スペースシンタックス理論による大学図書館の 空間分析と動線計画に関する研究 ̶ ラーニングコモンズ化に対応したサイン計画の提案 ̶ 空間デザイン研究室 60120132 松榮 将也 現在、各大学では学生にとって過ごしやすい魅力あるキャンパス空間を提供していくために既存の空間を学生の ニーズや行動に合わせて改善し、キャンパス空間利用を高める動きがあるが、現状の空間改善では利用者アンケー トやそこでの行動観察等の定性的なデータをベースに改善計画が進められているが、事前に十分に検討できている とは言い難い。そこで本研究では、和歌山大学附属図書館のクロスカル構想化に向けた図書館棟第一期改修工事の 改善事例をケーススタディとし、改修前後において諸室のつながり関係や視覚的広がりの変化についてスペースシ ンタックス理論を用いて分析を行う。さらに、スペースシンタックス理論(以下 SS 理論)の人の動きを予測できる という特徴を活かして分析結果を元に大学図書館のラーニングコモンズ化に対応したサイン計画へと応用する。そ して最後に、提案するサイン計画についてパノラマ CG コンテンツを用いてシミュレーション行い、その評価結果 を元に SS 理論を用いたサイン計画の有効性を確認する。 スペースシンタックス理論 イソビスタ 空間改善 1. SS 理論による図書館空間の分析 和歌山大学附属図書館の改修工事の前後時期を対象に、 サイン計画 ラーニングコモンズ 見える範囲を全て重ねあわせて分析する。 その結果が図 2 になる。赤い場所ほど視界の広い開けた空間である。全 UCL で開発されたSS 理論の分析ツールDepthmap を用 てのフロアで改修工事でガラス張りのカフェスペースの いて つながり関係 と 見え に関する分析を行い、 増設や大きな壁の撤去によってイソビスタが大幅に増え 改修前後における空間の変化と特徴を整理する。 たことが確認できる。 1.1. つながり関係 ConvexSpace Analysis 改修前後の 1 階から 3 階の計 6 空間を対象に分析を行 った。まず、諸室ごとに空間を分割し、移動可能な関係 を先で結んだグラフ図(図 1 左)を作成した。これに従 って分析した結果が図 1 右になる。 図 1:改修後 1F 空間の Unjustified Graph と結果(Int.V) 赤に近い空間ほど位相幾何学的に中心性の高い空間と され、移動効率が高い人がよく通る空間を意味する。 図 2:改修後 1F 空間の 見え に関する分析結果(Isovist) 1.3. 改修前後の比較 改修後 1F 空間の結果をみてみると、ラーニングコモ 以上の 2 つの分析結果について数値データから考察す ンズ空間とカフェスペース前の空間がそれに当たる。 る。 つながり関係 (表 1)を見ると 1 階は大幅に改善 1.2. 視覚的広がり VisibilityGraph Analysis されていることが分かる。一方で 3 階はインキュベータ イソビスタと呼ばれる概念を用いた視覚的広がりに関 する分析を行った。これはグリッド分割した各地点から 室が移転し空間が複雑になったことで数値的後退が確認 できる。次に 見え (表 2)を見てみると、全フロアで 大幅な改善が見られ、図書館側のオープンな開放的な空 各フロアの上位 70 100%値を平面図にマッピングし、 間づくりの意図が反映された事が確認できた。一方で、 そこからサイン設置可能な壁や柱を選択した。その結果 先行研究と合わせて考察すると必ずしもオープンスペー が図 4 である。同時に、動線計画は①入り口からメイン スが学生のニーズと一致しているとは言い難く、空間の 階段、 と②入り口から書架前階段の2軸を設定している。 多目的化に合わせて適切な空間機能の配置と案内・誘導 システムが必要であるという課題も浮き彫りになった。 表 1:Convex Analysis(つながり関係)による改修前後の比較 Convex Analysis Pre 1F Post 1F Change of Pre-Post Integration(HH) Max. 0.95255387 1.1996368 + 0.24708 + 25.94% Integration(HH) Avg. 0.63090602 0.771412759 + 0.14050 + 22.27% Integration(HH) Min. 0.38102156 0.45567599 + 0.07465 + 19.59% Pre 2F Post 2F Change of Pre-Post Integration(HH) Max. 1.6981779 1.6828449 - 0.01533 - 0.90% Integration(HH) Avg. 0.926275738 0.946996826 + 0.02072 + 2.24% Integration(HH) Min. 0.60878074 