血友病患者のQOL改善に向けて - バイエル薬品医療関係者向け情報

監修:東京医科大学臨床検査医学講座 教授 福武勝幸
2008 年 5 月発行
発行:バイエル薬品株式会社
〒532-8577 大阪市淀川区宮原3-5-36
vol.15
編集:メディカスジャパン
〒160-0016 東京都新宿区信濃町35番地
信濃町煉瓦館4F
血友病患者のQOL改善に向けて
産業医科大学小児科学教室 教授 白幡 聡
血友病治療では、単なる止血管理にとどまらず、血友病性関節症などの合併症の進展予防、あるいは患者さんへの心理的・社会的側面から
のサポートなどを含めた、包括的なケアを提供することにより患者さんのQOL
(QualityofLife)
の向上を目指すことが重要です。したがって、患者
さんのQOLを調査することは、現在の治療やケアに対する成果や患者さんの満足度を測るとともに、包括的な医療体制下でも依然として満たされ
ないもの
(=患者さんの新しいニーズ)
を把握する手立てとなるため、医療サービスのさらなる改善・推進につながるものと考えられます。
先頃、平成19年度厚生労働科学エイズ対策研究事業「血友病の治療とその合併症の克服に関する研究[主任研究者:坂田洋一(自治医
科大学分子病態治療研究センター教授)
]
」の分担研究である「血液凝固異常症のQOLに関する研究」の平成19年度(2007年度)の調査報
告書[分担研究者:瀧正志(現・聖マリアンナ医科大学小児科学教授)
]
が公表されました。私もこの研究に参加いたしましたので、本号では、
報告書のまとめを中心に、血友病患者さんのQOLのさらなる改善に向けて、今後、医療者・行政側が講ずるべき対策、あるいは患者さん自身が
心掛けて欲しい事柄などについてご紹介します。
1. 血友病患者さんのQOL調査の目的・意義
1)
(表1)
その結果の分析が行われました
。
この調査の大きな特徴は、QOL調査票が
「血液凝固異常症全国調査運営委員会」に
ような画一的な調査票の一斉配布よりも、患
者さんの個々の事情に合わせたオーダーメイ
ドの調査票(質問票)
を用いるか、あるいはイ
本邦における血液凝固異常症を対象とし
たQOL調査は、
「HIV感染症の医療体制に
関する研究班[班長:白阪琢磨(現・国立病
属する患者さんの代表(QOL調査委員)
と医
師
(小児科医、整形外科医、リハビリテーショ
ン科医)
、看護師、臨床心理士との討議を経
ンタビュー形式で個別に聴取する方が好まし
いとの意見もあるかもしれません。しかしなが
ら、大局が把握できる全国的な大規模アン
院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端
医療開発センター長)
]
」の分担研究として
2001年
(平成13年)
から実施されています
[分
て作成されたということです。このため、本調
査には従来の医療転帰からの評価項目だけ
でなく、患者さんの視点に立った評価も行える
よう、
「血液凝固異常症に関する医療制度、
治療あるいは社会生活に関して日頃お考えに
ケート調査は、患者さんの共通したニーズを
効率よく見出せるため、全体的な施策(ケア
プラン)
を作るのにはとても有用です。
患者さんの生の声を聞いて
ケアに活かす
担研究者:瀧 正志
(現・聖マリアンナ医科大
学小児科学 教授)
]
。このアンケート調査は、
わが国における血液凝固異常症の病態を把
握し、当 該 患 者さんの 治 療と生 活 の 質
(QOL)の向上に寄与することを目的とした研
究事業で、第2回目となる今回は全血液凝固
異常症例の約16%に相当する、831人の患
者さんからQOL調査票(図1)を回収し、クロ
ス集計・記述統計および解析統計によって、
なっていること、ご意見・ご希望などございま
したら、ご記載下さい」といった自由記載欄も
設け、実際に不安や問題を抱えている患者さ
んの生の声を多く吸い上げ、今後のケアに活
