本文表示 - 寒地土木研究所

地盤工学会 北海道支部
技術報告集 第 5 0 号
平成 22 年2 月 於 札 幌 市
冬期におけるトレンチャー式撹拌工法の試験施工
寒地土木研究所
正会員
○梶取
同
上
国際会員
西本
同
上
国際会員
林
同
上
正会員
パワーブレンダー工法協会
真一
聡
宏親
橋本
聖
牧野
昌己
同
上
伊藤
浩邦
同
上
松下
恭司
1. はじめに
近年,軟弱地盤の地盤改良において,施工性・経済性・品質向上の観点から,トレンチャー式撹拌工法(以降,
TMM とする)による施工が用いられている.一般にセメント系固化材による固結工法は,比較的短期間で所要
の強度が得られる地盤改良工法であるが,北海道のような寒さの厳しい環境下では改良地盤の表層部が固化しき
れず,所定の強度が得られないことが懸念されており,実際,道北での TMM による改良地盤の表層部において
設計基準強度に達していないことが明らかとなっている 1).当研究所では,幌加内の TMM の試験施工において,
寒気を遮断することを目的として,地盤改良後に約 2m の覆土を設け,冬期の TMM においても設計基準強度を
満足させることを確認した 2).一方,TMM の低温対策として,パワーブレンダー工法協会において高温の蒸気を
用いたヒートソイル工法の有用性が検証されてきている 3).
今のところ冬期の気温低下によって,改良地盤に進行した低温域が強度発現にどの程度の影響を及ぼしている
のか,明白になっていないのが現状である.これら寒さの程度と適切な覆土厚の関係や強度発現,寒冷地でのヒ
ートソイル工法の有用性を明らかにすることで,今後の効率的な社会資本整備に繋がると考える.
本研究は,南幌町において冬期の TMM およびヒートソイル工法の試験施工を行い,改良地盤の温度測定と一
軸圧縮強さの計測を行い,覆土厚の設定や施工方法の相違によって,施工後の改良地盤の温度分布や強度発現に
ついて比較および検討を行った 4).併せて,簡単な条件設定下における FEM 解析(二次元熱伝導解析)を行い,
凍結指数と最大凍結深さの関係から覆土厚の設定についても検討した.
2. 高温蒸気によるヒートソイル工法について
冬期の地盤改良においてセメント系固化材を用いた場合,養生温度が低温になるに従い強度の低減が懸念され
るが,温度が高ければ水和反応が活発となり強度発現が見込める
5)
.これに注目し,ヒートソイル工法は,従来
のセメントスラリーよりも高温なセメントスラリーを用いて,強度発現を促し,セメント系固化材の添加量の低
減を図ることを目的とした工法である.
3. 試験施工の概要
3.1 試験施工箇所の地域特性
札幌市から東に位置する長沼南幌町において,平成 21 年 2
月に試験施工を行った.試験施工箇所を図-1に示す.
凍結指数を現地計測したところ,凍結指数は F=355.7℃・days
であり,調査地近傍の江別市の AMeDAS データ(図-2)に
おける過去 10 年間の凍結指数による 10 年確率凍結指数が約
F=728℃・days であることから暖冬の年であったことが分かる.
試験施工箇所の原地盤の土層構成及び土質定数について表-
試験施工箇所
1に示す.
図-1
試験施工箇所の位置図
Title : Construction test of trencher mixing method in winter
Shin’ichi KAJITORI, Satoshi NISHIMOTO, Hirochika HAYASHI and Hijiri HASHIMOTO (Civil Engineering
Research Institute for Cold region) Masami MAKINO, Hirokuni ITO, Yasushi MATSUSHITA
−121−
表-2に本試験施工での施工パターンについて示す.覆土
材料には,固化材の投入により施工中にふけ上がった土また
は火山灰を用い,パターン①はふけ上がり土を撤去した.各
パターンの改良深度は 4m,改良幅は 4m である.
