平成 19 年度電気関係学会北陸支部連合大会 電圧外乱オブザーバを用いた誘導機駆動システムの A-76 加減速性能の改善 星野 哲馬(長岡技術科学大学)・伊東 淳一(長岡技術科学大学) 1. は じ め に Inverter Motor V 現在,インバータはさまざまな分野に適用され広く普及し ている。インバータのデッドタイム誤差は制御性能を大幅な 劣化をもたらすため,種々の補償方式が提案されている(1)。 筆者らは速度の異なる 2 つの外乱オブザーバによるデッ ドタイム誤差電圧補償法を提案し,V/f 制御に適用して良好 な結果を得ている(2)。本論文では外乱オブザーバの動作を最 適化し,全速度域で良好な波形を得られたので報告する。 V1q* + − V1q** + m 2d+ + ∆Vˆ 1 1+sTf + C 1 I1q C 1+sTf + + 回転座標変換の d 軸方向が二次磁束の方向と一致してい ると仮定すれば,q 軸の二次磁束φ2q がゼロとなり q 軸の一次 電圧 v1q は(1)式で計算できる。 v1q = (R1 + R2 + pLσ )i1q − ω1 Lσ i1d + ω meφ 2 d (1) I1d 1 RC+sL C + Fast disturbance observer + − R +sL 1 1+sTs 2. 誤 差 電 圧 と 逆 起 電 力 の 推 定 1L V1q − − RC+sL C 1+sTs VˆEMFSlow disturbance observer Kslow 1 1[rad/sec] 0 disable Kslow enable 図 1 並列の外乱オブザーバを用いた デッドタイム誤差補償システム Fig. 1. A dead-time error correction system with parallel-connected disturbance observers. ただし v1q:q 軸一次電圧,i1q:q 軸一次電流, φ2d:二次磁束, i1d:d 軸一次電流,R1:一次抵抗,R2:二次抵抗, Lσ :漏れインダクタンス,p:微分演算子, ω1 :一次周波数, ωme:モータ速度の電気角周波数を表す。 図 1 に提案する外乱オブザーバの構成を示す。提案法では 一次電圧 v1q を(1)式の逆関数を用いて推定する。低速領域で は R1+R2>>ω1Lσであるから干渉項と逆起電力の影響は無視 でき,外乱オブザーバによるインバータの電圧誤差推定値 ∆Vˆ は(2)式で推定できる。 ∆Vˆ ( s ) = 1 V1** q ( s ) − (R1C + R2 C + sLσC )i1q ( s ) 1 + sT { } (2) (a)Without proposed method (b)With proposed method ただし,サフィックスの C は制御装置の設定値, s はラプラス演算子を表す。 中高速領域では誤差補償電圧に干渉項と逆起電力項が現 れる。そこで提案法では逆起電力の周波数特性に注目して逆 起電力を遅い外乱オブザーバで推定し補償を行う。とくに, 逆起電力が誤差電圧の 2 倍を超える領域では過励磁が顕著 となるため補償が必須である。(3)式に簡易的に逆起電力を一 次周波数から求めたときの補償開始周波数ωenable を示す。 ω1enable = 2ωn ∆V Vn (3) (c)Characteristics against acceleration and braking ただし, ωn:定格周波数,Vn:定格電圧, ∆V:平均誤差電圧を表す。 低速領域では誤差電圧の周波数が低下し,逆起電力の周波 数に接近する。結果,遅い外乱オブザーバが逆起電力の補償 に失敗する。ここで,逆起電力が平均誤差電圧を下回る領域 で外乱オブザーバの補償ゲインをゼロとし,逆起電力の補償 を停止する。補償停止周波数ωdisable は(3)式と同様に求め,(4) 式より設定する。 ω1disable = ωn ∆V Vn (4) 補償ゲインが変化するωenable とωdisable の間は線形補完を行 い連続して変化させる。 3. 実 験 結 果 図 2(a),(b)は提案法と従来法(電流符号に誤差電圧をフィ ードフォワード補償する方法)を併用し,無負荷,1Hz で駆 動したときの電流波形である。ここでは 200V, 750W 汎用誘 導電動機を用いて試験を行った。モータ電流の THD は従来 方式の 8.91%に対し提案法は 0.98%と,7.93 ポイント改善し 図 2 実験結果 Fig. 2. Experimental results. 良好な補償結果が得られた。 図 2(c)は定格一次周波数までの加減速試験を行った結果 である。提案法を適用することにより十分な加減速トルクが 発生し,目標に近い到達時間で加減速が行える。 4.ま と め 本論文では,誘導機駆動システムに外乱オブザーバによる デッドタイム誤差補償を適用し,加減速性能の改善を実験に より確認した。なお,本研究は平成 17 年度産業技術研究助 成事業の支援を受けており,関係各位に感謝の意を表します。 (1) (2) 参考文献 杉本英彦・小山正人・玉井伸三 : 「AC サーボシステムの理論 と設計の実際」,総合電子出版社 星野哲馬・伊東淳一: 「外乱オブザーバによるデッドタイム誤 差補償を用いた誘導機駆動システムの中高速領域での運転」, 電気関係学会北陸支部連合大会,(2006.9)
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