公共経済学

3.公共財 1
3.1 公共財(public goods)の定義
3.2 効率的な公共財の水準:残余曲線を用いた分析
3.3 公共財に関する効率性の条件:サミュエルソン条件
3.4 補論**:私的財のみの経済に生産を考慮した場合の効率性条件
1
3.1 公共財(public goods)の定義
財(・サービス)を分類するために次の 2 つの性質に着目する。
<競合性(rivalryness)>
競合性は消費側から捉えるか、生産側から捉えるかで 2 通りの定義の方法がある。
(消費側から捉えた)競合的な(あるいは競合性が大きな)財
=供給側の生産費用が一定のもとで、追加的な個人がその財を消費すると他の個人
の消費水準(あるいは消費から得られる便益)が低下する財
たとえば、複数の消費者で同時に消費することが可能である財の場合は、その財を消費
する個人の数が多くなるときの「混雑(congestion)」の程度が大きいとき、その財の競
合性が大きいことになる。
(生産側から捉えた)競合的な財
=各個人の消費水準(あるいは消費から得られる便益)が一定のもとで、追加的な
個人に対してその財を供給するための費用(=限界費用)が大きい財
<排除可能性(excludability)>
排除可能な(排除可能性の大きな)財
=その財を消費しようとする個人を(対価を支払わない限り)小さい費用で排除
(消費できなく)することが可能である財
たとえば、その財の消費(利用)に料金が課される場合は、料金徴収コストが小さけ
れば、その財の排除可能性は大きいことになる。
2
本章では、財の消費から得られる便益に関して、空間的な側面は考慮しない。しかし、そ
の財が供給されている(あるいは存在している)場所とそれを利用する個人の居住地との
距離で得られる便益に差が生じる場合もある。そのような観点に着目した議論は、24 章で
議論される。
<財の分類>
「私的財」=競合性と排除可能性の両方とも大きい財
「純粋公共財」=競合性と排除可能性の両方とも小さい財
「準公共財」=競合性と排除可能性の一方が小さく、他方が大きい財
・「クラブ財」=競合性が小さく排除可能性が大きい財
・「コモン・プール財」=排除可能性が小さく競合性が大きい財
「(広義の)公共財」=競合性あるいは排除可能性の少なくとも一方が小さい財
「資本(財)」
=財のなかで長期間(たとえば 10 年以上)にわたってサービスを生み出す
(あるいは繰り返し消費できる)財
社会資本または公的資本=公共財のなかで資本(財)であるもの
たとえば、道路は移動時間短縮サービスを繰り返し生み出す公共財であるので社会資本である。
3
「私的財(private goods)」=競合性と排除可能性の両方とも大きい財
「(純粋 pure)公共財」=競合性と排除可能性の両方とも小さい財
「準公共財」=競合性と排除可能性の一方が小さく、他方が大きい財
「(広義の)公共財」=競合性あるいは排除可能性の少なくとも一方が小さい財
排除可能性
競合性
大
小
『私的財』
『準公共財』
『準公共財』
『(純粋)公共財』
大
小
4
(問題 3-1)上の表のように4つに分類された財の例を2つずつ表に記入しなさい。また、
競合性が大きいこと、排除可能性が大きいことの意味を、それらの例を用いて具
体的に説明しなさい。
「コモン・プール財(common pool resources)」
あるいは「コモンズ(commons)」
排除可能性
競合性
大
大
小
『私的財』
『準公共財』
リンゴ
都市の一般道路
自家用車
住宅地の公園
『準公共財』
小
『(純粋)公共財』
地方の大きな橋
国防・外交
ケーブル・テレビ
灯台・景色
「クラブ財(club goods)」
上記の財の例のなかで「社会資本」
であるのはどの財であろうか。
5
(問題 3-2)民間(私)企業が供給する場合に、供給するための費用を回収することが困難で
あると考えられる財は、上の4つの分類の中でどの財であろうか。理由について
も説明しなさい。
排除可能性
競合性
大
大
小
『私的財』
『準公共財』
リンゴ
都市の一般道路
自家用車
住宅地の公園
『準公共財』
小
『(純粋)公共財』
地方の大きな橋
国防・外交
ケーブル・テレビ
灯台・景色
6
3.2 効率的な公共財の水準:残余曲線を用いた分析
G =公共財の生産量
X =私的財の生産量
(G, X ) =生産点(生産量の組合せ)
X  f (G) : 生産可能性曲線(生産可能な生産点の軌跡)
(3-1)
以下では、生産可能な生産点のみに議論を限定する。
なお、 f (G)  0 かつ f (G)  0 を仮定する。そして以下では、生産可能な生産点のみに議
