ホモロジー群とその応用 平岡 裕章 広島大学理学研究科 講義内容 1. トポロジーとは? 2. ホモロジー群入門 3. 情報通信分野へ応用してみよう --- R. Ghrist(Pennsylvania大学)の研究紹介 講義のスライドが欲しい人は: http://www.mis.hiroshima-u.ac.jp/~hiraoka/ の classページ へ 1. トポロジーとは? 幾何学:ものの形を研究する数学の分野 図形の分類の仕方は基準の定め方によって様々 基準「合同」:図形が重なり合うときは同じとみなす ∼ = ∼ = � ∼ = 基準「相似」:スケールをかえて重なり合う図形は 同じとみなす ∼ = ∼ = � 代数的(定量的)には,,, 合同:図形が重なり合うときは同じとみなす ∼ � = ① 3辺の長さが同じ3角形は同じと見なす ∼ = ∼ = 相似:スケールをかえて重なり合う図形は同じとみなす ∼ = ∼ = � ② 2組の角が同じ3角形は同じと見なす ①や②は代数的不変量とよばれるものの例 それぞれの代数的不変量を調べることで図形の分類が可能 トポロジー:幾何学の1分野でその基準は 「切り貼りせずに連続的に変形させて重なり合う 図形は同じものとみなす」 で与えられます ∼ = ∼ = ∼ = � ∼ = ∼ = � ∼ = ∼ = トポロジー = 切り貼りしない連続変形はOK! 疑問:何でもありって感じの世界だけど,そんな世界 で不変な量ってあるの? ∼ = ∼ = ∼ = ∼ = ∼ = ∼ = ∼ = 連結成分 わっか 空洞 1 0 0 2 0 0 1 1 0 1 0 1 連結成分,わっか,空洞の数は不変量だ! 連結成分,わっか,空洞:もののつながり方を表す量 0次元の「穴」:連結成分 1次元の「穴」:わっか 2次元の「穴」:空洞 トポロジー:各次元の「穴」を不変にする変形で 重なり合う図形は同じと見なす 不満:あまりにも「穴」の定義があいまいだ、、、 正確な定義 = 代数化(定量化) ホモロジー群 ホモロジー群とは X 幾何学的対象 に対して H0 (X) = Rk0 H1 (X) = Rk1 k0:連結成分の数 k1:わっかの数 Hq (X) = Rk2 k2:空洞の数 Hq (X) = Rkq kq:q次元の「穴」の数 を表す,代数的な道具(現代数学に必須!) H0 ( 西浦先生 ) = R H1 ( 西浦先生 ) = R36 10 H0 ( )=R H1 ( ) = R847 H2 ( )=0 今日の目標1:ホモロジー群を定義してみよう 問題点:「穴」に着目した代数化(定量化)をどうする? 「穴」は何によって特徴づけられている かを考え直す必要あり 「穴」の次元も反映されるべき 今日の目標2:ホモロジー群の応用例を見てみよう センサーネットワーク(工学)への応用 R. Ghrist(Pennsylvania大学)の研究紹介 数学記号の準備 R:実数の集まり ある性質 P を持ったものの集まりを集合とよぶ X = {x | x は P を満たす } x が の要素であるとき と表す x∈X X Rn = {(x1 , · · · , xn ) | xi ∈ R, i = 1, · · · , n} � � 2 1 2 2 S = (x1 , x2 ) ∈ R | x1 + x2 = 1 X Y Y ⊂ X と表す 集合 の部分集合 を S 1 ⊂ R2 和集合 X1 ∪ X2 = {x | x ∈ X1 or x ∈ X2 } 共通部分 X1 ∩ X2 = {x | x ∈ X1 and x ∈ X2 } R3 x2 S1 1 x1 x Y X の各要素 に のある要素を1つ対応させる f X Y ルール を から への写像といい f :X→Y x∈X y∈Y で表す.また が に写されるとき f : X � x �→ y ∈ Y と表す. f : R � x �→ (x, x2 ) ∈ R2 x2 x1 x∈X f : X → Y, g : Y → Z について に 2つの写像 f g g(f (x)) ∈ Z を対応させる写像を と の合成写像といい (g ◦ f )(x) = g(f (x)) g ◦ f で表す; ∀ :任意の 2.