横浜国大環境研紀要13:57−67(1986) 報 文 川Il‖‖ll=l‖l川Il‖1 金属硫酸塩の熟分析* ThermalAnalysis of the Decomposition fbr MetalSulfates 田川 博幸**・川辺 勝也** HiroakiTAGAWA**and Katsuya KAWABE** Synops15 The thermaldecomposition of sulfhtes of Be,Mg,La,Ce(III)and Ce(IV),Ti,Zr, VO,Cr,Mn,Fe(II)and Fe(III),Co,Ni,Cu,Zn,Cd,Al,In,Sn,Pb,and Biwas studie in flowing air at a heating rate of−50C・min,1by use ofa TG/DTA apparatus.Ground powders were used.From TG and DTA curves,Which were simultaneously obtained, thier decomposition behaviors were examined and discussed. 惨1.緒 昌 体あるいはエネルギー貯蔵媒体として用いられてい る。特に熱化学法水素製造法においては硫酸塩は有 金属硫酸塩は,化学工業あるいは金属製錬工業に 用である。例えばGeneralAtomic社から発表され おける基本物質として重要な物質である。特にその ている水素製造フロロセスは,水を化学的に水素と酸 熱分解は基本的な化学反応として長い間利用されて 素に分解する反応サイクルとして基本的な1つと考 きた。金属酸化物を製すると同時に,硫黄酸化物を えられる。1)反応サイクルは次の反応群から構成さ 捕集し硫酸を合成することが工業の目的であって, れる。 鉄,鋼などの硫酸塩がこのために使われている。 別の視点として石炭あるいは石油系燃料の燃焼時 には,不純物として含まれている硫黄は酸化物にな SO2+I2+2H20=H2SO4+2HI (l−1) H2SO4=H20+SO2+1/202 (1−2) 2HI=H2+Ⅰ2 (ト3) r)系外に排出される。石炭の場合には副生する灰分 これらの反応の中で(1−1)の反応では硫酸とヨウ化 (主成分はCaO,Fe203,A1203,SiO2)と部分的に 水素が水溶液になっているので,実際の分離は答易 反応して硫酸塩として固定化され,また一部はフラ ではない。そこでこの分離を行うために金属硫酸塩 イ・アッシュ中にも遷移金属硫酸塩として固定化さ を使う方法が提案されている。例えばマグネシウム れる。煙道ガス中の二酸化硫黄は石灰岩を用いて湿 を用いると,反応サイクルは(2)式のようになる。2) 式あるいは乾式法にて硫酸カルシウムの形で捕集さ SO2+Ⅰ2+2H20=H2SO4+2HI れる。石炭の流動倍焼法では,流動時に石灰岩粉体 H2SO4+2HI+2MgO=MgSO4+MgI2+2H20 を共存させ,発生する硫黄酸化物を捕集することが (2−1) (2−2) 試みられている。煙突,スタックから大気中に放出 MgSO4=MgO+SO2+1/202 (2−3) された硫黄酸化物は,浮遊する金属化合物,アンモ MgI2+H20=MgO+2HI (2−4) ニウム塩と反応してナトリウム,カルシウム,アン 2HI=H2+Ⅰ2 (2−5) モニウムの硫酸塩として地上に降下する。 新エネルギー開発においても金属硫酸塩は反応媒 *本研究の一部は文部省科学研究費エネルギー特別研究(課 題番号59040016)による **横浜国立大学 環境科学研究センター 汚染拡散学研究室 DepartmentofChemodynamics,InstituteofEn− vironmentalScience and Technology,Yokoha− ma NationalUniverslty,240Yokohama. (1986年6月30日受領) マグネシウムの代りにニッケル3)など他の金属の硫 酸塩を使うこともできる。 金属硫酸塩の安定性,あるいは熱分解に関する研 究は古くから行われているが,系統的な研究は少な かった。そこで著者らは安定性に関する熱力学的考 察,熱分解の開始温度,分解速度に関して調べてき たが,その間幾つかの知見を得ることができた。