かすことができるように工夫が施されています。
もちろん患者さんの病態や悩みは一人ひと
り異なるため、QOLの調査方法としてはこの
図1 QOL調査票 平成19年度(2007年度)版1)
患者さんと医療者の
見解のギャップを埋める
医療者が患者さんの真のニーズを正しく把
握することは非常に重要です。というのも、医
療者が考えている患者さんのニーズと患者さ
んの真のニーズにはギャップ(見解の相違)が
あることも稀ではないからです。例えば、抗
HIV薬を処方する際、医師は往々にして薬剤
表1 血液凝固異常症のQOLに関する研究
平成19年度(2007年度)調査報告書の概要1)
● 回収状況:平成19年8月末までに831人分を回収
● 回答者の属性:患者本人546人
(65.7%)
、
保護者270人
(32.5%)
、
配偶者・兄弟など15人
(1.8%)
● 調査内容:
患者さんの現在の状況について
これまでの経緯や治療の状況について
関節や筋肉の状態などについて
医療機関について
社会生活に関することについて
HIV感染あるいは肝炎について
就職について
Hemophilia Topics vol.15
の有効性や安全性のみを選択基準にしがち
です。しかし患者さんにとっては、むしろ薬剤
の服用回数や服薬時間
(食前・食間・食後
の別)
が自身のライフスタイルに合ったものの方
が薬剤選択の上で優先順位が高い場合もあ
るのです。このような医療者側と患者さん側と
の見解のギャップを埋めるためのツールとして
もアンケート調査は有効であると考えます。
患者さんが抱えている新しい
問題点を見出し、対応する
かつて重症型の血友病患者さんは、致死
的な出血のために成人期に達することが難
しいという時代がありました。しかし、近年のよ
り安全性と有効性の高い凝固因子製剤の開
発、あるいは出血を予防するための予備的
法がその後の血友病性関節症の予防に有
補充療法・定期補充療法
(prophylaxis)
の実
施などによって、出血や合併症の発現を最
小限に抑えつつ、病気とうまく共存しながら長
く充実した社会生活を送ることも可能になりま
した。ただし、患者さんが高齢期を迎えるよう
になったことで、これまでは問題にならなかっ
効であることが示唆されて以来、家族の方が
乳幼児に対してうまく家庭輸注ができないと
悩んだり、自己注射を開始した学童期の患
児ではアドヒアランスが低下してしまう、といっ
た新しい問題も浮上してきました。このように、
血友病治療を取り巻く環境が大きく変化した
た、①成人病(生活習慣病)
を合併した場合
にどのように対処すべきか、②高価な定期補
充療法が老人保健で認められるのか、③脆
くなった血管にうまく自己(家庭)輸注ができる
のか、④定年退職後の生活はどうするのか、
といったことが患者さんの新たな不安材料と
して加わることとなりました。
また一方で、早期に開始する定期補充療
ことで、患者さんやその家族の方のQOLに
関する諸問題は以前よりさらに多様化し、か
つ複雑な様相を呈するようになったといえま
す。したがって、われわれ医療者は随時アン
ケート調査などによって、様々な角度から患者
さんや家族の方が抱えている新たな問題点
を探し出し、対応する努力が求められている
と感じています。
2. 平成19年度のQOL調査の結果から見えてきたもの
頻回の注射が患者さんと
その家族の負担になっている
剤の頻回の輸注が負担になっているような患
者さんに対しては、カナダのステップアップ方
本調査において患者さんやその家族から
寄せられた希望と不安を表2にまとめました。
のではなく、週1〜2回に減らすなど患者さん
毎の“オーダーメイド定期補充療法”
も考慮さ
治療薬については安全な製剤を安定して
供給することはもちろんのこと、現在開発中
の長時間作用型製剤や経口・吸入・坐薬、
さらには常温管理可能な製剤への患者さん
のニーズが高いことを見ると、やはり冷所保