ホモロジー群入門 ホモロジー群:連結成分,わっか,空洞を代数的に 扱う道具 ホモロジー群の導入の流れ 単体複体 (多面体) 代数化 幾何学的対象 穴の情報抽出 鎖複体 (chain complex) 代数的対象 ホモロジー群 2.1 単体複体(多面体) Ω R Ω 十分大きな (自然数)が定める 内で考える 大雑把に言うと単体複体とは 点 辺 三角形 四面体 三角形の 高次元版 をズレないように張り合わせてできる 図形のこと そこでまずは三角形の一般化(高次元化)を考えよう Xが凸集合 任意のXの2点間を結ぶ直線もXに含まれる x ∀x, y ∈ X に対して λx + (1 − λ)y ∈ X, 0 ≤ ∀λ ≤ 1 が成立 y v2 v0 v3 v1 v0 , v1 , v2 , v3 を含む 同一平面上にない4点 (#3) 最小の凸集合 三角形 (2次元) v2 v0 v1 v0 , v1 , v2 同一直線上にない3点 を含む (#2) 最小の凸集合 四面体 (3次元) n次元三角形:(#n)を含む最小の凸集合 v2 v0 三角形 (#2) v2 v0 四面体 (#3) v1 v0 , v1 , v2 同一直線上にない3点 を含む (#2) 最小の凸集合 − → − −→ v− v = a v 0 1 0 v2 , a ∈ R, と表されない → − −→ a1 − v− v + a v a1 , a2 ∈ R 0 1 2 0 v2 = 0 を満たす は a1 = a2 = 0 に限る v3 v1 v0 , v1 , v2 , v3 を含む 同一平面上にない4点 (#3) 最小の凸集合 − → − −→ − −→ v− v , v v , v 0 1 0 2 0 v3 の一つのベクトルが残りのベクトル を使って表されない → − −→ − −→ a1 − v− v + a v v + a v 0 1 2 0 2 3 0 v3 = 0 を満たす a1 , a2 , a3 ∈ R は a1 = a2 = a3 = 0 に限る 一般の位置にある3点 v0 , v1 , v2 → − −→ a1 − v− v + a v a1 , a2 ∈ R 0 1 2 0 v2 = 0 を満たす は a1 = a2 = 0 に限る (#2) 一般の位置にある4点 v0 , v1 , v2 , v3 → − −→ − −→ a1 − v− v + a v v + a v 0 1 2 0 2 3 0 v3 = 0 を満たす a1 , a2 , a3 ∈ R は a1 = a2 = a3 = 0 に限る (#3) 一般の位置にある(n+1)点 v0 , · · · , vn → − −v→ = 0 a1 − v− v + · · · + a v を満たす a1 , · · · , an ∈ R 0 1 n 0 n は a1 = · · · = an = 0 に限る (#n) v2 v0 v3 v1 v0 , v1 , v2 , v3 を含む 同一平面上にない4点 (#3) 最小の凸集合 三角形 (2次元) v2 v0 v1 v0 , v1 , v2 同一直線上にない3点 を含む (#2) 最小の凸集合 四面体 (3次元) n次元三角形 (#n)を含む最小の凸集合 v2 v0 , v1 , v2 一般の位置にある3点 を含む v0 v1 最小の凸集合 v3 v1 v0 , v1 , v2 , v3 を含む 一般の位置にある4点 v1 v2 | |v0(2次元) 2単体 三角形 v2 v0 v1 v2 v3 | |v0(3次元) 3単体 四面体 n単体 |v0 · · · vn | n = n単体の次元 最小の凸集合 v0 , · · · , vn 一般の位置にある(n+1)点 を含む 最小の凸集合: {λ0 v0 + · · · + λn vn | λ0 + · · · + λn = 1, λi ≥ 0} 注意)0単体=点,1単体=辺,2単体=三角形,3単体=四面体 σ = |v0 · · · vn | から異なる(m+1)個の頂点 vi0 , · · · , vim n単体 を選ぶと,それらは一般の位置にあるので m単体 τ τ = |vi0 · · · vim | を定める.この を面単体とよび τ ≺σ で表す. 例)σ = |v0 v1 v2 |:2単体 v2 |v0 v1 v2 | ≺ σ v0 三角形 v1 |v0 v1 |, |v0 v2 |, |v1 v2 | ≺ σ |v0 |, |v1 |, |v2 | ≺ σ では単体複体の定義を与えます.