ASEPCO ミキサー洗浄研究報告 - セントラル科学

ASEPCO ミキサー洗浄研究報告
ミキサーの洗浄性の評価
JM Hyde Consulting, Inc.
目次
--------------------------------―――――――――――――――――――――――――――
はじめに ……………………………………………………………………………………….
2
概要 ………………………………………………………………………………………
2
洗浄性の評価方法 ………………………………………………………………………
2
研究方法 ……………………………………………………………………………・
2
分析方法 ……………………………………………………………………………・
2
分析方法の構築 ……………………………………………………………………・
3
サンプリング方法 ……………………………………………………………………・
3
運転開始とサイクル決定 ……………………………………………………………・
5
洗浄サイクル …………………………………………………………………………
5
PQ 試験 ……………………………………………………………………………・・
6
結果 ……………………………………………………………………………………………
6
回収量の研究とサンプリングオペレータの適格性 ……………………………………・
6
アジテータ洗浄研究 ………………………………………………………………………
9
結果のレビュー ……………………………………………………………………・…
9
使い易いCIP設計要素 ………………………………………………………・…
12
結論 ……………………………………………………………………………………………
14
まとめ ……………………………………………………………………………………・
14
謝辞 ………………………………………………………………………………………
14
参考文献 …………………………………………………………………………………
14
1
はじめに
概要
製薬・バイオ製薬産業において、汚染コントロールにより製品純度を維持することは非常に重要なことで
あり、製造バッチ間での洗浄プロセスは汚染コントロールのために行われる主要な方法の一つである。
汚染に対する最初の防御策として、洗浄プロセスは信頼が置け、再現性があるものでなければならない。
信頼性と再現性を達成するために、洗浄サイクルが行われるときは常に、時間、温度、洗剤濃度、機械
的エネルギーの伝達等の重要要素がよくコントロールされ再現性があるものでなければならない。
さらに、プロセス機器の形状は衛生学の設計原理を考慮に入れなければならない。これはどの様なシス
テムでもその全体的な清浄度が製品に接触する部品の累積に依存しているからである。従って、エンド
ユーザーが医薬品・バイオ医薬品製造に使われる機器の選定に大きな注意を払うことは最大限に重要
なことである。
この選択を助けるために、ASEPCOは新型のPolymixerTM底部搭載アジテータが、現在ユーザーが利用
可能な類似のアジテータと同等またはそれを越える性能を有することを検証するための洗浄研究を実施
した。PolymixerTMの洗浄性能を確認するために、ASEPCO社は外部の専門会社に、CIPシステムの設
計と産業界で行われているのと同様の再現性有るCIPプロセスの開発を行わせた。 さらに広く行われ
ている自動洗浄方法を用いたPolymixerTM設計が再現性があり、効果的なCIP性能を検証する試験プ
ロトコルの作成を行わせた。PolymixerTMが同様の機器形状と洗浄方法を使っている他の2つの競合す
るアジテータと直接比較されたとき、残留物の合計量は試験された他の2つのアジテータよりもPolymix
erTMの方が一貫して少なかった。
洗浄性の評価方法
研究方法:
再現性があり信頼できる洗浄性ということについてアジテータの設計をテストするために、工業上のアプ
リケーションで一般的な環境と設置形状が選ばれた。それぞれのアジテータは 1,000 リットルの容器内で
同じ様な形に配置することが出来、この容器が CIP 洗浄計画におけるプロセスまたは対象容器として扱
われた。
アジテータの洗浄性能をテストするために使った CIP スキッドは、洗浄サイクルのパラメータを繰り返しコ
