通信システム工学B

通信システム工学B
Communication Systems Engineering B
光ファイバー通信入門
山田 博仁
講義日程
通信コース
情報コース
8:50~10:20
208 講義室
8:50~10:20
206 講義室
10 月 2 日
16 日
23 日
10 月 30 日
11 月 6 日
牧野
山田
阿曽
阿曽
澤谷
牧野
阿曽
4.画像情報,視覚の機構と色覚特性
5.画像符号化と伝送品質
6.テレビジョンの映像信号方式
澤谷
7.無線通信
8.電波伝搬
9.アンテナ
12 月 4 日
12 月 11 日
18 日
安達
25 日
1 月 15 日
22 日
29 日
山田
阿曽
13.光伝送路のモード
14.光ファイバ通信
15.インターネット
1.聴覚機構と特性,通話品質
2.音声生成機構とそのモデル化
3.音声分析と符号化
13 日
11 月 20 日
27 日
シラバス記載の授業内容
安達
10.移動通信と周波数割当
11.追跡交換と制御
12.ディジタル変調と符号分割多重通信
自己紹介
略歴
岐阜県生まれ
金沢大学工学部 電子工学科 卒業
東北大学大学院 工学研究科 博士後期課程修了
NEC研究所勤務、通信用半導体レーザ、フォトニック結晶、
Si光導波路デバイスの研究開発に従事
2006年7月 東北大学大学院工学研究科 教授
1959年2月
1981年3月
1987年3月
1987年4月
近況
・ 茨城県守谷市の自宅に家族を残し、仙台に単身赴任
・ 5歳の息子と妻の3人家族
・ 息子と一緒に軽い山登りを始めた
・ 趣味: 旅行など、特に海外(最近は忙しくてなかなか行けない)
約束ごと
・ 講義が始まってからの入退室は原則禁止
・ 私語、携帯通話、メール送受信も厳禁
・ 携帯電話はマナーモードに
・ 居眠りするなら、他人に迷惑がかからないよう
・ 3回注意を受けたら退室してもらい、欠席扱い
オフィスアワー
日時: 随時OKですが、事前に電話またはE-mailにより予約のこと
場所: 電気系2号館203号室
E-mailによる質問・相談も可
E-mail: [email protected]、電話(内線): 7101
10/2、10/16 2回分の講義内容
1. 講義の目的: 光ファイバー通信システムの基礎を習得する
2. 達成目標: 以下について簡単に述べられるようになること
・ 光ファイバー通信システムのしくみ、特徴、応用
・ 光通信の要素デバイスの役割、構造、動作原理
・ 光導波路(光ファイバー)の中を光が伝わるしくみ
3. 講義内容
1日目
光ファイバー通信とは。その歴史。現代の通信技術の中での位置付け
光通信の要素デバイス(光ファイバー、LD、PD、光増幅器など)
2日目
光伝送路(光ファイバー)中での光伝搬。モードの概念
光伝送方式(分散管理、中継技術、多重化技術)
4. 成績評価
レポート10点、出席10点
5. 参考書
末松安晴、伊賀健一共著、光ファイバ通信入門、オーム社
質 問
1. 単一モード光ファイバーと多モード光ファイバーでは、どちらがよ
り多くの情報を短時間に送れるか? それは何故?
2. 光通信には何故レーザが必要? 白熱電球ではダメ?
3. 現在の電気通信における伝送方式と、光通信における伝送方式
の根本的な違いは何?
4. 光3Rとは何か? その内で光増幅器ではできないものは何?
通信の分類
導波機構の有無
有線
(導波機構有)
情報搬送媒体
(carrier)
通信方式
用途
音波
伝令管
船内、潜水艦内通信
機械振動
糸電話
教材
電流(電磁波)
電気通信
電話、インターフォン
光(電磁波)
光ファイバー通信
音波
会話
電波(電磁波)
無線通信
携帯電話 航空・船舶無線
アマチュア無線 衛星通信
光(電磁波)
光通信
狼煙 腕木通信 手旗信号
衛星間光通信
デジタルAV機器 FTTH
海底光ケーブル
無線
(導波機構無、
自由空間伝搬)
重力波
?
重力波通信
テレパシー
腕木通信塔
衛星間光通信
ガウスビーム波
2
2
強度分布 I (r )  I (0) exp(r / w0 )
w0: ビームウエストサイズ
ガウスビーム波の広がり角
2w0
: 光の波長
 

