(5) 下水汚泥の減容化に関する研究 (第1報) 吉川 寛親 笹島 武司 森 友子 星野 一 宏※ 飲料メーカから多量に発生される茶葉は廃棄物として処理されているが、この茶葉に含まれ る水溶性ビタミン成分のナイアシンは、活性汚泥中の微生物の代謝活性を促進し、汚泥の減量 化につながると考えら、一方、下水汚泥は汚泥の発生量が多く、処理に苦慮していることが多 い。 このため、下水汚泥の減容化を目的として、飲用メーカーから発生する茶葉を長期間下水処 理施設に投入し、処理水質、余剰汚泥発生量、汚泥発生率等を検討した。 結果としては、茶葉投入による処理施設への影響については、処理水質の悪化は特にみられ なく、茶葉投入の有無にかかわらず維持管理を変更する必要がなく施設の維持管理上において は特に問題がないことがわかった。 また、下水汚泥の減容化については、16 年度は 15 年度に比べて処理量に対する余剰汚泥量 はやや少なくなり、また、ナイアシン濃度の高い8月が最も汚泥発生率が小さかったことから、 茶葉投入によりやや減容効果があったものと考えられる。 1 はじめに (処理方法) オキシデーションディッチ法 600m3 ×2 槽 (計画平均汚水量) 1,200m3 /日 (計画流入水質) BOD 200mg/l SS 200mg/l (計画放流水質) BOD 20mg/l SS 30mg/l 2.2 調査に使用する茶葉 K社から廃棄物として発生する緑茶を貰い 受け、当センターで冷凍保管し、解凍し使用す る。 2.3 調査期間 5 月から翌年 1 月(茶葉投入は 12 月まで) 2.4 調査項目 (1) 水質測定 (原水、処理水) 水温、pH、BOD、COD、SS、総窒素、総り ん (OD槽水) 生理活性物質(ナイアシン等ビタミン類)、 MLSS、SV30、総窒素、総りん、活性汚泥生物 下水汚泥等の有機汚泥は産業廃棄物の4割を 占め、また、下水道整備の促進とともに、今後 ますます増加することが予想される。 下水汚泥の有効利用としては、肥料、溶融ス ラグ化による建設資材、セメント原料等が考え られているが、リサイクル先の確保、処理コス ト等の問題があり、減容化対策が重要な課題と なっている。 一方、茶葉に含まれるビタミンの一種である ナイアシンなどには微生物の代謝を促進し、細 胞が太り過ぎになるのを防ぐ働きがあると言わ れている。 このことから、下水処理場汚泥に飲料メーカ から発生する茶葉を投入することにより、汚泥 の減容化にどのように影響するかを目的とし、5 月から 12 月、Y下水処理場において茶葉を投入 し、流入水、処理水、オキシデーションディッ チ槽(以下OD槽)水の水質を分析するととも に、下水汚泥の発生量を調査した。 2 調査の概要 2.1 調査対象下水処理場 調査対象としたY下水処理場の概要は、次のと おりである。 ※ 富山大学工学部物質生命システム工学科 44 3 (2) 処理水量、汚泥発生量 毎月の汚水処理量、下水汚泥発生量を記録。 下水汚泥の含水率は、現地維持管理データを 参考とする。 (3) 茶葉の投入 毎週1回、茶葉投入OD槽(以降「投入 系列」と呼ぶ)に 10Kg から 40Kg の茶葉を投入 する。 (茶葉投入しないOD槽(以降「対照系列」 は、対照系列とした。) 茶葉 10Kg/週投入 5 月 27 日∼ 8 月 11 日 茶葉 20Kg/週投入 8 月 12 日∼10 月 6 日 茶葉 40Kg/週投入 10 月 7日∼12 月 16 日 (4) ビタミン分析方法 (使用機器) 島津 HPLC (分析条件) カラム:TSKgel ODS-80T(4.6mm×250mm) 移動相:0.8mM オクタンスルホン酸ナトリウム を 含 む 100mM り ん 酸 ナ ト リ ウ ム 緩 衝 液 (pH2.1)/アセトニトリル=9/1(V/V) 温度:40℃ 流量:1.5mL/min 検出器:UV 210nm 及び 270nm (5) 負荷量調査 朝 6 時から夜 9 時まで 1 時間毎にサンプリング 及び流量を調査し、BOD、COD、SS等 を分析し、1 日負荷量を求める。 表1 結果及び考察 3.1 茶葉投入による処理水質 処理水の採水茶葉を投入することにより、処 理水質がどのように変化するかを調べたとこ ろ、その結果は表 1 のとおりであった。 BOD、COD、SS、T-N、T-P 濃度は投入系列、 対照系列ともほぼ同様な値を示し、且つ良好な水 質であった。 茶葉の投下の場合、OD槽内の投入系列のSS 分が茶葉の分高くなっていると考えられるが、処 理水をみると投入系列、対照系列ともにSS分が 4mg/? 以下と良好な水質になっている。 OD槽内のMLSSについては、図1のとおり であった。 茶葉を 10kg 投入した 5 月 27 日から 8 月 12 日ま での MLSS の変動をみると、一般的には茶葉の影 響により投入系列 の方が対照系列より低くなる と考えられるが、実際は投入系列が高かった。こ れは、投入量が少ないために茶葉の影響があまり なく、通常の維持管理の MLSS の変動の中に飲み 込まれたものと考えられる。 次に茶葉を 20kg 、40kg と増加した 8 月 12 日、 10 月7日ともに投下系列は投入後3週間程度ま では MLSS が徐々に減り続けるが、4週以降は、 投下系列が徐々に高くなり、対照系列と同様な値 になっている。このことは、汚泥の減容化が生じ 処理水質月平均値 対照系列 投入系列 BOD(mg/l) COD(mg/l) SS(mg/l) T―N(mg/l) T―P(mg/l) BOD(mg/l) COD(mg/l) SS(mg/l) T―N(mg/l) T―P(mg/l) 5月 0 6.0 2.0 10 1.2 0 6.0 1.0 10. 1.2 6月 0 4.8 3.0 9.0 1.2 0 4.0 1.8 9.1 1.2 7月 1.0 4.6 2.8 11 1.1 1.0 4.6 2.4 8.4 1.2 8月 1.3 4.8 2.3 10 1.2 0.8 4.5 1.8 11 1.2 45 9月 0.6 5.0 2.4 9.5 1.1 1.4 5.0 3.0 13 1.1 10月 1.5 5.3 3.8 10 0.9 1.5 5.3 3.8 12 0.9 11月 1.8 5.0 2.0 15 1.0 1.3 5.0 2.8 15 0.9 12月 0 4.3 2.3 13 0.8 0.7 4.3 2.3 13 0.8 たものの、3週間以降、維持管理上から、MLSS が 低くなると 返送汚泥を多くするように管理され ているためと推定される。 3.2 生理活性物質濃度 (1) 抽出残渣に含まれる生理活性物質濃度 一般に緑茶、ウーロン茶、コーヒー中のビタ ミン類等の生理活性物質濃度は次のとおりであ る。 緑茶には、ムギ茶、ウーロン茶、コーヒーに 比し生理活性物質が多く含まれていることから、 投入茶葉の種類として、緑茶を使用することと した。 表2 3.3 オキシデーションディッチ槽内の生物 相 活性汚泥相内の生物については、茶葉投入の有 無、季節による相違はなく、生物数、種類とも少 なかった。 生物種については、活性汚泥が良好なとき出現 する Vorticella、Aspidisca 等は認められず、 Euglypha、Difflugia 等が認められた。 典型的活性汚泥生物、数、種類が少ない理由と しては、BOD 負荷が低いためと考えられる。 図5 OD槽内生物(Euglypha.sp) 抽出残渣に含まれる生理活性物質 チアミン ニコチンアミド ニコチン酸 ピリドキシン カテキン カフェイン 緑茶 1.5 87 3.9 7.2 7.0 1.8 ムギ茶 0 0.11 0 0.21 0.02 0.11 ウーロン茶 0 0 0 0 0 0.39 コーヒー 0 4.1 2.4 1.2 0 6.4 単位 ;mg/g-dry (2) OD槽内の生理活性物質 ナイアシンとはニコチンアミドとニコチン酸の 総称であり、今回は、緑茶に多く含まれているニ コチンアミドについて実験期間中の濃度をみる と次のとおりであった。 (ニコチンアミド) ニコチンアミドについては、実験開始当初は投 入系列、対照系列とも同等の値であったが、その 後投入系列が徐々に上昇し、茶葉 20Kg 投入以降 (8月 12 日)は急激に上昇した。一方、11 月 25 日 以降は、茶葉投入を 40Kg と量を2倍に増加にも かかわらず、投入系列と対照系列は同様な値であ った。これは、緑茶の抽出残渣中にニコチンアミ ドの含まれる割合がかなり少なかった ためと思 われる。 3.4 負荷量調査 負荷量調査を行ったところ、表3のとおりであ った。 負荷量の変動を見ると、朝食、夕食時間帯にピ ークが見られ、7 時から 8 時に最大のピーク、10 時から 11 時、14 時から 16 時に小さいピーク、19 時から 20 時に第 2 のピークがあった。 流入原水の平均濃度(1日負荷量を排水量で割 った値)は、BOD として 92mg/l、COD として 86mg/l、SS として 84mg/l であり、計画流入水質 の約 1/2 の濃度であった。 