高齢社会のライフライン - ファイザー

ファイザー フォーラム
高齢社会のライフライン
求められる保健医療
No.63
−米国との比較の観点から−
ファビオ・パモーリ(Fabio Pammolli)氏 プロフィール
シエナ大学 Richard M. Goodwin 経済学部 経済学・経営学教授
ピサ大学にて経済学及び経営学士号取得。セント・アンナ校にて修士号取得。
1991 ∼ 92 年
米国マサチューセッツ工科大学、ノースイースタン大学客員給費生
1998 年∼
産業・企業変化協会メンバー
1998 年∼
セント・アンナ校リサーチフェロー
1999 年∼
シュンペーター理論学会 会員
製薬・生命科学分野における技術革新、研究開発の経済性に関する著書多数。
最近の論文(例):
1. 「医薬品市場をめぐる国際競争−欧州市場の展望−」(2000 年)
2. 「生命科学分野における大学と産業界の関係−米国と欧州の比較を中心に−」
(2001 年)
3. 「医薬品技術の特性と市場規模」(2001 年)
4. 「技術の変遷とネットワーク・ダイナミクス−バイオテクノロジー業界の例−」
(2001 年)
など
ご意見の要旨
●製薬産業は歴史的に見て欧州経済の要であり、ハイテク
分野の貿易収支に大きく貢献してきた。
●しかしながら、今日では欧州の製薬産業は米国のそれに比
して競争力を失ってしまったとの見方が広まりつつある。
●欧州製薬産業の現状と特性について、特に米国企業との
比較の観点から分析を行ったところ、以下の結論を得た。
1.1990 年代を通じ、欧州市場の成長率は米国のそれ
を下回っている。主要な医薬品の売上を見ても同様
であった。
2.欧州市場では研究開発投資が必ずしも市場の成長に寄
与しなかった。
3.技術革新の場としての米国の地位が相対的に向上して
おり、欧州企業は米国がもたらす技術の恩恵に浴す
ることに甘んじてきた。
4.一部の欧州諸国では、医薬品市場における自由競争が
阻害されている。
●国により分断・保護された研究コミュニティは生産性の
低下を招く。欧州全域を対象とした研究基盤の整備が重
要である。
●世界規模での合従連衡は欧州企業に大きな影響を与えて
いる。頭脳流出の阻止、差別化戦略が生き残りの鍵とな
るだろう。
高齢社会のライフライン
求められる保健医療
成長が重なったためと理解できる。両市場の
成長要因について分析を行ったところ、大き
く異なることが判明した。即ち、米国市場の
近年、生命科学の進歩により医薬品の研究
成長は、研究開発投資などによる部分が大き
開発プロセスが一変しつつある。その一方で
いが、欧州市場の成長はむしろそれ以外の要
医療費増大によるコスト抑制政策が市場の需
因、例えば法規制、特許収入の増減、自国の
要構造に影響を及ぼすようになった。加えて
需要変化などに左右されていると我々は結論
新薬承認審査の厳格化と研究開発の複雑化が
付けた。実際に欧州ではそれらに成長をゆだ
更なる研究開発コストの高騰を招くことが予
ねる企業が多く見られることからも裏付けら
想される。これらの要因が製薬業界の産業構
れる。すなわち、欧州市場では研究開発投資
造を大きく変えつつある。
が必ずしも市場の成長に寄与しなかった点が
製薬産業は医薬品企業、大学などの研究機
特筆すべきポイントであると言えよう。
関、規制当局、政府、医師、患者など全てを
同期間の主要な医薬品の売上を欧米で比較
巻き込んだ大きなシステム又はネットワーク
した場合、米国企業の伸び率の方がはるかに
として捉えられるべきである。即ち、この業
大きいという結果が得られた。両市場で開発
界を分析するには個々の企業のみならずシス
された新医薬品の数に大きな違いは無いにも
テム全体のダイナミクスを評価することが重
かかわらず、である。すなわち、欧州企業は
要である。
販売面で苦辛を強いられていることが示唆さ
今回、欧州製薬産業の現状及び特性につい
れる。その理由として、米国企業が自国での
て、特に米国企業との比較の観点から分析を
医薬品需要の伸びを享受したこと、及び欧州
行った。その結果、欧州製薬産業の競争力が
企業の製品ポートフォリオが相対的に陳腐化
相対的に弱まりつつあること、また革新的な
する傾向にあったこと、の2点が挙げられる。
プロセスを創り出し維持する能力を失いつつ
一方、欧米での技術革新に目を向けると、
あることが明らかとなった。その結果を以下
過去10年間を通じ技術革新の場としての米国
に紹介する。
の地位が相対的に向上していることが判明し
た。米国は技術革新機能を「探索」と「製品
化」に明確に役割分担することにより、アム
ジェン、ジェンザイム等の新しいタイプの企
1980年代を通じ、日米の市場の伸びを上回
業や遺伝子技術、ハイ・スループット・スク
