(第 29 回 都市清掃 VOL.61 NO.283 平成 20 年 5 月 全国都市清掃研究・事例発表会 平成 20 年 1 月から特集号に採用) 焼却灰の焼成による再資源化材料を用いた最終処分場埋立技術の開発 パシフィックコンサルタンツ株式会社 資源・環境部 ㈱不動テトラ 建設本部 技術統轄部 ○日高 松浦 正人 彰男 1.はじめに 近年の最終処分場は,廃棄物の資源化の拡大による焼却処理量の減少や焼却灰のリサイクル等に伴い, 埋立処分量が減少し,不燃破砕物等を埋め立てる割合が増加している。このような処分場では,密実な 埋立が難しく埋立時の空隙が大きくなり,地盤の強度も安定化しないことが課題とされている。 また一方,市町村では,最終処分量は減少したものの最終処分場を新規に整備することの困難性から, 既存処分場の延命化,長寿命化などの要求も高くなってきている。さらに,現在の焼却灰のリサイクル は,リサイクルに係るコスト高による製品としての市場競争力が弱いことや安全性に対する市場の認識 などから,市場形成にはいましばらく時間を要するものと思われる。 このような現在の焼却灰のリサイクル,最終処分場の課題を解決する方法として,焼却灰を焼成した 製品(クリンカ)を最終処分場の埋立物(特に不燃廃棄物)の安定化材として活用する新しい埋立技術 の開発を行った。なお,本開発は,環境省での「平成 18 年度次世代廃棄物処理技術基盤整備事業」で 採択され,各種実験等(1)を行ったものである。 2.開発の目的と解決すべき課題 本開発の目的は,焼却灰にセメント製造時より少ない量のカルシウム化合物を添加した後,焼成・粉 砕して安定化材を製造し,それを不燃廃棄物に事前に混合して締固める新しい埋立工法の開発,および, 焼却灰の新しいリサイクル市場の開拓にも寄与できるものとすることである。 焼却灰は,カルシウム成分を含んでいるために自硬性を有することが知られているが,安定化材とし ての機能は,未知の部分があり,本開発の目的達成のためには,以下の点を明らかにする必要がある。 ①不燃破砕物との事前混合埋立により地盤強度が増加すること ②安定化材の固化作用により不燃破砕物のリバウンドが防止されること ③空隙が少なくなるとともに,安定化材の連結作用により透水係数が低下すること ④安定化材の粘着性による埋立物の比重増加に伴い埋立作業が改善されること また,良質な安定化材としてセメントや高炉スラグなども想定されるが,利用する安定化材は,最終 処分場の経営を考慮し,安価に製造可能な材料を前提とする。 3.開発方法 本開発は,右図のフローに基づき,初めに材料の予備性能実験を 行い,長期暴露実験に使用する材料の特定と基本性能を把握する。 その後,長期暴露実験を行い,実フィールドにおける性能を確認(図 2 参照)するとともに,本実験結果をより実現性のあるものとす るため,材料特性実験を並行して実施した。 予備性能実験 各種配合試験等 長期曝露実験(屋外) 地盤強度、透水性試験等 総合評価 効果の試算等 6.9 0.6 排水管 0.6 0.9 0.9 0.9 0.9 0.9 0.6 0.6 1:2.0 0.3m 0.9m 土 試料 材料特性実験(室内) 化学性状、X 戦回析等 図1 技術開発フロー 土 遮水シート 【実験組合せ】 A-1:安定化材 20:破砕ごみ 80 A-2:安定化材 30:破砕ごみ 70 A-3:安定化材 40:破砕ごみ 60 S-1(高炉スラグ+消石灰)20:破砕ごみ 80 S-2:(高炉スラグ+消石灰)30:破砕ごみ 70 S-3:(高炉スラグ+消石灰)40:破砕ごみ 60 B:破砕ごみ なお、高炉スラグ:消石灰は 90:10 である。 図2 長期暴露実験ヤード 4.技術開発の成果 本開発における評価は,前述の課題解決を踏まえ,表1の通りとし,高炉スラグやエコセメントと比 較評価も併せて行った。 