第7章 柔構造底樋によるため池改修工法 -127- 第7章 柔構造底樋によるため池改修工法 新 技 術 名 柔構造底樋によるため池改修工法 新技術番号 H16-K1 新技術担当 官民連携開発((独)農業工学研究所他) 都道府県名 山口県 新技術の区分 ○ 先進的技術 出願手続中 従来技術改良(製品) その他 特許・実用新案の有無 ため池からの取水施設として現在一般に用いられている底樋はコンクリート 製の剛構造である。そのため、地盤沈下等が生じると、底樋に過大な応力が発生 実 施 局 の 総 合 評 価 したり、地盤との間に隙間を生じて、堤体に重大な影響を与えるおそれがある。 柔構造底樋は、大きな伸縮・屈曲性と離脱阻止性を備えた継手管路で構築され、 堤体内に直接埋設することにより、堤体の変形や地盤の沈下に追従することがで きる。また優れた耐震性も有しており、鉄筋コンクリート基礎を省略することに よる施工性の向上と経済性を備えた改修が実現できる。 7.1 新技術の概要 7.1.1 新技術導入のポイント 全国に 21 万個のため池が整備されているが、調査や改修を要するものが 2 万個あるとされてい る。これらのため池の改修は農業用水を確保し安定的な水運用を担保する上で極めて重要で、地 域社会の安全性を確保するためにも早急に着手しなければならない問題である。 老朽化の進んだため池は底樋周辺部分からの漏水や堤体の浸食を受けていることが多く、この 部分の安全性向上によってため池の機能を大きく改善することができる。 また底樋部分の集中的改修手法によりため池機能の改善・改修事業の効率化が可能となること から、事業全体の経費縮減が図られるだけでなく、多くの老朽ため池の改修・改善を推進できる。 7.1.2 新技術の概要 底樋部分の安全性を向上するため、堤体の変形や地盤の沈下に追従する柔構造の底樋を開発し、 その設計・施工方法を確立することによって老朽化の進んだため池の底樋改修方法を実現する。 このため、パイプラインとして実績のある離脱阻止性を有する継手管路を底樋として堤体内に直 接埋設し、コンクリート巻き立てを排除した施工性の改善と安全性・経済性を備えた底樋管改修 を実現する。 コンクリート(剛)構造底樋 柔構造底樋 斜樋一体構造 老朽化 水みち・浸食 図 7.1 概要図 -129- 不同沈下に追従 (2)施工手順 本工法の施工手順を以下に示す。 1)基盤の成形 管布設ラインに沿って幅 1m・高さ 0.1m程度の台基礎を 成形し、レベル調整する。 管継手部には接合に必要な継手掘りを行う。 2)底樋の接合 心出し・レベル調整を行い、所定の接合要領に従って接 合作業を行う。 3)止水壁の設置 柔構造底樋の止水壁は粘性土で構築する。粘性土で巻き 立てる部分の管外面には止水板を取り付け、隙間なく密着 させる。 4)管底部への基礎材の投入・締固め 管底部は基礎材を投入する前に台基礎を削るようにし て押し込み、薄板等で十分に突き固める。 -131- 5)撒出し・転圧 タンピングランマを使用し、撒出し厚 0.2mで入念に締 固める。 6)埋戻し 管頂+0.6mより上は堤体盛土と同様の機械施工とする。 7)完了 軟弱地盤上のため池で本工法の実証試験を行った結果、 嵩上げ盛土を伴う堤体改修により部分的に 200mm を越え る不同沈下を生じたが、柔構造底樋は沈下に追従している ことが確認されている。 7.2 新技術に適合する現場条件 ため池整備に伴う底樋の構築にあたり、中山間地から沖積低地までのあらゆる条件に広く適用 できる。 柔構造底樋は、伸縮・屈曲性と離脱阻止性とを備えた継手構造のダクタイル管で構成し、適用 が可能な口径は 75mm~2600mm である。 特に、下記のような条件で本工法は大きな効果を発揮する。 ・ 軟弱地盤上のため池など、比較的大きな沈下が予測される場合。 ・ 腹付け盛土等により新たな増加荷重が作用し、堤体地盤が局部的に不同沈下を生じる場合。 ・ 地震動に対して底樋の安全性向上が求められる場合。 -132- 7.3 設計の考え方 (1)底樋断面方向の検討 柔構造底樋の設計にあたっては、断面方向と管軸方向について検討する。 断面方向の検討は、土地改良事業計画設計基準 設計「パイプライン」基準書 技術書(以下、 「設計基準・パイプライン」)に準じて‘とう性管’の構造計算を行い、管厚を算定する。 (2)底樋管軸方向の検討 管軸方向の検討は、地盤の沈下量分布、堤体の断面形状等を考慮して各継手の屈曲角度が許 容値以下となるよう配置し、管長を決定する。 (3)付帯構造の検討 止水壁は、鉄筋コンクリート基礎構造の底樋では基礎から 0.5~1.0mの張り出し長を有する コンクリート製が一般的であり、遮水性ゾーン内に設置することが原則とされている。しか しながらコンクリート製の止水壁は沈下への追従を阻害したり亀裂の起点となったりする恐 れがあることから、柔構造底樋では図 7.3 に示す粘性土を用いた止水壁とした。また管体に沿 って連続した水みちの形成や土粒子の移動を抑制するため、管外面に止水板を設ける。 50 0. 粘 性土 0 0. 0 .5 00 0 0 6 83 0. 500 0. 20 50 0 .5 00 0. 図 7.3 柔構造底樋の止水壁の例 (4)斜樋との接続 コンクリート構造の取付ボックスを設ける場合、この部分が柔構造底樋の上流側の起点とな り、ボックスを介して斜樋と接続する。また取付ボックスに分岐管を用いれば底樋と斜樋を一 体構造の管路で構成できる。 (5)仕切弁の設置方法 底樋の出口水槽から取水する方式を改め、柔構造底樋と受益地のパイプラインとを直結すれ ば、ため池水位を末端での水管理に有効利用することができる。その場合、底樋にはため池水 位相当の圧力が作用し、底樋の下流側に仕切弁を設置して流量を調整する。 -133- 7.4 設計のフローチャート 底樋の設計フローを図 7.4 に示す。 フローに示すとおり、柔構造底樋の設計にあたっては断面方向と管軸方向のそれぞれについて 検討を行う。 断面方向の検討フローを図 7.5 に、管軸方向の検討フローを図 7.6 にそれぞれ示す。 取水施設のタイプ決定 取水塔 導水トンネル 斜樋+底樋 斜樋の設計 取水孔位置 取水孔径 斜樋管径 付帯工 最大取水量 緊急放流量 緊急降下水深 底樋の設計 位置 地盤調査 管径 工法(開削・推進) 【従来工法】 【柔構造底樋】 (図5参照) 断面方向の検討 ・構造計算 (図6参照) コンクリート基礎構造の検討 ・断面形状 ・継手(目地) ・止水壁 管軸方向の検討 ・沈下量 ・継手配置 付帯構造 ・斜樋との接合 ・止水壁 ・土砂吐、バルブ 図 7.4 底樋(取水施設)の設計フロー -134- START 縦断計画 縦断計画 埋設深さ 付帯構造物の配置 横断計画 基礎工の選定 施工断面の決定 荷重の種類 荷重の組合せ 荷重の設定 荷重計算 モーメント計算 管厚計算および管種選定 構造計算 縦断方向 横断方向 耐震設計 防食 配管設計 継手の配置 構造物との接合 付帯施設の設計 END 図 7.5 柔構造底樋の断面方向検討フロー -135- START 地盤の沈下量分布 制約条件 最大スパン長 継手設置不適位置 継手の変形能力等 配管(スパン割)の仮定 各スパンの管継手底面が沈下量 分布に接する折れ線を描く NO 管体底面と 沈下量分布との離れが 十分小さいか? YES NO 管継手の屈曲、 伸縮が許容値 以内か? YES END 図 7.6 柔構造底樋の管軸方向検討フロー 7.5 設計にあたっての留意事項 底樋の断面方向の検討は、 「設計基準・パイプライン」に示された構造計算の方法に準じて行う。 この基準で設計数値が示された埋め戻し材料は、砂および砕石であるため、堤体材料として用 いるような細粒分の多い材料については、室内材料試験や試験施工等を実施し、パイプの基礎材 料として適用できることを確認する必要がある。 【参考】実証試験における底樋の設計・施工においては、 「砂礫混じり粘土(CL-SG)」を埋め戻し材 料に適用し、撒出し厚 20cm、締固め度 D 値 90%以上で管理した。 構造計算には「粘性土地盤における砂質土」の反力係数値を採用した。実証試験で行なった管 のたわみ量計測の結果から逆算すると、 反力係数値は設計値の 2 倍程度と良好な値を示している。 -136- 7.6 設計に必要な各種数値の考え方 柔構造底樋の断面方向および管軸方向の設計について、図 7.5、図 7.6 のフローに沿って設計数 値の選定および検討を行った事例を以下に示す。 (1)断面方向の設計例 1)設計条件 1: 3 ( 埋 戻 し 土 の 単位 体 積 重 量 w=18 kN/m 1) ため池堤体を図7.7 のように部分掘削して、底樋の改修を行う場合を考える。 内 部 摩 擦 角 φ=25 ° 1: ( 現地盤:粘性土 1) 土 被りH=6.0 m φ800 ダ ク タ イ ル 鉄管 2 種 (T=12.0mm ) 0.836 基 礎 材 : 砂 質 土(SC材) (m) 1.600 2.436 3.272 図7.7 設計条件 -137- 2)土被りによる鉛直土圧 柔構造底樋に作用する土圧は、次の土圧公式で求める。 H≦2.0 m Wv=w・H(垂直土圧公式) 鉛直土圧 H>2.0 m 形 Wv=Cd・w・B (マーストン公式) 突 出 形 Wv=Cc・w・Dc (マーストン公式) 矢板施工 Wv=w・H 溝 (垂直土圧公式) ∆ X1 水平土圧 Pv = 1 ・ e ′ ・ 2 F1 R 初めの位置 H = 0 沈下後の位置 (a)突出形(不完全溝状) (b)とう性管水平土圧 図7.8 とう性管の土圧分布 ① 垂直土圧公式 矢板施工の場合および素掘り施工で土被り 2 m 以下の場合、鉛直土圧は垂直公式で計算す る。 Wv = w・H ----- (1) ここに、 Wv:土被りによる鉛直土圧 (kN/m2) w:土の単位体積重量 (kN/m3) H:土被り (m) -138- 素掘り施工で土被り 2 m を越える場合の鉛直土圧は以下による。 ② マーストン公式(溝形) 溝形の場合の鉛直土圧を計算する。 Wv = Cd・w・B ----- (2.1) 1 − e −2 K・µ '( H / B ) Cd = 2 K・µ ' ----- (2.2) ここに、 Cd:溝形の場合の土圧係数 B:管頂における溝幅 (=3.272m) K:ランキンの主働土圧係数= 1 − sin φ 1 + sin φ μ’:埋戻し土と地山の摩擦係数≒μ μ:埋戻し土の摩擦係数 φ:埋戻し土の内部摩擦角 = tan φ (=25゜) ③ マーストン公式(突出形) 突出形の場合の鉛直土圧を計算する。 Wv = Cc・w・Dc ---- (3.1) H ≤ H e のとき e −2 K・µ ( H / Dc ) − 1 Cc = − 2 K・µ ----- (3.2.1) H > H e のとき e −2 K・µ ( H / Dc ) − 1 H H e − 2 K・µ ( He / Dc ) Cc = + − e − 2 K ・µ Dc Dc ---- (3.2.2) 上式のHe は式(3.3)から求める。 2 H H e γ sd・P 1 H e e − 2 K・µ ( He / Dc ) − 1 1 − − − − − 2 K ・µ 3 2 Dc 2 K・µ Dc Dc H γ ・P H H e − 2 K・µ ( He / Dc ) H He H 1 − sd − − = −γ sd・P・ ・ e + ・ e Dc 3 Dc Dc 2 K・µ Dc Dc Dc ----- (3.3) ここに、 -139- Cc:突出形の場合の土圧係数 Dc:管の実外径 (=0.836m) P:突出比=1.0 γsd:沈下比=-0.1 ここで、式(2.1)の溝形公式による鉛直土圧と、式(3.1)の突出形公式による鉛直土圧を比較 し、より小さい方の値を採用する。さらに、これらの値が土被り 2mの垂直公式による土圧 より小さい場合には、土被り 2mの垂直公式の値を鉛直土圧とする。 図 7.7 の設計条件で計算すると、 ・溝形公式による鉛直土圧 Wv=77.87 kN/m2 ・突出形公式による鉛直土圧Wv=84.82 kN/m2 ・土被り2mの垂直公式の値Wv=36.00 kN/m2 したがって、求める鉛直土圧は となる。 Wv=77.87 kN/m2 である。 鉛直荷重として、土被りによる土圧以外に、自動車荷重や施工機械による荷重などを考慮 する場合は、別途「設計基準・パイプライン」に従って求めるものとする。 3)たわみ率の計算 柔構造底樋の断面方向のたわみ量を次式により計算する。 