3.養液土耕栽培(かん水同時施肥)技術

3.養液土耕栽培(かん水同時施肥)技術
1)養液土耕栽培の特徴
従来の施肥法では一回に施肥す
る量が多く、肥料濃度の過不足が
大きくなり、生育に好適な窒素濃
度を維持するのは困難でなる。
これに比べ、リアルタイム診断
を用いた施肥では施肥回数は増え
るが好適窒素濃度は従来の施肥法
より維持しやすくなる。さらに、
施肥を液肥で灌水と同時に行い、
灌水施肥システムを自動化すれば
省力化が可能となり、好適窒素濃
度も理想パターンに近くなる。
<主な効果>
(1)かん水・施肥の省力化
(2)施肥・かん水量の削減
(3)塩類集積が起こりにくい
(4)品質向上、上物率の増加
(5)病気の発生軽減
図A−4
リアルタイム診断を活用した施肥の方法と
肥効パターン
(愛知農総試・加藤)
2)養液土耕栽培のシステム
図A-6
図A-5
灌水施肥システム例
(メーカー資 料による
点滴灌水施肥用システムの概要
(「 野菜・花卉の養液土耕」より)
大 塚化学)
養液土 耕栽培で は、必要 量を均一 に灌水施 肥する ことが重 要である。点滴灌水チ
ューブは 従来の散 水タイ プに比べ 、水圧や 灌水時間 の長さに 関わらず 、均一な灌水
が可能であり、養液土耕栽培に適している。
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図A−14 灌水方法と特徴(
「野菜・花きの養液土壌」より)
特
灌水法
散水法
灌水資材の種類
資材費
・ノズル
やや高い
・多孔パイプ
やや高い
・多孔チューブ
安い∼普通
水圧
水量
耐久性
徴
目詰まりの
均一性
しやすさ
平床
高低差有
○
○
○
×
×
×
◎
◎
◎
◎
△
−
−
△∼◎
△∼◎
△∼◎
◎
×
−
−
高
高
中
多
多
中
大
大
小
しにくい
低
低
低
中
低
中
中
少
少
少
中
少
中
中
大
中
小
大
中
大
大
しやすい
しにくい
しやすい∼しにくい
・ドリッパータイプ
硬質ポリタイプ
点滴灌水
半硬質ポリタイプ
高い
やや高い
・テープタイプ
安い
・ダイヤフラム
高い
・マイクロチューブ
やや高い
地中点滴
・リーキ
高い
灌水
・ポールドリップ
高い
しやすい
しやすい
ややしやすい
しやすい
しにくい
しにくい
注)ダイ ヤフラム は圧 力調整タ イプ
3)養液土耕栽培における養水分の管理
養液 土耕栽培 は作物の 生育に合 わせて養 水分を 給液して いくこと が基本で、季節や
天 候の変化 による蒸 散量の 日変化等 に対応し て、毎日 必要とす る水分量 を与える。
点 滴灌水を 活用して 、少量 ・多灌水 のきめ細 やかな管 理により 、根圏を 好適な状態
(土壌水分、気相、養分濃度)に保つことができる。
土壌 水分や土 壌EC、 リアル タイム栄 養診断等 を活用し て、養水 分の過不足を推定
し、灌水量や回数、施肥の濃度や量を調節する。
下記に参考までにキュウリの養水分管理の事例を示した。
表A-15
半促成栽培、抑制栽培キュウリの養液土耕栽培による養水分管理マニュアル
半促成栽培
抑制栽培
月
灌水量(l) 窒素施肥量(g) 平均窒素量(ppm) 月
灌水量(l) 窒素施肥量(g) 平均窒素量(ppm)
3
700∼1,100
270∼360
350
9 1,000∼1,800
270∼360
225
4∼5 900∼1,500
270∼360
263
10
700∼1,100
200∼270
261
6
1,400∼2,300
270∼360
170
11
500∼ 800
160∼210
285
(六本木ら)
4)リアルタイム診断技術
(1)リアルタイム診断のねらい
環境へ の負荷が 小さくし 作物を効 率よく生 育させ るために は、生育期間中の作物
