民事訴訟法

民事訴訟法
基礎研修
(5日目)
関西大学法学部教授
栗田 隆
訴訟の終了

処分権主義

裁判所の行為 終局判決の確定
当事者の行為 訴えの取下げ、和解、請求の放
棄・認諾(266条・267条)
その他 二当事者対立構造の消失(離婚訴訟にお
ける一方の死亡など)


訴えの取下げ(261条)  判決申立ての撤回
 単独行為
 裁判所に向けてなす訴訟行為
⇔訴え取り下げの合意
意義
訴えの取下げ(261条) 件・方式
判決確定までできる
 単独行為 相手方の同意
 原則として書面によりなす
 相手方の同意の擬制
 訴訟能力

要
訴えの取下げ(262条)-効果
訴訟係属の遡及的消滅
 判決後取り下げの場合に、再訴の禁止

請求の放棄・認諾(266条・267
条)

意義
 放棄
原告の、自己の請求に理由がないことを
認める陳述
 認諾
被告の、相手方の請求に理由がある旨
の陳述

かつては、これらの陳述に基づき、判決がな
されていた。
請求の放棄・認諾
訴訟能力・授権
 処分権限
 方式

–
要件・方式
請求の放棄・認諾

効果
調書への記載=確定判決と同一の効力
既判力
 執行力
 形成力

–
訴訟上の和解

-
起訴前の和解との違い
意義
訴訟上の和解
–
要件・方式
訴訟能力
 処分権限
 期日における陳述と調書への記載

訴訟上の和解

–
効果
確定判決と同一の効力
 訴訟終了効
 既判力(争いあり)
 執行力
 合意による法律関係の変動
判

決
中間判決
 [169]東京地方裁判所
平成14年9月19日 民事第46部
中間判決(平成13年(ワ)第17772号)・教材判例集503
頁
 [146]東京地方裁判所 平成13年5月25日 民事第47部
中間判決(平成8年(ワ)第10047号(甲事件)、平成8年
(ワ)第25582号(乙事件)・396頁

終局判決
終局判決の成立
判決書の作成
 判決の言渡し

判決の形式的効力
自己拘束力(例外:256条・257条)
 覊束力

移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する(22
条)
 上級審が原判決の破棄・取消し理由とした判断は、下
級審を拘束する(325条3項・裁判所法4条)
 原判決が適法に確定した事実は、上告審を拘束する
(321条)


形式的確定力(116条)
判決の内容的効力
既判力(実体的確定力) (114条)
 執行力 (民執法22条)
 形成力

既判力の意義

前訴の確定判決
 XのYに対するα債権は存在しない。

後訴
 XがYを被告に再度α債権の支払請求の訴えを
提起した。

後訴の裁判所は、前訴の裁判所は判断を
誤っていると考えた場合に、請求を認容する
ことができるか?
既判力の作用
積極的作用 裁判所は、既判力のある判断
を審理・裁判の基礎としなければならない。
 消極的作用
裁判所は既判力ある判断に
拘束されるのであるから、当事者が既判力の
ある判断を争うために標準時前の事実を主
張することは許されず、たとえ当事者がしても、
不適法な攻撃・防御方法として却下されるべ
きである。

既判力の作用の類型
同一関係
第1訴訟
X--(所有権確認請求)-→Y
第2訴訟
X--(所有権確認請求)-→Y
既判力の作用の類型
先決関係
第1訴訟
X--(所有権確認請求)-→Y
第2訴訟
X--(所有権に基づく明渡請求)-→Y
既判力の作用の類型
矛盾関係
第1訴訟
X--(所有権確認請求)-→Y
第2訴訟
X←-(所有権確認請求)--Y
既判力の作用の類型
複合型
第1訴訟
X--(所有権確認請求)-→Y
第2訴訟
X←-(所有権に基づく明渡請求)--Y
既判力の本質

通説 「既判力は、後訴裁判所に対して、確定判
決と矛盾する判断を禁ずる訴訟法上の効果である」。

少数説(一事不再理説) 原告が標準時後の事実
を主張することなく同一関係にある訴えを提起した
場合には、新たに裁判する利益はなく、訴えを却下
すべきである。但し、原告が新たな事実を主張して
いる場合には、訴訟物は別個であり、本案判決をす
べきである。
既判力の双面性


