第8章 景気指標 ー 経済統計 ー この章の内容 Ⅰ 景気の定義と景気循環 a) b) 景気の定義 景気循環 ⅰ) 景気循環の諸概念 ⅱ) 景気循環の要因 Ⅱ 景気を測定する方法 a) 景気指標による景気の測定 ⅰ) 採用系列と指数の種類 ⅱ) DIの算出 ⅲ) DIの見方 ⅳ) 景気転換点の設定 ⅴ) 累積DIとCI b) サーベイデータによる景気の測定 ⅰ) 日銀「短観」 ⅱ) 内閣府BSI ⅲ)内閣府「景気ウオッチャー調査」 c) 計量経済モデルによる景気の測定 Ⅰ 景気の定義と景気循環 a) 景気の定義 景気とは、「経済の全体的な状態」であるということができる。 しかし、「完全失業率」のような数値が「経済の全体的な状態」を示す 数値として存在するわけではない。 そこで、 「経済の全体的な状態」 について、数値で表すことが可能な ように定義する必要がある。代表的な定義としては次の3つがある。 1. 景気 = 総体的経済活動 ととらえる考え方 2. 景気 = 実感 ととらえる考え方 3. 景気 = GDP ととらえる考え方 これらの考え方は、後の景気を測定する方法に対応している。 b) 景気循環 ⅰ)景気循環の諸概念 景気は、「良い」状態と「悪い」状態を交互にくり返す。そのくり返しを 「景気循環」という。 景気循環の概念図 山 山 後退期 谷 拡張期 ※ 山から山、または、谷から谷までを1循環といい、山から谷までを後 退期、谷から山までを拡張期という。 景気基準日付 (内閣府経済社会総合研究所) 谷 山 谷 拡張 期 間 後退 全循環 第1循環 昭和26年6月 昭和26年10月 4ヵ月 第2循環 昭和26年10月 昭和29年1月 昭和29年11月 27ヵ月 10ヵ月 37ヵ月 第3循環 昭和29年11月 昭和32年6月 昭和33年6月 31ヵ月 12ヵ月 43ヵ月 第4循環 昭和33年6月 昭和36年12月 昭和37年10月 42ヵ月 10ヵ月 52ヵ月 第5循環 昭和37年10月 昭和39年10月 昭和40年10月 24ヵ月 12ヵ月 36ヵ月 第6循環 昭和40年10月 昭和45年7月 昭和46年12月 57ヵ月 17ヵ月 74ヵ月 第7循環 昭和46年12月 昭和48年11月 昭和50年3月 23ヵ月 16ヵ月 39ヵ月 第8循環 昭和50年3月 昭和52年1月 昭和52年10月 22ヵ月 9ヵ月 31ヵ月 第9循環 昭和52年10月 昭和55年2月 昭和58年2月 28ヵ月 36ヵ月 64ヵ月 第10循環 昭和58年2月 昭和60年6月 昭和61年11月 28ヵ月 17ヵ月 45ヵ月 第11循環 昭和61年11月 平成3年2月 平成5年10月 51ヵ月 32ヵ月 83ヵ月 第12循環 平成5年10月 平成9年5月 平成11年1月 第13循環 平成11年1月 平成12年11月 平成14年1月 43ヵ月 22ヵ月 20ヵ月 14ヵ月 63ヵ月 36ヵ月 ⅱ) 景気循環の要因 景気循環の要因は経済に内在するものか、外的なショックなのかはっ きりとは分からないが、代表的な景気循環の要因として、次の4つを挙 げる。 コンドラチェフ波(技術革新) 約50年周期 クズネッツ波(建設循環) 約20年周期 ジュグラー波(設備投資) 8 ~ 10年周期 キチン波(在庫変動) 2 ~ 3年周期 Ⅱ 景気を測定する方法 景気指標によるもの - 景気に敏感ないくつかの経済指標を組み 合わせた指数を作る (例)景気動向指数 景気を「総体的経済活動」ととらえる考え方に対応 サーベイデータによるもの - 個人や企業経営者の予測や判断を 利用するもの (例)日銀「短観」、景気ウオッチャー調査 景気を「実感」ととらえる考え方に対応 計量経済モデルによるもの - 経済理論にもとづき、計量経済モデ ルを使う (例)GDPについての計量分析 景気を「GDP」ととらえる考え方に対応 a) 景気指標による景気の測定 景気に敏感ないくつかの経済指標をくみあわせた景気指標としては、 景気動向指数(Diffusion Index)がある。 景気動向指数は、内閣府経済社会総合研究所が作成するものであり、 景気の測定に関して、次のような手順がとられる。 • 採用系列の選択 • DIの算出 • 景気転換点の設定 ⅰ)採用系列と指数の種類 景気動向指数は、さまざまな分野の経済指標を集め、それを総合化し ている。 そのためには、さまざまな経済指標から景気指標に有用なものを選択 する必要がある。その基準として代表的なものは次の6つである。 