形式言語とオートマトン2012 ー第6日目ー 東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 亀田弘之 前回までの確認 • 有限オートマトン(FA) – FAの定義と記述法 テープ上を一方向に動くヘッド (テープ上の記号を読みながら、内部状態を変えていく) M = <K, Σ, δ, q0, F> 状態遷移図 – FAの種類 決定性FA(DFA) 非決定性FA(ε遷移のあるものとないもの) – 言語認識能力はどのFAでも同じ。 正規言語(正規表現)を認識可能。 2 前回までの確認(2) • 正規表現を認識するFAの存在とその構成法 1. 2. 3. 4. 5. 正規表現αが与えられる。 正規表現αに対して、ε-NFA を構成する。 ε-NFA をDFAに書き換える。 DFAを状態数最少のDFAに書き換える。 Min-DFAをシミュレートするプログラムを作成する。 3 確認問題集 • (少しずつこなしていってください。) 4 確認問題1 • (オートマトンの定義) 次の状態遷移図で与えられるオートマトンを、 M=<K,Σ,δ,q0, F> の5つ組で記述しなさい。 a p b a q a b r b 5 確認問題 • 前問のオートマトンの動作のトレース – 次の文字列のうち、前問のオートマトンMが 受理するのはどれとどれですか? ① ② ③ ④ aabba bababbb aaaa bbba 6 確認問題 • 下図のε-NFAをDFAに書き換えなさい。 4 b a 1 ε ε 2 3 5 c b b ε 6 a 7 8 c ε 7 確認問題 • DFAからmin-DFAを求める手順について 述べなさい。 (理論的根拠は、後日お話します。MyhillNerodeの定理がポイントになりす。) 8 確認問題 • (正規表現を受理するmin-DFAを求める) 次の正規表現を受理するmin-DFAを求めよ。 1. (ab|bc)*a(b|c) 2. (a|b|ε)(ab|b)*bc 3. (a|b)*a(a|b) 9 さて、… 10 今日の話題 1. FAの様相(configuration) (第2章の補足) 2. プッシュダウンオートマトン (pushdown automaton) (第3章の話) 11 FAの様相 • FAの動作の様子・状況を様相(configuration) という。 • 動作開始時の様相を特に、初期様相という。 12 様相の表現 入力文字列 入力文字列の末尾 13 様相表現の例 • (具体例で理解しよう) 教科書p.36 問2.1 14 FA M = <K, Σ, δ, q0, F> 0 1 q 0 1 p 0 r 1 15 FA M = <K, Σ, δ, q0, F> 0 1 q 0 1 p 0 r 1 様相(p, 11010) |- (q,1010) |- (q,010) |- (q,10) |- (q, 0) |- (q, ε) (p,11010) |*- (q,ε) <= Mは入力文字列 11010 を受理 16 • 様相(configuration)という用語は、本を読ん でいると時々出てきます。 • オートマトンの動作状況を表現する単なる 1つの方法にすぎません。 でも、便利ですよね。 17 自主練習 教科書p.58の【演習問題】にチャレンジしてくだ さい。 18 ここから新しい話し • (第3章に入ります) Let’s get down to today’s topics. 19 プッシュダウンオートマトン • 有限オートマトンにプッシュダウンスタックメモリ を追加装備したもの。 • Pushdown automaton (PDA) 20 プッシュダウンスタック • 歴史的view: – 初期の頃:プッシュダウン型スタックメモリ (特殊なハードウェアと考えていた) – 現在:「スタック」は基本的なデータ構造の1つと 考えられている。プッシュダウンスタックとは言わ ず、スタックと呼ぶことが多い。 データ構造: ・配列(またはアレイ) ・リスト 続きは「データ構造とアルゴリズム」で。 ・スタック ・キュー など 21 プッシュダウンスタックのイメージ Push down Pop up LIFO (Last In First Out) 最後に入れたものが最初に取り出される。 