れるべきかもしれません。
存を基本とし、頻回の静注を必要とする既存
の治療薬に対する煩わしさは、患者さんと家
族の方のQOLの大きな阻害要因であると推
察されました。このため、今後、凝固因子製
式のように2)、輸注回数を一律週3回にする
インヒビターが発現すると
QOLが低下する
これまでにもインヒビター保有の血友病患
者さんでは原則として補充療法が無効となる
ため、入院日数や車イス使用日数、不自由な
関節数が増え、通常の血友病患者さんよりも
QOLが不良であることが知られていました3)。
表2 患者・家族から寄せられた希望と不安 ~平成19年度(2007年度)の調査報告書より~
1)
A)
医療に直接かかわること
治療薬について
• 長時間作用型製剤の開発
• 経口・吸入・坐薬などの開発
• 常温で管理できる製剤の開発
• 遺伝子組換え型第Ⅸ因子製剤の
導入
• インヒビター治療の向上
• 遺伝子治療の開発
• HCV/HIVの治療の向上
• より安全な製剤の開発
• 安定供給
医療体制について
• 血友病専門医の増加
(養成)
• 関連各科
(整形外科、
歯科など)
の
医師の養成
• 血友病ナースの養成
• 医師間の連携システムの構築
• 救急・時間外医療体制の充実
• 血友病センターの設立
• 地域による医療格差の解消
B)
医療保障にかかわること
• 公費負担の切り捨てへの不安
• 更新手続きの簡素化
• プライバシーの保護
• 役所の窓口の対応の改善
• 生命保険の加入制限への不安
• 退職後の不安
C)
社会生活上のこと
• 就職についての制限や不安
• 結婚への不安
• 老後の不安
• 病気への理解
D)
その他
• 患者会への参加や活動の充実
• 情報を取得する手段の充実
(例:製薬会社が発行する
情報誌など)
今回のQOL調査で「現在インヒビターがあ
る」と回答したのは50人(全回答例の6.0%)
で、インヒビター保有の患者さんでは頭蓋内
出血の頻度が通常の血友病患者さんよりも
有意に高かったほか、インヒビター用の止血
治療薬に対しても注射回数が多い、高価な
どの不満の声が上がっており、インヒビターの
発生はQOLの低下因子であることが示され
ました。免疫寛容療法の積極的導入やインヒ
ビター止血治療薬の改良等による治療効果
の向上、あるいはインヒビターが発生しない
工夫(インヒビターの予防)
の研究について今
後の進展を期待したいところです。
表3 医療機関を選択する際に重視する項目
~平成19年度
(2007年度)
の調査報告書より~1)
医療機関の選択
単純集計
血友病が分かる内科医、
小児科医
救急対応
血友病が分かる
整形外科医
血友病が分かる歯科医
血友病が分かる看護師
病院の近さ
特定疾患等の手続きに
詳しい医療事務員
製剤の選択が可能
血友病に対応できる
理学療法士
血友病治療薬が分かる
薬剤師
患者会
カウンセラー
ソーシャルワーカー
1
2
3
無回答
775
9
4
43
629
80
8
114
612 107
13
99
526 175
493 202
430 242
23 107
24 112
49 110
338 284
91
327 290
77 137
319 327
61 124
280
319
115
118
117
252 298 150 131
192 341 163 135
173 356 156 146
(1.重要かつ必須、2.重要だが必須ではない、
3.あまり重要とは思わない)
Hemophilia Topics vol.15
血友病性関節症が進行すると
QOLが低下する
関節内出血やその後遺症である関節障
害は、患者さんに身体障害による行動制約
を強いるため、日常生活や社会生活におけ
るQOLに大きな影響を及ぼします。このため、
できるだけ血友病性関節症を起こさない、あ
るいは進展させないように対策を講じることが
重要になります。すなわち、重症型の患者さ
