1.3 坑井調査 1.3.1 (1) 圧入井における検層 飽和率検層(RST ; Reservoir Saturation Tool) 平成 15 年 7 月~平成 17 年 1 月にかけて累計 10,405t-CO 2 の二酸化炭素圧入が、岩野原 CO2-1 坑を用いて実施された。同井ではこれまで、下記の状況により物理検層は実施され ていなかったが、本研究プロジェクトの最終年度の調査として、本井周辺部における飽和 率測定が計画され、石油鉱業において使用される RST(Reservoir Saturation Tool, 貯留 層飽和率検層)の実施が計画された。 [物理検層が実施されなかった理由] a CO 2 圧入用穿孔のため、他の 3 坑の観測井とは異なり、Ic 層区間も含めて坑内は全て 鋼管ケーシングが採用されており、通常の比抵抗測定や密度測定が実施できない。 b CO 2 圧入用のチュービング(外径 2-3/8 インチ)が設置されており、スルーチュービ ング用の検層機器のみが使用可能である。 Schlumberger 社が開発した RST は、鋼管ケーシングを設置した坑井における貯留層内 の飽和率測定が可能であり、かつ、2-3/8 インチ・チュービング内測定用として外径 1-11/16 インチの機器が用意されている。以下では圧入井 CO2-1 坑及び観測井 CO2-3 坑における RST 測定結果及び RST との比較のため実施した中性子検層の結果について記す。 ① 測定原理 検層機器より高エネルギー(14MeV)のパルス状高速中性子を発生させ、同中性子と地 層を構成する物質の原子核とを反応させることによって、その反応過程で形成される熱中 性子及び物質の原子核が放出するガンマ線を測定し、地層中の物質の定量化を試みるもの である。 物質の原子は各々固有の中性子捕獲断面積(Capture Cross Section)を有しており、RST 検層ではこの中性子捕獲能を SIGMA と称する。SIGMA 値は capture unit (cu)で表示さ れ、この数値が高い物質ほど中性子捕獲能が高いことになる。地層中に一般に存在する代 表的な物質の SIGMA 値を表 1.3.1-1 に示す。 同表に示す如く、地層中に一般に存在する物質の中で最も SIGMA 値の高い物質は塩水 であり、これは塩水中に含まれる Cl 原子の中性子捕獲能に由来する。これに対して岩石 鉱物や天然ガス、二酸化炭素等の SIGMA 値は1桁小さいため、坑内で連続的に SIGMA 測定を実施することにより(SIGMA(∑)モード)、地層の塩水量=水飽和率に関する情報 を 得 る こ と が 可 能 と な る 。 こ の 際 、 塩 水 の 塩 分 濃 度 が 高 い ほ ど 、 塩 水 と そ の 他 の 物 質の SIGMA 値のコントラストが明瞭となることから、塩分濃度の高い地層水を含む地層ほど SIGMA モードには適している。 96 表 1.3.1-1 地層中の物質の SIGMA 値 物質(純物質) SIGMA (理論値, @20℃) Quarts (SiO 2 ) 4.26 cu Calcite (CaCO 3 ) 7.07 cu Dolomite (CaCO 3 ・MgCO3 ) 4.70 cu Salt (NaCl) 753 cu 純水 (H 2 O) 22 cu 塩水 NaCl 濃度 200,000 ppm NaCl 濃度 35,700 ppm NaCl 濃度 7,150 ppm 30 90 35 25 原油 20~ cu(金属等の含有量で異なる) 天然ガス 8 cu 二酸化炭素 (CO2 ) 3.2 cu ~ 130 cu cu cu cu 一方、地層水塩分濃度が~数千 ppm と低い場合、原油の SIGMA 値は地層水の SIGMA 値とほぼ同等のレベルとなり、SIGMA 値だけから原油と地層水の判別は困難となる。RST 検層では地層中の物質が放出するガンマ線を計測し(Inelastic Capture(IC)モード)、 計測されたガンマ線のスペクトル解析により地層中の炭素原子と酸素原子の比率(C/O) を求め、この比率から地層中の油(C 起源)あるいは水(O 起源)の飽和率算定を行う。 RST 検層ではこれらの原理を利用して地層の飽和率に関する情報を得る。 ② 測定作業 圧入井 CO2-1 坑においては、平成 17 年 1 月の二酸化炭素圧入完了以降、坑内が二酸化 炭素で満たされた状態のまま各種モニタリングを継続しており、圧入のための穿孔区間 Ic 層ゾーン 2a, 2b 部分(1,093.0~1,105.0m)においても不動水飽和率に近い状態を維持し ていることが予想された。まず、この状態で RST 検層を実施することにより、二酸化炭素 の実際の圧入区間を確認するとともに、同圧入区間における二酸化炭素の飽和率測定を行 うこととした(注水前測定)。 次に、地中貯留された二酸化炭素は、重力移動、地層水への溶解、地中鉱物との反応等 を経て、最終的には残留飽和率(residual saturation)の状態で地中に長期的に存在する と考えられる。この状態を再現すべく圧入井より注水を実施し、RST 検層により同注水後 の二酸化炭素飽和率を測定することで、残留飽和率に関する情報を得ることとした(注水 後測定)。 97 更に、二酸化炭素圧入前の地層の初期状態(水 100%)におけるベースライン情報を得 るべく、圧入二酸化炭素が未到達である観測井 CO2-3 坑において RST 検層を実施し、圧 入井における検層結果と比較・検討することとした。 以上の調査工程を表 1.3.1-2 に示す。 表 1.3.1-2 日 付 RST 検層作業工程 作業内容 平成 20 年 3 月 3 日~ 3月7日 3月8日 適 用 準備作業開始 CO2-1 RST ゲージ通し CO2-1 RST 注水前測定 ∑モード x 2 パス, IC モード×3 パス CO2-1 注水開始 注水量 20 kL、塩分濃度 35,700 ppm CO2-1 注水完了 平均注水レート 50 kL/日 CO2-3 RST ゲージ通し CO2-3 RST 実測定 ∑モード×2 パス, IC モード x 2 パス CO2-1 RST ゲージ通し 3月9日 CO2-1 RST 注水後測定 3 月 10 日 中性子検層 (CO2-1,2,3) ~3 月 12 日 ③ a ∑モード×2 パス, IC モード×4 パス 解体・撤去作業 測定結果 CO2-1 坑 注水前測定 注水前の SIGMA モード及び IC モードにおける RST 測定結果を図 1.3.1-1 及び図 1.3.1-2 にそれぞれ示す。まず SIGMA モードにおいては、特に RST 孔隙率(TPHI, 図 1.3.1-1 中 の右側コラム緑破線)に特徴が現れており、穿孔区間であるゾーン 2a, 2b 部分の RST 孔 隙率は概ね負の値を示している。RST 孔隙率は、通常の中性子孔隙率と同様に測定区間の 水素原子量を反映しており、穿孔区間においては水飽和率が小さく、二酸化炭素飽和率が 高いことを示している。 一方、SIGMA 値(右側コラム赤実線)に関しては、Zone-2b 部分は 15~20 cu と他区間 に比較して低い値を示し、上記 RST 孔隙率結果と調和的であったものの、Zone-2a 部分の 1,096~1,097m 付近については 25~28 cu 程度の高い値を示しており、上記 RST 孔隙率 結果とは相容れない結果となっている。 98 坑内状況 1080 - Packer TBG Nz. 1090 - zone-1 zone-2a 穿孔 区間 1100 - zone-2b zone-3 1110 - 図 1.3.1-1 CO2-1 坑 注水前 SIGMA モード測定結果 また、IC モードにおいては、地層中の CO 比を示す FCOR 値(図 1.3.1-2 中の左側コラ ム赤実線)がゾーン 2a, 2b 部分のいずれにおいても 0.1~0.2 と他区間(0.0~0.1)に比較 して上昇しており、当該区間への二酸化炭素圧入が確認される結果となった。 99 坑内状況 1080 - Packer TBG Nz. 1090 - zone-1 zone-2a 穿孔 区間 1100 - zone-2b zone-3 1110 - 図 1.3.1-2 CO2-1 坑 注水前 IC モード測定結果 100 b CO2-1 坑 注水後測定 注水前測定結果と同様に、注水後の SIGMA, IC 各モードでの測定結果を図 1.3.1-3 及び 図 1.3.1-4 にそれぞれ示す。Zone-2a, 2b 区間における RST 孔隙率は、注水の結果を反映 して注水前の負の値から注水後には 20~30%程度にまで上昇している。