航空機整備現場のケースを通じて

組織ルーティンのデザインを通じた仕事実践の組織化
:航空機整備現場のケースを通じて
吉
1.
野
直
人
はじめに:問題意識と研究動機
本研究の目的は,組織成員の多様な仕事実践を組織化するため,組織ルーティンのデザ
インのあり方を航空機整備現場のケースを通じて明らかにすることである.
組織ルーティン(以下,ルーティン)とは,特定の仕事を成し遂げるために参照される
手続き・やり方を意味する.現実の場面においては,ルールやマニュアル,標準業務手続
のように人工物として明示化されている場合もあれば,慣例のように組織メンバーに暗黙
的に理解されている場合(いわゆる,暗黙のルール)もある.もちろん,両者が共存する
こともあり,必ずしも一致するとは限らない.明示化されたマニュアルと実際の仕事の進
め方に対するメンバーの理解が異なるということもありうる(March and Simon, 1958)
.
これまでの研究では,このルーティンが組織メンバーの仕事実践を規定すると考えられ
てきた.それゆえ,同じルーティンを参照する組織メンバーの実践は同質化し,集団とし
て一枚岩の行動パターンを示すものと考えられてきた(e.g., Nelson and Winter, 1982)
.
しかし近年,マニュアルや慣例といったルーティンと実際の仕事実践にはギャップが見ら
れることが指摘されている.これを組織ルーティンの遂行的性質(performativity)とい
う(Feldman and Pentland, 2003; Pentland and Feldman, 2005)
.
当たり前のことだが,マニュアルや慣例があらゆる状況における仕事のやり方を定めて
いるわけではない.どれほど具体的に定めているかは組織によって異なるが,ルーティン
は目標や注意事項など行動の条件を指示している場合が多く,抽象的な規範(norms)と
して存在する(March and Olsen, 2004).それゆえ,ある人が同じルーティンを参照して
仕事を行うにしても,タスクの状況によって行動内容が変わり,また,同じルーティンを
参照する組織メンバーの仕事実践が同質化するとも限らない.要するに,ルーティンは抽
象的な規範であるがゆえ,組織メンバーの多様な仕事実践を生み出すのである.
このようなルーティンの遂行的性質を踏まえたとき,1 つ検討しなければならないこと
がある.ルーティンが多様な仕事実践を生み出すこと,いいかえれば,ルーティンと仕事
実践の差異,あるいは個々の仕事実践間の差異が,組織にとって問題かどうかという点で
ある.もちろん,この差異が必ずしも問題になるとは限らない.むしろ,ルーティンが抽
象的であるがゆえに,個々のタスク状況に適応できるという側面すらある(March and
Olsen, 1989)
.だが一方では,この差異が問題になりうる組織や職場もあるように思われ
る.例えば,高信頼性組織(High Reliability Organization)はどうだろうか.高信頼性
組織とは,惨事となりかねない事態に数多く接しながらも,それ自体を初期段階で感知し
未然に防ぐ仕組みを体系的に備えた組織を指し,具体的には,原子力発電所,原子力空母
および潜水艦,航空管制システム,配電施設,病院の救急医療(ER)などが挙げられる.
1
共通するのは,失敗すれば即座に人命に関わる(小さなミスが重大事象につながる)業務
が多く,失敗を未然に防ぐ組織作りを経験的に達成しているという点である(西本, 2006,
p.11)
.これらの組織では,ルーティンの遂行的性質が重大事象を招く一因になりかねない.
それゆえ,ルールや業務マニュアルなどのルーティンを重視し,これに従った仕事実践を
確保することが管理上重要なテーマとなる.つまり,少なくとも高信頼性組織の場合,ル
ーティンの遂行的性質が問題視され,仕事実践の差異を統制するようなルーティンのデザ
インが求められると考えられる.
このような問題意識のもと,本研究では,航空会社(以下,X 社)の航空機整備現場の
ケースを具体的に検討していく.同社を調査対象として選択した理由は,同社が高信頼性
組織に該当するからである.中西(2007)によれば,事故研究と高信頼性組織研究は異な
る.前者が,事故を起こした組織を事後的に研究するのに対して,後者は,事故を未然に
防いでいる組織をリアルタイムで研究する点に違いがある(p.31).したがって,この定義
に従えば,上述した例に分類される組織のなかでも,安全性・信頼性が維持されていない
組織は高信頼性組織とは呼べない(p.34).しかしながら,本研究で取りあげる X 社は,
事故を未然に防ぐべく,整備実践の差異を統制する組織作りを経験的に達成している点に
特徴が見られ,
その点で本研究の研究課題に合致するものと考えられる.よって以下では,
最初に,調査概要(調査課題,調査方法)を述べ,次に,調査課題に基づいて得られた発
見事実を整理する.最後に,多様な仕事実践を組織化するルーティンのデザインのあり方
を明らかにするという研究課題に対して,発見事実から得られる含意をまとめる.
調査概要
2.
2.1
調査課題
通常,航空会社は航空機整備に関して航空法に基づいた整備規程を定めており,整備は
この整備規程に基づいて実施される.X 社の整備規程では、飛行機の機種,飛行時間,飛
行回数によって,
「T 整備」
「A 整備」
「C 整備」
「M 整備」という 4 つの整備段階が定めら
れている1.通常,T 整備と A 整備は「運航整備」と呼ばれ,C 整備と M 整備は「重整備」
と呼ばれる。T 整備は,
「飛行前点検」とも呼ばれ,飛行機が到着してから出発するまでの
間,最も短時間(国内線で 45 分から 1 時間,国際線で 2 時間程度)で行われる整備であ
る.主として外観点検を行うほか,燃料や潤滑油などの補充,清掃(機内を含む)などの
作業も行われ,飛行中に機長や客室乗務員によって不具合個所が発見された場合には,そ
の整備も実施する.A 整備は,約 300 時間飛行したとき(約 1 ヵ月),その飛行機が最終
便で到着してから始発便で出発するまでの時間で行う整備で,外部状態の点検や油脂類の
交換,各部の清掃,部品の交換などが実施される.深夜から早朝までの約 6 時間で,10
人程度の整備士で作業が行われる.C 整備は,約 1 年ごとに行われ,7 日から 10 日かけて,
各種システムや機体構造の点検を含む整備を実施する.最後に,4 年から 5 年に 1 回行わ
れる大規模な整備が M 整備である.M 整備では,内装だけでなく航空会社のロゴが入っ
た外装のペンキまですべて取り去り,短い場合は約 20 日,長い場合は約 2 ヵ月かけて,
1
名称についてはメーカーや航空会社で異なるが,ボーイング社の「ライン整備」とエアバス社の「A チ
ェック」は A 整備,同じく「ベース整備」と「B チェック」は C 整備に相当する(久保, 2011, p.36).
2
詳細な機体構造検査や各系統の整備,改修を行い,最後に,防錆処置,再塗装を施す.
これらすべての整備を通して,整備士が業務を進める際に必ず守らなければならないル
ーティンが「メンテナンスマニュアル(以下,MM)」である.MM とは,航空法に基づ
く規程で,ボーイング社などの機体メーカー(以下,メーカー)の技術情報に基づき航空
会社が作成する技術基準である.航空機の機種,さらには,機体に取り付く各機器の整備
作業ごとに存在する.当然ながら,X 社でも MM に従った各種整備が行われている.
しかし,現在では MM に従った各種整備が行われている X 社でも,過去には MM に従
いつつも,整備士個人の経験やスキルに依存したやり方がないわけではなかった.一部で
は,整備士間の仕事実践に差異が見られたのである(以下,「整備実践の差異」と表記).
経験やスキルに依存したやり方が必ずしも問題というわけではない.それは日々の整備実
践から培われるものであり,いわば現場の知恵である.この知恵があるからこそ,定時性
が維持されていた可能性もある.だが,整備実践の差異は,新入社員の教育などを通じて
さらに差異化されていく可能性がある.また,万が一にもヒヤリハット事象につながらな
いとも限らない.それゆえ,問題発生の有無にかかわらず,常日頃から MM に従った整備
実践を確保することが,管理上重要なテーマとなってくる.かつては整備実践の差異が見
られた X 社において,現在では MM を遵守した整備が行われているのはなぜか.MM に
基づいて組織化された整備実践を確保するために,どのようなルーティンのデザインが行
われたのか.この点を明らかにすべく,本調査では,調査課題を「整備士はいかにして
MM を参照・遵守するようになったのか」に設定して調査を実施した.
2.2
調査方法
調査は 2012 年 6 月から 7 月の期間内で行われた.調査データは,インタビューを中心
に,これを補足するものとして,伊丹空港において現場観察を行った.以下,表 2-1 に実
施した各種調査の概要を示す.
表 2-1
調査概要
概要
実施日
伊丹空港での運航整備観察
6月9日
羽田空港整備士 10 名へのグループインタビュー(5 名×2 グループ)
7月3日
羽田空港整備士 10 名へのグループインタビュー(5 名×2 グループ)
7月9日
伊丹空港での現場観察は,羽田空港整備士へのインタビューに向けたパイロット調査の
位置づけで実施した.航空機の整備はどのようなプロセスで行われているのか,MM はど
のようなものか,などを念頭に置きつつも,広く現状を把握することを目的にヒアリング
および視察を行った.その中で整備士の方々に直接話を伺う機会が度々あったが,業務へ
の支障をきたす可能性があるため,IC レコーダーによる録音は一切行っていない.したが
って,事例の解釈にあたってこれらの調査データから引用されている場合は,すべて筆者
らのヒアリングメモおよびフィールドメモに基づくものである.
より直接的に調査課題を明らかにすべく実施したのが,羽田空港整備士へのグループイ
ンタビューである.管理者ではなく現役の整備士を調査対象とした理由は,管理者が意図
3
しないプロセスで,整備士が MM を参照・遵守している可能性があるからである.つまり,
整備士が MM を参照・遵守しているにしても,デザインの背後にある管理者の意図とは異
なる方法で達成されている可能性があり,その意味で,整備士を対象にインタビューを行
う方が,興味深いインタビューデータを収集できるのではないかと考えた.また,航空機
整備の知識は極めて高度かつ専門的であるため,筆者がうまく質問を掘り下げられない可
能性が予想された.この問題を回避するため,参加者の間で意見が触発されることを期待
して,
パーソナルインタビュー形式ではなくグループインタビュー形式を採用した.実際,
インタビューを実施するなかで,幾度となくこのような場面が見られた.
グループは 5 名で 1 グループを構成し,計 4 グループ実施した.時間は各グループとも
60 分程度であった.インタビュイー20 名の内訳は,以下,表 2-2 のとおりである.イン
タビューを実施した 4 グループのうち,2 グループは若手整備士(経験年数約 10 年以内)
を中心に,2 グループはベテラン整備士(経験年数 20 年以上)を中心に行った.
表 2-2
インタビュイーのコード名とプロフィール
コード名
経験年数
インタビュー時の担当
A氏
3年
機体塗装
B氏
5年
重整備(電気系統)
C氏
11 年
重整備
D氏
8年
運航整備
E氏
6年
運航整備
F氏
5年
機体塗装
G氏
7年
重整備(構造整備)
H氏
6年
運航整備
I氏
7年
重整備(計画)
J氏
20 年
運航整備
K氏
25 年
運航整備
L氏
20 年
運航整備
M氏
30 年以上
N氏
25 年
重整備(電気系統)
O氏
20 年
重整備(エンジン系統)
P氏
23 年
重整備(エンジン系統)
Q氏
30 年以上
重整備(電装客室整備)
R氏
25 年
運航整備
S氏
20 年
重整備(エンジン系統)
T氏
24 年
運航整備
重整備(A 整備も兼務)
注:グループインタビューは,A-E,F-J,K-O,P-T の各氏の組み合わせで行われた.