ントロール出来る様にした、タンクを一つ有するシステムである。CIP システムを運転開始後、洗浄サイク
ルが開発され、1,000 リットルのプロセス容器内で洗浄液が十分にスプレーされる範囲を確認するために
洗浄プロセスでの流量により、容器のスプレー装置が試験された。
研究の試験期間は各アジテータが容器内に設置され、プロセスの汚染物質をシミュレートするものとして
BSA(Bovine Serum Albumin:ウシ血清アルブミン)により汚染状況をつくり、これを乾燥後に本報告書の
次のセクションに記述する CIP サイクルの運転により洗浄を行った。
洗浄サイクルにおける最終リンス中及びリンス後に、確認のためのサンプリングを行い、それぞれのア
ジテータの性能をお互いの関連で定量化した。特に、最終リンス水は自動化されたオンライン TOC 分析
計と導電率計によりサンプリングされた。自動リンスサンプルを確認するためにマニュアルでもリンス水
が採取された。最後にアジテータのいろいろな場所から直接、TOCの表面拭き取りサンプルが行われ、
CIPサイクルによって製品が接触した表面からあらゆる残留物が除去されたかを検証した。サンプリング
方法は、本報告書の後半により詳細に記述される。
分析方法
感度が良くて、非特異的な分析法として、リンス水及び表面拭き取りサンプルから集められた洗浄確認
サンプルを評価するために TOC(全有機炭素)試験が選ばれた。導電率と同じく TOC もオンラインリンス
水サンプルを評価するために使われた。洗浄プロセスの評価において TOC 分析がこの様に中枢的な役
2
割をしたので、使われた分析方法は適切に構築され文書化されることが必要であった。
分析方法の構築
本研究で使われるTOC測定方法が信頼できるものであることを保証するために、方法の開発が行われ
た。オフライン分析のために使われた分析計は GE Analytical の900型 TOC 分析計である。900型 TOC
分析計が分析能力、可搬性、及び操作の容易さにより選ばれた。900型が用いている特許技術により、
単一の校正範囲で低 TOC 域の TOC サンプルに対して優れた感度を示すと共に、高濃度の TOC サンプ
ルにも正確 な測定結果 を示す。90 0型はまた特許のサン プリング装 置(iOS:Integrated Online
Sampling)を使っており、これによって、連続オンラインモニタリングから40mLのガラスバイアルを用い
るオフラインモニタリングへの速やかな移行を可能にしている。この研究で使われた型式は900ポータ
ブル型TOC分析計である。完全内蔵−非外置き試薬とキャリアガス不要により、可搬性が最高で、サン
プリングポイント間の移動を容易にしている。しかしながら、表面拭き取りのサンプリング方法は以下の
ような変動要因を受けやすい。
環境の変動要因を説明するために、TOCによる表面サンプリング方法の構築は、汚染物残留量、プロ
セス水の水質、残留物がサンプルされる材質特性、スワブ溶剤、拭き取りを行う技術者間の違い等の要
因が考慮された。
アジテータと容器を汚染するために使ったBSAを特徴付けるために、希釈サンプルをいくつか用意して
オフライン TOC 分析計で分析した。BSA の特性を知ることで、アジテータの表面材と同等の材質のテスト
ピースに使用された汚染溶液を正確に調製することが出来た。電解研磨された316L ステンレス鋼のテ
ストピースがアジテータブレードと同等の表面仕上げとなるように加工された。次いで、テストピースを洗
浄し BSA の残留量を変化させて汚染溶液を塗布し、これを拭き取りサンプリングし、最大可能量と比較
して回収率がどの程度になるかが評価された。
最大可能量とは、スワブサンプリング方法で使われるスワブ抽出液を満たしたバイアルの中に同量の汚
染物を直接滴下したサンプルの測定値のことである。テストピースは酸・アルカリで注意深く洗浄し、TO
Cの読み値に影響を与え得る汚染物のない場所で乾燥させた。
アジテータの清浄度を評価するための拭き取りサンプルを信用して使うためには、洗浄方法の研究に影
響を与える環境の変動要因と同様にサンプリング方法に基づいて基準が設定されなければならない。
結果に影響する変動要因や環境要素の例としては、サンプリングオペレータの個人差と洗浄プロセスに