の栄 養状態を 把握し, 生育にあ った施肥 を行う ことが大 切である 。このため、リア
ルタ イムで迅 速に、簡 易に土壌 中の養分 や植物 体の栄養 状態を把 握することが必要
である。
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(2)用いられる主な簡易測定器具
表A−16 簡易測定器具の特徴と取り扱い上の留意点
特徴、取り扱い上の留意点
メルコクアント
試験紙を 検液 に1∼2秒浸し、1分後に試験紙の発色程度から数値を求める 。
硝酸イオン試 験紙
硝 酸 イ オ ン 試 験 紙 は イ オ ン 含 量 が 100ppmを 超 え る と 正 確 な 値 が 得 ら れ な い の
で 、希釈す る必 要がある。
コンパクトイオンメータ
名 刺 大 の 大 き さ で 、 イオンを感知する平板センサーが組み込まれており、セン
サ ー部に検 液を 滴下すると測定値が表示される。センサー部の劣化に注意する。
pH、E C、 硝酸イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン
反射 式光度 計
(RQフレックス)
試 験 紙 を 検 液 に 浸し 発色させ、それに光をあて戻ってきた反射光の強度を数値
化 する。 測 定精度、項目の多さでは他より優れる
(3)リアルタイム診断の手法
リアル タイム診 断には栄 養診断と 土壌養液 診断が 用いられ る。実際にはどちらか
を実施すればよい。
①リアルタイム栄養診断
栄養診断 は、葉色 など作物 体に現れ た症状を 肉眼的 に観察して判断する診断法
と、化学分析などによって植物体中の養分を測定する手法に大別される。
リアルタ イム診断 では迅速 に、簡易 に診断す ること が必要であり、作物の一定
部位か ら汁液を 採取し 、その中 の養分濃 度を測定 する手法 がとられ る。測定部位
としては作物によって異なるが、主に葉柄が用いられる。
表A−17 リアルタイム診断のための作物汁液の採取方法
採取方法
具 体 的 手 法
搾 汁 液法
葉柄 を 1 ㎝ 前 後 に 切 り 、 に ん に く 搾 り 器 等 で 汁 液 を 採 取 。 多
汁質の作物 に適する。
摩砕法
葉柄 を 0.5㎝前 後に切断 し、葉柄 1∼2 gに蒸留 水9∼18mlを
加 え て す り 鉢 や 乳 鉢 で 十 分 に 摩 砕 し て 、 葉 柄 汁 液 の 10倍 液 と
する。 葉柄が堅く、汁液を採取しづらい作物 に用いる。
スライス法 葉 柄 を 2 ㎜ 程 度 に 細 切 し 、 葉 柄 2 g に 蒸 留 水 18mlを ガ ラ ス 容
器に入れ、時々振とうして30分間水抽出する。
②リアルタイム土壌養液診断
リアルタ イム土壌 診断には 土壌EC や土壌養 液中の 養分濃度等が用いられる。
土壌E Cでも肥 料成分の 過不足は ある程度 把握が 可能であ るが、土壌条件によっ
てはE Cと硝酸 態窒素濃 度の相関 が低い場 合もあ る。この ため、土壌養液を採取
し、溶液中の養分濃度を測定する手法も用いられる。
表A−18 土壌養液の採取方法
採取方法
具 体 的 手 法
吸引 法
多孔質カップを土壌中に設置しておき、真空ポンプ等を用いて土壌養液
を採取する方法(採水器具「商品名;ミズトール」が市販)で、非破壊
で繰り返し採取できるが、土壌水分が少ない場合は採取が困難。採水を
開 始する 時間等条件を揃える必要がある。
生土 容積抽 出法
蒸留水に生土を一定容積の割合で加えて、浸出液を得る方法。作土から
土 壌を採 取し、有機物片などを取り除く。灌水後の採取は避ける。
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表A−19
