Heat Treatment On-line Process of Steel Plate Using Induction Heating

誘導加熱を用いた厚板オンライン
熱処理設備
遠 藤 茂 多 賀 根 章 日 野 善 道
水 野 浩 諏 訪 稔
JFEスチール ㈱
鉄鋼材料の製造プロセスは、省エネルギーの観点などから連続化(オ
ンライン化)が進んでいる。JFE スチールは、従来、オンライン化さ
れていなかった高強度厚鋼板の製造に必須となる材質調整のための
焼戻し熱処理のオンライン化を目指し、誘導加熱方式を用いたオン
ライン熱処理技術を確立した。
1.はじめに
鉄鋼材料のひとつである厚鋼板(厚板)の製造プ
②インゴットや鋼板の再加熱の省略による大幅な
省エネルギーの実現。
ロセスは、連続化(オンライン化)が進んでいる。鋼
塊の製造工程である鋳造工程では、旧来のインゴッ
近年、大型の鋼構造物や石油ガスパイプライン、
ト造塊プロセスが連続鋳造プロセスに変わってきて
大型船舶などに使用される厚板に要求される性能
いる。また、厚板の熱処理プロセスでは、圧延工程
は、高強度・高靭性・高施工性など多岐に渡り、か
と連続していない(オフライン)加熱炉を用いた焼
つ高度なものになってきている。それらの要求性能
入れから圧延直後のオンラインの加速冷却装置によ
を満足するためには、精緻な材料設計技術と共に高
る直接焼入れが実現されている(図 1)。
度な製造技術が必須となってきている。そのような
このような厚板製造プロセスにおけるオンライン
製造技術として、主に引張強さ 500 MPa 級鋼を対象
化は以下に示すようなメリットがある。
に制御圧延や制御圧延と加速冷却とを組み合わせた
①オフラインプロセスに比べた短工期・大量生産・
加工熱処理技術が開発されている。また、引張強さ
が 600 MPa 超材の製造プロセスとして前述の直接焼
大量供給の実現。
Process
製鋼
鋳造
厚板
製造
圧延
1970’s
1960’s
インゴット造塊
(オフライン)
1980’s
1990’s
2000’s
JF E’s設備
連続鋳造(オンライン)
制御圧延 ( CR )
普通圧延
TMCP
加速冷却(オンライン)
OLAC
焼入れ
&
焼戻し
オフライン熱処理
Super -O L A C
直接焼入れ(オンライン)
オンライン化
HOP
図 1 高性能厚板の製造技術の変遷
8
特集 IH(誘導加熱)技術の製造分野への適用
入れプロセスが開発実用化されている。このように、
この焼戻し熱処理のオンライン化と高度な材質要
高機能材を高能率で製造できる厚板のオンラインプ
求に応えられる新組織材質制御技術の創製を目指
ロセスが発展しているが、直接焼入れ型の 600 MPa
し、JFE は世界で初めて厚板をオンラインで再加熱
超材の製造に必須となる材質調整(強度の調整、靭
ができる誘導加熱方式を用いたオンライン熱処理技
性の改善)のための焼戻し熱処理は、ガス加熱炉を
術を確立した。
用いたオフラインプロセスのままであった。
2.開発のねらい
600 MPa 超級の高強度な鋼板製造における材質調
b)厚板工場での製造工程を10 日短縮(非熱処理
材と同等)
整のための焼戻し熱処理は、依然オフラインにある
加熱炉(製鉄過程で発生する副生ガスを燃料とした
c)可能な限りの CO2 発生量の抑制
加熱方式)が用いられている(図 2)。
この焼戻し熱処理プロセスを用いた高強度鋼の生
● ハイテン(600MPa超)厚板製造プロセス
産では下記の課題があった。
① 生産能力ならびに能率が低く、圧延・加速冷却
矯正機
粗圧延機
仕上圧延機
スラブ
600MPa超ハイテン
オフライン搬送
プロセスそれとの大きな乖離