使われる水の水質(つまりバックグラウンドTOCレベル)がある。
この場合に決定するべき適切な測定基準は定量限界LOQ(Limit of Quantitation)である。 LOQは、測
定に付随するノイズを含んで、その測定方法が明らかに識別し定量できるレスポンスのレベルのことで
あると定義される。
TOCの表面サンプリング方法を構築後、サンプリングとオペレータの適格性評価のための標準方法が
ラボの内部文書に記録され、その方法の一貫性と再現性が確認された。
サンプリング方法
アジテータの洗浄性を評価するために、間接サンプリングと直接サンプリングの両方が実行された。間
接サンプリングは最終リンス水の循環ラインからリンス水を取り出した。直接サンプリングは、清浄なリン
ス水に湿らせたポリエステルのスワブを使い、機器表面から拭き取った残留物をバイアル中の水に抽出
することを行った。スワブで拭き取った残留物を十分な時間水に抽出し、残留物量を分析した。さらに、
機器の最終目視検査も行い、各洗浄サイクルを行った後で、明らかな変色や、異常、または目に見える
様な残留物の堆積がないことを確認した。
3
拭き取り箇所は基本情報を得るためと、適切に開発されたCIPサイクルと組み合わせれば、ASEPCO
のPolymixerTMが汚染リスクを最少にすることを検証するためにベストケースとワーストケースのサンプ
ルをとることを基本に選定された。TOCの拭き取りサンプル箇所として選定された例を図1に示す。
ベストケースのサンプリング箇所は例えばインペラ・ブレードの上面である。ここには容器のスプレー装
置から洗浄液ジェットが直接ぶつかる。逆に、ミキサーのベアリング面と軸受け面の間の環状空間はス
プレージェットを直接受けないので、循環する洗浄液が届かないと多分残留物が溜まる部位である。従
って、ミキサーのベアリング面と取り付け軸(写真に示されていない)はワーストケースの拭き取り箇所の
代表である。
ブレード上面
孔
下面
ブレード下面
孔
ベアリング゙
ボディ
図1 スワブ箇所例
精製水
熱交換器
テストタンク
1000L
図2 ASEPCO CIP システムプロセスフロー
4
運転開始とサイクル決定
洗浄各要素の再現性があることを確かにするために、PolymixerTMを取り付けた 1000Lの容器に対し、
厳格に管理された再現性のあるCIPプロセスを決定することが行われた。このためには、機器内面が、
洗浄液の乱流落下液膜を形成するに十分な量の水を受けるように入り口と出口フロー間での圧力バラ
ンスが必要であった。乱流は、機器表面の残留物への洗浄液の物質移動を高めるので望ましい。その
ことによって、対象残留物の拡散性にのみ依存する層流で行われる場合の 1000 倍もの洗浄効果を与え
る。(1)
入り口流量は、乱流落下液膜を形成するために必要な流量と容器サイズに関する文献中に記述されて
いる実験式から決定することが出来る(2)。出口流量は定常状態で容器への洗浄液注入や排出が行わ
れる様な入り口流量と一致しなければならない。これは、容器底部に止水域を形成しないために必要な
ことである。止水域があると、乱流によって機器に伝達される機械的な洗浄エネルギーが阻害され、そ
のためにサイクル時間を長くすることが必要になるので避けなければならない。
入り口流量と出口流量が決められたら、リボフラビンスプレー試験を行って、スプレー装置の噴射範囲パ
ターンが洗浄液の直接噴霧であれ、スプレーを直接受けた表面からの洗浄液の流れ込みであれ、全て
の機器表面に洗浄液が十分に分布していることを確かめた。
洗剤濃度、洗浄温度、洗浄液循環時間も検討中に決定された。この研究で選定された値は、一般的な
工業用CIPサイクルで使われている代表的なものであり、従って、製薬及びバイオ医薬アプリケーション
においてPolymixerTMを使用することと関連することである。
洗浄サイクル
本研究で検討された洗浄サイクルは、明確に区別され再現性のある下記の5段階で構成される。
(1)イニシャルリンスとドレン、(2)アルカリ洗浄液の循環とドレン、(3)中間リンスとドレン、(4)酸洗浄
液の循環とドレン、(3b)中間リンスとドレン、(5)最終循環リンス、である。
イニシャルリンスサイクルで、機器表面から溶解性の高い残留物が除去され、粒径の大きい遊離粒子が