思い出しておくと,,, 大雑把に言うと単体複体とは 点 辺 三角形 四面体 をズレないように張り合わせてできる 図形のこと でした. n単体 三角形の 高次元版 定義(単体複体): 内の有限個の単体の集まり K が次の条件を満たすとき RΩ 単体複体とよぶ: τ ≺σ σ ∈ K ならば全ての面単体 も τ ∈K (1) σ, τ ∈ K かつ ならば かつ σ ∩ τ �= ∅ σ∩τ ≺τ σ∩τ ≺σ (2) Kに含まれる単体の次元の最大値をKの次元とよぶ. 単体複体 Kが定める多面体 |K| := 例1) v2 v0 � σ∈K σ ⊂ RΩ K2 = {|v0 v1 v2 |, |v0 v1 |, |v0 v1 |, |v1 v2 |, |v0 |, |v1 |, |v2 |} |K2 | = 三角形 v1 は単体複体 Kn = n単体の全ての面 } は単体複体 より一般に { 定義(単体複体): 内の有限個の単体の集まり K が次の条件を満たすとき RΩ 単体複体とよぶ: τ ≺σ σ ∈ K ならば全ての面単体 も τ ∈K (1) σ, τ ∈ K かつ ならば かつ σ ∩ τ �= ∅ σ∩τ ≺τ σ∩τ ≺σ (2) Kに含まれる単体の次元の最大値をKの次元とよぶ. v2 例2) v0 v2 v3 v4 v1 K = K2 ∪ {|v3 v4 |, |v3 |, |v4 |} は単体複体ではない ∵ |v1 v2 | ∩ |v3 v4 | = |v4 | |v1 v2 | が の面単体ではない v0 v3 v4 v1 とすれば単体複体になる m切片 K (m):次元がm以下の の単体の集まり K K (m) ⊂ K m切片自身単体複体になる( ) L ⊂ K が単体複体になるとき を部分単体複体 部分集合 L とよぶ v2 例) v2 v0 三角形 v1 v0 (1) K2 v1 = {|v0 v1 |, |v0 v1 |, |v1 v2 |, |v0 |, |v1 |, |v2 |} K2 の1切片 は 単体の向きについて: 同じ2単体でも頂点の並べ方は 6=3! 通り v2 |v0 v1 v2 |, |v1 v2 v0 |, |v2 v0 v1 | :互いに偶数回の互換で 移り合うグループ v0 三角形 v1 |v v v |, |v v v |, |v v v | 0 2 1 1 0 2 2 1 0 :互いに偶数回の互換で 移り合うグループ 注意)互換とは2つの頂点を入れ換える操作のこと 同じグループに所属する並べ方は同じ向きをもつとみなす v2 �v0 v1 v2 � = �v1 v2 v0 � = �v2 v0 v1 � �v0 v2 v1 � = �v1 v0 v2 � = �v2 v1 v0 � v0 v0 v2 v1 v1 注意)1つの単体には2つの向きが入ることになる 今後単体の向き(頂点の順序)を考慮するときは<>を使う 単体の向きについて: v0 , · · · , vn が定めるn単体の場合も同様 (並べ方は (n + 1)! 個) (n + 1)!/2 �v0 v1 v2 · · · vn � が定める向き( 個の並べ換え) (n + 1)!/2 �v1 v0 v2 · · · vn � が定める向き( 個の並べ替え) 例) 1単体: v0 v1 v0 �v0 v1 � v0 v1 �v1 v0 � v0 v3 3単体: v1 v2 �v0 v1 v2 v3 � v3 v1 v2 �v0 v1 v3 v2 � 2.2 鎖複体(chain complex) ホモロジー群の導入の流れ 単体複体 (多面体) 幾何学的対象 代数化 穴の情報抽出 鎖複体 (chain complex) ホモロジー群 代数的対象 次は穴に着目した代数化を行いたい! が、そもそも穴って何だ?どうやって 定式化する?? 1次元の穴:わっか 1次元図形は境界がなければ「わっか」? わっかなし わっかあり そうでもない わっかなし 境界あり 境界なし 1次元図形 には境界がないが 2次元図形 の境界になっているので わっかが消失! 1次元の穴(わっか)の特徴付け 境界のない1次元図形で2次元図形の境界になって いないもの り 2次元図形は境界がなければ「空洞」? 空洞なし 中 そうでもない 空洞あり 境界あり 身 あ 中 身 な し 2次元の穴:空洞 境界なし 空洞なし 2次元図形には境界がないが 3次元図形の境界になっているので 空洞が消失! 