2w0
r
rad 
2
Ex.) 波長1mmの光を、直径1mのビームにして月に送った場合、
月面でのビームスポットサイズはどのくらいになるか?
ただし、月までの距離は約38万km
答 直径約120m
レンズ焦点でのビーム径
レンズの開口数 (Numerical Aperture: NA)
NA  n sin 
a
2wf
f
2w0

f
n
f < 
焦点でのビーム径
2w f 
2
n sin  f
f : 焦点距離
a : レンズの有効半径
n : 媒質の屈折率 (空気中の場合は1)
Ex.) 波長1mmの光を、NA=0.5のレンズの有効径をフルに
活用して絞った場合、どの程度まで絞れるか?
答 直径約1.3mm
身近になった光ファイバー通信
FTTH(Fiber To The Home): Bフレッツ(NTT), TEPCOひかり(東京電力)などがサービス
出展: http://premium.nikkeibp.co.jp/ftth/part2/top_f.html
光回線終端装置と
ルーター
AV機器のデジタル入出力ケーブル
AV機器のデジタル入出力ケーブルとコネクタ
海底光ケーブル網
出展 http://www.alcatel.com/submarine/refs/index.htm
電気通信のしくみ
搬送波: 信号搬送の担い手
搬送波
を作る
発信器
搬送波に情
報を載せる
電気信号
伝送路
搬送波から信
号を取り出す
変調
復調
電線
同軸ケーブル
情報の送り手
情報の受け手
光ファイバー通信の構成
電気信号
xxxx 光デバイス
光信号
伝送路
搬送波は光
LN変調器
EA変調器
光源
光変調
レーザー
LED、電球
情報の送り手
xxxx 電子デバイス
/回路
フォトダイオード(PD)
APD
光検出器
光ファイバー
情報の受け手
復調 電子回路
電磁波の波長
光通信には、波長1 mm前後の近赤外域を使用
光ファイバー通信の特長
1.広帯域 (高速、大容量通信が可能)
シリカ光ファイバーの帯域 >100 THz (THz = 1012Hz)
1本の光ファイバーで、10Tbps(Tbpsは1012bit/secのこと)以上の
伝送が可能。ごく最近、14Tbps, 160kmの光伝送に成功 (NTT)
(同軸ケーブルの帯域:最大でも10GHz程度)
2.長距離伝送が可能
中継間隔
同軸ケーブル:数km~10km
光ファイバー:100 km以上も可能
3.漏話が少ない、電磁誘導の影響を受けない
光ファイバーは非導電性であるため、外部からの電磁誘導ノイズ
の影響を受けない。また、ファイバー自体からの電磁波の放射も
無いので、ファイバー間の干渉が少ない。
4.多重化が容易
光ファイバーが細く軽量のため、多芯化、長尺化が可能
光ファイバー通信の歴史
年 代
人または機関
1930年代
Lamb(独)、関(日本)
石英ファイバー(ロッド)による光伝送
1955年
Townes(米), Schawlow (米),
Basov(ソ)ら
光メーザーの着想
1957年
渡辺, 西澤(東北大)
半導体による超短波増幅・発振のアイデア
1960年
Maiman(米), Javan(米)
1962年
IBM, GE, MIT(米)
半導体レーザの発振
1968年
川上,西澤(東北大)
Graded-index型光ファイバーの発明
1970年
林, Panishら(米)
AlGaAs半導体レーザ室温連続発振
1970年代
NEC, 電電公社, 日立, 三菱
(日), Bell研(米), STL(英)
半導体レーザの長寿命化、発振安定化
1976~79年
電電公社, 藤倉電線(日)
シリカ光ファイバー伝送損失が0.2dB/kmに
1980年代
東工大 末松研究室
半導体レーザの高性能化
1990年代 Southampton大(英), NTT(日)
事
項
ルビーレーザ, He-Neの発振
光ファイバー増幅器の発明と実用化
光ファイバー通信の要素デバイス
デバイス
役 割
光ファイバー