表-3に施工時における各パターンの諸状況(スラリー温
度,施工直後の改良地盤の温度,施工前のテーブルフロー値)
凍結指数(℃・days)
3.2 施工条件
について示す.室内実験の結果より,目標テーブルフロー値
は 120mm に設定されたが,施工時は各パターンとも目標値
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
773.5
661
601.4 600.6
452.6
407.8
335.4
327
2000
よりも大きな値であった.特に,高温蒸気を混ぜたパターン
559.5
2002
2004
2006
2008
過去 10 年間の凍結指数
図-2
⑥・⑦は,目標値の 1.5~1.7 倍程度の値であった.パターン
⑥ ・⑦ は 蒸 気 の 投 入 量
が異なり,パターン⑥
の投入量は 40m3/hr,パ
ターン⑦の投入量は
表-1
GL (m)
0~-1.0
-1.0~-4.0
土質
砂質シルト
砂混じり粘土
湿潤密度
土粒子密度
自然含水比
強熱減量
1.420 g/cm3
1.781 g/cm3
2.533 g/cm3
2.678 g/cm3
77.5 %
45.3 %
13.4 %
50m3/hr であり,熱量はパターン⑥が 36,819kJ/m3,
パターン⑦が 46,024kJ/m3 である.地中の温度測定
パターン
り,低温での精密測定に広く利用されている T 熱
①
②
③
電対を用いた.外気温には白金測温抵抗体を用い
④
には,電気抵抗が小さく,熱起電力が安定してお
た.計測は 90 日間継続して行った.
4. 試験施工の結果
4.1
概要
⑥
⑦
b)
施工方法が地盤の温度変化に及ぼす影響
施工パターン
覆土厚
覆土材料
ふけ上がり土
TMM
0
0.3 m
0.3 m
TMM
0.6 m
火山灰
0.3 m
ふけ上がり土
0.3 m
ふけ上がり土
火山灰
素地盤
ヒートソイル工法
(蒸気量:少)
ヒートソイル工法
(蒸気量:多)
の整理を行った.
覆土厚が地盤の温度変化に及ぼす影響
表-2
施工方法
TMM
TMM
⑤
本章では,以下の 2 点に着目して試験施工結果
a)
地盤の物性
表-3
施工条件
パターン
スラリー温度
改良体温度
テーブルフロー値
①
1.7 ℃
7.1 ℃
135mm
a),b)ともに改良深度ごとに,各パターンの温
②
1.8 ℃
6.0 ℃
156mm
度変化を示し,覆土厚あるいは施工方法が温度変
③
1.4 ℃
5.7 ℃
140mm
化に及ぼす影響について整理した.強度判定に一
④
1.8 ℃
6.9 ℃
154mm
軸圧縮強さσ7・σ28 が用いられること,および
⑤
城戸らのセメント改良土の養生温度に関する研究
6)
から,施工直後から 1 ヶ月程度の養生温度が強
⑥
4.5 ℃
11.2 ℃
185mm
⑦
3.7 ℃
14.1 ℃
204mm
度発現に対し支配的であると考えられるため,その期間に着目して整理を行った.また,調査を行った年が暖冬
であったことも考慮して,温度そのものではなく,各パターンの温度変化の傾向に着目して整理を行った.
4.2
覆土厚が改良地盤の温度変化に及ぼす影響(パターン①,③,④)
まず,覆土厚の違いによって温度変化に及ぼす影響ついて整理を行った.図-4に GL-0.1m の温度変化を示
す.パターン①は,施工直後から温度低下が見られ,素地盤(パターン⑤)と同程度の温度まで低下した.一方,
パターン③・④は,施工後に若干ながら温度上昇が見られる.ただし,パターン④は施工後 1 ヶ月程度温度を保
つのに対し,パターン③は温度上昇後にすぐさま下降傾向にある.
図-5に GL-0.5m の温度変化を示す.パターン①の温度は,施工直後から下降傾向にある.パターン③も同
じような温度勾配で下降するものの,施工後に温度上昇が見られる.パターン④は,施工直後にパターン③と同
程度の温度上昇を示し,その後 2 週間程度温度を保った後,緩やかな温度勾配での下降が見られる.
図-6に GL-1.0m の温度変化を示す.どのパターンも施工後に温度上昇が見られる.ただし,パターン③・
④は,パターン①に対して,上昇度合いが大きい.また,パターン①・③は温度上昇後に緩やかな温度勾配で下
降するのに対し,パターン④は温度上昇後に 3 週間程度温度を保ち,その後緩やかな温度勾配で下降する.