洗い流される。中間リンスと同じくこの洗浄段階は非循環で行われる。洗浄循環配管と機器が、アルカリ
洗浄を開始する前に、出来るだけ多くの溶解性残留物とプロセス物質を除去し洗い流される。
ペプチゼーション(解こう)として知られるプロセスを経て、アルカリ洗浄は、機器表面に付着している分
子量が大きく、不溶性または変性したタンパク質を、ペプチドとして知られる分子量のより小さい、水溶性
のタンパク質小片へと加水分解する。アルカリ洗浄液はCIP循環路をリサイクルし、一定時間予め決め
た温度と洗剤濃度が維持された。アルカリ洗剤は、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを主成分とし、
機器表面の濡れと、リンス時の洗剤除去を助けるために界面活性剤が添加されている。アルカリ洗浄後、
洗浄液が機器から排水され、非循環の中間リンス(及びドレン)によってCIP回路が洗い流される。
洗浄サイクルの2回目のケミカル洗浄においてはリン酸が使われ、バッファ及び溶媒中に存在していたミ
ネラル分がアルカリ洗浄サイクルで使われた水酸化物と反応して形成された、不溶性のミネラル水酸化
物の析出物を取り除く。酸はまた、機器表面から十分にリンスされなかった残留アルカリ剤の中和という
二つ目の目的もある。全工程と同じく、この工程も温度及び酸濃度がコントロールされたCIP循環路の中
を一定時間リサイクルする。酸洗浄サイクルが終わると、洗浄液が排出され、さらにリンスと排水が行わ
れる。
オンライン分析計でサンプリングを行うために、洗浄サイクルにおける最終リンス水をリサイクルすること
にし、オンラインでTOC及び導電率のサンプリングを行った。最後に、最終リンス工程が行われている間、
TOCと導電率のマニュアル測定用のリンス水も採水された。
5
PQ試験
洗浄プロセス及び洗浄サイクルの性能評価を行うために必要な分析方法が決められ、その再現性を検
証するための洗浄テストが繰り返された。
容器およびアジテータを、BSA溶液をそれぞれの表面に直接塗布することにより汚染した。製造環境下
でよくおきるプロセス間の時間をシミュレートして、洗浄サイクルをスタートする前にBSAが乾燥する時間
を待った。産業界で行われる洗浄サイクル性能試験と同じく、洗浄サイクルは3回繰り返し行われ、前述
のサンプリング方法と技術で洗浄サイクルの結果を測定した。
最終リンス工程の間、サンプル水がTOC及び導電率測定のために採られた。サイクル完了後、目視検
査が行われ、明らかな異常がないかに注意が向けられた。またアジテータの工業用途上興味のある箇
所を慎重に選んで決定したアジテータ表面からの直接サンプリングが行われた。
結果
回収量の研究とサンプリングオペレータの適格性
分析法構築の第一段階で、プロセスの疑似汚染物質として使用した BSA の炭素含有量が定量された。
はじめに 10%(W/V)(g-BSA/mL 水)の原液を調製し、多種類の希釈液を原液から作った。表1はその特
性値の結果を示す。
表1 BSA の炭素含有量決定
最初のサンプルの分析に基づいて、BSAの原液は約 5995ppmのTOCを含むことを求めた。研究中に調
製された後の溶液はこの結果を使って調製された。分析計及び溶液調製の精度と直線性は満足出来る
ものであることが、表1の結果に示される通りの相対標準偏差と相関係数(R2=0.9999)によって明らかな
様に証明された。
ついでステンレスのテストピースに表2の Sample ID 番号に示される通りの既知濃度の BSA を滴下した。
オペレータによる違いを明らかにするために、3人のオペレータがスワブサンプリング法に対してその適
格性を評価された。オペレータの適格性評価は、テストピースから回収されたTOC値を、最大可能量と
比較することによって行われた。最大可能量を求めるサンプルは、それぞれのテストピースに滴下され
た溶液と同量をバイアルに直接滴下することによって調製された。
6
表2 スワブオペレータの適格性評価
各スワブオペレータの回帰分析結果とスワブ回収結果は表2に示す通りである。直線の傾きは、個々の
オペレータが行ったいくつかの残留物濃度に対する全体的な回収率を示し、そしてそれぞれの精度はそ
れぞれの回収データの相対標準偏差によって判定される。個々のオペレータのデータの信頼性を評価
