原子力安全規制情報会議 テクニカルセッション 10月8日(金) 10:00∼12:00 セッション5 原子力施設の保全における事業者と規制の役割について コーディネーター 岡本 孝司 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授 パネリスト 森中 郁雄 有馬 博 平野 雅司 関西電力株式会社 原子力事業本部 副事業本部長 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 事業主管 独立行政法人日本原子力研究開発機構 安全研究センター長 新田見 実雄 独立行政法人原子力安全基盤機構 検査業務部長 山本 原子力安全・保安院 原子力発電検査課長 哲也 【司会】 定刻になりましたので、原子力安全規制情報会議、テクニカルセッション5、 原子力施設の保全における事業者と規制の役割についてと題しまして、セッションを開始 いたします。 それでは、本日のコーディネーター及びパネリストの皆様を御紹介いたします。 まず初めに、コーディネーターで東京大学大学院新領域創成科学研究科教授、岡本孝司 様でございます。 続きまして、パネリストの皆様を御紹介いたします。 お1人目で、関西電力株式会社原子力事業本部副事業本部長、森中郁雄様。 続きまして、日立GEニュークリア・エナジー株式会社事業主管、有馬博様。 続きまして、独立行政法人日本原子力研究開発機構安全研究センター長、平野雅司様。 続きまして、独立行政法人原子力安全基盤機構検査業務部長、新田見 実雄様。 最後に、原子力安全・保安院原子力発電検査課長、山本哲也でございます。 それでは、以降の議事進行を岡本コーディネーターにお願いいたします。 岡本コーディネーター、よろしくお願いいたします。 【岡本】 本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、どうもありがとうございます。 ただいま司会の方より御紹介ありましたように、このセッションは原子力施設の保全に おける事業者と規制の役割についてということで、2時間という非常に限られた時間では ありますが、是非いろいろな議論を通じて、改善につなげていけたらと考えている次第で ございます。 「原子力安全の第一義的な責任は事業者にある」 これは、私が最初にこのセッションの位置づけを、まず目的等を含めてお話ししたいと 思うのですが、最初に、上にありますように、まずこの原子力安全の第一義的な責任とい うのは事業者にあるということが、一番な基本になってまいります。 その上で、規制当局はその事業者の保全活動、運転も含めて様々な活動を監査するとい うのが、この規制当局の役割であるということをまず最初に、もう1回確認しておきたい と思います。 このようなことを受けて、今まで原子力安全・保安院さんは、活動をずっと続けられて きているわけですけれども、特に今日の議題であります検査のことにつきましては、検査 の在り方に関する検討会がもう10年以上前から開始されておりまして、平成14年に中 間取りまとめということで、科学的、合理的規制の必要性というもの、それから規制開始 には有効性配分しなさいというようなことの中間とりまとめをなされています。 これらを受けて、平成20年に、保全プログラムを基礎とする検査の導入についてとい う報告書を保安院さんの方でまとめられております。 この報告書をベースにいたしまして、改正につながりまして、いわゆるこの新検査制度 が昨年1月、もう既に1年半以上運用されてきているわけですけれども、この保全プログ ラムをベースとした検査、データベース等に基づき、必要なときに必要な検査を実施して いくという、 保全プログラムをベースとした検査という形が運用されてきているわけです。 本日は、この平成21年1月から約2年近くたっているわけでございますけれども、こ の2年間の新検査制度の運用に対して、課題を抽出してそれを改善につなげていくという 活動の一環というふうに考えております。いわば新検査制度のPDCAに当たるような、 チェック・アンド・アクションの部分に当たるようなことをいろいろ議論できればという ふうに考えている次第でございます。 本日は、先ほど御紹介いただきました5人のパネリストの方々がいらっしゃいますので、 まず、規制側から山本課長、新田見部長、それからメーカーを含めての事業者側から森中 副事業本部長、有馬事業主管、それから中立的な立場ということでJAEAの平野センタ ー長の方から、それぞれ幾つか紹介をいただいた後、いろいろなことについてディスカッ ションしていければというふうに考えてございます。 それでは早速でございますが、まず最初に、原子力安全・保安院原子力発電検査課長、 山本課長の方からよろしくお願いいたします。 【山本】 御紹介いただきました保安院の検査課長をしております山本でございます。 お手元の資料に基づきまして、今、岡本先生から御紹介いただきました新検査制度の概 要について、簡単に御紹介したいと思っております。 「新検査制度の目的」 新検査制度の目的は、規制側の立場から、どういう制度改正が行われたかというような ことで書いてございます。 特に保全の有効性をよく見ていくという観点から、過去のトラブルあるいはプラントの 高経年化、こういったものを踏まえて、保全の計画を策定し実施する。そのための計画の 策定の義務づけといった制度が入ってございます。 そして、それを定期検査の前に提出いただいて、国、実際には私の隣におられます原子 力安全基盤機構の方で御確認をいただく。 もう1つ大きな特徴は、適用可能な新技術を用いた運転中の検査、これは状態監視保全 と言っておりますけれど、こういったものも導入されているということで、この保全とい うのは必ずしも停止中のみならず、運転中も含めて全体の保全サイクルを考えるという背 景のものでございます。 「新検査制度の全体像」 これは皆様ご覧のとおり、全体の保安活動で、この右側にありますのは事業者が実施さ れる保安活動であります。これは保守管理のみならず運転管理、燃料管理、あるいは廃棄 物管理関連と、いろいろな活動が行われますが、特に保守管理の中でも、真ん中にありま すように国が特に安全機能を重点的に見ます定期検査、それから技術系の適合性を見る定 期事業者検査、そして全体の保守管理というような仕組みになってございますが、今回の 制度は、特に上の方の黄色いところ、星がついていますけれども、保全の基本的な方針あ るいは保全計画をつくっていただく。こういったところが、新検査制度の大きな仕組みと して強化されているところでございます。 「新検査制度における国の関与の強化」 これは国の関与の観点から見たものでございます。保安規定の保守管理の中に、こうい う保全プログラム全体の仕組みを位置づけて実施していただく。 それから右側にありますように、保全計画というものを策定しそれの事前確認を行うこ とと、このあたりが、規制上、充実された点になってまいります。 「保安規定の記載の充実」 それで、この保安規定は、保守管理の全体の仕組み、保全プログラムと呼んでもいいか もしれません。この基本は、電気協会のJEAC4209という民間規格をベースとして 作成していただくことになっている。それを踏まえた上で、様々な保守を実施するという ことであります もう1つ、長期保守管理方針、これはいわゆる高経年化技術評価を行った場合について は、その対策の方針を書いていただきます。 それから保安規定の中に運転期間、現行はすべて13か月になってございますが、保全 の結果、それからもちろん燃料の関係もありますが、それを踏まえて運転期間を変更する ことが可能であり、これは認可対象になってございます。そして全体的な品質保証活動を 反映する。ある意味当然なことでございます。 「保安規定に基づく保全サイクル」 これらを踏まえたこの保全サイクルの考え方でございます。これは1つ1つの説明はち ょっと難しいのですが、保全の目標は重要度に応じて保全の重要度を設定し、左側にあり ます保全の計画をつくり、プランのところですね、そして保全を実施し、その結果の評価 をする。そしてそれを反映する。いわゆるPDCAを回す。こういう保全サイクルの一番 基本的な仕組みを保安規定の中に置き、これに基づいて事業者の方でこの体制をつくって いただくという仕組みになっているものでございます。 「保全計画の概要」 ここは保全計画の内容でございます。保全計画の目的、内容はどういうことをやるかと いうことで、特に大事なのは、下の絵にありますように1つのサイクル、これは停止中の みならず次の運転期間まで含めた、状態監視を含めたものとして位置づけていくというも のでございます。 「保全計画の届出状況一覧」 これは保全計画の届出状況、この制度が平成21年1月から省令が改正され、同年4月 から施行されております。これまでほとんどのプラントにおきましても計画が出てきてい るという状況になっております。 「保全の有効性評価の流れ」 そして、これは保全の有効性評価、特に今回、この保全プログラムで一番大事な点でご ざいます。単に決められた検査をするということから、今まで自分たち事業者で行われま した保全が有効であったかを評価をしていくということであります。それを踏まえた上で、 最適な検査の方法、間隔を設定していくわけであります。 例えば、その検査のやり方、下の図に保全方式の変更とありますが、時間どおり、時間 基準の一定期間ごとにやるのか、状態基準、その状態に応じた形でやるのか。その際は、 右側にありますように、点検の確認結果とか劣化トレンドであるとか、類似機器のデータ とか、あるいは様々な研究成果、こういった技術的な情報を踏まえた上で評価をしていく ということが基本になってまいります。 「従来からの変更点のうち、点検周期及び保全方式の見直しの確認」 ここに書いてありますのは、今回出てきました保全計画の中で、保全の有効性評価をし た上で点検の周期を変えたもの、一部のものは間隔を長くしたり、あるいは逆に短くする ようなケースもございます。 それから保全方式、予防保全から事後保全、状態基準保全に変えるとか、そういったよ うな検査の最低期間の検討が既に行われているという状況になってございます。 「定期検査間隔変更の技術評価の流れ」 それで、特にこの定期検査の間隔を現在13か月ということが基本になってございます。 これについては、それぞれの機器ごとの検査の間隔をいろいろ評価していって、最も短い 期間がその運転間隔を規定するということになってますので、それぞれの保全の実績を踏 まえた上でどういう間隔にすべきかというのを、まず事業者が評価をいただきます。 それに対しまして保安院、JNES、規制当局がその妥当性を評価する。その結果とし て、現行の13か月から18か月、24か月と、こういうカテゴリーの範囲内で運転間隔、 定期検査の間隔を設定いただく。こういう流れになっております。 この審査に当たりましては、細かいことですが、保安規定にその運転間隔が出てまいり ます。それから、 それの妥当性を説明するための様々な技術的な資料を御用意いただいて、 それを審査する。こういう仕組みになっているというふうに御理解いただければと思いま す。 「状態基準保全に対する対応」 もう1つの大きな特徴、状態基準保全、状態監視をしながら設備の保全を行っていくと いうものであります。必ずしも全部分解点検をするのではなくて、ここに幾つかの例を書 いております。潤滑油の診断、赤外線サーモグラフィー診断、振動診断等々、こういう設 備の動いている状況を見ながら、その劣化トレンドなどを評価しながら見ていく。これは、 ある意味で、その決められたものではなくて、こういう状態監視と実際の分解点検、これ らの組み合わせによって最適化するという1つの大きな取組のものでございます。 現在までのところ、先ほど言いましたが、運転間隔を延長する計画はまだ出てはおりま せんが、今後こういったものが出てくるだろうというふうに考えております。 「高経年化対策の充実について」 次は、高経年化対策でございます。御案内のとおりプラントの運転期間がどんどん延び てまいりますと、一部の機器の劣化などは当然出てまいりますから、高経年化を評価する ことは大事であります。 それで仕組み上は、この30年目と書いてありますけれど、30年目のときに高経年化 技術評価というものを実施していただきます。これは代表的な高経年化事象、どうしても その時間の経過とともに劣化が避けられない事象を抽出いたしまして、だいたい運転期間 は60年ぐらいを想定して技術評価をし、そして必要な保全対策を立案いただく。これが 高経年化技術評価であります。 仕組み上は、30年目以降10年ごとにこの高経年化技術評価をやっていく。そして、 その技術評価をいたしました結果として、対策、これは長期保守管理方針という名前にな りますけれど、これは保安規定の中に入ります。これは認可事項になります。