経済的重要性 経済活動のカヴァレッジが広いかどうか 統計的充足性 長期の系列が得られるか、データの改訂はどの程度 おこなわれるか タイミング 個別指標の転換点と景気基準日付のタイミングが規則的 であるかどうか 対応性 拡張期・後退期との対応性がみられるか 平滑性 不規則変動が小さく、平滑な変動を示すかどうか 速報性 データの公表に速報性があるかどうか 景気動向指数採用系列 系 列 名 1 最終需要財在庫率指数(逆サイクル) 2 鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル) 3 新規求人数(除学卒) 4 実質機械受注(船舶・電力を除く民需) 5 新設住宅着工床面積 先行系列 6 耐久消費財出荷指数(前年同月比) 7 消費者態度指数 8 日経商品指数(42種)(前年同月比) 9 長短金利差 10 東証株価指数(前年同月比) 11 投資環境指数(製造業) 12 中小企業売上げ見通しD.I. 1 生産指数(鉱工業) 2 鉱工業生産財出荷指数 3 大口電力使用量 4 稼働率指数(製造業) 5 所定外労働時間指数(製造業) 一致系列 6 投資財出荷指数(除輸送機械) 7 商業販売額(小売業)(前年同月比) 8 商業販売額(卸売業)(前年同月比) 9 営業利益(全産業) 10 中小企業売上高(製造業) 11 有効求人倍率(除学卒) 1 第3次産業活動指数(対事業所サービス業) 2 常用雇用指数(製造業)(前年同月比) 遅行系列 3 実質法人企業設備投資(全産業) 4 家計消費支出(全国勤労者世帯)(前年同月比) 5 法人税収入 6 完全失業率(逆サイクル) このようにして選択された系列は、各系列の転換点と景気基準日付と のタイミングによって、先行系列、一致系列、遅行系列の3つに分類 される。DIは、各系列ごとに指数化される。 先行指数(先行系列) 景気に先立った変化をするもの。予測に用い られる。 一致指数(一致系列) 景気の動きと一致した変化をするもの。現状 把握に用いられる。 遅行指数(遅行系列) 景気の動きに遅れをともなった変化をするも の。事後確認に用いられる。 一致系列(=景気) 先行系列 遅行系列 ⅱ) DIの算出 個々の系列の値を3か月前と比較し、その増減を調べる。 増加系列 1点、現状維持0.5点、減少系列0点を与え、系列数で割り 100倍したものがDI ⅲ) DIの見方 DIが50をまたぐときが景気の転換点 山 50より大 → 50より小 谷 50より小 → 50より大 DI=100は景気が最も良い時期ではなく、すべての系列が増加して いるということ。すなわち、拡張期であることを示している。反対に DI=0は景気が最も悪い時期ではなく、すべての系列が減少してい るということ。すなわち、後退期であることを示している。 DIの大きさ ≠ 景気 年・月 グレーの網掛けの部分は後退期をあらわす 2007.9 2006.11 2006.1 2005.3 2004.5 2003.7 2002.9 2001.11 2001.1 2000.3 1999.5 1998.7 1997.9 1996.11 1996.1 1995.3 1994.5 1993.7 1992.9 1991.11 1991.1 1990.3 1989.5 1988.7 1987.9 1986.11 1986.1 DI D Iの一致系列(原系列) 100.0 50.0 0.0 山 山 景気循環 後退期 谷 拡張期 景気動向指数(一致系列) 100 DIの変動 50 0 ⅳ)景気転換点の設定 DIが50をまたぐときが景気の転換点であるが、実際のDIの動きは不 規則変動が多く、転換点を見つけるのは困難である。 そこで、各系列ごとに山、谷を設定し、谷から山まではすべて+、山か ら谷まではすべて-の符号を与える。(これによって不規則変動が取 りのぞかれる)。この系列から作成したDIをヒストリカルDIといい、ヒス トリカルDIが50をまたぐ時点を景気転換点とする。 最終的には、景気動向指数研究会の議論を経て、景気基準日付が決 定される。 景気動向指数研究会では転換点の決定のほかに、採用系列の改訂 が議論され、改訂が決定した場合には、過去にさかのぼってDIの算 出がおこなわれる。 ⅴ)累積DIとCI このようにDIは景気の変化の方向を把握するための指標であり、景 気の良し悪しを量的に把握する指標ではない。景気の良し悪しを量的 に把握するための指標として、累積DIとCIがある。 累積DIは、昭和28(1953)年3月を0とし、それに毎月のDIから50を 引いたものを加えていったものである。 累積DIt 累積DIt 1 ( DIt 50) D Iと累積D I(一致系列) DI 100.0 累積D I 9,000.0 8,500.0 8,000.0 50.0 7,500.0 7,000.0 0.0 6,500.0 1986.1 1987.1 1988.1 1989.1 1990.1 1991.1 1992.1 1993.1 1994.1 1995.1 1996.1 1997.1 1998.1 1999.1 2000.1 2001.1 2002.1 2003.1 2004.1 2005.1 2006.1 2007.1 DI 累積D I CI(Composite Index)は、個別指標の変化率に注目し、これを平 均した上で、累積し、指数化したものである。 ある系列が極端な動きをした場合、その影響を受けやすいという指摘 があったが、平成16年10月分から「刈り込み平均」の考え方を利用 する新しい指標を用いることによって、だいぶ改善された。 ※ 刈り込み平均 オリンピックの体操競技などでは、最高点をつけた審判員と最低点 をつけた審判員の点数を除いて平均を算出することで、極端な点数がつかないようにし ている。これが刈り込み平均の考え方である。 日本ではDIが主でCIは補完的な役割を果たすのに対し、アメリカや 韓国などはCIが主である。 