企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合-インフラ環境統合プロジェクトを通じて- 企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合 ―インフラ環境統合プロジェクトを通じて― 大日本住友製薬株式会社 会社概要 名称 :大日本住友製薬株式会社 所在地 :大阪府大阪市中央区道修町2-6-8 設立 :1987 年(明治 30 年)5 月 14 日 (合併期日 2005 年 10 月 1 日) 取締役社長:宮武 健次郎 資本金 :224 億円(2006 年 3 月 31 日現在) 従業員数 :5,061 人(2006 年 3 月 31 日現在) 事業内容 :医薬品、臨床検査薬、医療機器、動物用医薬品、食品添加物、工業薬品、その他化学製品の製造、売買及び輸出入 執筆者 大日本住友製薬株式会社 情報システム部 アソシエイトマネージャー 土 井 信 明 内容梗概 2005年10月1日に大日本製薬株式会社と住友製薬株式会社が合併し大日本住友製薬株式会社が誕生 した。合併発表以降、1年足らずの期間で両社のシステム統合を完遂させ、新社としてのシステム稼動を無事 にスタートさせることができた。 システム統合作業にあたっては、業務アプリケーション統合、インフラ環境統合を完遂し、合併後の業務開 始初日に無事に稼動させることが命題であったが、営業拠点の統廃合の対応についても、両社の出身者が同じ 場所・組織で一体となって業務のスタートを切り1日でも早く融和をはかるという意味でも重要なテーマで あった。 本論文では、企業合併に伴うインフラ環境統合活動を通じて、営業拠点の統廃合を成功裏に完了した事例と して紹介する。 -1- 1 はじめに 2005年10月1日に大日本製薬株式会社(以下旧大日本製薬)と住友製薬株式会社(以下旧住友製 薬)が合併することが2004年11月25日に公表された。合併に向けて、情報システム関係では各業 務アプリケーションの統合やインフラ環境統合のプロジェクトを立ち上げ、新社としてのシステム稼動を 無事にスタートさせる必要があった。 なかでも、営業拠点の統廃合の対応については、全国に拠点を構える両社の営業拠点を統廃合し、コス ト削減・効率化はもちろん合併後の新社としての営業拠点にて両社の出身者が同じ場所・組織で一体となっ て業務のスタートを切るという統合方針のもと、1日も早い両社の融和をはかるという意味でも重要な テーマであった。 本論文では、インフラ環境統合プロジェクトの活動を通して、企業合併における営業拠点統廃合の事例 を中心に紹介する。 2 インフラ環境統合 合併後の業務開始初日までに営業拠点の統廃合を終え、合併後のシステム利用を可能とするためには、 業務アプリケーションの統合方針を決定し、それが稼動するネットワークやパソコン利用環境といったイ ンフラ環境やファイルサーバ環境、グループウェア環境を統合しておく必要があった。 2.1 合併前のインフラ環境 インフラ環境統合方針を決定するにあたって洗い出した合併前の両社の営業拠点のシステム状況について は表1のとおりである。 表1 項目 拠点数 センター拠点 ネットワーク ネットワーク アクセス回線 認証基盤 拠点サーバ 拠点サーバ機能 パソコンOS Office バージョン モバイル PC ノート PC デスクトップ PC LANプリンタ 印刷方式 IPアドレス 複合機 グループウェア 統廃合前の営業所システム状況 旧大日本製薬 1支社、13支店、49営業所 大阪総合センター 広域イーサネット 光専用回線(2Mbps、5Mbps)、 DA128Kbps、ADSL Active Directory 日立:HA8000 ファイルサーバ ウイルス対策親サーバ ソフトウェア配布管理中継サーバ WindowsXP,Windows98 Office2000 東芝:dynabook 日立:FLORA 富士通:FMV Canon:LBP TCP/IP 印刷 固定 IP アドレス付与 (172.16.x.x) Canon、富士ゼロックス、リコー(LAN なし) ノーツ R5.1.2J -2- 旧住友製薬 20支店、51営業所 大阪本社 IP-VPN 光専用回線(0.5Mbps~2Mbps) Active Directory NEC:Express5800 ウイルス対策親サーバ DHCPサーバ Windows2000 Office2000 NEC:VersaPro、東芝:dynabook NEC:VersaPro - NEC:MultiWrITer プリントサーバ経由 DHCP による動的割り当て (172.17.x.x) 富士ゼロックス(LAN 接続あり) Star Office 6 企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合-インフラ環境統合プロジェクトを通じて- 2.2 インフラ環境統合方針 旧両社のインフラ環境についての統合方針を以下のように決定した。 (1) ネットワーク環境 営業拠点統合までに、合併後に利用する業務アプリケーションの検証や新社のインフラ環境の構築に 必要な作業を実施するために、旧両社のセンター拠点間について高速回線を用いてネットワークの相互 接続環境を構築する。 新社の営業拠点のネットワークは、合併後のアプリケーションの円滑な稼動と費用対効果の面から B フレッツをアクセス回線としたインターネット VPN 環境を構築する。ただし、旧大日本製薬の営業拠点 には、DA128Kbps の環境から合併後も使用するインターネット VPN 環境に先行して切り替えを実施し、営 業拠点統合時には新拠点で用意するアクセス回線に切り替えるのみで対応できる環境を整えておく。 (2) Active Directory 環境 合併までに、新社の Active Directory 環境を構築し、そこに新社用のユーザアカウントを新たに作成 する。 合併後も利用するサーバの設定変更や移行作業の負荷を軽減し、既存のリソースを有効活用するため に旧両社の Windows ドメインと新社 Windows ドメインの間に信頼関係を設定し、旧両社の Windows ドメ インはリソース用のドメインとして合併後も継続的に利用できる環境とする。 (3) パソコン利用環境 OS は Windows XP に、Office ソフトのバージョンは2003にバージョンアップして統一する。また、 パソコンの操作感に差異がでないように OS のユーザインターフェース設定を同じ設定にするとともに新 社で利用する業務アプリケーションが利用できる環境設定を実装する。これらの作業を実施するために 全パソコンの雛形を作成し、リロード(再インストール)作業を実施する。 新社のハードウェア標準スペックを規定し、それに満たないものについては、新規パソコンへの入れ 替えを実施する。 (4) ファイルサーバ環境 合併までに新社としての営業拠点用ファイルサーバを大阪総合センターに構築し、営業拠点統合後に 新社としての利用を開始する。 (5) インターネット環境 新社インターネットドメインを取得しメールアドレスの変更を合併日にあわせて実施する。なお、旧 社のメールアドレスについては2005年12月末まで新社メールアドレスへの転送を行う。 (6) グループウェア環境 旧大日本製薬は従来から利用しているノーツを R6.5.4 にバージョンアップする。 旧住友製薬は旧大日本製薬のノーツバージョンアップのタイミングにあわせてメール環境を合併まで に Star Office からノーツに移行し合併時に廃止する。 2.3 営業拠点統廃合パターンの検討 各地域の対応する旧両社の営業拠点について、合併後に利用する物件の決定後、各拠点でのネットワー ク環境の構築作業や IT 関連機器を移設する際の設定変更内容を決定するために、表2のようにパターン化 を行った。 (1) 新拠点パターン 営業拠点統廃合時に新社として使用する拠点について、新拠点へ移転する拠点と従来から使用してい る拠点で合併後も引き続き使用する拠点について、以下の3パターンに分類した。 Ⅰ 新拠点へ移転 Ⅱ 旧大日本製薬拠点を使用 Ⅲ 旧住友製薬拠点を使用 (2) 移転パターン -3- (1)の新拠点パターンの分類からさらに移転パターンとして、旧社のどちらの拠点環境を引き継ぐかを 整理し、以下の①から⑧のパターンに分類した。