伝送路として光を導く
半導体レーザー
搬送波としてのコヒーレントな
光を発生させる。さらに、搬送
波に情報を載せるための光
変調も行う
光検出器(PD, APD)
搬送波に載っている情報を
電気信号として取り出す
光増幅器
伝送中に減衰などで弱くなっ
た光信号を光のまま増幅する
光合分波器
光スイッチなど
光信号を分配したり、光の経
路を切り換える
イメージ
光ファイバー
通信用シリカ光ファイバー
伝搬損失 < 0.2dB/km @=1.55 mm
光ファイバーの伝送損失
住友電工http://www.sei.co.jp/news/press/02/prs221_s.html
光ファイバー低損失化の歴史
レーザーとコヒーレント光
光になるべく多くの情報を乗せるためには、コヒーレントな光が必要
コヒーレントとは、位相が揃った状態。高スペクトル純度、良好な収束性を有する
光
の
電
界
t
光
の
強
度
f 又は 
光
の
強
度
光
の
電
界
コヒーレント光
t
f 又は 
インコヒーレント光
(コヒーレントでない)
自然界に存在する光は全てインコヒーレント光
例: 太陽光、炎からの光、蛍の光、白熱電球、蛍光灯、LED
コヒーレントな光を人工的に発生させる装置がレーザー
何故コヒーレント光が必要か
インコヒーレントな電磁波を用いた初期の通信 電磁ノイズによる通信
1887年ヘルツは誘導コイルによる火花放電式電磁波発生器を発明
1896年マルコーニ(Marconi)は、ヘルツの電磁波発生器にアンテナとアースを
付けて2.5kmの無線電信に成功
出展: http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/intercomp/wireless/transatrananticexp.htm
1905年日本海海戦において、ロシア・バルチック艦隊の発見が「敵艦見ユ」と無線
電信で通報され、日露戦争の勝利を導く糸口となった
軍艦三笠に搭載の三六式無線電信機は明治36年(1903)旧制二高の木村駿吉教
授が開発。送信機は火花放電、受信機はコヒラー検波器を使ってコイル駆動で記
録紙に出力するもので、80海里以上の通信到達距離を達成
出展: http://blog.zaq.ne.jp/rootakashi/article/163/
その後真空管が発明されて、コヒーレントで強力な電磁波が発生できるようになり、
通信距離が比較的に延びることとなる
何故コヒーレント光が必要か
コヒーレントな電磁波を用いる利点
スペクトル純度が高い(単一周波数)ので、受信側で周波数同調(選択)や増幅を
行うことにより、微弱な電波でも受信できる。(長距離伝送が可能)
スペクトル純度が高い(単一周波数)ので、アンテナなどを用いて、特定の方向に
のみ強く信号を送れる。つまり、伝送の指向性が高い。(長距離伝送が可能)
スペクトル純度が高く搬送波の位相が揃っているので、より早い速度で光の強
弱や位相を変調することができる。(送れる情報量が多い)
スペクトル純度が高く、占有スペクトル幅が不必要に広がらないので、同一周波
数帯を多くのチャンネルで共用できる。(周波数利用効率が高い)
このように、コヒーレントな電磁波を用いる通信は、インコヒーレントな電磁波を用い
る場合に比べて多くの利点を有している。従って、白熱電球やLEDのようなインコ
ヒーレント光を用いるよりも、レーザのようにコヒーレントな光を用いる方が望ましい。
レーザー
レーザとは、光の発振器
正帰還回路
光の正帰還回路
光増幅媒体
+ Amp.
鏡
電気の発振器
レーザー
光増幅媒体とは何か?
物質(原子系)と光との相互作用 以下の3つの課程が同時に起きている
電子など
E2
減衰
入射光
出射光
増幅
入射光
発光
出射光
E1
二準位系
(原子など)
光の吸収
誘導放出
自然放出
熱平衡状態
Maxwell-Boltzmann分布
E
E2
k: ボルツマン定数
T: 媒質の温度
P( E )  e

