公共経済学

公共経済理論演習
三井 清
14.外部性 2:ピグー税とコースの定理
14.1 環境汚染のケース
14.2 共有資源のケース
14.3 補論**:ネットワーク外部性のケース
外部性の問題を解決する方法
• 私的解決方法
– 内部化
– 有権の適切な設定と私的交渉(コースの定理)
– 司法制度の活用
• 公的解決方法
– ピグー税(罰金)
– 取引可能(排出)許可証市場の創設
14.1 環境汚染のケース
<税金による効率化:ピグー税>
外部性による問題を公的介入で解決する方法として税を用いる方法について検討する。
t =生産1単位当りの税額(あるいは罰金額)[=(従量)税率]
ピグー税(=罰金)Pigouvian Tax
= 限界私的費用(便益)を限界社会的費用(便益)に一致させるための税
⇒ 外部性が存在するもとで効率的な資源配分を達成するための税
*
ピグー税率 t =ピグー税の(効率的な資源配分を達成する)税率
このピグー課税の下での企業1の利潤は
 1  p  x  C1 ( x)  t  x
(14-1)
となる。
したがって、企業1の利潤を最大化するための条件は
p  MC1 ( x)  t
(14-2)
である。
p  MC1 ( x* )  MD( x* )  MSC( x* )
(13-5)
(13-5)、(14-2)を比較すれば、
t *  MD( x* )
(14-3)
すなわち、効率的な生産水準 x における限界損害額 MD( x* ) と税率が一致
*
するようにすることで、最適な資源配分を実現できる。
(問題 14-1)企業 1 の生産量xと最適な生産量 x * との差 x  x * に対して税率tの
税が課された場合にも最適な資源配分が実現することを示しなさい。また、
この課税システムのもとでの税収を求めなさい。
このピグー課税の下での企業1の利潤は
1  p  x  C1 ( x)  t  ( x  x* )
(14-1)´
となる。
したがって、企業1の利潤を最大化するための条件は
p  MC1 ( x)  t
である。
(14-2)
<所有権を明確化と交渉による効率化:コースの定理>
 im   i ( x m ) :企業 1 が自企業の利潤を最大化したときの企業 i の利潤
 i*   i ( x* ) :企業 1 が両企業の利潤の和を最大化したときの企業 i の利潤
利潤フロンティア=企業 1 の生産量 x を動かしたときの点  1 ( x), 2 ( x)  の軌跡
2
*
m
利潤フロンティア
 m  1   2
 *  1   2
1
1
(問題 14-2)利潤フロンティアが上の図のように描かれる理由を説明しなさい。
(問題 14-3)上の図に  1 、  2 、  1 、  2 を図示しなさい。
m
m
*
*
利潤フロンティア=企業 1 の生産量 x を動かしたときの点  1 ( x), 2 ( x)  の軌跡
2
*
m
利潤フロンティア
 2*
 m  1   2
 *  1   2
 2m
1
 1* 
m
1
1
企業 1 と企業 2 が生産量 x の水準を交渉して決定する。
T =企業 2 から企業 1 へ補償金
T がマイナスであれば企業 1 から企業 2 へ補償金が支払われている。
企業 1 が生産することで、川の水質を悪化させることを通じて企業 2 に損害を与える
ケースを想定する。
(1) その川の水の所有権が企業 1 にあるか、企業 2 にあるか
(2) 企業 1 と企業 2 のどちらの交渉力が強いか、
によって交渉の結果は異なってくる。
たとえば、川の水の所有権が企業 1 にあれば、企業 1 は川の水を汚染する権利がある
ことになる。逆に、川の水の所有権が企業 2 にあれば、企業 1 に川の水を汚染されな
い権利が企業 2 にあることになる。
以下では、次の 4 つのケースに着目する。
(ケース 1-1) 企業 1 が川の水の所有権を持ち、企業 1 の交渉力が圧倒的に強い。
(ケース 1-2) 企業 1 が川の水の所有権を持ち、企業 2 の交渉力が圧倒的に強い。
(ケース 2-1) 企業 2 が川の水の所有権を持ち、企業 1 の交渉力が圧倒的に強い。
(ケース 2-2) 企業 2 が川の水の所有権を持ち、企業 2 の交渉力が圧倒的に強い。
(ケース 1-1)
この場合、企業 2 の交渉力が圧倒的に弱いので、
 2 ( x)  T   2m
(14-4)
を満たしつつ、
 1 ( x)  T
(14-5)
を最大化するように企業 1 が x と T を選ぶことになる。すなわち、T を消去
すれば
 1 ( x)   2 ( x)   2m
(14-6)
を最大化するように企業 1 は x を選択することになる。
