CANON

情報化が協働構造に与える影響
-研究アジェンダ-
慶應義塾大学ビジネス・スクール
國領
二郎
(http://www.kbs.keio.ac.jp/kokuryolab/)
1
我々は何をしているのだろうか?
・何を研究しているのだろう?
情報産業で起こっていること?
情報化の結果起こっていること?
・情報化って何のこと?
デジタル化?ネットワーク化?その複合?
・そもそも情報って何?
不確実性削減の道具?消費の対象としての情報?
・何のために研究するのか?
競争力?
・Disciplineは何を使うのがいいのか?
経済学?社会学?言語学?経営学?
2
協働のアーキテクチャ設計問題として考える
市場も組織も営利も非営利も協働のメカニズムと考える。
分析対象の中心にビジネス・モデルをすえる
「(1)誰にどんな価値を届け、(2)そのために経営資源をどのよ
うに組み合わせ、その経営資源をどのように調達し、(3)パート
ナーや顧客とのコミュニケーションをどのように行い、(4)いかな
る流通経路と価格体系のもとで届けるかについての協働アーキテク
チャの設計思想。」この定義ではNPOも含まれることに要注意。
投入要素として情報をとらえ、生産性の変化を見る方法
では情報化の効果が見えない。効果が見えるのは新旧の
ビジネス・モデルの比較をした時。
デザインの成約条件として情報技術を認識し、制約条
件が緩むことで可能となるビジネス・モデルと旧モデ
ルを比べる。Enablerとしての情報技術。
3
単なる受発注手段ではない...
電子商取引の意義は新しいビジネスモデルの創造
・誰にどんな価値を提供するか?
(顧客の)ビジネスのコストを下げる。
新しいビジネスチャンスを与える。
新たに支出したくなるような新しい商品を提供する
・どのように価値の生産と供給を行うか?
→サプライチェーンの設計
・レベニューとインセンティブの設計
→誰からどのようにお金をいただくか?
→誰にどのように報酬を与えるか?
4
帰納的研究サイクルの提案
「気になる現象」の発見
素直な問題設定が大切。
例えばタテ型構造のヨコ型への転換
現象は見える。なぜ起こってるか?
観察対象の特定が鍵。
「気になる現象」の原因探求
さまざまなdisciplineの一般的用語で説明
開発コストの増大→配賦
ネットワーク外部性
フレームワーク開発
無数の現象を一つの平面にのせる作業。
多くの要因が複合化された時に起こる現象。
Engineeringの視点。
情報現象として説明
情報現象を記述する言語体系で説明
認知限界→モジュール化
情報のコスト特質の顕在化
理論の新しさを追いかけ過ぎると危ない。既存の理論で説明
できたらめでたいと思うようにする。
5
ネットで変わるビジネスの構造
6
供給連鎖の再編
Supply Chain Management
関係性のマネジメント
Customer Relationship Management
7
供給連鎖の再編
水平展開型戦略と垂直囲い込み型戦略
機能1
(例:CPU)
機能2
水平展開型
(例:OS)
垂
直
囲
い
込
み
型
機能3
(例:応用ソフト)
機能4
(例:周辺機器)
インターフェースのオープン化
機能5
(例:販売網)
市場A
市場B
市場C
市場D
水平展開化の要因
条件1:開発コストが大きく追加生産コストが低い業界→固定費配賦
条件2:モジュール化:複雑なシステムを組み合わせで。
8
サプライチェーンの進化:日用品流通ビジネス・モデルの例
従来型卸
活用モデル
生産拠点
メ
ー
カ
ー
販社モデル
メ
ー
カ
ー
総合
メーカー
一括配送モデル
メ
ー
カ
ー
メ
ー
カ
ー
メ
ー
カ
ー
オープンネットワーク
地域配送
拠点
卸
プラネットなど
専
属
販
社
卸
地域一括物流センター網
全国化した大規模卸などが運営
箱単位配送
店舗
店舗
店舗
単品単位配送
小売
チェーン
店舗
小売
チェーン
店舗
小売
チェーン
店舗
企業をこえて、供給連鎖上の大小全ての事業所が、自由な組み合わせでデータ
交換を出来るようにすることで、効率的で高度なサービスが提供できる。
9
供給連鎖の再編
リーン生産方式とオープンアーキテクチャ
なぜ日本は後れてしまったか?