表1 技術開発評価一覧 目 的 ①地盤強度の増加 ②リバウンド防止 ③透水係数の低下 ④埋立作業の改善 補足)材料特性 主な評価項目等 コーン貫入試験:室内)JIS A 1216 に準拠し,材令 1,7,28 日 屋外)室内と同様 密度(サンプリングによる容積及び重量測定) :屋外)1,7,28,3 ヶ月目 沈下量:室内)繰返し載荷試験 屋外)埋立高変化を 1,7,28 日,3 ヶ月目 透水係数:室内)定水位法で,材令 1,7,28 日 屋外)原位置透水試験を 9 週目 ※参考として水質:屋外)溶出試験を 1,4,9,23 週目 施工性/飛散性(参考として悪臭):室内)臭気材令 1,7 安定化材の化学成分分析 安定化材の X 線回折試験 (1)地盤強度(図3 参照) 4週間経過後のコーン貫入試験では1~5cm しか貫 入せず,そのときの貫入抵抗は 2,098~2,796kN/m2 でセメントなどと比べると劣るが,タイヤなどの接地 圧以上を確保している。 (2)リバウンド防止(1)(2) 容積比で 3 割程度までの混合の場合,転圧後の体積 は廃棄物単体の場合よりも減少した。 (3)透水係数の低下(図3,4 参照) 透水係数は,概ねシルト程度の 10-2~10-5 であった。 また,BOD,CODの溶出量が時間経過とともに 減少が少ないことから,安定化材の固化作用により, 埋立物内のBOD,CODの初期洗い出しが少なく, 時間経過しても一定の値を示しているものと思われる。 (4)埋立作業の改善(図4 参照) 安定化材と混練りした廃棄物はソイルモルタル状と なって固結したため,廃棄物の飛散防止効果が得られ たほか,廃棄物がむきだしの状態ではない施工ができ, 景観が改善できた。 また,悪臭については,埋立物単体にくらべ,アン モニア臭が増加した。(2) 評価判断基準 トラフィカビリティの確保 >2,000kN/m2 リバウンドしないこと 表面排水が浸透より卓越 <10-3 飛散がないこと コーン貫入試験(kN/m2) 7,000 6,000 高炉スラグ 5,000 エコセメント 4,000 安定化材 3,000 2,000 タイヤ接地圧 1,000 クローラ接地圧 汚泥(土) 0 -60 -40 -20 4割混合 0 20 3割混合 40 60 2割混合 80 締固後の空隙 混合の目安 1.00E+01 清浄な礫 -60 -40 1.00E+00 -20 0 20 40 60 80 1.00E-01 エコセメント 砂及び礫 1.00E-02 1.00E-03 微細砂、シルトなど 1.00E-04 1.00E-05 透水係数(cm/s) 図3 混合割合と強度,透水係数 COD 1,000 1,000 100 100 m g/L m g/ L BOD 10 1 10 1 初期 A-1 S-3 1 4 A-2 B A-3 9 22 週 S-1 S-2 初期 A-1 S-3 1 A-2 B 図4 水質の変化(BOD,COD)・埋立状況(写真) ※初期値は組成分析結果からの推定値(写真は埋立表面状況) 4 A-3 9 S-1 22 週 S-2 試験埋立状況 【実験組合せ】 A-1:安定化材 20:破砕ごみ 80 A-2:安定化材 30:破砕ごみ 70 A-3:安定化材 40:破砕ごみ 60 S-1(高炉スラグ+消石灰)20:破砕ごみ 80 S-2:(高炉スラグ+消石灰)30:破砕ごみ 70 S-3:(高炉スラグ+消石灰)40:破砕ごみ 60 B:破砕ごみ なお、高炉スラグ:消石灰は 90:10 である。 5.総合評価(新しい廃棄物処理システムの提案) 従来の埋立工法と比較し,本工法は,飛散防止,容量確保,さらに早期安定化の技術的特徴を確認す ることができた。また,これらの結果に加え,追加で実施した材料特性実験結果(2)を踏まえると,安定 化材の焼成条件によっては,より高い効果を得ることも可能と思われる。 