が、行
政の支援を受けつつ自立独立し、その組織に対して経済界が支援するといった形態を考
えていく必要がある。
●今後の展開方向として以下のようなことが考えられる。
・地元サイドでは、キーパーソン、行政、商工会議所・商工会、金融機関、関係団体
などによる専門的支援組織を組織化する。
・この組織は地域の活性化を目的とした第三者組織であり、地域の全体フレームの構
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築、各種プロジェクトの立案、事業プランの作成支援を行うこともできることが望
ましい。
・あわせて国や県、市町村、商工会議所・商工会等の助成・融資手続、マーケティン
グ等のコンサルティング、ボランティアなど人材の登録などによる人材提供、研修
講演の開催などを行う。
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4.まとめ
今回の調査で前述した4つのステップの内容は、事例研究からみて、以下のように整
理できる。
地域活動の萌芽期では、熱意を持ったキーパーソンの力だけで地域活性化への取り組
みをリードしていくことは、極めて稀な例であるといえる。この時期にはどうしても行
政や商工会議所・商工会、その他経済団体など公的あるいは公益的機関が取り組みをス
タートさせ、それに住民を巻き込んでいくという手法が、一般的であるようだ。しかし
ながら行政の完全主導で行うと住民を巻き込んで地域としての取り組みまで高めること
は難しいと考えられる。
地域資源や、取り組みを行おうという組織がない場合は、取り組み当初から、行政を
中心とした組織を立ち上げる他はない。その場合でも、地域におけるオピニオンリーダ
ーや、地域活動を行っているいわゆるキーパーソンと、行政や商工会議所・商工会など
が一体となった組織を設ける必要がある。この組織を次第に発展させ事業プランを作る
企画機能を果たしたり、実際に事業を行う事業主体になれるように、行政、商工会議所
・商工会が支援しなければならない。
また、この組織は、組織的に自立化することが望ましく、立ち上がり時期を過ぎた場
合は、独立採算で経営ができるように、常時、収益性とコスト管理を行わなければなら
ない。そのためには、地域にある資源の何を基本コンセプトととするか、地域のイメー
ジをどう構築していくかをマーケティング的な考え(顧客志向)で構築していく必要が
ある。
また、広域連携は、各々の地域で活性化への取り組みが活発に行われていることが前
提になる。提供できるものがない地域同士では地域連携は成立し得ない。広域連携は互
いの地域の補完機能を果たすこと、そしてその相乗効果により、一層の活性化が図れる
ことがポイントであり、そのためには各地域において、活性化への積極的な取り組みと、
その成果が求められる。この場合、異なったテーマでの連携による補完機能とともに、
同一テーマの連携による競合関係から補完関係への構築が図られれば、集積の魅力によ
って地域活性化が図られた例も多く見られる。(熊本の黒川温泉、八百津の和菓子、宇
都宮の餃子、喜多方ラーメンなど)
本調査において、事例研究した地域は、地域での取り組みがかなりのレベルまで到達
している地域もあるし、まだ立ち上がりの段階の地域もある。その今いるステップから
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次のステップへとステップアップする意欲が重要である。地域資源を活かした活性化は、
様々な方法があり、そのオリジナリティが地域の良さを表すことになる。その為には、
その地域で暮らしている人達の地域を良くして行きたいという思いが重要であり、本調
査を通して浮かび上がってきた各地のキーパーソンや地域活性化組織への様々な支援が
必要であり、各地域が創意工夫によって独自の活性化を展開することを期待したい。
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