ΔX=ΔX 1 + ΔX 2 ΔX 1 =F1・ ΔX 1=1.3・ --------------------------- (4.1) 2・( K・Wv・R 4 +K 0・w0・R 5 +K p・Wp・R 4 ) EI+ 0.061・e'・R 3 ----- (4.2) 2・(0.096・77.87・0.412 4 +0.085・9.8・0.412 5+0.169・0.84・0.412 4 ) = 0.0203 160000000 ⋅ 0.0109 3 / 12+0.061・2820・0.412 3 ΔX 2 =F2・ 2・K・Ww・R 4 EI + 0.061・e'・R 3 ---------------------- (4.3) ⊿X2=0 ここに、 ΔX:水平たわみ量 (m) ΔX1:荷重(活荷重を除く)によるたわみ量 (m) ΔX2:活荷重によるたわみ量 (m) Wv:土被りによる鉛直土圧 (kN/m2) Ww:自動車荷重による鉛直土圧(ここでは考慮しない) w0:水の単位体積重量=9.8 kN/m3 WP:管体の単位面積当たりの重量=γp・T -140- (kN/m2) γp:管材の単位体積重量(ダクタイル鉄管の場合、γp=70 kN/m3) K,K0,KP:支持角によって決まる係数(K=0.096,K0=0.085,KP=0.169) F1:活荷重以外の荷重による変形遅れ係数 (現地盤が粘性土、基礎材が砂質土の場合、1.3) F2:活荷重による変形遅れ係数=1.0 E:管材の弾性係数(ダクタイル鉄管の場合、E=160000000 kN/m2) I:管長 1mあたりの管壁の断面 2 次モーメント=t3/12 (m4/m) R:管厚中心半径= Dc − T 2 (m) Dc:式(3.1)と同じ。 T:規格管厚 (m) t:計算管厚 (m) e’:基礎材の反力係数(kN/m2) e’は、式(5)で計算する。 e' = e0 '・α a・α b・α w ------ (5) =3000・1.0436・1.0・0.9= 2820 ここに、 e0 ’:基礎材の基準反力係数(現地盤が粘性土、基礎材が砂質土の場合、3000kN/m2) αa:溝幅による補正係数 式(5.1)による。 α a = {1 + 01 . ・( Bc − Bs )} ≤ 12 . ------ (5.1) =1+0.1・(2.436-2.000)= 1.0436 ここに、 Bc:管中心位置での溝幅 (=2.436m) (=2.000m) Bs:標準溝幅 αb:基礎材の締固め度合による補正係数(締固め度Ⅰの場合 1.0) αw:地下水の影響による補正係数 αw = Pr − 45 50 式(5.2)による。 ----- (5.2) =(90-45)/50 = 0.9 Pr:基礎材の締め固め度 (=90%) 次式によるたわみ率が、設計たわみ率(3%)以下でなければならない。 δ= ΔX ×100 2・R ------- (6) =0.0203÷(2×0.412)×100=2.46 ←3%以下であり、条件を満足している。 -141- δ:たわみ率 (%) R:式(4.2)と同じ。 ΔX:式(4.1)による。 4)水平土圧の計算 たわみ量から水平土圧を計算する。 Ph = 1 e ' ΔX 1 1 e ' ΔX 2 ・ ・ + ・ F1 R 2 F2 R 2 -------- (7) 1 2820 0.0203 = ⋅ ⋅ + 0 =53.44 1.3 0.412 2 ここに、 Ph:水平土圧 (kN/m2) F1,e’,R,ΔX1:式(4.2)による。 F2,ΔX2:式(4.3)による。 5)発生曲げモーメントの計算 円周方向の発生曲げモーメントが最大値を示す管底部について、下式で計算する。 M = k・(Wv + Ww )・R 2 + k 0・w0・R 3 + k p・Wd・R − 0.166・Ph・R 2 ---- (8) =0.314・77.87・0.4122+0.321・9.8・0.4123+0.102・1.978・0.412-0.166・53.44・0.4122 =2.948 ここに、 M:発生曲げモーメント (kN・m/m) R,w0:式(4.2)と同じ。 { ( π 2 Dc − Dc − 2・t 4 Wd:管長1m あたりの管体重量 =γp・ )} 2 (kN/m) γp:式(4.2)と同じ。 Dc:管の実外径 (m) t:計算管厚 (m) k,k0,kp:設計支持角によって決まる係数(k=0.314,ko=0.321,kP=0.102) Ph:式(7)による。 -142- 6)許容水圧 管の許容水圧は、下式で求める。 