2次元の穴(空洞)の特徴付け 境界のない2次元図形で3次元図形の境界になって いないもの 1次元の穴(わっか)の特徴付け 境界のない1次元図形で2次元図形の境界になって いないもの 2次元の穴(空洞)の特徴付け 境界のない2次元図形で3次元図形の境界になって いないもの q 次元の「穴」の特徴付け 境界のない q次元図形で(q+1)次元図形の境界に なっていないもの KEYWORD:境界 ホモロジー群のこころ 境界に着目した定式化を行うことで穴を代数化する 目標:境界に着目した代数化を行う K:単体複体(n次元) 定義: q 鎖群 Cq (K) := �� Cq (K) := 0, � αi vi0 · · · viq q < 0, q > n � | αi ∈ R, � � � vi0 · · · viq :Kの q 単体 0 ≤ q ≤ n � � � vi0 · · · viq , vj0 · · · vjq ただし異なる向きを持つ2つの単体 は � � � � vi0 · · · viq = − vj0 · · · vjq とする Cq (K) � q の元を 鎖とよぶ 注意)各次元でスライスした形で代数化を行っている 演算(たし算とひき算)は各単体の向きによって導かれている 目標:境界に着目した代数化を行う K:単体複体(n次元) 定義: q 鎖群 Cq (K) := �� Cq (K) := 0, � αi vi0 · · · viq q < 0, q > n � | αi ∈ R, � � � vi0 · · · viq :Kの q 単体 0 ≤ q ≤ n � � � vi0 · · · viq , vj0 · · · vjq ただし異なる向きを持つ2つの単体 は � � � � vi0 · · · viq = − vj0 · · · vjq とする Cq (K) 例) v0 � q の元を 鎖とよぶ v2 三角形 K2 = {|v0 v1 v2 |, |v0 v1 |, |v0 v1 |, |v1 v2 |, |v0 |, |v1 |, |v2 |} v1 C2 (K2 ) � �v0 v1 v2 � + �v0 v1 v2 � = 2 �v0 v1 v2 � = −2 �v1 v0 v2 � C1 (K2 ) � 3 �v0 v1 � + 2 �v2 v3 � = 3 �v0 v1 � − 2 �v3 v2 � 境界を代数的にとりだしてみよう! v2 例) 境界は �v1 v2 � + �v2 v0 � + �v0 v1 � ∈ C1 (K2 ) v0 除く = �v1 v2 � − �v0 v2 � + �v0 v1 � v1 = (−1)0 �v�0 v1 v2 � + (−1)1 �v0 v�1 v2 � + (−1)2 �v0 v1 v�2 � �v0 v1 v2 � ∈ C2 (K2 ) =: ∂2 �v0 v1 v2 � (と表すことにする) ∂2 : C2 (K2 ) → C1 (K2 ) この例を一般化すると,,, � � ∂q vi0 · · · viq := ∂q �� � � q � l=0 vi0 · · · viq + vj0 · · · vjq ∈ ∈ 定義:境界作用素 ∂q : Cq (K) → Cq−1 (K) � � � � vi0 · · · viq �→ ∂q vi0 · · · viq � (−1) vi0 · · · v� il · · · viq l �� � � � � = ∂q vi0 · · · viq + ∂q vj0 · · · vjq � 境界の特徴の1つ:境界の境界は空集合 境界 境界 ∅(空集合) 境界作用素は同様の性質を保っている? 命題: ∂q−1 ◦ ∂q = 0 ∂q ∂q−1 ここで左辺は写像の合成 Cq (K) −→ Cq−1 (K) −→ Cq−2 (K) 注意)代数的に「境界の境界は空集合」を表現している ∂2 ∂1 q = 2 で確認:C2 (K) −→ C1 (K) −→ C0 (K) ∂1 ◦ ∂2 �v0 v1 v2 � = ∂1 (�v1 v2 � − �v0 v2 � + �v0 v1 �) = ∂1 �v1 v2 � − ∂1 �v0 v2 � + ∂1 �v0 v1 � = �v2 � − �v1 � − �v2 � + �v0 � + �v1 � − �v0 � = 0 q 宿題:一般の でも証明してみましょう 2.3 ホモロジー群 ホモロジー群の導入の流れ 単体複体 (多面体) 幾何学的対象 代数化 