ここでは、各地域において、対応する旧両社の営業拠 点がある場合は拠点環境を統合し、対応する営業拠点が無い場合には人(パソコン)のみ移動すること とした。 Ⅰ 新拠点へ移転 ① 旧大日本製薬、旧住友製薬ともに新拠点へ移転し統合 ② 旧大日本製薬の拠点環境を新拠点へ移転(旧住友製薬は人(パソコン)のみ移動) ③ 旧住友製薬の拠点環境を新拠点へ移転(旧大日本製薬は人(パソコン)のみ移動) ④ 旧大日本製薬、旧住友製薬とも人(パソコン)のみ新拠点へ移動(拠点新設) Ⅱ 旧大日本製薬拠点を使用 ⑤ 旧住友製薬の拠点環境を旧大日本製薬拠点へ移転し統合 ⑥ 旧住友製薬の人(パソコン)のみを旧大日本製薬拠点へ移動 Ⅲ 旧住友製薬拠点を使用 ⑦ 旧大日本製薬の拠点環境を旧住友製薬拠点へ移転し統合 ⑧ 旧大日本製薬の人(パソコン)のみを旧住友製薬拠点へ移動 (3) 統合パターン (2)で分類した移転パターンから、営業拠点統合後のネットワーク構成をもとに、統合パターンとして 以下の4つに分類した。 パターンA 旧両社のネットワーク環境が1拠点内に並存(移転パターン①、⑤、⑦) パターンB 旧大日本製薬のネットワーク環境を利用(移転パターン②、⑥) パターンC 旧住友製薬のネットワーク環境を利用(移転パターン③、⑧) パターンD ネットワーク環境新設(移転パターン④) 表2 新拠点パターン Ⅰ 新拠点へ移転 Ⅱ 旧大日本製薬拠点を使用 Ⅲ 旧住友製薬拠点を使用 2.4 営業拠点統廃合作業パターン 移転パターン ①両社とも新拠点へ移転し統合 ②旧大日本製薬の拠点環境を新拠点へ移 転、旧住友製薬は人(PC)のみ移動 ③旧住友製薬の拠点環境を新拠点へ移 転、旧大日本製薬は人(PC)のみ移動 ④両社とも人(PC)のみ新拠点へ移動(拠 点新設) ⑤旧住友製薬の拠点環境を旧大日本製薬 拠点へ移転 ⑥旧住友製薬の人(PC)のみを旧大日本 製薬拠点へ移動 ⑦旧大日本製薬の拠点環境を旧住友製薬 拠点へ移転 ⑧旧大日本製薬の人(PC)のみを旧住友 製薬拠点へ移動 統合パターン パターン A パターン B 営業拠点数 37 2 パターン C 7 パターン D 1 パターン A 9 パターン B 5 パターン A 6 パターン C 8 営業拠点統合作業方式の検討 統合パターンにもとづいて洗い出した新営業拠点のネットワーク環境は図1のとおりである。このネッ トワーク環境に合わせて統合パターンごとの各営業拠点における IT 機器移設時の作業内容を検討した。た だし、拠点統廃合時点では、旧大日本製薬拠点で利用していたファイルサーバは統合後の拠点でも引き続 き旧大日本製薬パソコンからのみ利用可能とするが、新社としてのファイルサーバは合併後に大阪総合セ ンターに集約しセンターファイルサーバとして利用することとした。 -4- 企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合-インフラ環境統合プロジェクトを通じて- 大阪総合センター(情報システム部) (NEW) センター ファイルサーバ 旧大日本製薬 ネットワーク 統合パターンB(②⑥) 統合パターンD(④) (D) 統合パターンC(③⑧) 統合パターンA(①⑤⑦) (D) (NEW) ファイル サーバ (D) 旧住友製薬 ネットワーク 相互接続 (S) (S) ファイル サーバ (D) (D) (S) 旧大日本製薬の拠点環境に旧住友 製薬の人が移動 (D) (S) (NEW) 新規拠点に両社の人が移動 (ネットワーク、プリンタは新設) (D) (D) (D) (S) (S) 旧大日本製薬、旧住友製薬の拠点環境に旧大 日本製薬、旧住友製薬の人がそれぞれ移動 (D) (S) (S) 旧住友製薬の拠点環境に 旧大日本製薬の人が移動 (D):旧大日本製薬 (S):旧住友製薬 図1 営業拠点統合後のネットワーク環境 (1) 統合パターン A 拠点内の LAN は物理的に1つであるが、論理的なネットワークは旧大日本製薬と旧住友製薬の別々の ネットワークが並存するパターンで互いの通信はできない環境である。