する場合、精度(繰り返し精度)が主要な統計量として使われた。回収量を定量化する基準としてグラフ
の傾きを用いることを前提に、オペレータ間にバラツキが見られることは、この結果の不整合を説明する
包括的なモデルが必要であることを示している。個々のオペレータに対して個別に調整を行うのではなく、
全ての回収データを一つのセットとして統合し、図3に示される様に、全データに対する回帰直線が求め
られた。
個々のオペレータのそれぞれの相対標準偏差と相関係数R2に基づいても、スワブサンプリング法には
十分な整合性が存在し、それは洗浄確認試験にとって信頼できるものである。従って、この方法は洗浄
後の機器表面に何かの有機物が残っているかを信頼して評価するのに適切であると考えられる。
7
図3 スワブ回収データ(全体)
表3 テストピースのブランクTOC
測定されたTOCの回収値と最大可能量との間の誤差を評価
するために検出限界LOD(Limit of Detection)と定量限界L
OQ (limit of Quantitation)が計算された。下記の式に示され
る様に、回帰直線データを使って計算することが出来る。
LOD=
3.3s
m
LOQ=
10s
m
式中sは標準偏差であり、mは回帰直線の傾きである(3)。
スワブサンプリング法のLODは最初の式から 78ppbTOC と
なる。ところが、回収率検討に使われたステンレスのテストピ
ースで測定されたバックグラウンドTOCの実験的な評価結
果に基づけば、この値は、スワブサンプリング法のLODとし
て採用するには最良の値ではなかった。
表3に示される様に、洗浄して炭素残留物を除去したステン
レス鋼のテストピース10枚を拭き取り試験した結果のブラン
クTOC平均値は約 161ppb であり、また相対標準偏差は 9.3%であった。実験的に求まったバックグラウン
ドTOCが計算で求めたLODよりも高かったので 161ppb が最も適切な LOD であると決定された。
二つ目の式から計算される LOQ は 238ppb と求められた。控えめであるが、238ppbTOC が洗浄バリデー
ションの受容基準として選定された。従って 161ppb 以上だが 238ppb 以下のスワブサンプル TOC 値は
検出出来るが定量性はないものである。もっと具体的に言えば、これらの限度値は、構築された分析方
法の測定能力以下までにプロセスの残留物を取り除くために、洗浄サイクルの有効性を評価し証明する
ための基準ということである。測定結果が上記の判定基準を超える場合は、オンライン及びオフラインリ
ンスサンプルによる確証を得て、その結果が洗浄プロセスの不首尾のためであるかどうかを評価し決定
することになる。
8
アジテータ洗浄研究
洗浄サイクルの酸洗浄工程の間、洗浄液中の洗剤濃度確認のために導電率測定が行われた。測定は
携帯型の導電率メーターで行われた。アルカリ及び酸洗浄中の携帯型導電率メーターの読み値は
12-13mS/cm であった。アルカリ洗浄工程に対して TOC 基準に置き換えると、導電率 12-13mS/cm は
TOC 値約 261ppm に相当する。
最終リンス工程の間、GE Analytical Instruments 社の 500RL 型オンラインTOC分析計が使われ、リンス
水を分析し、各洗浄サイクルでTOC及び導電率を測定した。分析計の測定結果はCIPの洗浄サイクル
が、イオン性及びTOCのどちらも含む物質を機器表面から洗い落とすことを示し、その結果はマニュア
ルサンプルを採水し、分析する前に示された。
この様に、最終リンス水の導電率とTOCを測定する場合に、検出されるTOCはプロセスの疑似汚染物
質か洗剤の界面活性剤のいずれかに源を発しなければならない。バックグラウンドとして予測される導
電率値を越える導電率は、酸洗浄工程のリン酸または洗浄液調製に使われた他のイオン性物質に起因
しなければならない。
結果のレビュー
すべてのアジテータに対する集計ベースで、洗浄液に対するTOC予測値と洗浄サイクルのオンラインリ
ンスサンプルのTOC測定値を比較すると、TOC基準ではおよそ3桁(2.1 x 103)の減少、導電率基準で
はおよそ2桁の減少が見られた。従って、各アジテータに対する洗浄サイクルの全体的な性能は、製薬
及びバイオ医薬のアプリケーションと要求条件の視点からは受容できるものであった。