んでは①出血する危険性が高い活動に参
加する前には必ず予備的補充療法を行う、
②出血時にはできるだけ早期に凝固因子製
剤を輸注するよう心がける、といったことが最
低限必要でしょう。
また、今回のQOL調査では重症型血友
病患者さんの47.9%が「定期補充療法を受
けている」と回答していましたが、これまでの
報告では関節内出血発症以前の2歳前後か
ら定期的に第Ⅷ因子、あるいは第Ⅸ因子製
剤を補充する一次定期補充療法によって、
その後の関節障害をほぼ完全に予防するこ
とが期待できることから、今後、乳幼児期か
らの定期補充療法の早期導入も考慮される
べきであると考えます。
血友病性関節症に進展した患者さんに対
しては、整形外科医やリハビリテーション科医
の介入も必要となります。このため、主治医と
各科の医師との連携がとれるようなシステムも
整備しておかなければならないでしょう。
せる要因であることを意識しつつ、患者さん
の心理面を含めたサポートにあたって欲しい
患者さんや家族の
心理的負担が大きい
看護師による心理的サポートが有効
本調査で、患者さんとその家族にとって
QOLの向上に有益だと思われる医療者側の
職種等について尋ねたところ、血友病の専門
医や血友病が分かる看護師といった回答が
(表3、図2)
上位を占めていました
。
血友病の専門医はともかく、看護師がこれ
ほど上位に位置づけられたことは、患者さん
の意識の中で、看護師の役割が明確になっ
たためと推察されます。つまり、患者さんにとっ
て、看護師は①医師との調整役を担ってくれ
る、②病気についての知識や情報を提供し
てくれる、③日常生活で困っていることの相
談に乗ってくれる、頼りになる存在なのです。
しかし、患者さんが看護師を頼りにしていると
いうこの状況を別の視点から捉えれば、患者
さんやその家族は常に誰かの支えが必要
な、心理的に不安定な状態にあるといえるか
もしれません。
本来、患者さんの心理的サポートは、臨
床心理士や心理カウンセラーが行うべき職務
ですが、わが国ではそれら専門職の人数が
十分とはいえない状況にあります。このため、
多くの施設では看護師がその役割を代行し
ているのが実情です。看護師には自らの存
在自体が患者さんのQOLを直接的に向上さ
図2 医療機関に対する満足度(クロス解析)~平成19年度(2007年度)の調査報告書より~
1)
1
主治医に対する信頼感
34
2
0.5
5
17
1
0
22
21 8 9
18
19
20 16610
7
11 14
15 13
12
と思います。また医師も、看護師がその役割
を発揮できるように環境作りに配慮すべきであ
ると考えます。
行政手続きの簡略化も必要
今回の調査で病院の事務職員の存在が
有益だとの回答も多かったのですが(表3)、
これは血友病患者さんは医療費公費負担制
度の手続きが必要であり、事務職員との接
触の機会が多いためと推測されます。この医
療費公費負担制度に関しては、患者さんか
らは今後もこのような制度が継続されるのかと
いった不安や、血友病は慢性疾患なのに1
年に1回更新の手続きをしなくてはならないこ
とへの不満の声も上がっています。患者さん
の経済的負担への不安や手続きの煩雑さか
らくる心理的負担を少しでも軽減するために、
医療施設に対しては医療ソーシャルワーカー
の配備が、医療行政に対しては、簡単な手続
きで手厚い経済的援助が受けられる仕組み作
りが求められていると感じています。
患者会への参加も大切
患者さんやその家族に、血友病に対する
正しい知識を身につけてもらうこともQOLの
向上には有用です。ただ、インターネット上で
飛び交う情報は玉石混淆で、中には信頼性
の低いものや有害なものもあり、鵜呑みにする
のは危険です。その点、患者会には基本的
にオブザーバーとして医師も参加するため、
間違った情報が一人歩きするなどということ
はありません。
この正しい情報の交換ができるということ
以外に、患者会に参加するメリットとして、①