−122−
4.3
施工方法が改良地盤の温度変化に及ぼす影響(パターン②,⑥,⑦)
施工方法の違いによって温度変化に及ぼす影響について整
理を行った.
図-4~6ともに,パターン⑥・⑦の施工直後の改良地盤
の温度の高さは顕著であり,蒸気の投入量に比例した温度が
見られる.施工 1 ヶ月後の温度を比較すれば,パターン②,
⑥,⑦の順に高く,明瞭な差が生じている.
地表面近傍(図-4)においては,パターン②は施工後に
温度上昇が見られるものの,その後は下降傾向にある.パタ
ーン⑥・⑦は 2 週間程度,施工直後の温度を保つものの,そ
の後は下降傾向にある.下降する温度勾配は,各パターンと
もほぼ同程度である.
図-4
GL-0.1m での温度変化
図-5
GL-0.5m での温度変化
図-6
GL-1.0m での温度変化
図-5・図-6ともに同様の傾向であり,各パターンとも
施工後に温度上昇が見られ,上昇の程度はパターン②,⑥,
⑦の順に大きい.上昇後は,各パターンとも下降傾向にあり,
下降する温度勾配は,各パターンとも同程度である.
4.4
試験施工の結果のまとめ
以上より,GL-0.1m の温度低下が一番懸念され,覆土厚あ
るいは施工方法により明確な差が生じることが分かった.地
表面付近に焦点を当て,土中の温度変化についてまとめると,
以下のようである.
・
覆土を設けることで,改良地盤の温度低下を防げること
が分かった.しかし,覆土厚が 0.3m 程度であれば,施
工直後からの温度低下が見られた.覆土厚を 0.6m 程度
設ければ,施工後の改良地盤の温度低下を低減すること
が期待できる.
・
寒冷地においても,ヒートソイル工法によって,施工直
後の温度あるいは施工後の温度保持に期待できることが
分かった.下降する温度勾配は,ほぼ同程度ながら,施
工後の温度が高いため,セメントの養生温度として十分
に期待できる.
7.0
5. 強度発現
6.09
6.0
行えば,水和反応の促進に伴って強度発現が期待できるが,
5.0
低温になるに従い水和反応は緩慢になる.パターン①の実測
結果より,改良深度が浅くなるにしたがって,施工後の温度
強度比(m )
2章で述べた通り,セメント系固化材を用いて地盤改良を
4.0
3.0
は低温である.これは,表層部において,水和反応に伴う発
2.0
熱量以上に低温の外気の影響を受けているものと推測され,
1.0
改良地盤の強度発現に影響が生じている可能性が考えられる.
0.0
そこで,表層部(GL-0.5m より浅い層)における各パター
4.69
1.99
2.32
1.00
0.94
パターン① パターン② パターン③ パターン④ パターン⑥ パターン⑦
図-7
各パターンの強度比
ンの一軸圧縮強さを,パターン①(覆土なし)を基準とした
強度比 m を用いて相対的な評価を行った(図-7).強度比 m とは,パターン①の一軸圧縮強さを 1 としたとき
の各パターンの一軸圧縮強さを表したものであり,強度比 m を以下のように定義する.一軸圧縮強さは,平均値
を用いる.
強度比 m=(パターン②・③・④・⑥・⑦の一軸圧縮強さ)/(パターン①の一軸圧縮強さ)
覆土厚の違い(パターン①・③・④)による強度比は,覆土厚が 0.3m のパターン③の強度比が m=2.3 であり,
−123−
覆土厚が 0.6m のパターン④の強度比が m=6 であった.覆土厚を厚く設けることで,改良地盤内の温度の上昇が
見られ,強度発現にも影響をもたらすことが分かった.
施工方法の違い(パターン③・⑥・⑦)による強度比は,TMM による施工のパターン③の強度比が m=2.3,投
入蒸気量が少ないヒートソイル工法のパターン⑥の強度比が m=1 弱であり,投入蒸気量が多いヒートソイル工
法のパターン⑦の強度比がは m=4.7 であった.パターン⑦は,パターン③に比べても約 2 倍の強度発現が見られ
た.ただし,TMM に比べヒートソイル工法の方が,改良地盤内の温度が高いのに比して,強度発現は小さかっ
た.加えて,投入蒸気量が少ないパターン⑥については,十分な強度発現が認められなかった.