一方 SIGMA 値に 関しては、Zone-2b 区間では注水前の 15~20 cu から注水後には 18~23 cu へと上昇して い る も の の 、 注 水 前 に SIGMA 値 が 高 く 測 定 さ れ た Zone-2a 部 分 は 、 逆 に 注 水 に よ り SIGMA 値が若干減少する結果となっており、これも RST 孔隙率結果等とは相容れない結 果と言える。 坑内状況 1080 - Packer TBG Nz. 1090 - zone-1 zone-2a 穿孔 区間 1100 - zone-2b zone-3 1110 - 図 1.3.1-3 CO2-1 坑 注水後 SIGMA モード測定結果 101 また IC モードに関しては、FCOR 値は穿孔区間の全体を通して 0.00~0.05 程度にまで 低下しており、これも注水による二酸化炭素の置換を反映した結果となっている。 坑内状況 1080 - Packer TBG Nz. 1090 - zone-1 zone-2a 穿孔 区間 1100 - zone-2b zone-3 1110 - 図 1.3.1-4 CO2-1 坑 注水後 IC モード測定結果 以上、圧入井 CO2-1 坑における RST 検層では、Zone-2a 区間の SIGMA 値に一部不可 解な結果が認められたものの、その他は概ね調和的な結果が得られている。 102 c CO2-3 坑 ベースライン測定 SIGMA モード及び IC モードにおけるそれぞれの検層結果を図 1.3.1-5 及び図 1.3.1-6 に示す。CO2-3 坑においては、RST 坑隙率で 15%前後、SIGMA 値で 15~20 cu、FCOR 値で 0.05 前後と、いずれの値も Ic 層内でほぼ均一であり、部分的な二酸化炭素の到達等 を示唆する区間は存在せず、貯留層全体が初期状態(水飽和率 100%)のままであること を反映した測定結果となっている。 ゾーン区分 1070 - zone-1 zone-2a 1080 - zone-2b zone-3 1090 - 図 1.3.1-5 CO2-3 坑 SIGMA モード測定結果 103 ゾーン区分 1070 - zone-1 zone-2a 1080 - zone-2b zone-3 1090 - 図 1.3.1-6 CO2-3 坑 104 IC モード測定結果 (2) 中性子検層 圧入井 CO2-1 坑及び観測井 CO2-2, 3 坑において通常の中性子検層を実施し、RST 検層 結果と比較検討することとした。 ① 測定原理 中性子検層は坑内ゾンデ内に装着した中性子線源より地層に高速中性子を放射して地層 を構成している物質の原子核と反応させ、その反応過程で形成される熱中性子の強度を測 定することにより、孔隙率に関係するデータを得る検層である。 高速中性子のエネルギーレベルは数 MeV である。高速中性子を地層に放射すると、中性 子は地層中の水素原子と殆ど同一の質量をもっているため、弾性衝突となって高速中性子 は急激に減速される。この減速される割合は地層中の水素原子の量(水素濃度)に大きく 左右されるため、線源より一定の距離に検出器を置いて熱中性子の強度を連続的に測定す ることにより地層中の水素濃度が計測できる。即ち、検出器で計測される熱中性子の量は 線源周囲の水素濃度が増加すれば減少し、水素濃度が減少すれば増加することになる。 一般に、地層内における水素原子の起源は孔隙中に存在する水及び炭化水素であること から、高水素濃度は高孔隙率を、逆に低水素濃度は低孔隙率をそれぞれ意味する。中性子 検層は、この原理を応用して地層の孔隙率を求めようとするものである。 ② 測定作業 圧入井 CO2-1 坑における中性子検層は、上述の RST 検層における注水後測定に引き続 き実施された。また、二酸化炭素圧入前の初期状態におけるベースライン情報を得るべく、 RST 検層と同様に CO2-3 坑における測定を実施するとともに、CO2-2 坑の測定も併せて 実施した。各坑井における検層区間を表 1.3.1-3 に示す。 表 1.3.1-3 中性子検層測定区間 坑井 検層区間 ゲージ通し区間 CO2-1 1,050.0 ~ 1,112.3 m 0.0 ~ 1,112.7 m CO2-2 955.0 ~ 1,175.0 m ------ CO2-3 940.0 ~ 1,135.0 m ------ 105 CO2-1 坑 ③ a 測定結果 中性子孔隙率算出方法 中性子検層では地層の孔隙率(孔隙中の水素分子)を計測するが、鋼管等を介しての計 測では測定器と地層間の物質による影響を考慮する必要があるため、これを補正して地層 が本来持つ孔隙率を算出する。 本調査では以下の手順により CO2-1 坑の孔隙率を求めた。 (a) CO2-3 坑の管内測定中性子孔隙率φnc と裸坑中性子孔隙率φno の相関を確認。 (b) (a)で得られた相関関係より CO2-1 坑のφnc より鋼管の影響を排除する。 (c) (b)で得 られた 注水 後地層 孔隙 率と裸 坑時 孔隙率 を比 較し残 留二 酸化炭 素飽 和率を 推定する。 尚、中性子孔隙率の表記に関しては裸坑時に取得された中性子孔隙率をφno、管内より 測定した中性子孔隙率をφnc とした。また、裸坑時に核磁気共鳴検層より得られた孔隙率 をφcmr とした。 図 1.3.1-7 に裸坑時の地層孔隙率と二酸化炭素圧入時の坑内図を示す。 図 1.3.1-7 裸坑時の孔隙率検層結果 106 φno とφcmr の間には若干の差異が認められるが、測定手法の違いによる地層に対する 機器のレスポンスの相違が反映されたものであると考えられる。岩野原モニタリング検層 の結果からφno とφnc の相関はφcmr とφnc の相関と比較し良好であることが判明して いる。これはφcmr の値が特定の岩質に対してφno と異なる反応を示すためであると考え られる。 CO2-3 坑における深度 940~1045m の鋼管ケーシング設置区間のφnc データをφno、 φcmr 値を基に補正し、地層孔隙率に変換した結果を図 1.3.1-8 に示す。 図 1.3.1-8 CO2-3 坑に置ける φnc 補正 図中、青点線のφnc(φno 補正)はφno により補正されたφnc を、φnc(φcmr 補正)はφ cmr により補正されたφnc を示す。各裸坑時孔隙率との相関を見ると、φno とφnc(φno 補正)の関係がφcmr とφnc(φcmr 補正)の関係に勝ることが分かる。 107 b 結果 CO2-3 坑の鋼管ケーシング部の補正係数を用いて CO2-1 坑のφnc を補正した結果を図 1.3.1-9 に示す。図中、φnc(φno 補正)<φno となる区間を黄色で示したが、当該区間で は中性子孔隙率の減少が示唆されることから、初期状態(水 100%)に比較して水飽和率 の減少、即ち、二酸化炭素の残留が推定される。尚、1,084~1,087m 付近に関しては、パ ッカー直下からチュービング・ノズルにかけてのアニュラス部(ケーシング・チュービン グ間)に二酸化炭素が残留している影響が観測されているものと解釈される。 図 1.3.1-9 補正済み φnc と裸坑時孔隙率検層結果 108 (3) 解釈及び考察 RST 検層機器は、油ガス層への適用を第一目的として開発・設計されており、油層部に おいては原油の高い炭素密度値(Carbon Density Value ; CDV)を利用して、測定された CO 比から正確な油飽和率の算定が可能である。同時に実際の油飽和率とツールのレスポ ンスに関する実測データの蓄積が豊富であり、油層部においては信頼性の高い解析結果が 得られることが予想される。一方、二酸化炭素の場合には、原油に比較して CDV が小さ く、測定された CO 比から定量的に二酸化炭素濃度を求めることが困難であることに加え て、二酸化炭素濃度測定を目的とした利用実績が殆どないことから、解析結果の信頼性は 必ずしも高いとは言えない可能性がある。 表 1.3.1-4 に水、原油、天然ガス(メタン)、二酸化炭素の標準的な CDV 値を示す。RST 検層においては、慣例的に CDV 値が 0.4 g/cc 以下の流体に対しては CO 比から飽和率を 算定することを推奨していないため、以下では SIGMA 値を用いた飽和率算定を行うこと とした。 表 1.3.1-4 流体の CDV 値 流体 CDV 水 0 g/cc 原油 (API 25 度 = 0.90 g/cc) 0.766 g/cc メタン CH 4 (密度 0.20 g/cc) 0.150 g/cc CO2 (密度 0.60 g/cc) 0.164 g/cc CO2 (密度 0.45 g/cc) 0.123 g/cc 飽和率の算定に先立ち、飽和率算定に必要となる貯留層の鉱物組成、孔隙率等を決定す るため、裸孔時の物理検層結果及び RST 検層の IC モード測定結果に基づき CO2-1 坑及 び CO2-3 坑の ELAN 解析を実施した。