野菜のリアルタイム栄養診断基準値の目安 (「 野菜・花卉の養液土耕 」より )
野菜名
促成キュウリ
作成県
埼玉
半促成キュウリ
埼玉
抑制キュウリ
埼玉
収穫 期間
硝酸イオン含量の診断基準値(ppm)
2月 下旬
3月上旬:3,500∼5,000、4月上旬:3,500∼5,000
∼6 月下旬
5月上旬:900∼1,800、6月以降:500∼1,500
4月 上旬:3,500∼5,000、5月上旬:900∼1,800
3月 上旬
∼6 月下旬
6月以降:500∼1,500
9月下旬∼11月下旬:3,500∼5,000
9月 下旬
夏秋雨よけ
宮城
キュウリ*
∼11月下 旬
8月上旬:400∼500、その後は収穫終了にかけ
7月 下旬
て漸減
露地ナス
埼玉
∼9 月下旬
7月上旬∼8月上旬:3,500∼5,000、8月中旬以
岐阜
7月 上旬
半促成ナス
埼玉
∼10月 中旬
促成イチゴ
埼玉
∼7 月上旬
11月上旬:2,500∼3,500、1月上旬:1,500∼2,500
岐阜
12月下旬
2月上旬以降:1,000∼2,000
降:2,500∼3,500
4月上旬∼7月上旬:4,000∼5,000
4月 上旬
イチゴ苗(セル育
茨城
∼4 月下旬
促成トマト
愛知
12月中旬
(6段摘心)
半促成トマト
∼ 2月上 旬
愛知
(6段摘心)
長段穫りトマト
8月中旬:400∼500以下、9月上旬:微量
12月中旬∼2月上旬:1,500∼3,000
5月 中旬
5月中旬∼7日上旬:1,000∼2,000
∼7 月上旬
三重
11月下旬
収種前(第1果房肥大期 ):10,000∼8,000、11
∼5 月下旬
月:下旬∼2月下旬(主枝果房収穫期、l∼6
段 ):5,000∼3,000、2月中旬以降(側枝果房収
穫期、7∼14段 ):2,000∼1,000
抑制トマト
茨城
8月 中旬
∼ 11日 中旬
(7段摘心)
8月中旬∼9月上旬(第1,2果房収穫期 ):7,500
∼9,000、9月中旬以降(第3−7果房収穫期 ):
5,000∼6,000
促成トマト
埼玉
(12段摘心)
2月 下旬
11月∼2月下旬:4,000∼5,000、3月上旬∼4月
∼ 7月上 旬
下旬:2,000∼3,500、5月上旬∼6 月下旬:500
7月 上
定植時:3,000∼4,000、開花期:2,000∼3,000
∼中 旬
果実肥大期:5,000∼6,000、成熟期:2,000∼
∼1,500
半促成メロン
愛知
3,000、収穫期:1,000∼2,000
キャベツ
滋賀
結球始期(球径4㎝程度)春播き栽培(6月下
旬 ):8,000以上、夏播き年内 穫り(10月上旬 ):
10,000以上
*測定 部位 は上位第 3展 開棄から 伸びる巻きひげの基部から5cm長まで
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表A−20
花き名
バラ
花き類のリアルタイム栄養診断基準値の目安
作成県
千葉
採取方法
摩砕法
測定部位
採花枝の下から3
∼4枚目の葉柄
カーネーション
滋賀
スライス法
未着蕾枝の下位節
栃木
スライス法
採花期
10月∼
6月
栃木
スライス法
硝酸イオン含量の診断基準値(ppm)
ローテローゼ、秋期∼冬期:900∼1,500
春期:600∼900、夏期:300∼600
1月∼2月
ノラ、9月:2,200∼2,300
完全展開葉直下の
8月上旬定
生育期:900∼1,800、発蕾
茎
植
∼開花:450∼900
最上位完全展開葉
5月下旬
の葉の葉柄
トルコギキョウ
(
「野菜・花卉の養液土耕」より)
11月:1,700∼1,800
直下の茎
定植後1∼4周:0∼25、5∼21
週:0∼45、22週以降:0∼25