WAN 回線についても合併前のそれ ぞれの回線を利用する。 そのため、両社のサーバ、パソコン、プリンタなどの機器については移設のみ行い、ネットワーク設 定の変更は実施しない。 ネットワークアドレス体系が異なるため、プリンタの利用は、旧大日本製薬と旧住友製薬分はそれぞ れのパソコンからのみの印刷となるが、合併後にネットワーク環境を一本化する時点で相互に利用がで きるように対応する。 (2) 統合パターン B 旧大日本製薬のネットワーク環境をそのまま利用するパターンである。 旧住友製薬から移設するパソコンについてはネットワークの設定変更を行い、固定 IP アドレスを割り 当てるとともに旧大日本製薬のプリンタが利用できるように設定を行う。 (3) 統合パターン C 統合パターン B と逆のパターンで、旧住友製薬のネットワーク環境をそのまま利用するパターンであ る。 旧大日本製薬から移設するパソコンについてはネットワークの設定変更を行い、DHCP 環境とするとと もに旧住友製薬のプリンタが利用できるように設定を行う。 このパターンでは、ファイルサーバが存在しないため、旧大日本製薬から行く人はセンターファイル サーバが公開されるまでファイルサーバの利用ができなくなる。 (4) 統合パターン D ネットワーク回線およびプリンタは新規に調達するパターンである。 パソコンを両社から移設しプリンタが利用できるように設定を行う。なお、ルータに DHCP 機能を設定 するので、旧大日本製薬から移設するパソコンのみネットワークの設定変更を DHCP に変更する。 このパターンでは、ファイルサーバが存在しないため、旧大日本製薬から行く人はセンターファイル サーバが公開されるまでファイルサーバの利用ができなくなる。 -5- 3 営業拠点統廃合の推進体制とスケジュール 3.1 推進体制 営業拠点の統廃合における推進体制については図2に示すとおりである。物件選定、内装、什器、営業 拠点内レイアウトは総務部配下のもと株式会社イトーキに作業をお願いした。ネットワーク、サーバ、パ ソコン、プリンタなどの IT 関連の対応は情報システム部が担当した。IT 関連の作業については全国規模で 同時に多数の営業拠点で発生する移転作業の事前調整や電源・LAN・WAN などの各種工事手続き、施工、機 器移設対応が一貫して作業が可能なベンダーとして旧大日本製薬でインフラ環境構築・運用の実績がある 日立電子サービス株式会社、株式会社日立情報システムズに作業の協力を依頼した。 プロジェクト統括 <IT関連プロジェクト統括> 旧大日本製薬 情報システム部 住友化学システムサービス <IT関連> プロジェクトマネージャ <什器設備関連> プロジェクトマネージャ 日立電子サービス株式会社 株式会社イトーキ IT関連チーム 什器設備関連チーム <サーバ・PC・IT(LAN/電源)設備> 日立電子サービス株式会社 <ネッワーク> 株式会社 日立情報システムズ <電話> タカギエレクトロニクス株式会社 <物件> 生駒シービー・リチャードエリス株式会社 <什器・内装・レイアウト> 株式会社イトーキ 図2 3.2 <什器設備関連プロジェクト統括> 旧大日本製薬 総務部 旧住友製薬 総務部 プロジェクト推進体制 作業スケジュール インフラ環境統合のスケジュールは図3に示すとおりであるが、営業拠点の移転日程は合併1週間前の 3連休(9月23日~25日)を利用して全営業拠点一斉に実施するため、多数の営業拠点におけるシス テム変更対応をこの3日間で移転作業と同時に実施するには、工数面だけでなく作業統制面についても対 応が難しいことから、この期間は機器移設とそれにかかわる最低限の変更作業のみを実施する方針とした。 移転作業以外に合併対応として必要なインフラ環境統合作業は、機器移設とはスケジュールを分離して実 施することとし、旧大日本製薬の回線高速化作業、パソコン更新および再セットアップ作業は移転日まで に先行して実施し、機器移設が済んだ時点で必要最低限の業務ができる環境を準備することとした。 -6- 企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合-インフラ環境統合プロジェクトを通じて- 2005/4 5 6 7 新物件選定 8 9 新拠点フロア工事 10 11 12 1 2 3 営業 拠点 統廃合 営業拠点統廃合 IT機器調査 相互接続開通 ネットワーク環境 旧大日本製薬 営業拠点 ブロードバンド化 ActiveDirectory ActiveDirectory 構築 パソコン利用環境 営業拠点 統廃合 NW切替 パソコン リロード/入替 営業拠点 回線一本化 拠点ネットワーク アドレス一本化 パソコン DHCP対応 パソコンリロード ・ウイルス対策 ・配布管理 ・HDD暗号化 センターファイル サーバ導入 センターファイルサーバ 旧大日本製薬 ノーツV-UP インターネット グループウェア 新社メールアドレス 旧住友製薬 ノーツ導入 図3 グループ ポリシー統合 旧社メールアドレス停止 ノーツ統合 スケジュール 4 営業拠点統廃合作業 4.1 事前環境整備 営業拠点の統廃合作業完了時には、新社としての業務が開始できるようにインフラ環境統合方針に沿っ てインフラ環境整備を事前に実施した。 (1) ネットワーク環境 ネットワーク環境としては、図4に示すとおり新社としてのインフラ環境統合作業や業務アプリケー ションの検証のために両社のセンター拠点間を専用回線で相互接続ネットワークを構築した。 営業拠点ネットワークについては、回線速度が遅い旧大日本製薬の営業拠点で合併後に利用するアプ リケーションの操作研修が円滑に行えるように、拠点統合までに ADSL を利用したインターネット VPN 環 境に置き換えを実施した。また、移転しないことが確定している営業拠点については、B フレッツの導入 を行った。このブロードバンド環境を事前に構築することにより営業拠点統廃合時には、通信事業者で の局内切り替えは発生するものの、新拠点で準備するアクセス回線(B フレッツ)にルータを接続するだ けでネットワークの移設対応ができるため、移転当日の作業負荷軽減の面からも大きなメリットがあっ た。 旧大日本製薬 大阪総合センター 旧住友製薬 大阪本社 相互接続 ネットワーク 広域イーサネット インターネットVPN 営業 拠点 営業 拠点 営業 拠点 営業 拠点 営業 拠点 営業 拠点 営業 拠点 IP-VPN 営業 拠点 営業 拠点 営業 拠点 広域イーサネット128Kbpsから ブロードバンドネットワークへ切替え 図4 ネットワークのブロードバンド化 -7- 営業 拠点 営業 拠点 (2) パソコン利用環境 合併後に利用するアプリケーションと現行のアプリケーションの両方が動作する設定変更と OS、Ofice の統合および新社用の Active Directory 環境に移行するためのリロード作業をブロードバンド化作業の タイミングにあわせて実施した。また、新社のハードウェア標準スペックに満たないものについては新 規パソコンと入れ替えを実施した。このように、新社としての業務が利用できる環境を両社のパソコン で事前に準備することで、営業拠点統合時におけるパソコン関連の作業を最小限にすることができた。 4.2 営業拠点移転作業 (1) 移設対象照機器の確定 合併前の両社の各営業拠点における移設対象機器情報について、構成管理資料をもとに現地調査を実 施した。調査結果をもとに図5のような移設先の営業拠点のレイアウト図面との照合を行い、移設先レ イアウト番号を確定して移設対象機器情報を表3のようにまとめた。ただし、営業外勤者が利用するモ バイルパソコンについては、移転作業時の負荷軽減と移設トラブルを発生させないためにも利用者自身 が移設先に持参することとした。 