結果を図 1.3.1-10 及び図 1.3.1-11 にそれぞれ示す。 各図の最右側コラムに鉱物組成及び孔隙率の表示があり、Ic 層部の孔隙率は概ね 20%以上 と算定されているが、同時に CMR 検層に基づく不動水飽和率(図中の水色部分)に関し ても 50%程度の高い値となっている。 109 図 1.3.1-10 CO2-1 坑 図 1.3.1-11 ELAN 解析結果 CO2-3 坑 ELAN 解析結果 続いて CO2-1 坑で得られた SIGMA 値に基づき飽和率を算定する。RST 検層で計測され る SIGMA 値(∑log)は次式で与えられる。 ∑ log = ∑ ma ⋅ Vma + ∑ sh ⋅ Vsh + ∑ w ⋅ Vw + ∑ co 2 ⋅ Vco 2 ここで、 ∑ log : ∑ 実測地 (cu, capture units) ∑ ma : ∑ マトリックス (cu) ∑ sh : ∑ シェール (cu) ∑w : ∑ 水 (cu) ∑ co2 : ∑ CO2 (cu) Vma : マトリックス量(fraction) Vsh : シェール量 (fraction) Vw : 水量 (fraction) 110 Vco2 : CO2 量 (fraction) φ: 孔隙率 (fraction) Sw : 水飽和率 (fraction) Vma = 1 − Vsh − Vw − Vco2 Vw = φ ⋅ Sw Vco2 = φ ⋅ (1 − Sw) 従って、水飽和率 Sw は次式となり、これにより得られた CO2-1 坑での注水前・後の飽 和率算定結果を図 1.3.1-12 及び図 1.3.1-13 に、また両者の結果比較を図 1.3.1-14 にそれ ぞれ示す。 Sw = (∑ log − ∑ ma) − φ (∑ co2 − ∑ ma) − Vsh(∑ sh − ∑ ma) φ (∑ w − ∑ co2) 図 1.3.1-12 CO2-1 坑 図 1.3.1-13 注水前 RST 解析結果 CO2-1 坑 注水後 RST 解析結果 111 図 1.3.1-14 に示す通り、注水前の水飽和率(左から第 2 コラムの赤実線)は Zone-2b 区間で 40~60%と算定され、当該区間への二酸化炭素圧入を確認する結果となっている。 ただし、Zone-2a 区間については RST 孔隙率や CO 比のデータからは二酸化炭素の圧入が 確認できたにもかかわらず、SIGMA 値では注水前の測定値が異常に高い値を示したため、 SIGMA 値 に よ る 本 手 法 で は 二 酸 化 炭 素 の 飽 和 率 を 正 し く 算 定 で き な い 結 果 と な っ て い る。 一方、注水後の水飽和率(同コラム青実線)は、Zone-2b 区間を含めて概ね 90%以上と の算定結果であり、二酸化炭素の残留飽和率は 5~10%程度となっている。また、今回の RST 検層解析区間で判断する限り、二酸化炭素の圧入は穿孔区間、即ち Zone-2a, 2b 区間 に限定されており、これら以外の上下層への二酸化炭素流入を示唆する兆候は認められな い。 注 図 1.3.1-14 水 注 CO2-1 坑 112 水 RST 飽和率比較 上記の注水前・注水後の二酸化炭素飽和率算定値に関しては、本章冒頭で述べた通り、 RST 検層による二酸化炭素飽和率測定の実績が非常に少ないことから、その信頼性が高い とは言えない段階にある。また、今回の SIGMA 値による飽和率算定では、ゾーン 2a 区 間で見られたような SIGMA 値の異状に対して的確な評価ができないケースもある。ただ し、RST 検層は、多様な環境における貯留層飽和率に関する情報を得るための有力なツー ルであり、今後、二酸化炭素飽和率測定への実適用ケースが増え、測定データの有効活用 方法が整備されてゆくことで、その信頼性の向上が期待される。 1.3.2 (1) 観測井坑内調査 調査の経緯 CO2-2 坑では平成 18 年 1 月 13 日に実施された第 29 回モニタリング検層以降水位面の 低下が確認されている。同坑では平成 17 年度以降のモニタリング検層で深度 1,115.1~ 1,117.2m 間において比抵抗値の低下が確認されており、この変化と坑内水漏洩の関連を調 査する目的で水位面低下調査を行った。 第 29 回モニタリング検層以降の水位面低下状況を表 1.3.2-1 に示す。水位面の位置はモ ニタリング検層実施直前に口坑を開放した時点で水位面測定器を坑内に降下し測定した深 度である。また、検層終了時には口坑まで補水し坑井を封鎖し次回のモニタリング検層時 まで密閉状態を保持した。第 29 回および第 30 回モニタリング検層時には水位面の測定は 行っていないが口坑開放時に吸引が発生していることより水位面低下が発生していたと考 えられる。また、第 32 回検層終了時には補水を行っていない可能性があり、第 33 回検層 時の水位面低下が他の次数と比較し大きい。 表 1.3.2-1 CO2-2 坑 坑口開放時水位面変化 作業日 実施次数 水位低下 測定間日数 損失量 (リットル) H18/01/13 第 29 回検層 吸引あり ---- ---- H18/03/06 第 30 回検層 吸引あり 52 日 ---- H18/07/27 第 31 回検層 -7.95 m 143 日 99 H18/11/20 第 32 回検層 -6.45 m 116 日 81 H19/02/23 第 33 回検層 -14.75 m 95 日 184 H19/07/02 第 34 回検層 -3.95 m 129 日 49 H19/08/21 第 35 回検層 -2.45 m 49 日 31 113 損失量と検層実施間の日数より漏洩量は一日 1 リットル以下の微量であることが分か る。 高感度フローメータにより漏洩箇所の特定が可能であるかを判断する目的で水位面低下の 速度測定を行った。平成 19 年 7 月 2 日、第 34 回モニタリング検層実施前に CO2-2 坑に 補水を行い、深度 100m に圧力計を設置し約 4 時間に亘り圧力変化測定を行った。測定結 果を図 1.3.2-1 に示す。 図 1.3.2-1 CO2-2 坑 圧力測定結果 圧力測定の結果からは漏洩量を算出する根拠となる変化は得られなかった。また測定中 の坑口目視では測定開始時と測定終了時の水位面低下は数ミリであることが判明しており 検層による漏洩箇所特定は不可能であると判断し、坑内にパッカーを降下し注水加圧によ る圧力変化を観察することにより漏洩箇所を特定する方法を採用することとした。 (2) 坑内水位低下調査 岩野原 CO2-2 坑で観測されている坑内水位低下の原因を調査し、坑井及び Ic 層の健全 性を確認する目的で、インフレータブル・パッカーを使用したケーシング加圧テスト(テ スト方法は図 1.3.2-2 参照)を実施し、漏洩箇所の特定を試みた。 ① 調査概要 a 調査対象井 岩野原 CO2-2 坑 b 調査目的 ケーシング漏洩箇所の特定 c 調査期日 平成 19 年 9 月 20 日(木)~9 月 25 日(火) 114 d 使用パッカー ベルギーGeopro 社 ”TZ” デュアルパッカー e 調査予定箇所 1) 深度 1,210m(鋼管-FRP 継目を含む 1,208m~1,212m 間) 2) 深度 1,118m(CHDT 孔を含む 1,116m~1,120m 間) 3) 深度 1,114m(同上、1,112m~1,116m 間) 4) 深度 1,108m(同上、1,106m~1,110m 間) 5) 深度 952m(鋼管-FRP 継目を含む 950m~954m間) エレメント 拡張 内圧加圧 上部 エレメント 加圧テスト区間 下部 エレメント ケーシング 図 1.3.2-2 ② デュアルパッカーによるテスト概念図 調査結果 今回の調査では、計5箇所の調査対象区間に対して加圧テストを実施した。計測された 坑口圧力の時間変化を図 1.3.2-3 に示す。 観測された圧力と漏洩量との関係は、加圧媒体である水の圧縮率を Cw として下式で計 算される。 dV(漏洩量; kL)= Cw (MPa -1 ) × V(試験水量; kL)× dP(圧力降下; MPa) 115 Cw = 4.4×10 -4 MPa と仮定して求めた各深度での漏洩量の計算結果を表 1.3.2-2 に示す。 今回の調査では、全ての測定において圧力降下が観測されているが、これが必ずしも全て の測定区間でケーシング漏洩が発生していることを意味している訳ではないことに留意す る必要がある。