圧縮空気泡消火システムの消火効果の検証 - 東京消防庁

消防技術安全所報 45号(平成20年)
圧縮空気泡消火システムの消火効果の検証
玉越孝ーへ根本昌平*ぺ神田淳***
概 要
本検証は、消火活動の圧縮空気泡消火システムによる泡放射の有効性l
こっし、て実大規模の消火実験により確認し、以
下の結果を得た。
1 消火時の天井付近の温度低下は緩慢であるが、活動領域では進入可能な温度領域であり、実験時においても熱によ
る進入への支障が感じられなかった。
2 放水量凶王縮空気泡消火システムを使用した場合と水のみで実施した場合と比較して、有炎現象消柳寺点で 36%、
の水量の節減となった。
実験終了時点で 15%
1 I
まじめに
表 1 建物概要
平成 1
7年 3月に行われた圧縮空気泡消火システムによる消
建築年
昭和 3
8年
火実験において、発熱速度の低下と比較して室内の温度低下
構造
耐火造 6階建(写真 2参照)
が綾慢であることが示される一方で、使用水晶が軽減で、きる
形式
メゾネット形式
ことも報告されている。
1
)
そこで、圧縮空気泡消火システムの使用による室内温度の
低下が綾慢な中で消火活動を行うことができ、使用水世の軽
実験使用階層
5,6階に位置する住戸 (
図 1参照)
住戸の面積
4
6m
'
実験室
3
1
1号室、 315号室
減が図れるかを確認するために、実際の建物を使用した消火
実験を行った。
2 圧縮空気泡消火システムについて
圧縮空気泡消火システム (Compressed Air
F0 am
Sy s tem) とは、水に一定割合の消火薬剤を
混合した液体に圧縮空気を注入し、発泡させた状態でホース
にのせて筒先まで送り、泡を放射する装置である。
写真 2 建物全景(北側)
写真 1 圧縮空気泡消火システム (CAFS)
5700F
l
f
M
57
田園
3 実験に使用した建物
(
l
) 場所
東大和市清原三 丁目 1番地
都営東京街道南第一住宅
(平成昨 1
1月取壊し)
叩
(
2
) 建物概要
〈一一一一一
建物概要を表 1に示す。
∞
回
3
6
一一一一一争
5階平面図
6階平面図
図 1 実験室の状況
*装備安全課
**深川消防署
***消防技術課
34
5階 B室のベランダに面した開口部のサッシは、全て取り
4 実験設定等
外し 、全聞とした。 A室の玄関扉は助燃材への着火後に閉じ
(
1
) 実験日
平成 19年 10月 4日(木) '
"5日(金)
(
2
) 実験室
3分後進入時に開放した。 6階 C室
、 D室の窓はすべて閉鎖
した状態とした。(表 2参照)
実験室は、 5階に A室(台所)と B室(居室・ 6畳間)が
表 2 開口部の開放条件
こC室(居室・ 3畳間)
あり、中央の階段を上がると 、6階 l
とD室(居室・ 6畳間)から構成されている。
実験室内の天井はコンクリートに塗装したもので、床は台
所が板張り、その他の 5階、6階の居室は畳張りである。 (図
l参照)
(
3
) 積載火災荷重
燃焼物は、消火器の技術上の規格を定める省令に基づく普
2単位クリ
通火災に対する消火能力単位 2のクリブ(以下 r
5
k
g
/ぽになるよ
ブJとしづ。)を使用し、積載火災荷重が 2
うに設定した。
写真 5 A室玄関扉
(
4
) 燃焼物の配置
写真 6
B室開口部
こ2
燃焼物の配置は、 5階部分のみに設置し、 A室 l
単位クリブ 3個
、 B室に 2単位クリ ブ 4個を設定した。
(写真 3, 4、図 2参照)
写真 7 C室開口部
写真 8
D室開口部
(
6
) 火源
各室の 2段組みの 2単位クリブ(図 2中の太黒枠で示した
2単位クリブ)の下にオイルパンを設置し、燃料にガソリン
各室0
.