図5 表3 旧組織情報 会社 拠点 新拠点 大日本 大日本 京都 京都 京滋 京滋 大日本 住友 住友 住友 住友 京都 京都 京都 京都 京都 京滋 京滋 京滋 京滋 京滋 レイアウト図面 移設対象機器情報 移設先 レイアウト番号 A30 A30 A22 A32 A15 A15 A41 GS013205 PR013012 HA8000/30 PC-PL2400 サーバ PR 調査状況 日 有無 付 8/7 ○ 8/7 ○ PR013093 SVH06701 PH06701 PH06702 PH06700 LBP5500 Express5800 MultiWriter2300 MultiWriter2300 XEROX DC507 PR サーバ PR PR 複合機 8/7 8/7 8/7 8/7 8/7 機器番号 -8- IT機器情報 機種名 利用者 ○ ○ ○ ○ ○ 企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合-インフラ環境統合プロジェクトを通じて- (2) 移転説明会 営業拠点の統廃合作業を円滑に遂行するために、各営業拠点向けに営業拠点移転の現地説明会を実施 し、図6のような現地説明会資料を用いて作業のスケジュールの説明や作業時の立会い等の作業協力依 頼を行った。 ラベルの貼付け(例) 移設までのスケジュール 移設前日までに、ラベルをIT機器に、貼付け御願い致します。 イトーキと調整の上、お客様向けの引越し説明会での説明の実施 (IT機器:PC本体、キーボード、マウス、テンキー、スキャナ、CD-RW/DVDRAM、 ノートPCの電源アダプタなど) 9/20まで 9/22まで 9/23 9/24 9/26 準備期間 移設前々日まで 移設前日(業務終了後) 移設 翌営業日 ラベルには、9/16 9/16頃(迄)にお渡しします。 頃(迄)にお渡しします。 【記入】 内を必ず記入し、貼付けてください。 お客様(担当者様) お客様(社員様) お客様(担当者様) お客様(担当者様) お客様(社員様) ・移設IT機器の確認 ・荷物の梱包 ・ラベル貼付け ・作業開始のアナウンス ・IT機器の電源OFF (独自サーバ含む) ・移転作業の立会い ・業務確認 日立 日立 日立 日立 ・情報システム部殿と 設定内容の調整 ・IT機器類の解体と梱包 ・IT機器移設 ・機器設定作業 (一部の拠点で必要) ・動作確認 ・モバイルPCの 設定変更 ・立会い(※) ・不具合対応 物流 物流 ・搬出 ・搬入 移設先となるビル名とそのフロア階数 移設先レイアウト図のレイアウト番号(設置位置) 社員様全員が出社頂く 必要は無く、役割分担 の上、立会いをお願い いたします。 使用者名サイン(お客様名サイン) 標準ノートPCは、次の部位で構成されております。(テンキーがある場合) (テンキーがある場合) ① 本体、② マウス、③ 電源ケーブル(アダプタ)、④ テンキー (※)立会い時間は08:30~12:00を想定 図6 ビル名 フロア階数 ビル名 フロア階数 レイアウト番号 レイアウト番号 使用者名サイン 1 /4 使用者名サイン 3/4 ビル名 フロア階数 ビル名 フロア階数 レイアウト番号 レイアウト番号 使用者名サイン 2 /4 使用者名サイン 4/4 現地説明会資料 (3) 機器移設作業 営業拠点の統廃合に伴う IT 機器移設作業については、表4のような標準スケジュールを作成し、移転 パターンごとにアレンジした詳細スケジュール表を拠点ごとに作成した。また、パソコンのネットワー クやプリンタ設定の変更作業については、作業効率化のために設定変更ツールを作成し手順を自動化し た。 表4 作業場所 旧大日本製薬 9 月 22 日(木) (業務終了後) サーバ停止 標準作業項目 9 月 23 日(祝) 9 月 24 日(土) 9 月 25 日(日) 9 月 26 日(月) (予備日) 営業外勤者 IT 機器搬出 ルータ停止 旧住友製薬 サーバ停止 IT 機器搬出 ルータ停止 移転先 電源確認 IT 機器搬入 LAN 工事仕上げ ルータ起動 持参モバイル 回線疎通確認 PC 設定変更 サーバ起動 PC 設定変更 営業所統廃合作業期間中は、日立電子サービス株式会社から旧大日本製薬情報システム部の会議室に統 制システムを持ち込んで、各営業拠点で実施している作業の統制を行った。 このシステムは携帯電話のメール連携機能を備えており、全国各地の拠点で作業を実施している現地作 業員からの携帯電話からのメールによる作業状況報告を図7のように画面表示することができるため、リ アルタイムに約130ヶ所の営業拠点の進捗状況を把握することができた。