圧力の降下はケーシングの漏洩のみならず、パッカーのリークやパッカー エレメントの変形等によってももたらされる。ケーシングからの漏洩量が充分に大きい場 合には、これらパッカーリーク等の影響は相対的に軽微で無視しうるものの、漏洩量自体 が上式で算定された如くいずれも極めて微量(0.3~1.4 リットル)であることから、これ らケーシング漏洩以外の影響が圧力降下に大きく影響していると解釈されるからである。 6.0 坑口圧力 [MPaG] 5.0 4.0 3.0 1210m 1118m 1114m 1108m 952m 0.5 0.6 2.0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 経過時間 [hours] 図 1.3.2-3 表 1.3.2-2 圧力観測結果 漏洩量の計算結果 試験深度 圧力降下 経過時間 [mMD] [MPa] [hours] 952 0.359 0.510 1,108 0.398 0.539 1,114 0.733 0.599 1,118 1.285 0.642 1,210 1.238 0.544 -1 (注)Cw = 4.4E-04 Mpa として算定 116 試験容量 [KL] 1.981 2.296 2.308 2.316 2.501 漏洩量 [L] 0.313 0.402 0.744 1.309 1.363 0.7 ③ まとめ 今回の調査では、ケーシング漏洩に伴う圧力降下と、それ以外の影響(エレメント変形 等による圧力降下)とを完全に分離することができず、結果としてはケーシング漏洩箇所 を特定するには至らなかった。テスト時間をより長期化するとともに、試験容量を大きく 取って、ケーシング漏洩とそれ以外の影響とを分離できるよう、テスト方法を改善する必 要性が指摘された。具体的には今回のデュアルパッカー方式ではなく、シングルパッカー 及び坑口 BOP(防噴装置; Blow-out Preventer)を使用して内外圧同時加圧とすることで 試験容量を大容量化するとともに、テスト時間を充分に取る(数時間~十数時間)ことで、 ケーシング漏洩とそれ以外の圧力降下要因を分離することが可能であると考えられる。 (3) 坑内水位低下詳細調査 観測井 CO2-2 坑における第 1 回の坑内水位低下原因調査の結果を踏まえ、上記とは異な る方法にて坑内加圧テストを計画した。具体的にはシングルパッカー及び BOP を使用し ての内外圧同時加圧テストとし、圧力測定は一昼夜継続を基本とした。 ① 調査概要 a 調査対象井 岩野原 CO2-2 坑 b 調査目的 シングル・パッカー及び BOP を用いてチュービング内圧・外圧同 時加圧テストを実施し、ケーシング漏洩箇所及び漏洩の規模を特定 することを目的とする(図 1.3.2-4 参照)。 c 調査期日 平成 19 年 12 月 14 日(金)~12 月 19 日(水) d 使用パッカー 米国 TAM 社 ”TAM-J” シングルパッカー e 調査予定箇所 パッカーセット深度 1) 1,226m 2) 1,205m 3) 1,146m 4) 1,100m 5) 6) パッカーをセットしない全坑加圧テストを併せて実施。 117 957m 948m 内圧加圧 外圧加圧 外圧テスト区間 パッカー エレメント 内圧テスト区間 内圧 ケーシング 図 1.3.2-4 ② シングルパッカーによるテスト概念図 調査結果 今回の調査では、まず、坑口にて BOP のみ閉鎖し、パッカーをセットしない全坑加圧 テストを実施して、ケーシング漏洩規模の定量化を試みた。全坑加圧テスト時の坑口圧力 測定結果を図 1.3.2-5 に、圧力降下から算定される漏洩量の時間推移を表 1.3.2-3 にそれぞ れ示す。尚、ここでの水の圧縮率は、テスト終了時点に実施した再加圧時の水圧入量と圧 力上昇の関係に基づき Cw = 4.9×10 -4 MPa -1 を使用した。 図 1.3.2-5 に示す通り、全坑加圧テスト時の坑口圧力は、テスト開始時の 2.93 MPaG か ら 17.0 時間後の 1.64 MPaG まで約 1.29 MPa 低下した。同圧力低下分に相当する坑内水 の漏洩量は約 10.2 リットルであり、17.0 時間の平均漏洩レートは 14.3 リットル/日となる。 また、表 1.3.2-3 に示す通り、漏洩レートは加圧開始初期で 40 リットル/日以上と相対的 に大きいものの、以降は徐々に低下し、坑口圧力 2.3~1.7 MPaG の範囲で 15~8.0 リット ル/日程度と確認された。 118 3.5 坑口圧力 [MPaG] 3.0 2.5 漏洩量確認のため 再加圧(11.0ℓ圧入) 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 経過時間 [hours] 図 1.3.2-5 表 1.3.2-3 試験容量 経過時間 [hours] 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 17.0 全坑加圧時の圧力推移 全坑加圧テスト結果 16,050 リットル 圧力 圧力降下 [MPaG] [MPa] 2.9326 0.0000 2.4894 0.4432 2.3250 0.6076 2.1860 0.7466 2.0631 0.8695 1.9569 0.9757 1.8615 1.0711 1.7691 1.1635 1.6801 1.2525 1.6413 1.2913 漏洩量 漏洩レート [リットル] [リットル/日] 0.00 3.49 41.8 4.78 15.5 5.87 13.1 6.84 11.6 7.67 10.0 8.42 9.0 9.15 8.7 9.85 8.4 10.16 平均 14.3 続いて深度 1,226m にパッカーをセットし、坑口にて BOP を閉鎖した上で、TBG 内圧 及び外圧をかけた状態でのテストを実施した。この際、内圧はパッカー深度以深のケーシ ングに、また外圧はパッカー深度以浅のケーシングに、それぞれ作用することになる。テ スト時の内圧・外圧の時間推移を図 1.3.2-6 に、また、漏洩量の時間推移を表 1.3.2-4 にそ れぞれ示す。 図 1.3.2-6 に示す通り、TBG 内圧はテスト開始時の 4.03 MPaG から 14.7 時間後の 3.56 MPaG まで約 0.47 MPa 低下した。同圧力低下分から漏洩水量を単純計算すると約 0.71 リットル(平均漏洩レート 1.2 リットル/日)となるが、テスト時に観測された内圧・外圧 間の微妙な圧力干渉(即ち、一方の圧力を変化させると、他方にも若干の圧力変化が観測 119 される)を考慮すると、内圧低下の主要因は水の漏洩というより、むしろ外圧が低下した ことによる干渉であろうと推測される。 一方、その外圧については、テスト開始時の 1.15 MPaG から約 10 時間後には大気圧に まで低下した。同圧力低下分の漏洩水量は約 6.6 リットルに相当するが、テスト終了時の 外圧再加圧時には約 12.0 リットルの水を補給した時点で初期圧力まで回復していること から、14.7 時間の漏洩量も約 12.0 リットル(平均漏洩レートとしては約 20 リットル/日 程度)であったと推測される。尚、テスト開始から約 6 時間後を境に外圧降下の状況に変 化が認められており、漏洩の状況が一様ではないことを示唆するものである。 以上の内圧・外圧の観測結果から、以下の解釈が可能である。 (a) ケーシング漏洩は主としてパッカー上、即ち、深度 1,226m 以浅で発生している(こ の際の漏洩速度は 10~20 リットル/日程度で、かつ不規則)。 (b) 深度 1,226m 以深については非常に微小な漏洩(1,226m以浅に比較して 10~20 分 の 1 程度)が存在するか、あるいは漏洩は存在しない(圧力降下は内・外圧間干渉の 影響である可能性が大)。 