σa = H a・Do 6・M + α '・ 2 2・t t --------- (9.1) より、 Ha = 2・t 6・M ・ σ a − α '・ 2 Do t ------- (9.2) =2・0.0109/(0.836-0.0109・2)・(189000-0.7・6・53.44/0.01092) =2270 (kN/m2) ←正の値であり、条件を満足している。 ここに、 σa:許容応力 (ダクタイル鉄管の場合σa =189000 kN/m2) Ha:許容内圧 (kN/m2) t:計算管厚 (m) Do:管の内径=Dc-2・t (m) Dc:管の実外径 (m) M:式(8)による。 α':曲げ応力を引張応力に換算する係数(ダクタイル管の場合 0.7) 式(9.2)で求めた許容内圧が、設計内圧よりも大きければよい。 底樋に内圧が作用しない場合には、式(9.2)が正の値であればよい。 -143- (2)管軸方向の設計例 1)設計条件 管軸方向の検討は、即時沈下量と圧密沈下量を合計した残留沈下量が図7.9のように分布す る場合を考え、底樋の配管(継手配置)を検討する。 30 6 .0 60 110 6 .0 200 2 10 6 .0 190 50 100 10 0 6.0 4.0 30 20 3.0 200 ( mm) 図7.9 地盤の沈下量分布と底樋の配管仮定図 2)検討手順 柔構造底樋の管軸方向の検討は、図 7.6 に示した手順に従い、継手の屈曲角度が許容値以内 になるよう、適切な配管(継手位置)とする。 本計算の対象となる呼び径 800mm ダクタイル管S形継手の許容曲げ角度および伸縮余裕 量を表 7.1 に示す。 表 7.1 S形継手の許容曲げ角度および伸縮余裕量 呼び径 許容曲げ角度 伸縮余裕量 備考 800 2°10′ ±60mm 伸縮余裕量は、継手が許容曲げ角度まで 屈曲した状態における余裕量を示す。 -144- 3)検討結果 図 7.9 で仮定した底樋の配管をもとに、管路両端部を自由端として各継手の位置を地盤変位 (沈下量分布)に一致させたとき、それぞれの屈曲角が許容曲げ角度以内であるか否かを検証 した。 地盤変位と底樋変位の関係を図 7.10 に、そのときの各継手の屈曲角度を表 7.2 に示す。 3.0 Joi nt 2 6.0 4.0 30 20.0 Joi nt 3 Joi nt 4 6.0 24 6.0 18 6.0 12 6 0 0 30.0 30.0 50.0 20.0 Joi nt 5 27.5 50.0 60.0 100.0 110.0 50 60.0 100 150 190.0 210.0 190.0 200.0 200 200.0 地盤変位(最終) 底樋(継手部)変位 最終沈下量 (mm) Joi nt 1 250 300 図 7.10 地盤変位と底樋管路変位の関係 表7.2 地盤変位に応じた底樋管路の継手屈曲角度 上流端 Joint1 Joint2 Joint3 Joint4 Joint5 下流端 下流端からの距離 31.0m 28.0m 24.0m 18.0m 12.0m 6.0m 0.0m 継手部沈下量 20mm 27.5mm 50mm 190mm 200mm 60mm 0mm 継手屈曲角度 - 0°10’45” 1°0’52” -1°14’28” -1°25’56” 0°45’49” - 注)屈曲角度の符号は、上に凸の方向を+とした。 図 7.9 および表 7.2 より、 配管された各継手が屈曲することにより、最も大きな屈曲箇所(Joint4) でも許容曲げ角度(2°10’)以下であり、また管路と地盤の沈下曲線との離れ(相対変位)も 50mm 以下に抑えられている。 したがって継手の配置は、最初に仮定した図 7.9 の配管図のとおりでよいと判断される。 -145- 7.7 積算の考え方 本工法の歩掛については、管材料費、止水板の材料費等は見積による積算とし、管布設工、人 力土工等の一般施工および機械施工については「土地改良工事標準積算基準」による。 7.8 参考歩掛・積算 図 7.11 に示す施工断面のφ700mm 柔構造底樋を例に、積算事例を以下に示す。 3.500 1.000 1.000 7.500 ( 1 : 1. 