4 ̄マ) すなわち,熱力学的には 58 1)熱分解時のエンタルピー変化は金属の酸化状 態が2+の硫酸塩では△H品98∼240KJ・mOl (SO3) ̄1,3+の酸化状態では∼195KJ・mOl 2.2.装置と方法 装置は示差熱天秤装置TG−DTA(真空理工(株), TGD−5000H型)を用い,これに流量計,フローコン (SO3) ̄1,エントロピー変化は金属の種類に関 トロール・バルブ(大倉電気(株),CFl12),装置の 係なく△S品98∼195KJ・K ̄1・mOl(SO3) ̄1であ 下流には発生した酸化硫黄の吸収瓶を接続した。こ る。従ってⅠⅠ価金属の硫酸塩よト)ⅠⅠⅠ価金属の硫 のTG−DTA装置は上皿式電気天秤,試料と標準物 酸塩の方が同一温度において分解しやすい。 質の温度測定用の熟電対,赤外線加熱炉から構成さ 熱重量測定TGとしては 2)分解開始温度は,ほぼ同一のSO3分解庄,す れている。白金製試料容器(直径8mm,高さ10mm) には熱電対用の鞘(内径1mm,長さ10mm)が容器 なわち∼1×10−4mmHg(∼10r2Pa),にて起る。 内で5mmの高さになるように溶接されている。この ただし,この圧力は装置が異なると,その影響 容器は天秤の梓の一端に垂直に立てた熱電対の上端 を受ける,いわば装置特有の定数である。 に差込まれる。同じ大きさの試料答器を供えた標準 熱分解速度の測定からは 3)分解は試料の表面から生成物の厚さが同じで 物質用熱電対は,試料用熟電対と12mmの距離に天 秤とは独立して平行に立てられている。これら容器 あるように内部に向って進行する。遷移金属硫 には外径29.5mm,高さ50mm,厚さImmのアルミ 酸塩では,生成層の厚さの時間的変化はほぼ一 ナ製円筒キャップを被せ,均熟部分を作る。 定である。すなわち,熱分解速度は硫酸塩の表 面積に比例する。 4)熱分解の活性化エネルギーは熱分解のエンタ ルピーとほぼ等しい。 などである。 これらの結果は,いずれも重量測定の結果から得 られたものであるが,熱分解の際に得られる情報と 実験法は約120mgの粉砕した硫酸塩を試料答器に 入れ,秤量したのち100cm3・minJlの流速で高純度 主菜(po2<10 ̄6atm)を系内に導いた。次に室温か ら最高11000Cまで一定の昇温速度で加熱した。なお, この報告では,試料量を100mg以上にとる,いわゆる セミミクロ熱分析の方法によったため,脱水・分解 時の,特にDTAのピークの分離が良くない場合が してはさらに分解時のエネルギー変化がある。この みられた。これは並行して行っている硫酸塩の熱分 エネルギー変化を重量変化と同時に知ることによっ 解の機構との対応を調べるためである。数mgの試 て,熱分解の挙動を理解することが一層容易になる。 料を用いるミクロ分析ではピークの分離は良くなる そこで今までに取上げた金属硫酸塩と,さらに市販 が,重量変化の定量性,分解機構の検討には難があ 品として容易に入手し得る硫酸塩を加えて熱重量測 る。 定と示差熱分析を同時に行い,分解挙動を調べた。 アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)とアルカリ土類 金属(Ca,Sr,Ba)の硫酸塩は極めて安定であるた めに測定からは除いた。 2.実験方法 生成物は中間生成物を含めてX繰回折を行い,生 成相の同定と確認を行った。 3.実験結果と考察 金属硫酸塩の多くは吸湿性が大きく,空気中では 結晶水を有する塩の形で存在する。そこで熱分析の 2.1,試 料 試料としては有水塩を用いたが,結晶水の数は必ず 使用した硫酸塩はBeSO4・4H20,MgSO4・7H20, しも文献値とは一致していない。 測定は主として流量100cm3・min ̄1の空気気流中, La2(SO4)3・9H20,Ce2(SO4)3・4H20,Ce(SO4)2・ 4H20,Ti(SO4)2水溶液,Zr(SO4)2・4H20,VOSO4・ 4H20,Cr2(SO4)3・3H20,MnSO4・5H20,FeSO4・ 昇温速度は50C・min ̄1にて行った。結果をFig・1か ら22に示した。図の配列は,周期表に従って,ⅠIa族 7H20,Fe2(SO4)3・12H20,CoSO4・7H20,NiSO4・ (Be,Mg)からⅠⅠIa族(ランタノイド),Ⅷ族(遷移金 6H20,CuSO4・5H20,ZnSO4・7H20,CdSO4・ 属)を経てVb族(Bi)までの硫酸塩を,同じ族に属 2.4H20,A12(SO4)3・15H20,In2(SO4)3・9H20, するものは原子番号の小さいものから大きいものへ, SnSO4・H20,PbSO4,Bi2(SO4)3・8H20である。