せん妄

乳がん患者が、子どもへ病気を説明する際の精神的苦悩
(あなたを支援するために)
Ⅰ、背景
・乳がん発症時に学童期の子供がいる割合の増加
(日本の動向)
・親のがん罹患による 子供と家族への影響
(海外での先行研究)
・乳癌患者が子どもへ病気病状を説明する際の苦悩
(海外での先行研究)
Ⅱ、研究企画
・日本における
「乳がん患者が子どもへ病気を説明する際の精神的苦悩軽減に関する研究」
背景1
日本における年齢別の乳がん罹患率
140
乳がん罹患率(人口10万人対)
120
100
80
60
45-49歳がピーク
40
20
0
0~
年齢
5~
10~
15~
20~ 25~
30~
35~ 40~ 45~ 50~ 55~ 60~ 65~
70~
75~
80~ 85~
Jpn J Clin Oncol. 2006 Oct;36(10):668-75.
背景1
全出生数の母親の年齢別割合
2000年
2005年
25~29歳
39,5%
31,9%↓
30~34歳
33,3%
38,0%↑
35~39歳
10,6%
14,4%↑
VITAL STATISTICS OF JAPAN(人口動態統計):厚生労働省大臣官房統計情報部
高齢出産化が進んでいる
↓↓
乳がん発症時に
学童期の子供がいる割合が
さらに増えてくることが予想される
背景2
親のがん罹患による 子供と家族への影響
1980年1月~2004年3月の文献レビュー
12歳以上の女性に、より苦悩の程度が強い
親の安定が子供にも影響
Cancer Treat Rev. 2004 ; 30(8):683-94.
心理的苦痛を感じている子供の割合
男児
21%
<
女児 35%
Eur J Cancer.2005;41(2):288-95.
子どもに心理的苦痛苦痛が生じやすい状況
家族背景(親がシングル・兄弟がいない・兄弟で一番年長である)
親の身体機能が低下した時
親に精神的苦悩が生じたとき
合併症(副作用)が生じたとき
Cancer.2006 ;106(5):1178-87.
背景2
親のがん罹患による 子供と家族への影響
子どもの心配事
・親のがんの副作用(脱毛/嘔吐etc.)の恐れ
・母親がいなくなる(死んでしまう)のではという心配
・置いてけぼりにされることの恐れ
・罪の意識 (自分が癌にさせた/自分が親を怒らせた/自分が悪いから見放された)
・家事や兄弟の世話をしなければという負担
・親の介護の仕方が間違っているのではという恐れ
・自分もがんになるのではという困惑
・他の人に話すことへの心配
・経済的負担への心配
Cancer Treat Rev. 2004 ; 30(8):683-94
背景3
乳癌患者が子どもへ病気病状を説明する際の苦悩
母親の声(乳癌患者)
子どもに病気を話すのを保留したい理由
・がんや死についての質問をされるのを避けるため
・病気を知らされることによる子どもの不安・苦悩から守るため
・子どもが病気を理解できないと思うから
・家族との大切な時間を妨げたくないから
子どもと情報を共有したい理由
・子どもには知る権利がある ・子どもとの信頼関係を保つため
・子どもの不安を緩和するため
親が考える子どもとのコミュニケーションの役立つもの
・子どもの発達や年齢相応の対応の仕方・病院で子どもが専門家に話せる空間
・子どもと話すための適切な言葉の情報
・子どもは何が理解できて、いかに反応するか
・質問されたときいかに反応したらよいか
BMJ. 2000 Aug 19-26;321(7259):479-82
背景3
乳癌患者が子どもへ病気病状を説明する際の苦悩
子供の声(乳癌患者の子ども)
・7歳頃より、親が認識しているよりも、癌が生命を脅かす疾患である
ことを十分認識していた。
・多くの子供たちは、術後の母親を見る心の準備を必要とし、また化
学療法/放射線療法と乳癌の原因の詳細な情報を知りたがっていた。
・一部の子供たちは、母親の主治医と話をしたがっていた
BMJ. 2006 Apr 29;332(7548):998-1003
乳がん患者が子どもへ病気を説明する際の
精神的苦悩軽減に関する研究
目的:
乳がん患者が子どもへ病気説明をする際の苦悩に対するケアの指針を得る一助として、
1)乳がん患者が子どもへ病気説明をする際の意思決定バランスを体系的に把握する
2)苦悩を軽減するための、医療者の対応および援助への要望
3)患者自身による対処方策
についての探索。
対象:
1)単施設のがん専門医療機関で加療中の乳がん患者
2)20歳以上で重篤な認知障害・身体障害がないこと
3)小学生~高校生の子どもがいる
4)乳がんと診断されその旨説明されている
方法:
・トランスセオレティカル・モデル(TTM)の理論を用いた半構造化面接
・内容分析