1 日の負荷量は、BOD として 56Kg/日、COD と して 52Kg/日、SS として 51Kg/日であり、計画負 荷量の約 1/5 であった。 処理水質の日内変動については、流入原水の変 動にもかかわらず低値で安定しており、BOD は約 1mg/l、COD は 5mg/l、SS は 1 から 3mg/l であり、 計画放流水質の 1/20 であった。 46 表3 BOD、COD、SS 負荷量 項 目 処理量 ( m3 ) COD (mg/? ) BOD (mg/? ) SS (mg/? ) 表4 6時 7時 8時 9時 10 時 11 時 12 時 13 時 14 時 15 時 17 時 18 時 19 時 20 時 21 時 − 30 33 25 23 19 21 21 20 23 20 17 23 31 33 − 58 180 140 100 110 120 120 71 97 78 110 84 71 100 100 110 40 200 170 110 130 130 110 60 150 110 110 90 120 160 140 110 36 220 200 110 110 140 110 34 79 82 150 62 51 92 140 89 9時 10 時 11 時 12 時 13 時 14 時 15 時 16 時 17 時 18 時 19 時 20 時 21 時 処理水質日内変動 項 目 6時 COD (mg/? ) BOD (mg/? ) SS (mg/? ) 7時 8時 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 1 1.9 1.1 1.1 1.3 1.2 0.9 0.5 0.7 0.9 1.4 1 1.1 1 1.4 1.1 3 3 3 2 3 2 2 2 2 1 2 2 2 1 2 2 3.5 余剰汚泥発生量 15 年度、16 年度の下水処理量、下水汚泥発生量 は図6のとおりである。 汚水処理量に対する余剰汚泥発生量 について 15 年 度 、 16 年 度 を 比 較 す る と 、 15 年 度 は 0.46Kg/m3 、16 年度は 0.43Kg/m3 と 16 年度がやや 低くなっている。今回、減容効果が低かった原因 として、茶葉の投入が投入系列にだけに限られた こと、また、半年だけの投下であったことがあげ られる。 までの汚泥発生率は図 7 のとおりであった。 汚泥発生率は、BOD 基準として、6月は 34%で あったが 8 月までは 29.3%と直線的に減少したが、 その後上昇し 33.1∼35.9%で安定した。9 月以降、 汚泥生成率がやや高くなったのは、3−2−(2) からわかるように、茶葉の量を増加させたけれど も、ナイアシンが茶葉の量ほど増えてないことが 原因と推定される。 活性汚泥処理における汚泥発生率は一般的には 40∼60%といわれている。今回調査対象下水処理 場は 35%前後と少し低い値であり、また、OD槽 のSV30 が約 99%前後と非常に沈降性が悪く、汚 泥がやや膨化気味であった。これは、計画の約 1/5 の負荷量と食物不足の傾向にあったためと思わ れる。 図7 汚泥発生率 図6 下水処理量及び汚泥発生量 25000 15年度 処理量 (m3) 20000 15年度 汚泥量 (Kg) 15000 16年度 処理量 (m3) 10000 汚泥発生率 (%) 50 16年度 汚泥量 (Kg) 0 6月 8月 10月 12月 汚泥発 生率 ( BOD 基準) 45 発生率(%) 5000 4月 16 時 2月 40 35 汚泥発 生率 ( COD 基準) 30 3.6 汚泥発生率 汚泥発生率は、次式であらわされる。 汚泥発生率(%)=乾燥汚泥搬出量/(A+B+C) A;流入 BOD-流出 BOD(又は流入 COD-流出 COD) B;流入 SS-流出 SS C;OD 槽内での MLSS 発生量 これは、OD槽で処理されたBOD分(又は COD分)とSS分の和が汚泥分生成にどれだ け変化したかを示す数値であり、6 月から 12 月 25 20 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12 月 4 まとめ 5月から 12 月まで茶葉を投入し、処理水質の変 化、オキシデーションディッチ槽中の生物相の変 化、下水汚泥量の変化、汚泥発生率の変化を調べ た。 47 処理水質については、茶葉投入しても COD、 BOD、SS、総窒素、総りんに変化はみられなかった。 