0 ) 16.500 埋戻し(発生土) 7.000 1.667 ) φ700 ダ ク タ イ ル 管 ( S 形 ) ( 1 : 1. 0 0.600 埋戻し(良質土) 0.733 1.233 0.500 0.500 1.500 2.966 図 7.11 柔構造底樋の施工断面例 表 7.3 積算事例 名 称 ダクタイル管 規 格 φ700 S形 2 種 布設費 数量 単位 単価 摘要 1.667 本 10m 1.667 本 K形の 30%増 異形管等 管材費の 20%とする 基盤整形 39.9 m2 掘削 595.0 m3 埋戻し(良質土) 38.6 m3 埋戻し(発生土) 552.2 m3 場外搬出土工 金額 粘性土 42.8 m3 合計(10m) 1m当りの単価 -146- 3.500 図 7.11 に示した柔構造底樋と、同じ条件でヒューム管を用いた底樋とのコスト比較を表4に示 す。 本事例では付帯施設を含まず、最大掘削断面を選んで相対比較した。鉄筋コンクリートを省略 した柔構造底樋の方が掘削断面が小さく、やや安価となる。 なお、底樋の施工断面は堤高が変化するため管軸方向に一様ではなく、詳細は全延長を対象と した積算が必要である。 表 7.4 コスト比較例 底樋の構造 柔構造底樋 従来構造 ダクタイル管 ヒューム管 管種 S形 2 種 外圧 2 種 口径 700mm 700mm 管材料 ため池堤高 7m 7m 掘削法面勾配 1:1.0 1:1.0 管の基礎 砂質土(SM 材、SC 材など) 鉄筋コンクリート全巻基礎 基床部 基床厚 0.5m 不同沈下に対抗するため、1 (材質は基礎材と同じ) m厚さを地盤改良する (良質土に置換) 埋戻し 管頂+0.6mまでを基礎材、そ 全巻コンクリート周囲は良質 の上は発生土で埋め戻し 土、コンクリート上面+0.6m より上は発生土で埋め戻し 止水壁 積算に含まず 積算に含まず 取水施設 積算に含まず 積算に含まず (取水ゲート、斜樋など) 管材費 円/m 柔構造底樋 従来構造 74,500 69,900 (コンクリート基礎含む) 7.9 土工費 円/m 132,900 155,000 合計 円/m (比) 207,400 (100) 224,900 (108) 施工段階での留意事項 円形断面の管を直接地盤内に設置することから、底樋管周囲、特に管下部の撒き出し・転圧を 確実に行うことが水みち抑止のために重要である。 管底部の埋戻しを良好に行う手順は、まず台基礎を成形し、その上に管を設置する。次に台基 礎を削るように管底部に押込み・薄板で突き固める。その後、埋め戻し材料を投入・転圧する。 通常より 1 工程入念な施工となるが、この手順により、管底付近での管と土との密着性が向上 することを確認している。 -147- 7.10 設計 Q&A Q1:柔構造底樋を採用した場合に生じる不同沈下への対応策は? A1:継手の伸縮屈曲により周辺地盤の不同沈下に追従するので、その分、管内面(通水断面)に 若干の蛇行を生じることとなる。維持管理面を考慮して蛇行を小さくする方法としては、配管 施工時に即時沈下相当量を上げ越ししておくことが考えられる。 Q2:柔構造底樋の追従できる沈下量は? A2:基礎地盤の圧密沈下量(底樋を布設する堤軸直角方向の沈下量分布)に合わせて適切な位置 に継手を配し、管1本ごとの長さを決定すれば、想定される沈下量に対応できる。沈下量の許 容値は、河川構造物の柔構造樋門では許容残留沈下量の目安値として 30cm 程度が示されてい る。 Q3:底樋の継手の強度は? 変形しても水密性に影響はないのか? A3:柔構造底樋の継手は水密ゴム輪の止水構造により、管体と同等以上の水密性である。またダ クタイル管の離脱防止継手は許容曲げ角度(φ800mm の場合 2°10’)まで屈曲した状態でさら に±60mm の伸縮が可能であり、変形しても水密性に影響はない。 Q4:底樋を圧力管として使用することは可能か? A4:従来構造のコンクリート基礎のヒューム管では、内圧に対応するために 2 重管構造とし、内 部に別の圧力管を挿入している。柔構造底樋は圧力パイプラインで実績があり高い水密性能を 有する継手構造管路であるので、常時内圧が作用する圧力管としても使用できる。 -148-
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