乳がん患者が子どもへ病気を説明する際の
精神的苦悩軽減に関する研究
準備段階を同定
「お子さんへご自分の病気をお伝えすることをどのように感じておられますか、ある
いはどのようにされておられますか?」
各準備段階における意志決定バランス
「お子さんへご自分の病気をお伝えすると、あなたにとってどのような良い所・悪い
所(負担)があるとお感じですか?」
障害の内容
「お子さんへご自分の病気を実際にお伝えするに当たって、あなたにとってどのよう
なことが障害になっていると感じられますか?」
支援体制の要望
「 のような障害を感じられたとき、あなたへの援助として、周囲の人(医師・看護
師・ご家族など)あるいは支援体制にどのようなことが必要と思われるでしょうか」
コーピング
「 のような障害を感じられたとき、そのお気持ちが少しでも和らぐように、ご自身
で工夫されたことはありますか、あるいはしていることはありますか?」
背景
患者平均年齢
子どもの学年 小学生
中学生
高校生
病期
Ⅰ期
Ⅱ期
ⅢA期
ⅢC期
Ⅳ期
がん治療歴
教育年数
母子家庭
43.2±4.1
28
12
11
6
18
3
1
2
23.2±20.9
13.7±1.6
5
N=30
歳
人
人
人
人
人
人
人
人
ヶ月
年
人
乳がん患者が考える、子どもへ病気を説明する際の
意思決定バランスカテゴリー
恩恵(pros):カテゴリーと定義・内容
親:
身体的サポート獲得
荷物を持ってもらえる
にとって
精神的サポート獲得
励ましの言葉をかけてもらえる
ストレスの軽減
隠そうとすることによるストレスが軽減する
理解獲得
しんどいときにがんばらなくてよくなる
親が考える 状況の把握
親が頻回に通院する事情がわかる
子供:
心配の軽減
死ぬかもしれないという心配が軽減する
にとって
自己管理促進
自身で健康管理をおこなおうとするようになる
対処能力向上
困難なことがあっても乗り越えられる強さが身に付く
家族内役割の遂行
上のきょうだいが下のきょうだいの面倒を見るようになる
思いやりの獲得
病気の人の気持ちがわかるようになる
絆の強化
親子が仲良くなる
親子:
にとって
乳がん患者が考える、子どもへ病気を説明する際の
意思決定バランスカテゴリー
負担(cons):カテゴリーと定義・内容
親:
負担の増加
他人に言ってはならないなどストレスが増加する
にとって
遠慮の誘発
甘えたり抱きついたりしてはいけないと思うようになる
健康に対する心配の誘発 乳がんの遺伝を懸念する
親が考える 心配の増加
病名が再発や死に直結し心配が増加する
子供:
負担の増加
他人に言ってはならないなどストレスが増加する
にとって
遠慮の誘発
甘えたり抱きついたりしてはいけないと思うようになる
健康に対する心配の誘発 乳がんの遺伝を懸念する
親子:
にとって
精神的衝撃の誘発
親が病気になったことを知ることによるショック
相互依存
過度に親子が依存しあい離れられなくなる
意思決定バランスカテゴリーと頻度
Pros(恩
恵)
主体
カテゴリー
Cons(負
担)
主体
カテゴリー
TU
精神的サポート獲得
身体的サポート獲得
理解獲得
ストレスの軽減
40
親
14
親
13
親
35
子ども
35
子ども
25
子ども
15
子ども
11
子ども
子ども
対処能力向上
思いやりの獲得
状況の把握
家族内役割の遂行
心配の軽減
自己管理促進
6
親子
絆の強化
17
親
親
親
親
子ども
子ども
子ども
子ども
子ども
TU
情報漏えい
ストレスの増加
罪責感の増加
21
79
子ども
精神的負担の増加
心配の増加
精神的衝撃の誘発
遠慮の誘発
健康に対する心配
身体的負担の増加
親子
相互依存
13
13
11
59
39
29
8
6
3
TU:number of thematic units
病気説明の準備段階とカテゴリーの相違
Pros(恩
St age 1 (N= 0 )
St age 2 (N= 6 )
恵)
カ テゴリー名 TU カ テゴリー名
St age 3 (N= 3 )
TU カ テゴリー名
状況の把握
(子ども)
絆 の 強化 (親
子関係)
2
St age 4 (N= 4 )
TU カ テゴリー名
状況の把握
(子ども)
3
2
St age 5 (N= 2 )
TU カ テゴリー名
思いやり の獲
得(子ども)
精 神 的サ ポー
ト獲得(親)
5
St age 6 (N= 2 3 )
TU カ テゴリー名
ストレスの軽減
(親)
4
3
対処 能力 向上
(子ども)
思い やり の獲
得(子ども)
精神的サポート
獲得(親)
絆の強化(親子
関係)
状況の把握(子
ども)
家族 内役 割の
遂行(子ども)
心配の軽減(子
ども)
身体的サポート
獲得(親)
理解獲得(親)
心配の軽減(子