この原因として,施工時に投入する蒸気分を考慮せずにセメントスラリーの作成を行ったために含水量が多く
なり,テーブルフロー値が大きくなったためと考えられる.その結果,他のパターンに比べて,水セメント比が
大きくなり,所定の強度を満足できなかったと考えられる.
6. 二次元熱伝導解析
6.1
解析の目的
本章では,二次元熱伝導解析「TEMP/W」を用いて,改良地盤内の温度分布や最大凍結深さについて示す.な
お,林
7)
は,道路構造物の凍結面の推移を本モデルを用いて再現し,その適用性を確認している.今回行った解
析は,南幌町での現象を再現することを目的としておらず,
非定常解析時の境界面
素地盤
簡易な条件設定の元での改良地盤内の温度分布や最大凍結深
を明らかにすることである.
6.2
砂質シルト
解析モデル
図-8に解析を行った素地盤および改良地盤の解析メッシ
ュを示す.メッシュの大きさは,縦 20cm,横は約 67cm の長
砂混じり粘土
方形メッシュである.
本モデルは,定常解析により,地盤内の温度を均一にした
後,非定常解析を行っている.また,流体の相変化の際の潜
熱の定式化を行い取り込んでいる.熱伝導解析に用いた非線
形の支配方程式(熱流束方程式)を式(1)に示す.
  T    T
 kx
   ky
x  x  y  y
ここに,T:温度
伝導率
Vu  T


・・(1)
  Q   c  Lw V

T  t


kx:x 方向の熱伝導率
Q:適用した境界熱流束
Lw:水の潜熱(=3.35×105kJ/m3)
凍結の体積含水率(0≦Vu≦1)
6.3
(a)
素地盤の解析メッシュ
非定常解析時の境界面
改良地盤
ky:y 方向の熱
c:体積熱容量(材料特性)
V:体積含水率
Vu:未
セメント
t:時間
改良地盤
解析条件
砂混じり粘土
南幌町での試験施工では,改良深度が4m であったことか
ら,土中の境界条件を GL-4m の位置に与えた.また,表-
4のように,Case1 として覆土なし(15℃),Case2 は覆土あ
(b)
り(20℃),Case3 はヒートソイル工法による高温度(35℃),
の 3 ケースを想定し,素地盤は 10℃として土中の温度設定を
改良地盤の解析メッシュ
図-8
行った.ただし,Case2~3 の改良地盤の温度設定は,発熱反
表-4
解析モデル
土中の境界条件の温度
応による最大温度を採用し,その状態の改良地盤に寒気が地
境界条件
表面に作用する条件にした.
素地盤
地表面からの凍結速度(式(2))を設定するため,既往の凍
結指数と凍結期間のデータ 8)から凍結速度を求めた.
vf (凍結速度)=
F(凍結指数)
・・・・(2)
t(凍結期間)
−124−
改良
地盤
10℃
Case1(覆土なし)
15℃
Case2(覆土あり)
20℃
Case3( ヒートソイル工法)
35℃
した(表-5).ただし,凍結速度が-5℃/day よりも大きく
なると,各土質の未凍結の体積含水率および土の熱伝導率の
特性から進行する凍結深さの推移に大差ないことが解析で確
認できたため,凍結指数(F)が F=400℃・days よりも大きいと
きは,凍結速度は vf=-5℃/day 一定とした.
解析には素地盤と改良地盤の熱物性値として,熱伝導率 λ ,
凍結速度(℃/day)
図-9に凍結速度と凍結指数の関係を示す.凍結指数の大
小で凍結速度が異なるため,凍結指数ごとに凍結速度を設定
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
0
体積熱容量 c,凍結潜熱 L,体積含水率 V を用いており,各
材料の物性値を表-6に示す.熱伝導率の推定には Kersten9)
の実験式を,体積熱容量 c は伊福部
10)
による算定式を用いた.