そして、こ の長期保守管理方針は、先ほど申しました保全プログラムの仕組みの中で、毎回の保全に 反映をしていただくということで、単に評価をするだけではなくて、その対策、そしてそ の対策を毎サイクルごとの保全に反映をしていく。こういう仕組みを整備をしたというも のでございます。 「新検査制度導入以降(平成21年1月)の高経年化技術評価実績」 現在、この新しい制度のもとで、ここに書いていますプラントを見ていただきますと、 40年を超えるプラントが出てきて、評価は一部終わっているものもあるというものでご ざいます。今後、50年目の評価をどうするかというのも、私どもの課題としては考えて いるところでございます。 「保安活動総合評価の全体像」 次に、保安活動総合評価というものでございます。これは今年度から試行的に実施した ものでございます。保安活動というのは、一番左にありますように品質保証活動、運転管 理、燃料管理、放射線管理関係、そして保守管理等々、様々な保安活動を評価するもので あります。この保安活動自体評価するものであります。 大きくは、本当は下からいった方がいいのかもしれませんが、PI評価、安全実績指標 評価、これはこういう保全活動の結果として得られますプラントの状態を客観的なデータ のもとで評価するもの。そして上が、安全重要度評価と書いていますが、ここは個別に検 査などで指摘されました事項のものを評価する。こういう組み合わせで全体評価するもの でございます。 「保安活動総合評価(安全実績指標(PI)について)」 具体的には、次のページにありますように、この安全実績指標評価、全体で十数項目の 客観的データでランク分けをして評価するというものであります。 これの持つ意味は、そういう保安活動を実施いただいた結果として、プラントの状態が どうなっているかという全体の評価をするというような意味合いのあるものというふうに 考えております。 「保安活動総合評価(安全重要度評価(SDP)について)」 もう1つが、安全重要度評価(SDP評価)、これはむしろ検査で見つかりました個別 事項、すなわち先ほどのPI評価は全体、マクロ的な評価であるのに対しまして、これは 検査などで見つかりました個別の課題を評価するものでございます。これは、その内容の 程度に応じて様々ランク分けをしていくという仕組みのものでございます。 それで、こういう評価は何のためにやっているかというと、規制側の立場からいいます と、そこで見つかりました課題を私どもは規制活動である検査、審査に反映していくとい うことであります。通常の基本検査に加えまして、課題が抽出されますと、この追加検査 というものを実施していくという仕組みで、規制のめり張りをつけていくという考え方で ございます。 「保安活動総合評価(評価結果の検査・審査への反映)」 これが今回試行いたしました評価のところでございます。左側が基本検査のみ、右側が 課題があり追加検査としたものでございます。 それで、総合評価の様々な1つの反省点として、確かに課題はあるのですが、この特定 の課題がプラント全体の評価を、全体を規定しているかのように、やや誤解を与えている 面も確かにあるのではないかというところがありまして、先ほどのPIとSDPの組み合 わせの評価を行っているわけでございますけれども、これの評価の仕方についても、やは り改善が必要だろうというふうに考えているところでございます。 「平成21年度保安活動総合評価の結果(PI評価結果一覧表)」 説明はほぼ以上でございますが、PIについては、これを見ていただきますとほとんど 緑、すなわち問題ない。一部黄色等ありますが、つまりこれを見ていただくと、プラント 全体としては、各プラントというのは非常に良好な状態になっているということがお分か りいただけるかと思います。 「平成21年度保安活動総合評価の結果(SDP評価結果一覧表)」 そしてこちらがSDP。個別の、これは大変見にくいのですが、上軸には様々な分野ご との課題をちょっと書いてございます。そこに色がついているということで、こういう分 野の中で個別課題が発生するので、それを対応していくということですから、全体がマク ロ評価と個別評価という組み合わせでありますが、総合評価の結果としてややこの個別評 価が先行してしまったきらいがあるかなというのが、ちょっと反省点でございます。 私の説明は以上でございます。 【岡本】 ありがとうございました。 それでは引き続きまして、原子力安全基盤機構検査業務部部の新田見様の方からお願い いたします。 【新田見】 原子力安全基盤機構、JNESの新田見でございます。よろしくお願いしま す。 私どものJNESは、皆様よく御存じだと思いますけれども、平成15年10月に、法 律に基づきまして設立されました組織でございます。私どもの活動につきましては、法律 の中で明確に規定されてございまして、原子力施設の検査あるいは安全性の解析評価とい ったことを実施することによりまして、原子力の安全性の確保のための基盤を整備する。 こういった組織でございます。 具体的には、国の原子力安全保安院の技術的支援組織、一般的にTSOと呼んでござい ますけれども、こういった機関としていろいろ活動しているということでございまして、 私の所属しております検査業務部につきましては、国の検査の一部を担っておりますので、 本日のセッションにつきましては、規制側ということで説明させていただきたいと思いま す。 申しおくれましたけれども、私どもJNESの活動の概要につきましては、この同じフ ロアで開催されてございますポスターセッションの方でいろいろ紹介しているところでご ざいますので、御興味のある方は是非見ていただきたいと思います。 それでは私の方から、私どもの役割につきまして御説明させていただきたいと思います。 「目次 新検査制度の概要とJNESの役割」 今回の主要な議題が新検査制度でございますので、先ほど、既に山本課長から新検査制 度の全体につきましては御説明いただいたとおりでございます。これにつきまして、今私 が申し上げたような形で、JNESといたしまして、いろいろ検査を分担しているという ことです。いろいろな役割を分担して、いろいろな活動をしているわけでございますけれ ども、この辺につきまして、簡単に御紹介させていただきたいと思います。 「新検査制度の概要」 新検査制度の概要につきましては、もう既に課長から御説明がありましたので、私の説 明は省略させていただきます。 「JNESの役割」 私どもは、先ほど平成15年10月に設立されたという説明をさせていただきましたけ れども、後でまた御紹介があるかもしれませんが、こういった新たな検査制度というのは 平成14年に基本的な議論がありまして、15年10月から今ある検査制度が導入された ということで、この時点で品質保証といったものが導入されて、私どももこの時期に設立 された組織でございます。 私どもは、 新たに設立された組織ということもありまして、 検査員を中途採用したとか、 あるいはいろいろと組織の立ち上げの初期の混乱といったこともありましたが、事業者と のコミュニケーション不足といったものを含めていろいろありまして、私どもとしてはそ の辺の反省を踏まえまして、今回の新検査制度につきましては、国の御指導も得ながら、 かなりの準備期間を持ちまして、例えば、私ども部内でも各種のマニュアルの整備、新検 査制度に関する研修の実施だとか、あるいは組織体制につきましても、私ども検査業務だ けではなくて機構を挙げて全体として取り組む組織体制の整備をするとか、いろいろと準 備を進めてまいりました。 私どもといたしましては、今回の新検査制度につきまして、既に実行1年以上たってい るのでございますけれども、まずまず初期混乱もなく順調にスタートできたと考えている ところでございます。 「JNESの役割」 次に、私どもの役割でございますけれども、先ほど山本課長からお話があった業務の中 で、この4点につきまして、私どもとしましては役割分担してございます。 まず、保全計画における保全計画の技術的検討と、それから同じく先ほどお話がありま した定期検査の間隔の妥当性、この辺の技術的な検討をすること、それから定期安全管理 審査は、 私どもが法律に基づいて実施している審査でございまして、これにつきましても、 今回の新検査制度の導入に伴いましていろいろ見直しをしてございます。それから、先ほ ど最後に御紹介がありました保安活動総合評価に関しましても、手法の検討とか具体的な 評価の実施といったものを私どもは実施しております。 「1−1 保全計画書の技術的検討」 保全計画の技術的検討につきましては、もう既に先ほど御紹介があったとおりなのです けれども、それぞれの運転サイクルごとに届け出られるということで、国に届出がありま すと、国からの指示が私どもにありまして、いろいろと技術的な検討を行い国に通知を行 う。 国の方は、私どもの検討結果を踏まえて判断をされるということになってございます。 「1−2 保全計画書の検討状況」 現在までの状況につきましてはここに書いてございますけれども、昨年1月から現在い ろいろ進めてございまして、件数といたしましては、これに書いてございますように、既 に国から160件の届出の通知に対して、現在までのところ、このうち153件につきま しては国の方へ結果を連絡させていただいてございます。 今検討中の案件が7件ほどありますので。いずれにいたしましても、こういったことを やってございます。 具体的には初回に62件の届出がありましたけれども、やはり初期のころは、例えば記 載ミスとかいろいろ記載の不具合に対する指示があったということで、それを踏まえて事 業者の方が変更の届出を出してきますので、トータルしまして160という数字になって ございます。最近はそういったところが大分是正されてきまして、検出事項はかなり減少 しているといった状況でございます。 「2−1 定期検査間隔変更の技術評価」 2つ目が、定期検査間隔変更の技術的評価でございまして、これにつきましても、先ほ ど山本課長からお話があったとおりでございまして、今回の新しい制度の中で非常に大き な位置を占めてございます定期検査間隔変更の技術的評価、これにつきましても、私ども といたしましては国からの通知を受けまして技術的評価を実施して国に報告すること。こ ういった役割制度になってございますけれども、現在までのところ、実施状況を書いてご ざいますように、まだ具体的に変更したものはございませんけれども、いわゆる審査レベ ルでは昨年、浜岡3号機の保全計画におきまして、いろいろと具体的な審査を実施して国 に報告してございます。 まだ私どもといたしましても、経験、知見、実績が少ないということで、この辺のとこ ろにつきましては、今後いろいろな国の方からの指導も受けながら、いろいろと高度化を 図っていきたいと考えておる次第でございます。 「2−2 定期検査間隔変更の技術評価の流れ」 これは具体的な技術的な流れでございますので、先ほどの課長の説明とも重複しますの で、省略させていただきます。 「3−1 定期安全管理審査(運用改善)」 次が、定期安全管理審査でございます。これにつきましては、冒頭申し上げましたよう に、平成15年10月から機構の実施する業務として、制度化されたものでございます。 これもいろいろと新しい見直したもので審査を実施しています。 「3−2 定期安全管理審査の運用改善」 これで見ていただきますと、15年10月から実施している制度でございまして、これ までの審査はどちらかといいますと、かなり一律的な審査でございましたけれども、今回 の新検査制度の趣旨にのっとりまして、よりプラントの保守管理の実施状況に応じた実効 的な審査の実施といった運用の見直しをおこなっています。 大きく見ますと、これまでの運用ですと、この定期安全管理審査は、定期検査中の定期 事業者検査の実施体制を審査するというのが目的でございますので、これまでは定期検査 期間中が審査の期間でございましたけれど、先ほども御説明がありましたように、定期事 業者検査は、かなり運転中のものも含めて相当いろいろなきめ細かい制度の変更がなされ ましたので、私ども定期安全管理者につきましても、運転中の定期事業者検査も審査の対 象になるということでございます。 そういったことで、従来の審査に加えまして、かなり弾力的あるいは実効的な審査にな るように制度改正していろいろ運用してございます。もう既に、現在のところはすべての プラントが新たな定期安全管理審査の体制で審査に入っている状況でございます。 「4−1 保安活動総合評価」 続きまして、保安活動総合評価でございますけれど、これにつきましても、先ほど御説 明があったとおりでございますけれども、私どもの役割といたしましては、ここに書いて ございますように、国からの指示を受けまして手法を整備して実際の評価作業を実施する ことであります。私どもはこれまでのいろいろな知見がございますが、このような知見を 活用して制度設計の検討を行い提案を行っております。