そのため、作業トラブルや作 業遅れが発生した場合にでも、即座に現地へ状況を問い合わせ、的確な作業指示を出すことで作業を円滑 に進めることができた。 -9- 図7 4.3 統廃合当日の統制画面 営業拠点統廃合作業結果 営業拠点統廃合作業については、日立電子サービスの統制のもと、表5のように事前の設備工事からネッ トワーク移設対応、機器移設作業およびパソコン設定変更を約2ヶ月(方針立案、物件選定を含むプロジェ クトの期間は7ヶ月)で実施した。 営業拠点統廃合における移転作業は9月22日から26日の5日間で実施し、旧両社の134拠点から 新拠点75拠点へ約2000台のパソコンの移設と設定変更作業およびネットワークの移設作業を行い大 きな障害もなく完了することができた。 表5 項 目 統廃合プロジェクト期間 統廃合工事期間 統廃合作業日程 統廃合プロジェクト員 IT関連作業人員 統廃合実施営業所 移動パソコン台数 5 営業拠点統廃合作業結果 内 容 2005年3月~10月 2005年 8 月1日~9月25日 2005年9月22日(木)~26日(月) 統括 12人、IT 関連 20人、什器関連 7人 全国延べ人数 800人(工事 300人、CE 500人) 旧大日本製薬63拠点と旧住友製薬71拠点を75拠点に統合 約2000台 営業拠点統廃合後の課題と対応 営業拠点の統廃合作業を完了させ、新社としての業務を無事に開始することができた。しかし、新社と してスタートを切れる必要最低限のインフラ環境統合対応のみを実施することにしていたため、引き続き 以下のインフラ統合課題について対応する必要があった。 (1) ファイルサーバの統合 ・営業拠点のファイルサーバ環境は旧大日本製薬の出身者しか利用できないこと ・ファイルサーバが存在する拠点と存在しない拠点が混在すること (2) 回線統合と DHCP 化 ・統合パターン A の拠点では、ネットワーク体系が旧両社の体系のままであるため、同一拠点内にお いてプリンタの相互利用ができないこと ・統合パターン A の拠点では、1拠点内に WAN 回線が2系統あること ・IP アドレスの割り当て方式が固定割り当てと動的割り当てが混在していること (3) パソコン環境の統合 -10- 企業合併に伴う全国営業拠点の統廃合-インフラ環境統合プロジェクトを通じて- ・パソコンのセキュリティソフト(ディスク暗号化ツールやウイルス対策ソフト)や配布管理ソフト が統合されていないこと 5.1 ファイルサーバの統合 旧大日本製薬で導入していた各拠点のファイルサーバについては、大阪総合センターにセンターファイ ルサーバを構築し、4台のサーバに集約した。このサーバ上に新社の営業組織ごとのファイル共有環境を 作成し、2005年10月18日に公開し、各拠点のファイルサーバ機能をセンターファイルサーバへの 移行を実施した。 5.2 ネットワーク環境の統合 営業拠点統廃合後のネットワーク環境の統合作業は2段階に分けて実施した。 第 1 フェーズとしては、営業拠点の WAN 回線の一本化と DHCP 化を行い、第2フェーズとしては、同一拠 点内に2つあるネットワークアドレスの一本化を実施した。(図8参照) 第1フェーズ(11月~12月) DHCP化 回線1本化 統合パターンA (旧住友DHCPサーバあり) 172.16.xx.xx 172.17.xx.xx DHCPサーバ D 172.16.xx.xx S 172.17.xx.xx 統合パターンB 住友DHCPサーバなし 拠点 (未DHCP化拠点) 第2フェーズ(2月~3月) 統合パターンA,C (旧住友DHCPサーバあり 拠点) D 172.16.xx.xx S 172.17.xx.xx D/S 172.17.xx.xx セカンダリアドレス追加 172.16.xx.xx 172.17.xx.xx DHCPサーバ D 172.16.xx.xx S 172.17.xx.xx DHCP機能追加 172.16.xx.xx 172.16.xx.xx 新DHCPサーバ導入 リレーエージェント機能追加 アドレス1本化 172.16.xx.xx 172.17.xx.xx 