既判力は、当事者の有利にも不利にも作用する。
[6]最高裁判所 昭和32年6月7日 第2小法廷 判決
(昭和28年(オ)第878号)・教材判例集9頁 ある
金銭債権ついてその一部の請求であることを明示
することなくある金額を訴求して全部認容判決を受
けてその判決が確定すると、その債権はその金額
の債権であることも確定し、その後に残額があると
主張することは許されない。
既判力の客観的範囲(114条)

既判力は、判
決主文中の判
断に限り生ず
るのが原則で
ある(114条1
項)。
理由中の
判断
消費貸借の成立
代理権の授与
表見代理の成立
弁済
相殺
・・・・
主文中の
判断
貸金返還請求権の
存否
訴訟物たる権利関係を確定する
Yの横領行為によりXに損害が生じた場合。
 Xは、 Yに対して次の請求権を有する

 損害賠償請求権
 不当利得返還請求権

旧訴訟物理論では、一方の請求権を訴訟物
とする請求を棄却する判決は、その請求権の
不存在のみを確定し、他方の請求権の不存
在を確定しない。
信義則による訴えの制限・主張の制限
(訴訟蒸返しの禁止の法理)

訴訟物が異なるため既判力が及ばない場合
であっても、既判力ある判断により解決済み
となった訴訟を蒸し返すことになる訴えは、禁
止される。

[91]最高裁判所平成10年6月12日第2小法
廷判決(平成9年(オ)第849号)・教材判例
集185頁
 金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告
が残部請求の訴えを提起することは、特段の事
情がない限り、信義則に反して許されない。

[106]東京高等裁判所平成11年12月16日
第6民事部判決(平成11年(ネ)第3800号)
 審決の取消訴訟と、実用新案権侵害を理由とす
る損害賠償請求訴訟
相殺の判断(114条2項)
相殺の抗弁について判断がなされた場合に、
この判断に既判力を認めないと、訴求債権の
存否についての紛争が反対債権の存否の紛
争として蒸し返され、判決による紛争解決が
実質的に意味を失う場合がある。
 そこで、一挙にこの点を解決する趣旨で、反
対債権の不存在について既判力が認められ
ている。

金銭の
訴求債権
支払請求 受働債権
A
反対債権
自働債権
B
相殺の抗弁
相殺の抗弁が認められて、請求が
棄却された場合


反対債権の不存在(消滅)に既判力が生じないと、
Aの債権が当初から不存在であることを主張してB
がAに反対債権を訴求しうることになり、「訴求債権
の存否についての紛争が反対債権の存否の紛争と
して蒸し返される」ので、
反対債権が相殺により消滅して不存在であるとの判
断に既判力が認められている。
反対債権の不存在のため請求が認
容された場合

この場合には、「既判力を認めないと訴求債
権の存否についての紛争が反対債権の存否
の紛争として蒸し返される」ということにはな
らないが、反対債権の存否について実質的
な判断がなされているので、既判力を認める
のが適当である。
既判力の主観的範囲(115条)

既判力は訴訟の当事者間で作用し(115条1
項1号)、当事者以外の者には及ばないのが
原則である。その根拠は、次の点にある。
 私的紛争は、多くの場合に、相対的に解決しても
混乱が生じない。
 訴訟に関与しない者に不利な判決を押しつける
ことはできない。
原告
甲野
被告 主債務者
100万円貸付
乙野次郎
乙野三郎
非当事者 連帯保証人
既判力の拡張(115条1項2-4号)
2 訴訟担当の場合の利益帰属主体
 3 口頭弁論終結後の承継人
 4 請求の目的物を所持する者

訴訟担当者と利益帰属主体の例
破産管財人と破産者(破産162条 )
 後見人または後見監督人成年被後見人(人
訴4条)ー離婚訴訟
 差押債権者と債務者(民執157条 )
 代位債権者と債務者(民423条)

