音高による音色変化と 未知楽器を考慮した

未知の楽器を考慮する
楽器音の音源同定
北原 鉄朗† 後藤 真孝†† 奥乃 博†
†京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻
††産業技術総合研究所
9-11 Mar. 2004
研究の背景
 ディジタル音楽配信が普及し
ユーザ個人が所有する音楽音響信号が増大
 計算機で音楽を検索する技術が不十分
⇒音楽音響信号に適切なタグを付与
 MPEG-7: マルチメディアコンテンツに対する
タグづけの枠組みを提供
 最低限の事項のみ規定
⇒ タグの内容と自動付与法について要検討
研究の目的
音楽音響信号に対する楽器タグの付与
① 特にクラシック音楽では,使用楽器は楽曲を特徴
づける重要なファクターである
e.g. 「ピアノソナタ」「弦楽四重奏」
⇒「ピアノソナタの曲を検索」のようなタスクで有用
② 楽器名をキーとした頭出しに有用
e.g. 「フルートが弾き始めるところから聴きたい」
③ 聴取者の好みや感性に依存しない
本発表では,そのための第1段階として,
単音を対象とした楽器音の音源同定を扱う
→楽器名の同定
何が問題なのか=未知楽器=
楽器音の種類が膨大・多様
e.g. オーケストラ向け楽器,
民族楽器
シンセサイザーで合成した音,etc.
⇒ すべての音をあらかじめ学習することは
事実上不可能
⇒ 未学習の楽器を適切に扱える仕組みが必要
未知楽器の問題
(本研究にて初めて提起)
未知楽器の問題
人間は未知の楽器を
どう理解するか
バイオリン
ビオラ
両者をシンセで
合成した音
予測:「楽器名はわからない
けど,弦楽器系」
⇒一段抽象度の高いレベルで音をとらえる
既知楽器⇒楽器名レベルで認識
未知楽器⇒カテゴリーレベルで認識
発表の流れ
① 使用する音源同定手法
② 楽器カテゴリーの自動作成
③ 未知楽器のカテゴリー同定実験
①使用する音源同定手法
1. 特徴抽出(129個)
2. 主成分分析で79次元に次元圧縮
3. 線形判別分析で18次元にさらに次元圧縮
4. 各楽器の分布の平均と共分散を推定
5. ベイズ決定規則に基づいて楽器名を同定
(事後確率が最大になる楽器名を見つけ
る) ˆ  arg maxlog p( x | i )  log p(i )
i
※事後確率=入力音が当該楽器である確率
①使用する音源同定手法
1. 特徴抽出(129個)
例:周波数重心
ピアノ
フルート
①使用する音源同定手法
1. 特徴抽出(129個)
例:パワー包絡線の最小二乗法による近似直線の傾き
ピアノ
time [ms]
フルート
①使用する音源同定手法
1. 特徴抽出(129個)
2. 主成分分析で79次元に次元圧縮
3. 線形判別分析で18次元にさらに次元圧縮
4. 各楽器の分布の平均と共分散を推定
5. ベイズ決定規則に基づいて楽器名を同定
(事後確率が最大になる楽器名を見つけ
る) ˆ  arg maxlog p( x | i )  log p(i )
i
※事後確率=入力音が当該楽器である確率
②楽器カテゴリーの自動作成
課題: 同定に適した(=音響的特徴を反映した)
楽器カテゴリーをどのように得るか.
解決策: 音源同定システムの特徴空間上で
階層的クラスタリングにより,自動作成
階層的クラスタリングにおける課題:
音高などにより各楽器の特徴空間上が変化
⇒分布に対してクラスタリング
(分布を100[個/楽器]以上のデータで求め
る)
②楽器カテゴリーの自動作成
大分類 中分類
小分類
ウクレレ以外
減衰系
──
楽器
ウクレレ
──
弦楽器
サックス
クラリネット
持続系
楽器 管楽器 リコーダー
ブラス系+α
リード系
属する楽器
PF, CG, AG
UK
VN, VL, VC
SS, AS, TS
CL
RC
TR, TB, BS, FG
OB, PC, FL
③未知楽器のカテゴリー同定
(1) 楽器名レベルで同定
(2) 認識対象音から(1)の結果の学習データ(分布)
までのマハラノビス距離を算出
(3) (2)がしきい値未満なら,(1)の結果を出力
しきい値以上なら,カテゴリーレベルで再同定
p(X|wpiano)
このマハラノビス距離を
しきい値処理
p(X|wflute)
③未知楽器のカテゴリー同定
 学習データ:自然楽器音
 RWC-MDB-I-2001から抜粋した
19楽器6,247音からランダムに半分を選択
 既知楽器の評価データ:自然楽器音
 上記の残り
 未知楽器の評価データ:電子楽器音
 ヤマハ製MU2000に収録されている
- エレクトリックピアノ(ElecPf),
- シンセストリングス(SynStr),
- シンセブラス(SynBrs).
実験結果
楽器名レベルで正解
カテゴリーレベルで正解
不正解
既知楽器
未知楽器
0%
20%
40%
60%
80%
100%
 既知楽器で約20%,未知楽器で約23%の誤り率.
