P2P技術を用いた端末識別子と 位置情報の一貫性の改善に関する研究 九州大学 システム情報科学府 情報知能工学専攻 岡村研究室 修士2年 林 健太朗 目次 研究背景 P2Pネットワークによる管理の提案 提案方式の構成 提案方式の規模適応性 シミュレーション ロケータ/ID分離ネットワーク DNSによるロケータ/ID管理方式 DNSによる方式の規模適応性の問題 結果 考察 まとめと今後の課題 2 IPアーキテクチャの限界 IPアーキテクチャは1970年代に開発され標準化された技術 当時は考えられていなかった用途や状況により、様々な問題 が出てきている (例)移動透過性の問題 対向端末 TCP:通信相手 は1.0.0.1 1.0.0.0/24 2.0.0.0/24 1.0.0.1/24 2.0.0.1/24 3 Future Internet IPアーキテクチャ上で問題を解決する場合、IPアーキテクチャ の制限を受ける また、様々な問題を解決するために開発されたプロトコル間で 冗長や競合が発生しているという問題もある Future Internet 既存のネットワークに依存せず,一から新しくこれからのネッ トワークを考える研究分野 根本から全体を見直すことで、現在のプロトコル間の冗長や 競合といった問題を一掃する 4 ロケータ/ID分離ネットワーク Future Internetでは、位置情報(ロケータ)と端末識別子(ID)を 分離した新しいネットワークの研究が行われている これをロケータ/ID分離ネットワークと呼ぶ 移動透過性、マルチホーム、経路表サイズの増加の解決 本研究における定義 ネットワーク上の端点(位置)を一意に特定する識別子 ロケータ ID ネットワーク上の端末を一意に特定する識別子 接続するネットワークを変えるとロケータは変わる 2つのネットワークに同時に接続していれば2つのロケータを持つ IDは端末ごとに固有で、同じIDを持つ端末は2つ以上存在しない 5 ロケータ/ID分離ネットワーク パケット送信時、通信相手の宛先IDを指定 宛先IDを現在のロケータに変換し配送 IDをロケータに変換する仕組みが重要 移動透過性の解決 対向端末 ※IDもIPアドレス TCP:通信相手は ID:A.B.C 1.0.0.0/24 2.0.0.0/24 送信の流れ ID宛てのパケットを作成 宛先IDを現在のロケータに変換 ロケータを基に配送 ID:A.B.C Loc:1.0.0.1 ID:A.B.C Loc:2.0.0.1 宛先IDの端末が受信する 6 既存の提案プロトコル ロケータ/ID分離ネットワークを実現するプロトコル LISP (Locator/ID Separation Protocol) HIP (Host Identity Protocol) それぞれの研究では、DNS(Domain Name System)を用いた ロケータ/ID管理方式が提案されている DNS インターネットを用いた階層的なデータベースシステム 現在はホスト名とIPアドレスの対応を管理するために使われ ている 問い合わせを受けたホスト名やIPアドレスに対応する情報を 返答する 7 DNSによるロケータ/ID管理方式 DNSサーバ 木構造のサーバ群によりロケータ情報を分散的に管理する 木構造は、右側を上位層とするIDの階層構造に基づいている あるDNSサーバは、負荷分散と耐障害性向上のために、マスターサー バとスレーブサーバに分かれる スレーブサーバはマスターサーバの情報をコピー サーバの更新はマスターサーバだけで済む root DNSキャッシュサーバ サーバ クライアントからの問い合わせを受け DNSサーバへ問い合わせを行う キャッシュ(問い合わせた情報を一時的 に保持)を持つ ID:△.B.Cの ロケータを管理 C B A DNSサーバ 8 DNSによるロケータ/ID管理方式 問い合わせの流れ DNSサーバ root サーバ ID:A.B.C.Dの 問い合わせ D DNS キャッシュサーバ C B マスター ID:A.B.C.Dの 問い合わせ DNS クライアント ゾーン転送 スレーブ 9 規模適応性の問題 頻繁にアクセスを受ける移動端末のロケータ/ID管理 キャッシュサーバは移動端末のロケータをキャッシュしない キャッシュがないためロケータを管理するサーバへアクセスが集中 Bネームサーバ ID:A.B.C.D 100[回/s]アクセス クライアント マスターサーバ ロケータ更新 ゾーン転送 キャッシュ サーバ スレーブサーバ 100[回/s]問い合わせ 100[回/s]問い合わせ 10 P2Pネットワークによる管理の提案 DNSによるロケータ/ID管理は規模適応性の問題がある P2Pネットワークによるロケータ/ID情報の管理を提案 頻繁にアクセスを受ける移動端末を管理する、特定のサーバへアクセ スが集中する 負荷分散のためにスレーブサーバを増設しても、更新にかかる処理が 増大 優れた規模適応性を持つ 頻繁にアクセスを受ける移動端末がある場合にも、問題が起きない 研究目的:DNSによるロケータ/ID管理方式の規模適応性の 問題を提案方式によって解決する 11 提案方式の構成 割り当てサーバ 各サブネットワークに設置 そのネットワークに接続する端末に対してロケータを割り当て LI(ロケータ/ID)ノード ロケータとIDの対応情報を保持するサーバ WAN 端末からのロケータ/ID情報登録を P2Pネットワーク 受け付ける LIノード 端末からのロケータ 問い合わせも受け付ける 他のLIノード同士で ロケータ/ID 情報登録 P2Pネットワークを構築 割り当てサーバ ロケータ 割り当て LAN 端末 割り当てサーバ 割り当てサーバ LAN LAN 12 ロケータの問い合わせ LIノードはP2Pネットワークに対して問い合わせをフラッディン グ フラッディング:送信元ノード以外の隣接する全ノードに対してコピーを 送信する操作。