そして、この最適解は両企業の利潤の和(すなわち(13-4))を最大化する問
*
題の最適解と一致する。したがって、その解は効率的な生産水準 x である。
*
そして、補償金の金額 T11 は、(14-4)より
T11* =  2*   2m  0
となる。
(14-7)
(ケース 2-1)
この場合、企業 2 の交渉力が圧倒的に弱いので、
(14-8)
 2 ( x) T   20
を満たしつつ(  i0   i (0) )
、
 1 ( x)  T
(14-9)
を最大化するように企業 1 が x と T を選ぶことになる。すなわち、T を消去す
れば
 1 ( x)   2 ( x)   20
(14-10)
を最大化するように企業 1 は x を選択することになる。
そして、この最適解は両企業の利潤の和(すなわち(13-4))を最大化する問題
の最適解と一致する。したがって、その解は効率的な生産水準 x* である。そ
*
して、補償金の金額 T21 は、(14-8)より
T21* =  2*   20  0
となる。
(14-11)
(問題 14-4)(14-7)と(14-11)の不等式が成立することを示しなさい。
T11* =  2*   2m  0
(14-7)
T21* =  2*   20  0
(14-11)
2
*
m
 T21*
利潤フロンティア
 20
 2*
 m  1   2
 *  1   2
T11*
 2m
1
 1*  1m
1
(問題 14-5)ケース 1-2 とケース 2-2 における生産水準と補償金額( T12 と T22 )を求めなさい。
*
*
(ケース 1-2)
⇒
企業 1 の交渉力が圧倒的に弱いので、
1*  T12*  1m
*
m
*
⇒ T12  1  1  0
⇒
2
*
m
 T21*
利潤フロンティア
 20
 2*
 m  1   2
 *  1   2
T11*
 2m
1
 1*  1m
T12*
1
(問題 14-5)ケース 1-2 とケース 2-2 における生産水準と補償金額( T12 と T22 )を求めなさい。
*
*
(ケース 2-2)
⇒ 企業 1 の交渉力が圧倒的に弱いので、
1*  T22*  10  0
*
0
*
*
⇒ T22  1  1  1  0
⇒
2
*
m
 T21*
利潤フロンティア
 20
 2*
 m  1   2
 *  1   2
T11*
 2m
1
10
 1*  1m
 T22*
T12*
1
以上の議論と問題 14-5 の結果より、
「所有権がどちらの企業に付与されていても、
交渉の結果実現する生産水準は効率的である(コースの定理)
」
という結果が導かれることになる。
14.2 共有資源のケース
• 共有資源 ⇒ 過剰な船の数
• ピグー税 ⇒ 効率的な船の数
ピグー税と船の数
税率tの下での市場均衡における船の数n
⇒ AR(n)=MC+t
(14-12)
ピグー税率と効率的な船の数
効率的な船の数n*:
MSR(n*)=MC
(13-4)
ピグー税率t*:
t*=AR(n*)-MSR(n*)
(14-13)
問題14-6
ピグー税の導入による厚生効果を検討
⇒ 「生産者余剰+税収」の大きさを比較
なぜなら、消費者余剰は常に一定だから。
問題14-6
t*=AR(n*)-MSR(n*)
であるとこと図を用いて説明しなさい。
(14-13)
問題14-6
AR, MSR
MSR=MSR(n)
MC+t*
AR=AR(n)
MC
n*
nm
n
問題14-6
AR, MSR
MSR=MSR(n)
Ⅰ
MC+t*
Ⅱ
AR=AR(n)
Ⅳ
Ⅲ
Ⅴ
MC
Ⅵ
n*
Ⅶ
nm
n
問題14-6
税率ゼロの下での生産者余剰=?
AR, MSR
税率t*の下での生産者余剰+税収=
MSR=MSR(n)
Ⅰ
MC+t*
Ⅱ
AR=AR(n)
Ⅳ
Ⅲ
Ⅴ
MC
Ⅵ
n*
Ⅶ
nm
n
問題14-6
税率ゼロの下での生産者余剰=0
AR, MSR
税率t*の下での生産者余剰+税収=?
MSR=MSR(n)
Ⅰ
MC+t*
Ⅱ
AR=AR(n)
Ⅳ
Ⅲ
Ⅴ
MC
Ⅵ
n*
Ⅶ
nm
n
問題14-6
税率ゼロの下での生産者余剰=0
AR, MSR
税率t*の下での生産者余剰+税収=0+(Ⅲ+Ⅳ)=(Ⅲ+Ⅳ)
MSR=MSR(n)
Ⅰ
MC+t*
Ⅱ
AR=AR(n)
Ⅳ
Ⅲ
Ⅴ
MC
Ⅵ
n*
Ⅶ
nm
n
問題14-7
問題13-6のケース
R=8n-n2
MC=2
において、
t*=?
問題14-8
<高速道路の料金>
• 都市圏の高速道路
• 地方圏の高速道路
⇒ 高い料金設定をすべきなのはどっち?
<鉄道の運賃>
• 通勤・通学時間の運賃
• 日中の運賃
⇒ 高い運賃を設定すべきなのはどっち?