土の未凍結時の体積含水率 Vu 並びに土の単位体積当たりの
200
図-9
400
600
800
1000 1200
凍結指数(℃・days)
凍結指数と凍結速度の関係
表-5 凍結指数ごとの凍結速度の条件
凍結指数(F)
凍結速度( vf )
凍結潜熱 L は,乾燥密度 ρ d と含水比 w を用いて式(3),(4)で
F=
~200℃・days
vf = -2℃/day
表すことができる.
F = 200~300℃・days
vf = -3℃/day
F = 300~400℃・days
vf = -4℃/day
F = 400℃・days~
vf = -5℃/day
Vu   d  w
6.4
・・・・(3)
L  3.35  w   d
・・・・(4)
二次元熱伝導解析の結果
図-10 に凍結指数と凍結深さの関係を示す.土中の境界条件の温度が高いケースほど,凍結深さが浅いことが
分かる.ただし,素地盤と Case1 の凍結深に大きな差は見られない一方で,Case1 と Case2 とでは差が見られる.
試験施工においても覆土を設けることで,改良地盤温度が維持あるいは温度低下を低減する傾向があることを4
章で示したが,これと同様の傾向が本解析モデルでも確認された.また,ヒートソイル工法を想定した Case3 は,
凍結深さが浅くなり,寒さが厳しいほど,その効果は顕著であることを表している.ただし,前述したように,
Case2~3 の改良地盤の土中の境界条件の温度設定は,発熱反応により温度が最大となったときの温度としている
ため,水和反応時の改良土の温度上昇期間(1~2 週間程度)の温度の解析への適用方法については今後の課題と
考えている.
素地盤と Case1,Case1 と Case2 の土中の境界条件の温度差はともに 5℃ながら,凍結深さに違いが見られる.
これは,土中の境界条件の温度が相変化の熱エネルギーの受け渡しに影響しているものと推測され,地表面から
の凍結速度とともに土中の境界条件として設定した温度が重要な要因であることを示している.
また,既往の研究 6)から,養生温度が 5℃の一軸圧縮強さは,養生温度 20℃時の 60~70%の強度発現が期待で
きるとあり,改良地盤の長期的な強度発現のために必要不可欠な養生温度と考えられる.そこで,凍結指数と土
中温度が 5℃の最大深さの関係を図-11 に示す.凍結深さとの関係を示した図-10 と比較すれば,ケースごとの
差は大きい.図-10 に示した凍結深さは,改良地盤を凍結させないために必要な覆土厚と便宜的に考えると,地
表面付近までを5℃以上に保つためには,凍結させないための覆土厚よりも 2~3 倍程度厚めの覆土が必要となる.
表-6
地盤 0~1.0m
砂質シルト
地盤 1.0~4.0m
砂混じり粘土
改良地盤
各材料の熱物性値の一覧
熱伝導率
(Kersten)
湿潤密度
含水比
乾燥密度
( g/cm3 )
ρt
w
(%)
( g/cm3 )
(J/s m K)
未凍土
1.391
77.5
0.784
0.667
凍土
-
-
-
1.368
未凍土
凍土
1.781
-
45.3
-
ρd
1.226
-
λ
1.084
1.984
未凍土
1.582
61.9
0.977
0.830
凍土
-
-
-
1.622
−125−
凍結潜熱
体積熱容量
(伊福部)
体積
含水率
L
( J / m3 )
c
( J / m3.K )
V
(%)
3.10×10- 8
60.7
1.83×10- 8
-
2.04×10- 8
1.86×10- 8
2.03×10- 8
3.20×10
-8
55.5
2.03×10
-8
-
3.23×10
-8
60.5
1.96×10- 8
-
6.5
解析のまとめ
凍結指数(℃・days)
本解析では,簡易な温度条件設定下での素地盤および改良
0
0
的とした.その結果,図-10 の凍結指数と凍結深さの関係よ
-20
り,同じ凍結指数でも各ケースの土中の境界温度の違いによ
って,凍結深さが異なることを二次元熱伝導解析「TEMP/W」
を用いて表現できた.
凍結深さ(cm)
土に進行する凍結深さとそれぞれの土中温度の比較を主な目
上記の結果より,各ケースと凍結指数ごとの土中の 5℃深
200
400
-60
-80
-100
素地盤
Case2
-140
図-10
一軸圧縮強度の発現が期待できるものとなり得る.