4.5 内圧(パッカー下) 4.0 坑口圧力 [MPaG] 3.5 3.0 2.5 2.0 再加圧(12.0ℓ圧入) 外圧(パッカー上) 1.5 1.0 0.5 0.0 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 経過時間 [hours] 図 1.3.2-6 パッカー設置深度 1,226m テスト時の圧力推移 120 24 表 1.3.2-4 パッカー設置深度 1,226m テスト結果 外圧側(パッカー上) 内圧側(パッカー下) 11,720 3,080 試験容量 リットル リットル 経過時間 圧力 圧力降下 漏洩量 漏洩レート 圧力 圧力降下 漏洩量 漏洩レート [MPa] [リットル] [リットル/日] [hours] [MPaG] [MPa] [リットル] [リットル/日] [MPaG] 0.0 1.1542 0.0000 0.00 4.0269 0.0000 0.00 2.0 0.9406 0.2136 1.23 14.7 3.9474 0.0795 0.12 1.4 4.0 0.7956 0.3586 2.06 10.0 3.8764 0.1505 0.23 1.3 6.0 0.5916 0.5626 3.23 14.1 3.8094 0.2175 0.33 1.2 8.0 0.1474 1.0068 5.78 30.6 3.7051 0.3218 0.49 1.9 10.0 0.0000 1.1542 6.63 10.2 3.6497 0.3772 0.57 1.0 12.0 0.0000 3.6093 0.4176 0.63 0.7 14.0 0.0000 3.5725 0.4544 0.69 0.7 14.7 0.0000 (12.0)* (平均 19.6) 3.5567 0.4702 0.71 平均 1.2 *(注)外圧側漏洩量は再加圧時の水補給量で近似 上記の深度 1,226m でのテスト後、パッカー深度を 1,205m に変更し、同様のテストを 実施した。テスト時の内圧・外圧の時間推移を図 1.3.2-7 に、漏洩量の時間推移を表 1.3.2-5 にそれぞれ示す。 図 1.3.2-7 に示す通り、深度 1,205m でのテスト時の内圧・外圧の挙動は先の 1,226m テ スト時と全く逆転し、内圧側が初期圧力 3.62 MPaG から 22.7 時間後の 1.11 MPaG まで 約 2.51 MPa 降下(漏洩量で約 4.0 リットル、平均漏洩レートで 4.3 リットル/日)したの に対し、外圧側には圧力降下は全く認められず、逆にテスト開始から約 4 時間後以降、微 小な圧力上昇が観測された(外圧の圧力変化も内圧との干渉による可能性大)。また、深度 1,226m テストと同様に、テスト開始から約 4 時間後、及び約 8 時間後の 2 度にわたり、 内圧降下の状況に変化が認められ、漏洩の状況が一様でないことを示唆している。 先の深度 1,226m テストと同様に、上記の結果から以下の解釈が可能である。 (a) ケーシング漏洩は全量パッカー下、即ち深度 1,205m 以深で発生している。 (b) 深度 1,205m 以浅については、3 箇所の CHDT 坑や他のケーシング変状部を含めて、 漏洩の懸念はない。 121 4.5 4.0 坑口圧力 [MPaG] 3.5 内圧(パッカー下) 3.0 漏洩量確認のため 再加圧(4.8ℓ圧入) 2.5 2.0 1.5 外圧(パッカー上) 1.0 0.5 0.0 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 経過時間 [horus] 図 1.3.2-7 パッカー設置深度 1,205m テスト時の圧力推移 表 1.3.2-5 試験容量 経過時間 [hours] 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0 22.0 22.7 パッカー設置深度 1,205m テスト結果 外圧側(パッカー上) 11,520 リットル 圧力 圧力降下 漏洩量 漏洩レート [MPaG] [MPa] [リットル] [リットル/日] 1.0105 0.0000 0.00 1.0315 0.0 1.0202 0.0 1.1199 0.0 1.1975 0.0 1.1963 0.0 1.1769 0.0 1.1533 0.0 1.1331 0.0 1.1166 0.0 1.1096 0.0 1.0709 0.0 1.0591 0.0 内圧側(パッカー下) 3,290 リットル 圧力 圧力降下 漏洩量 漏洩レート [MPaG] [MPa] [リットル] [リットル/日] 3.6164 0.0000 0.00 2.9124 0.7040 1.13 13.6 2.4876 1.1288 1.82 8.2 1.8527 1.7637 2.84 12.3 1.4108 2.2056 3.56 8.5 1.3070 2.3094 3.72 2.0 1.2647 2.3517 3.79 0.8 1.2348 2.3816 3.84 0.6 1.1968 2.4196 3.90 0.7 1.1498 2.4666 3.98 0.9 1.1191 2.4973 4.03 0.6 1.1161 2.5003 4.03 0.1 1.1079 2.5085 4.04 平均 4.3 上記 2 箇所におけるパッカー及び BOP を用いた加圧テストの結果、ケーシング漏洩箇 所としては深度 1,226m~1,205m の区間、即ち、坑内 BHTV 観測調査で確認された 1,210m 付近のケーシング変状部(No.7~No.9)であることが特定された。同漏洩の規模は、坑口 圧力 1.0~4.0 MPaG の範囲で概ね 10 リットル/日(毎秒 0.1cc 程度)のオーダーである。 また、同テストにより 1,205m 以浅におけるケーシング漏洩の可能性がないことを確認し たことから、以降に計画されていた浅部での加圧テストはいずれも不要と判断した。 122 ③ まとめ 上記 1,210m 付近ケーシング変状部の漏洩箇所は、図 1.3.2-8 に示す通り、地質層準的 には Ic 層 Zone-5b Bottom より約 40m 深部に位置する灰爪層中の泥岩区間であり、二酸 化炭素圧入層である Zone-2b の Bottom からは約 90m深部に位置する。漏洩部分の泥岩層 の孔隙率・浸透率は、同図に示す如く、CMR 検層からいずれも非常に小さい値と予想さ れていることから、上述の漏洩規模(数リットル~10 リットル/日オーダー)が現状より も急激に拡大する可能性は極めて小さいと考えられる。 また、Ic 層、とりわけゾーン 2b との深度差が充分にあることから、漏洩した坑内ブラ インが Ic 層に到達する、あるいは Ic 層に圧入した二酸化炭素が漏洩部分に到達する等の 可能性も殆どないと判断される。即ち、CO2-2 坑で観測されている Zone-2b 区間の比抵抗 値の低下傾向は坑内水漏洩とは関係なく、二酸化炭素の移動・溶解に伴う地層水による再 置換に起因する現象である。同時に、二酸化炭素地中貯留における坑井の健全性という観 点からも、これを阻害するような事象とはなり得ないと推測される。 SP GR SP (MV) -150 -200 NPHI -100 1080 0 RES (OHMM) 5 10 15 20 1080 NPHI(V/V) 0.25 0.05 RHOZ -0.15 AHO90 AHO30 PERM(MD) 0.01 AHO DT4P 1100 1100 1120 1120 1120 1140 1140 1140 1160 1160 1160 Zone1 Top 1100 Zone2a Top 1 100 10000 1080 1080 AHO10 1100 0.45 KSDR KTIM MDT CMRP CMFF Zone2b Top Zone3a Top 1120 Ⅰc Zone3b Top Zone4 Top 1140 Zone5a Top Zone5b Top 1160 Zone5b Bottom 1180 1180 1180 1180 1200 1200 1200 1200 1220 1220 1220 ケーシング漏洩部分 1220 1240 1240 0 50 100 150 GR(GAPI) 図 1.3.2-8 200 200 1240 1240 150 100 DT(US/F) 岩野原 CO2-2 坑 50 1.95 2.45 RHOZ(g/cc) 2.95 0.6 0.4 0.2 PORO(V/V) Ic 層とケーシング漏洩箇所の位置関係 123 0 1.3.3 坑井の健全性調査 (1) 調査の経緯 モニタリング検層が開始された平成 15 年 6 月 25 日から最終モニタリング検層が実施さ れた平成 19 年 12 月 4 日までの約 4 年半の間に、岩野原実験フィールドは 2 回の大きな地 震に遭遇している。一回目は平成 16 年 10 月 23 日に新潟県中越地方を震源として発生し た平成 16 年新潟県中越地震、2 回目は平成 19 年 7 月 16 日に新潟県中越沖を震源として 発生した平成 19 年新潟県中越沖地震であり、双方の地震はともにマグニチュード 6.8 で あった。 平成 16 年新潟県中越地震発生後には岩野原観測井に於ける地震の影響を調査する目的 で同年 11 月以降に観測井 CO2-2、CO2-3、CO2-4 の 3 坑において CBL 検層、BHTV 検 層が実施され、坑井ダメージの無いことを確認した。