論を限定する。
7
生産可能な生産点 (G, f (G)) における限界変形率(marginal rate of transformation)」を
MRT とおけば、
MRT   f (G) [ MRT (G)]
(3-2)
である。
すなわち、生産点 (G , f (G )) における限界変形率 MRT [  MRT (G ) ]とは、
「生産可能
0
0
0
0
性曲線 X  f (G) の (G , f (G )) における接線の傾きである。
0
0
そして、限界変形率 MRT の経済的な意味は、
「 G 0 から公共財を 1 単位増産するときに減
0
少させざるを得ない私的財 X の量」)のことである。
8
(問題 3-3) G X 平面に生産可能性曲線 X  f (G) を図示しなさい。また、生産可能な生
0
産点 (G 0 , f (G 0 )) における限界変形率 MRT を図示しなさい。
X
X  f (G)
f (G 0 )
G0
MRT
0
G
MRT 0  MRT (G 0 )
9
【仮定】
公共財=非競合的
⇒「公共財の生産量 G 」
=「個人 1 の公共財の消費量」=「個人2の公共財の消費量」
X i =個人 i の私的財の消費量
【仮定】 私的財=競合的
⇒
X  X1  X 2
(3-3)
実現可能な資源配分 (G, X1 , X 2 ) は(3-1)と(3-3)を満たすものである。
X  f (G)
(3-1)
10
個人 i の効用関数を ui  U i (G, X i ) と表すことにする。
そして、消費点 (G 0 , X i0 ) における効用水準を ui0 、すなわち ui0  U i (G 0 , X i0 ) とおく。
そのとき、 (G 0 , X i0 ) を通る無差別曲線は U i (G, X i )  ui0 と表現できる。そして、こ
れを X i について解いた式を
(3-4)
X i  Ii0 (G)
と表すことにする( i  1, 2 )。なお、 I i0 ´(G)  0 かつ I i0 ´´(G)  0 を仮定する。
11
(パレート)効率的な資源配分 (G* , X1* , X 2* ) は、(3-1)と(3-3)を制約として、個人1の
無差別曲線 X1  I10 (G) が与えられた(つまり個人 1 の効用水準を一定に維持した)
もとで、個人2の効用水準を最大化する問題を考えることで求めることができる。
この最適化問題は次の3つのステップで解くことができる。
ステップ1:
X1  I10 (G) が与えられたもとでの個人2の消費可能曲線を求める。
ステップ2:
個人2の消費可能曲線が与えられたもとで、個人2の効用を最大化する
*
*
消費点 (G , X 2 ) を求める。
ステップ3:
X 1* は X 1*  I10 (G* ) より求める。
12
<ステップ1:個人2の消費可能曲線の導出>
X1  I10 (G) 上の消費点 (G, X1 ) を個人1が消費する。
X  X1  X 2
⇒
個人2の消費点 (G, X 2 ) は、
f (G)  I10 (G)  X 2
X  I10 (G)  X 2
X  f (G)
すなわち、
X 2  f (G)  I10 (G) :「個人2の消費可能曲線」
(3-5)
を満たす必要がある。そして、(3-5)は「個人2の残余曲線」とも呼ばれる。
13
(問題 3-4)横軸に G 、縦軸に X と X 1 を重ねてとった平面に、生産可能性曲線 X  f (G)
と個人1の無差別曲線 X1  I10 (G) を描きなさい。また、その平面の下に描いた
G X 2 平面に、個人2の残余曲線 X 2  f (G)  I10 (G) を図示しなさい。
X , X1
G
X2
G
14
X , X1
X  f (G)
X1  I10 (G)
G
X2
X 2  f (G)  I10 (G)
・
G
15
<ステップ2: (G* , X 2* ) の導出>
(G* , X 2* ) は(3-5)を満たす (G, X 2 ) のなかで、個人2の効用水準を最大にするものとして求
めることができるので、次の関係が導かれる。
「 X 2  f (G)  I10 (G) の (G * , X 2* ) における接線の傾き」
=「 X 2  I 20 (G) の (G * , X 2* ) における接線の傾き」 (3-6)
(問題 3-5)
問題 3-4 の図に個人2の残余曲線に接する個人2の無差別曲線 X 2  I 20 (G)
を描き加えることで、
(個人1の無差別曲線 X1  I10 (G) が与えられたもとで