現在までの状況に書いてございま すように、平成20年度に私どもの機構内の専門家を集めまして、これまでの知見を踏ま えて、外部の先生方の意見も聞きながら、いろいろな制度の設計の検討を行いました。 それを踏まえまして、21年度には具体的な全てのプラントにつきまして、シミュレー ションと書いていますが、実際にはその制度設計した制度に基づきまして、実際の評価を して国に報告したということでございます。これは先ほど課長からもお話がありましたよ うに、初めてということもございましたので、今後いろいろと必要な見直しがあると考え てございます。私どもといたしましては、一応の制度の骨格につきましては構築はされた と考えております。 保安院の方では3年間の試行というふうに位置づけられてございますので、我々として も必要な見直し改善をしていくという予定にしてございます。 「5 まとめ」 まとめでございますけれども、冒頭説明しましたように、昨年4月から新検査制度の運 用が開始されたわけでございますけれど、私どもの組織といたしましても、15年10月 の経験を踏まえまして、かなりの準備期間を踏まえた対応を講じてございますので、新検 制度は順調にスタートしたのではないかと考えております。 今後、関係の皆様方、本日のこういった会議の場を通じてのいろいろな御意見等を踏ま えながら、私どもといたしましても、より実効的な検査制度を目指していろいろな検討を していきたいと、このように考えている次第でございます。 説明は以上でございます。 【岡本】 ありがとうございました。 それでは、ただいまお2人から規制側ということで、新検査制度の現状に関する御発表 があり、この後しっかりパネルでディスカッションいたしますけれども、何か簡単な短い 御質問等ありましたら、パネラーの皆様若しくは会場の方からありませんでしょうか。 若干時間も押しておりますし、この後、またしっかり議論をさせていただきたいと思っ ておりますので、それでは引き続きまして事業者側からの御発表にいかせていただきたい と思っております。 それではまず最初に、関西電力森中副事業本部長から御発表をよろしくお願いいたしま す。 【森中】 関西電力の森中でございます。 「運転段階の検査、保全活動の充実」 私からは、ここ10年間ほどの事業者の保全活動がどういうふうに変わってきたのか、 どういうところが今後課題なのかというところについて、御説明させていただきたいと思 います。 これは皆さん御存じのここ10年ほどのいろいろな検査の流れを書いておりますが、実 は私がこれで言いたかったのは、平成11年にJCOの事故がございまして、おおよそ半 年後に保安検査というものが導入されたということ。要するに期間が短いんですね。それ からずっと検査のやり方自体は検討されておりましたけれども、15年10月にかなり大 きく変わった時も、やはり点検記録問題というのが14年の8月にございまして、そこか ら急に加速をした形で15年10月、新しい検査制度が入った。 一方、今回の21年の検査制度の見直しにつきましては、検査の在り方検討会は20年 8月に報告書を出しておられますが、その前からかなり十分準備された形で、現場に導入 された。やはり準備期間がすごく大事だと思います。私どもも特に15年のころはかなり 現場でも混乱したときがございましたので、今回はかなり準備ができた形で導入できたと いうふうに考えております。トラブルや不祥事を起こしているのは電力なので申し訳ない のですけれども、やはり準備というのはかなり重要だと考えております。 「保全活動充実のポイント」 この保全活動充実のポイント、これはもう既に皆さん方からお話がございましたが、一 言で言いますと、きちんとした計画をつくってデータの分析をして、有効性を評価してい く。こういうPDCAをきちんと回していくということだと思います。 これは関西電力の例で書いておりますが、今回、検査制度が見直されたということで、 通常の体制でも対応できないことはないのですけれども、やはり形で見せるということも また非常に大事な意味を持ちますので、係長の追加とか仕事の流れの少し見直しといった ものを行っております。 やはり大量のデータを扱う、これまで主に電力の社内だけで扱ってきたデータを規制側 と共有して、それが審査対象になるということで、その辺のデータの重要性というのも増 していますし、きちんとした体制が必要だということで、こういう体制をとりました。 今回の検査制度の中で、ポイントはやはり運転中保全とか状態監視保全、こういったも のだと思います。 「データ分析の強化(状態監視データ)」 データ分析の強化というので、振動データ分析のことについて書いています。 いろいろ書いていますけれども、振動とか潤滑油、赤外線、いろいろな問題、運転中保 全といいますか、状態監視保全をずっとやってきていましたが、今回制度が変わることに よりまして、それにきちんと社内の位置づけを与えてPDCAを回していくという形にし ております。 当然こういうふうに書いておりますが、カルテみたいなものをつくって処置状況の確認 というものを毎回行っている状態です。今、関西電力の場合でしたら振動診断は大体二千 数百機器を対象にして行っております。 その対象にしている機器というのは、毎月その振動診断をしているものから1年に1回 のものまでいろいろあるのですけれども、後ほど申し上げますが、多量のデータの処理、 保管が、やはり大きな課題ということになっております。 「データ分析の強化(点検データ)」 また、データ分析の強化ということで、少し例を書いておりますけれども、かなりの数 のパラメータをトレンド管理していくということも、あわせて行っております。 ちょっと下に絵が描いてありますけれども、海水ポンプというのがございます。空転時 間というものを毎回はかっておりまして、この空転時間が短くなれば何か引っかかってい るということであけてみると、右側に書いておりますように異物が絡んでいたというよう な状況です。 こういうことが、運転員は常時試運転等をやっていますのでわかっているのですが、な かなかそれを組織全体として判断するということが、我々は少し欠けていたのかなと。こ ういうふうにパラメータを発電所内全体で処置を含めて見ていくということになると、お かしいからすぐ分解しようという判断がすごく早くなるのですね。そういう意味で、今回 の制度というのは有効かなと思います。 「保全の有効性評価(点検手入れ前データ)」 また、点検手入れ前データですが、ここではいろいろ書いていますけれども、「非常に 良い」から、「良い」、「悪い」、「非常に悪い」と4つに分類していまして、毎回定期 検査のときにデータが出てまいります。これも私ども関西電力の場合でしたら、11ユニ ットあり、大体8から9基の定期検査をするので、3000掛ける8から9というデータ です。 ご覧になってわかりますように、評価の結果を残すだけでは駄目でして、こういった映 像データが残ってまいります。 これをいかに管理して、すぐ使える状態で置いておくのか、 だれが評価するのかというところなんかは結構大きな課題になります。映像データですの で、ものすごいデータが毎年毎年蓄積されているということになります。 「保全の有効性評価(傾向監視データ)」 これは保全の有効性評価をした例ですが、これらの点検頻度を延ばした例をちょっと書 いておりますけれども、やはり点検手入れ前データとかいろいろなデータを使いますと、 点検期間の最適化というのですか、いじり壊しというのですか、そういうものを少なくす ることができると考えていまして、私どもだけではなくて、ほかの電力さんも一緒になっ てこういったデータの共有化というものを行って、最適な期間に早く持っていきたいと考 えております。 ちなみに日本の場合は、分解点検している頻度が海外に比べると断トツに多いので、こ ういったデータできちんと示していくということが必要と考えております。 「事業者の保全活動に対する規制の関与」 少しお話は変わりますが、15年10月と現在で、事業者の保全活動に対する規制の関 与というのを書いています。これは、15年10月以前は定期検査約70項目、保安検査、 日常の運転管理を含めます保安調査というものがございました。 現在、保全計画の審査から始まりまして定期検査、定期安全管理審査、保安検査、保安 調査とあります。私、これ別にものすごく規制が強化されていると言っているわけではな くて、現在いろいろな形で規制の方が発電所の中で、いろいろな活動にオンラインで参加 されているということがございます。この一番右下に書いています保安調査の中で、保安 検査官がフリーアクセスで発電所内のいろいろな状況を確認していただくということがご ざいます。 運転管理状況なんかは当然なのですけれども、下の方へ行きますと発電所のいろいろな 委員会、CAP、協力会社等を含めました安全衛生協議会、そういったものに参加してい ただいています。要するにほとんどの会議に保安検査官の方が参加して、余りしゃべりま せんけれども、参加していただいているという状況です。 結局これは、私が発電所にいたときにこういう形で保安検査官と話をしていたのですが、 すごく大事な、規制側と非規制側の間で大事な信頼感というのが、この日常のフリーアク セスの中から私はできてきているのではないかなという気がします。やはりそれがあって 初めて検査、審査の実効性が上がってくるのかなという気がしております。 なお、この中でいろいろな検査、審査の中で、JNESさん、NISAさん、両方書い ておりますけれども、この辺、今後どんな形で再整理していくかというのも1つの課題と 考えております。 「高経年化対策と保全プログラムの関係」 高経年化対策と保全プログラムの関係ですが、このように保全活動全体が仕組みとして 形づくられてきておりますので、高経年化対策として最初あったときは、従来からやって います日常の保全も含めてすべてを高経年化の報告書という形で、簡単に言いますとピン ファイル数冊のレポートをつくっていたというのがございます。 ところが、日々の保全活動がルール化し、常時皆さんに見ていただいている状態になる と、やはりこの高経年化対策というものも焦点を絞った評価に今後した方がいいのではな いかということで、一番最後に書いておりますけれども、8事象とか、こういったものに 集中したような審査がいいのではないかなというように考えています。 「まとめ」 まとめですが、保全プログラムを基礎とした検査制度の趣旨を踏まえて保全活動の充実 に努めてまいりましたけれども、保全活動のPDCAサイクルのうちPCA、プラン・チ ェック・アクションの部分については、検査制度の見直しは大きく改善が進んでいるとい うように考えております。 ただし、PCAをしっかりやっても実はDoの部分のレベルが落ちていくと、何にもな りませんので、今後Doに相当する現場技術力、現場力ですね、この辺をやはり維持向上 していくということが、大きな課題になっていくと思われます。 特に皆さん御存じのとおり、現場で実際に作業されている方、かなりの分野で高齢化が 進んでいて、世代交代が必要な時期になってきておりますので、これはPCAだけではち ょっと対応できないので、Doの部分の強化というものが必要になると考えています。 先ほどから何回か申しておりますが、多量の保全情報のデータを、当然自社内もあるの ですが、事業者間で共有してうまく活用していく。保存と活用、この辺がやはり大きな課 題かなと思っております。 2点目は、保全計画の審査、定期安全管理審査、定期検査、いろいろな検査がございま すけれども、保安院さん、それからJNESさんの役割分担の明確化を含めて、発電所の 保全活動に対する規制の関与のあるべき姿について議論してまいりたいと考えております。 3点目は、高経年化対策。先ほど申しましたように保全プログラムが十分流通してきて おりますので、高経年化対策についてどういうふうに今後進めていくのか、何を見るのか というふうなところも具体的な検討を一緒になって進めていきたいと考えております。 以上でございます。 【岡本】 ありがとうございました。 それでは引き続きまして、日立GEニュークリア・エナジーの有馬事業主管の方からよ ろしくお願いいたします。 【有馬】 日立GEニュークリア・エナジーの有馬でございます。 「原子力施設の保全における事業者と規制の役割について」 私どもは、電力会社さんと一緒に保全を現場でやらせていただいているという立場で、 メーカーの立場からの品質保証活動と保全についての取組を簡単に紹介しながら、今の状 況について御説明したいと思います。 「1.新検査制度の目的と内容」 「⑴ 新検査制度の目的とプラントメーカーの対応」 まず、新検査制度とプラントメーカーとのかかわり合いですが、いろいろ今まで制度そ れから内容に関してはもう御説明がありましたので、プラントメーカーのかかわりだけを 簡単に説明します。 