新DHCPサーバ 172.16.xx.xx or 172.17.xx.xx DHCPサービス D 172.16.xx.xx S 172.17.xx.xx 統合パターンB、D (旧住友DHCPサーバなし 拠点) DHCP機能 172.16.xx.xx D/S 172.16.xx.xx or 172.17.xx.xx 新DHCPサーバ 172.16.xx.xx or 172.17.xx.xx D:旧大日本製薬 S:旧住友製薬 ※MAC認証などセキュリティ機能を実装したDHCPに変更 図8 営業拠点統廃合後のネットワーク環境統合作業 (1) 営業拠点の WAN 回線の一本化と DHCP 化 2005年11月から12月にかけて、統合パターン A の拠点(旧両社の回線が2回線存在する拠点) については、旧住友製薬の IP-VPN 回線を撤去し、拠点統合時に導入したインターネット VPN のブロード バンド回線(B フレッツ)へ一本化した。このときに、インターネット VPN 回線接続ルータにセカンダリ IP アドレスを設定することにより、拠点内の LAN 上で2つの IP アドレス体系を存続させながら、プリン タの相互利用を可能にさせた。同時に、固定 IP アドレス設定となっていたパソコンについては、ネット ワークの設定を DHCP に変更を行った。 統合パターン B の拠点(旧大日本製薬環境の拠点)については、DHCP サーバが存在しないことから、 ルータに DHCP 機能の追加を行い、パソコンのネットワーク設定を DHCP へ変更を実施した。 これにより、全営業拠点のパソコンが DHCP 環境に対応し、営業拠点間のパソコン持ち運びが可能となっ た。 (2) ネットワークアドレスの一本化 セキュリティ強化と営業拠点におけるネットワークアドレスの統合を実施するために新たに大阪総合 センターに MAC アドレス認証機能付きの DHCP サーバを導入した。2006年2月から3月にかけて、各 -11- 営業拠点の DHCP サーバおよびルータによる DHCP 機能を停止し、IP アドレスの割り当てを新 DHCP サーバ に移行することにより、ネットワークアドレス体系の一本化を実施した。 5.3 パソコン環境の統合 合併時までに旧社のアプリケーション環境と新社として必要なアプリケーションの利用ができることお よび OS、Office バージョン統合を実施していたが、セキュリティ関連のソフトウェアやソフトウェア配布 管理・遠隔操作ソフトウェアなどの運用管理ソフトウェアをはじめ、Active Directory のグループポリシー の設定等については、旧両社の環境を引き継いだままの混在環境になっていたため、パソコンによって運 用方式やセキュリティレベルの違いがあった。 Active Directory のグループポリシーを統合し、2006年2月から3月にかけて、再度全パソコンの リロード作業を実施し、新社としてのパソコン利用環境の統合が完了した。また、セキュリティ関連のソ フトウェアや運用管理のソフトウェアが統合されたため、運用管理手順の統合も実現することができた。 6 おわりに 今回、企業合併という今まで経験したことのない大規模かつ短い準備期間の中で、インフラ環境統合作 業の一環として全国一斉の営業拠点統廃合作業に取り組んだ。 当初は、インフラ環境統合作業だけでも無事に実施できるかどうか不安であった上に、全国の営業拠点 が同じ日に移転する作業が重なりどのように対応すべきか苦慮したが、合併時点のシステム利用開始時に 必要となるインフラ環境を見極め、合併前、営業拠点統合時、合併後のそれぞれの段階において実施すべ き項目を洗い出すことで、営業拠点統廃合作業を単なる移転作業という範囲にとどまらずにインフラ環境 統合と関連付けて取り組んだことが、営業所統廃合作業とインフラ統合作業を成功裏に完了させることに つながったと考える。 最後に、本プロジェクトの完遂にご支援いただいた日立グループ各社をはじめ、ご協力をいただいた方々 に深く感謝いたします。 -12-
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