の)個人2効用水準を最大化する消費点 G* , X 2* を図示しなさい。
16
X , X1
X  f (G)
X1  I10 (G)
G
X2
X 2  f (G)  I10 (G)
X 2*
・
X 2  I 20 (G)
G*
問題 3-5 より、次の関係が導かれる。
「 X 2  f (G)  I10 (G) の (G * , X 2* ) における接線の傾き」
=「 X 2  I 20 (G) の (G * , X 2* ) における傾き」
G
(3-6)
17
<ステップ3: X 1* の導出>
(問題 3-6)問題 3-4 の図に、 X 1* を図示しなさい。
X , X1
X  f (G)
X 1*
X1  I10 (G)
G*
G
X2
X 2  f (G)  I10 (G)
X 2*
・
G*
X 2  I 20 (G)
G
18
3.3 公共財に関する効率性の条件:サミュエルソン条件
MRSi0 =消費点 (G 0 , X i0 ) における個人 i の限界代替率
=消費点 (G 0 , X i0 ) を通る I i0 の (G 0 , X i0 ) における接線の傾き
=消費点 (G 0 , X i0 ) から公共財の消費量を 1 単位減少させたときに
効用水準を維持するために増加させなければならない私的財の量
MRSi0  I i0´(G 0 ) [ MRSi (G 0 , X i0 )]
(3-7)
19
MRSi0  I i0´(G 0 ) [ MRSi (G 0 , X i0 )]
(3-7)
(問題 3-7)消費点 (G 0 , X i0 ) における個人 i の限界代替率 MRSi0 を図示しなさい。
Xi
X i0
MRSi0
G0
X i  Ii0 (G)
G
20
以上より、問題 2-13 の結果と(3-2)、(3-6)、(3-7) を用いれば、( I10 が与えられたもとでの)
効率的な資源配分 G * , X 1* , X 2*  において、
MRS1*  MRS2*  MRT *
(3-8a)
あるいは、
MRS1 (G* , X1* )  MRS2 (G* , X 2* )  MRT(G* )
(3-8b)
が成立する。なお、条件(3-8)は「サミュエルソン条件」と呼ばれる。
以上より、 X  I 10 (G) が与えられたもとでの効率的な資源配分 G * , X 1* , X 2*  は、(3-8)に加
えて、(3-4)と(3-5)より、
X 1*  I10 (G* )
X 2*  f (G * )  X 1*
(3-9)
(3-10)
の合わせて 3 つの条件から求められることになる。
そして、個人が n 人いる場合のサミュエルソン条件は、次のようになる。
MRS1*  MRS2*    MRSn*  MRT *
(3-11)
21
(問題 3-8)(3-8)が成立することを示しなさい。
h( x)  f ( x)  g ( x)
(問題 2-13 の結果)
MRT   f (G) [ MRT (G)]
(3-2)
「 X 2  f (G)  I10 (G) の (G * , X 2* ) における接線の傾き」
=「 X 2  I 20 (G) の (G * , X 2* ) における傾き」
(3-6)
MRSi0  I i0´(G 0 ) [ MRSi (G 0 , X i0 )]
「 X 2  f (G)  I10 (G) の (G * , X 2* ) における接線の傾き」
= f (G* )  I10´(G* )
(3-7)
⇐ (問題2-13の結果)
 MRT (G* )  MRS1 (G* , X1* )
⇐ (3-2) & (3-7)
「 X 2  I 20 (G) の (G * , X 2* ) における傾き」= I 20´(G* )  MRS2 (G* , X 2* )
⇐ (3-7)
 MRT (G* )  MRS1 (G* , X1* )  MRS2 (G* , X 2* )
⇐ (3-6)
MRS1 (G* , X1* )  MRS2 (G* , X1* )  MRT(G* )
(3-8)
22
以上より、問題 2-13 の結果と(3-2)、(3-6)、(3-7) を用いれば、( I10 が与えられたもとでの)
効率的な資源配分 G * , X 1* , X 2*  において、
MRS1*  MRS2*  MRT *
(3-8a)
あるいは、
MRS1 (G* , X1* )  MRS2 (G* , X 2* )  MRT(G* )
(3-8b)
が成立する。なお、条件(3-8)は「サミュエルソン条件」と呼ばれる。
以上より、 X  I 10 (G) が与えられたもとでの効率的な資源配分 G * , X 1* , X 2*  は、(3-8)に加
えて、(3-4)と(3-5)より、
X 1*  I10 (G* )
X 2*  f (G * )  X 1*
(3-9)
(3-10)
の合わせて 3 つの条件から求められることになる。
そして、個人が n 人いる場合のサミュエルソン条件は、次のようになる。
MRS1*  MRS2*    MRSn*  MRT *
(3-11)
23
(問題 3-9)問題 3-4 の図に描かれている(個人1の無差別曲線 I i0 が与えられたもとでの)
効率的な資源配分 G * , X 1* , X 2*  における限界代替率 MRS1* 、限界代替率 MRS2* 、
限界変形率 MRT * の値をその図のなかの接線の傾きとして図示しなさい。
X , X1
X *  X1*  X 2*
X  f (G)
X*
X
*
1
MRS1*
X1  I10 (G)
MRT *
G*
G
X2
MRS2*
X 2  f (G)  I10 (G)
X 2*
X 2  I 20 (G)
G*
G
24
(問題 3-9)問題 3-4 の図に描かれている(個人1の無差別曲線 I i0 が与えられたもとでの)
効率的な資源配分 G * , X 1* , X 2*  における限界代替率 MRS1* 、限界代替率 MRS2* 、
限界変形率 MRT * の値をその図のなかの接線の傾きとして図示しなさい。
X , X1
X *  X1*  X 2*
X  f (G)
X*
X
*
1
MRS1*
X1  I10 (G)
MRT *
G*
G
X2
MRS2
X 2  f (G)  I (G)
0
1
X 2*
MRT *  MRS1*  MRS 2*
X 2  I 20 (G)
G*
G
MRT *  MRS1*
25
(問題 3-10)個人 i の効用関数が ui  X i   i  G    であるとする(  i ,   0 、i  1, 2 、
「 2.6 補論」参照)。また、生産可能性曲線が X   G 2   であるとする
2
( 0    1   2 ,   0 )。このとき、個人 i の限界代替率 MRSi と限界変形率
MRT を求め( G の式で表し)なさい。さらに、個人 1 の消費点 G 0 , X 10  に対応
する効用水準を u10 とする。すなわち、 u10  X 10  1  G 0    である。そのと
2
き、その無差別曲線 X 1  1  G     u10 が与えられたもとでの、効率的な資源
2
配分 G * , X 1* , X 2*  を、サミュエルソン条件(3-8)などを用いて求めなさい。
X i  i  G     ui0 [ Ii0 (G)]
MRSi  I i0´(G)  2i  (  G)
2
X   G 2   [ f (G)]
MRT   f (G)  2  G
MRSA  MRSB  MRT
2 A  (  G* )  2 B  (  G* )  2  G*
( A   B )(  G* )    G*
( A   B )  ( A   B   )G*
( A   B ) 
 A B  
2
X1*  i  G*     u10
G* 
X 2*    (G* )2    X1*
26
(問題 3-11*)個人 i の効用関数が ui  X i G であるとする( i  1, 2 、
「問題 2-15」参照)。
また、生産可能性曲線が X   G 2   であるとする(  ,   0 )。このとき、個
人 1 の無差別曲線 X 1G  u10 (定数)が与えられたもとでの、効率的な資源配分
G* , X 1* , X 2*  を、サミュエルソン条件(3-8)などを用いて求めなさい。
27
3.4 補論**:私的財のみの経済に生産を考慮した場合の効率性条件
この補論では、生産活動を考慮した場合に効率性の条件がどのように修正されるかを、この
章で導入した生産可能性曲線を用いて検討する。
第 1 章で検討した純粋交換経済では、選好が凸性を満たす場合は、資源配分が効率的である
ための(必要十分)条件は各個人の限界代替率が一致することである((1-20)と(1-21)参照)
。
それに対して、私的財 x と y に関する生産可能性曲線 y  f (x) が導入された場合に、パレ
ート最適な資源配分の満たすべき条件がどのように修正されることになるかを検討する
( f ( x)  0 、 f ( x)  0 )
。
28


