1 1 塗装の目的

塗料に変身していきます。時代のニーズにより求められる機能も多種多様であり、
1 1 塗装の目的
高機能、高意匠性塗料を求めてメーカの技術開発は熾烈です。塗料が高級
る技法です
(図 1.2)
。塗料を単に塗り広げるだけの操作は塗装とはいいません。
護するだけでなく、私たちの生活に快適性を与えてくれます。色彩効果も大きく、
塗料・塗装分野の主導で、色彩調和のとれた街づくりが進められています。
美粧性、耐久性、
表面強度など
新材料の開発により、これらを混合・分散させた材料が新しい機能を持った
新車感の保持
美粧・保護
美粧やキズ、熱、
醤油などの食材による汚染から保護
塗装概論
塗装の目的を整理すると、図 1.1 のように表すことができます。被塗物を保
1
章
できません。塗装とは、塗料を用いて被塗物面に塗膜または塗膜層を形成す
第
化しても、塗装現場の実態に即したものでなければ目的とする塗装効果は達成
平滑性、膜厚の付与、
耐衝撃性、層間付着性
上塗り
中塗り
上塗り
下塗り
下塗り
素地
さび止め、素地との
付着性、バリヤー性
チッピングガード:
石跳ねから保護
図1.2 一般的な塗膜構成と各層の主な役割
塗装で被塗装物は
美しく長持ち、
塗装は生活空間を
豊かにしてくれる!
過酷な環境(摩擦、熱冷、
雪氷ほか)から機体を保護
元祖東京のシンボル
「東京タワー」は
5年に1回塗替えをして、
さびから守っている
紫外線と雨水の作用で
いつもきれいな壁面を
保っている
上塗りベース:アクリル15µm
アルミ粒子
図1.1 塗装の目的
アクリルクリヤ
35µm
アクリルクリヤ
35µm
上塗り
ポリエステルエナメル
35µm
中塗り
ポリエステル
35µm
ポリエステル
35µm
ポリエステル
35µm
下塗り
エポキシ電着 20µm
エポキシ電着 20µm
エポキシ電着 20µm
鋼板
鋼板
鋼板
(a) ソリッドカラー
(b) メタリックカラー
(c) パールカラー
化成皮膜
1µm
8
パールベース 5µm
図1.3 新車の塗膜構成
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技能とは、塗装を遂行する能力であり、素地調整作業に始まり、塗り付け、
乾燥、研磨作業などの基本的操作を一度ないし数回繰り返して塗装目的を達
第
成することです。
1 2 いろいろな塗り方
一般に、塗装された製品は図 1.2 に示すように、多層系塗膜で構成されて
章
1
新車ボディ塗装ラインに採用されているおおまかな流れと、塗装方法は図
能を持つものが使用されています。その一例を、新車の塗装系で示すと図 1.3
1.5で表すことができます。組立の終わったボディは表面処理ラインに入り、脱脂、
のように表されます。
洗浄され、細かく緻密なリン酸亜鉛結晶で被覆されます。 1μm 程度の化成皮
トラックではソリッドカラーがほとんどですが、最近の乗用車は光輝性顔料を
塗装概論
おり、下塗り、中塗り、上塗り膜からなります。塗料も各塗膜層に適応した機
膜が化学的にさび止め作用を行います。熟成後に、カチオン電着塗装1)が行
使用したメタリック
(アルミ粉)
やパール
(雲母粉)
カラーがほとんどですが、さらに
ひと味違う意匠性を出そうと材料メーカーは奮闘しています。図 1.3 からわかるこ
とは、中塗りまでは同じ塗膜構成であること、上塗りが変わっても合計膜厚が
約 100μm であることです。新聞紙の厚みが約 50μm ですから、新聞紙 2 枚分
脱脂
湯洗 水洗
化成皮膜
湯洗 水洗 純水洗
表面処理
シャワー
で防さび性から耐候性、新車感を約 10 年間も保持することは尊敬に値します。
ボディ
ボディ
ボディ
まさに、ファインケミカルのノウハウがこの膜厚に凝縮されています。図 1.3 の
