天文学用MEMS可変形鏡の開発 大屋 真 (国立天文台ハワイ観測所) アウトライン • 補償光学装置(AO)と形状可変形鏡(DM) • AO用MEMS-DM • 次世代MEMS-DM開発に向けて 補償光学装置と形状可変形鏡 補償光学装置とは • 光波面の歪みをリアルタイムで 補正して回折限界像を取得 w/o AO w/ AO •天文学と眼科医療で応用が盛ん 網膜 海王星 w/o AO w/ AO w/o AO w/ AO 形状可変鏡 (Deformable Mirror; DM) • ピエゾ (最もよく使われている) • 磁歪 • 電磁石 天文用では一般的ではないが、次の様な方式もある – 透過型: 液晶位相板 透過率や偏光特性が問題 – 熱変形 特に赤外波長では背景雑音になる – 液体 安定性? ピエゾDMの代表例 積層アクチュエータ バイモルフ AO用MEMS-DM なぜMEMS-DM? ピエゾ MEMS 大きさ 大きい 素子間隔: > 5 mm (64x64素子: >300mm□) 小さい 素子間隔: <1 mm (64x64素子: < 60mm□) 重さ 重い (特に積層アクチュエータ) 50kg 軽い (CPUチップ程度) <100g 価格 $1,000 / actuator $100 / actuator ヒステリシス > 5% < 0.1% ストローク (変形量) 大きい > 10 mm 小さい < 10 mm 緑色:MEMS-DMに期待される項目 赤色:MEMS-DMに対する課題 既存のMEMS-DM 基本原理は、静電力で「引き」、機械的バネ(張力)で「戻り」 単一メンブレン式 OKO 二段メンブレン式 Boston Micromachines 分割三脚式 Iris AO 各方式の比較 単一メンブレン式 二段メンブレン式 分割三脚式 仕組みが簡単 現在、最も注目されている あまりやられていない 素子数<100 素子数<4096 素子数>100 中心ストロークは >10mm エッジでは小さい。 ストローク不十分 (多分10mmは行かない) ストロークが大きい (既に10mmに到達) 湿度に弱い。 分割による鏡面としての 性能の劣化? 振動に弱い? 面が不安定。 多素子には不向き? 注意:AO用では各素子の高さ方向の変位が重要。 DLP用DMDの様に各素子の傾きが変わるだけでは不十分 次世代MEMS-DMの開発に向けて 背景 • 口径30mの超大型望遠鏡を建設予定 TMT: Thirty Meter Telescope 現在の世界の主力は口径10m級(すばる望遠鏡は8m) – 素子数、ストロークを増やす必要あり – 観測時間が貴重⇒多天体化⇒安価・簡素 • 多様化 – 観測目的ごとに異なったAO方式が必要 – 各AO方式ごとに違う要素技術(DM)が必要 TMT-AOに必要な仕様 • 素子数: N ∝ (D/r0)2 Subaru AO188と同等の性能が必要なら 188×(30/8)2~2600 1000素子以上は必須 • 波面誤差: σ ∝ (D/r0)5/6 3σで評価(±3σ、鏡で半分)、TT補正済 0.6"@0.5μm; 天頂 Subaru: 2.2[μm]、TMT: 6.5[μm] 1.2"@0.5μm; EL=30°Subaru: 5.5[μm]、TMT: 16.4[μm] AO方式の多様化 … 顕微鏡 レンズ (従来型AO) … 広視野カメラ ExAO (Extreme AO) MOAO (Multi-Object AO) 明るい星近傍の惑星 暗い遠方銀河を複数同時 究極の波面補償性能による 高コントラストイメージ - 超多素子 - 高速動作 - 高い鏡面精度 トモグラフィック3D波面推定と オープンループ制御 - 繰り返し精度 - 鏡面の安定性 高反射率 多ユニット - 簡素・安価 これまでのMEMS-DMは、 主にExAO用に作られてきた。MOAO用では仕様が異なる。 