このインタビューはフォーマルな形で実施されたものであるため,インタビュイーの了
解のもと,すべて IC レコーダーに録音され,後日テキスト化された.インタビューは,
4
事前に準備したスクリプトに基づいて行われた.具体的には,おおよそ以下のような質問
が準備された.ただし,実際のインタビューは,このスクリプト以外にも,その都度探索
的に話を伺っていくという半構造化された形で進められた.

今の仕事において,作業手順はマニュアルに完全に一致するものですか.マニュ
アルに書いていないやり方やコツを必要とする仕事はありますか.

マニュアルで対応できない作業が生じた場合,どのように対応されますか.

場合によっては,マニュアルを変えることもあると伺っているのですが,具体的
には,どのようなケースがありましたか.

かつては,現在ほどマニュアルによる管理が徹底されていなかったと伺っている
のですが,今のようなマニュアルを遵守する意識は,どのようにして高められた
と思いますか.
3.
発見事実の整理
本節では,調査課題に対して各種調査から得られた発見事実を整理する.整備士が MM
を現場で参照・遵守するようになった背後には,様々な仕掛けが存在していたが,大きく
わけて「整備実践の差異を統制する仕掛け(3.1)」と「整備実践の差異を吸収する仕掛け
(3.2)
」が存在していることがわかった.その詳細をまとめたものが,表 3-1 である.以
下では,この表に基づきながら発見事実を整理していく.最後に,この 2 つの仕掛けの副
次的な影響について,簡単に触れておく(3.3).
表 3-1
I.
発見事実のまとめ:本節の構成
整備実践の差異を統制する仕掛け(3.1)
1.
MM の特性(3.1.1)
(1) 精度の高さ
(2) 突発的な更新
2.
X 社の管理体制(3.1.2)
(1) 整備士資格制度
(2) ワークフロー
(3) MM の管理
(4) 職場の相互作用
①
研修
②
資格試験
①
プリントアウトルール
②
レ点ルール
③
作業指示書
④
航空日誌
①
ワークシート
②
更新内容のブラックボックス化
①
直接的影響
②
間接的影響
5
3.
機体の技術変化(3.1.3)
II. 整備実践の差異を吸収する仕掛け(3.2)
1.
サポート部署へのフィードバック(3.2.1)
2.
フィードバックの動機(3.2.2)
3.
MM の補強(3.2.3)
3.1
整備実践の差異を統制する仕掛け
3.1.1
MM の特性
整備実践の差異を統制する仕掛けとして,最初に,MM の特性が挙げられる.MM はメ
ーカーの技術資料に基づいて航空会社が作成するものだが,その「精度の高さ」
「突発的な
更新」という 2 つの特性が,差異化統制の一因になっている点が注目に値する.
(1)
精度の高さ
MM の精度は極めて高い.実際,伊丹空港の現場観察の際に MM を拝見する機会があ
ったが,各作業の作業手順が明確に記載されていたほか,作業における注意点,判断基準,
機器のパーツに関する内容などの情報も詳細に記載されていた2.
背景も理解した確実なチェックっていうのは経験がいるのですが,MM を見れば,
整備項目自体は 1 年目がやっても 20 年目がやっても同じようにやっていけると思う.
(B 氏:5 年
重整備(電気系統))
以前はライン〔運航整備〕の方にいましたが,一昨年からハンガー〔整備用の格納
庫〕で働くことになりまして,人生初のハンガーということで,作業がですね,以前
のラインとは全く違ってですね,もう必ず MM を見ないと分からないし,やれないと
いうことで,やっぱり自分のなかで MM っていうのは基本中の基本,それがないと仕
事にならないっていう感じですね.
(S 氏:20 年
〔
重整備(エンジン系統)
)
〕内引用者注,以下同様.
MM には詳細な作業手順が書かれており,整備士の独断を許さないほど完成度が高いも
のである.B 氏がコメントするとおり,たとえ 1 年目の若手整備士であっても,その手順
通り作業を進めれば,チェックすべき整備内容を達成することができる.もっとも,ベテ
ラン整備士と比べれば作業スピードは遅いだろうし,不具合事象が発生した際の対応まで
できるわけではないだろうが,若手整備士であっても,MM の手順通り作業を進めれば,
品質に違いが見られないほどの精度を誇っていることがわかる.また,S 氏は,経験年数
20 年以上のベテラン整備士だが,それまでは運航整備を担当しており,ハンガー内での重
整備担当に異動となった.運航整備と重整備の内容は異なるため,重整備に関しては新人
整備士といえるわけだが,MM を参照することで業務を遂行することが可能になっている
ことがわかる.つまり,MM の精度は,それを参照するだけで整備が行える水準にあり,
2
観察調査によるフィールドメモ(2012 年 6 月 9 日).
6
この精度の高さが MM に遵守した整備実践の確保に寄与しているといえる.
質問者:マニュアル通りに仕事ができますか?
A 氏:塗装のマニュアル自体は,構造整備と一緒で,何を塗りなさいっていうのは
書いてあるんですけど,そのやり方だったり,塗り方とかは書いてないんで
すよ.そこは先輩とか今まで経験してきた方々から学んだり,後はペイント
ならペイントのスタディガイドを.今までの色々なやり方が載ってたりする
ので,それで練習したりとか.現場で塗りながら覚えていくって感じです.
質問者:なるほど.例えば,入社 3 年目の A さんが塗るのと,入社 20 年目のベテラ
ンの先輩が塗るっていうのは少し違うんですか?
A 氏:塗る人によって違いますね.どのやり方が一番良いかっていうのは自分で決
める.
質問者:それは,色んな先輩がいてそれぞれ先輩によってやり方も違うと.
A 氏:根底には MM っていうのがあるんですけど.MM に記載されていない塗り方
などについては,自分なりのやり方を探していくって感じです.
(A 氏:3 年
機体塗装)
F 氏:ペイントは人に教わるといくより自分でやってみるしかないので,自分で手
を動かして体で覚えるしかない.
質問者:ベテラン社員はそれぞれやり方が違ってて?
F 氏:もう全然違う.先輩から色んなやり方を教わるんですけど,自分で良いもの
をチョイスしてやっていくしかないですね.
質問者:MM で手順をしっかりすれば良いとは思いませんか?
F 氏:手順はひとつなんです.ひとつなんですけど塗り方とか違ってて.言葉には
しにくいんですけど.
(F 氏:5 年
機体塗装)
一方,整備の種類・内容によっては,MM では詳細まで規定されていない業務もある.
上記の機体塗装がその一例である.塗装の場合,MM に一応の手順や工程は記載されてい
るが(むしろ,それはきわめて単純である),塗り方までが書かれているわけではない.そ
れゆえ,A 氏や F 氏のような若手整備士は,先輩にコツを教わる,スタディガイドを見る
などして,実際に自分で手を動かしながら自分なりのやり方や塗り方を習得していく.そ
の結果,同じ塗装であっても,人それぞれ独自のやり方を持つことになる.両氏が,人に
よって塗り方,やり方が全く異なることを指摘しているのは,このことを示唆する.つま
り,ここでいえることは,MM に詳細な記載がない作業については(塗装の場合,そうな
らざるを得ないのだろうが)
,そこから整備実践が差異化し,それが若手整備士への教育を
通じて固定化されていく可能性があるということである.
(2)
突発的な更新
精度の高い MM であるが,最初から完璧な精度を誇るものではなく,絶えず更新されて
7
いくという性質を持つ.そのプロセスは次のとおりである.例えば,新造機が導入された
場合,メーカーの技術情報に基づいて航空会社が MM を作成し,それをデータベース上に
アップロードする.整備士はオンライン上でこれにアクセスし,それに基づいて各種整備
を行う.万が一,整備を行うなかで MM の不備が発見された場合,不備を発見した航空会
社はその内容をメーカーに問い合わせる.メーカーがそれを承認すれば,変更内容がメー
カーの技術情報に反映され,
別の航空会社にも周知されるという流れである.したがって,
世界中の航空会社からいつ技術情報の不備が報告されないとも限らないため,航空会社は
メーカーの技術情報を常に確認する必要がある.
よくやる仕事とあまりやらないような仕事があって,よくやるような仕事の場合は,
さっと読んで変わってるところがないか,そのくらい確認してやるような感じですね.
あまり経験がない仕事だと,MM を読まないとわからないところも多いので,そこは
ちゃんと読みながら進めるようにしてます.
(H 氏:6 年
運航整備)
例えば,複雑なものまたは自分の経験していないもの,それに関してはマニュアル
を〔しっかり見る〕.でも,板張りとか,パネルを閉めるとかいうやつは MM にもあ
るんですけど,わざわざ見ない.時と場合によって使い分けてる感じ.若いときは全
部読んでましたけど.今となってはポイントを読んでいく.ただ,リバイスされてい
きますんで,変更して変わっていくんで,その確認はします.
(N 氏:25 年
重整備(電気系統)
)
よくある作業で,つい確認を怠ってて,でも MM が改訂されててミスをするという
のは自分にもありましたし,他の人でも聞いたことがあります.
(G 氏:7 年
重整備(構造整備)
)
作業のなかには,日常的に経験する作業とそうでない作業がある.経験の少ない作業に
取り組む場合は,事前に MM を確認するが,日常的に経験する作業の場合,MM を何度
も確認しているため,内容はすでに整備士の頭のなかに入っている.だからといって,経
験に依存し,MM を確認しないわけではない.MM は常に更新される可能性があるため,
たとえ N 氏のようなベテラン整備士であっても,MM を参照する作業は怠っていない.つ
まり,常に更新されていくという MM の特性が,整備士に MM を参照させる仕掛けの 1
つになっていることがわかる.実際,G 氏のコメントにもあるように,日常的に経験する
作業の場合,最新状態の MM を確認し忘れ,ミスにつながるというケースもないわけでは
なく,ミスを回避するためにも,整備士は常に MM を参照していると考えられる.
3.1.2
X 社の管理体制
整備実践の差異を統制する仕掛けは,X 社の管理体制の随所にも見られた.そこには管
理サイドが意図した仕掛けもあれば,そうでないものも含まれる.だが,結果として,MM
に従った整備実践を確保するメカニズムとして機能していることに変わりはない.以下で
は,
(1)整備士資格制度,
(2)ワークフロー,
(3)MM の管理,
(4)職場の相互作用とい
8
う 4 つの観点から整理していく.
(1)
①
整備士資格制度
研修
整備士資格制度のなかにビルトインされている MM を参照・遵守させる仕掛けの 1 つと
して,研修が挙げられる.そこでは,整備士に MM の重要性を認識させることで,MM の
規範性を高める取り組みが行われていた.
会社に入って,マニュアルは絶対守るべきものだっていう教育がありました.あと
は,二年あるいは一年に一回,品質保証の訓練がありますし,あとはパソコンとかで.
マニュアル通りの手順をしなかったら,こんな重大事象につながるんだという情報が
流れてくる。ヒューマンエラーもある.だから,マニュアルをしっかり見て守ってい
きましょうって.
(H 氏:6 年
運航整備)
X 社では,新入社員研修,品質保証訓練,e ラーニングといった様々な教育機会を利用
して,整備士に MM の重要性を認識させていた.H 氏のコメントを見る限りでは,管理サ
イドは整備士に対して「人間は必ずミスをする生き物であり,そのミスが重大事象につな
がる可能性がある」という危機感を植え付け,
「MM を参照することでミスを回避するこ
とができる」ことを認識させているように思われる.つまり,
「重大事象を起こしたくなけ
れば,必ず MM を参照・遵守するように」というメッセージを通じて,MM の規範性を
高めることで,整備士に MM を参照・遵守させているものと考えられる.