こ 同一の元素については酸化状態が大きくなる順の仕 れらの硫酸塩は硫酸ランタンを除いて,すべて関東 方によった。図の横軸は時間の関数としての温度を, 化学(珠)の試薬特級品を用いた。硫酸ランタンは 縦軸には重量減少を示す。縦軸は分解挙動の理解を Aldrich ChemicalCo・(アメ7)カ)の99・999%のもの 助けるために,結晶水喪失の部分は硫酸根1モル当 を用いた。いずれの塩も乳鉢中で粉砕して実験に供した。 −)に結合する水のモル数で表わす。すなわち,実験 59 4 10∈\ONH 4 tO∈\ONH 2 2 0 0 400 600 800 1000 0 8 一 課\COS 0 8 一 200 0 4 一 0 4 一 課\COS 0 0 200 400 600 Fig・1TG and DTA curves of BeSO4・4H20at 50C.minJlinlOOcm3・minplairflow. 800 1000 TempノOC Temp./OC Fig.2 TG and DTA curves of MgSO4・7H20at 50C.minplinlOOcm3.min.1airflow. 4 tO∈\ONH 2 0 0 4 一 課\COS 0 00 一 0 200 400 600 800 1000 Temp.rC Fig.3 TG and DTA curves ofLa2(SO4)3・9H20 at50C.min−1inlOOcm3・min、1airflow. 0 200 400 600 800 1000 Temp.rC Fig.4 TG and DTA curves of Ce2(SO4)3・4H20 at50C.minplinlOOcm3・minJlair now. 60 0 200 400 600 800 1000 0 200 400 600 Fig.5 TG and DTA curves of Ce(SO4)2・4H20 at50C.minplinlOOcm3・min▲1air flow. 800 1000 Temp./OC Temp./OC Fig.6 TG and DTA curves ofTi(SO4)2aueOuS at solution 50C・minrlinlOOcm3・min ̄1 airflow. 6 4 tO∈\ONH 0 4 一 訳\mOS 一 0〇 0 0 200 400 600 800 1000 Temp.rC Fig.7 TG and DTA curves of Zr(SO4)2・4H20 at50C.min ̄1inlOOcm3.min.1airflow. 0 200 400 600 800 1000 Temp./OC Fig・8 TG and DTA curves ofVOSO4・4H20at 50C.min−1inlOOcm3・min ̄1airflow. 61 4 10∈\ONH 2 0 ま\MOS 0 4 1 0 8 一 0 200 400 600 0 800 1000 200 400 600 Fig.9 TG and DTA curves ofCr2(SO4)3・3H20 ゆ at50C.min−1inlOOcm3・minJlair now. 800 1000 TempノOC TempノOC Fig・10 TG and DTA curves ofMnSO4・5H20at 50C.min−1inlOOcm3・min−1air now. .AT tO己\ONH 2 0 0 0 一 ︻ 課\ざs A︼ 0 4 一 ︹D 0 0 00 一 課\MOS 0 200 400 600 800 1000 TempノOC Fig・llTG and DTAcurves ofFeSO4・5H20at 5OC.min−1inlOOcm3・min−1air flow. 0 200 400 600 800 1000 Temp./OC Fig.12 TGandDTAcurvesofFe2(SO4)3・12H20 at50C.min−1inlOOcm3・minLlair now. 62 4 ′ ̄ ̄\′/ ̄ ̄− ̄● ̄ ̄ ̄ J\ノ ヽ \ . 