最初にプラント毎のきめ細かな保全計画をつくるということ、保全プログラムの立案に 関しては、電力会社さんと一緒に計画の策定や、各機器の特性に応じた点検内容とか期間 というものを御相談しながら、支援させていただいています。 それから高経年化対応等では、例えば、物を見に行ったり保全をしたりという中で新し い技術の開発とか、それを実際に使っていく、実機に使っていく中で、いろいろ提案しな がらやらせていただいているということです。 つぎに運転中の監視、これはもう電力さんの方がいろいろな手法でもう既に始めている のですが、膨大なデータが出てくるとか、いろいろな点検の方法が日々進歩しております ので、メーカーとしても、技術開発とかを一緒にやりながら、かつ出てくるデータをどう やって活用するんだというようなところも含めて、一緒にやらせていただく活動をしてい ます。 「⑵ プラントメーカーの具体的対応」 従来から保全はもちろんやってきているわけですが、今回の新検査制度の特徴の1つを 考えますと、手入れ前のデータ、いわゆるアズファウンドデータというのが大量に出てく る。これは非常に宝の山のはずなので、これを保全にどうやって使っていくのだというよ うなところで、メーカーとして、もっと何か支援ができないかなと考えています。 また、劣化メカニズムに関しても、劣化メカニズム検討の中で点検が必要な部位とか、 新たにこういうところを見ると、保全として機器の信頼性をより評価できるみたいなこと が出てくれば、そこを見に行く技術とか評価する技術の必要性が明確になってきます。 「⑷ プラントメーカーの具体的対応(状態監視技術による信頼性向上) 運転中の監視に関しては先ほどお話した通りです。 そして、プラント全体のパフォーマンスを上げる。これは一番重要でございますので、 安全系の信頼性を上げていく活動とか、被ばく低減活動とか、こういうものも含めて取り 組んでいるということであります。 1つの例としては、これは点検困難部位を見にいくような装置で、炉底部の点検を従来 のカメラで見える範囲で見ているというようなところを、自走式のロボットで見にいくよ うな技術です。 それから状態監視は、いろいろ御紹介がありましたように振動監視とか弁のトルクから 劣化度を見るとかいろいろあります。もともとプラントは運転状態を監視している、状態 を監視しながらプラントを運転しているわけですが、保全に結びつけていくためには各機 器に着目した監視が必要になってくる。 そういうような技術例として、例えば、計器はプラントの運転状態を監視するために使 っているのですが、その計器自身の状態を見られないかということです。例えば、ドリフ ト量を、その計器データを長期のトレンドの中で分析することによって見ていくようなア イデアとかです。 新しい手法というのはこれから幾らでも出てくるのではないかというふうに期待してい ます。 「2.品質保証活動の取組」 次に、品質保証活動について御紹介をして、新検査制度を現場にどういうふうに私ども が反映してきているかということを簡単に紹介したいと思います。 「⑴ 原子力特有の要求事項のISO9001QMSへの取組」 私どもメーカーは、従来からのISO9001ベースで、業務の品質を上げるというこ とをやってきています。このISO9001をベースに、原子力特有の、例えば、JEA Cの4111の要求規定その他を全部取り込んで、いわゆる原子力としての品質マネジメ ントシステムをつくり上げてきています。 この中には、安全文化、根本原因分析手法、人的過誤の要因の分析方法というものも適 時取り入れながら、システムをつくり上げてきています。 「⑵ 安全文化醸成活動のQMSへの取組」 例えば、安全文化の醸成活動では、これは安全文化・組織風土のガイドラインがあり、 これを取り入れまして、私ども品質保証方針の中に取り込むとか、定期的な集会の中での 教育やマネージメント活動に取り入れてございます。 「⑶ 是正処置、予防処置へのRCA手法の導入」 また、RCA手法に関しましては、分析員の育成、それからそれを実際業務の中での問 題の洗い出しとか背後要因の分析とかに使って業務自身の改善に取り組んでございます。 「⑷ 現地ヒューマンエラー撲滅活動への要因分析の導入」 あとヒューマンエラー撲滅活動に関しては、私どもはこれをもうずっと昔からいろいろ な活動をしているわけですが、この中で、やはり現場のモニタリングが大事だということ で、PDCAをきちっと回していくのが大事だということで、作業員へのアンケートや、 それから現場をあるチームを組んで監視するようなモニタリング、それから、現場でやっ ている第一線の方々との職制を通したコミュニケーションのような形でPDCAを回す活 動を日々やってございます。 「3.保全活動への取組」 「⑴ 保全情報共有・活用」 保全活動の取組の幾つかの事例というか、ポイントに関して御紹介したいと思います。 まず、保全活動の中で重要なのは、保全情報です。いかに共有をして、いかに活用して いくかというのがポイントであると考えています。 私どもは事業者である電力会社さんに対して各種の提案活動をしたり、逆にフィードバ ックを受けながら自分たちのPDCAを回しているのですが、それ以外に他メーカーさん との情報共有というものも必要です。 たとえば、BWRの例でいきますと、BWRの事業者協議会のような場で、電力さん、 それから他のメーカーとの間で情報の共有とか活用とか改善活動を一緒にやるというよう な仕組みをつくってやっています。 「⑵ 保全活動(例:保全情報の活用1)」 この保全情報活用の例としては、設備の改善につなげるような提案活動や、私ども自身 の製品の設計とか開発課題の抽出に活用しています。 もう1つは、こういうような情報を使って自分自身の業務のPDCAを回すというよう な活動にも活用しています。 「⑶ 保全活動(例:保全情報の活用2)」 この例は、右側が設備改善とか製品の開発課題を抽出するようなPDCAのサイクルで す。 左側は、例えば、不具合のトレンド管理とかをやっていく中で自分たちの設計とか製造 とか検査とかにおける業務の中に何か悪い点はないかなというようなところを改善するよ うな業務のPDCAのサイクルです。製品のより品質の高いものをつくる活動と、業務の 品質を上げる活動と、こういうようなPDCAサイクルを回すような仕組みを、このシス テムの中に取り込んだ上で日々の活動をしているということでございます。 「⑷ 保全活動(例:高経年化対応)」 次がちょっと具体的になるのですが、このような保全活動の中では、例えば高経年化対 応等では、プラントライフにあわせた計画を電力さんと一緒につくりながらやっています。 この下の例は、炉内の応力緩和対策をするとか、万が一のための補修をするための装置 開発をするとか、こういうようなものをやっています。 「⑸ 保全活動(例:技術開発による点検高度化)」 それから点検技術では、これは3次元のUT技術の例です。新しい技術を使って、例え ば、ここではボルトですが、基礎ボルトを外さないで点検をおこなって、実際にき裂があ るかないか、それによって保全の必要があるかないかを評価するというような技術です。 「⑹ 保全活動(例:被ばく低減対応)」 もう1つ私どもが取り組んでいますのは、多くの人間が現場でいろいろ作業を日々して います。したがって被ばく低減をしていくというのは重要な課題だと私どもは認識してい ます。 このためには、積極的にいわゆる線源を除去するという活動と、綿密な作業計画をやっ て線量を下げていくというような活動を組み合わせながら、被ばく低減を世界でトップレ ベルのところに持っていきたいと思っています。 「4.今後の課題と取組(運転プラントの観点)」 以上説明してきましたが、検査の高度化とか高経年化対応に関しては、メーカーは電力 会社さんと一緒にいろいろな技術開発その他を推進しています。 これらを実機に使っていくためには、規格基準の整備は、それが二人三脚でついてこな いといけないと感じていますので、メーカーとしても積極的に参加をしていきたいと思っ ています。 また、既設設備の有効活用の中では、今後、出力向上とかリスクの活用とか、先ほど出 ましたような集団線量の低減というような課題が出てきています。 それらに対して着実な取組をしていくのですが、地元を含めた理解というような、環境 の整備を一緒にやっていくところも課題なのかなというふうに思っています。 簡単ですが、以上でございます。 【岡本】 ありがとうございます。 ただいま2件、事業者さんと、それからメーカーさんの方から、この新検査制度に対す る活動の現状、課題等について御報告がありました。 ここで若干、簡単な御質問をパネリスト若しくは会場の方からお受けしたいと思います けれども、いかがでしょうか。特にございませんか。 私から1点だけ、もしよろしければお聞かせいただきたいのですけれども、お2人のお 話を聞いておりますと、やはり大量のデータを共有しているところまでは仕組みが大体で き上がっている。 ただ、そこから先のそのデータをいかに分析してどういうふうに活用していくかという あたりが、まだ今後研究開発も含めていろいろ課題があるような印象を受けたのですけれ ども、そのあたりに対しての取組は、それぞれどのような格好になられていますでしょう か。 【森中】 大量なデータを収集して共有するところまで実はまだいけていません。大量の データを持っているというのが今の状況でして、1件ずつのその時々の判断というのはし ているのですが、トレンドで見たり、他の会社と共有するというところはこれからだと考 えています。 【岡本】 ありがとうございます。いかがでしょう。 【有馬】 おっしゃるとおり、多量なデータが存在するというのと、多量なデータが処理 できるようなインフラがそろってきたというのが現状だと思っています。 可能性が非常にあるというのが現在の状況で、これを保全に生かしていくというのがそ ういう意味での課題だと思っていまして、またその端緒についたというようなレベルの時 期なのかなというふうに認識をしています。 【岡本】 是非これが、より合理的で、また適切な検査につながっていくと思いますので、 そのあたり、是非事業者さん、メーカーさんとも、御努力いただければ有り難いなという ふうに思っております。 何かほかに簡単な御質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。 それでは、引き続きまして、今まで規制当局側、規制側、それから事業者側から、それ ぞれ現状について、それから課題についてお話をいただいたわけですけれども、続きまし て中立的な立場から、日本原子力研究開発機構の平野センター長の方からお話をいただき たいというふうに思っております。 【平野】 原子力研究開発機構安全研究センターの平野でございます。 「規制当局の制度改正・運用、事業者・メーカーの保全活動実績に関する評価及び今後の 方向性(私見)」 規制当局の制度改正・運用、事業者・メーカーの保全活動実績に関する評価及び今後の 方向性というお題をいただきました。私見を述べさせていただきたいと思います。 「新検査制度は何を目指したものであったか?」 これは一般論ですが、新制度運用の初期段階、現在の段階ですけれども、すべての関係 者が制度の設計段階での理念の実現を目指すことが重要だと考えております。 ということで、新検査制度は何を目指したものであったのか、これについて少し振り返 ってみたいと思います。 「検査の在り方に関する検討会「中間とりまとめ」(H.14.6.19)」 少し古いのですが、平成14年6月に、検査の在り方に関する検討会の中間とりまとめ が出されました。その中で、検査の有効性を高めるためには、事業者が保安活動を適切に 実施するように促していく仕組みを構築することを基本とすべきという記載がございます。 この促していく仕組みというところが重要かと思います。 「検査の実効性向上のための7つの課題」 さらに、この中間とりまとめでは、検査の実効性向上のための7つの課題というのが示 されております。ここに示されたとおりでございます。 今回の新検査制度では、このうち3番目の定量的なリスク評価の活用、4番目のパフォ ーマンスの評価に応じた検査の適用、この2つをどれだけ前に進めることができるかとい うのが焦点ではないかと考えています。 「パフォーマンスの評価に応じた検査 米国の例」 ということで、まず、パフォーマンスの評価に応じた検査の意味を明確化するために、 米国の例を紹介させていただきたいと思います。 米国では、1980年代、保守不良に起因する計画外停止が多発し、1991年以降、 米国NRCは保守規則、いわゆるメンテナンスルールでございます、これを導入し、これ が著しく改善されたと言われています。これがこの図に示されています。 ここでは、2つの重要な考え方がございます。 1つは、目標の設定、Goal Setting といわれるものです。