ども)
ストレスの軽減
(親)
4
3
8
4
TU数のバランス
不等号
St age 7 (N= 6 )
TU カ テゴリー名
28
25
24
16
15
12
TU
精 神 的サ ポー
12
ト獲得(親)
家族内役 割の
5
遂行(子ども)
思いやり の獲
5
得(子ども)
身 体 的サ ポー
4
ト獲得(親)
状況の把握
3
(子ども)
対処能力 向上
3
(子ども)
11 理解獲得(親)
2
9
9
6
4
159
34
∧
Cons(負
Stage1
Stage2
担)
カ テゴリー名 TU カ テゴリー名
ストレスの増加
(親)
精神的負 担の
増加(子ども)
情 報漏 えい
(親)
心配の増加
(子ども)
∧
Stage3
TU
7
6
5
4
22
∧
∧
Stage4
Stage5
カ テゴリー名 TU カ テゴリー名 TU カ テゴリー名
心配の増加
心配の増加
精神的負 担の
9
6
(子ども)
(子ども)
増加(子ども)
精神的負 担の
情 報漏 えい
心配の増加
9
3
増加(子ども)
(親)
(子ども)
情 報漏 えい
精神的衝 撃の
罪責感の 増加
4
2
(親)
誘発(子ども)
(親)
遠慮の誘発
情 報漏 えい
2
(子ども)
(親)
健康に対する
心配の誘発
(子ども)
ストレスの増加
(親)
身体的負 担の
増加(子ども)
22
13
∨
∨
Stage6
TU
48
39
10
8
Stage7
カ テゴリー名 TU カ テゴリー名 TU
精神 的衝 撃の
精神的衝 撃の
27
8
誘発(子ども)
誘発(子ども)
遠慮の誘発(子
遠慮の誘発
24
3
ども)
(子ども)
精神 的負 担の
相 互 依存 (親
16
3
増加(子ども)
子関係)
心配の増加(子
3
ども)
8
身体 的負 担の
増加(子ども)
3
5
罪責 感の 増加
(親)
2
3
121
75
↑ ↑ ↑ ↑
Stage 6(子供に乳がんという病名を伝えた)で
恩恵カテゴリーのTU数が、負担カテゴリーのTU数を上回っていた
14
Stage1
Stage2
Stage3
Stage4
Stage5
Stage6
Stage7
子どもへの病状説明に全く関心がなかったとき
関心はあるが実行について考えていなかったとき
実際に病状説明のために、何らかの準備的取り組みをはじめていたとき
入院および手術について説明した
S4に加え、抗がん剤治療や放射線治療とその副作用について説明した
S5に加え、乳がんという病名を伝えた
S6に加え、再発の可能性など予後について説明した
TU:number of thematic units.
N :発言が得られた人数
支援体制への要望
・配偶者への説明
・子どもへの説明
・相談環境の提供
・情報の発信
・子どもへの心理的サポート
医療者から配偶者への説明
医療者から子どもへの説明
心理的な問題に関する相談窓口の提供
病気や治療に関する情報の発信
子どもの心理的な問題に対するサポート
コーピング
・適応的な状態の維持
・前向きな姿勢
自身の心理状態を適応的に保つ
前向きな姿勢を保つ
考察
・「乳癌患者が子どもへ病気病状を説明する際の苦悩」は海外の先行
研究で既知のことであるが、「情報漏えいによる患者自身の負担」
というカテゴリーは日本に特有なものなのかもしれない。
・Stage5からStage6への移行により、恩恵カテゴリーのTU数が負担
カテゴリーのTU数を上回っていた。
・Stage5にある患者の意思決定バランスが負担よりも恩恵が高い状態
に転換するように援助することが、実際の乳がん患者が子どもへ病
気説明をする準備につながる可能性がある。
・医療者は、乳がん患者に「子どもへ病気説明をすることで子どもの
不安を軽減し、親子のコミュニケーション向上にも影響を及ぼし恩
恵を受けること」を伝えることは、先行研究からも大切と思われる。
しかし、いつの段階においても、特にStage5においては、乳がん患
者自身が苦悩に感じていることを理解しながら接する必要がある。
まとめ
・乳がん患者が子供へ病気を説明する際の精神的苦悩を軽減させるプ
ログラムを開発するにあたって、病気説明をする意思決定のバラン
スを体系的に把握するために、行動変容の理論であるトランスセオ
レティカル・モデル(TTM)の理論を用いた半構造化面接を行った。
・乳がん患者が子供へ病気を説明する際は、それぞれの段階で恩恵カ
テゴリーおよび負担カテゴリーがあり、その程度もさまざまである。
・発達段階・子供の性格・各家庭の状況により、そのバランスの程度
が異なり各個人のニーズに応じた対応が必要であることが予想され
る。
・今後乳がん患者だけでなく、他の癌種の子どもとの支援及び、終末
期がん患者と子どもの支援についても検討する必要がある。