2 2 り tO己\ONH 4 tO∈\ONH i恥Ⅴ I Jl 0 0 読\のOS 0 4 一 訳\mOS 0 4 一 0 nXU 一 0 8 一 0 200 400 600 800 1000 0 200 400 600 TempノOC Fig・13 TG and DTA curves ofCoSO4・7H20at 50C.minplinlOOcm3・min ̄1airflow, 800 1000 TempノOC Fig.14 TG and DTA curves ofNiSO4・6H20at 50C.min ̄1inlOOcm3・minJlair flow. tO∈\ONH ㌔\MOS 0 4 一 0 8 一 0 200 400 600 800 1000 Temp.rC Fig・15 TG and DTA curves ofCuSO4・5H20at 50C.minplinlOOcm3・minJlairflow. 0 200 400 600 800 1000 Temp./OC Fig・16 TG and DTA curves ofZnSO4・7H20at 50C.min−1inlOOcm3・min,1airflow. 63 0 ㌔\MOS 0 4 一 0 8 一 0 200 400 600 800 1000 0 200 400 600 Fig.17 TG and DTA curves of CdSO4・2・4H20 at 50C.min▼1inlOOcm3・minLlair now. 6t 0 200 400 600 800 1000 800 1000 Temp./OC Temp./OC Fig.18 TGandDTAcurvesofA12(SO4)3・15H20 at 50C.minLlinlOOcm3・minJl air now. 0 200 400 600 800 1000 Temp.rC TempノOC Fig.19 TG and DTA curves ofIn2(SO4)3・9H20 at5OC.min−1inlOOcm3・minJlairflow. Fig.20 TG and DTA curves of SnSO4・H20at 50C.minLlinlOOcm3.minLLlair now. 64 0 200 400 600 0 800 1000 Fig.21TG and DTA curves ofPbSO4at50C・ min−1inlOOcm3・min,1air now. 400 600 800 1000 Fig.22 TG and DTA curves ofBi2(SO4)3・8H20 at 50C.min ̄1inlOOcm3.min ̄1air now. 3.2.硫酸マグネシウム MgSO4・7H20 結果の表示は硫酸塩をM(〃)2(SO4)〝・椚H20とする 結晶水の喪失はDTAからは7H20→6H20→ と,その熱分解を次のようになる,ここで〃は金属 2H20→H20→0のように見える。4水塩も存在す の酸化状態を示す。 る筈であるが,2水塩の減量・吸熱曲線と重なるた 1/〃M2(SO4)乃・椚H20一→M2/れSO4+′吋〝H20 (3−1) M2/几SO4一→M2/乃0+SO3 200 Temp.rC TempノOC (3−2) 従って縦軸の結晶水放出の部分は仝結晶水量がJγリ〃 H20として示されるので,例えばFe2(SO4)3・12H20 ではFe2/3SO4・4H20になる。無水塩の熱分解の部分 は分解率を百分率で表示した。各図では結晶水1モ ルは重量比にして無水塩の分解によって放出される めに明確に識別できなかった。分解温度はかなり高フ く,TG曲線から8620Cである。中間生成物を生じ ることなく酸化マグネシウムになる。 MgSO4→MgO+SO3 3.3.硫酸ランタン La2(SO4)3・,H20 加熱することによって結晶水は9H20(空気中で はさらに吸湿して,使用時には10.60H20であった) SO31モルの22.5%(=18.0153/80.0622)になる。マ から6H20,2H20の順に減少して無水塩になる。熱 ンガン(ⅠⅠ),鉄(ⅠⅠ)の硫酸塩のように,分解後に金 分解の温度開始は8180Cであって,まず中間生成物 属の酸化状態が高くなる塩では熱分解によって重量 に変る。 増加が起るが,表示は酸化状態が変らない場合と同 La2(SO4)3→La202SO4+2SO3 じように示した。