デルフィニウム
栃木
スライス法
最上位完全展開葉
カラー・チルドシアーナ
栃木
スライス法
最上位完全展開葉
スプレーギク
栃木
スライス法
4月下旬
の葉柄
定植後1∼3週:110∼220、4∼16
週:220∼900、17週以降:110∼220
4月下旬
養成株:90∼220、開花株:0∼90
7月中旬
定植後0∼2週:45∼220、3∼7週
の葉柄
:220∼450、8週以降:45∼110
キク
宮城
摩砕法
上位、中位、下位
7月下旬∼
短日処理前:上位葉2,500∼3,500、
葉の中央部分
8月中旬
中位葉3,000∼4,000、下位葉2,500∼
(短日処理) 3,500
短日処理期間:上位葉3,500∼5,000、
中位葉3,500∼4,500、下位葉3,500∼
4,500
5)導入に当たっての留意点
(1)土壌の物理性
点滴灌 水が前提 となるた め、孔げ きの多い 、物理 性に優れ た土壌が望まれる。こ
のた め、有機 物の施用 等により 物理性を 改善す ることが 必要であ るが、肥料分の多
いものやC/Nが高く窒素の取り込みが起こる資材は避けた方が良い。
(2)地下水の高さ
地下水 が高かっ たり、下 層からの 毛管水の 上昇に より土壌 水分の制御が困難な場
合は、暗渠等の排水対策の徹底や隔離ベッドの設置等が必要である。
(3)用水の水質
養液土 耕栽培で は点滴チ ューブの 目詰まり を防ぐ ことが必 要である。用水中に鉄
分な どを含ん だ浮遊物 が多くみ られる場 合、目 詰まりを 起こして 生育ムラを生じる
原因となるため、導入にあたっては水質に注意する。
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6)導入事例
(1)品目:促成ナス
(2)作型:9月定植、10月∼6月収穫
(3)システムの概要
表A−21 システムの概要とコスト
(10a当たり)
部 品 名
数量
単 価
金 額
液肥混入機(AV200V)
1
540,000 540,000
原水フィルター
1
47,000
47,000
原液タンクセット
1
23,000
23,000
攪拌機セット(200V)
1
39,000
39,000
Nタイマー基本2系統
1
60,000
60,000
電磁弁
1
29,000
29,000
点滴チューブ( RAM17-2.3-0.3 )
3
38,000 114,000
メールアダプター
15
600
9,000
ラインエンド
15
80
1,200
PFメーター
1
8,800
8,800
ミズトール
1
7,700
7,700
ECメーター
1
25,000
25,000
合
計
903,700
※施工・調整・ポンプ代・ポンプ制御等は別。
(佐城普及センター)
(2)栽培管理
土壌養 液のEC が2.0∼ 2.5に なるよう に液肥の 濃度を変 え、PFメーターで土壌
水分を計測し、PF1.8±0.1になるようにかん水量を調節する。
(3)導入効果
表A−22 養液土耕栽培の導入効果(佐城普及センター取りまとめ)
項目
導入前
導入後
比率
労働時間(施肥・灌水)
26hr・17hr
10.4hr
24%
肥料代
183,939円
110,124円
60%
収量
15,804㎏
19,779㎏
125%
粗収益
4,425,120円
5,538,120円
125%
生産費
3,480,424円
3,643,090円
105%
所得
944,696円
1,895,030円
201%
秀品率
44.0%
46.8%
106%
その他の効果
施肥窒素量の削減(23.9%削減)
生育促進及び花質向上
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