②
資格試験
整備士資格制度のなかにビルトインされているもう 1 つの仕掛けが,資格試験である.
MM の規範化は,意識づけという観点からは重要だが,MM に従った作業を行わせるため
には必ずしも十分ではなく,同時に,整備士に MM の内容を習熟させる必要がある.この
点 X 社では,MM の内容を資格試験の問題にリンクさせていた.
資格を取るときには,MM 通りに作業する手順を丸暗記に近いくらい頭に詰め込ま
ないと試験に受からないです.例えば,僕が 777 っていう機種の資格を取ったときは,
「エンジンの作業をするときの手順を言ってみてください」と聞かれました.昔は,
これはこういう仕組みでこうなってるんだっていうやつを突けば,試験に受かりまし
た.今は,それは知ってて当然で,「そのオペレーションでこれを作動させるときの
注意事項は MM にはこう書いてます」っていうのを答えないと合格しないです.ほぼ
MM 通りの知識が頭にないと.だから,作業するときも,MM 通りの作業をしますし,
ちょっと忘れたときも MM を見れば大体要点を思い出すので,そもそも資格を取る段
階で MM を覚えます.
(L 氏:20 年
運航整備)
整備士の資格には段階がありまして,M 整備士っていうのに必ずなって,次に M2
9
整備士になって M1 整備士になってという風にグレードがありますから,そのステッ
プアップするためには当然自分が勉強しないとなれません.そういう意味では勉強を
させる仕組みがあるっていうのはありますよね.また,整備士のランク付けは,当然
それは給料にも反映されて,上を目指すようなものになっている.
(M 氏:30 年以上
重整備(A 整備も兼務)
)
X 社の資格制度は「T(トレーニー)→M(監督の下,一人で整備が出来るレベル)→
M2(国家資格である一等航空整備士に準ずるレベル)→M1(MM およびその他マニュア
ルを熟知し,突発的な事象に対応できるレベル)」の 4 段階で構成される.M 氏のコメン
トにあるように,これが給与制度と関連しているため,整備士にとっては昇給も資格取得
の動機づけの 1 つとなる.当然,資格取得のためには試験に合格する必要があるが,その
ためには,MM を熟知しなければならない.つまり,資格取得と昇給というインセンティ
ブを働かせつつ,MM の内容を熟知させることで,知識の身体化を図っているのである.
もっとも,L 氏のコメントにもあるように,かつては MM の中身を問う丸暗記で済むよう
な試験問題が多かった.しかし,現在では,MM を知った上でそれをどう使うか,という
実践に即した試験問題を出すことによって,知識の身体化を図っている.MM を試験問題
に埋め込むことで,MM の知識を習得させ,MM に従った整備実践を確保していると考え
られる3.
(2)
①
ワークフロー
プリントアウトルール
整備士に MM を参照・遵守させる仕掛けは,ワークフローの至るところにもビルトイン
されていた.その 1 つが「プリントアウトルール」である.
作業前には必ず,タスク毎にマニュアルを印刷して持って行きます.例えば,何か
の交換とかになると,オペレーションチェックをします.そういう場合,マニュアル
は覚えてるんですけど,やっぱ抜けてしまうところがあって.絶対あるんですよ.何
回も同じ作業やってるんですけど,変わったりするんで.必ずマニュアルを見ながら,
オペレーションチェックも 1 つ 1 つ確認してやってます.
(B 氏:5 年
重整備(電気系統))
私も〔経験年数が〕20 年を超えましたので,ある程度っていうんじゃないですけ
ど,だいたいモノを変えるときはこんな手順でやるっていうのは,今までマニュアル
3
以下,Q 氏がコメントするように,ボーイング社の機体について,より基本的な作業内容を記載した
マニュアルとして,MM とは別に「BSOPM」が存在する.この内容は,資格試験ではなく入社時の教育
訓練とリンクさせて,知識の身体化を図っているようである.
ボーイングの機体に関して『BSOPM』っていうマニュアルが存在するんです.スタンダー
ドな基本作業のことが書いてあるんで普段見ないんですけれど,そういうのに関しては,一
番会社に入ってすぐの頃に訓練は受けている,あるいは一等航空整備士になるための訓練の
なかで基本技術のところで学ぶようなかたちでほとんど身についてしまう.あまり参照する
ことはない,っていうような感じになってますね.
(Q 氏:30 年以上 重整備(電装客室整備)
)
10
を何回も読んでますので,それを思い出しながらやることもできるんですけれど,今
は必ず MM を刷って行くんですね.手順書をパソコンから刷って持てって,パーツを
交換するときに,パーツ・ナンバーと現物が合ってるとかっていうのを,マニュアル
を引いていくっていうことで.・・(中略)・・持って行くのはルールですね.今はも
う決まっているので.最新のものを仕事の前に.
(R 氏:25 年
運航整備)
何か仕事があります.MM は絶対持っていきます.手元に無かったらオーダーしま
す.人に頼んで持ってこいと.知ってるとこは見なくてもできるんですけど,確認は
します.飛行機を遅らせてでも確認するべきところはしなきゃいけない.人の命を預
かっているというのも重々わかっていることなんで.そこは日々の仕事のなかで,重
きをおいてやっていますね.だから,自分の感情よりもマニュアルが先だと.
(J 氏:20 年
運航整備)
入った当時から見てますけど,昔はやっぱり職人的なものがあって,〔MM は〕暗
記するもんだみたいなのがあったんですけど,途中からちゃんと MM を準備してって
いうのが当たり前になって,今は現場で MM を見るのがおかしいっていうのがないで
すね.見るべきもんだっていうのが当たり前に.
(P 氏:23 年
重整備(エンジン系統))
X 社では,作業前に最新の MM をオンラインからプリントアウトして現場に持参しなけ
ればならないことが,ルールによって定められている.とはいえ,B 氏,R 氏,J 氏のコ
メントにあるように,MM の知識は改めて確認するまでもないほど,日々の作業を通じて
習得されており,ましてや資格試験の勉強でも身体化されている.それゆえ,作業前に
MM を確認しなければ作業ができないというわけではない.実際,P 氏のコメントにある
ように,かつてはこのルールが存在せず,MM の知識は頭で覚えておくもので,何度も実
施している作業の MM については,必要な場合のみプリントアウトするという認識があっ
たようである.だが,先述したように,MM はいつ更新されるかわからないという特性を
持つ.それゆえ,整備士がそれまでの経験を頼りに覚えた知識で対応しようとすると,最
新状態の MM と齟齬をきたす可能性や思い違いを引き起こす可能性があり,ひいては不具
合につながる可能性もある.この状況を回避させるのがプリントアウトルールである.こ
のルールによって,若手整備士であろうがベテラン整備士であろうが,整備士に最新状態
の MM を確認させているものと考えられる.
②
レ点ルール
さらに,プリントアウトルールを補完するルールとして存在するのが「レ点ルール」で
ある.
確実に MM 見て,1 つ 1 つ項目見て,
レ点を押しなさいってことにはなってるんで.
そういう抜けはあり得ないはずなんで.後はちゃんと決められたことをやってるかど
うかですね.・・(中略)・・まず不具合が起こったら,要因を分析して対策を立案し
11
ます.かつて,マニュアルを見ながら手順を抜かしてしまったエラーを起こした際の
対策として,うちらはレ点をつけましょうっていうことになってるんで,まあその通
りやってます.
(D 氏:8 年
運航整備)
モノを交換する仕事っていうのは,新しい新品のものを持ってきて付いてたように
つければ,MM なんてなくたってできるんですね.ただ,前にそれをやってしまった
ときに,エラーを起こしてしまいました.ワッシャーが 1 つ古い部品についてて,部
品交換時にワッシャーも新品に付け替える仕事が本来あったんですけど,それが抜け
ちゃって.それは新品と古い部品を見比べれば本来は気づく.もし気づかなかったと
しても,MM を見ればわかったはず.その時も当然 MM を持ってたんですよ.持って
たんですけど,ひとつひとつ項目を読むわけじゃなくて,わからないことがあったら
MM を見ようっていうスタンスでやってたんで,当時はですけど.そのスタンスでや
っちゃうと,そのことを気づかなかったら,そのままいっちゃいますよね.それで,
例えばトルクをかけるときに,そのトルクの値ですとか,アジャストする時の長さと
か,そういうものは当然見るんですけど,一個一個見てチェックしてこうっていう意
識は,当時はなかったので,そのワッシャーがちょっと抜けちゃったんですよね.見
るとやっぱり書いてあるんですよ.インストールの前のところでトランス回しなさい
よって.それはちょっといい薬になったなと.
(C 氏:11 年
重整備)
レ点ルールとは,MM 記載の作業手順を 1 つ 1 つチェックしながら(その名のとおり,
レ点をつけながら)
,作業を進めなければならないというものである.というのも,プリン
トアウトルールに従って最新の MM を現場に持って行ったとしても,そこで MM が参照
されるとは限らない.極端な言い方をすれば,このルールが形骸化して,MM を持参した
としても確認しないという状況が生じる可能性がある.事実,C 氏は,MM を現場に持参
していたにもかかわらず,1つ1つ項目をチェックしなかったために,ミスをしてしまっ
たと振り返っている.これは,本人も自覚しているとおり,MM を確認していれば防げた
ものである.
それゆえ,
プリントアウトルールを補完する形でレ点ルールを定めることで,
常に最新状態の MM に従った整備実践を確保しているものと考えられる.
③
作業指示書
一方,整備の種類・状況によっては,作業が必ずしも一人で行われるとは限らず,共同
作業あるいは申し送りをしなければならない場面がある.その場合にも,MM を説明ツー
ルとして利用させることで,整備士に最新状態の MM を参照させていた.
あと仕事を複数でやるときっていうのは結構,意思疎通っていうのがなかなかうま
くいかないとき.多分あの人がやってくれたろうって,同じマニュアル見てるんです
けど,やってくれてるはずだと思ったりとか.あと,どうしても長い作業によっては,
次のシフトへの申し送りとかあるじゃないですか.そういうときにもちゃんとしっか
りしてないと忘れちゃうんですかね.1 人の人が最初から最後までやっていけるのが
12
一番良いと思うんですけど,途中色んな人が入って来たりしちゃうと,やっぱりその
ミスにつながるのかなとは思います.
(R 氏:25 年
運航整備)
〔構造整備では〕モノを製作後にその後の組立てお願いしますという状況がかなり
多いので,そういうときにこういう基準でこういう寸法でやったので,この後こうい
う工程お願いしますよと説明するための基準として,マニュアルを使っています.
(G 氏:7 年
重整備(構造整備)
)
シフト組んでて,前のシフトの人の申し送りとかで,パーツ用意したから後は取り
付けてくれっていう時とかに,そのまま信じて穴開けたりして.結果的にパーツが違
ったっていうのは過去にはありました.それは,マニュアルを自分が見てれば防げた
と思います.・・(中略)・・〔今は〕作業指示書っていうのを書くんですけど,昔は
MM のページとか何番とか書かなくて良かったんですよ.それなんで,作る人も作業
する人も確認する行為が少なかったんですけど,書かなきゃダメってことになって.
そこからですかね.作る人も確認するし,作業やる人も作業前に確認するような風習
になったというか.