従って水1モルはSO31モルの 硫酸塩がオキシ硫酸塩に分解する場合の分解率は 22.5%にはならない。DTA曲線の吸熱ピークは300 66.7重量%であるが,図ではオキシ硫酸塩の酸化物 0C以上では10Cがほぼ10〟Ⅴに相当するので,大略 への分解が示されてないので,特に100%として表 の吸熱量を知るために熟変化による起電力尺度を付 わした。このオキシ硫酸塩は,図には示してないが, けた。 12700Cにて酸化物への分解が始まる。 3.1.酸化べリリウム BeSO4・4H20 加熱によって結晶水は4H20から2H20→H20の 順に放出されて無水塩になる。硫酸塩の熱分解は La202SO4→La203+SO3 3.4.硫酸セリウム(ⅠⅠⅠ)Ce2(SO4)3・8H20 加熱によって結晶水は3500Cまでに失なわれる。 6330Cにて起り酸化物になる。反応は次式のように TGおよびDTAの曲線からは8H20→3H20→H20 単純な分解のみで起る。 一→無水塩の順に結晶水が失なわれる。NIiS熱力学 BeSO4一→BeO+SO3 表によれば,1モルのCe2(SO4)3に結合する結晶水 65 のモル数は8と5であるから,これとは一敦しない。 無水の硫酸塩は9080C以上にて分解する。生成物は CeO2であって,分解時にCe(ⅠⅠⅠ)のCe(Ⅳ)への酸 化が起る。 Ce2(SO4)3+1/402→2CeO2+2SO3 なお不活性ガス中ではCe(ⅠⅠⅠ)の酸化には酸素の代 r)にSO3が使われる。 Ce2(SO4)3→2CeO2+SO2+2SO3 3.5.硫酸セリウム(Ⅳ)Ce(SO4)2・4H20 結晶水の喪失は2段階に起る。使用した試料の結 晶水はCe(SO4)2の1モル当ト)6・60であるが,加熱 度との間には2000C近くの幅が見出される。 3.8.硫酸バナジル VOSO4・4H20 4水塩は加熱することによって1水塩に変り,300 0C付近にて無水塩になる。無水塩の熱分解は4390C にて起る。中間生成物はない。空気中では次のよう に反応が進行する。 VOSO4+1/402→1/2V205+SO3 不活性ガス中ではSO3を還元してV205が生成する。 VOSO4→1/2V205+1/2SO2+1/2SO3 3.,.硫酸クロム Cr2(SO4)3・3H20 硫酸クロムを加熱すると,温度の上昇とともに重 によって,2H20を経て3000C付近にて無水塩にな 量減少が起†),無水塩の約15%までほぼ直線的に進 る。硫酸塩の熱分解は2段にて起り,1段目は404 行するが,その後急激な重量変化を示す。結晶水を 0C,2段目は6940Cから始まる。 有する硫酸塩を単に加熱するだけでは無水塩は得ら Ce(SO4)2→1/2Ce20(SO4)3+1/2SO3 れない。有水塩を濃硫酸中に浸し,次に上澄みの硫 1/2Ce20(SO4)3→CeO2+3/2SO3 酸を除き,硫酸で濡れた硫酸塩を加熱したところ, なお従来中間生成物がCe203・3SO3であるとされて 図に見られるような連続的な重量減少は認められな いるが,これは正しくない。硫酸塩の熱分解によっ かった。すなわち,あたかも無水塩のように4100C てCe(Ⅳ)がCe(III)に還元されることはあr)得ない 付近から単調な重量変化を示したが,熱分解開始時 ‘し,また重量測定からもCe20(SO4)3であることが の組成はCr2(SO4)3・2H20であった。クロムは多く 確められた。 の安定な錯塩を作るが,他の金属の硫酸塩とは水の 3.6.硫酸チタン Ti(SO4)2・〝H20 結合の仕方が異な†),直接クロムに水が配位した結 硫酸チタンは水溶液としてしか入手できない。水 合になっているものと思われる。なお使用した試料 の量はTi(SO4)2のlモル当り26・4モルになる。加 は赤紫色であった。 熱とともに水の蒸発が始まる。この溶液を1000Cに 3.10.硫酸マンガン(ⅠⅠ)MmSO4・5H20 維持する場合には1時間でTi(SO4)2・8H20付近ま 結晶水を有する硫酸マンガン(ⅠⅠ)は,加熱によっ で水の含量が減少する。加熱を続けると結晶水の3 てまず1水塩になー),2800C付近にて無水塩になる。 モル近傍(温度として2700C付近)にて放出速度が 7440Cにおいて分解が始まる。生成物は空気中,窒 遅くなったのち,急激に重量減少が進むようになる。 素気流中のいずれにおいてもMn304である。