凍結指数(℃・days)
0
ないこと,④土中温度と土中の相変化の関係が明らかになっ
400
600
800
1000 1200 1400
-50
-100
-150
-200
-250
ていないこと,などが挙げられ,これらの改善の如何によっ
-300
ては,二次元熱伝導解析による土中温度の推移に影響を与え
-350
ることになるので留意しなければならない.
200
0
+5℃の深さ(cm)
組込むことが困難なこと,③改良地盤の熱物性値の実測値が
Case1
Case3
凍結指数と凍結深さの関係
本モデルを実現象の再現を目的とした場合,いくつかの改
善点が挙げられる.①定常解析時に温度を一定としているが,
よる温度上昇過程およびその後の温度下降過程をモデル内に
1000 1200 1400
-40
以上に保つための覆土厚の設定指標となり,地表面近傍での
ること,②非定常解析の境界条件に,改良直後の水和反応に
800
-120
さを導出した.これは,地表面近傍においても養生温度を 5℃
実際には土中の地表面付近は深度方向に温度分布を持ってい
600
図-11
素地盤
Case2
Case1
Case3
凍結指数と+5℃の土中深さ
7. まとめと今後の課題
南幌町での試験施工の実測より,外気からの冷気によって改良地盤に温度低下が生じている.これに対し,覆
土を設けることやヒートソイル工法を用いることで冷気を軽減できる.ただし,地表面付近での温度低下には特
に注意を要する.この温度低下抑制の対策となる覆土厚の設定やヒートソイル工法での蒸気の投入量などについ
ては今後の研究課題が残されている.
また,二次元熱伝導解析を行い,改良地盤に生じる凍結指数に応じた凍結深さを示した.地表面の養生温度を
5℃以上に保つような適切な覆土厚を設置すれば,改良地盤の長期的な強度発現が期待できる.このとき,地域性
による気温条件や改良時期,覆土材料の相違などを考慮した改良後の凍結指数を推定して,解析を実施すること
になる.現時点において,この解析よる結果の精度向上を図るには,本文に述べた幾つかの課題が残されている.
その重要な要素の一つとして,改良地盤の熱物性値の推定方法が考えられる.
本年度,当研究所では,釧路町で実施する試験施工において,養生温度と改良強度の関係を照査するとともに,
改良地盤の熱物性についても明らかにし,二次元 FEM 熱伝導解析の精度の向上を目指している.
- 参考文献 -
1) 橋本聖,西本聡,林宏親:トレンチャー式撹拌工法で施工された改良地盤に関する評価,
(社)
地盤工学会北海道支部技術報告集第 47 号 pp.85-90,2007.2
2) 橋本聖,西本聡,林宏親:トレンチャー式撹拌工
法 で 施 工 さ れ た 地 盤 の 強 度 特 性 と そ の 管 理 方 法 に つ い て , ( 社 ) 地 盤 工 学 会 北 海 道 支 部 技 術 報 告 集 第 48 号
pp.219-224,2008.2
3) 松下恭司:セメント系固化材を使用した改良土の温度を上昇させる効果,土木学会第 64
回年次学術講演会Ⅲ-448(CD-ROM),2009.9
4) 橋本聖,西本聡,林宏親,梶取真一,牧野昌己,伊藤浩邦,松
下恭司:低温条件下で浅層混合処理した改良地盤の温度変化と強化,
(独)寒地土木研究所月報,No.680(投稿中)
5) (社)セメント協会:セメント系固化材による地盤改良マニュアル第三版,p.40
2003.9
6) 城戸優一郎,西
本聡,林宏親,橋本聖:セメント改良した泥炭における養生温度が改良強度へ与える影響,(社)地盤工学会北海
道支部技術報告集第 48 号 pp.35-40,2008.2
7) 林啓二:二次元 FEM 熱伝導解析を適用した道路構造物の凍上対策
に関する研究,北見工業大学博士論文,pp.90-104,2009
8) アスファルト舗装要綱:
(社)日本道路協会,pp.286-288
9) M.S.Kersten:Thermal properties of Soils, University of Minesota, Institute of Technology, Engineering Experiment
Station, Bulletin, No.28,1949
10) 伊福部宗夫:北海道における道路の凍上・凍結深さおよび置換率に関する研究,
土木試験所報告,第 26 号,P.19,1962.3
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