応用数理工学特論 線形計算と ハイパフォーマンスコンピューティング 2006年4月13日 計算理工学専攻 張研究室 山本有作 計算科学・工学における大規模シミュレーション 流体計算 電子状態計算 構造解析 電子状態計算 •数万~数億の自由度を持つ超多自由度の系 •解析のために多大な計算機パワーが必要 最新の計算機を効率的に使うには • アーキテクチャの理解と最適化手法の習得 – 最新の計算機がどんな原理で高速化を実現しているかを理解し, その高速性を引き出すための手法を学ぶことが必要 • 線形計算の高速化 – 科学技術計算では,計算の大部分が線形計算に帰着されること が多い。 – その高速化は重要な課題 授業の目標 • 最新の計算機で大規模な計算を高速に行うための技法 について学ぶ。 • 線形計算のための高速アルゴリズムについて学ぶ。 授業の構成 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 高性能計算のための計算機アーキテクチャ RISCプロセッサにおける高性能計算の手法 並列計算機における高性能計算の手法 連立一次方程式の高性能解法(密行列の場合) 連立一次方程式の高性能解法(疎行列の場合) 固有値計算の高性能化手法 高速フーリエ変換の高性能化手法 テーマ間の関連 高性能計算のための計算機アーキテクチャ RISCプロセッサにおける 高性能計算の手法 連立一次方程式 (密行列) 連立一次方程式 (疎行列) 並列計算機における 高性能計算の手法 固有値計算 グループ発表 高速フーリエ 変換 授業の進め方(1) • レポート – 3回出題予定 – そのうち2回を選んで提出 – 提出は授業後2週間以内に3号館南305号室まで • グループ発表 – 最後の2回の授業を使って行う。 – 2~3人のグループで1つの発表を行う。 – 論文を読んでまとめるか,あるいは講義で勉強したことをもとに自分 たちで数値実験を行った結果を発表。 授業の進め方(2) • 授業ノート – 各回の授業内容を担当者(2名)が記録して提出 • TeX,テキスト形式,あるいは Word で • 提出は授業後1週間以内に – 山本のホームページに掲載予定 • http://www.na.cse.nagoya-u.ac.jp/~yamamoto /lectures.html – ノート担当はレポート提出1回分とみなす 授業の進め方(3) • 質問シート – 2~3回の授業に1回程度,質問シートを提出してもらう。 – 授業最後の5分間を使い,授業内容でわからなかった点,疑問に思っ た点を紙に書いて提出 – 質問が多かった点について,次回の授業の最初に補足説明を行う。 授業の進め方(4) • スーパーコンピューティング実習との連携 – この授業を受ける人は,同時に「計算科学フロンティア特別講義:並列 計算特論」も受けることを勧めます。 – これにより,名大のスーパーコンピュータが授業用に利用可能 授業の進め方(5) • 連絡先 – 3号館南305号室 山本まで – あるいはメールで [email protected] まで 参考書 • J. Demmel: Applied Numerical Linear Algebra, SIAM, 1997. • G. H. Golub & C. F. van Loan: Matrix Computations, 3rd Edition, Johns Hopkins Univ. Press, 1996. • K. A. Gallivan et al.: Parallel Algorithms for Matrix Computations, SIAM, 1994. ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術とは • 大規模な計算を高速かつ高精度に行うための技術 • HPC技術の内容 – – – – 高速・高精度な計算アルゴリズム 単体プロセッサ向けの性能最適化技術 並列化技術 ネットワーク・GRID技術 PC向けプロセッサの クロック周波数の向上 • 周波数は10年間で約50倍も 向上 • たとえば AMD Opteronプロ セッサ(1.6GHz)の場合,1 秒間に最高で32億回の浮動 小数点演算を実行可能 (3200MFLOPSのピーク性 能) それでは,一般的な科学技術計算のプログラムでは, ピーク性能の何%程度を発揮できているか? • 例: 連立一次方程式を解くためのガウスの消去法 do k=1, n do i=k+1, n a(i,k)=a(i,k)/a(k,k) end do do j=k+1, n do i=k+1, n a(i,j)=a(i,j)–a(i,k)*a(k,j) end do end do end do • n=1000のとき,Opteronでの性能はピークの何%? 