窒素気 TG曲線からはTi(SO4)2が存在するような曲線の曲 流中では発生するSO3を還元してMn304になる。す がり,すなわち台地は存在しない。硫酸チタンには なわち,空気中では オキン硫酸塩TiOSO4が存在するが,硫酸塩の分解 率50%付近に認められるTG曲線の曲がー)がこれに 相当するのかもしれない。熱分解の終了は,他の硫 酸塩に比べると尾を引くように見える。TiOSO4の 分解によるものか,あるいは含水二酸化チタンの形 MnSO4+1/402→1/2Mn304+SO3 窒素気流中では MnSO4→1/3Mn304+1/3SO2+2/3SO3 3.11.硫酸鉄(ⅠⅠ)FeSO4・7H20 で僅かな水が残っていて,この脱水によるものかの 結晶水を有する硫酸鉄は,加熱すると直ぐに結晶 水の放出を始め1000C付近においてFeSO4・1・5H20 区別はTG曲線からのみでは判定できない。 になr),2000Cを越えるとFeSO4・H20になる。この 3.7.硫酸ジルコニウム Zr(SO4)2・4H20 結晶水の喪失は4H20→H20→無水塩の順に減 1水塩は温度の上昇とともに徐々に重量が減少する が,無水塩になることなしに酸化鉄に変る。すなわ 少する。結晶水の放出が終了すると直ちに硫酸塩の ち,鉄(ⅠⅠ)の酸化と,新たに生成したFe2(SO4)3の 熱分解が起るような挙動をTG曲線は示すが,ある 熱分解が,脱水とともに起る。反応式は次のように いは結晶水喪失の最終段階で硫酸塩の熱分解と重な なる:まずFe2(SO4)3が生成する, って起っていることも考えられる。分解は次のよう FeSO4・H20→1/6Fe2(SO4)3+1/3Fe203+ に起る。 1/2SO2+H20 Zr(SO4)2→ZrO2+2SO3 分解開始温度はかなー)低いが,反応が顕著に進む温 次にFe2(SO4)3の熱分解が起る。 l/6Fe2(SO4)3→1/6Fe203+l/3SO3 66 3.12。硫酸鉄(ⅠⅠⅠ)Fe2(SO4)3・13H20 硫酸鉄(ⅠⅠⅠ)の結晶水の数は大気中の水蒸気庄に依 存して変る。TG曲線はSO4当りの表示で示してあ るので,分解開始時は4・3H20/Fe2/3SO4である。加 熱と同時に結晶水の放出を始め6H20→4H20→無 水塩のように変化する。無水塩の分解開始温度は559 0Cである。 Fe2(SO4)3の分解のTG曲線とFeSO4・H20のそ れを比較するとその形状が似ているのは,FeSO4・H20 の熱分解は結局はFe2(SO4)3の分解に帰着すること による。Fe2(SO4)3の分解は 1/3Fe2(SO4)3→1/3Fe203+SO3 1/2CuO・CuSO4→CuO+l/2SO3 窒素気流中で加熱するとCuOが生成したのち,更 に酸素を放出してCu20になる。 CuO→1/2Cu20+1/402 3.川.硫酸亜鉛 ZnSO4・7H20 7水塩はTG曲線からは加熱によって1水塩を経 て無水塩になるが,DTA曲線では6水塩のところ に小さな吸熱のピークが見られる。 無水塩の分解は6570Cから始まり,中間生成物を 経て酸化亜鉛になる。 ZnSO4→1/3ZnO・2ZnSO4+1/3SO3 1/3ZnO・2ZnSO4→ZnO+2/3SO3 3.13.硫酸コバルト CoSO4・7H20 なおDTA曲線には7540Cの相転移に伴う吸熱ピー DTA曲線では7水塩が無水塩に変るまでに幾つ クが見られる。 かの過程を通るように見えるが,TG曲線からは1 水塩のみが中間生成物として認められる。無水塩は 3・17・硫酸カドミウム CdSO4・8/3H20 加熱によって結晶水は8/3H20→2H20→H20 7210Cにて分解が始まる。空気中ではCo(ⅠⅠ)が酸 →無水塩のように変る。無水塩の分解開始温度は 化されて次のように反応が進む。 8420Cである。 CoSO4+1/602→1/3Co304+SO3 生成物はCo304であるが,10500Cを越えると分解 してCoOに変る。 1/3Co304→CoO+1/602 図の無水塩の縦軸は生成物をCoOとしてではなく Co304として示してあるので,厳密には結晶水の喪 硫酸カドミウムには7700Cと8350Cに相転移のあ ることが知られている。DTA曲線には765OCに始 まる弱い吸熱ピーク(ピーク温度7860C)と8200C に始まる吸熱ピーク(ピーク温度8260C)とが見ら れ,これらのピークは2つの相転移点に対応する。 3.18.