患者さん同士あるいは家族同士で励まし合う
ことができる、②成人期を迎えた患者さんが
いきいきと患者会の活動を行っている姿を見
て、幼い血友病患者さんを持つ家族が勇気
づけられる、ということなども挙げられます。
−0.5
周囲に疾患への理解を求めることも大事
−1
−1
−0.5
0
0.5
1
社会的・心理的安心感
1.年齢 2.病院の主治医は血友病に対応できる 3.病院の主治医は血友病治療に積極的である 4.病院の主治医
は病状等をよく説明してくれる 5.近所のかかりつけの医師は血友病のことが分かる 6.病院に血友病に対応できる整
形外科医がいる 7.病院に血友病に対応できる歯科医がいる 8.病院に血友病に対応できる看護師がいる 9.病院
に血友病治療に積極的な看護師がいる 10.病院に気軽に何でも相談できる看護師がいる 11.病院に血友病治療
薬に詳しい薬剤師がいる 12.病院に福祉制度に詳しいソーシャルワーカーがいる 13.病院に相談のできるカウンセ
ラーがいる 14.病院に血友病に対応できる理学療法士がいる 15.病院に特定疾患の手続きに詳しい医療事務員が
いる 16.病院と患者会の連携がとれている 17.病院へは短時間で通院できる 18.病院は血友病治療の救急対応
をしてくれる 19.病院は製剤の選択が可能である 20.病院はプライバシーの保護に配慮している 21.病院からいつ
も十分な医療情報が得られる 22.今の治療環境に満足している
血友病やHIV感染症に関して、まだまだ
誤解や偏見があるのも事実です。幼児・学
童期の患者さんでは入園・入学の際に、成
人期の患者さんでは就職や結婚の際に周囲
にどのように病気のことを打ち明けるかが問
題となることがあります。できるだけ多くの国
民に疾患に対する理解を深めてもらう施策を
作ることも将来的に必要かもしれませんが、ま
ず血友病患者さんと直に関わり、かつ患者さ
んのQOLに影響を及ぼすと思われる保育
園・幼稚園・学校の先生、あるいはスポーツ
Hemophilia Topics vol.15
クラブの指導者といった特定の職種の方々
への働きかけから始めてみることが実際的か
もしれません。
し、今回の調査では、例えば、図2の項目5、
17がQOLに及ぼす影響が低いことなどからも
「近くに血友病の専門医がいないこと」を不
を患者さんが望んでいるということだと思いま
す。
血友病は、慢性の出血性疾患ですので
多少時間がかかっても年1回程度
の専門医の受診はいとわない
都合と感じている人は少ないと考えられます。
これは、専門医が不要であるということではな
く、日頃は近医(ホームドクター)
を受診して製
剤処方を受けつつも、1年に1回程度はたとえ
遠方であっても血友病包括医療の拠点とな
る血友病センター病院に行き専門医による総
合的な診察を定期的に受ける、
というスタイル
生涯にわたるトータルケアが必要です。この
ため、小児科・内科・整形外科・リハビリテー
ション科・歯科口腔外科などが揃い、血友病
の診療経験が豊富な基幹病院で年1回の診
察を受け、その他はホームドクターにフォロー
してもらう、
というのは理にかなった方法である
と考えます。
地域間による医療格差が指摘されている
昨今、
「近くに血友病の専門医がいないこと」
は患者さんのQOLの低下要因になるであろう
と推測していました。しかし大方の予想に反
3. 北部九州血友病センターでのQOL調査結果
産業医科大学リハビリテーション医学講座
の牧野健一郎らが、北部九州血友病センター
に受診している血友病患者さんと健康成人の
*
を用いて比
QOLをShort Form-36(SF-36)
4)
較検討した報告 によれば、精神的QOLは
両者で差が認められませんでした。一方、身
体的QOLは特に血友病Aの患者さんで大きく
(図3)
低下していました
。
それほど低下していないと判断するのは早計
かもしれません。なぜなら、そもそもこのような