二度目の地震による坑井への影響を 調査する目的で、最終モニタリング検層と時を同じくしてラジアル・セメントボンド・ロ グ(RCBL)とボアホールテレビュアー(BHTV)を実施した。また、平成 17 年度より発生し ている CO2-2 坑における水位低下との関係を調査した。 (2) ① RCBL 及び音響式 BHTV 観測調査 調査概要 RCBL 検層、BHTV 検層は平成 19 年 12 月 4~5 日に実施された第 37 回モニタリング 検層作業時に実施された。測定区間を表 1.3.3-1 に示す。 表 1.3.3-1 坑井 RCBL、BHTV 検層測定区間一覧 CO2-2 CO2-3 CO2-4 測定区間 (m) 測定区間 (m) 測定区間 (m) RCBL 600.0~1,280.0 600.0~1,230.0 600.0~1,255.0 BHTV 22.0~1,280.0 ----- ----- 種目 また、本調査に用いた機器の仕様を以下に示す。 【物理検層車】 形式 : 油圧駆動ウインチ搭載 4,000m 級物理検層車 車両形式 : 三菱ファイター 車両サイズ : 802 cm (L) × 240 cm (W) × 329 cm (H) 車両重量 : 13,000 kg 124 製造元 : 三菱ふそうトラック・バス株式会社 形式:アーマードケーブル 外径 : 3/8” 長さ : 4,000 m 破断荷重 : 5,900 kg 製造元 : Rochester 社 【セメントボンドログ(RCBL)】 形式 : ラジアル・セメントボンドログ 外径 : 80 mm 長さ : 4.2 m (セントラライザーを除く) 耐圧 : 1,400 KSC 発振周波数 : 23 KHz 発~受信間隔: 3 および 5 feet : 2 feet (ラジアルボンド部) 収録データ : CSL 形式、10cm 毎サンプリング 製造元 : Halliburton Energy Services 社 【ボアホール・テレビュアー(BHTV)】 形式 : 超音波式ボアホール・テレビュアー 外径 : 40 mm 長さ : 1.6 m (セントラライザーを除く) 耐圧 : 200 KSC 発振周波数 : 1.2 MHz 坑壁探査速度: 6 sec/回転 製造元 ② : Advanced Logic Technology 社 測定原理および方法 a ラジアル・セメントボンド・ログ (RCBL) RCBL 検層は従来型のセメントボンド検層機(CBL)に発振~受信間隔が 2feet のラジア ルボンド測定系を加えた新世代の CBL ダウンホールツールである。CBL は孔井掘削後孔 内 に 挿 入 し た ケ ー シ ン グ パ イ プ と 地 層 間 の ア ニ ュ ラ ス 部 に 注 入 し た セ メ ン ト ミ ル ク の硬 化・結合状況を深度に対して連続的に測定、記録し、ボンディング(結合状況)を定量的 に評価する。 125 ボンディングは発振器より孔内に発振さ れた音波がケーシングパイプ内外を伝播し CS 受信器に達した時の音波エネルギーの振幅 を測定することにより求められる。音波が ケーシングパイプ内を伝播すると(右図経 地層 路①)音波エネルギーによりケーシングは 振動する。セメンチングが良好な場合はケ セ メント ーシング、セメント、地層の3者は一体と なり音波エネルギーは伝播するため(右図 経路①+②+③)音波エネルギーの減衰は 著しく、発振器より受信器に到達する音波 発 振器 波形の振幅は小さくなる。しかし、セメン チングが不良でケーシング外周のセメント が十分に硬化・癒着していない、あるいは、 ケーシングの周囲にセメントが存在しない ③ ② ① 場合は音波エネルギーの多くがケーシング (2feet) 内を伝播するためエネルギー減衰は小さく 大きな受信波振幅が得られる。 受 信器 音 波伝播経 路 したがって、受信波の振幅の変化を連続的 受 信器 (3feet) に測定する事によりケーシングパイプとセ メントのボンディングの良否を知ることが できる。 受 信器 (5feet) CBL 検 層 か ら は ア ン プ リ チ ュ ー ド (AMP)、トラベル タイ ム(TT)、インテ ンシ テ ィ ー ・ ロ グ (INT) 、 カ ラ ー ロ ケ ー タ ー (CCL)の 4 つの結果が得られる。 アンプリチュード値は受信波の初動エネル ギーを測定する事により得ることができ る。単位は mV であり、ケーシングサイズ やセメント組成により変化するが一般に高 図 1.3.3-1 い値はボンディング不良を、低い値は良好 なボンディングを示す。 126 RCBL 概念図 受信された波形を輝度変調し連続出力したものをインテンシティー・ログと呼び、アン プ リ チ ュ ー ド 値 で は 判 別 で き な い セ メ ン ト と 地 層 間 の ボ ン デ ィ ン グ 等 の 解 釈 に 使 用 され る。 トラベルタイムは発振器より受信器に到達する音波の最短到達時間を示し、セメントボ ンド検層のログ・クオリティを表す指標とされる。 ラジアルボンド測定系はセメントボンド測定系と同じ発振音波を用い、発振器より 2feet の距離に設置された 8 個の受信機により測定を行う。個々の受信機は坑壁を 8 分割したセ メンチング情報(アンプリチュード値)を取得し、これらの情報を坑壁に対しての展開図 として画像出力する。これにより、従来型の CBL 検層では判断が難しかったチャネリン グやパーシャルセメントを視覚的(Cement Map Log)に捉えることが可能である。 地層 ⑧ ① ⑦ ② ⑥ ③ casing 図 1.3.3-2 ⑤ ④ Cement Map no cement RCBL 受信機の測定範囲 図 1.3.3-3 b CO2-2 坑における測定結果 ボアホール・テレビュアー (BHTV) BHTV は、流体で満たされた孔井の孔壁にトランスデューサより超音波を発射し、その 反射波を深度に対して連続的に測定し、孔壁の状態を映像として表わす測定器である。ト ランスデューサは音波エネルギーの発振、受信両方の機能を持ち、細いビーム状に収束さ れた音波エネルギーを孔壁に向け発射し、孔壁で反射した反射波を受信する。 127 孔壁で反射してトランスデューサに受信される音波エネ ルギーは、孔壁表面の物理特性の影響を受ける。即ち、滑 らかな表面は粗い表面よりも、硬い表面は柔らかい表面よ りも多くのエネルギーを反射する。このように反射波のエ ネルギー量は孔壁の状況を反映しており、岩質の変化、亀 裂の有無、孔井の形状等の情報を反射波より得ることがで きる。 トランスデューサはツール内で回転すると共に、アーマ ード・ケーブルにより孔内ツール自身が垂直方向に移動す るので孔壁はスパイラル状に超音波により走査される。同 時にフラックスゲートマグネトメーターにより地磁気が検 出され、測定された孔壁データと方位の関係を決定する。 測定された信号は、反射強度(アンプリチュード)と反 射波到達時間(トラベルタイム)に分類・処理され出力さ れる。 アンプリチュードは反射信号(波形)の初動振幅強度を 表わす。振幅強度の強弱は孔壁の物理特性の影響を受ける ため、振幅の大小を色調に対応させて表示することにより、 孔壁の物理特性をイメージングすることができる。一般に 反射が弱い部分を寒色、反射が強い部分を暖色で表現する。 孔壁の亀裂、割れ目、空洞などでは周囲と比較し反射波の 振幅が低くなるため、色調の変化によりそれらの存在が明 らかになる。また、孔壁が硬質で亀裂等が無ければ反射波 は強い振幅を示し、暖色によるログが出力される。 トラベルタイムはトランスデューサより発射された音波 エネルギーが孔壁で反射し再びトランスデューサに到達す るまでの時間を指す。孔内水の音波伝達速度を予め知るこ とにより、トラベルタイムはゾンデより孔壁までの距離に 変換され、孔径が算出される。アンプリチュードと同様に、 孔径値の変化を色調に対応させることにより孔径変化をイ メージングする。 128 図 1.3.3-4 BHTV 概念図 アンプリチュード図、トラベルタイム図は共に孔壁の展開図として出力される。出力図 上で確認された亀裂あるいは薄層よりそれらの傾斜方位、傾斜角を算出することができる。 ア ン プ リ チ ュ ー ド (AMP) 図 1.3.3-5 ③ a トラベルタイム(TT)図 BHTV サンプルログ 検層結果 ラジアル・セメントボンドログ (RCBL) RCBL は従来型の 3 フィート、5 フィート発振~受信器間隔に 2 フィートの発振~受信 器間の測定系を加えたツールである。