表2 従来の埋立工法との比較(本技術開発で達成できた効果) 従来の埋立 高密度埋立 本埋立工法 作業内容 廃棄物撒出し+転圧+覆土 廃棄物撒出し+転圧+覆土+転圧 安定化材混合+撒出し+転圧 特長 容量確保(高密度化) 飛散防止+容量確保+早期安定+浸出水低減 これらの最終処分場の運用上の改善は,最終処分 原料の主要受入先 場のイメージによる住民不安を解消するほか,採算 焼却施設 (市町村) 性の向上につながると思われる。 凡 例 焼却施設 :不燃ごみ (民間事業者) また,本埋立工法は,焼却灰を主原料に焼成して 焼却施設 :焼却灰 (市町村) :安定化材 得られる再資源化製品に,不燃破砕物主体の処分場 焼却灰の埋立処 分料金相当受入 既存生産設備 の延命効果や強度を付与し,環境改善効果を有する 焼成処理による (石灰石) 安定化材の製造 資材としての付加価値を持たせることになり,最終 破砕施設 (市町村) 処分場という管理された環境で再資源化製品の利用 製品の販売先 焼却施設 を行う点から,有害物質の溶出に係る技術開発など (市町村) 最終処分場 が軽減され,エコセメント等と比較して安価に製造 (市町村) 2,000 円/t で販売 破砕施設 を行えることができる。 (市町村) 最終処分場 一方,我が国のセメントや石灰の生産量は長期的 (民間事業者) 廃棄物と安定化 に漸減傾向にあり,余剰となってきている生産設備 「平成 17 年度 既存の生産設備を活用した 材の混合埋立 公共関与による施設整備に係る調査研究報告書」 能力の活用が業界のニーズのひとつとなっている。 (環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部)を加筆修正 焼却灰を原料とする安定化材の製造は,廃棄物の処 従来 10 年⇒13 年に延長 従来 10 年⇒2 年に短縮 理を行う施設に限らず,セメントや非鉄金属,石灰 埋立完了 最終処分 水処理 跡地利用 焼却灰 の製造業で保有している遊休化した設備等の活用が 従来に比べ約 1/10 購入 水処理継続 処理委託 灰処理 可能であり,新規施設整備に比較して大幅なイニシ 製造過程における事業採算性;PIRR=15%(10 年目) ャルコストの削減効果につながる。さらに地域産業 ※商品価格は覆土購入費と同等 の活性化の観点から取り組むことにより用地の確保 ※400t/日の施設を想定時 といった障壁も少ないことから,処分場逼迫問題の 最終処分場の延命化効果 人口 150 万人規模の都市で 50 万m3 相当分 解決に大きな原動力となることが期待される。 建設費にして約 75 億円相当の延命効果 このような本開発効果や市場等を踏まえて,採算 ※15 年間での延命化による建設費の削減分 性を試算した結果を右に示す。この結果から,本開 ※建設費は実績ベースより 発技術は,今後,資源循環型社会の中で望まれる最 図5 社会的効果の試算 終処分場の埋立工法として位置づけることも可能で あるとともに,リサイクル社会における選択肢を増やすことに寄与でき,資源循環型社会への転換をよ り地域の特性に合わせて実現する可能性を持っていると言える。 ただし,本開発技術を社会的に導入するためには,モデル処分場での実証実験を行い,季節や天候に よる埋立施工性,浸出水水質の長期動向について知見を深めるとともに,不燃破砕物主体の最終処分場 の安定化の定義について,再考も必要と考える。 【謝 辞】 本開発は,産業廃棄物処理事業振興財団の共同研究の一環として,財団並びに民間企業 10 社の協力を得て平成 18 年度 環境省補助金対象事業として実施したものであり,各関係機関の方々に深謝いたします。 【引用・参考文献等】 (1) 平成 18 年度 次世代廃棄物処理技術基盤整備事業「焼却灰の焼成による再資源化と最終処分場プレミックス埋立技 術」調査報告書(平成 19 年 3 月) (2) 焼却灰の焼成による再資源化と最終処分場埋立技術の開発 ~繰返し載荷試験と臭気の室内試験結果~ 第 18 回廃 棄物学会研究発表会(平成 19 年 11 月)
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