(C 氏:11 年
重整備)
R 氏が指摘するように,作業上のミスが発生する顕著な例の1つが,共同作業や他人へ
作業を引き継ぐ場面である.整備の種類・内容,職場によって変わるが,共同作業の場合,
数名で構成されたチーム単位で作業を進める.チームには作業長が存在し,作業長がタス
クカードを整備士に分担して,整備士はタスクごとに作業を進める.また,業務がそこで
完結するとは限らず,交替制のなかで引き継がれていくこともある.それゆえ,チーム内
あるいはチーム間で,作業内容や注意事項の伝達がうまくいかなければ,そこでミスが生
じる可能性がある.実際,C 氏は,過去に曖昧な引継ぎ指示のもとで作業を行い,ヒヤリ
ハット事象を経験している.これを防ぐために,現在では,共同作業や引継ぎの際の説明
根拠として MM が活用され,具体的には,
「作業指示書(別称,レギュラーシート)」と呼
ばれるものが使われている.そこでは,整備士は自分が行った作業内容の説明,あるいは
他人への作業指示の根拠として,MM のページ数やナンバーを具体的に記載しなければな
らない.それゆえ,この作業指示書には,指示を出す側も受ける側も最新状態の MM を確
認するプロセスがビルトインされている.作業指示者が MM のページ数やナンバーを記載
するためには,MM が更新されている可能性があるため,記憶に頼ることなく,常に最新
の MM を確認する必要がある.受け手も同様に,作業指示書には MM のページ数やナン
バーが記載されているだけで,その内容までは書かれていないため,常に自分で最新状態
の MM を確認する必要がある.したがって,結果として,指示を出す側と受ける側が同じ
MM の項目を参照していることになり,伝達ミスによるエラーを未然に防ぐことが可能に
なっているのである.
13
④
航空日誌
また,作業を 1 人で進めるか共同作業で進めるかにかかわらず,整備士は,自分の作業
が終了次第,作業確認書ともいえる整備記録に,整備項目ごとに参照した MM のナンバー
を記入せねばならず,これまで述べてきた仕組みと同様,これも整備士に最新状態の MM
を確認させる仕掛けの 1 つとなっている.
日々航空機が運航する際には,運航の記録としてログブックっていうのがありまし
て.整備でいえばログブックには何か整備作業がありまして,何に基づいてやりまし
たよっていうのは必ず書かないといけない決まりになってるんで.
(D 氏:8 年
運航整備)
仕事をマニュアル通りにやりましたっていうのを,フライトログっていって,航空
日誌なんですけれども,それに書いてようやく飛ばせると.仕事として体は動けるの
ですけれど,それを確認したのかということになると,MM のマニュアルナンバーを
含めて書きますので,そのナンバーまで覚えているかというとそれは覚えてないです
し,覚えてたとしてもやはり確認のために.特に,〔運航整備という〕時間との勝負
の職場におりますが,根拠とか基準とかがないと飛ばせられないですね.
(K 氏:25 年
運航整備)
航空法では,飛行機の状態や飛行履歴等を記録するために,
「航空日誌(フライトログ
/ログブック)」と呼ばれる書類を作成し,資格を有した整備士,機長が署名のうえ,飛行
機に搭載することが義務付けられている.D 氏や K 氏が担当する運航整備は,出発前の非
常に短い時間で行われるため,作業スピードが重視される.作業の遅れはフライトの遅延
につながり,乗客に迷惑をかけるためである.しかしだからといって,経験を頼りにした
整備が行われるわけではない.経験への依存は作業の抜け漏れを招き,安全性に支障をき
たしかねない.これを防ぐために役立っているのが,航空日誌に実施した整備作業を記録
する際に,マニュアルナンバーを記載するというルールである.K 氏のコメントにあるよ
うに,整備作業が発生した場合,法律上航空日誌への整備作業の記入がなければ,飛行機
を出発させることができない.航空日誌には,自分や行った作業内容が MM のどの項目に
基づいているかを示すために,MM のナンバーを記入する必要がある.そこで自分の記憶
を頼りにナンバーを記入するのでは,最新状態の MM との齟齬が生じる場合がある.した
がって,整備士は常に最新状態の MM を確認し,航空日誌に記録を残す必要がある.
さらに,ここで特筆すべきは,航空日誌が最新の MM を確認させる仕組みとして機能す
るほか,別の機能を果たしているという点である.その 1 つが,航空日誌がエラー発生時
に説明責任を果たす役割も担っている点である.
以前,自分がやった作業で問題が起こって,その後すぐに言われたのが,MM は見
たのか?その通りにやったのか?ということだったんですよね.自分は MM 通りにや
ってたんで,その通りやってましたと言えたんですけど,もしそこで見てなくて自分
の感覚でやってたら,自分の責任になるので.
(H 氏:6 年
14
運航整備)
急いでるときにミスしますね.本当は安全処置,サーキット・ブレーカーを抜くの
を抜かないでやっちゃたりとか.航空日誌に作業記録を残しておけば,あとからでも
ちゃんとこうやってたんですと説明できますから.
(L 氏:20 年
運航整備)
両氏のコメントからもわかるように,航空日誌に MM のナンバーを記入するのは,単に
記入欄があるからという理由だけでなく,万が一の際に,自分が行った作業に対する説明
根拠にもなるためだともいえる.つまり,整備士にとっては,航空日誌が実施した作業に
関する説明責任を果たす役割を担っていると考えられる.
質問者:なぜ,MM を守る重要性を強く意識するようになったと思いますか?
S 氏:〔一年前まで運航整備を担当していたが〕ログブックに自分のサインを書く
んですけど,〔資格を取って〕一番最初にサインをするときは,自分の責任
で自分の名前がそこにあるわけですから,お客さんの命を全部自分で預かっ
てるのかなっていうのがあるんで,これはちゃんと規則やらそういうものを
ちゃんと守らなきゃいけないなっていうのは生まれましたね.
R 氏:私もライン確認主任者になって,サインするようになってからだと思います.
というのも,〔航空日誌へのサインを経て〕飛行機飛ばすじゃないですか?
そういうときにプレッシャーじゃないですけれど,ちゃんとしたのをちゃん
と出さないと,飛行機って人間と違って我慢とかってできないじゃないです
か.機械ですから,我慢して壊れたりしますんで.・・
(中略)・・マニュア
ル通りやってるんですよ.だけどちゃんと飛んだかなっていうみんなそうい
う緊張感っていうですかね,そういうのがあるから,必ず MM とか見るんじ
ゃないかなと思いますけどね.
(S 氏:20 年
重整備(エンジン系統))
(R 氏:25 年
運航整備)
もう 1 つの機能は,航空日誌が整備士の安全に対する責任感を醸成している点である.
航空日誌には,作業内容の根拠となる MM のナンバーを記入する欄だけでなく,自分の名
前を手書きでサイン(署名)する欄がある.繰り返しになるが,航空日誌への記入,署名
がなければ,飛行機は出発することができない.したがって,整備士にとって自分のサイ
ンは,単に作業終了の印を意味するだけでなく,フライトの安全性を保証する印をも意味
することになる.当然ながら,そこには大変な緊張感が伴い,S 氏のコメントにもあるよ
うに,乗客の命を背負うという意識も生まれてくる.ゆえに,最新状態の MM を確認する
という行為は,それが説明責任を果たすという理由だけでなく,安全に対する責任感に裏
打ちされたものでもある.このように,航空日誌は,一方では,最新の MM を整備士に確
認させるプロセスをビルトインされたものではありながらも,他方では,万が一の際の説
明責任を果たす,整備士の安全に対する責任感を醸成する役割も持っているのである.
15
(3)
①
MM の管理
ワークシート
整備士に MM を参照・遵守させる仕掛けは,上述の整備士資格制度やワークフローに留
まらず,MM の管理方法のなかにも見られる.その1つが,MM の利便性を高める「ワー
クシート」の存在である.
エンジン交換の MM は,50,60 枚ありますよね.はっきり言ってエンジン交換っ
てもう同じことの繰り返しなので,毎回毎回同じことなので,みなさん頭に入ってて,
それこそ試験でもここ外してこうやってってやれるようなとこなので,そういうとこ
ろはデメリットですかね.まあそれこそ,今は部品交換したら読んだのを確認って,
チョン,チョンっていう〔レ点をつける〕作業をしなきゃいけないっていうので,時
間がかかるというか.・・(中略)
・・
〔そこで〕MM だけじゃなくて,ワークシートと
いって,作業している機体にかかわる MM を抜粋したやつがあります.そのワークシ
ート自体も MM から作るから,例えば,タイヤ交換なんかの場合,ログに“main no.3
tire replaced/work sheet”っていう風に書けます.
(L 氏:20 年
運航整備)
MM は航空会社が作成してデータベース上で管理されており,オンライン上でこれにア
クセスすることができるため,整備士にとっては,それだけで利便性が高いものとなって
いる.だが,精度が高いために情報量が多く,さまざまな飛行機の仕様が網羅的に記載さ
れているため,
整備士にとっては確認の時間的負担が大きいという問題もある.ましてや,
レ点ルールを励行するとなればなおさらである.ともすれば,項目のナンバーだけを参照
して肝心の中身を見ないという本末転倒な事態を招きかねない.そこで X 社では,
「ワー
クシート」と呼ばれるマニュアルを独自に作成している.L 氏が指摘するエンジン交換の
ように,MM のなかには,整備に臨む飛行機以外の仕様も含まれている.これは,整備士
にとっては確認の負担を増やす要因でもある.ワークシートは,作業する飛行機に適用の
ない部分を省いた,いわばメリハリをつけた MM ともいえる.とはいえ,MM から作成
されているため,これまで述べてきた各種手続き(作業指示書や航空日誌など)において
ワークシートを利用することも可能である.つまり,ワークシートを通じて MM の利便性
をさらに向上させることで,MM(あるいは,ワークシート)の参照率を高めているもの
と考えられる.
②
更新内容のブラックボックス化
MM の管理において見られる,MM の参照・遵守率を高める仕掛けのもう 1 つが,更新
内容のブラックボックス化である.
質問者:MM の改訂頻度はどのくらいですか?
G 氏:変わってるとは思うんですけど,変わりましたってインフォメーションは基
本的にないので,どのくらいの頻度というのは,正直わからないです.
(G 氏:7 年
16
重整備(構造整備))
前述したように,MM の内容は絶えず更新される可能性があり,また,更新がいつ生じ
るかもわからない.この特性だけで,整備士に常に最新状態の MM を確認させる仕掛けと
して十分に機能しているが,さらに,一部の職場では,MM の更新内容に関するインフォ
メーションをあえて流さず,更新内容をブラックボックス化するという取り組みが行われ
ていた.逆説的だが,MM に従った整備実践を確保するという目的からすれば,更新内容
を担当整備士にアナウンスする方が合理的なように思われる.しかし,G 氏のコメントに
あるように,更新情報は流れていない.思うに,更新情報をアナウンスしてしまうと,整
備士が主体的に MM を確認しなくなる可能性がある.そうなると,万が一にも更新情報が
流れなかった場合,変更事項があるにも関わらず,古い知識のまま作業を進めてしまうこ
とになる.そのため,あえて更新内容をブラックボックス化することで,整備士に対して,
MM が更新されているかもしれないという緊張感を与え,自分の目で最新状態の MM を
確認させているものと思われる.
(4)
職場の相互作用
X 社の管理体制で最後に挙げられるのが,職場からの影響である.これは必ずしも X 社
の意図的なデザインであるとは限らないが,職場内での相互作用が差異化統制の一因にな
っている点が注目に値する.
①
直接的影響
最初に,他者からの直接的な影響,すなわち,先輩や後輩を含む同僚との直接的な相互
作用が,MM の参照・遵守率を高めている(可能性がある)例である.
I 氏:入社して 2,3 年で,基本的には仕事を覚える段階だったので,
〔MM は〕必
ず〔現場に〕持っていくようにしていました.時間かかっても良いから見な
がらちゃんとやれと指導されていたので,必ず見るようにはしていました.
質問者:それはどなたからの指導ですか?
I 氏:先輩です.
質問者:時間を気にせずマニュアルを守るんだというのを先輩から教えられたと?