② ガス燃焼方式の加熱炉はエネルギー効率が低
連続炉
く、かつ CO2 の発生量が多い
これらの課題を解決するため開発の数値目標は
下記とした。
a)200 トン / 時間の生産能率を持つオンライン
熱処理設備
加速冷却装置(‘80開発)
焼入れ・オンライン化
オフライン
焼戻し熱処理炉
● 生産能率
圧延 焼入れ
200㌧/1時間
焼戻し
10㌧/1時間
図 2 高強度厚板(ハイテン)製造従来プロセス
3.高能率加熱方法の検討
ガス燃焼によるバッチ式の熱処理炉を用いて高い
いた熱処理が、誘導加熱では 1 分程度で完了する。
生産性を得るためには、材料を炉内で順次搬送して
また、エネルギーの 90 % を加熱に使用でき、誘導加
加熱する連続炉がある。例えば板厚 25 mm の鋼板を
熱では圧延と同じ能率を達成できる。従って、設置
室温から 600℃まで加熱する場合には、ガス燃焼で
スペースが小さく、高能率加熱が可能な誘導加熱方
は約 70 分間の加熱時間が必要となる。先の圧延能力
式を採用した。
と同期した生産量を得るためには、図 3 に示すよう
な巨大な加熱炉サイズ(幅 40 m、長さ 100 m)とする
●オンライン熱処理炉の大きさ
必要がある。このような大規模な設備を既存の圧延
100 m
ライン上への設置は困難であると判断した。
40 m
一方、誘導加熱は、50、60 Hz 程度の商用周波数
ガス燃焼炉
と同程度からさらに高い周波数まで、用途に応じた
周波数で駆動する誘導加熱コイル(インダクター)
によって、鋼板に誘導電流を流してその電流による
発熱で加熱を行うものである。発熱はガス加熱のよ
うに外部からではなく、内部から発生し、そのエネ
ルギー量は投入する電力でコントロールできる。図
3 に示すように、25 mm 厚さの鋼板を想定すると誘
導加熱の加熱速度は 10℃/ 秒と従来のガス燃焼炉の
70 倍前後で、600℃まで加熱するのに 70 分を要して
5m
4~10 m
誘導加熱炉
●オフラインガス加熱炉とオンライン誘導加熱炉の比較
項目
誘導加熱炉
従来ガス燃焼炉
加熱速度(℃/s)
10.0
0.15
加熱時間(分) *
1
70
加熱効率(%)
90
25
能率(トン/時)
目標 200
10
*板厚25m m
の鋼板を室温から600℃まで加熱
図 3 オンライン熱処理設備比較
9
4.技術上の特徴
4.1 コイル設計
図 5 に示す誘導加熱コイルを連続的に複数配置し
誘導加熱による鋼材の加熱では、電流分布が板厚
て鋼板の加熱を行う場合、鋼板の搬送速度は一定と
方向中心に向かうにつれ指数関数的に小さくなり、
なるので、温度の高い鋼板が通過する後方のコイル
それを規定するスキンデプスは、誘導加熱コイルの
では、上限温度を超えないために投入電力を小さく
周波数と処理鋼板の透磁率に依存する。本開発で取
する必要がある。このため、この形式では多数かつ
り扱う低温度域(700℃以下)の鋼板では、透磁率が
出力別のコイルが必要になる。また、この形式では、
高く、スキンデプスが 3 mm 程度と薄いため表面の
鋼板長が数十メートルと長くなるとすべてのコイル
過加熱が大きくなり、誘導加熱中は、表面と中心に
で一斉に加熱する必要があり、瞬間的に大きな電力
大きな温度差が生じる。したがって、コイル 1 台で
が必要になる。
大電力を投入し一気に加熱すると、表面が材質上問
そこで、コイルの種類と台数を減らすため、図に示
題を生じる上限温度を超えて過加熱され、表面の材
すように板を複数回コイルの中を行き来させる方法
質劣化を招く可能性がある。この問題を解決するた
(リバース搬送)を開発した。この形式では、加熱コ
めに、コイル分割加熱方式を開発した。コイルを分
イルを通過する鋼板の速度を変えることが可能とな