0.58899575 - 0.01978 - 3.25% Post 3F Change of Pre-Post Pre 3F - 30.35% Integration(HH) Max. 1.9585886 1.3641374 -0.59445 Integration(HH) Avg. 0.954710158 0.880166609 -0.074543 - 7.81% Integration(HH) Min. 0.55959678 0.48075327 -0.078843 - 14.09% 表 2:VGA(見え)による改修前後の比較 Visibility Graph Analysis Pre 1F Post 1F Change Pre-Post Isovist Area Max. 607.56042 923.39069 + 315.830 + 51.98% Isovist Area Avg. 213.4633584 340.4394279 + 126.976 + 59.48% Isovist Area Min. Visual Integration(HH) Avg. 1.0548755 0.26238635 - 0.792 - 75.13% 4.641320411 6.373301185 + 1.731 + 37.32% Pre 2F Post 2F Change Pre-Post Isovist Area Max. 437.99722 601.76642 + 163.769 + 37.39% Isovist Area Avg. 166.6329583 244.5526295 + 77.919 + 46.76% Isovist Area Min. 0.059546834 0.12294709 Visual Integration(HH) Avg. 5.407693994 6.979230299 Pre 3F Post 3F + 0.0634 + 106.47% + 1.571 + 29.06% 3. パノラマ CG コンテンツによる評価実験 提案するサインを設置した仮想モデルを構築し、高品 位レンダリングソフトとパノラマコンテンツ作成ツール を用いて仮想体験コンテンツを作成した。利用後に評価 アンケートとヒアリングを行い提案するサイン計画の評 価を行った。その結果、動線計画の狙い通りの動線へと 改善され、同時にやサインの見つけやすさやその効果に ついても一定の評価を得ることができた。 Change Pre-Post Isovist Area Max. 185.18947 457.44614 + 272.256 + 147.02% Isovist Area Avg. 71.48198163 182.8391928 + 111.357 + 155.78% Isovist Area Min. 3.1447444 2.7681029 4.034455322 4.250882714 Visual Integration(HH) Avg. 図 4:提案する 1F 空間におけるサイン設置箇所と動線計画 - 0.376 - 11.98% + 0.216 + 5.36% 2. SS 理論を用いたサイン計画 現状のサイン調査結果と SS 理論の分析結果を元にイ ソビスタ値を縦軸に、Int.V 値を横軸にとった散布図(図 3)を作成した。新しいサイン設置箇所は分布が右上にシ 図 5:パノラマ CG コンテンツによる仮想体験モデル 4. まとめ フトすることであると定義し、サイン設置箇所の抽出を 和歌山大学附属図書館の改修前後における空間の変化 行った。この際、① Int.V 高には誘導サイン、② イソビ と特徴について SS 理論を用いた空間分析から整理し、 そ スタ高には位置サイン、③ INt.V 高+イソビスタ高には の分析結果を元にラーニングコモンズ化に対応したサイ 案内サインのようにサインの種類と SS 理論の分析評価 ン計画を行った。さらに、提案するサイン計画について 値の対応付けを行い、それに従ってサイン計画を行う。 3DCG を用いたパノラマコンテンツによる仮想モデルを 用いて評価を行い、その有効性を確認した。SS 理論によ る空間分析からサイン計画への展開、提案するサイン計 画の評価までの一連の手法とその過程で得られた知見、 サイン計画の提案を本研究の成果とする。 参考文献・論文 [1] Bill Hillier , Julienne Hanson. (1984). Social Logic of Space. Cambridge University Press. [2] 木川 剛志, 古山 正雄. (2005). スペースシンタックス理論を用いた 図 3:1F 空間における現状サインと Integration-Isovist 散布図 町家の形態比較に関する研究. 日本建築学会大会学術講演梗概集.
© Copyright 2024 ExpyDoc