I 氏:そうですね.職場がそういう指導というか雰囲気というか.
(I 氏:7 年
重整備(計画))
質問者:若い子に仕事を教えるときって OJT になりますよね?そのときは,マニュ
アルに従って仕事を進めていきながら教えるっていう形ですか?
P 氏:逆に若いモンから P さんそんなの書いてないですよって言われますよ.そう
だったかねなんて言って.ダメじゃないですかって,逆に指摘されたり.経
験がこっちは邪魔になっちゃったりとかね.
R 氏:自分なんかはやっぱり窮屈なとこありますけど,ただ,今の若い子たちはマ
ニュアルを見るっていうのが習慣づいているんですよ.で,これから会社を
担っていく若い子たちってそれで多分やっていけるんですよ.だから,その
子たちはこれからすんなりやっていけるんじゃないかなと思いますけど.
17
(P 氏:23 年
重整備(エンジン系統))
(R 氏:25 年
運航整備)
〔調査当時,たまたま職場にベテラン整備士が少なかったこと言及して〕ベテラン
の方が少ないので,経験の浅い自分たちは何に頼るかっていうとマニュアルに頼らな
いと.
(C 氏:11 年
重整備)
I 氏は先輩,P 氏は後輩との相互作用から,それぞれ影響を受けている例である.I 氏は,
職場の先輩から MM を現場に持参すること,MM の手順に従って作業を進めるよう指導
を受けていたようである.入社後 2,3 年の時期は,仕事の習慣を作る意味でも重要な時
期である.ゆえに,この時期に先輩からこのような指導を受けることは,MM に従った整
備実践を確保するという目的からすれば好ましい影響といえる.
だが,先輩から後輩への影響は良くも悪くも常識的に考えられることであり,驚くべき
ことではない.ここで特筆すべきは,後輩から MM に従った整備をするよう指摘を受けた
P 氏の例である.P 氏のようなベテラン整備士の場合,日頃は MM に従った整備を行って
いても,時として,自分の経験を頼りに作業を進めてしまう可能性がある.この発言の背
後には,そういった場面が想定されており,P 氏が「経験が邪魔になる」と表現している
のはまさにこのことを示す.逆に,C 氏のコメントにも見られるように,経験の浅い若手
整備士の方が,経験に頼ることができないゆえに,MM を確実に参照・遵守すると考えら
れる.一般的に,職場では先輩から後輩へ(上から下へ)の影響が強いと思われがちだが,
この例からわかるのは,下からの影響で先輩が「襟を正す」こともあるという点である.
②
間接的影響
次に,他者との相互作用を介さない間接的な影響の例である.ここでのキーワードは,
「他者からの視線」である.直接,他者から何かを言われたわけでもないが,他者から見
られているという意識が MM の参照・遵守率を高めている(可能性がある)例である.
質問者:〔MM 重視の管理に〕ガラっとやり方が変わって,最終的にはみんな変わっ
ていった.そのポイントとかってあると思いますか?
C 氏:結局,整備士が 1 人 1 人を知ってるんで,何かあった時,結局自分に帰って
きちゃうので.それだと思います.
(C 氏:11 年
重整備)
ここで注目すべきは,C 氏が他者からの視線を感じて,自分の身を律した(セルフ・コ
ントロールした)行動をとっていた点である.つまり,職場の他者が自分を知っていると
いう感覚,いわば職場の顕名性(非匿名性)が,C 氏をそのような行動に向かわせている
ことが伺える.職場のメンバーに素性を知られている.仕事のパフォーマンスが他者から
見られている(共同作業や引継ぎを行う場合はなおさらだろう).このような他者から見ら
れているという感覚が,MM に従った整備を行わせていると考えることができる.
18
3.1.3
機体の技術変化
最後に,機体自体の技術的な変化が挙げられる.これも X 社の取り組みではないが,機
体に用いられる技術,とりわけ電子制御技術の進展が,MM に従った整備実践を促してい
る点が注目に値する.
昔はうちも職人肌でしたけどね.今はだんだん飛行機もコンピュータでこう,自分
達で考えられないような,想像はできるけど実際にはソフトで組んでるから分からな
いっていう次元もありますけどね.
(N 氏:25 年
重整備(電気系統))
747-400〔通称,ダッシュ 400〕っていう飛行機が入ってきたときに,マニュアル
通りのプロセスをとらないと絶対ダメな飛行機なんだって,すごく感じたんですね.
というのは,在来の 747 ってのは,1 つのスイッチがあって,行った先にシステムが
あって,1 つの表示灯か何かメーターがあるっていうシステムで,すべて 1 対 1 でほ
ぼ対比なんです.ところが,ダッシュ 400 になったときにですね,途中でコンピュー
タが介在して物を動かすっていうのが入ってきたんですけど,この機体は,在来のク
ラシックのジャンボジェットをベースにしていて,操作が正しくないと,想定してた
のと違う動作をするっていうのがあり得る機体なんですよ.だから,最終的にどっか
のサーキット・ブレーカーをオフにするっていうプロセスなんですけども,最初から
オフにしてるとうまくいかない.オフにしろっていうタイミングで抜かなきゃダメだ
っていう部分を持っています.今の 777 とか新しい飛行機ってのは,コンピュータ回
線を接続させたときに,表示のところに間違えてるって機械側がちゃんと返してくれ
る.ところが,400 はそういう機体じゃなかったんですね.そこをすごく気を付けな
いといけないっていうのを意識した機体でした.書いた手順まできっちり守んなきゃ
マズイって思った機体はあの時が初めてでした.
(Q 氏:30 年以上
重整備(電装客室整備))
僕もやっぱり同じで,最近の飛行機ってだいぶ複雑になってて,MM の手順を守っ
ていかないと何か壊したりとか人を怪我させたりとか,勝手になんか動いちゃったり
とか.そういうので,どうしても最近の飛行機は〔MM を〕見ないとちょっと怖いで
すよね.一緒にやってる仲間も怪我させたりしちゃう可能性もありますからね.
(R 氏:25 年
運航整備)
電子制御技術が機体を高度に複雑化していることも,整備士が MM を参照・遵守するよ
うになった一因である.ベテラン整備士が口を揃えて言うのは,今の機体は,自分の腕に
頼って操作すると,機体がどのように作動するか見当がつかないという点である.昔の機
体であれば,どの部分を触ればどこが動くか,つまり機体の内部構造を把握することがで
きた.それゆえ,自分の経験や知識をもとに,推測を交えながら整備にあたることができ
た.だが,今の機体に対してそのやり方は通用しない.電子制御技術が組み込まれている
ため,手順に従って操作しないと機体が予期せぬ作動をする可能性がある.S 氏がコメン
トするように,憶測に基づいて操作をすれば,機体損傷や事故のリスクなど,思わぬ事象
19
につながる可能性がある.したがって,MM の手順通りに整備を行うのが最も安全であり,
それに従わざるを得ない.要するに,前述した MM の更新内容のブラックスボックス化と
同様,機体がブラックボックス化されているがゆえに,整備士は MM に従った整備を行わ
ざるを得ないと考えられる.
3.2
整備実践の差異を吸収する仕掛け
これまで検討してきたように,X 社では,整備士に MM を参照・遵守させるため,様々
な取り組みを行っていた.当然ながら,そこには管理サイドが意図しない結果も含まれて
いるだろうが,ある程度は意図的なデザインが含まれていると考えられる.その営為を端
的に表現すれば,MM へと誘導する「仕掛け」あるいは「ルーティンのデザイン」であっ
たということができる.
だが,ここで注意すべきは,精度が高い MM が存在し,そこへの誘導が強化されたとし
ても,それだけで整備実践の差異が完全に統制されるわけではないということである.い
くら精度の高い MM であっても完璧ではない.メーカーの技術資料に基づいて作成するゆ
え,ローカルの現場の状況がすべて反映されているわけではない.だからこそ,各航空会
社からの報告により,更新されていくという性質を持つのである.したがって,ここで重
要なのは,整備実践の差異化を防ぐべく MM への誘導を強化すればするほど,MM から
の差異が発見されるというジレンマが生じるという点である.MM を参照・遵守するとい
うことは,それだけ作業基準が明確になることを意味する.だが,基準が明確になればな
るほど,実際の作業とのギャップも明確になる.だからといって,これまで見てきた差異
を統制する仕掛けが必要ないと言いたいわけではない.むしろ,極めて重要な仕掛けであ
る.だが,それだけでは片手落ちになってしまう可能性があり,以下に見ていく,整備実
践の差異を吸収する仕掛けが必要となってくる.
3.2.1
サポート部署へのフィードバック
X 社では,日常の整備業務において,MM を含むルーティンでは対処できない特異な事
象や MM 自体の誤りが発見された場合,サポート部署にフィードバックするというルール
が存在していた.
飛行機の型式によっても,システムが同じでもモノによってはつき方とかチョイス
の仕方とか全然変わってきますんで,本当にマニュアルは必ず引くような形になって
ます.ただ,どうしてもマニュアルに出ていないアイテムですとか,マニュアル通り
だとうまくいかない場合っていうのは,会社の仕組みがちゃんとできてというか,ち
ゃんと技術部に回答いただいて,っていうプロセスを通って,基準っていうものを確
認して作業するようにはしています.
(O 氏:20 年
重整備(エンジン系統)
)
〔MM に〕載ってなければ,整備とは別に技術部っていうのがあるんで,そこに確
認してもらうっていう作業もあります.構造的なことは結構マニュアルに載ってない
ので,頻度的には仕事の半分くらいで結構あります.こんな損傷があったんだけど,
20
これをどう直したらいいんだ?っていうのを問い合わせる.
(C 氏:11 年
重整備)
例えば,飛行機の内装を改装するという改修作業があるんですけど,そういうのに
なると,実際マニュアルってのがなくて,技術部のエンジニアが書いた技術指示書を
持ってきてやるんですけど.その場合,書いてる側と実際に仕事してる側で違いが必
ず生まれてくるので.そこは技術の人と現場の人が話合って,こういうとこがダメだ
ったっていうフォローアップを書いて,技術部に OK を貰って.現場でダメなとこは
必ず書いて,解答をもらってからやり直したり,ここはこうした方が良いっていうの
は結構よくあります.
(B 氏:5 年
重整備(電気系統))
運航整備なので MM を持って作業するんですけど,どうしてもニュアンス的にちょ
っと分かりづらい表現とかってあるんですよ.自分が読んで理解した通りにやってい
くとうまくいかないっていうときにはどうするかっていうと,ボード・コントローラ
ー〔=作業調整者〕に連絡したりとか,後ろにサポートチームがありますので,そう
いう人たちに一応連絡してですね,これこうなんでうまくいかないんですけどってい
うと,そちらの方である程度処理してくださって,じゃあこういうやり方っていうか,
こうやったらどうっていってアドバイスが頂けるので,現場にいる人間としては,分
からなかったら一応聞いてみんなで考えようっていうスタンスだと思ってます.
(R 氏:25 年
運航整備)
T 氏:私の業務は何かと言いますと,運航整備におけるライン業務のサポートです
ね.技術支援のセクションです.何かトラブルがといった場合の復旧作業で
すね.何をどうすれば直る,そのために必要な部品は何だ,その根拠となる
技術的資料は何だっていうものを揃えて,現場の作業者に提供するっていう
仕事をやっています.タイミングよく適切な技術資料を提供すると.それを
もとに作業者は,信頼してやってくださるでしょうから,間違ったものは提
供しないように心がけております.部品について以前,この機体に付けては
ならないものを搭載したとかというのは何度かありまして,特に今は準備す
る側としても注意を払って,場合によっては隣のデスクの人とこれってこれ
でいいんだよねって確認しながら提供してます.