従来の日本の強み:リーン生産方式
調整能力の高い組織形態を取り、統合度の高い製品(製品を構
成する各部位の設計・製造上の相互依存性が高い)を作る。精
密機器や低燃費車など最適化が重要な分野で強みを発揮する。
vs.
直面している別の思想:オープン・アーキテクチャ
製品を相互依存性の低いモジュールに分解することによって、小さな
会社が自律的に開発した商品が相互に結合することを可能にする。全
体システムに余剰能力があることが前提となっており、最適システム
にはならないが、調整の必要を下げることによって、独創的な小企業
が活躍することを可能にした。
かつての強みが今日の弱みになってしまった
10
供給連鎖の再編
日米の強みをネット時代で結合
米国
高
プ
ロ
セ
ス
の
オ
ー
プ
ン
性
モジュール化された製品を
巡り、オープンなコラボ
レーションを行って創造性
高い経営。但し、製品は最
適化されず無駄が多い。
オープンな文脈共有
ネットワーク上で英知を
集め、完成度の高い製
品・サービスを提供する。
日本
限られたメンバーで長期的
で緊密な関係で無駄なく、
最適化された「統合度」の
高い製品を作って競争力を
高めた。
低
低
高
プロダクトの統合度の高さ
11
関係性のマネジメント
電子商取引の本質
単なる受発注手段ではない。
顧客との「関係」を構築する空間。
After Sale
•情報提供手段として
•情報収集手段として
•取引処理手段として
•配送手段として
•決済手段として
Before Sale
Point of Sale
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関係性のマネジメント
生産・消費の構造が変わる
顧客の情報発信が価値を創造する
売り手からの一方的コミュニケーション
マス・マーケティング
顧客間インタラクション
売り手と顧客の双方向コミュニケーション
データベース・マーケティング等
プラットフォーム
語彙、文法、文脈、規範
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情報価値の収益化
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価値の源泉
情報の非対称性構造を
変化させるビジネスモデル
認知限界制約を緩和
するビジネスモデル
より完全な情報を提供
情報過多の顧客を救う
例
情報提供サイト→営業経費削減
オークション→高売価・低買価達成
例
ポータル→プラバシーを守り、顧客
の情報処理を代理
モジュール設計→複雑性の処理
ネットは情報量を増やしてビジネスチャンスを作る。
同時に人間の情報処理能力をパンクさせるが、それもビジネスになる …
15
デジタル経済における価値
(1)情報財のコスト構造
開発費が大きいが、追加供給の変動費が極端に低い。
(2)課金コスト
コピーの変動費が低い割に課金コストが高い。
(3)ネットワーク外部性・連結の経済性
使う人間が増えるほど便益が増える。
(4)参加型の価値生産構造
顧客が価値をつける。
貨幣が価値の生産と分配のシグナルになれない?
二つの思想がある。
(1)デジタル財に物財的な特性を持たせて貨幣経済にのせる。コ
ピー防護機能強化、知的所有権強化、情報の「versioning」
などの手法がある。
(2)開き直って非貨幣経済的な価値の交換を目指す。例としてソー
スコードをオープンにして社会的な開発を目指すLINUXなど。
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情報財だけでなく、物財の経済にまで影響。
情報価値の収益化
物財帰着型
物販モデル
モノの希少性
買い手支払型
サービス帰着型
設備容量の希少性
擬似物財型
情報そのものを希少に
売り手支払型
サービス手数料モデル
認知限界訴求型
顧客のattentionを買う
デジタルコンテンツ
ダウンロードモデル
広告モデル
何らかの希少性に帰着させて収益を得る。
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料金体系の設計
情報量課金(従量・定額)
容量課金(従量・定額)
アテンション課金(クリック)
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