洗浄確認のスワブサンプルの結果と、前に導き出した 238ppbTOCのLOQの比較では、ASEPCO社の
PolymixerTM設計は、プロセス残留物がCIPでスムーズに除去されることを促進したが、一方、アジテータ
AとBは少なくとも1回はTOCのLOQを越えてしまった。このことは図4の中で、LOQを表す横線で示さ
れている。
図4 スワブサンプルの平均TOC結果
アジテータAもBも3回目の試験では、1回目と2回目の試験よりも平均して高かった。導電率は図5に、
TOCは図6に示されている。
9
図5 オンライン導電率測定結果
アジテータBのRun 3 の試
験の残存液の検査により、
TOCの高い水が供給され、
リンス水のマニュアルサン
プルで最終リンス水の出
口TOCが高くなったことが
分かった。事実、アジテー
タBのほとんどの基準線
がPolymixerTM やアジテー
タAのいずれよりも高かっ
た。どうしてこのように高
い結果になったかというこ
とについて理由を考える
ために、我々は、オンライ
ンとオフラインサンプル測定における違い、研究実施中に起きた出来事、結果に影響する時間に関わる
要因、試験を行う度に残留物の堆積を引き起こすかも知れないアジテータ設計の違いについて調査し
た。
図6 オンライン TOC 測定結果
試験実行記録をレビューし
た結果、Run 10 で相対的
に高い結果を出すことの原
因になったCIPサイクル実
行中に起きた手順の違い
が明らかになった。
図7に縦線で示しているよ
うに、誤操作は 72:45:00 頃
に起きている。
アジテータ A の Run 3 では、
オンライン TOC・導電率は、
マニュアルサンプルデータ
と共に結果に大きな違い
は見られない。従って、
TOC 値の上昇を引き起こした根本原因を調べるために更なる分析を行うことが必要であった。
表4は、3台のアジテータが試験された順番を示している。同表には各試験 Run においてマニュアルでサ
ンプルしたリンス水とスワブサンプルの測定結果も示してある。アジテータ B の最終 Run 実施中に、供給
水が、供給水タンクの水位が最大容量を超えた時に不注意により汚染されてしまった(下記注1)。
ささいな出来事の様に思われたが、このことは Run 10 (アジテータ B の Run 3)と Run 11 (アジテータ B
の Blank Run)において TOC 及び導電率の測定結果を高くしてしまった。従って、評価を歪んだものにし
ないために、3台のアジテータの相対的な洗浄性を比較するにおいて Run 10 の結果は問題にしない。
図7は、洗浄サイクルの性能評価のために、収集したサンプルのTOC値を時間軸に対して示してある。
カーブの右端に示す赤線は汚染が起きた時間を示している。
-----------------------------(注1)
汚染は、水が容器のフタをシールしているポリマーのガスケットとタンク内で接触したときに生じた。
10
表4 試験実施順序と洗浄バリデーションサンプルの分析結果一覧
(下記注 2)
表4に示されているマニュアル最終リンス導電率サンプルはオンライン分析計よりも常に良くない値にな
っている。プロセスストリームから直接サンプル水を得る分析はマニュアルサンプリングによる場合のサ
ンプル汚染を防ぐことが出来るので、このことは適切に設定されたオンライン分析に一般的なことである。
このことはTOCサンプルについては常にそうである訳ではないが、分析は導電率よりも有機物汚染に対
してずっと敏感であるので、オンライン分析計のサンプリングラインを適切に設定して、サンプル滞留時
間と dead leg を最少にし、洗浄バリデーションサンプルを採る前にラインが十分にフラッシングされている
ことが必要である。
図7 リンスサンプル水のTOC測定時間変化
経過時間 (分)
リンス水のTOC
測定結果を見ると、
直ぐに分かること
は、CIP洗浄サイ
クルの結果は洗
浄用にCIPスキッ
ドに供給される水
の品質に密接に
関わっているとい
う明白で基本的な
事実である。
二つ目には、排出
水サンプルがCIP
供給水のTOCよ
りも低く測定され
た場合は、CIPプ
--------------------------------――――――-----------------------------------------(注2)