アンケート調査に回答しようという意欲のある
患者さんは、精神的にも安定していると考え
られ、アンケート用紙を回収した段階で既に
バイアスがかかっている可能性が否定できな
いからです。
ちなみに、血友病患者さんの重症度と「身
体機能」
「日常役割機能(身体・精神)
」
「疼
痛」
「全体的健康感」
「活動」
「社会生活機能」
「心の健康」
といった項目との関連を調べたと
ころ、重症・中等症・軽症型の間に差が認め
られなかったのは
「心の健康」
のみでした。
歳の中高年の健康成人でしたが、それよりも
年齢が低い20〜76歳の血友病患者さんの方
で身体的QOLが低下していたのはやはり問
ン科、歯科などの関連各科
とのトータルケアを行っている
ことが、前述の調査報告に
題であると思います。
血友病患者さんの精神的QOLは、健康成
人と差が認められなかったのですが、この結
果をもって、血友病患者さんの精神的QOLは
ある患者さんが求める医療
機関の条件に近く、QOL向
上に寄与しているのではな
いかと考えています。
*健康関連のQOLを評価する代表的な調査様式
QOLスコア
一般的に若年層ほど身体的問題は少ない
ため、年齢が若いほど身体的QOLは高い傾
向にあります。この調査では対照群は48〜90
図3 身体的・精神的QOLスコアの比較 4)
ただ、当センターには専
(血友病患者vs.健康成人)
任の血友病ナースコーディ
ネーターが常駐し、日常的
60
に患者さんの相談に応じ、
血友病
(AとBの合計)
50
n=35
整形外科、リハビリテーショ
40
血友病A
n=28
30
血友病B
n=7
健康成人
n=374
20
10
0
身体的QOL
精神的QOL
4. まとめ
冒頭で述べたように、血友病の包括医療
の目的は、患者さんのQOLを健康な人のそ
れに限りなく近づけることにあります。近年の、
より安全で止血効果の優れた凝固因子製
剤の登場や定期補充療法の普及等によっ
て、患者さんのQOLは以前に比べて格段に
患者さん自身もQOLを向上させる努力、つま
り徹底した自己管理が求められています。し
かし、もし自己管理ができない場合、例えば
医師から週3回の自己注射を指示されている
のに、週2回しか実行できない場合は、「注
射がつらいので、できません」と医療スタッフ
場合は、看護師やコメディカルスタッフに伝え
るのも一つの方法であると思います。
今回の調査でも、血友病患者さんにとっ
て看護師の存在が大きいことが明らかにされ
ました。今後はさらに、血友病ナースの需要
も高まることが予想されるため、その育成も
向上したと考えられます。しかしながら、今回
のQOL調査からまだまだ改善が必要なこと
が明らかとなりました。今後は、チーム医療
を充実させ、ホームドクターと専門医がより一
層の連携を図り、トータルケアを推し進めて
に申し出て欲しいのです。医療者にできるこ
とは、患者さんのために治療環境を整備する
ことだけです。けれども、患者さんの方から
声を上げて頂かないと、医療者は患者さん
がどのようなことに不都合を感じているか分
急務となるでしょう。
いかなければならないと感じています。ただ
し、あくまでも治療の主役は患者さんです。
からないのです。医師に直接「こういうことを
して欲しい」と気持ちをぶつけるのが難しい
【引用文献】
1)
瀧 正志ほか:血液凝固異常症のQOLに関する研究 平成
19年度調査報告書, 2008
2)
F
eldman BM. et al.: J. Thromb. Haemost. 4
(6)
;12281236, 2006
3)
本多 康次郎ほか:臨床血液36
(6)
;416-421,1998
4)
牧野 健一郎ほか:WFH2006発表
この印刷物は,
再生紙を使用し,
環境にやさしい植物性大豆油インキで印刷しています。
(2008年5月作成)
KOG・3.0
(MC/TP)
資材記号
KOG・08・0002