事業者に自ら設定する目標に ついて照らし、構造物・系統・機器のパフォーマンス又は状態を監視することを要求する。 ただし、目標を達成するための方法には自由度を与えるということでございます。 もう1点は、実績に応じた検査、規制関与ということです。目標が達成された場合には、 もう監視は要求されない。逆に目標が達成されなければ、適切な是正処置を厳しくとって いくといった考え方でございます。 この2つの考え方が有効に働いて、先ほど冒頭に述べました促していく仕組みというも のにつながったのではないかと考えています。 なお、この保守規則というのは、後にリスク情報の活用という観点が加わってきます。 「定量的リスク評価の活用 米国の例」 ということで、次のリスク情報の活用ですけれども、米国では1995年にPRA、確 率論的リスク評価の活用政策声明が出されています。そこでは、従来の多重防護の考え方 を支援するようにリスク評価を活用していく。あるいは、規制要求における不必要な保守 性の削減にPRAを活用していく。そういった考え方が示されています。 これに基づきまして1998年に規制指針の1.174が出されまして、そこでリスク情 報を活用した意思決定の考え方が示されています。これは、基本的には、ここに示しまし た5つの原則と言われるものに表現されています。 例えば、変更が深層防護の考え方と整合すること、あるいは、十分な安全裕度を維持し ていること、それからここがリスク情報にかかわるところですけれども、リスクの増加は 小さく、安全目標と整合することと、こういったものでございます。 ここで重要なのは、これらすべてを勘案して最終的に統合的な意思決定をするというこ とでございます。すなわち、こういったリスク情報というのは1つの判断材料、1つの情 報であると理解するというところが重要かと思います。 「 現実的保守性(Realistic Conservatism) 」より ということで、元米国NRCの議長でありましたニルス・デイアズが2003年の情報 交換会議で行った演説であります現実的保守性について、紹介させていただきたいと思い ます。 私、大変気に入っていますので少し読ませていただきたいと思います。 私の哲学は、安全上最も重要なものに最も高い優先度を置くということ。規制は、リス クに応じたものでなければならず、現実に即して保守的でなければならない。すなわち、 過小の規制は国民の安全を脅かし、 過大な規制は資源の拡散を招き安全に反する。規制は、 科学と技術に立脚し、事実(facts)に基づいて判断しなければならない。パフォーマンス・ ベース規制の最もよい例は保守規則、どのようになすべきかではなくて、何をなすべきか を規定している。逐条的な要求はない。それが事業者に柔軟性を与え技術革新を促す。た だし、2002年に起きた Davis-Besse の事象を忘れてはならない。常に細心の注意を払 い規制監視を改善し、より適時の是正処置に導かなければならない。 ここで、この Davis-Besse の事象につきましては、お手元の資料の別添にお示ししまし たが、それまでの運転実績は大変良好であったということでございます。 「今後の方向性 保全計画(その1)」 ここからは、各項目ごとに今後の方向性について、駆け足で私見を述べさせていただき たいと思います。 まず、保全計画と保全の有効性評価についてですが、もう既にいろいろ議論がありまし たけれども、私見のところですが、現在、定検間隔の延長に向けて強いインセンティブが 働いているという印象でございます。パフォーマンス・ベースの規制という、より大きな 目標に向けて、事業者には基本的なデータの蓄積を継続していただきたいと考えていると ころです。 事業者は、また新しい技術の導入を積極的に進めていただきたいと思います。状態監視 が進めば、必然的に「運転中保全(オンラインメンテナンス)へのニーズが高まっていき ます。ということで、規制当局、事業者とも、その検討に向けたデータや経験、あるいは 知見の蓄積が望まれると思います。 「今後の方向性 保全計画(その2)」 保全活動の管理指標の設定・監視でございます。 これにつきましては、米国の保守規則で核となっている部分でございます。パフォーマ ンス・ベースの規制に向かう重要なプロセスでございますので、事業者は、有効な目標の 設定方法とか監視の考え方を積極的に提案いただきたいと考えています。 次は、保全重要度の設定でございます。 これにつきましては、ガイドラインでリスク情報を考慮して設定することという要求が なされています。この点では、そのリスク情報活用に向けて一歩前進していると考えてい ます。 しかしながら、現在、保全重要度の高い構造物・系統・機器、すなわちSSCは、安全 重要度指針のクラス1、2のSSC及びリスク重要度の高いSSC、つまり足し算になっ ています。 ということで、安全重要度指針のクラス1、2のSSCであっても、リスク重要度が低 いものがあるので、そういったものの保全重要度につきまして、諸外国での例も参考にし つつ、より合理的な方法を検討することを期待したいと考えています。 「今後の方向性 高経年化対策の充実」 高経年化対策の充実でございます。これにつきましては、かなりいろいろな前進があっ たと考えています。特に日常保全、10年ごとのPSRでの監視・管理、30年以降の高 経年化技術評価での監視・管理、これらの役割分担がきちっと整理されたということは大 きな前進であったと考えております。 私見のところですが、今後、この保全計画に基づく日常保全での劣化の管理・監視を充 実していくことにより、30年以降の高経年化技術評価の重点化を図るべきではないでし ょうか。その方向が合理的な方向だと考えています。事業者、規制当局とも課題を整理し て、その実現に向けた努力が求められるのではないかと考えています。 「今後の方向性 保安活動総合評価」 保安活動の総合評価でございます。これも既に議論がございましたけれども、例えばS DP評価の中でリスク評価の結果も参照されております。これもリスク情報の活用に向け て一歩前進があったと考えております。 私見ですが、現在、評価方法でありますとか結果の表示法、特にこの表示法といったと ころに議論が集中しているという印象を持っております。パフォーマンス・ベースの検査 では、事業者が自ら問題を発見し、それを是正するプロセスが自律的に機能しているか否 かを検査するというところに本質があるのではないかと考えています。 これをいかに実施し、その結果をいいかに評価に反映させるかということが重要でござ います。3年間の試行を通じて、こうした部分の議論も進めていただきたいと考えている ところでございます。 「まとめ」 最後、まとめでございます。 新検査制度は、リスク情報活用とパフォーマンス・ベースに向かっていただきたいと個 人的には考えております。パフォーマンス・ベースでは、事業者に自由度が与えられ、検 査では事業者が問題を自ら発見し是正するプログラムが機能しているかどうかを重視する と考えています。 パフォーマンスというのは実績であり、これは客観的事実です。事業者はデータや経験 の蓄積を進めていただきたいと考えているところでございます。 リスク情報活用につきましては、既に多くの議論がなされてきました。事業者は、主体 性を持って具体的な活用を進める、そういった段階に来ているのではないかと考えていま す。 一方、規制当局は、リスク情報を規制判断の要素の1つとするための体制、あるいは技 術基盤の整備を進めて頂きたいと考えております。 以上です。ありがとうございました。 【岡本】 ありがとうございました。 それでは、これからいろいろパネラーの皆様、それから会場の皆様も含めて、いろいろ な討論に入っていきたいと思うのです。 ただいまの5名の方々のお話を伺っておりまして、私の方でちょっとまとめをしてみま した。 「原子力施設の保全における事業者と規制の役割について」 最初のセッションの初めに私が申し上げましたけれども、今回のこのパネルは、新検査 制度のPDCAを回していくということを1つの目的にしているわけでございます。新検 査制度、保全プログラムによる保全を行っていくということで、保全プログラムは事業者 がデータを中心につくり上げていって、それを国及びJNESが審査していくという形に なって、現在運用されているわけです。 「新検査制度の見直し」 幾つかの課題が出されてきています。現場がやはり重要であるという御指摘がございま した。やはり非常に数多くの機器がございます。各発電所自体は非常に大きなコンポーネ ント、それから系統の組み合わせでシステムが組み上がっておるものでございますから、 それらをやはり現場をしっかり見ておかなくてはいけない。もちろん保全プログラムを中 心としたものも重要なのですけれども、それでも現場を重視していこうということ。 それから、新検査制度の1つの機能でございます状態監視、各コンポーネントの状態を 定期的に監視することによって、ちゃんと動くものは継続的に使い続けますし、調子が悪 くなってきたものは、調子が悪くなった時点でチェックをしていくというようなやり方が 導入されて、それがうまく動いていると思うのですけれども、それに対する事業者さん、 メーカーさんのいろいろな活動の現状を報告いただきました。 また、この保全プログラムに反映するために、手入れ前データ、非常に数多くの、1プ ラントで3000件というお話がございましたけれども、それらのデータを収集して、こ れをプラントごと、日本で五十何基ありますから、それぞれに違うところもあると思いま すけれども、それらを含めてもデータを収集して、共有化して、その中から保全プログラ ムに反映される情報を抽出していくというようなことが重要であるというように考えてい ます。 また、今回の新検査制度の一番の重要な機能は、この保全の有効性評価の部分でござい まして、これらのデータベースをもとに有効性を評価することによって、最終的には原子 炉停止間隔が最適化されていく。1つ、JNESさん、新田見さんのお話では、浜岡の3 号機についての、停止間隔の延長はされておりませんけれども、保全計画書ベースでは2 4か月、26か月でしたか、の評価をなされているという事例の御紹介がありましたけれ ども、そのようなところに反映されていくということになろうかと思います。 それから、この保全の有効性確認では、様々なトラブルであるとか、こういう手入れ前 データを含めたようなものも本当は入るのですけれども、そのトラブルなどに対しての是 正措置がちゃんと動いていくということが重要である。PDCAが回っていくということ が重要というお話がございました。 最後に、保全のリスク情報への活用ということで、平野センター長の方から、重要なも のをちゃんと見ていく必要があるのだと。それから、これのリスク情報を活用することに よって保全の有効性、保全活動を総合評価につなげていくというようなお話があったかと 思います。 これが大体の大きな私のまとめ、きょうのお話の中のキーワードだけの羅列になってご ざいますけれども、このような話なのかなと思います。 このような話の中から、まず最初に、現場重視ということで、森中さんの方からお話が ございました。平成14年、15年のときには、準備期間が短くて非常に導入にいろいろ トラブルが多かったわけですけれども、今回は1年半以上の十分な準備期間を置いての新 検査制度の導入だったわけですけれども、それでもなかなか現場というのが回りにくくな っているというような話もございました。 このあたりについて、今後どのように改善していけばいいかというのを、若干、検討で きればというふうに思っております。 まず、山本課長の方から、今回の新検査制度導入に当たって、いわゆるトラブルは15 年に比べるとさほど多くはなかったわけですけれども、それでもなかなか現場に行きにく いといったような話もあったわけですけれども、このあたりについての今後の改善の方向 性について、何かコメントいただけますでしょうか。 【山本】 まず、先ほどの森中さんからもありましたように、平成12年、15年、どん どん規制が実は強化されているという歴史になってきております。これはいろいろな経緯 があってこういうことになってきているわけでありますが、特に品質保証制度を平成15 年に導入した。これが1つの大きな取組になっているかと思います。 こういう品質保証というものをこの原子力の保安活動の中に入れていくという考え方は なかったわけでありますが、全く初めての試みで、しかもこの品質保証は単にPDCAを 回せばいいというような簡単なものでありません。これは全体の文書体系をいろいろつく り、そのための規定を整備し、それが相互に矛盾がないように、そしてそれが各部門で実 際に活動できるといいますか、機能すると、こういったところまで求めていくものでござ います。 それで、保安規定の中にそれを位置づけて、当初、保安検査などがスタートしたわけで ありますが、そのときに、やはりこういう品質保証、文書体系がなかなか準備が整ってい なかったということもありまして、当初、保安検査の中でも相当指摘事項がありました。 