質問者:技術基準っていうのは,MM の他にどういったものがあるんですか?
T 氏:FIM〔=フォールト・アイソレーション・マニュアル〕っていうのがあるん
ですけど,故障〔フォールト〕が起きると,考えられる原因を 1 つ 1 つつぶ
していくという順を追って,不具合を見つけます.メーカーさんが提供して
くれるマニュアルなんですけども,これが悪いかもしれない,これが悪いか
もしれないっていうようなのはありますね.あとは配線図ですね.WDM〔=
ワイヤリング・ダイアグラム・マニュアル〕とか,システム・スケマティッ
ク・マニュアルとか,図面集ですね.そういったものから紐解いていって,
じゃあ部品持ってるかとか,パーツなんかを紐解いていくのが IPC〔=イラ
21
ストレーッテド・パーツ・カタログ〕とかですね.あとは弊社の電算端末か
ら在庫あるね,在庫無いねっとかっていうのを判断して,情報とモノを提供
します.
(T 氏:24 年
運航整備)
O 氏,C 氏,B 氏が担当する重整備では,MM の手順で対応できない事象に遭遇した場
合,サポート部署である技術部にコンタクトを取る.C 氏がコメントするように,重整備
のなかには MM では対応できない事象も多く,その都度技術部に不具合をフィードバック
して,技術部からの回答を技術基準として作業を進めている.あるいは,B 氏がコメント
するように,改修作業のように MM がない場合は,技術部が MM に代わる技術基準とし
て作業指示書を作成し,現場はそれに基づきながら作業を進める.作業指示書に不備があ
れば,その内容が技術部にフィードバックされる.また,R 氏が担当する運航整備では,
主として運航整備部にコンタクトを取る.だが,運航整備部からの回答を技術基準として
作業を進めている点では,重整備と共通する.つまり,現場で MM ではカバーされない事
象が発見された場合,すぐにサポート部署へ問いあわせて,指示を仰ぐというやり方が徹
底されていることがわかる.一方,フィードバックを受けたサポート部署では,他の技術
資料(配線図や図面集など),必要な部品およびその在庫などを確認しながら技術検討が行
われ,その結果をもって現場に作業指示を出していることが T 氏の話から伺える.
MR〔メンテナンス・レポート〕っていう書式と,IR〔=インスペクターズ・レポ
ート〕っていう 2 つがあるんです.ここの MM のパーツ番号間違ってたぞ,とかです
ね,そういうのは MR で上がってくる.IR ってのは日常検査業務のなかで,特異な
事象に遭遇した場合,例えば普段ここって壊れてないのに今回壊れてたよねとか.そ
ういうファースト・ケースと思われるようなものとか,珍しい,これって滅多に起こ
らないよね,っていうのが発見されたような場合に,IR っていうのを上げる制度があ
るんです.
(Q 氏:30 年以上
重整備(電装客室整備)
)
〔重整備は〕運航整備より技術部と現場が同じ建物なので近いのもあって,すぐに
呼んでそのままアクションとるというのがあるので,人を呼んで改善させちゃうとい
うのができる.だから,紙〔=MR〕は少ないかもしれないです.電話一本で来てっ
て言えば来ますので.
(I 氏:7 年
重整備(計画)
)
作業指示書の裏にアンケートがついてるんですよ.そこに指示書の不具合があれば
書けるようにしてはあるんで.あと,作業指示書にも一応コメント欄がついてるんで.
そこにもし不具合があれば書けるような仕組みにはしてます.
(C 氏:11 年
重整備)
フィードバックの方法は様々である.Q 氏のコメントを見る限りでは,公的には,少な
22
くとも「MR」と「IR」という 2 つの書式(紙媒体)が存在することがわかる4.MR とは,
MM の内容不備を報告するものである.IR とは,これまでに経験したことのないような
特異な事象に遭遇した場合に,詳細をフィードバックするためのツールである.それ以外
にも,共同作業や引継ぎの際に利用される作業指示書をフィードバックのツールとして使
うこともできる.さらに,インタビューを行った羽田空港の重整備の場合,作業を行うハ
ンガー(工場)と技術部がある建物が一緒で物理的に近接しているため,電話で直接コン
タクトを取り,技術部のスタッフに現場に来てもらい,技術検討にあたるというケースも
見られるようである.注目すべきは,現場からの突然の連絡に対して,技術部がしっかり
と対応している点である.技術部と現場がチームのように一体となって,整備に取り組ん
でいる様子が伺える.
3.2.2
フィードバックの動機
次に,整備士がフィードバックを行う動機に注目する.X 社の整備士は,確かにフィー
ドバックを行っている.だが,受け皿としてサポート部署が存在し,フィードバックのた
めの各種経路があるという説明だけでは,整備士がフィードバックする理由としては弱い.
仕組みがあってもそれに乗るとは限らないからである.整備士をこの仕組みに動員する仕
掛けが存在するはずである.ここでは,整備士がフィードバックを行う動機という観点か
らこの仕掛けを探ってみたい.
〔機体に亀裂が入るという事象をフィードバックした経験に関して,なぜフィード
バックするのかという質問に対して〕それは場所にもよりますね.耐空性上影響がな
いキャビンのライニング〔=客室の内装材〕とかそういうところだったら強度上の問
題は起きないですけれど,やっぱりアルミの部材とか,一次構造・二次構造・三次構
造まであるんですけれど,機体の荷重を支えるところに〔亀裂が〕あったら自分も怖
いですよね.見つけたのが自分でやっぱり処理しないと.軽微な亀裂であっても,そ
れもちゃんと申し送って「今は時間が無いし,耐空性上問題はないけれど,時間があ
るときにここやってください」っていうそういうフォローしてくれる部署があるので,
そういうところでお願いします.見て見ぬふりっていうことはとてもできないですね。
(L 氏:20 年
運航整備)
もちろん,次の人が間違えないようにってのもありますけど,出来もしないような
ことが書いてあったら,結局は自分だって作業できないし,押印できないですから.
(Q 氏:30 年以上
重整備(電装客室整備)
)
やっぱり,間違った通りやったら,上手くいかないっていうのももちろんあります
4
これはインタビューを行った羽田空港の場合である.成田空港の場合,サポート部署へのフィードバ
ックがオンライン上で実施できることが,次のインタビュイーの発言から確認されている.
一番簡単なのが成田.成田は簡単にシステム改善やっている.成田のシステムは Web 上で
改善提案できる.羽田はできない.だから,成田の改善件数はとても多いです.
(J 氏:20 年 ライン整備)
23
し,次に誰かがやる時にまた悩んだら,数時間が無駄になってしまうっていうのもあ
って.
・・
(中略)
・・それとあと,自分でやったとこって自分でサインをするんです.
なので,結局,自分がこう思ってやったことが違ってて,それが何かの大変な不具合
につながってしまったら,自分が悪いことになってしまうので.
(B 氏:5 年
重整備(電気系統))
フィードバックを行う動機の 1 つは,耐空性を保証するという安全に対する責任感であ
る.L 氏のコメントにあるように,機体の構造上,仮に作業において小さな不具合があっ
たとしても,すぐに表面化しない場合もある.次の点検や整備で修復されれば良いが,万
が一にもフライト中に不具合が表面化すれば,重大事象に直結する可能性もある.それゆ
え,耐空性を考慮すれば,とても見過ごすわけにはいかない.とはいえ,運航整備は出発
までの短い時間で行われるため,完璧に対処できるわけではない(もちろん,致命的な場
合は遅延を出してでも対処される).そこで,耐空性上問題がないレベルに暫定処置をし,
その後しかるべき恒久処置をするようサポート部署にフィードバックを行い,技術的な裏
付け・承認を取っていることがわかる.さらに,Q 氏,B 氏のコメントにあるように,次
に作業を行う人のために解決しておくという動機もある.仮に,自分達がサポート部署に
フィードバックしなければ,次に整備にあたる人が同事象で作業を中断し,サポート部署
にフィードバックを行わなければならない.両氏ともに,これが時間の無駄であると認識
しており,第一発見者である自分が対処しておくという意識が働いていると思われる.
この 2 点は,整備士がフィードバックを行う動機として模範的なものである.ただし,
仕掛けという観点からすると,前述した整備記録としての航空日誌が整備士のフィードバ
ックを誘発している点が注目に値する.整備士は作業終了時,航空日誌に最新の MM のナ
ンバーを記入し,自分の名前をサインする必要がある.それゆえ,これが整備士の説明責
任を果たす役割も担っていた.だが,航空日誌の機能はそれに留まらない.航空日誌にサ
インをするということは,自分が行った作業に対して責任を持つことを意味するため,自
分が行った作業から何らかの不具合事象が生じた場合,自分の責任が問われる.だからこ
そ,サポート部署へのフィードバックを怠らないのである.Q 氏の「自分がやったってい
うことで押印できない」という表現,B 氏の「自分が思ってやったことが違ってて,それ
が何かの大変な不具合につながってしまったら,自分が悪いことになってしまう」という
表現はこのことを示唆する.つまり,整備士がフィードバックを行う背後には,航空日誌
が生み出す責任負担,職責遂行の動機が働いており,フィードバック行動は航空日誌に支
えられているといっても過言ではない.
3.2.3
MM の補強
フィードバックを受けたサポート部署は,技術検討を行うなかで,メーカーへの問い合
わせを行うことがある.とりわけ,内容が MM に関するものであれば,メーカーの承認な
く航空会社が判断を行うわけにはいかない場合もある.その結果,報告の内容がメーカー
に承認されれば,メーカーの技術資料が改定され,それに従って MM が更新される.次の
両氏のコメントを見る限りでは,特に新造機の場合,MM の更新が多いことが伺える.
24
具体的には,737 っていう飛行機が入ってきた当時は,今までの経験がないってこ
ともあって,マニュアル通りやってたらどうしても上手くいかないっていうのがあり
まして.そういう場合,ちょっと違うようなオペレーションしてみて,こっちでは上
手くいったなと.てことはここの部分に不具合があるんだなっていうのをわかって,
その場合,会社に MR っていうのがあって,MM に不具合があったら技術の人に報告
するシートがあるんですけど,それを書いて,後日直して,リバイスにかけてもらう
っていうのはあります.
(B 氏:5 年
重整備(電気系統))
マニュアル通りにいかないことも多々ありますね.新造機の場合は特に多いですね.
その通りにならないときは,とりあえず技術部に行って,ボーイングに回答をもらい
ます.例えば,こういう手順でやったらこのライトが点きますってなってるのに,そ
の通りにやってもどうやっても点かないと.技術部門に来てもらって,目の前で読み
ながら一個一個やっていってもならないと.それでボーイングに確認して改訂されて
いく.そういうのは結構ありますね.
(M 氏:30 年以上
重整備(A 整備も兼務)
)
しかし,MM の変更にはメーカーのみならず,国土交通省航空局の承認が必要となる場
合もあるため,MM が簡単に変更されるわけではない.また,MM の改定も定期的に行わ
れるため,即時性に対応できない場合がある.そこで,
「ブリテン(Bulletin)」や MM の
「テンポラリー・リビジョン」と呼ばれる不定期に発行される書式で MM が補強される.
例えば,タイヤ交換の MM とかいったら,もうタイヤ交換の MM はずっと変わら
ないですよ.グリスの規格が変わったとかそういうのはあるんですけど,そういうの
はウチの会社の方でブリテンっていうのを作ったり,MM の方にはこのパーツ・ナン
バーのものを使えっていうのがありますが,X 社ではこのパーツを買ってるので,こ
っちを互換で使いますっていうのをブリテンっていう形で,MM を訂正じゃないです
けど補足するのが出ていたりするので.