n2: 励起状態の原子数
E
kT
誘導放出
正味では減衰
E1
吸収
P(E)
熱平衡状態では、励起準位の原子数
は基底準位の原子数よりも少ない n1>n2
吸収
吸収
n1: 基底状態の原子数
自然放出の起きる確率 = An2
A: アインシュタインのA係数
吸収の起きる確率 = Bn1 I
B: アインシュタインのB係数
誘導放出の起きる確率 = Bn2 I
I: 入射光の強度
Bn1 I > Bn2 I
熱平衡状態では、吸収の確率>誘導放出の確率となり、入射光は減衰して出てくる
反転分布
反転分布
Tが負(負温度状態)
E
n2: 励起状態の原子数
E2
P( E )  e

E
kT
誘導放出 誘導放出
E1
P(E)
励起準位の原子数が基底準位の原
子数よりも多い状態を反転分布という
n1<n2
誘導放出
吸収
正味では増幅
n1: 基底状態の原子数
Bn1 I < Bn2 I
反転分布では、誘導放出の確率>吸収の確率となり、入射光は増幅されて出てくる
レーザーとは、何らかの方法で反転分布を作り出し、放射の誘導放出(Stimulated
emission)を用いて光を増幅する装置
半導体レーザー
半導体レーザー (Laser Diode: LD) 光を増幅する媒体が半導体からなり、
pn接合への電流注入により、電子の反転分布状態を作り出せる
特徴: ・ コンパクト (チップ本体は0.3mm角程度)
・ 取り扱い容易 (乾電池2本程度で動作可能)
・ 直接変調で数Gbpsの高速変調が可能
・ 高信頼性 (通信用のInGaAsPレーザは100万時間以上の寿命に)
・ 安価 (FTTH用LDはチップコストで数百円、CD用LDは数十円に)
電子
へき開面(鏡面)
ホール
n型
p型
チップの構造
出展: www.phlab.ecl.ntt.co.jp/master/04_module/002.html
半導体レーザの発振モード
Fabry-Perot (FP)共振器レーザー
2枚の平行に向き合った鏡によるFP型光共振器
によって正帰還が得られ発振するレーザー
発振波長

縦多モード発振
2neff L
q
q: モード番号 1,2 ‥‥

発振スペクトル
neff: 実効屈折率
へき開面(鏡面)
FPレーザーの構造
分布帰還(DFB)型レーザー
回折格子によるBragg反射により、光の分布帰還
が得られ、 Bragg波長近傍の単一波長で発振
発振波長
単一縦モード発振
  2neff L
L: 回折格子の周期
neff: 実効屈折率
発振スペクトル

DFBレーザーの構造
出展: www.matsuoka-lab.imr.tohoku.ac.jp/purposes.html
光検出器
PINフォトダイオード
逆バイアスされたpn接合に光が照射される
と強度に比例した光電流が取り出せる
p+
光
光電流
電子
電極
i
i
ホール
p+
n+
n+
電極
逆バイアス状態の半導体pin接合
アバランシェ フォトダイオード(APD)
基本的にはPINフォトダイオードと同じであるが、アバランシェ効果により、
光電流を増倍するしくみを有している (高感度)
光増幅器
半導体光増幅器
無反射加工
半導体レーザーの両端面に無反射膜
を形成するなどして、光共振器をなく
したもの (光の正帰還がかからなくな
るのでレーザー発振しない)
無反射加工
半導体レーザーチップ
光ファイバー増幅器
Er添加光ファイバー増幅器
コアに、エルビウム(Er3+)などの希土類を添加
波長980nmなどの光で励起すると
波長1.54 mm付近に光利得発生
Er3+の準位
光増幅器の構成
ラマン増幅器
光ファイバに非常に強い励起光を入射すると、石英ガラスの分子振動エネルギー
に対応した励起光波長より100 nm程度長い波長域に光利得が得られる
光合分波器
光を波長によって分ける (分光器)
クラッド
Arrayed Waveguide Grating
コア
0.5 mm
0.5 mm
Si 基板
石英光導波路
Slab WG
50 mm
Arrayed Waveguide Grating (AWG)
12 N
AWGの動作原理
光スイッチ
電気制御-光スイッチ (光の経路を切り換えるが、ON-OFF制御は電気でやる)
スイッチング機構
特 徴
出力ファイバー
メカニカル
(MEMS)
Port1
Port2
入力ファイバー
入力1
熱光学(T-O)効果
電気光学(E-O)効果
出力1
mS~mSオーダーの切換え速度
比較的安価
ヒーター
入力2
+
mSオーダーの遅い切換え速度
安価
出力2
-
電界印加
nSオーダーの高速切換え
高価
その他に、磁気光学(M-O)型、音響光学(A-O)型などもある
光制御-光スイッチ (光-光スイッチ or All光スイッチ)
ON-OFF制御も光でやる
現在研究開発中 将来の全光信号処理システムに使われるかも?