Blank Run とは、BSA による汚染無しでリンスサイクルだけ行った後で測定したデータである。
11
ロセスがTOCの変動を緩和しているのではないかということである。重要な考え方は、これらの測定結
果の解釈は、リンス水に対する一般的な受容判定基準と比較するときの相対的な大きさにあったという
ことである。図8は、リンス水TOCの測定結果を 500ppbTOC に対する相対比で表したものである。(Run
10 と 11 を除く) さらに、分析結果の変動は、供給水 TOC の変化を反映しており、それが同じく TOC の
増加・減少という傾向を示している。
図8 リンスサンプルの TOC 測定結果
経過時間 (分)
使い易いCIP設計要素
バッチ間の交叉汚染に対して有効であるように、ほとんどの無菌アジテータの設計はオープンミキシング
ヘッド構造を取り入れている。オープン構造はベアリング表面を含めて、洗浄液がアジテータの全表面に
接触できる構造である。さらに、ベアリング表面間の寸法が極めて小さいので、ほとんどのアジテータに
おいてオープン構造は、プロセス流体が潤滑剤としてすき間スペースに入るのに望ましいものである。
アジテータ表面自身もまた底部マウント型のアジテータの設計を進める場合の検討対象であり、通常2
つの方式の内のいずれかをとる。第一のそして従来から最も一般的な設計は、ボールベアリングまたは
bearing race assembly であり、二つ目はスリーブとシャフト構造の設計である。二つ目の設計においては、
ベアリング材質はシリコンやタングステンカーバイトの様な硬化セラミック材が一般的に使われている。
プロセスフローへのベアリング面の有効性を向上させるために行われてきている一つの方法はハイブリ
ッド・セラミック・ボールベアリングの採用である。この様にした設計では、ベアリングは合金の溝の中を
走る硬化セラミックボールである。ベアリング溝がバルクプロセス水にさらされるので、ベアリングへの液
流量は一般のセラミックスリーブベアリング設計の場合よりも大きい。
Polymixer の設計は、セラミックスリーブベアリングのオープンヘッド構造を採用しており、上部のスプレー
装置からのジェットがベアリング面間のすき間空間に直接入っていくことが出来る。CIP 洗浄の間、オー
プンミキサーのヘッド構造は低速の回転速度と相まって、洗浄剤をベアリング面に行き渡らせ、プロセス
残滓を取り除く。洗浄プロセスを促進するに十分な機械的エネルギーを供給しつつ、低速回転によりベ
アリング面の摩耗と応力が減じられる。
PolymixerTMに取り入れられているもう一つの強化点は、ジェットスプレーに対して単一の非水平面で回
転するということである。他のアジテータは通常多面式であり、アジテータ面からプロセス液や洗浄剤をド
レンするために、特別な方向がある。PolymixerTMは、色々な取り付け角度で設置することができ、アジテ
ータからプロセス流体を効果的にドレンすることが出来る。
12
アジテータ A やアジテータ B は上述したような従来の設計方法を取り入れている。これらのアジテータの
設計の特徴は、多面式ブレード、ハイブリッド及びセラミックスリーブベアリングの両方を有するオープン
ヘッド構造である。
サンプリング方法の章で述べた様に、各アジテータの特徴を評価するために、洗浄容易と考えられる箇
所と洗浄困難と考えられる箇所からスワブサンプルが取られた。各アジテータのサンプリング箇所の測
定データを見ると(表5)、各アジテータの結果を個別に見てみるとき、どのスワブポイントにおいても、他
のスワブポイントよりも一貫して高いとか低いとかいう結果を示しておらず、このことは、スワブポイント間
の僅かなTOCの変動は、マニュアルサンプリングに付きもののランダムな誤差の結果であると思われる。
しかしながら、同じスワブポイントに対してアジテータ間のTOC結果を比較すると、アジテータBが一番高
い結果を示しており(Run 10 を除く)、次にアジテータAが2番目に高く、PolymixerTMは最も低いTOC測定
値を示した。
表5 アジテータ A と B に対する洗浄確認結果
洗浄サンプル測定結果(ppb TOC)
Agitator A
サンプリング
Run Run Run Avg.