穴の情報抽出 鎖複体 (chain complex) ホモロジー群 代数的対象 q 次元の「穴」 境界のない q次元図形で(q+1)次元図形の境界に なっていないもの q 次元の「穴」 境界のない q次元図形で(q+1)次元図形の境界に ① ② なっていないもの ①を代数的に表すと Zq (K) := {c ∈ Cq (K) | ∂q c = 0} サイクルとよぶ ②を代数的に表すと Bq (K) := {c ∈ Cq (K) | c = ∂q+1 c� , c� ∈ Cq+1 (K)} バウンダリとよぶ ∂q−1 ◦ ∂q = 0 より Bq (K) ⊂ Zq (K) ⊂ Cq (K) 命題 q 次元の「穴」 境界のない q次元図形で(q+1)次元図形の境界に ① ② なっていないもの ③ よって q次元の「穴」を代数的に表現すると Zq (K) Bq (K) 「 に対して を零にする操作で生き残るもの」 ① ② Q (操作を と表す) ③ � � z = z + b, z, z ∈ Zq (K), b ∈ Bq (K) すると に対して Q(z � ) = Q(z) + Q(b) = Q(z) Zq (K)の中で違いが である要素ごとにグループ分け Bq (K) した各グループがq次元の「穴」を表現することになる 定義:ホモロジー群 Hq (K) := Q(Zq (K)) = Zq (K)/Bq (K) = {[z] | z ∈ Zq (K)} [z] は が所属するグループを表す z ここで をq次元ホモロジー群とよぶ 注意1)q次元ホモロジー群は「q次元の穴」を代数的に表します H0 (K):連結成分 H1 (K):わっか H2 (K):空洞 [z] + [z � ] := [z + z � ] Hq (K) 注意2) 上での演算 は幾何学的な穴の 操作としての意味をもちます ∂ 1 鎖複体 0 → C1 → C0 → 0 例) v2 v0 v1 C0 = {α0 �v0 � + α1 �v1 � + α2 �v2 � | αi ∈ R} C1 = {β0 �v0 v1 � + β1 �v1 v2 � + β2 �v0 v2 � | βi ∈ R} ∂1 �v0 v1 � = �v1 � − �v0 � ∂1 �v1 v2 � = �v2 � − �v1 � ∂1 �v0 v2 � = �v2 � − �v0 � まとめて書くと(行列表示) −1 0 −1 0 ∂1 (�v0 v1 � �v1 v2 � �v0 v2 �) = (�v0 � �v1 � �v2 �) 1 −1 0 1 1 Z1 � β0 �v0 v1 � + β1 �v1 v2 � + β2 �v0 v2 � 0 = ∂1 (β0 �v0 v1 � + β1 �v1 v2 � + β2 �v0 v2 �) = β0 ∂1 �v0 v1 � + β1 ∂1 �v1 v2 � + β2∂1 �v0 v2 � β0 = (∂1 �v0 v1 � ∂1 �v1 v2 � ∂1 �v0 v2 �) β1 β2 −1 0 −1 β0 0 β1 = (�v0 � �v1 � �v2 �) 1 −1 0 1 1 β2 例) v0 ∂ 1 鎖複体 0 → C1 → C0 → 0 v2 v1 C0 = {α0 �v0 � + α1 �v1 � + α2 �v2 � | αi ∈ R} C1 = {β0 �v0 v1 � + β1 �v1 v2 � + β2 �v0 v2 � | βi ∈ R} Z1 � β0 �v0 v1 � + β1 �v1 v2 � +β2 �v0 v2 � −1 0 −1 β0 0 β1 0 = (�v0 � �v1 � �v2 �) 1 −1 0 1 1 β2 −1 0 −1 β0 1 −1 0 β1 = 0 同次連立1次方程式の解 0 1 1 β2 β0 1 よって β1 = β 1 Z1 = {β(�v0 v1 � + �v1 v2 � − �v0 v2 �) | β ∈ R} β2 −1 v2 一方 B1 = 0 (∵ ∂2 = 0) ゆえに H1 = {β(�v0 v1 � + �v1 v2 � − �v0 v2 �) | β ∈ R} わっかを代数的に表現! v0 v1 3. 