(L 氏:20 年
運航整備)
ブリテンやテンポラリー・リビジョンは,メーカーや場合によっては航空局の正式な承
認を得たものであるため,整備士にとっては正式な MM として扱われる.それゆえ,ある
現場からのフィードバックがブリテンやテンポラリー・リビジョンとして追加されれば,
別の現場ではそれに従った整備が行われ,結果として整備実践の差異化を防ぐことにつな
がる.仮に,こうした MM の補強がなければどうなるか.考えられるのは,各現場がその
事象への対処法を独自の整備実践として編み出し,コツやノウハウといった暗黙のルール
の形で現場に温存するという事態であろう.だがこれは,前述の塗装現場のケースで見た
ように,整備実践の差異化が増幅されるだけでなく,MM の重大な変更が作業に反映され
ない可能性があり,管理サイドからすれば好ましくない状況である.こうした事態を事前
に防ぐのが,まさにブリテンやテンポラリー・リビジョンの役割である.すなわち,フィ
ードバックによって吸収された差異がブリテンやテンポラリー・リビジョンとして MM の
25
一部に加わることで5,差異化統制の強化につながっていると考えることができる.
3.3
2 つの仕掛けがもたらす副次的影響
以上,X 社において,整備士の MM 参照・遵守を高める 2 つの仕掛けについて記述して
きた.これが同社にもたらした影響は大きい.何より,2 つの仕掛けが車の両輪のごとく
循環的に作動することで,MM に従った整備実践を確保するという目標が達成されている.
これは,
かつて整備士個人の経験やスキルに依存したやり方が見られたことを踏まえれば,
大きな組織的成果であるといえる.しかしながら,これ以外にも副次的影響と思われるも
のが 2 点ほど見られた.1 つは,ベテラン整備士の MM に対するポジティブな感情を醸成
した点.もう 1 つは,若手整備士の知識の深さが不足している点である.
マニュアルに沿った方が楽ですよね.こういう流れで確認していけばいいとか,そ
ういうシステムを作ってしまえば,窮屈だったり苦労するとか面倒臭いとかはないで
すね.・・(中略)・・自分の気持ちも楽だし,品質も一定に保たれるし.
(O 氏:20 年
重整備(エンジン系統)
)
MM とかちゃんとしたベースがない限り,発展はないですよね.経験みたいなので
やってると.たとえベースが間違ってても,それを改定していくことで,それが自分
達の資産になっていくという感じで,やっぱり MM は必要だと思うんですね.
(N 氏:25 年
重整備(電気系統))
これまで記述してきた 2 つの仕掛けは,組織(あるいは,管理者)としては満足のいく
成果を生み出す一方で,現場の整備士,特にかつての職人気質な時代を経験したベテラン
整備士にとっては窮屈であるようにも思われる.だが,経験年数 20 年以上を誇る両氏の
コメントを見る限り,会社の仕組みが変わったからといって,圧迫感や窮屈さは全く感じ
ていない.むしろ,MM に従うことに対して安心感ともいえる肯定的な感情を示し,現在
の会社の仕組みに対して信頼を寄せているようにも思われる.なぜ,このような感情を持
つのか.恐らくは,この仕組みが「品質向上」と「自己保全/組織保全」を同時達成して
いることを,整備士自身が実感していることが理由になっていると考えられる.MM を技
術基準として整備を行い,実際の作業との差異をフィードバックして MM の精度を高めて
いくには,年単位の時間を要する.N 氏の「資産」という表現は,このことを示唆するも
のである.だが,MM の精度が高まれば,それだけ整備品質も安定し,結果として自分達
の身や会社を守ることにもつながる.O 氏が「自分の気持ちが楽」と表現するのは,この
ことを示す.要するに,会社の仕組みに従うことが,品質向上ひいては自己保全/組織保
全につながるという感覚を持っているからこそ MM に従うのであり,それが MM に従っ
た整備実践の確保という組織的成果に貢献しているものと思われる.
一方で,同じくベテラン整備士から,若手整備士の知識の深さが不足している点につい
て懸念する声がいくつか挙げられた.共通するのは,マニュアルに依存し過ぎるために,
5
整備士からフィードバックされた案件すべてがブリテンやテンポラリー・リビジョンとして追加される
わけではない.当然ながら,整備士のリクエストが却下される場合もある.
26
トラブルへの対応ができなくなるという点である.
質問者:〔MM を遵守する体制になってから〕若い人たちのレベルってどうですか?
M 氏:どうしても MM に頼っちゃいますよね.マニュアルを一字一句読みながら,
一個一個やっていくと.それを叱ることはできないんですけどね.なので,
そこの裏に書いてある,これはどうしてこうなるんだ,なぜこうすればこう
なるんだっていうのをわからないでも,その通りにやっていけばできるわけ
ですね.何でこういうシステムが付いているのか,どうしてこうしなきゃい
けないのかっていうのがわかってやることがとても重要で,我々としては勉
強してもらいたいんです.
・・
(中略)
・・一番,如実に明確に表れるのは,
トラブルがあったときですね.トラブルがあったときに,裏付けがきちんと
ある人はここが悪いんじゃないかっていう予想もつきますし,そこまで最短
距離で行けますけども,いつもマニュアル通りに,なんでついてるのか何も
考えないでやってる人は,全く想像ができない.トラブルを直すことがなか
なかできない.そこに一番表れると思いますけど.
質問者:なるほど.普段の業務自体は MM の手順に従っていけばこなせるというか,
できるんだろうと.ただし,それ通りにいかなくなったときとかっていうの
は,やはりバックボーンのしっかりした知識がないと対応できないと.それ
をもってやっと一人前の整備士なんだと.
M 氏:そうですね.それができないと半人前ですね.
(M 氏:30 年以上
重整備(A 整備も兼務))
質問者:マニュアルに従うことのデメリットってありますか?
Q 氏:若い人に関して,トラブルがあったときに対処できなくなってしまうという
傾向があるんではないかということで,リーダークラスの中で危惧してる部
分はありますよ.気を付けなきゃいけないのは,若い人にやり方だけ教える
とやり方だけ覚えてしまうから,そうじゃなくて,何でこうするとか,理由
づけ.このシステムでこうやって整備しろ,交換の仕方はこうだって書いて
あるんだけど,これは何のためについてて,どういう働きをして,それを今
この書いたマニュアルのやり方で替えるんだよって教えないと.・・(中
略)
・・で,今職場で考えないといけないねって言ってるのが,
「業務処理基
準」を読む機会が今の若い人は少ないんですよ.例えば,部品の在庫がなか
ったらどういう業務手順を踏んで入手するための手配をしろとかってなっ
てたりするんですけども,やり方がよく分からなくて,聞きには来てくれる
んですけれども,だからそういうところをちゃんと自分で読んで調べられる
ようにしないと,答えてあげる人がそばにいるときは良いけど,そうじゃな
いときに間違ったことが起こったら困るよねっていう.だからその,機体の
マニュアル以外にある色々な規定って何があって,で少なくともそれを自分
で引けるくらいにはさせないとダメだよねっていう話はしています.
(Q 氏:30 年以上
27
重整備(電装客室整備))
両氏のコメントから伺えるのは,若手整備士が MM に頼ることが,ある種の弊害をもた
らし得ることである.当然ながら,MM に従って整備しなければならず,その点で M 氏
も若手整備士が MM に従うことを注意することはできないという.だが,MM に依存し
た結果,MM には書かれていない深い知識が得にくくなっているというのが両氏の問題意
識である.つまり,機体全体を有機的に理解できていない(たとえば,ある部分が他のど
の部分と関連していて,一部を動かすことが全体としての動作にどうつながるかなど),あ
るいは,マニュアルの根本にある知識が不足するために,トラブルなどの例外事象に対応
できなくなることが危惧されている.Q 氏がその対策として業務処理基準を勉強する機会
を作る必要性を指摘しているのはそのためである.いずれにせよ,MM を遵守することは
安全確保,品質向上の観点からは非常に重要で一定の成果が認められつつも,一方では,
副作用があり得ることを一部のベテラン整備士が懸念していることがわかる.
4.
おわりに:デザインについての処方的含意
これまでの発見事実の整理から,X 社では,整備士に MM を参照・遵守させるために様々
な取り組みを行っていることがわかった.もちろん,いくら緻密にデザインされたとして
も,それで整備実践の差異が完全に統制されるわけではないだろう.現実には,すべての
行為を読み切ることは不可能に等しく,思わぬ差異化が生まれてしまうこともある(Garud,
et al., 2008)
.しかしながら,整備士個人の経験やスキルに依存したやり方が見られた昔
と比べれば,MM に基づいて整備実践を組織化するためにデザインされた X 社の数々のル
ーティンには学ぶべき点が多い.また,X 社のような高信頼性組織の場合,現実的に差異
化が完全に統制できないからといって,それを放棄することはできない.エラーを未然に
防ぐために,差異化を統制するルーティンのデザインが欠かせない.
そこで最後に,本研究の結論として,多様な仕事実践を組織化するルーティンのデザイ
ンのあり方を明らかにするという研究課題に対して,これまで記述してきた発見事実から
得られる含意について考察していくことにしたい.予め注意をしておけば,以下で述べる
含意は,仕事実践に差異化が見られることに問題状況を認識している組織(特に,高信頼
性組織)の管理者に対して,デザインの手掛かりとなるような処方的な含意を引き出すこ
とを狙いとしているため,すべての組織に対して有益だと考えているわけではない.
(1)
マニュアルを作り込む
冒頭に述べたように,ルーティンは様々な形で組織に存在する.成文化されている場合
もあれば,暗黙的に理解されている場合もある.内容が具体的な場合もあれば,曖昧な場
合もある.いずれにしても,タスクを遂行するための判断基準として参照される点では共
通する.マニュアルを作り込むとは,まさにこの判断基準としてのルーティンを成文化・
具体化することに他ならない.X 社のケースでは MM がこれにあたる.MM はメーカーの
技術基準に従って航空会社によって成文化され,多くの整備において,個人の判断余地な
く作業ができるほど具体化されている.また,MM の定期改定サイクルでは対応できない
作業手順変更の必要が生じた場合でも,それをブリテンやテンポラリー・リビジョンとし
て成文化して MM に追加することで,より具体的なものに作り込まれていった.一方で,
塗装整備の MM は必ずしも詳細に規定されているものではなかった.一応の作業手順が明
28
記されてはいるものの,他の整備項目に比べると整備士個人の塗装スキルが介在する余地
があるため,塗装のやり方が人によって異なるという状況が生み出されていた.MM の作
業手順は遵守されていたが,塗り方を含む詳細が明文化されていないために,その部分で
整備士個人のスキルが介入せざるを得ず,独自の整備実践が生み出されていたのである.
詳細が明文化されていないことが必ずしも悪いわけではない.現場のタスク状況ごとに
適応的に解釈される方が望ましい場合もある.しかし,仕事実践の差異化に何らかの問題
状況が見出されるのであれば,話は別である.塗装のケースのように,ルーティンが成文
化・具体化されていない場合,ルーティンからの差異が識別されず,それがそのままノウ
ハウやコツといった形で現場に温存される可能性がある.だが,成文化・具体化されてい
れば,それが明確な判断基準として機能するため,そこからの差異を識別することが可能
となり,さらに基準そのものを精緻化していくこともできる.MM に含まれる多くの整備
項目が具体化されていったのは,そもそも MM 自体が明確に作り込まれていたためである.
したがって,仕事実践の差異化を統制するという目的のもとでは,ルーティンをマニュア
ルとして作り込むことがまず重要となる.