割し、加熱と均熱を繰り返し、順次加熱量をダウン
り、高温時の加熱は通過速度を増すことで、コイル
して加熱すれば、許容される上限温度の範囲内にコ
が大出力であっても過加熱を防止できる。このこと
ントロールできる(図 4)。
は、コイル容量も平準化できることを意味している。
●コイル分割加熱
●コイル単機加熱
加熱-均熱化繰り返し
誘導加熱の特徴
による過加熱回避
過加熱→材質劣化
‐鋼板表面過
加熱
‐
上限温度
温度
目標温度
上限温度
温度
表面
目標温度
順次加熱量ダウン
板厚中央
時間
時間
厚鋼板
コイル
図 4 コイル分割加熱方式による過加熱抑制効果(模式図)
●誘導加熱コイル集中配置
大出力100%
コイル郡
中出力
30%
小出力
20%
設備スペース : 大
コイル種類 : 3種類
瞬間最大電力 : 大
30m
●リバース化
③ 高速搬送
大出力
100%
加熱時間短縮
⇒ 過加熱防止
設備スペース : 小
コイル種類 : 1種類
① 低速搬送
10m
② 中速搬送
瞬間最大電力 : 小
図 5 リバース加熱によるコイル容量平準化、コイル配置コンパクト化
10
特集 IH(誘導加熱)技術の製造分野への適用
さらに、同時に稼動するコイル台数の低減による最
このため、(1)最短時間処理を実現する搬送速度
大電力の低減もが実現できた。この形式の採用によ
設定、(2)消費電力を評価関数とする各コイル電力
り、コイル数を最小限でかつ多数のコイルを配置し
設定の最適化制御、(3)各コイルの入り側に配置し
た巨大な設備と同じ能力を得ることができた。
た温度計による FF(フィードフォワード)オンライ
ン温度制御、の 3 段階の制御系を構成した。
4.2 温度制御
これらは、図 6 示すように、(1)の搬送速度設定
誘導加熱装置構成がコイルを複数台配置し、リ
を対象材が圧延される前の鋼塊加熱炉在炉中に実施
バース加熱を併用する方式において、鋼板加熱温度
し、(2)のコイル電力設定は対象材が加速冷却後の
制御方法は、以下のような制御目的を実現できる構
温度計測で加熱前温度を確定し、この時点で全パス
成とした。
の各コイル電力の最適設定値を算出する。実際に加
表面の過加熱を防止し、所定温度以下の範囲で加
熱する段階では各コイル入り側の温度計に基づき
熱する。また、その他加熱過程に課される温度制
(3)のオンライン FF 制御によってコイル電力の補正
約を満たして加熱する。
がなされる。なお、ここでは加熱終了後の温度計測
上記制約を満たしながら、加熱終了時に所望の温
と実績設定電力から加熱効率の検証計算がなされ、
度に一致させる
次材以降の効率の補正が行われる。
処理時間最短を狙い、その中で消費電力最小化を
このような制御系によって、鋼板の温度制御性能
狙う
は目標±10℃以内の精度を達成した。
加熱炉
装入
仕上げ
加速冷却装置
粗圧延
Super -OLAC
インダクタ
レベラ
OLAC温度
④FF制御
実測温度による
FF制御
②修正計算
OLAC出側温度による
搬送速度の決定
①仮計算
搬送速度最適化
影響係数の計算
(1) 搬送速度設定計算
⑤効率学習
効率を推定して
次材に反映
③電力計算(最適化計算)
先端と尾端について計算
長手方向について補間
(2) 電力設定計算
(3) オンライン制御
図 6 全体制御系の概略
5.装置の概要
本技術で実現した厚鋼板の完全オン
ライン熱処理装置制御フローの模式図
目標温度, 鋼板温度実績
計算機
鋼板温度予測計算
を図 7 に示す。レベラーの直後に加熱
搬送速度
コイル電力
電源
最適設定
オンライン熱処理設備
コイルを設置したことにより、圧延ラ
粗圧延機
仕上圧延機
温度計
イン上にオンライン熱処理設備を設置
することができた。設備名称を、HOP