問題14-8
• 社会的価値観の教育
• 罰金システム
⇒ メリットとデメリット?
(例)
• ゴミの不法投棄問題
• タバコの喫煙問題
<入漁権市場による効率化>
参入が自由なもとでの入漁権市場について検討しよう。
政府がオークションを実施した場合の、船一艘の入漁権料(価格) r のもと
での需要量(入札量) n は次の式で求められる。
AR(n)  MC  r
(14-14)
入漁権の需要関数 n  n d (r ) は(14-14)を n について解くことにより求めら
れる。
また、(14-14)より
r  AR(n)  MC [  r d (n) ]
は入漁権の逆需要関数である。
(14-15)
(問題 14-10)平均漁獲量関数 AR  AR(n) が描かれた図を用いて、入漁権料 r1 の
もとでの入漁権に対する需要量 n1 を図示しなさい。
AR, MSR
MSR(n)
AR(n)
MC
n
(問題 14-11)問題 13-6 の特殊例における入漁権に対する需要関数を求めなさい。
(問題 14-12)入漁権の供給量 n を n * とするオークションを実施することで
効率的な船の数を実現できることを、問題 14-10 の図を用いて説明
*
しなさい。また、そのときに実現する入漁権料 r を図示しなさい。
(問題 14-13)入漁権料を設定する政策と入漁権のオークション市場を創設する
政策を比較検討しなさい。また、地球温暖化対策としての炭素税と排出
権(排出量)取引市場を用いる政策を、政府の果たす役割などの観点か
ら比較検討しなさい。
(問題 14-14)市場を創設するコスト(取引コスト)について排出権取引のケース
を例にして検討しなさい。また、
「大きな政府」と「小さな政府」の問題
を市場創設コストの観点から検討しなさい。
14.3 補論**:ネットワーク外部性のケース
問題 13-7 と問題 13-8 より 2 つある Nash 均衡のうち一方は(パレート)効率的な
均衡であるがもう一方の均衡は非効率である。
そこで、政府が(ピグー)補助金を給付することで、
(パレート)効率的な均衡だけ
が Nash 均衡になるようにゲームの構造を変換できることを示そう。
政府はソフトウェア購入費用の全額を補助するとともに、その財源は人頭税
で賄うとする。
そのとき、補償変分(すなわち利得) CVi ( x1 , x2 ) は
CVi ( x1 , x2 )  f ( x1 , x2 ) xi  c  ( x1  x2 ) / 2
と求められる。
(14-16)
(問題 14-15)上記のゲームを戦略形で表すとともに、Nash 均衡 ( x1n , x2n ) を
求めなさい。
問題 14-15 と問題 13-8 より、Nash 均衡 ( x1n , x2n ) は(パレート)効率的である。
すなわち、(ピグー)補助金政策と人頭税を組み合わせる政策により、ネット
ワーク外部性により資源配分が歪む可能性を解消できるのである。
ネットワーク外部性が存在するような状況で、ネットワークへの参加者の人数を
「社会関係資本(social capital)
」と呼ぶことにしよう。
上記の例においては、ソフトウェア購入者数がネットワーク参加者数である。
したがって、社会関係資本を SC と置けば、
SC  x1  x2
となる。
政策的な介入が無いときに実現する可能性のある 2 つの Nash 均衡 ( x1N , x2N )
における集計的補償変分 CV ( x1N , x2N ) は(13-12)より


CS ( x1N , x2N )  f ( x1N , x2N )  c ( x1N  x2N )
(14-17)
と求めることができる。
また、補助金を用いた政策的な介入のもとでの Nash 均衡 ( x1n , x2n ) = (1,1) に
おける集計的補償変分 CV ( x1n , x2n ) は、(14-16)より 2(1  c) である。
そこで、政策的な介入が無い場合と、ある場合の Nash 均衡における社会関係
資本 x1  x2 と集計的補償変分 CVi ( x1 , x2 ) をまとめると次の表のようになる。
( x1N , x2N )
(0, 0)
(1,1)
x1N  x2N
CV ( x1N , x2N )
( x1n , x2n )
x1n  x2n
CV ( x1n , x2n )
0
0
-
-
-
2
2(1  c)
(1,1)
2
2(1  c)
上の表より、政策介入の有無か係わらず、社会関係資本が 2(人)大きい均衡における集計的補
償変分が 2(1  c) だけ大きいことになる。
問題14-6
問題13-6のケース
R=8n-n2
MC=2
において、
t*=?
問題14-7
問題13-11より、
n*=3
である。また、
AR=8-n
MSR=8-2n
なので、
t*=AR(n*)-MSR(n*)
より、
t*=(8-n*)-(8-2n*)=(8-3)-(8-6)=5-2=3
である。
(14-7)
14.外部性 2:ピグー税とコースの定理
14.1 環境汚染のケース
14.2 共有資源のケース
14.3 補論**:ネットワーク外部性のケース