(1) 上の図のような資源配分 ( x A0 , y A0 ), ( xB0 , y B0 ) [ a 0 ] における限界変形率 MRT と
0
y
0
0
限界代替率 MRSA と MRSB には、次の関係が成立しているとする。
MRSA0  MRSB0  MRT 0
y  f (x)
個人Aにとって
( x1A , y1A )のほうが
( x A0 , y A0 )より好ましい。

資源配分( x
x
I B (a 0 )
0
B
0
A
, y A0 ), ( xB0 , y B0
パレート改善する。
y B0
y1A
y B0
y A0
x1A
y  y B0  f ( x  xB0 )

) を
資源配分 ( x1A , y1A ), ( xB0 , y B0 ) は
x B0
x A0
MRT
I A (a 0 )
0
x
MRT
0
MRSA0  MRSB0
29
(2)
MRSA0 = MRSB0 > MRT 0 のときは、生産点 ( x A0  xB0 , y A0  y B0 ) を生産
可能曲線上の右下方の点に移すことで、 ( x A0 , y A0 ), ( xB0 , y B0 ) をパレート


改善することができる。
(3)
MRSA0 = MRSB0 = MRT 0 の と き は 、 生 産 点 を 移 動 さ せ て も
( x A0 , y A0 ), ( xB0 , y B0 ) をパレート改善することができない。


以上の(1)、(2)、(3)より、資源配分の効率性の(必要十分)条件は、
MRSA0 = MRSB0 = MRT
0
(3-13)
であり、公共財を含む場合の条件(3-8)とは対照的なものになっている。
30