る成長率を達成した欧州市場だが、1990年代
リーニング等の医薬品開発用ツールを生み出
には米国でのそれを下回ってしまった。その
してきた。その一方で、欧州企業は米国企業
理由としては、欧州市場の停滞と米国市場の
がもたらす技術の恩恵に浴することに甘んじ
てきたと言えよう。
や大学などの連携や統合により、研究開発の
また、一部の欧州諸国では国内市場での自
ための努力が細かく分断されることのない効
由競争が殆ど見られず、結果として市場の非
率的な研究活動が可能となるのではないだろ
効率性を招いている現状にあると言える。一
うか。例えば、米国には NIH(国立公衆衛生
例を挙げると、新医薬品の価格及び市場シェ
研究所)という強大な研究機関が存在し、国
アは、特許期間終了後の後発品参入により通
家としての研究開発戦略の一貫性確保に寄与
常低下するものだが、それらの国々では両者
している。
に大きな変動は見られない。すなわち、医薬
品市場での自由競争がある意味阻害されてい
ることがうかがえる。
新薬パイプラインの拡充、単独での国際展
開の困難さから世界的規模での製薬企業の合
従連衡が進みつつあるが、欧州企業も例外で
これまで述べてきた分析結果を踏まえる
はない。ここで問題となるのは頭脳流出、す
と、欧州には各国及び全域レベルで解決すべ
なわち研究開発拠点の移動である。特に米国
きいくつかの問題点が見られる。まずは技術
系企業との合併・買収に伴う研究再編によ
革新に関する問題点について論じたい。
り、元々欧州にあった研究開発機能を米国に
技術革新には研究者が切磋琢磨する場が必
移転してしまう例が相次いでいる。例えばス
要不可欠だが、欧州にはその場が確立されて
ウェーデンではファルマシア社、アマシャム
いないことが問題である。すなわち、各国レ
社が研究開発機能を国外に移している。
ベルでは極めてレベルの高い研究者コミュニ
欧州諸国の比較的小規模なローカル企業は
ティが存在するが、国により分断・保護され
更に深刻な状況にあり、中には死に絶えてし
ているため、ややもすると閉鎖的な地元意識
まう企業も少なくない。そのような厳しい状
が現れがちである。その結果、研究者が国際
況の中、差別化戦略により生き残りを図る企
的な競争にさらされる機会も少なく、生産性
業もある。例えば、イタリアのメナリーニ社
はなかなか向上しない。欧州の若い研究者が
は自国内での展開に加え東欧諸国、中東、南
米国で博士号を取得する例も珍しくないが、
米などの新興市場にターゲットを絞り国際展
国家主義的な壁により帰国後の活躍がはばま
開する戦略を進めている。成長余地のある特
れるなどの弊害も聞かれる。
定地域特化型、特許切れ医薬品の製造販売特
欧州全域を対象とした研究基盤及びシステ
ム統合が重要ではないか。全く異なるルール
により動いている欧州の個々の公的研究機関
化型など、自社の特色を明確にした差別化が
生き残りの鍵となるだろう。
高齢社会のライフライン
ファイザー フォーラム
求められる保健医療
目前に迫っている少子型の超高齢社会。
保健医療は、
人々の暮らしになくてはならないガス・水道・電気などと同じような、
社会のライフラインの一つになっているのではないでしょうか。
目前に迫った超高齢社会。長くなった人生を実り多く過ごすために「保健医療」は人びとのくら
しの「ライフライン」として今後ますます重要になっていくでしょう。
新しい社会の要請にこたえるために、いまわが国では保健医療制度の改革が進められています。
保健医療の目的は、いうまでもなく私たち人間の健やかなくらしです。したがって、これら制度の
改革は、私たち一人ひとりの生命とくらしを豊かにする保健医療の実現を目的に推進されなければ
なりません。とはいえ、保健医療の資源には、施設、人材、財源のいずれの面からみても限りがあ
ります。限られたこれら資源を有効に活用するには、保健医療システムの改革のみでは不可能で、
革新的な医療技術の開発に期待をしなければなりません。
保健医療改革は、明日の私たちのくらしに直接かかわっている問題です。わが国の有識者の方々
のご意見をご紹介しながら、できるだけ多くの皆さんに望ましい保健医療のあり方をご自身の問題
として考えていただこうと考えました。
ファイザー製薬株式会社
医薬品市場規模の変化
1996年(総額2,908億ドル)
2000年(総額3,628億ドル)
南米
7.1%
南米
6.5%
その他
11.0%
北米
33.0%
その他
10.5%
北米
43.0%
日本
15.9%
日本
18.2%
欧州
30.7%
欧州
24.1%
出典:ファイザー製薬
本企画に関するお問い合わせは―――
ファイザー製薬株式会社
東京都新宿区西新宿 2-1-1 〒 163-0461
「ファイザー フォーラム」係まで