(Heat treatment On-line Process)
として完成した。
熱間矯正機
加速冷却装置
連続炉
この装置により、圧延と焼入れと焼
戻しを 200 t / 時間の同じ能率で処理す
圧延
ることができる。この設備開発により、
プロセス
高強度材の高能率、省エネ、短納期製
能率
造が可能となった。
加熱
圧延
焼入れ
焼戻し
加速冷却 オンライン熱処理
200t/時間 200t/時間 200t/時間
200t/時間
図 7 厚板オンライン熱処理設備
11
6.実用上の効果
焼入れから焼戻しまで一貫したオンライン処理
造物の軽量化に向けた新商品を開発できた。これは、
が可能となった事で、製造工期の飛躍的な短縮(約
構造物の軽量化に向けた画期的なブレークスルー技
10 日間)と供給量の大幅な増加が実現できた(60 千
術であると考えられる。
t / 年→ 180 千 t / 年)。また、この技
術開発により、大幅な CO2 排出量の
削減も実現できた。さらに、誘導加
熱方式の導入により、高機能新商品
の製造に道を拓いた。
オンライン熱処理技術の効果とし
ては、熱処理能力の拡大、納期の短
縮だけでなく、誘導加熱の特長を
活かした独自の熱履歴制御技術に
プロセス/商品
●直接焼入れ( D Q )
+急速オンライン焼戻し
● 新商品
・建設機械用
TS780M Pa鋼
・石油/ガスタンク用
TS600M Pa級鋼
および建設機械向け高強度鋼の例を
・高強度化(強度低下小)
・セメンタイト(Fe3C)微細化による
靭性大幅向上
Fe 3 C
DQ
DQ
温度
イン焼戻しプロセスによる、タンク
急速加熱による熱処理時間短縮
Fe 3 C
熱間圧延
より、新商品を開発することができ
た。図 8 に直接焼入れと急速オンラ
特徴
2μm
オンライン焼戻し
オフライン炉焼戻し
焼戻し温度
急速短時間加熱
示す。従来のオフライン焼戻しに比
時間
べ熱処理時間が大幅に短縮できるた
開発することができた。
図 9 に超高強度鋼の開発の例を示
す。 引 張 り 強 さ 1000 MPa 超 の 鋼 材
は、鋼材使用量の大幅な低減を可能
図 8 タンクおよび建設機械向高強度鋼の開発
超高強度鋼(TS1000MPa超)
鋼材使用量を大幅削減可能な
省資源型材料
・水素脆化による遅れ破壊発生
にする省資源型の材料であるが、水
により実用化拡大せず
素起因の遅れ破壊が問題となり、実
・急速加熱によるセメンタイト
用化が困難であった。これに対して、
(Fe3C)微細化
オンライン熱処理の急速加熱焼戻し
による組織の微細化により、大幅な
耐遅れ破壊特性大幅向上
安全度大
100
90
( 非水素チャージ材に対する
水素チャージ材の絞り比 )
微細化された高強度・高靭性鋼板を
耐遅れ破壊安全度指数 (%)
め、強度低下が少なく、かつ組織が
80
70
60
50
40
●
●
オンライン熱処理(開発鋼)
雰囲気炉焼戻し(従来鋼)
1000
耐遅れ破壊特性の向上を達成し、構
1100
1200
引張強さ (MPa)
1300
図 9 超高強度鋼の開発
7.おわりに
厚鋼板の熱処理を迅速,省エネ化し、材質制御に
大量生産を通じて、省エネルギー、CO2 削減で地球
も利用できる厚板のオンライン熱処理設備を世界で
環境に貢献している。
初めて開発した。その結果、ラインパイプや建機へ
の高強度・高機能鋼の大量生産・大量供給と高機能
新商品の開発が可能となり、鋼構造物や車両の軽量
化や施工時の施工性の高さに貢献した。
また、制御圧延・制御冷却と焼戻し熱処理による
高強度化は省合金化を実現し、高強度・高性能鋼の
12
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