D IとC I(一致系列) CI 120.0 DI 100.0 115.0 110.0 105.0 50.0 100.0 95.0 90.0 85.0 0.0 80.0 1986.1 1987.1 1988.1 1989.1 1990.1 1991.1 1992.1 1993.1 1994.1 1995.1 1996.1 1997.1 1998.1 1999.1 2000.1 2001.1 2002.1 2003.1 2004.1 2005.1 2006.1 2007.1 DI CI b) サーベイデータによる景気の測定 サーベイデータとは、個人や企業経営者の予測や判断についてのア ンケートのデータである。 サーベイデータの結果をあらわすとき、判断DIなどいったものが用い られることがよくあるが、これは景気動向指数のDIとは作成方法が全 く異なり、 「良い」という回答の割合から 「悪い」という回答の割合を引 いたものである。 そのため、-100から+100までの値をとり、景気循環と同様の動きを する。 ⅰ)日本銀行「企業短期経済観測調査」(通称「短観」) 全国の資本金2千万円以上の民間企業(金融機関を除く)約22万社 から約1万社を標本として選び、3ヶ月ごとに業況判断や事業計画な どについての調査をおこなっている。 業況判断DI =「良い」という回答社の割合(%) - 「悪い」という回答社の割合(%) 日銀「短観」業況判断D I 60 40 20 0 -20 -40 2007 2006 2004 2003 2002 2001 1999 1998 1997 1996 1994 1993 1992 1991 1989 1988 1987 1986 -60 年・四半期 グレーの網掛けの部分は内閣府の景気基準日付による後退期をあらわす ⅱ) 内閣府「法人企業動向調査」BSI(Business Survey Index) 資本金1億円以上の法人企業約37,600社から、4,510社を選び、 3ヶ月ごとに調査する。 ※ 平成16年度から、財務省景気予測調査と一元化し、「法人企業景気予測調査」に変 更された。 国内景気について、BSI =「上昇」という回答社の割合(%) - 「下降」という回答社の割合(%) 内閣府「法人企業動向調査」国内景気B SI 60 40 20 0 -20 -40 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1995 1996 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 -60 -80 グレーの網掛けの部分は内閣府の景気基準日付による後退期をあらわす ⅲ)内閣府「景気ウオッチャー調査」景気の現状判断DI 景気に関連深い経済活動項目の動向を観察できる立場にある人 2050 人に対して、毎月調査をおこなっている。 景気の現状判断DI - 身の回りの景気は3ヶ月前と比べてどうなっ ているかを聞き、その割合(%)に下の表のような点数をかけて加えた ものが現状判断DI 良くなって やや良く 変わらない やや悪く 悪くなって いる なっている なっている いる 1 0.75 0.5 0.25 0 内閣府「景気ウオッチャー調査」現状判断D I 2007年7月 2007年2月 2006年9月 2006年4月 2005年11 2005年6月 2005年1月 2004年8月 2004年3月 2003年10 2003年5月 2002年12 2002年7月 2002年2月 2001年9月 2001年4月 2000年11 2000年6月 2000年1月 60.0 55.0 50.0 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 グレーの網掛けの部分は内閣府の景気基準日付による後退期をあらわす c) 計量経済モデルによる景気の測定 実質GDP(季節調整値)の推移 G DP 600,000 550,000 500,000 450,000 年・ 四半期 2004Ⅳ 2003Ⅲ 2002Ⅱ 2001Ⅰ 1999Ⅳ 1998Ⅲ 1997Ⅱ 1996Ⅰ 1994Ⅳ 1993Ⅲ 1992Ⅱ 1991Ⅰ 1989Ⅳ 350,000 1988Ⅲ 400,000 1987Ⅱ GDP(国内総生産)は国内の経済活動で生まれる付加価値の合計で ある。このGDPの動きこそ景気の動きに一致すると考えることもできる。 このGDPの予測には、さまざまな計量経済モデルが用いられる。 1986Ⅰ 実質GDP(季節調整値)の対前期増加率 GDP 3 実質GDP(季節調整値)の推移 2 1 0 -1 -2 6 Ⅰ 87 Ⅰ 88 Ⅰ 89 Ⅰ 90 Ⅰ 91 Ⅰ 92 Ⅰ 93 Ⅰ 94 Ⅰ 95 Ⅰ 96 Ⅰ 97 Ⅰ 98 Ⅰ 99 Ⅰ 00 Ⅰ 01 Ⅰ 02 Ⅰ 03 Ⅰ 04 Ⅰ 05 Ⅰ 8 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20 20 20 年・四半期
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