情報通信分野へ応用してみよう --- R. Ghristの研究紹介 昔のGhrist R. Ghrist の紹介 アメリカの数学者 Pennsylvania大学教授 研究テーマ「トポロジーの工学への 応用」において顕著な成果をあげる 最近のGhrist ホモロジー群のセンサーネットワーク 研究への応用を見てみよう センサーネットワーク センサー = sense + -er = 感知する + 装置 例)自動ドア,防犯センサー,iPadなどのタッチパネル ネットワーク = 点と線でつながっているもの(グラフ) 例)インターネット,人間関係,道路や鉄道網 センサーネットワーク:多数のセンサーを対象領域に 配置し,情報交換を行えるネットワークを構成したもの 制約条件:各センサーは低性能 「高価なセンサーをそぉっと配置するのではなく,1つや2つ くらいなら潰れてもいい安いセンサーをバァッとバラまく」 という雰囲気 各センサーからの局所的な情報を統合して大域的な 情報を抽出する必要がある 研究テーマ 1.各センサーからくる膨大な情報の効率的な統合方法や データ伝搬 2.どのような有益な情報を抜き出せるか( 局所→大域 ) 領域被覆問題を考えてみよう! 領域被覆問題 対象領域 D センサーの計測領域:B(xi ; rc ) xi 半径 rc の円板 中心 xi 領域被覆問題 対象領域 D 領域被覆問題: D ⊂ � xi :sensor B(xi ; rc ) ? D 問題設定 D ⊂ R2 対象領域 は有界閉集合 D の境界はその上のセンサーが定める区分線形な線分 P := {xi ∈ D | i = 1, · · · , N }:センサーの集合 rb :通信半径(半径 円内にある他のセンサーと rb rb 通信可能.境界上の隣接センサー距離は 以下) √ rc :計測半径.rc ≥ rb / 3 � U= B(xi ; rc ):計測領域 xi ∈P 領域被覆問題:D ⊂ U ? 注意)各センサーの絶対位置の情報を仮定しない! (GPSなどの高価な機材は積んでいない) What s in Ghrist s Mind? 興味の対象は計測領域 U = � B(xi ; rc ) xi ∈P � しかし交わり B(xi ; rc ) B(xj ; rc ) を調べることは不可能 センサーは近傍のセンサーと 通信可能/不可能 はわかる rb が定める) (半径 Ghrist’s Strategy センサーの通信ネットワークから抽象的な 単体複体を構成し,そのホモロジー群(穴) 情報から領域被覆状態を調べる 通信単体複体 K 頂点集合 K (0) := P K � |vi vj | vi , vj が通信可能 K � |vi vj vk | どの2つのセンサー間でも通信可能 K � |vi0 · · · viq | どの2つのセンサー間でも通信可能 1単体 vj vi と 間距離が 以下 rb 2単体 q単体 通信ネットワーク 通信単体複体 K 注意)ここで現れた単体複体はVietoris-Rips複体という数学的な概念 領域被覆定理(de Silva & Ghrist): [σ] ∈ H2 (K, F ) が存在し となるならば δ[σ] �= 0 D⊂U (つまりセンサー達は領域を被覆している) δ → H2 (K) → H2 (K, F ) → H1 (F ) → H1 (K) → 領域被覆定理(簡易版): H1 (K) = 0 ならば D ⊂ U 注)通信単体複体に「わっか」がなければ領域被覆は達成されている その他の話題 ターゲットカウント:各センサーの局所ターゲット数 から大域ターゲット数を計算できる? Ghrist の解答: ターゲット数 = χ(K) := dimK � � hdχ χ ここで はオイラー数 (−1)q(Kに含まれるq単体の個数) q=0 v2 v0 三角形 v1 χ=3−3+1=1 今日の話のまとめ ものの形を大雑把に分類する「穴」について考えた ホモロジー群という道具を使うと幾何学的な「穴」を 代数的に扱える ホモロジー群は工学にも応用されつつある 参考資料 トポロジーの入門書 瀬山士郎,トポロジー:柔らかい幾何学,日本評論社 トポロジーの工学(ロボット,情報通信)への応用 R. Ghrist(Pennsylvania大学)のwebpage http://www.math.upenn.edu/~ghrist/ ホモロジー群のソフトウェア CHomP http://chomp.rutgers.edu/
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