22 PDAの種類 • 決定性プッシュダウンオートマトン Deterministic pushdown automaton (DPDA) • 非決定性プッシュダウンオートマトン Nondeterministic pushdown automaton (NPDA) 23 DPDA M の定義 • M = <K, Σ, Γ, δ, q0, Z0, F> – K:内部状態の集合 (#K < ∞) – Σ:入力アルファベット (#Σ < ∞) – Γ:プッシュダウンアルファベット(#Γ < ∞) – δ:状態遷移関数 K×(Σ∪{ε})×Γ → K×Γ* – q0:初期状態 (q0 ∈K ) – Z0:ボトムマーカ ( Z0∈Γ) – F:最終状態 ( F ⊂ K ) 24 DPDA M の定義 • M = <K, Σ, Γ, δ, q0, Z0, F> – K:内部状態の集合 (#K < ∞) – Σ:入力アルファベット (#Σ < ∞) – Γ:プッシュダウンアルファベット(#Γ < ∞) – δ:状態遷移関数 K×(Σ∪{ε})×Γ → K×Γ* – q0:初期状態 (q0 ∈K ) – Z0:ボトムマーカ ( Z0∈Γ) – F:最終状態 ( F ⊂ K ) 25 ハードウェア構成でのイメージ 26 DFA と DPDA 類似点と相違点 類似点: 相違点: ・入力テープ ・プッシュダウンスタックメモリ (左から右へ読み込むだけ) ・ヘッドとその内部状態 27 研究 ハードウェア構成でのイメージ なぜ、プッシュダウンスタック? 28 研究テーマ 内部処理 装置 記憶装置 29 難しいことはさておいて… • (例を見てみましょう) 教科書p.68例3.1 30 DPDA M の例 • M = <K, Σ, Γ, δ, q0, Z0, F> – K内部状態の集合 = { q0, q1, q2 } (#K < ∞) – Σ入力アルファベット = { a, b } (#Σ < ∞) – Γプッシュダウンアルファベット = { A, Z0 }(#Γ< ∞) – δ:状態遷移関数 K×(Σ∪{ε})×Γ → K×Γ* – q0 初期状態 = q0 (q0 ∈K ) – Z0:ボトムマーカ ( Z0∈Γ) – F:最終状態 F = { q2 } ⊂ K 31 δ:状態遷移関数 K×(Σ∪{ε})×Γ K×Γ* δ( q0, a, Z0 ) ( q0, AZ0 ) δ( q0, a, A ) ( q0, AA ) δ( q0, b, A ) ( q 1, ε ) δ( q1, b, A ) ( q 1, ε ) δ( q1, ε, Z0 ) ( q2, Z0 ) 32 DPDA M の例 • M= <K,Σ,Γ,δ,q0,Z0, F> – – – – – – – K = { q0, q1, q2 } Σ = { a, b } Γ = { A, Z0 } δ:状態遷移関数 q0 :初期期状態 Z0:ボトムマーカ F = { q2 }⊂ K K×(Σ∪{ε})×Γ K×Γ* δ( q0, a, Z0 ) ( q0, AZ0 ) δ( q0, a, A ) ( q0, AA ) δ( q0, b, A ) ( q 1, ε ) δ( q1, b, A ) ( q 1, ε ) δ( q1, ε, Z0 ) ( q2, Z0 ) 33 動作のトレース • (q0, aaabbb, Z0) |- (q0, aabbb, AZ0) |- (q0, abbb, AAZ0) |- (q0, bbb, AAAZ0) |- (q1, bb, AAZ0) |- (q1, b, AZ0) |- (q1, ε, Z0) |- (q2, ε, Z0) 受理 • |- (q0, aab, Z0) |- (q0, ab, AZ0) |- (q0, b, AAZ0) |- (q0, ε, AZ0) 拒否 K×(Σ∪{ε})×Γ K×Γ* δ( q0, a, Z0 ) ( q0, AZ0 ) δ( q0, a, A ) ( q0, AA ) δ( q0, b, A ) ( q 1, ε ) δ( q1, b, A ) ( q 1, ε ) δ( q1, ε, Z0 ) ( q2, Z0 ) 34 状態遷移図 35 動作のトレース • (q0, aaabbb, Z0) |- (q0, aabbb, AZ0) |- (q0, abbb, AAZ0) |- (q0, bbb, AAAZ0) |- (q1, bb, AAZ0) |- (q1, b, AZ0) |- (q1, ε, Z0) |- (q2, ε, Z0) 受理 • |- (q0, aab, Z0) |- (q0, ab, AZ0) |- (q0, b, AAZ0) |- (q1, ε, AZ0) 拒否 自分で確認しよう K×(Σ∪{ε})×Γ K×Γ* δ( q0, a, Z0 ) ( q0, AZ0 ) δ( q0, a, A ) ( q0, AA ) δ( q0, b, A ) ( q1, ε ) δ( q1, b, A ) ( q1, ε ) δ( q1, ε, Z0 ) ( q2, Z0 ) 36 練習 • 教科書のp.71 問題3.1の DPDA の動作を いろいろな入力に対して調べてみよう。 37 非決定性プッシュダウンオートマトン • DPDAでの状態遷移関数部分が 1対多の写像になる。 38 DPDA M の定義(再) • M = <K, Σ, Γ, δ, q0, Z0, F> – K:内部状態の集合 (#K < ∞) – Σ:入力アルファベット (#Σ < ∞) – Γ:プッシュダウンアルファベット(#Γ < ∞) – δ:状態遷移関数 K×(Σ∪{ε})×Γ → K×Γ* – q0:初期状態 (q0 ∈K ) – Z0:ボトムマーカ ( Z0∈Γ) – F:最終状態 ( F ⊂ K ) 39 NPDA M の定義(再) • M = <K, Σ, Γ, δ, q0, Z0, F> – K:内部状態の集合 (#K < ∞) – Σ:入力アルファベット (#Σ < ∞) – Γ:プッシュダウンアルファベット(#Γ < ∞) – δ:状態遷移関数 K×(Σ∪{ε})×Γ → 2K×Γ* – q0:初期状態 (q0 ∈K ) – Z0:ボトムマーカ ( Z0∈Γ) – F:最終状態 ( F ⊂ K ) 40 DPDA M の例 • M = <K, Σ, Γ, δ, q0, Z0, F> (教科書p.73の例3.2) 41 NPDA M の例 K×(Σ∪{ε})×Γ • M= <K,Σ,Γ,δ,q0,Z0, F> – – – – – – – K = {q0,q1,q2, q3, q4, qf } Σ = { a, b, c } Γ = { A, Z0 } δ:状態遷移関数 q0 :初期状態 Z0:ボトムマーカ F = { qf }⊂ K δ( q0, a, Z0 ) δ( q0, a, A ) δ( q0, b, A ) K×Γ* ( q0, A Z0 ) ( q0, AA ) (q1,ε), (q3,A) δ( q1, b, A) δ( q1, c, Z0) δ( q2, c, Z0) ( q1,ε) ( q2, Z0 ) ( q2, Z0 ) δ( q2,ε, Z0) δ( q3, b, A ) δ( q3, c, A ) δ( q4, c, A ) ( qf, Z0 ) ( q3,A ) ( q4,ε) ( q4,ε) δ( q4,ε, Z0) ( qf, Z0 ) 42 状態遷移図 43 今日の設問(1番だけ提出) 1. (q0, aaabbbcc, Z0) |*- ? 2. aaabbbcc は受理されるか? される場合は、その動作の様子を様相表現 で示しなさい。 3. aabbbccc は受理されるか? 44 ここまでのまとめ • プッシュダウンスタック • プッシュダウンオートマトン – 決定性 – 非決定性 • PDAはFAを含む(PDAはFAよりも文字列認 識能力は高い。) <=(Why?) • DPDA は NPDA よりも能力は低い。 (証明はしませんが、事実です。) 45 次回は、チューリングマシンです。 • チューリングマシンは、アルゴリズムや計算 に関する理論の基礎を与えてくれます。 • チューリングマシンと、認識可能な言語との 対応(チョムスキー階層)の話しもやがて出て きます(第5章)。 • 線形拘束オートマトン(線形有界オートマトン) も今後導入します。 • 計算量・計算の複雑さなどの話題にも触れま しょう。 お楽しみに! 46 ここまで積み残してきているもの • Myhill-Nerodeの定理 • (DFAにおける)ポンピング補題 など 47
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