利益帰属主体
利益帰属主体
=債務者
代位債権者
α債権
X
β債権支払
請求の訴え
民法423条
の要件充足
Y
β債権
Z
第三債務者
考え方

請求棄却の場合に
 代位債権者生ずる不利益
 既判力が拡張される場合に債務者に生ずる不利
益
 既判力が拡張されない場合に第三債務者に生ず
る不利益

代位債権者は誰のために訴訟しているのか。
見解の対立




全面的拡張説 代位訴訟も通常の訴訟担当で
あり、判決効は被担当者に全面的に及ぶ。通説・
判例。
条件付拡張説 被担当者に参加の機会を与える
ことを条件に及ぶ。
勝訴判決拡張説 担当者の勝訴の場合にのみ
被担当者に及ぶ。
否定説 代位訴訟は固有適格に基づく訴訟追行
であり、訴訟担当ではない。
[1]大審院昭和15年3月15日第5民事部判決(昭和
14年(オ)第123号)・教材判例集1頁

債権者代位訴訟において債権者が受けた判
決は、債務者が訴訟に参加したか否かにか
かわらず、民事訴訟法第201条第2項(現
115条1項2号)により債務者に対しても効力
を有する。
口頭弁論終結後の承継人
例えば、給付判決を得た原告は、自己の権
利を給付判決によって強化された権利として
より高い価格で第三者に売却することに利益
を有する。
 そのためには、判決の効力が承継人にも及
ぶとする必要がある。

債権者
X
α債権
支払請求
請求認容
α債権譲渡
Z
債権の譲受人
強制執行
債務者
Y
Zとの関係で
もα債権の存
在を争えない
適格承継

その 1
Y←(建物収去・土地明渡)-X
∥
勝訴
∥建物譲渡
∥
▽
Z
適格承継

その 2
Y←(建物収去・土地明渡請求)-X
∥
勝訴
∥建物の賃貸借契約
∥建物の占有移転
▽
Z借家人
承継人の独自の抗弁

(所有権に基づく) 勝訴
Y←(不動産引渡請求)-X
売り主
第1買主
∥
∥譲渡
▽
Z・第2買主
実質説と形式説


実質説 ZはXに対して所有権を主張でき
るから、Yの承継人ではない。
形式説 ZはYの承継人であり、YがXに対
して明渡義務を負っていることを既判力の
標準時前の事由で争うことはできない。しか
し、自分がXより先に対抗要件を得たという
独自の抗弁を提出できる
拡張の基準
形式説 承継の事実のみ
拡張される既判力の作用
判決によって確定された被承継
人の地位・義務を争うことはでき
ない。しかし、承継人独自の抗
弁は妨げられない。
承継人が相手方に対
して判決に表示されて 被承継人の地位も前訴判決の
実質説
いる義務ないし類似 既判力によって確定される。
義務を負っていること
承継の時点による区別
|この段階で特定承継があった場合には、
|49条以下の問題となり、
|115条1項3号は適用されない。
|
事実審の口頭弁論の終結(既判力の標準時)
|
|この段階で特定承継があった場合には、
↓115条1項3号が適用される。
他人の所有物を占有ないし所持す
る者の区分



占有補助者(所持機関) 債務者の家族
等、無能力者の物を管理する法定代理人、
法人の物を所持する代表者・従業員など。
他人のための所持者(115条1項4号・民執
23条3項) 受寄者(荷物を預かった隣人)、
管理人など
自己の利益のために占有する者 賃借人、
質権者など。
係争物の所持者
他人のための占有者は、目的物に独自の利害関
係をもっているわけではないので、他人(本人)に
対する判決の効力が拡張される。
 しかし、彼は独立の占有を有するので、彼に対す
る執行には彼を執行債務者として表示する独立
の執行正本が必要である。判決効の拡張により、
「本人に対する債務名義+所持人に対する執行
文(承継執行文)」で足りる(民執27条2項・23条3
項)。

訴訟脱退者

独立当事者参加訴訟(47条)からの脱退者にも
判決の効力が及ぶ(48条)。(当事者参加の項で
詳述する)
115条以外の規定による判決効の拡
張

115条所定の場合以外にも、訴訟物たる権利
関係の特性に応じて、判決効が拡張される。
 破産債権確定訴訟(破産250条)
 身分関係訴訟(人訴18条・26条・32条)
 会社関係訴訟(商法109条1項・136条3項・142
条・247条2項など)
既判力の標準時
判決で判断される法律関係は、時の経過の中で、
当事者の行為等により変動する。したがって、法
律関係の判断は、一定の時点での判断としての
み意味がある。
 判決中の判断は、当事者が裁判の基礎資料であ
る事実を提出することができる最終時点、すなわ
ち、事実審の口頭弁論終結時での判断であると
構成される。