塗膜層が有する機能は図 1.4のようにまとめることができます。
下塗り
電着塗装
意匠性
耐候性
上塗り
35∼50μm
外観性
UF 水洗
アース
カチオン電着塗装
通電板
コンベア
焼付けへ
耐チッピング性
中塗り
35∼50μm
防さび
下塗り
20μm
純水
アース
自動静電塗装機
ベル型静電塗装機
中塗り
上塗り
アース
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図1.4 新車の塗膜層の機能分担
図1.5 新車塗装ラインの塗装方法
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遠心力で塗料が薄く引き延ばされ、カップの縁から放出されると、霧化粒子に
はメッキの原理(電気泳動と析出)
で金属表面に有機ポリマー被膜を形成させる
なります。塗着効率、仕上がり外観とも良好です。
塗装方法です。
上塗りブースのレイアウト例を図 1.7に示します。上塗りブースではベースコー
に示すベル型自動静電塗装機が主役を演じており、補助的に手吹きガンが使
イン移動中に一定時間強制乾燥させられ、クーリング後にクリヤがコートされます。
用されます。ベル型は円筒カップ内に塗料を供給し、これを高速回転させると、
焼付けは図 1.8に示すように、中塗りから上塗りクリヤまで、すべてコートされて
(3コート1 ベー
から1 回で行います。この方式を3ウエット方式、あるいは 3C1B
霧化に遠心力を利用
1
塗装概論
トの塗装が終わってから、フラッシュオフ(溶剤を揮発させる操作)のために、ラ
章
電着後に焼付けされ、中塗り、上塗りラインへと進みます。ここでは図 1.6
第
われ、さらにサビ止め機能を強化します。金属を金属で覆うのがメッキで、電着
ク)
方式と呼びます。工程短縮とCO2 排出削減、節電対策に貢献します。
新車車体の一部を切り取り、樹脂に包埋して研磨後に位相差顕微鏡で断
面を観察しました。その結果を図 1.9に示します。図 1.3と比べて見ると、合計
膜厚はぴったりと合っています。異なる点は、実測の中塗り膜厚が薄く、クリ
ヤ膜が厚いことですが、大きな問題ではありません。設計通りに膜厚が付与さ
れており、塗装技術の進歩は素晴らしいと感じました。
塗装は新車のような工場塗装のみではなく、建築物や船舶の塗替えは現場
作業になります。それゆえ、その環境に応じた塗装方法が採用されます。塗装
クリヤ用自動塗装機
エア
塗料ノズル
被塗物
カップ
●カップを 15,000∼40,000rpm で
回転させる
●約−9 万 V の高電圧をかける
塗料
ベースコート内板塗装
クリヤー前補正
塗装ロボット(ベル型静電塗装機)
または手吹き(エア霧化型塗装機)
静電界
塗装ロボット(ベル型静電塗装機)
または手吹き(エア霧化型塗装機)
*ベースコート:図1.3参照。メタリックではエナメルとアルミ粉を混合した塗料、パールカラー
ではエナメルとパール材をそれぞれ塗装する場合と、両者を混合して塗装する場合がある。
エア
モータ
図1.7 上塗り塗装ブースのレイアウト例
パターン調整
エアノズル
アース
●カップがベル型をしていることから、
ベル型静電塗装機と呼ばれている
●新車の中塗り、上塗りラインで使用
されている
静電ガンを清掃するときには、高電圧スイッチを切らなければならない
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ベースコート用自動塗装機
図1.6 ベル型静電塗装機
中塗り/ベースコート/クリヤー 3ウェット塗装
電着塗装/
焼付け
中塗り
塗装
ベースコート
塗装
図1.8 3C1B
(3コート1ベーク)
方式
クリヤー
塗装
焼付け
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