硫酸アルミニウム A12(SO4)3・15H20 失の部分と硫酸塩の熱分解の部分の尺度が異なる。 熱力学関数は18水塩と6水塩が知られているが,実 結晶水と同じ重量比にするためには無水塩の分解率 際には結晶水の数は結晶を空気中に放置しただけで㌫ に1.071を掛けなければならない。 も変る。加熱によって連続的に結晶水の放出が始ま CoOの混合物であるが,終了温度ではCo304は消 り,3水塩(図の表示では1水塩)のところにTG 曲線では曲がりが,DTA曲線では吸熱ピークが見 失する。これはCo304を生成する反応 られる。 窒素中の加熱では,分解途中の生成物はCo304と CoSO4→1/3Co304+l/3SO2+2/3SO3 がCoOを生成する反応 CoSO4→CoO+SO3 よI)も分解開始温度において約8kJ・mOl(SO3) ̄1安定 であることによる。更に一旦生成したCo304は窒素 中では酸素を放出してCoOになる。 3.14.硫酸ニッケル NiSO4・6H20 加熱によって6水塩は4水塩,1水塩を経て無水 無水塩の熱分解は5480Cにて起り,単調に重量減 少が進行する。中間生成物は存在しない。 3.19.硫酸インジウムIn2(SO4)3・9H20 加熱によって4水塩になり,3000C付近にて無水 塩になる。無水塩の熱分解開始温度は6620Cである。 3.20.硫酸スズ SnSO4・H20 結晶水の放出は4000C付近にて終る。無水塩の分 解開始温度は3960Cである。5400C付近にTG曲線 塩になる。無水塩の分解開始温度は7150Cである。 に屈曲点が現われるが,重量変化量からSnSO4・3 反応は単純な分解のみである。 SnO2と思われる。 NiSO4→NiO+SO3 硫酸スズには2種ある:Sn(II)のSnSO4とSn(Ⅳ) 3.15.硫酸銅 CuSO4・5H20 のSn(SO4)2が存在する。空気中あるいはSO3中で TG曲線では,結晶水の喪失の挙動は5水塩から はSn(ⅠⅠ)よりSn(Ⅳ)が安定であるから,熱分解時 3水塩を経て1水塩に変ト),無水塩になる。 無水塩は6360Cで分解が始まr),オキン硫酸塩を 経て酸化銅になる。 CuSO4→1/2CuO・CuSO4+1/2SO3 に生成する酸化物がSO3または空気中の酸素を取込 んでSnO2が生成するか,あるいはSnSO4が一旦Sn (SO4)2に変ったのち熱分解が起るかのどちらかの反 応であるが,DTA曲線を見る限りでは吸熱量が小 67 さいので,前者の機構で分解が進むものと思われる。 Tablel Finaldehydration temperatures,7L, andinitialand nnaldecomposition temperatures ofmetalsulfhtes,7land すなわち,空気中では SnSO4+1/202→SnO2+SO3 I7,reSpeCtively,at heatlng rateS Of 50C・minJlinflowlng air oflOOcm3 不活性ガス中では ・mln−1. SnSO4→SnO2+SO2 0 8 00 0 00 00 5 4 7 4 5 qノ 0 nフ 7 5 4 父じ 1 1 00 7 5 7 2 ZnO CdO A1203 In203 SnO2 5 Bi203 0 7 父U Oノ 0ノ 父U 2 0ノ 2 8 2 0 (1980). Oノ 5 0 父U 4 3 4)H.Tagawa,亡(Thermaldecomposition tempeト 1 atures of metalsulfhtes”,771ermOChわ7.Acta, 1 献 ′h﹀ 文 BeO MgO La202SO4 CeO2 CeO2 TiO2 ZrO2 V205 Cr203 Mn304 Fe203 Fe203 Co304 NiO CuO drogen production”,in 亡亡FTydj・Ogen Ene7都′ Prog′錯∫,P和C.jrd 抄b′相即か¢ge〃g乃eJ都′ Co7V at Tb毎0,1980”,p・389,Pergamon 80,23(1984). る。 1 2 きるかどうか,今後熱力学的検討を加える必要があ ‘U 4 に明らかにされているので,他の硫酸塩にも拡張で 5 2 無水硫酸塩の熱分解の開始温度は遷移金属の硫酸 塩については,その安定度と直接結び付くことが既 l l 3 との間には直接的な関係は見出せなかった。 