ポイント
1
2
3
入口(リンス水)
66.1 71.1 83.9
73.7
出口(リンス水)
96 80.1 90.9
89.0
ベアリング1
208 242
215 221.7
ベアリング2
209 198
556 321.0
本体
202 193
675 356.7
底部
192 209
216 205.7
ブレード1(上面)
243 175
196 204.7
ブレード2(上面)
207 190
175 190.7
ブレード3(上面)
211 195
168 191.3
ブレード4(上面)
ブレード1(下面)
181 184
157 174.0
ブレード2(下面)
244 208
165 205.7
ブレード3(下面)
173 179
160 170.7
ブレード4(下面)
孔
孔
孔
孔
Run 平均
207 197
268
224
PolymixerTM
Run Run
2
3
81.1 30.8
100 84.1
189
144
197
275
185
194
204
198
163
162
169
196
156
161
58.4
91.0
183.7
226.0
191.7
194.7
184.3
190.7
175.0
180
205
204
186
176
173
160
184
156
175.3
188.3
177.7
190
185
212
185
200
166
140
155
142
172
141
174
179
179
179
189
Run
1
63.4
89
218
206
196
182
228
207
208
Avg.
Run
1
122
39.4
243
273
257
327
238
217
223
241
205
210
238
225
241
Agitator B
Run Run
2
3
76.6 321
138 262
255 277
189 316
215 324
173 272
197 297
199 284
213 278
167 261
296 469
248 457
196 502
180 305
211
337
Avg.
173.2
146.5
258.3
259.3
265.3
257.3
244.0
233.3
238.0
223.0
323.3
305.0
312.0
236.7
263
13
結論
まとめ
適切なツールと技術の使用により、ASEPCOのボトムマウント型アジテータPolymixerTMの衛生学的設計
の特徴が実証された。設計の適格性を示すことにおいて、重要なことの一つは適切な分析方法を構築
することであった。構築された方法に基づき、Polymixerと競合他社のアジテータの性能比較のための必
要情報を得るために、直接的及び間接的サンプルをオンライン及びオフラインでTOC分析を行った。
製品毒性や投薬量に関する情報がなかったので、検出限界を決定するために TOC 分析の各パラメータ
を検討し、洗浄バリデーションにおける妥当な許容基準を設定した。これらの許容基準を決定するにお
いて、他の環境変数に気を配り、それに応じて制限を与えるパラメータを調整することも重要なことであ
る。分析方法構築のために検討された環境変数とは、汚染用に使われた物質、供給水水質、残留物質
がサンプリングされる場所の材質、スワブ抽出溶媒、サンプリングオペレータの技術の違いによるサンプ
ルのばらつきであった。
Process Analytical Technology (PAT)を本当の意味で実行したことにはならないが、オンラインTOC分析
計を使うことによって、計り知れないほどのリアルタイム情報が得られ、それによってアジテータの評価を
迅速に計測することが出来た。さらに、オンラインTOC分析計とオフラインTOC分析計の測定結果を比
較することは、データ異常を評価し、データに信頼性と確証を与えるにおいて非常に有益であり、それに
よって3台のアジテータの比較評価を行うことが出来た。この様なテクノロジーを用いることは、時間とコ
ストが重要な事業や運転にとって、まさに財産となるべきものである。
謝辞
ASEPCO 及び JM Hyde Consulting は GE Analytical Instruments から900型及び500RL 型 TOC 分析
計の貸し出しを受けたことに謝意を表する。これらの分析計無しには、品質の管理と本研究の継続及び
完成はあり得なかった。
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参考文献
原文: ASEPCO Mixer Cleaning Study Report ‒ An Evaluation of Mixer Cleanability, JM Hyde Consulting, Inc.
翻訳:セントラル科学株式会社 文責:松永広助(TOC・営業企画)
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