 既知・未知判定=約85%
 カテゴリー同定=約92%
 従来の発音機構ベースのカテゴリーでは約43%
∵従来のカテゴリーは電子楽器を考慮せず
楽器ごとの実験結果
 ElecPf A: 低精度
∵既知・未知判定の
精度が低い
⇒既知楽器に近い
未知楽器の扱い
要検討
80%
60%
40%
20%
SynBrs B
SynBrs A
SynStr B
SynStr A
ElecPf B
0%
ElecPf A
Recognition Rates
100%
ま と め
 音源同定における新たな問題を提起
「未知楽器の問題」
(未学習の楽器をどう扱うか)
 解決策:カテゴリーレベルで同定
⇒「楽器名は分からないが弦楽器系」という
human-likeな楽器音理解
 上記のカテゴリー同定に適した
楽器カテゴリーを自動作成する手法を提案
[今後の課題] 混合音・楽曲への適用
質疑用スライド
楽器名
ピアノ,クラシックギター,
ウクレレ,アコースティックギター,
バイオリン,ビオラ,チェロ,
トランペット,トロンボーン,
ソプラノサックス,アルトサックス,
テナーサックス,バリトンサックス,
オーボエ,ファゴット,
クラリネット,ピッコロ,
フルート,リコーダ
楽器個体 3種類(TR, OBのみ2種類)
音の強さ 1楽器,強・中・弱の3種類ずつ
奏法
通常の奏法のみ
データ数
1楽器153~696個(総数:6,247個)
ピアノ
ギター
弦楽器
金管楽器
サックス
複簧楽器
クラリネット
無簧楽器
ピアノ(PF)
クラシックギター(CG)
ウクレレ(UK)
バイオリン(VN)
ビオラ(VL)
トランペット(TR)
ソプラノサックス(SS)
アルトサックス(AS)
オーボエ(OB)
クラリネット(CL)
ピッコロ(PC)
フルート(FL)
アコースティック
ギター(AG)
チェロ(VC)
トロンボーン(TB)
テナーサックス(TS)
バリトンサックス(BS)
ファゴット(FG)
リコーダー(RC)
本研究で用いた特徴量について
129個の特徴量の概要
(1) スペクトルに関する定常的特徴(40個)
周波数重心,etc
(2) パワーの時間変化に関する特徴(35個)
パワー包絡線の線形最小二乗法による
近似直線の傾き,etc
(3) 各種変調の振幅/振動数(32個)
振幅変調,周波数変調,
周波数重心の時間変化,MFCCの時間変化
(4) 発音開始直後のピーク尖度に関する特徴(22個)
発音開始直後のピーク尖度に関する特徴
各周波数成分(11次倍音まで)を取り出し,
各ピークの尖度(とんがり度)を算出
→非調波成分の豊富さを表す
楽器の発音機構に基づく階層表現
大分類
中分類
小分類
打弦楽器
撥弦楽器
──
弦楽器
擦弦楽器
無簧楽器
木管楽器 単簧楽器
管楽器
複簧楽器
──
金管楽器
打楽器 (省略)
(省略)
属する楽器
PF
CG, UK, AG
VN, VL, VC
PC, FL, RC
SS, AS, TS, BS, CL
OB, FG
TR, TB
(省略)
未知楽器同定に用いた電子楽器音
 ヤマハ製MU2000に収録されている
- エレクトリックピアノ(ElecPf),
- シンセストリングス(SynStr),
- シンセブラス(SynBrs).
 以下の観点から選択
- さまざまな音楽で用いられている,
- 自然楽器のどれかに似ているが異なる音,
- 「小分類」レベルで,あいまいなく正解設定可.
未知楽器のカテゴリーレベルの認識
Recognition Rates
100%
80%
60%
40%
20%
SynBrs B
SynBrs A
SynStr B
SynStr A
ElecPf B
Conv.
Prop.1
ElecPf A
0%
 提案手法によって得
られた楽器カテゴリー
を用いることで,未知
楽器を精度良く認識
 楽器の発音機構に基
づく分類は,(機械的
発音機構の持たな
い)
電子楽器には有効で
ないことを示唆
楽器音の「既知」か「未知」かの判定
100%
Accuracy
80%
60%
40%
既知楽器
未知楽器
20%
0%
Threshold: 50
40
30
25
Feat. Space:
PCA (23dim.)
40
30
25
PCA (18dim.)
40
30
25
PCA+LDA
(18dim.)
PCA (23dim) において,約85%の正解率
楽器音の「既知」か「未知」かの判定
100%
Accuracy
80%
60%
40%
既知楽器
未知楽器
20%
0%
Threshold: 50
40
30
25
Feat. Space:
PCA (23dim.)
40
30
25
PCA (18dim.)
40
30
25
PCA+LDA
(18dim.)
「既知を正しく既知」と「未知を正しく未知」はトレードオフ
⇒応用に応じた適切なしきい値設定の必要性
楽器音の「既知」か「未知」かの判定
100%
Accuracy
80%
60%
40%
既知楽器
未知楽器
20%
0%
Threshold: 50
40
30
25
Feat. Space:
PCA (23dim.)
40
30
25
PCA (18dim.)
40
30
25
PCA+LDA
(18dim.)
PCA+LDAは精度低
∵LDAは学習データの分離を良くする次元圧縮法
多様な奏法を扱う場合の課題
奏法による音響的違いを考慮したシンボル化
⇒ 特徴ベクトルの分布を奏法別に作って
本研究のカテゴリー作成法を適用
(音響的違いの顕著な奏法は別カテゴリー)
イメージ図
Piano
(Normal)
Violin
(Pizz.)
Violin
(Normal)
Violin
(Vibrato)
…
カテゴリー同定の利用法
 ピアノ曲の検索では…
再現率重視なら「ピアノに似た楽器」を含める
適合率重視なら「ピアノに似た楽器」を含めない
 「ピアノ」と「ピアノに似た楽器」をともに含む曲で
両者を区別しながら採譜できる
 音楽演奏の映像に対するタグ付けでは…
音から「楽器名はわからないが弦楽器」
映像から「楽器名○○」
⇒弦楽器に属する新たな楽器として再学習