遮断効
既判力の標準時前に存在した事由でもって、
既判力ある判断を争うことは許されない。
 既判力の標準時後に発生した事由を主張し
て、既判力ある判断を争うこと(現在の法律
関係が標準時における法律関係と異なること
を主張すること)は許される。

設
例
給付請求認容判決が確定した場合に、債務
者は、標準時後に弁済したことを理由に、債
務が現在は存在しないことを主張して、給付
判決の執行力の排除を求めることができる
(民執法35条の請求異議の訴え)。
 しかし、当初から債務が発生していなかった
ことを理由とすることはできない(同条2項参
照)

標準時後の形成権の行使

既判力の標準時前に存在した形成権を標準
時後に行使して、現在の法律関係が標準時と
異なることを主張できるかが問題となる。
X
所有権移転登記請求
請求認容
買主
X
請求異議
Y
売主
Y
売買契約取消
しの意思表示
[57]最判昭和55.10.23民集34-5-747 ・教材判
例集110頁
売買契約による所有権の移転を請求原因と
する所有権確認訴訟が係属した場合に、
 当事者が右売買契約の詐欺による取消権を
行使することができたのに、これを行使しない
で事実審の口頭弁論が終結され、右売買契
約による所有権の移転を認める請求認容の
判決があり同判決が確定したときは、
 もはやその後の訴訟において右取消権を行
使して右売買契約により移転した所有権の存
否を争うことは許されなくなる。

その他の形成権
解除権
 相殺権、建物買取請求権
 白地手形の補充権

 最判昭和57.3.30民集36-3-501
口頭弁論終結時に顕在化した損害
増加
口頭弁論終結時に予見できないような損害に
ついてまで、加害者が紛争解決を期待するこ
とは適当でない。
 予見できない損害について追加請求すること
は、許されるべきである

過去の不法行為に起因する後遺症
損害
[28]最判 昭和42年7月18日 ・民集21巻6号
1559頁・教材判例集42頁
 被害者は、後遺症による損害が顕在化した
時点で、追加請求することができる。
 この場合には、後遺症による損害は、前訴の
訴訟物には含まれず、したがって前訴判決の
既判力により遮断されないと構成される。

継続的不法行為により生ずる口頭
弁論終結後の損害

例えば、土地の不法占拠を理由とする損害
賠償請求訴訟にあっては、現在の状況が続く
ことを前提にして単位期間あたりの損害額を
定め、明渡しに至るまでの賠償が命じられる。
明渡しが遅延したため、地価の上昇等により
期間あたりの損害額が増大した場合に、原告
がその増大額の追加請求をすることを許す
必要がある。
[62]最判昭和61.7.17民集40-5-941頁・教材判
例集117頁



土地の所有者が不法占拠者に対し、将来給付の訴えにより、
土地の明渡に至るまでの間、その使用収益を妨げられること
によって生ずべき損害につき毎月一定の割合による損害金
の支払を求め、その全部又は一部を認容する判決が確定し
た場合において、
事実審口頭弁論の終結後に公租公課の増大、土地の価格
の昂騰により、又は比隣の土地の地代に比較して、右判決
の認容額が不相当となったときは、
所有者は不法占拠者に対し、新たに訴えを提起して、前訴
認容額と適正賃料額との差額に相当する損害金の支払を求
めることができる。
既判力ある判断に抵触する判決
前訴判決の既判力に反する判決が下された
場合には、当事者は上訴によりその取消しを
求めることができる。
 既判力に抵触する判決が確定した後では、
再審の訴えによりその取消しを求めることが
できるが(338条1項10号)、取り消されるまで
は、後で確定した判決の既判力ある判断が
最新の判断として優先する(同項8号に注意)。

執行力
狭義の執行力 判決で命じられた義務内容
を強制執行によって実現できる効力(民執法
22条1号)。
 広義の執行力
裁判に基づき公の機関に
対して、強制執行以外の方法で、その内容に
適合する状態の実現を求めることができるこ
とを広義の執行力という。

形成力
「原告と被告とを離婚する」という主文の離
婚判決が確定すると、原告・被告間にそれま
で存在していた婚姻関係が終了する。
 このように、判決で宣言されたとおりに法律
関係を変動させる効力を形成力という。