もう1つ、JNESさんが実施いたします定期安全管理審査、これは特に保守管理にお ける品質保証体制を見ていく中身になっております。これも審査の過程で、いろいろ指摘 事項が出てまいりました。これも統計的に見ますと、当初この保安検査、定期安全管理審 査の指摘事項というのは、この平成15年当初、数年間大変数が多い状況になっておりま した。 ところが、数的に見ますと、ここ数年の間は大変落ち着いた状況になってきたというこ とで、品質保証制度が大分定着してきているということが、ある程度わかるような状況に なっているかと思います。 制度を導入したときはいろいろ当時の不祥事の問題があって、法律改正を行い急きょ、 制度導入したということで、規制側も、それから事業者さん側も、準備がなかなか整わな い中でスタートしたといった事情があったということであります。 今回の新検査制度は、今御指摘があったように相当の準備期間をおいた上で実施してき ているということで、特にこの新検査制度のねらい、保全プログラムを回すことによって 全体の最適化を図っていくというこの共通認識のもとで、様々な御準備をいただいてスタ ートしていただいたというところかというふうに思っております。 ただ、現実問題、先ほど現場主義というお話がありましたように、例えば、定期検査1 つとりましても、1つのプラントで数千人の方がいろいろな点検を実施されます。それで 保全計画に基づいて個別の点検実施計画をし、それを実施して、問題があれば不適合検討 会にのせて、さらにその保全の有効性を活かす。この一連の流れを全体の何千人という作 業の中で、そして先ほど言いましたように相当膨大なデータが出てき、それを評価して回 していく。これは口で言うには簡単でありますが、実際にやるのは大変な管理システムの もとでこれをやっていかなければいけないというふうに考えられます。このあたりは、大 変事業者の方でも御苦労されながらやっておられるのだろうと思っております。 特に品質保証というのは、まさにそういうものをうまく回す仕組みではありますが、こ れをうまく活用しながらやっていただければというふうに私どもとしては考えておるとこ ろでございます。 以上であります。 【岡本】 ありがとうございます。 森中さんの方から、何か今のお話に関して……。 【森中】 今、山本課長さんがおっしゃいました多量なデータの扱いの話なのですが、も う皆さんよく御存じだと思いますけれど、例えば、私どもの大飯発電所でみますと、社員 が500名、運転員がそのうち200名ほどいます。保守関係、メンテナンス関係も15 0人ぐらいというふうな人数です。 大体3000人の協力会社、メーカーさんにお願いをして、3000人の方が仕事をし て1つの定期検査を乗り切っているというのが、数の上での話になります。 先ほど言いましたようにたくさんのデータが出てまいりますので、このデータを、先ほ ど言いましたけれど、今は、できたデータをその時点で判断をして次の保全計画に生かし ていくという活用の仕方をしています。 映像データとか振動データというのはトレンドで見ないといけないものがございますの で、数年前からのトレンドを見ようと思うと、その書類をひっくり返さないといけないと いう状況になっています。 我々、保全総合システムというものを平成15年から運用開始しておりますが、こうい ったアズファンドデータとか状態監視のデータが、そのシステムの中にきれいに実ははま り込んでいなくて、今からもう一度保全総合システムの再構築をしようと思っています。 簡単に再構築と言いましたけれども、実は、今は平成22年ですので、それが大体完了 するのは5年先とか6年先とか、そういう話になります。この際ですので、いろいろその 他の改善もいたしますので、プログラムの見直しから含めると6、7年かかってしまう。 その間、データも入れていくのですが、見方によってはきれいにトレンド管理をしなが ら保全のPDCAを回している。なかなか見にくいところもありますけれども、移行期間 というのは今後もかなり長期間にわたって続くというふうに考えております。 【岡本】 ありがとうございます。 今のお話の中で、若干、 いわゆるデータの話とそれから人の話が出てきたかと思います。 先ほど質問票を回させていただいて、会場の方から幾つかいただいた質問の中で、今の 人の話に若干関連すると思うのですけれども、この新検査導入に伴って事業者あるいはメ ーカーの負担は軽減されたのでしょうかという質問がございます。それは人の話、経費も 含めてと思うのですけれども、そのあたりについては、今、協力会社の方3000人とか そういうことでしょうけれども、それは多分新検査制度導入前後で余り変わっていないと いうふうには思うのですけれども、先ほど関西電力さんの方では、組織を若干見直してい るというようなところもあったと思いますけれども、そのあたりについて、今回の新検査 制度は、負担という意味では増加したのか減ったのかというのは、恐らく長い目で見ると 減っていくはずなんですけれども、そのあたりはいかがなものでしょうか。 まずは有馬さん、メーカー側からはいかがでしょう。 【有馬】 今回の検査制度の1つの目玉というか、大きなところは、いわゆる保全プログ ラムによる保全の計画をきっちりしていくというところで、それをフィードバックかけて いくというところです。 では現場的にどうなるかというと、1つには、アズファウンドデータをきっちりとる。 要するに保全プログラムを回すための基礎データをきちんととるというのが、今回の1つ のポイントになってございます。 従来は、設備をきちんとして次の運転に入れる、つなげるというのが保全の第一義でし たので、終わった後のデータ、手入れ後のデータのみをきっちりとってきた。 ですから手入れが終わった後、公差に入っているかとか、きずがないかとか、そういう データとか写真をいっぱいとってきた。機器がとまってすぐの状態、機器をばらしてすぐ の状態は、これはどうせなくなるものだ、きれいにするものだということでデータをとっ ていなかった。ただ、これでは、次につなげていくための情報としては不十分だというこ とで、今回のアズファウンドデータをとりにいくことにした。 データをとること自身は、そういう意味では記録を二つとるということです。アズファ ウンドデータをとる。それから終わった後のデータをとる。2つをとりますので、そうい う意味では作業はふえてはいるのですが、これは次につなげるための有効なデータになる という趣旨からいくと、長い目というか、今から非常に大事なことですので、それ自身が 負担と思っているということは余りないのだと思います。 それよりも、これをどうやって使っていって、逆に言うとその価値を高めていく方が、 やっている人間にとってもやりがいになるというか、そういうところの方が私は大事だと いうふうに思っています。 【岡本】 ありがとうございます。 恐らくこの新検査制度は、アズファウンドデータの収集を含めてメーカーさん、事業者 さんには、負担増を明らかにお願いしている格好になっております。 しかしながら、今お話がありましたように、そのデータを分析活用すれば、例えば、点 検間隔を延ばせるとか、点検する機器の数を減らせるといったようになってきますと、今 まで4年に一度点検していたものが10年に一度になれば、単純に言えばそれだけで工数 が2.5分の1に減るということになってまいりますので、長い目で見ていくと、もうそれ は明らかにより安全になっていきますし、より負担は減っていく格好になると思います。 今回の新検査制度の導入が科学的根拠に基づく検査を推進していこうというのが1つの 背景でございますので、やはり科学的根拠に基づくデータをしっかり充実していくという ことに関しては、負担という意味では確実に大きくなっている。ただし、それは安全に対 する負担ですので、そこを節約するということは絶対にないというふうに思っております。 【有馬】 いわゆる負担感は、きっと目的がはっきりわかっていて価値があるというふう にわかると、現場の作業者の方々もこれは何のためにやっているのだというのをよく理解 していただくと、負担感にはならないと思います。 時間的なとか労力的な負担というのはあるのですが、それを負担だと思うかどうかとい うのは、そういうところだと思います。今回のアズファウンドデータの収集およびそれを とる意義というのが、比較的長い時間かけて周知されたということもあって、現場での負 担感というか、やらされ感というのはあまりないような感じで受けとめています。 【岡本】 ありがとうございます。 そこは非常に重要で、実際現場の方々のモチベーションがやはり一番安全のかぎになっ てくる。それは幾ら安全文化を維持しろとか何とか外側から言っても駄目で、やっている 現場の人の個々の人のモチベーションというのが非常に重要になってきます。 そういう意味では、この新検査制度というのは目標がはっきり見えていますので、先ほ ど平野センター長が言われたように、もう目標が明確に見えている。アメリカの事例で、 目標をまず事業者が設定するという話もありましたが、そういう目標が見えていれば、負 担感というのは特にないというふうに思っていますが、必ずしもそれが働いている人全員 がうまくいっているかというのは、また別の問題かもしれない。それこそ安全文化をしっ かり醸成していっていただければというふうに思っております。 今回、メーカーさん、事業者さんとしてのお話を聞きましたけれど、これは規制当局も やはり検査の内容が、前は定期検査、例えば、定期安管審であれば年に1回だったのが定 常的になってきている。それから保全プログラムといいますか、保全計画書を年に1回審 査しなくちゃいけないということで、このあたりはJNESさんとか保安院さんの方の人 の配置、人の負担感というようなものは、どのような感じでしょうか。 【新田見】 それでは私の方から、JNESの現状の御説明をしたいと思います。 私どもこういった組織でございますので、 当然リソースには限りある組織でございます。 限られたリソースを適切に活用して検査の質の向上等を図っていくというのは、私ども組 織の命題でございますので、今回の新検査制度導入に伴いまして、当然導入当初につきま しては、 いろいろと私どもの業務につきましても量的には増加いたしておりますけれども、 これも先ほどもお話がありましたように、いずれ落ち着いてくればプラントの状況に応じ て集中的な検査が必要なところには集中的にリソースを投入するとか、そういった体制に なっていくと考えてございますので、ある程度落ち着けば、私どもといたしましても、業 務の負担とかそういったものなく適切に回せるというふうには考えてございます。 先ほども説明いたしましたけれど、我々は、今回初めて保全計画の審査等を実施してい ますが、これにつきましても、できるだけ過去の知見や今後得られる経験等につきまして はデータベース化を図る等の対策を講じていくことを考えております。 また、定期安管審につきましても、これまではどちらかといいますと、画一的な審査と いうことでございましたので、 それなりのリソースを投入したわけでございますけれども、 今後、ある程度落ち着いてくれば必要な審査を必要なだけ実施するという形になりますの で、期間的には長くなりますけれども、業務量のピークは平準化されると思っていますの で、私どもといたしましては、現在のリソースで新検査制度を適切にやっていけるのでは ないかと考えてございます。 以上でございます。 【山本】 保安院側も基本的には同じでございます。私ども保安検査、定期検査の主流で ございます。定期検査は、基本的には安全基盤を見てまいりますので、新検査制度で大き く変わるところはございません。 それから保安検査の方は、こういう保全の形がつくられてまいりますと、先ほどの総合 評価ではありませんが、いろいろ課題が出てきたものを見ていくというのは、保安検査の 1つの考え方でありますが、ある程度こういったものは定着して、その仕組みが回ってい ることがわかってまいりますと、それを前提とした検査をやっていきますので、余り微に 入り細に入り細かいことを見ていくというのではなくて、その全体の傾向なり、全体のよ しあしを監査型で見ていくという形に変えていくことはできるのではないかと思っており ます。 【岡本】 ありがとうございます。 【平野】 全く同じことなのですけれど、少し一般化させていただきたいと思います。 NRCの文書で、パフォーマンス・ベースの検査というのはどういうものかというペー パーがありまして、それは2つのフェーズに分かれています。 1つは、システムがきちんと存在しているかというのをまず検査する。そこは1つ1つ、 このシステムはどうなってというのを検査していくから、そこは大変です。 