また 2 フィート測定系の受信機は 8 分割されており 発振器より発射された音波を 8 方向より受信する。これにより同一深度のセメンチング状 況を坑壁に対して 8 分割して測定でき、セメント分布の不均一性を確認することが可能と なる。 129 二酸化炭素地下貯留では坑井沿いに発生する二酸化炭素漏洩は最も注意を要する事項 の一つである。CBL 検層によるケーシング背後のセメンチング状況把握は坑井の健全性、 セメント劣化を確認する上で必要不可欠である。今回、使用した RCBL はケーシング背後 に発生し、二酸化炭素漏洩経路になる可能性のあるチャネリングやパーシャル・セメント の観測が可能性である。 CBL 検層は鋼管ケーシングにおけるセメンチング状況を把握する手法であり、FRP ケ ーシングにおけるセメンチング状況を定量的に把握することは難しい。このため、本観測 井では FRP ケーシングの上下部に位置する鋼管ケーシングのセメンチング状況より FRP ケーシングのセメンチングを推測した。 【CO2-2】 図 1.3.3-6 に深度 750~1,000m 間、図 1.3.3-7 に深度 1,150~1,250m 間の RCBL ログを 示す。坑井仕上げ直後(平成 13 年 12 月 15 日実施)のアンプリチュード値を緑線、中越地 震直後(平成 16 年 11 月 11 日実施)のアンプリチュード値を青線、最終モニタリング検層時 (平成 19 年 12 月 4 日実施))のアンプリチュード値を赤線で示す(第 3 トラック)。 前回の測定と比較しセメンチィングの劣化が見られる個所は無く、新潟県中越沖地震に よる影響は確認できない。セメント・トップは概ね 795m である。セメント・トップ以浅 では 10~30mV のアンプリチュード値を示す。今回の測定では深度 786~792m において アンプリチュード値が 10mV 程度低下しており、前回の測定(平成 16 年 11 月 11 日)時 に比べ圧縮強度が増加していることが確認される。 セメント・トップ以深~FRP ケーシング・トップ間では前回測定と比較しアンプリチュ ード値は同様または僅かな低下が認められる。同区間は初回測定時(平成 13 年 12 月 15 日) よりボンディングは良好であったが、さらにセメントの硬化が進行していることが分かる。 FRP ケーシング直上のアンプリチュード値は約 5mV であり、ボンディングの程度は良好 である。 FRP ケーシング下部に続く鋼管ケーシング部のアンプリチュード値が 5mV 以下である ことより FRP ケーシング部のボンディングも良好であると想像される。 130 FRP–鋼管 接続部 図 1.3.3-6 FRP–鋼管 CO2-2 坑 RCBL ログ(750~1,000m) 接続部 図 1.3-15 CO2-2 坑 RCBL ロ グ (1,150~ 図 1.3.3-7 CO2-2 坑 RCBL ログ(1,150~1,200m) 131 図 1.3.2-8 に深度 890~950m、図 1.3.2-9 に深度 1,190-1,230m 間の RCBL ログを示す。 Cement Map(第 4 トラック)上、深度 904~910m、934~938m に見られる高アンプリチュ ード部(白~黄色)はケーシング背後の低セメント圧縮強度部を表している。同区間のア ンプリチュード値は 5mV 以下であり、セメントによる坑井方向の圧力遮断には何ら影響 はない。また、FRP ケーシング・トップよりセメントトップ部まで同様な低アンプリチュ ード部が何箇所か確認できるが、それぞれは単独して存在しており、それらがネットワー ク化し、浅部への二酸化炭素漏洩経路を形成する可能性は無いと考えられる。 FRP-鋼管ケーシング接続部(深度 1,210m)では坑内水の漏洩が確認されたが、RCBL の 結果からはボンディングの低下は確認できない。 低アンプリチュード 部 図 1.3.3-8 CO2-2 坑 RCBL ログ(890~950m) FRP 鋼管境界部 図 1.3.3-9 CO2-2 坑 RCBL ログ(1,190~1,230m) 132 【CO2-3】 図 1.3.3-10 に深度 850~1,170m 間の RCBL ログを示す。CO2-3 坑のセメントトップは 概ね 845m であり、FRP ケーシングトップまでの約 200m 間はアンプリチュード値が数~ 10 数 mV であり、良好なボンディングを示している。 前回の測定(平成 16 年 11 月 11 日)との比較ではアンプリチュード値が数 mV 低下しており、セメント硬化が進行してい ることが分かる。 FRP–鋼管 接続部 図 1.3.3-10 CO2-3 坑 RCBL ログ(850~1,170m) 133 【CO2-4】 図 1.3.3-11 に深度 750~1,000m、図 1.3.3-12 に 1,070-1,200m 間の RCBL ログを示す。 セメント・トップは 850m 付近にあり、それ以浅のアンプリチュード値は 65~75mV を示 し、ほぼフリーであると思われる。FRP ケーシング・トップとセメント・トップ間の約 80m 間はアンプリチュード値、数~数 10mV を示す。また、1089.7~1092.2m に挿入さ れた圧力計設置のための鋼管ケーシング部および FRP ケーシング下部の鋼管ケーシング におけるアンプリチュード値は 5mV 以下であり、ボンディングは良好であると言える。 図 1.3.3-13 に FRP ケーシング・トップとセメント・トップ間の拡大図を示す。同区間 の Cement Map よりボンディングは数 m 毎に良、不良を繰り返すが低アンプリチュード 区間において上下を貫く不良区間が存在しないことより、十分な上下方向の遮水能力を備 えると考えられる。 FRP–鋼管 接続部 図 1.3.3-11 CO2-4 坑 134 RCBL ログ(750~1,000m) FRP–鋼管 接続部 図 1.3.3-12 CO2-4 坑 RCBL ログ(1,070~1,200m) Good Bond Poor Bond Good Bond Poor Bond 図 1.3.3-13 CO2-4 坑 RCBL ログ(840~940m) b ボアホール・テレビュアー (BHTV) BHTV 検層では発射さ れた音波が孔 壁で反射 し測定センサ に到達す るまでの時間 (TT) および到達波の振幅(AMP)を測定することにより、ケーシング内径(変形)やケーシング ダメージ(亀裂等)を調査する。 TT(トラベルタイム)は音波発射後のある時間を基準(=0sec)とし、反射波の初動が観 測されるまでの時間(初動波到達時間)を表す。本計測で用いた BHTV ではケーシング内 135 で発生する反射に伴う到達波の時間的な遅延を測定することが可能であり、これによりケ ーシングの肉厚を測定することが可能である。 出力表示は初動到達時間(坑径)を色調変化に対応させたもので、白→黄→茶→こげ茶 →黒の順に BHTV ツール~孔壁の距離が大きくなることを示す。AMP(アンプリチュード) は初動振幅を電圧値に変換した値である。反射面の状態により変化する振幅値をカラース ケールに対応させている。坑壁表面に付着物が無い場合は反射率は高く、高いアンプリチ ュード値を示す。また、坑壁面の付着物、亀裂、カップリング部などは周囲と比較しアン プリチュード値の低下が現れる。 測定センサはケーシング内壁を 360°走査し、坑壁全域の情報を得ることができる。鉄 管内では方位検知機構が正常に作動しないため出力ログにおける方位表示は方位を示すも のではない。 平成 16 年 11 月 11 日および平成 19 年 12 月 5 日に実施した BHTV のアンプリチュード 値を比較すると低アンプリチュード値(青~濃緑~青)の形状に大きな相違が無いことが 分かる。低アンプリチュード値は主にケーシング内面に出来た亀裂や歪みを表す。これに より、平成 16 年 11 月 11 日の測定以降、ケーシングの変形が進行していないことが確認 された。 CO2-2 坑 で は BHATV(Bore Hole Acoustic Televiewer) お よ び BHOTV(Bore Hole Optical Televiewer)の測定を実施した。 3D 表示と亀裂の関係を見ると FRP ケーシング部の亀裂は 3 個所に分かれており亀裂 A から亀裂 B の区間でケーシングは井戸芯より変移し亀裂 B から亀裂 C の区間ではほぼ井 戸芯に並行に位置し、亀裂 C より再び井戸芯の移行する「コ」の字に変形していることが 分かる。BHTV の音波反射時間より得られる孔径値からの変位量は最大で約 6mm である。 ④ まとめ 坑井の健全性についてラジアル・セメントボンド・ログ(RCBL)、ボアホール・アコース テ ィ ッ ク ・ テ レ ビ ュ ア ー (BHATV)、 お よ び ボ ア ホ ー ル ・ オ プ テ ィ カ ル ・ テ レ ビ ュ ア ー (BHOTV)を用いて調査を実施した。調査内容は大きく二つに分けることができる。一つ はケーシング内壁を走査し、変形、亀裂を特定することであり、他方はケーシング背後の 状況を把握することにある。 CCS に係わる坑井では坑井を介した二酸化炭素漏洩が最も可能性の高い漏洩経路であ ると考えられている。ケーシング・ダメージは地層中の二酸化炭素と坑井間の導通を意味 し、ケーシング背後のセメント・ダメージは坑井に沿った二酸化炭素の地上漏洩の可能性 を示す。測定結果より、セメントボンドに関しては新潟県中越地震後に実施した結果と比 較し、全体にボンディングは進行しており、圧縮強度の低下等は見られなかった。ラジア ルボンドの結果から 3 観測井の FRP ケーシング上部の鋼管ケーシング部のボンディング 136 は良好であり、坑井沿いに発生する漏洩に関係するチャネリングやパーシャルボンドは検 出されなかった。 BHTV の結果より 1,210m 付近に発生しているケーシング変形部のうち、FRP 部におい て亀裂が確認された。同深度における RCBL の結果からはボンディングは良好であり、ケ ーシング背後のセメントの存在が確認された。今回の計測では二酸化炭素貯留層部におけ るケーシング・ダメージ、坑井全域におけるセメントの劣化は認められなかったが、我が 国では地震から逃れることは不可能であるが、適切なセメンチング作業、ケーシングを用 いることで地震による影響を防げることが証明された。 (3) 光学式 BHTV 観測調査 観測井 CO2-2 坑において光学式 BHTV による坑内観測を実施し、ケーシングの状況を 確認した。 ① 調査概要 a 調査対象井: 岩野原 CO2-2 坑 (5-1/2”ケーシング内、特に FRP 区間) b 調査目的: 上記対象井において ODS(Optical Digital Scanner)検層を実施して 坑壁展開画像を取得・記録し、坑内ケーシングの状況を確認すること を目的とする。 c 調査期日: d 使用装置: 平成 19 年 9 月 27 日(木)~9 月 28 日(金) 坑内計測作業 平成 19 年 9 月 29 日(土)~10 月 9 日(火) 解析・報告書作成 株式会社レアックス社製「BIP-V/DX システム(ODS プローブ)」 (システム仕様は表 1.3.3-2 参照) e 調査区間: 深度 900.16~1,254.50m(区間長 354.34m) 137 表 1.3.3-2 部 位 コント ローラ プローブ ウィンチ その他 ODS プローブ仕様 項 目 動作温度 電源 寸法(mm)※ 出力端子 動作温度 耐水深度 適用口径(mm) 仕 様 0~40℃(結露なきこと) AC 100V 272 x 252 x 45 NTSC (BNC) 0~40℃(結露なきこと) 500m φ56~200 寸法(mm) 適用可能条件 最大分解能(深度 方向) 最大分解能(円周 方向) 性能 φ50, L=1,030 坑内水なし、または清水 0.25mm(最小) 計測有効長(m) オペレーション データ記録 深度計測プーリー 記録速度 計測可能方向 ④ BIP-V/DX システム 摘 要 ※突起部含まず 坑内の状況による。 セントラライザー必須 720 ピクセル(最大) 360 ゚ 坑壁画像撮影 方向センサー内臓 フルカラー メカニカルコンパス内臓 200/300 巻き上げ、巻き下げ機構 ケブラーケ-ブル Windows PC HDD・外部 VTR 0.25mm/Pulse, メカニカルカウ ンター装備 0~54m/h 360 ゚ 調査結果 本調査により観測されたケーシング内の変状箇所の一覧を表 1.3.3-3 に示す。また、各 変状箇所の坑壁展開画像を図 1.3.3-14~1.3.3-20 に示す。 表 1.3.3-3 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 上端深度 (m) 954.45 1,210.00 1,210.18 1,210.40 下端深度 (m) 954.49 1,210.06 1,210.24 1,210.44 中間深度 (m) 954.47 1,108.13 1,110.26 1,111.73 1,113.61 1,117.59 1,210.03 1,210.21 1,210.42 変状箇所一覧 記 事 ほぼ水平の汚れまたはクラック CHDT 孔 ほぼ水平の汚れまたはクラック ほぼ水平の汚れまたはクラック CHDT 孔 CHDT 孔 連続するクラック、面沿いに変色 連続するクラック、面沿いに変色 連続するクラック、面沿いに変色 ( 注 ) *CHDT 孔 深 度 は シュ ラン ベ ル ジャ 社 によ る ワイ ヤライ ン 深 度 138 CHDT 孔深度 (m) (1,108.6)* (1,114.0)* (1,118.0)* 図 1.3.3-14 変状部 No.1 図 1.3.3-15 CHDT 孔 No.2 図 1.3.3-16 変状部 No.3 図 1.3.3-17 変状部 No.4 図 1.3.3-18 CHDT 孔 No.5 図 1.3.3-19 CHDT 孔 No.6 139 No.7 No.8 No.9 FRP- 鋼 管 継 図 1.3.3-20 ③ 変状部 No.7~9 まとめ 今回実施した光学式 BHTV 観測により 3 つの CHDT 孔跡を確認するとともに、1,210m 付近には明瞭なケーシング・クラック(変状部 No.7~No.9)が確認された。1,210m 付近 の同クラックについては、クラック面沿い及び周辺部に変色が認められる等、坑内水漏洩 の可能性を示唆する結果が得られている。また、これら以外にもケーシング汚れあるいは クラックと見られる部分が3箇所観察されている。 観測井 CO2-2 坑においては、上述の如く BHTV によって 1,210m付近のケーシング変 状部分が確認され、また坑井水位低下詳細調査によって当該部分でのケーシング漏洩が確 認された。これらの現象については、その原因を特定するには到っていないものの、同じ く CO2-3 坑及び CO2-4 坑で実施された音響式 BHTV 検層により、地質層準としては CO2-2 140 坑の 1,210m 付近と全く同一の地質面上において、軽微なケーシング変形が確認されてい る(CO2-1 坑については当該部分より浅部にブリッジ・プラグが設置されているため、検 層による確認は実施されていない)。 このように、3 坑井で同一地質面上においてケーシング変形が認められるという現象に 至る要因としては、同地質面上で何らかの変位が発生し、その際、各坑井のケーシングに 降伏応力以上の応力が加わったと考えるのが自然である。 表 1.3.3-4 に観測井で使用されている 5”1/2 ケーシングの各種強度を示す。観測井には物 理検層によるモニタリングを実施するため、一部区間に FRP(ファイバーグラス)ケーシ ングが使用されており、CO2-2 坑でのケーシング変形部分は FRP 区間、CO2-3, CO2-4 坑 では通常の鋼管区間であった。表 1.3.3-4 に示す如く、鋼管と FRP 管の強度を比較すると、 内圧・外圧強度で鋼管は約 2 倍、引張強度で約 4 倍の強度を有しており、FRP 管の極限強 度と鋼管の通常使用域がほぼ同水準のレベルにある。このため、ケーシング変形箇所が鋼 管区間であった CO2-3, CO2-4 坑では軽微なケーシング変形(漏洩なし)に留まったのに 対し、FRP 区間であった CO2-2 坑ではクラック発生・漏洩に到ったものと解釈される。 表 1.3.3-4 5”1/2 ケーシング強度比較 内圧(MPa) 使用上限 極限 鋼管 J-55 #15.5 33.0 37.9 FRP管 Star2000, #5.9 13.8 管種 グレード, 重量 外圧(MPa) 使用上限 極限 27.6 15.2 29.6 張力(ton) 使用上限 極限 112.0 26.3 59.0 CO2-2 坑の坑内水漏洩に関しては、漏洩規模は小さく、かつ漏洩箇所は二酸化炭素貯留 層(Ic 層)とは充分離れた極低浸透層部分であることから、特に対策を施さなくとも貯留 層及び坑井の健全性を阻害する要因とはなり得ない。定期的に坑内に水補給する等でモニ タリングを継続する、あるいは必要に応じて漏洩区間以深を掘削泥水等で置換するなどに より、今後の観測井としての機能及び健全性は充分に確保できるものと考えられる。 141
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