1 2 を示す。結晶水の脱水開始温度,終了温度と硫酸塩 ′D 5 塩の熱分解開始温度(T)と終了温度(れ),最終生物 00 0 0 qノ 8 ′0 0ノ 5 Bi2(SO4)3・8H20 4 っJ Tablelに結晶水の脱水終了温度(7L),無水硫酸 00 SnSO4・H20 PbSO4 ′んU 2 4.まとめ あろう。 2 A12(SO4)3・15H20 In2(SO4)3・9H20 ′0 つJ CdSO4・2.4H20 7 3 惨まらない。恐らくBi203の分解・蒸発によるもので CuSO4・5H20 ZnSO4・7H20 7 ではないかと思われる。8500Cを越えると再び分解 が始まり,重量減少が続くが,Bi203の組成では止 CoSO4・7H20 NiSO4・6H20 5 ある。750∼8500Cの間では中間化合物が生成する。 重量減少量からBi405SO4(あるいは2Bi203・SO3) l 0Cで起る。分解挙動は他の硫酸塩に比べると複雑で 7 →2H20→無水塩と変化する。無水塩の熱分解は440 4 4 3.22.硫酸ビスマス Bi2(SO4)3・8H20 加熱によって,結晶水は化学式当ー)8H20一→4H20 一〇905一82一8245006815161099 かめることはできなかった。 つJ ′O 1 7 0 ∠U On﹀ 00 ′0 4 ら起る。分解開始温度が高いため,反応の終了を確 La2(SO4)3・9H20 Ce2(SO4)3・8H20 Ce(SO4)2・4H20 Ti(SO4)2・nH20 Zr(SO4)2・4H20 VOSO4・4H20 Cr2(SO4)3・3H20 MnSO4・5H20 FeSO4・7H20 Fe2(SO4)3・12H20 2 2 00 ︵X︶ 4 相転移がある。熱分解は転移が起る僅か下の温度か 2 5 7 4 0 BeSO4・4H20 MgSO4・7H20 と思われる重量減少と吸熱ピークがある。8660Cに 7i,/OC71/OC Tt/OC Product つJ つJ 2 っJ 2 Metalsulfate 結晶水は持たないが,2000C付近までに僅かに水 8 2 00 つJ ′0 3.21.硫酸鉛 PbSO4 5)田川,「金属硫酸塩の熱分解挙動と熱分解開始 温度」,横浜国大環境研紀要,11,77(1984)・ 6)H.Tagawa and H.Saijo,亡亡Kinetics of the thermaldecomposition of some transition l)G.E.Besenbruch,K.H.McCrokle,].H. Norman,D.R.0’Keeft,).R.Schster and metalsulfates”,771ermOChbn.Acta,9l,67 (1985). M.Yoshimoto,亡−Hydrogen production by the GA sulfbr−iodine process”,in −亡勒drogen 7)田川,西候,「遷移金属硫酸塩の熱分解の速度 g〝eWルog′e∫∫,Proc.j′d肋r〟旦γかoge〃 と機構」,横浜国大環境研紀要,12,97(1985)・ 8)D.D.Wagman,W・H・Evans,V・B・Parker, Ene7V Co7ぴ at 7bkyo1980”,P.243,Per− gamon(1980). 2)S.Mizuta and T.Kumagai,亡一Thermochemical hydrogen production by the magnesium−Sul− fur−iodine cycle”,Bu丑 Chem.Soc.Jqpan, 55,1939(1982). R.H.Schumm,I.Halow,S.M.Bailey L.Churney and R.L.Nutall,”771e NBS 7七抽∫q/Cろe∽わαJ乃er∽0み〃α∽fc Pr叩er一 血ぎ,・∫eおcfed 拍/〟錯♪rJ〃0曙α乃わα〃d Cノ α〃♂C20J冨α〃gC5’〟∂∫fα〃C郎7乃∫JL功如”,J 3)S.Sato,S.Shimizu,H.Nakajima and Y. Phys.Chem.Rqf Data,1l,(SupplementNo・ Ikezoe,††Nickel−iodine−Sulfur process fbr hy− 2)(1982).
© Copyright 2024 ExpyDoc