MEMS-DMの仕様(案) 既存のMEMS-DM、すばる望遠鏡のDMの仕様を基にTMT-MOAO用にアレンジ Element count 1024 = 32x32 (goal: 4096 = 64x64) Pitch 300 ~ 1,000 mm Aperture size 10~ 30mm (goal: 20~ 60mm) Fill factor 98% Actuator yield > 99% Stroke (overall) 20 mm Stroke (at highest spatial freq.) 4 mm Surface roughness (RMS) < 20nm (goal: <10nm) Flatness (controlled; RMS) < 20 nm Bandwidth > 100Hz First resonance > 1kHz Hysteresys < 0.1% Reflective surface Gold (Silver) w/ overcoat Uniformity of surface reflectivity ±1% RMS Stability < 4nm Repeatability < 4nm Resolution < 4nm Maximum drive voltage < 300V Operating temperature -5℃ ~ +15℃ (goal: -30℃ ~ +30℃) Relative Humidity 0 ~ 90 % Altitude 0 ~ 4500 m 開発の着眼点 既存のMEMS-DMで不足な点・問題点 MEMSの専門家から見た新方式のアイデアはないか? •ストローク •耐久性 •制御回路 •価格 大気ゆらぎの空間周波数ごとの強度 Zernike polynomials 各動径次数の各形状の 波面誤差(RMS)の比 干渉計でなければ 補正しない。 4.4 (別途補正) 1 0.51 0.33 0.23 この先はなかなか 減らない… N^-0.43 (R^-0.87) 大きな波面誤差を持っているのは低空間周波数成分 Woofer-tweeter ストローク不足の場合は、スピーカーの様に • Woofer: 低空間周波数を低速で補正 • Tweeter: 高空間周波数を高速で補正 f/15 input OAE 1 OAE 2 300 Woofer DM Tweeter DM f/35 output 2700 光学系が複雑になり、透過効率も落ちる。 ある程度空間周波数が大きくなるとwooferの効果が薄い。 ストローク •特にエッジを大きく •Woofer-tweeterを一枚で 金メダル 20 mm 世界初 (単一面式以外では) Wooferを無くせる。 銀メダル 10 mm 分割式では実現しているが、 連続面式であれば世界初 Wooferの仕様を緩くできる。 5 mm BMCのMEMS-DMと同じ。 他の点を改良できれば十分意味あり。 銅メダル エッジで大ストロークであれば、 小素子数やTT鏡でも意味がある。 耐久性 安定した運用のために重要。チャンピオンデータだけではダメ。 •耐環境性 特に耐湿度。観測装置は半屋外。 例: Boston Micromachinesのkilo-DM •高電圧(150V)を掛けると電線が腐食するらしい。 •ウィンドを付けるか、湿度< 50%以下で使用 •メンテナンスフリー 光学アラインメントがあるので交換は容易ではない。 10年は無故障であって欲しい。 制御回路 •低電圧駆動 •リニアな制御電圧特性 静電式は電圧と変位の関係が非線形(D/Aの分解能が変化) 電圧-変位特性に合わせた高電圧アンプが用意できないか? •外部配線数の削減 チャンネル数分の外付け高電圧アンプ、高耐圧・高密度電線 専用回路で外部配線数を減らす工夫 (例えばCMOSイメージセンサ) 排熱との関係もあるので単純ではないが…。 3U 価格 例: Boston Micromachinesのkilo-DM –DM chip: $75k –Driver: $75k 4000素子のDMでは総額$500k程度 希望としてはフルスペックで DM chip + Driver: < $100k (1千万円) 鏡であることによる注意点 • 機械的性能 – 時間安定性 (ふらふらしては困る) – 繰り返し精度 (オープンループ制御で重要) – 大きさの自由度 (目的に応じた選択が望ましい) 大きくなると動作速度が遅くなる? 必要電流増える? • 光学的性能 – フラットなバイアス形状(単一メンブレンだと曲面) – 面精度(研磨・コーティング) 特に誘電体多層膜コーティングは、張力の問題で難しい? まとめ • 補償光学装置(AO)と形状可変形鏡(DM) • AOとMEMS-DM • 次世代MEMS-DM開発に向けた仕様案 • Action Item 仕様案のブラッシュアップ – 既製品でできている部分は、実際に可能か「確認」 – 既製品で不足な部分は、新しいアイデアがないか「検討」 – 項目に抜けが無いか?
© Copyright 2024 ExpyDoc