(2)
マニュアルの利便性を高める
次に,マニュアルを参照させる(他の)ルーティンのデザインである.いくらマニュア
ルが精緻に作り込まれていたとしても,それだけで仕事実践の差異が統制されるわけでは
ない.マニュアルを参照させるルーティン(メタ・ルーティン)が必要となる.その 1 つ
が,マニュアルの利便性(アクセシビリティ)を高めることである.X 社のケースでは,
MM の利便性を高める 2 つのルーティンが確認された.第一に,MM がオンライン上で利
用できた点である.MM はデータベース上で管理されており,オンライン上でこれにアク
セスすることができる.現場の整備士からすれば,オンライン上で利用できることは,紙
媒体で参照するよりも利便性が高いといえる.第二に,
「ワークシート」を自社で独自に作
成していた点である.ワークシートとは,MM のなかでも整備機体に関係のない記述を省
略したマニュアルである.とはいえ,MM をもとに作成した正統なマニュアルであり,
MM と同等の効力を持つ.これら利便性を高める 2 つのルーティンを通じて,MM の参照
率を高めていたといえる.
ルーティンがマニュアルとして作り込まれていくということは,それだけ成文化・具体
化される情報量も多くなることを意味する.情報量の多いマニュアルを参照することは,
現場の人間にとっては作業負担の増加を招き,マニュアルが必ずしも参照されなくなる可
能性がある.精度の高いマニュアルであっても,利用者に参照されなければ意味がない.
いわゆる「マニュアルの形骸化」である.それゆえ,マニュアルの利便性を高めるルーテ
ィンのデザインが必要になってくる.
(3)
マニュアルを強制通過させる
2 つ目が,マニュアルを強制通過させることである.X 社のケースでは,現場の整備士
に MM を参照させるため,様々な仕掛けを張り巡らしていたことがわかった.資格試験で
は,試験問題を MM の知識とリンクさせ,MM の知識を熟知しければ合格できない設計
となっていた.同時に,資格制度と給与体系を連動させ,資格試験に挑ませるインセンテ
29
ィブも用意していた.ワークフローでは,プリントアウトルールやレ点ルールといった
MM を参照させるルールを作り,さらに,運航記録においても MM を参照させるルール
が存在していた.具体的には,作業指示書や航空日誌に,整備に際して参照した MM の項
目とナンバーを記入させる欄を作り,整備士が MM を確認する必然性を作りあげていた.
もちろん,これらがすべて意図してデザインされたかどうかはわからないが,結果として,
これらのルーティンが MM の参照を促進していたことは確かである.
マニュアルを強制通過させることは,いいかえれば,マニュアルを参照せざるを得ない
ルーティンをデザインすることであり,必須通過点を布置することである.繰り返しにな
るが,いくら完成度の高いマニュアルが存在していたとしても,それが現場の人間に参照
されなければ意味がない.この問題に対して,前項の利便性を高めるデザインは 1 つの対
策ではあるが,最終的には参照の是非が個人に委ねられてしまうため,必ずしも十分では
ない.これに対して,必須通過点の布置はマニュアルを無意識のうちに参照させてしまう
デザインであり,強力な手段の 1 つになり得る.
(4)
マニュアルの更新情報を周知しない
3 つ目が,マニュアルの更新情報を周知しないことである.X 社のケースでは,一部の
現場において,MM の更新情報を整備士に周知せず,内容をブラックボックス化させてい
た.MM に従った整備実践を確保するという目的からすれば,更新内容を整備士に周知さ
せた方が合理的であるが,更新情報を周知すると,整備士が更新内容を確認するだけで最
新の MM を参照しなくなる可能性がある.そのため,あえて更新情報を周知しないことで,
整備士に常に最新の MM を使用するという習性を持たせていると考えられる.
更新情報を周知しないというのは,MM が絶えず更新されるという特性を持つ X 社(あ
るいは,航空会社)特有のデザインに思われるかもしれない.確かにその側面は否定でき
ないが,仕事実践の差異化の統制をマネジメント上の課題と認識する組織であれば,マニ
ュアルを作り込むプロセスにおいて,マニュアルを更新する作業が必ず出てくる.またそ
うでなければ,仕事実践の差異化は増幅してしまう.だとすれば,更新情報を周知しない
ことで,最新のマニュアルへの注意をひきつけることは十分可能であるように思われる.
また,マニュアルの利便性を高める,強制通過させる仕組みは,マニュアルを参照させる
有力なデザインではあるが,現場の人間からすれば日々の業務の中でマニュアルを記憶し
てしまうため,わざわざ最新のものを確認しない可能性が生じる.しかし,マニュアルが
いつ更新されるかわからない状態を作り上げておけば,作業者も確認を怠ることができな
いため,必然的に最新のマニュアルを参照するプロセスが生まれることになる.
(5)
マニュアル以外のルーティンを見せない
最後に,マニュアルを遵守させる(他の)ルーティンのデザインである.いくら精度の
高いマニュアルを作り,それを参照させたとしても,マニュアル記載の手順通りに作業が
行われるとは限らない.そこで,マニュアルを遵守させるルーティンのデザインが欠かせ
ない.その 1 つが,マニュアル以外のルーティンを見せないことである.X 社のケースで
は,現場で MM では対処できない特異な事象や MM 自体の誤りが発見された場合,現場
では対処せずに,サポート部署にフィードバックするという仕組みがあった.フィードバ
30
ックを受けたサポート部署では,他の技術資料やメーカーへの問い合わせを踏まえた技術
検討が行われ,現場への作業指示が出される.現場の整備士に突発事象の対処をさせてし
まうと,通常の整備業務に支障をきたす可能性があるため,MM に従った整備を行う現場
と突発事象に対応するサポート部署で明確な分業体制を敷くことで,業務の効率化と専門
化を同時追求していると考えられる.
このような分業のあり方は,同社のような高信頼性組織に限らず,どこの組織でも見ら
れるものであり,特筆すべき点はないように思われる.もちろん,業務の効率化と専門化
を図るうえで分業は欠かせないデザインであり,筆者もそれを批判するつもりはない.し
かしながら,特定の業務に集中させることは,同時に他の業務から切り離すことを意味し,
他の業務を見にくくさせるという状況を生み出す点には注意が必要である.特定業務の専
門化は,それ以外の業務の非専門化を促すのである.
同社でも,現場とサポート部門の業務が切り分けられているため,現場からサポート部
門の業務が見えにくい状況が生み出された例が確認された.若手整備士の知識の深さの低
下が指摘された例である.ベテラン整備士が指摘したのは,若手整備士がマニュアルを遵
守し過ぎることで,突発事象に対応できなくなる可能性であった.機体を有機的に理解し
ているベテラン整備士からすれば,マニュアルに記載された情報だけでは対処するのが難
しい事象に遭遇した場合でも,持てる知識や経験を駆使して,対処方針の策定等が容易に
なる.いいかえれば,サポート部署が行っている業務に近いことができる.だが,現在の
分業化された仕組みでは,何かトラブルがあればすぐにサポート部署の指示を仰ぐことに
なっているため,若手整備士がそのスキルを磨くことは容易ではない.
繰り返し述べておけば,このこと自体に何ら問題はない.もし仮に,若手整備士のトラ
ブルへの対応力を向上させるという目標があるとすれば,この分業構造が足枷になる可能
性があるが,MM に従った整備実践を確保することが一義的な目標とされているのであれ
ば,これはきわめて合理的な組織デザインである.なぜならば,分業を逆手にとれば,マ
ニュアル以外のルーティンを見せない(マニュアルだけに注意を集中させる)ことで,マ
ニュアルに従った仕事実践を確保するという論理が成り立つからである.何を見せて何を
見せないかは,何を目的とするかによって変わってくる.だが,仕事実践の差異化が見ら
れることに何らかの問題状況が見られるのであれば,例えば,分業をうまく利用するとい
った,マニュアル以外のルーティンを見せないデザインが有効に働くと考えられる.
(6)
作業証拠を残す
2 つ目が,作業の証拠を記録として残すことである.X 社のケースでは,作業指示書や
航空日誌などがこの機能を果たしていた.前述したように,作業指示書や航空日誌には,
作業で確認した MM の項目とそのナンバーを記入する欄が掲載されている.だからこそ,
整備士は MM を確認せざるを得ないのだが,極端な言い方をすれば,記憶を頼りに記入す
ることも不可能ではない
(もちろん,
膨大な整備項目のナンバーを記憶できればの話だが).
しかしながら,この欄に記載された内容は整備記録として残るため,何か問題が生じた際
には,整備士個人,ひいては会社に対する責任追及の根拠となってしまう.そのため,整
備士は仮に覚えていたとしても,都度 MM を確認し,手順を守って作業を行わざるを得な
い.要するに,記録が証拠として残されることで,経験や記憶を頼りにした整備に対する
31
牽制になっているのである.実際に責任追及するかどうかは問題ではない.整備士に対し
て責任追及される可能性があるという意識を持たせておくことが肝要となる.
さらに,証拠を残すことのメリットはもう 1 つある.それは,マニュアルと実際の作業
にギャップが見られた場合にフィードバックがかかることである.同社のケースでは,特
に航空日誌がこの機能を果たしていた.航空日誌には MM の項目ナンバーのほか,自分の
名前をサインする必要がある.そのため,MM で対処できない事象が発見された場合,耐
空性を保証するために,サポート部署へのフィードバックが励行されていた.前述したよ
うに,仕事実践の差異化を統制するためには,ルーティンをマニュアルとして作り込む必
要があり,そのプロセスではマニュアルの修正が欠かせない.マニュアルを修正させるた
めには,マニュアルからの差異がフィードバックされる必要がある.このとき,作業証拠
を残すデザインがフィードバックを促すのである.要するに,このルーティンは,マニュ
アルを遵守させるだけでなく,マニュアルを作り込むうえでも欠かせないものといえる.
(7)
ベテランに若手の指導をさせない
マニュアルを遵守させるデザインの最後が,ベテランに若手の指導をさせないことであ
る.X 社のケースでは,あくまで 1 つの職場の例であるが,調査当時,職場にたまたまベ
テラン整備士が少なかったために,かえって MM に頼らざるを得ない若手整備士の話が確
認された.ベテラン整備士は経験を重ねており,マニュアルを改めて確認するまでもない
ほど(実際には確認を行っているが),整備に関する知識もスキルも習熟している.だが,
当然ながら,若手整備士はそこまでの経験を重ねているわけではない.それゆえ,安全を
守るあるいは自分の責任を全うするためには MM に依拠するほかない.
一般に,ベテランによる指導はどこの組織・職場でも実施されている若手の教育方法で
ある.しかし,そこでの指導が必ずしもマニュアルに沿った内容である保証はなく,マニ
ュアルに従った作業実践を確保するという目的からすれば,かえって逆効果になる可能性
もある.同社のケースで見られたように,ベテランがマニュアルに従った作業を行うよう
教育する場合もあるが,マニュアルには書いていないコツを教える可能性も想定されるか
らである.いいかえれば,ベテランから若手への指導が差異化の遠因となるのである.し
たがって,逆説的ではあるが,若手をベテランから切り離すことがマニュアルに従った仕
事実践を生み出す 1 つのデザインになると考えられる.
一方,このデザインは,ひいてはベテランのマニュアルに従った仕事実践を触発する可
能性もある.同社のケースでは,MM に記載されていない整備のやり方を指導して,逆に
若手から注意をされるベテラン整備士の話が確認された.一般的に,職場では上から下へ
の影響が強いと思われがちだが,下の行動を見て上が行動を改めるという逆の影響もある.
ただし,こうした影響を意図的に狙うには,マニュアルを遵守することが善であるという
大義名分が必要になることはいうまでもない.要するに,マニュアルを遵守するという大
義名分が整っていれば,ベテランの行動を改善させる間接的な効果が期待され,マニュア
ルに基づく仕事実践の組織化につながる可能性があると考えられる.
以上
32
引
用
文
献
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