5L計 1Lを使用した。 (
図 2参照)
5 実験方法
写真 3 A室の設定
写真 4 B室の設定
•
(
1
) 実験概要
実験は、圧縮空気泡消火システムを使用した泡による消火
実験(実験 1)とポンプ車を使用した水による消火実験(実
│玄関
一)囚
111
験 2) の 2種類の実験を行った。このときの室内混度及び使
用水量を測定し、放水状況を撮影した。
(
2
) 放水条件
トー
泡等の放射は、実際の現場で使用する泡の放射条件を基本
押
入
とし、実験の放水条件は表 3の通りとした。
表 3 放水条件
ベランダ
E
5階平面図
浴室
6階平面図
口
:
2単 問 ブ を示すo 個数は積上げた数
図 2 2単位クリブの設定状況
喰鋭角度調整ヘツ
図 3 ガンタイプノズル (A社製)
(
5
) 関口条件
3
5
表 4 実験手順
(
3
) 放水体形
ア実験1
内容
時間経過(分)
5t水槽からポンプにより吸水し、流量計を通して、圧縮
0:0
0
ガソリンへの着火
空気泡消火システムに送水した。
玄関扉の閉鎖
圧縮空気泡消火システムの放口からは、 40mmホースによ
3:0
0
玄関扉の開放
り 5階実験室まで泡を送水した。(図 4参照)
放水開始
イ 実 験2
有炎現象の消滅の確認、
5t水槽からポンプにより吸水し、流量計を通して、ポン
残火の確認
プ車中継口に送水した。
X:X
X
実験終了
ポンプ車の放口からは、 40mmホースで'
5階実験室前まで
送水した。(図 4参照)
(
6
) 測定項目と測定機器
測定機器は、表 5のものを使用し、データロガー
4Ommホース X1本
(
E間
D
とパソコン (N制品)によりインターパル 1秒で記録した。
ノズル
表 5 測定項目
地上から 5階までの
測定機器
吊上げ部分
K型熱電対
40mmホース X1本
電磁流量計 (A社製)
※ 1 実験 1:CAFS
5
1
水槽
実験 2
:ポンプ車
ア温度測定位置
温度計は、図 5に示す黒丸(・)の位置に支柱を立て、高
図 4 放水体形図
面さ 0.4mの位置から 0.4m刻みでら高さ 2.0mの位置まで 5
点設置した。
(
4
) 放水方法
イ
放水開始後、 A室のクリブへ放水=宇 B室のクリブへの放水
放水量測定位置
使用した電磁流量計は、泡の状態での測定ができないた
=
宇 B室床面へ放水斗ベランダから B室のクリブ裏面へ放水
め、吸水ポンプから圧縮空気泡消火システムに送水する聞
する順番で行った。開閉ハンド、ルの開閉操作は、状況に応じ
に、電磁流量計を設定して測定した。(図 4参照)
適宜行なうものとした。(図 5参照)
6 実験結果
定口
巳
押
(
1
) 実験 1の状況
入
A室への放水開始後、開閉ハンドルの開聞を繰り返し、 A
室のクリブに放水しながら進入した。
押
5秒で B室へ放水を始め、放水開始後 9
5秒 で
放水開始後 1
入
有炎現象が消滅した。その後、クリブ内部の赤熱部分に放水
した。
有炎現象が消滅した時点での使用水量は 7
5
L、実験終了時
点(実験開始後 2
1分)での使用放水量は、 1
5
1
Lであった。
(
図 6参照)
A室の温度は、放水開始後全体的に緩やかに降下し、消防
浴室
5階平面図
隊員の折膝程度の高さ(1.2m以下)で 1
0
0"C以下を示すの
は、放水開始から 58秒後であった。(図 7参照)
6階平面図
B室の温度は、消防隊員の折膝程度の高さ(1.2m以下)
・一一一惨:主な放水者の位置と放水方向を示す。
で
、 1
0
0C以下になるのは放水開始から 3
4秒後であり、天井
0
.:温度計設定位置
付近(1.6m
以上)の温度は緩やかに降下している。(図 8
図 5 放水方法図
参照)
ベランダの温度は、放水開始後一 E上昇してから、消火活
(
5
) 実験手順
動に伴って、温度は降下し、全ての温度計が放水開始後 2
0
実験は表 4に示す手順により行った。
0
秒で 1
0
0C以下となった。(図 9参照)
36
・
"
",
ー
一
一 ー 一一
一一一一一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一一氏
淘
(
2
) 実験 2の状況
A室への放水開始後、開閉ハンドルの開聞を繰り返す放水
10
。
"
1伺
a
日
'
:
d
宰醐
一ー
j
,
.
l
'
l
O
i
曲
言
E
方法により、 A室のクリブに放水しながら、進入した。
放水開始後 1
0秒で B室へ放水を始め、放水開始後 9
9秒 で
l
。.
.
.
E
曲
,曲
5
0
。
。
有炎現象が消滅した。その後、クリブ内部の赤熱部分に放水
した。
2
0
‘
,
a
1011 1
2 1
3
4
量火からの鶴間短過I>!J
}
・",
・
L
1
1 1
1
1 U
有炎現象が消滅した時点での使用水量は、 116 リットル、
20 2
'
実験終了時点(実験開始後 1
6分)までの使用放水量は、 1
7
6
Lであった。 (
図 1 0参照)
........積算放水量、四四ーーー瞬時放水量
図 6 実験 1の放水流量と積算放水量
A室の調度は、放水開始後すぐに降下し、消防隊員の折膝
以下)では、 1
O
O"C以下を示すのは、放水
程度の高さ(1.2m
(
図 11参照)
4秒後であったo
開始 1
8
0
0
B室の温度は、放水開始後 14秒で消防隊員の折膝程度の
-・・ 0
.8m
高さ(1.2m
以下)で、 100C以下となった。 40秒後には B
0
一ーー 1
.
2
m
0
室の温度計が 100C以下となる。(図 12参照)
一一 1
.