既に受け取った問い合わせを再度受け取った場合は それを破棄する 問い合わせ情報は経由したLIノードのロケータを順番通り記 録しておく LIノード G D C ロケータ登録 H K F A 問い合わせ ID:K1のLoc? B J E 経由ノードA,B,Eの ロケ-タを記憶 ID:K1 Loc:100 問い合わせ の目的地 13 ロケータの返答 自身宛ての問い合わせをLIノードが受け取ったならば、問い 合わせ情報が経由したLIノードを逆にたどって返答を転送す る 中継を行ったLIノードは返答内容のロケータ/ID情報および返 答を転送した隣接ノードをキャッシュする キャッシュのTTLは端末が指定しておく キャッシュ LIノード G D C H ID:K1 – Loc:100 転送先のロケータ:J K F A 返答情報 ID:K1 Loc:100 B E J ID:K1 Loc:100 キャッシュ ID:K1 – Loc:100 転送先のロケータ:E 14 ロケータの更新 端末は割り当てサーバから新しいロケータを割り当てられると、それを決 まったLIノードへ登録する 登録を受けたLIノードは、キャッシュを参考に返答を転送した隣接ノードへ 更新情報を転送する 各LIノードが更新情報を隣接ノードへ転送することで全てのキャッシュが更 新される キャッシュのTTLは更新しない LIノード G D C ロケータ更新 100→200 H K F A 更新情報 ID:K1 Loc:200 B E J ID:K1 Loc:200 キャッシュ更新 ID:K1 – Loc:200 転送先のロケータ:E 15 規模適応性について あるサーバへ問い合わせが集中する場合 更新について 最初はキャッシュが存在しないため、アクセスが集中する しかし時間が経ち、キャッシュが広がると、アクセスは分散される キャッシュの更新時における操作は、返答を転送した隣接ノードへの 転送のみであるため、オーバーヘッドが小さい キャッシュは、問い合わせをした端末に向けてのみ作成されているの で、アクセスのない端末に向けて無駄な更新をしない よって、頻繁に更新が行われるIDを多く管理することができる 以上の事から、提案方式は優れた規模適応性を持つと予想 される これをシミュレーションによって示す 16 シミュレーション設定 ネットワークの設定 サーバの設定 日本地図上で1辺10[km]の正方形をひとつの ネットワークエリアとする 各県に一つずつ計47個, DNSによる方式であればスレーブサーバ, 提案方式であればLIノードを設置 DNSサーバは,DNS NOTIFY機構に対応 LIノードは各ノード4つのリンクを持つと仮定 提案方式におけるキャッシュのTTLは1時間 移動端末の設定 毎秒a回アクセスを受ける b[km/h]のスピードで直線に日本を縦断 ネットワークエリアをまたぐ度に接続を切り替え 17 結果:シミュレーション1 シミュレーション1: 移動端末へ100[回/s]アクセ スがある時の、更新先サー バが1分間に受ける問い合 わせ頻度の推移 移動端末からの問い合わせ 頻度に対して、どちらの方式 も問い合わせが分散されて いる 提案方式では、最初の1秒の み頻度が高い 1000 移動端末 問い合わせ頻度 100 更新元サーバ(提案方式) 10 更新元サーバ(DNS) 1 1 4 7 10 13 16 19 22 25 28 31 時間[秒] 18 結果:シミュレーション2 シミュレーション2: シナリオ別の、1回の更新にお けるシステム全体の更新情報 転送回数 シナリオA:全国から分散的 に100[回/s]アクセス シナリオB:北海道からのみ 100[回/s]アクセス シナリオC:端末へのアクセス がない シナリオA シナリオB 60 DNS方式 50 更新情報転送数 提案方式 40 30 20 提案方式:値0 10 0 シナリオA シナリオB シナリオC 1 19 考察 シミュレーション1 シミュレーション2 移動端末へのアクセスに対し、両方式ともにアクセスが分散されてい る さらなる負荷分散のためにはサーバを多く設置することが重要 DNSによる方式は更新に対するオーバーヘッドが大きい 特に、端末へのアクセスがない場合にも更新処理を行っている 提案方式は問い合わせ元に対してキャッシュを作成、更新するためオ ーバーヘッドが小さく、ノード数を増加させても問題がない 以上の結果から、サーバを増設しても更新に対するオーバー ヘッドの小さい提案方式は、DNS方式よりも優れた規模適応 性を持つと言える 20 まとめと今後の課題 まとめ DNSによるロケータ/ID管理方式のスケーラビリティの問題 P2Pネットワークを用いたロケータ/ID管理方式の提案 シミュレーションにより提案方式の規模適応性を示した 今後の課題 NS3(シミュレーションプログラム)を用いて、提案方式をより詳細にシミ ュレーションする ノード数を増やした時 問い合わせから返答を受けるまでの時間 成功率 問い合わせの分散度合い 更新を完了させるまでの時間 21
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