でも、その次のフェーズに入ってくると、そのシステムが有効に機能して安全性が向上 しているかどうかということだけに着目して見ていく。ですから、後半では効率は上がる のだということを思っています。 【新田見】 1年半たちましたので、恐らく大体落ち着いてきていて、後半のフェーズに 少しずつ入っているのかなというふうに感じておりますけれども、そこのところでも必ず 細かなPDCAを是非回していただきながら、前例をそのまま踏襲するとかそういうよう なことではなくて、ちゃんと新しい目で是非検査、それからデータベースの収集側もそう ですけれども、是非やっていただければというふうに思っております。 【岡本】 それでは、今、現場重視の話からデータの話とかの方に進みましたけれども、 下側にも1個書いてございますけれども、リスク情報というのが1つ重要な話題として出 てくるかと思います。 今、質問票の中で、このリスク情報を活用した保全の導入に対して、保安院さんとして は前向きな検討をされていますでしょうかというような御質問が来てございますけれども、 このあたりを、山本課長の方から。 【山本】 まず、リスク情報の活用は、保安院としましてリスク情報活用検討会とか、い ろいろな審議会を設置いたしまして、このリスク情報を規制の中に活用していくことを大 きな基本方針としております。 それをもとに、審査の場あるいは検査の場で、このリスク情報を活用するための実施計 画というものを策定いたしまして、各分野で今その活用を順次進めているというところで あります。 具体的に、 では何を使ったのかというのも、なかなか表に見えにくいかもしれませんが、 先ほど保全プログラムの中で、事業者さんの方で施設の重要度に応じて、さらにそのリス ク情報を活用してということを御指摘いただきましたけれど、実はそういう仕組み、そう いう考え方を盛り込んでおられるわけでありますが、これはそういう考え方を私どもの検 査のあり方検討会で示し、それを民間規格の形で反映していただいて、それを私どもが規 制の中に取り入れたという形をとっております。 ですから、この保全のやり方の中にリスク情報を考慮してやっていくという仕組みは、 まず用意ができているのが1つですね。 それから私どもの保安院側の対応としましては、リスク情報を活用して保安活動上、リ スク上、重要な保安活動に着目した検査というものを導入しております。これは確かに結 果的には規制強化かもしれませんが、例えば、プラントの起動時、停止時の保安検査、燃 料交換の保安検査、ややリスクが高まるような定検活動といったものを、安全上重要なも のということで4つの検査を追加しています。これはリスク情報を活用したような例でご ざいます。 もう1つが、保安活動総合評価の中で、個別の安全性の評価、これは決定論的な手法を 基本としておりますが、そのときに様々な問題があったときに、それは原子炉への影響は どうなのかということで、リスク情報、リスク評価をして、それが軽微であるかどうかと いうのも1つの参考として活用してございます。 そういう意味で、リスク情報の活用というのはまだ始まったばかりでございます。最終 的には、どなたかの御指摘にありましたように、いわゆる運転中保全ですね。オンライン メンテナンスの本格導入に当たりましては、そのリスク情報を整理した上でこれを活用し て、それで判断をしていくということは将来的に当然必要になってまいります。このあた りの検討は、まだちょっと途中ではございますけれども、オンラインメンテナンスの活用 といったようなところ、この辺が私どもの大きな課題ではないかというふうに考えており ます。 【岡本】 ありがとうございます。 規制側、当局としては、先ほど平野センター長の方からありましたいろいろなアメリカ の事例等を参考にしながら、着実にリスク情報の活用を保全に導入していこうという試み を進めているというふうに理解いたしますけれども、事業者側としては、このリスク情報 の活用に関してはどのようにお考えでしょうか。 【森中】 リスク情報を活用できるものがあれば活用していきたいと思っています。リス クの高い機器あるいは設備をきちんと保全を行うという意味で活用するのは当然できるの ですが、実はリスクの低いものについて、保全のレベルを下げるといっては怒られますけ れども、下げるというのが実はなかなかできにくい状況になっていまして、やはり安全上 の重要性が非常に低い一般産業並みの機器であっても、やはり壊れるということになれば、 当然プレス発表等全部ついてきますので、やはりそういうものについても、それなりのき ちんとした保全が必要になるということになります。 リスク情報活用、重要なものをきちんと見るという意味での活用というのはいいと思う のですが、低いものをやめるというふうには、なかなか今はいかない状況にあるというの が実態だと思います。 【岡本】 この件については、山本課長の方からは。 【山本】 これはなかなか難しい問題でありまして、先ほど言ったように、仕組み上は安 全重要度と、それからリスク情報を考慮するなり活用して保全の仕組みを決定する仕組み はできており、一応そういう格好になっております。 ただ現実には、おっしゃるように安全の水準を下げるかのような印象を与えると、なか なか社会がそれを受け入れていただけるかどうかと、こういう問題が常に問題としてあり ます。これは原子力全般の問題として、やはり社会とのかかわり合いの中でその保全活動 なり保安活動をやっていくかという中での解決策を見いだしたいと思います。 恐らく1つは、先ほど平野先生からありましたように、やはりそういう考え方にはきち んと科学的、合理的な根拠がある。これをそういうものであることの説明と、それからそ ういう価値観をその一般社会と共有できるかというところが、もうひとつの大きなポイン トだと思います。社会との間でそういう価値観を共有することができれば、当然受け入れ ていただくことも可能でございますので、そういう価値観の共有のために事業者あるいは 規制当局側が実施しております活動を、科学的な観点から説明をし、理解を求めていくと いう努力も必要ではないかと思っております。 【岡本】 ありがとうございます。 我々通常、普通に生活していると、ほんのわずかなリスクの上昇で、相対的にリスクを 下げるというようなこと、許容できる十分低いレベルのリスクという意味でございますけ れども、そういうようなことはよくやっています。信号を渡るときに、青から赤になりそ うなときに、走るわけすね。走ると、やっぱり心臓発作とかそういうリスクは高まるので すけれども、結果的に早く渡れて、ベネフィットが大きくなる。こういうような我々の生 活の中では、無意識のうちにそういうほんのわずかなリスクの増加で、大きなベネフィッ ト若しくはリスクを相対的に下げるというような活動は、通常、普通にやられているわけ ですけれども、それをなかなかわかりやすく説明、今、森中さんの方からお話があった事 例もそれに近いものなわけです。 リスクが重要でないところに管理の資源を集中すると、その分だけ故障の確率も逆に言 うとふえてきてしまうようなことになってしまいますので、本来は適切な考え方をしなけ ればいけないわけですけれども、なかなかそれがうまくいっていない。このあたりは多分 原子力学会などを通じてもいろいろ活動が進められているとは思います。 ちょっと話が変わってしまいますかもしれませんが、平野センター長、何か一言コメン トをいただけますでしょうか。 【平野】 この問題といいますか、この課題については、きのうの午後のセッションでも 議論がございました。 私は、リスク情報を活用することによって、科学的あるいは合理的なものに向かうと思 います。その結果として、全体として必ず安全性は向上すると考えています。ですから、 是非リスク情報活用をしましょうと主張しているのであって、それは経済性向上を目指し ているわけでもないですし、効率向上を目指しているものでもありません。安全性は、全 体として必ず向上するのだということを明確にメッセージとして出していかないと、前に 進まないというのが私の印象です。 というのは、運転中保全のお話もありましたけれども、運転中に保全をすれば、それは その部分だけを見れば僅かですがリスクは上がります。リスクは上がるんですねと、とい うことは安全性向上と反対なことをやろうとしているんですねという議論に入っていって しまうと、そこだけを局所的に見れば、そのとおりだとしか言いようがありません。 ところが、全体を見れば、そこが合理的になる。例えば状態を監視していて、ああ危な いなとなる前に、運転中であってもそこで保全ができるようになることのメリットや、停 止中にもたくさん保全をやらなければいけなかったところが、それが減ってくる、あるい は、分解点検が多かったものが状態監視で減ってくるといった安全上のメリット、こうし たほかの安全上のメリットがあるから、それとのバランスで運転中に保全をやることによ って炉心損傷頻度の増分が僅かに上がるというところを容認しましょうということだと思 います。 すなわち、全体として安全の向上に繋がるのだということを、きちっとコミットメント として出すこと、そしてそれを実績で示していくことが重要だと考えます。実際にそれを やっていくと、安全性は向上するはずだと思います。安全性が向上すれば、必ずそれは実 績としていろいろなデータで示せるようになると思っています。パフォーマンスできっち り示していくということを規制側も、あるいは事業者側もやっていくということで、国民 からの信頼を得ていくというのが、重要な考え方だと思います。 【岡本】 ありがとうございます。 先ほど平野先生のパワーポイントの中にもありましたけれども、アメリカの方はそのリ スク情報を積極的に導入することによって明らかに安全な炉、Davis-Besse の事例が若干、 注意事項としてありますけれども、明らかにパフォーマンスは向上し、安全性は向上して いっているという、日本ではございませんけれども、海外の事例、アメリカとか韓国など の事例がある程度あるというふうにも考えています。 今平野先生がおっしゃられたように、全体としてリスクを下げる、全体としてより安全 なプラントにつなげるというのが、この検査というか、保全の正しい在り方であろうとい うふうに考えている次第であります。 それでは、今の件に若干関連するのですけれども、ここの中にも、有効性評価の面から、 検査の間隔を最適化することによって最終的には原子炉停止間隔の最適化ということにな るわけです。 質問票をちょっと読み上げさせていただきますと、この定検間隔の延長についても御質 問をいただいております。まさに今のお話と非常に近いのですけれども、延長しても安全 性は低下しないのか、又は延長することで安全性は向上するのか等について、その理由を 含めてわかりやすい説明をお願いしたいということなのですけれども、この定検間隔の延 長については、私は先ほど横断歩道の例で申し上げましたけれども、そういう格好で安全 性はより向上すると理解しているのですけれども、このあたりについて山本課長の方から お願いできますか。 【山本】 この定期検査の間隔、裏返せば運転期間の設定ということになってまいります。 「定期検査間隔変更の技術評価の流れ」 これをどのように設定していくかということであるのですが、実際どういう作業でやる かという、これは実践の技術論の話であります。この運転間隔あるいは定期検査の間隔と いうのは何で決まっているかということをちょっとお考えいただきますと、1つは、原子 力発電所を構成します機器、これが機器は先ほどのお話がありましたようにいろいろな間 隔で点検がなされております。最も単純に言えば、間隔の短い機器がこの運転間隔を事実 上、制約しているということになってまいります。 したがって、この新検査制度においては、すべての機器、これはもちろん重要度に応じ てでありますが、先ほど言いました保全の有効性評価をいたしまして、その検査の方法、 特に検査の間隔等について、手入れ前データなどに基づいていろいろ評価をしていただく ことになります。ここに書いています点検及び取替え結果の評価、これは先ほど言った手 入れ前データですね。それから劣化トレンドによる評価。これがどう劣化していくのかど うか。 こういう科学的根拠に基づいて、それぞれの機器ごとの点検間隔を評価し、設定をして いく。そのときに、結果として今までそれが13か月でないと点検できなかったものが、 仮に18か月でもいいということになりますと、それぞれの機器の最も短い期間が18か 月ですと、18か月にスパン延ばすことが一応可能になってくる。こういう考え方です。 ですから、 間隔を延ばす、結果的には延びるという言い方の方が正確かもしれませんが、 こういう保全の目から見たときに、保全に必要な間隔は最も期間が短いのはどれくらいか というのを科学的な根拠で検討して、その結果として13か月が18か月まで延ばすこと が可能になってくるということであります。 