6
m
4
0
0
ベランダの温度は、放水開始後-.e.上昇してから、消火活
動に伴って、温度は降下し、全温度計が放水開始後 1
5秒で
!I!~ 300
一度 1
0
0
0
C以下となり、再度上昇し、放水開始後 3
8秒で再
び全温度計が 100"C以下となった。(図 13参照)
"
'
"
5
点火からの時間経過[分]
図 7 実験 1
2
国
2臼
川ぬ
5階 A室(台所)の温度
'
0
0
8
0
0
5
0
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.
4
m
7
0
0
2.
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2m
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世
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1
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一 -O.
4m
ー--0
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8
m
6
0
0
3
5
~
点火からの時間経過[分]
園 8 実験 1
]
図 10 実験 2 の放水流量と積算放水量
ー-2.0m
3
0
0
I
.......積算放水量、ーーーーー瞬時放水量
一一一 1.6m
I
a
•コ
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1
2
.
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係
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0
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3
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曾
舗
2曲
剖
一一 1
.
2m
5
0
0
一
一一 1
.
5
m
雇 400
5階 B室(居室)の温度
唄 3
0
0
一一2
.
0
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k-
2
0
0
8
0
0
1
0
0
ー
-O.
4m
7
0
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6
0
0
1
0
0
長
。
3
図 11 実験 2
ー-2.0m
、
丹
J
.
-
h
4
4
点火からの時間経過[分]
1
.6m
4
0
0
2
0
0
3
ーーー 1
.
2
m
倒
L
門
5
0
0
関3
0
0
0
-・・ 0
.
8
m
5
点火からの時間経過[分]
図 9 実験 1 5階ベランダの温度
37
5階 A室(台所)の温度
5
800
U 500
I---O.8m
ヨ 140
1
¥
300
日・
200
1
¥
o
.~ \ \ー(
1
0
0
1 2 3
0
4
5
6
三五
7 8
9 10 1
1 12 13 1
0
4 15 16 17 1
8 1
9 20 2
1
点火からの時間経過[分]
。 'ヤ一・、T"-<'-切~ー~也---飼町通-暗F道町石Z~B宮、..-;逼d
3
ょ
i
圃 '20
咲 .nn
垣 .
v
v
量 80
郡 60
¥。¥¥
極 400
ι三
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I
¥
.^
600
~,
: ~二二
ー--O.
4m
700
4
.........実験 1、ーーーーー実験 2
図,
5
4 積算放水量の比較
点火からの時間経過[
分]
図, 2 実 験 2
5階 B室(居室)の温度
表 6 各時点での使用水量
有炎現象消滅時
一一一
800
・
・ 0.8m
600
量400
~g
1
5
1 L
176 L
I-ーー 1.6m
1
¥
300
L
ーーー1.2m
^
[O 5
00
実験終了時
116 L
75
ー--0.4m
700
│
8 まとめ
過去の圧縮空気泡消火システムの実験により、水のみの場
200
J円 :\hA'(.;~〆、JL2A主~ー両信ー明記ぷ中古: 1
。l
合と比較して使用水量が軽減されることが報告されている。
1
0
0
3
今回の実験の場合においても、消火活動に支障はなく、使
4
用水量も軽減されており、実火災での使用においても、水の
点火からの時間経過[分]
図, 3 実 験 2
みの場合より使用水量の軽減効果があるものと考えられる。
5階ベランダの温度
ただし、天井付近には混度降下が緩慢な部分があることか
ら消火活動中は、低姿勢を維持する必要がある。
7 考察
(
I
) 消火活動について
[参考文献]
水のみの場合と比較して、火災室内の天井付近の温度低下
1)伊藤彩子、石川義彦、鈴木雅英、中野孝雄、林吉彦、増田秀明
消
は綾慢であった。しかし、 B室への放水開始時刻が水のみの
防隊の放水による消火効果に関する研究 その 1、その 2、その 3、
場合と比較して 5秒遅い程度にとどまったこと及び活動領
平成 18年度日本火災'干・会、研究発表会概要集 P574-585
域(本実験では床から1.2m以下)て。は活動できる温度領域
2
)火災便覧(新版)日本火災学会編
であり、放水者が実験時においても熱による進入への支障が
感じられなかったことから、消火活動に支障はないと考えら
れる。(写真 9, 10参照)
写 真 9 玄関進入前
写真, 0 玄関進入時
(
2
) 使用水量について
実 験 1, 2を比較すると、圧縮空気泡消火システムの使用
水量(積算放水量)は、有炎現象消滅時点で水による消火の
場合の 64%、実験終了時点では水による消火の場合の 85%
でFあった。(図 14、表 6参照)
このことから、圧縮空気泡消火システムの活用は水による
消火の場合と比較して使用水量の軽減が得られると考えられ
る
。
38
Verification o
f fire-extinguishing e
f
f
e
c
to
ft
h
e
compressed a
i
r foam system
Koichi TAMAKOSHIヘ S
h
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柿,
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Abstract
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3
9