生物相については、BOD-SS 負荷が低いため、 数、種類とも少なく、活性汚泥によく出現する生 物種がみられず、低負荷のとき出現する Euglypha、 Difflugia 等がみられた。 また、季節、茶葉の投入による変化は認められ なかった。 汚泥発生量については、処理量に対する汚泥量 をみると、15 年度に比べると 16 年度はやや低い ことから、茶葉投入による減容化は少しは認めら れた。 汚泥発生率については、BOD 基準として茶葉投 入当初の 6 月は 34%であり、以降、徐々に低くな り 8 月は 29.3%と一番低く、その後しだいに上昇 し約 33.1∼35.9%で安定し、汚泥の減容化が少しは みられた。 今年度の調査においては、下水汚泥の減容化は 少なかったが、この原因として、通常オキシデー ションディッチにおける BOD-SS 負荷は 0.03∼ 0.05 KgBOD/(KgSS・d)といわれており、今回調査 対象とした下水処理場の 0.01KgBOD/(KgSS・d)と いう値は低い値である。このため、オキシデーシ ョンディッチ槽内の栄養分が不足しており、通常 より余剰汚泥発生量が少なく、このため茶葉投入 による汚泥減容化の効果が少なかった ものと思 われる。 次年度の調査においては、流入原水水質、処理 人口、処理規模、BOD-SS 負荷、処理水量に対す る正確な余剰汚泥発生量等を調査可能な対象下 水処理場を選定し、あらためて茶葉投入による下 水汚泥の減容化ついて調査する。 Reduction of the volume sewage sludge.(Ⅰ) Hirotika YOSHUKAWA Takeshi SASAZIMA Tomoko MORI Kazuhiro HOSHINO A Iarge quantity of used tea leaves generated from makers of tea is processed as wastes Naiacin of a water-soluble vitamin component included in the used tea leaves promotes the metabolic revitalization of the microorganism in the activated sludge and it is expected that Naiacin leads to the loss in the weight of the sludge. At present, sewage disposal plants is troubled with the treatment of the large amount of the sludge generated. To reduce the volume of the sewage sludge ,the used tea leaves was added to the sewage tank and water quality, the amount of the surplus sludge generated and the incidenence of the sludge were examined after the treatment. The addition of the tea leaves does not lower the water quality and not affect the maintenance management of the facilities . As for the reduction of the volume of sewage sludge the amount of surplus sludge in 2003 slightly decreased compared with that in 2004 and the incidence of the sludge was the lowest when the concentration of the niacin was high in august. These results suggest that the used tea leaves have effect on the reduction of the volume of sewage sludge. 48
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