安全性のことについては、先ほど言いましたように、この検査の方法、間隔を最適化す るということでありますので、安全水準を下げることではなくて、むしろそれを維持でき る。もし全体的に見れば、その検査を行う人的資源なり、方法を最適化することによって、 全体としての有効性が向上いたしますから、安全水準はむしろ向上するというふうに考え られます。 したがって、単に延ばすから危ないのではないかという御質問を時々いただきますけれ ども、私どもとしては、こういう保全の有効性評価に基づいて検査方法、間隔の最適化を 図り、その結果としてこの定期検査の間隔が延長することができる。こういう科学技術的 な観点の中から設定していくものであるというふうに考えております。 【岡本】 ありがとうございます。 今の科学的根拠に基づいてしっかり評価をいただいているということでございますが、 これもローカルに見ると何となく不安に見えるのですけれども、全体で見ると、よりいじ り壊しなどの、実際の検査によって導入される、保全によって導入されるリスクが減りま すので、総合的には、より安全になってくるというふうに私も理解はしてございます。 その中で、お1人、JNESの新田見さんに、今の話で、この科学的根拠の妥当性はJ NESさんが検討されていらっしゃるわけですけれども、同じ形式の炉でも個々のプラン トのくせは違っているのではないかと思いますが、そのような細かいところまで踏まえて 検討されているのかという御質問が来てございますが、それについて簡単に御説明いただ けますか。 【新田見】 先ほどもちょっと申し述べましたけれども、基本的な考え方は、ただいま山 本課長が御説明したとおりでございまして、私どもJNESの方で技術的な検討を実施し ていますが、 原子炉の形式により基本的には変わらない部分は当然あろうかと思いますが、 個々のプラントの特性に応じた事項につきましては当然私どもの検討の中でも、個々に検 討を行った上で適切な判断を下すといったことを基本的な考え方にしてございます。 ただ、冒頭申しましたように、始まったばかりですし、我々もこれからの検討の成果や 知見を踏まえ、よりよいものにしていくと、そういった考え方で現在いろいろな検討を進 めている状況でございます。 【岡本】 ありがとうございます。 既にもう160の事例があるということで、それらの事例、もちろん個々のプラントご とに全部評価をいただいているわけでございますから、それらの治験を含めまして、より 合理的でより安全な審査につなげていただければというふうに思っております。 それでは、残り時間があと10分ぐらいになってまいりました。幾つか質問をいただい ている話をしてもよろしいのですけれども、この質問票に書かれていない内容で、もし会 場の方から、何かこういうことをこの際だから聞いておきたいというようなことがござい ましたら、会場の方から何かコメントいただけますでしょうか。特に、よろしいでしょう か。 それでは、パネラーの中から、この機会ですので何か聞いておきたいというようなこと がありますか。 【山本】 この検査制度はですね、これは我々の課題だというふうに考えておりますけれ ども、先ほど森中さんの御説明とか、あるいは私の説明にありましたように、この検査制 度自体はいろいろ不祥事、トラブルなどに応じまして、いろいろ規制強化が行われてきた という歴史的な背景がございます。それで我々もそういったところへ一巡をして、検査の 制度も一定程度定着をしてきているところでございます。 それで、現行制度が十分有効なのかどうかといったことも検討していくことが大変重要 であろうというふうに考えております。 先般、私どもの保安部会といったところで、安全規制にかかわります様々な課題という 中を整理いたしました。その中で、この検査制度にかかりますところの幾つかの課題とし て挙げているところでございます。 例えば、この検査制度のもう少し品質保証の充実、今は既に入っているわけでございま すけれども、そういったものは充実の中でどう考えていくべきか。特に今日のテーマにな っておりますように、事業者と規制側の役割分担、今は非常に重層的な規制になってござ いますけれども、こういう保全プログラムのもとで事業者が行われている仕組みができて いる中で、規制のやり方をどのようにやっていくべきなのか。そのあたりはこれからの規 制課題としても提示しているところでございますので、是非そのあたりを様々な関係者の 皆様の御意見を聞きながら、その課題解決に向けて、私どもとしても検討していきたいな というふうに考えておるところであります。 やや漠然とはしてございますが、そういう大きな課題があるということを申し上げたい と思っております。 【岡本】 ありがとうございます。 是非、非常に多くの項目なのですが、多分緊急性と需要の分類から言いますと、この保 全の見直しというのは非常に重要なものの部類に入るのではないかなと思いますので、是 非、積極的な改善をお願いできればと思います。 何か、まだありますか。 【森中】 平成15年の時に大きく品質保証が規制の中に持ち込まれて、21年というの は、今やっていることを少し形を変えて見せるということになったのかなと私自身は思っ ています。 先ほどから、要するにこれだけ仕事量が増えてきているのだからどうなんだという話が ありましたように、実は電力側で言いますと、今回のはまだ当然評価はできていません。 21年の規制の見直しの評価はできていませんけれども、15年当時のものは、それなり に評価らしきものがありまして、かなり増えています。多分どの電力もそれなりに工夫し たと思うのですけれども、関西電力で言いますと、大体1.5倍とは言いませんが、そのぐ らい増えていると思います。 結局それに対応するために、 我々どうしても今まで現場へ行っていたのが少し減ったり、 あるいは、他の仕事を少しやめたりとかいういろいろなことをやったり、あるいは私ども 保全に関します関係会社を持っていますので、多分どの電力さんもその関係会社との役割 分担なり、あるいは採用の増も含めていろいろやってきたと思います。それがそろそろ落 ち着いてくるのも、やはりこれから4、5年先かなというふうに思っています。 ですから、今回仕組みが新たにできて、事業者が説明できるものをきちんとプログラム をつくってそれを説明し切るというのですか、科学的に説明できれば自分にとって最適な 保全を行うことが許容されるという仕組みだと思いますので、もう少し時間をいただきま して、この仕組みをきちんと活用していきたいなと思っています。 【岡本】 ありがとうございます。 これが動き出してからまだ1年半でございます。1年半でもいろいろ課題が見えてきて いるわけですけれど、やはりこの仕組みは保全プログラムという事業者さんが責任を持っ て、第一義的に安全に対して持たれているわけですけれども、責任を持って保全プログラ ムを策定いただいて、それを国が審査していくという仕組みができ上がっております。是 非その状態監視保全とかデータとか有効性評価をしっかりしていただいて、よりよい科学 的根拠に基づいた保全プログラムをつくり上げていただくということが、恐らくこの原子 力システムのプラントを、 より安全にする唯一の道なのかなというふうに思っております。 まだ2、3年かかるというお話でございますけれども、是非積極的にやっていただければ というふうに思っております。 ほかに特になければ、ちょっと私の方であと5分くらい時間をいただいて、少し今日の サマリーをしようかなと思いますが、何かこの際、言っておきたいということがあれば。 よろしいでしょうか。 今ディスカッションの中で、多分不十分だった点が幾つかありますので、時間の関係で 短くなってしまったのでディスカッションできなかった点が多々ありますことを、お詫び いたします。 質問票の方でもいっぱい出していただいておりまして、その中ではこの保安活動総合評 価について、いろいろ御意見、コメント等をいただいておりますし、それから検査制度自 体の根本的な改善、改善をするのでなくて一から見直せとかいうような御意見もいただい たりしております。 これらについては、保全活動総合評価については、3年間の試行期間が始まったばかり でございます。これはまだ、これから3年間の試行期間というのは、これから見直しを始 めていきたいと思います。より実質に合ったものにしていきたいと思っておりますし、よ り国民の皆様にも分かりやすい形でこの指標を利用して、かつこれは最終的にはこの保全 活動の見える化だと思っておりますので、このあたりについてしっかりと議論をしながら 3年間の試行期間を経て、これも3年後になりますけれども、運用をしていきたいという ふうに考えています。その中には、ここにありますようにリスク情報をしっかり活用して いくということも重要だというふうに認識してございます。 また検査制度を全部変えろとかいう御意見もありましたが、今ある検査制度、PDCA を回しながら、必要によっては本当に一から見直しということも含めて改善を続けていく ということをしていきたいというふうに思っている次第でございます。 最後に、今日出た議論は、またこれもリストアップだけなのですけれども、結局、原子 力施設の保全における事業者の規制の役割についてということでございますけれども、こ れについては、ちょっと御紹介したいのがございまして、私ども何回か学会の方で幾つか の、アメリカとかイギリスとか、いろいろなところ、各国の規制状況を勉強して回ってい るのですけれども、アメリカのNRCに行ったときに非常に面白いことを言われていまし た。 これがすべてであるとは言いませんけれども、アメリカのNRCでは、ウイ・トラスト・ ライセンシー・バット・ベリファイ・ゼム(We trust Licensee, but verify them)とい うことで、事業者を信頼する。しかし監査、検査をすると。これが一番アメリカにおける 規制当局と事業者の間のあらわす1つの大きなキーワードかなと考えます。 もう1つが、先ほどから出ていますリスク情報にかかわりますけれど、ホワット・イズ・ ザ・リスク・シグニフィカント(What is the risk significant)ということで、何がリス ク上重要かということを考えながら規制をしていくのだということのキーワードでござい ます。 そういう意味で、今日のお話をずっと伺っていて、さっと私の方で結論じみたことをま とめさせていただきますと、基本的には事業者と規制側は信頼感を醸成していく。これは フェイス・トゥ・フェイスの現場の検査官の方々と、それから現場の事業者の担当者の方々 が、フェイス・トゥ・フェイスでディスカッションされているということ、フリーアクセ スなどもやられておりますので、そういうことが非常に重要な観点。一番最初のスタート ポイントに近いことになるかなというふうに思っております。 それから保全情報データの共有と活用ということで、まだ緒についた段階ということで すけれども、これは是非分析、活用につなげるためにしっかりと情報の収集を継続してい ただきたいというふうに思います。 それでは、今日パネルではディスカッションできませんでしたけれども、人材育成、高 齢化の問題もございますし、若手の方の人口減少の話もありますが、事業者側、それから 規制側とも積極的な継続的な人材育成というのが重要である。これは私、大学でございま すので、大学の責任も非常に大きいものですから、是非いろいろ考えていきたいというふ うに思っております。 それから、新しい技術、この21世紀になりまして、IT技術、コンピューターは、も う比べ物にならないほど発達しました。それらにもレーザーであるとか電磁的な超音波で あるとか、様々な現実が開発されています。是非これを応用して、よりよい保全につなげ ていきたい。 最後になりますけれども、平野センター長の方から、パフォーマンス・ベースの規制を 目指すということ、それからリスク評価、これは何回も繰り返しになりけれども、このよ うなところをしっかり見ていく必要があるというふうに考える次第でございます。 今日は、ちょっと私の座長の不手際も若干ありまして、時間が短かったり、あと議論を 途中で切ってしまったようなところもあるかと思いますけれども、今日はこの事業者の規 制の役割について、新検査制度のPDCAをどう回していくかということについてのディ スカッションができたと思います。是非今日のような議論をより発展させて、ちょうどC の部分になると思いますので、具体的には事業者側、それからメーカーさん、それから規 制当局、JAEAさんも含めてしっかりとAの部分につなげていけたらというふうに考え ている次第でございます。 ちょうど時間でございますけれども、これで私のまとめという形にさせていただければ というふうに思っております。 どうも今日は長い間御清聴ありがとうございました。(拍手)
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