10% 30% 50% 80% Opteronでの性能測定結果 • n=1000 での性能は225MFLOPS(ピークの7%) • n が大きくなるにつれ,性能は低下 Performance (MFLOPS) 3500 3000 Gaussian elimination peak performance 2500 2000 1500 1000 500 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 n ピークよりはるか下の性能しか得られない原因 は? • 最大の要因は,データ転送速度のネック – 計算を行うには,主メモリに格納されているデータをプロセッサ内 の演算器に転送する必要あり。 – 演算器は十分速いが,データを供給する速度が追い付かない。 • それでは,データ転送速度のネックを解消するにはどう すればよいか? まず,プロセッサのアーキテクチャを知る必要がある。 典型的なマイクロプロセッサのメモリ階層 データ転送速度 非常に大 レジスタ 演算器 8~128 ワード データ転送速度大 キャッシュ 数100Kバイト ~ 数Mバイト データ転送速度小 ラインサイズ 主メモリ 数100Mバイト ~ 数Gバイト • 演算器に近い記憶装置ほど高速だが,容量は小さい。 • 演算器と主メモリの速度差は,年々大きくなっている。 性能最適化の原理 • データがレジスタ中にあれば,演算器は最高速度で計算が可能 いったんデータをレジスタに持ってきたら,そのデータに対して必要な 計算を集中して行うよう,計算の順序を変更する。 (データ参照の局所性を高める。) • キャッシュと主メモリについても,同じ方針で最適化を行う。 性能最適化の具体例 • もっとも単純なアルゴリズムである行列乗算 C=AB に対して最適化 を行う。 最適化前のプログラム do i=1, n do j=1, n sum=0.0d0 do k=1, n sum=sum+a(i,k)*b(k,j) end do c(i,j)=sum end do end do • 性能 = 77.7MFLOPS (Opteron 1.6GHz,n=500) • ピーク性能の2.4% レジスタの再利用性を高める最適化(レジスタブロッキング) • • • • → → → → iのループを2倍展開 i, jの各ループを2倍展開 iを4倍,jを2倍展開 i, jの各ループを4倍展開 162.8MFLOPS 240.8MFLOPS 324.7MFLOPS 495.5MFLOPS 500 450 performance 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1×1 2×1 2×2 4×2 4×4 キャッシュの再利用性を高める最適化(キャッシュブロッキング) • 行列を部分行列(1個がL×L)に分割 • 部分行列単位で乗算を行う。 • Lは部分行列3個がキャッシュに格納できるサイズに取る。 do I=1, n/L do J=1, n/L CIJ=0 do K=1, n/L CIJ=CIJ + AIKBKJ end do end do end do • 演算量は同じだが,主メモリへのアクセス回数が約1/Lに減少する。 キャッシュブロッキングの効果 800 performance 700 600 500 400 300 200 100 0 1 8 20 40 100 200 500 Block size これまでに説明した最適化手法の限界 • レジスタブロッキングとキャッシュブロッキングの併用により,行列乗 算の性能は800MFLOSまで向上できた。 • しかし,ピーク性能に対しては,まだ25%に過ぎない。 • その理由 – 実際のプロセッサでは,キャッシュが2階層になっている。 – データ転送速度だけでなく,アクセス遅延時間も考慮した最適化が必要, など。 • 性能を最大限に引き出すには,これらの点も考慮した最適化が必要 BLAS (Basic Linear Algebra Subprograms) • 行列乗算をはじめとする基本的な行列演算については,BLASと呼 ばれる最適化済みのライブラリが各プロセッサに対して提供されて いる。 • BLASの機能 – 行列乗算 – 行列とベクトルの積 – ベクトルの和,内積,など。 • ATLAS(Automatically Tuned Linear Algebra Subprograms) – 自分で自分を最適化するBLAS – インストール時に,ループ展開のサイズやキャッシュブロッキングのサイ ズなどの最適値を自分で探し,設定。 ATLASの性能 • n=1000のとき,ピーク性能の95%以上を達成している。 3500 3000 2500 hand-coded ATLAS peak performance 2000 1500 1000 500 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
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