銀河面に隠された セファイド変光星の探査

KWFC銀河面変光天体探査
松永典之 (東大・天文学教室)
坂本強、三戸洋之、前原裕之、小林尚人、青木勉、酒向重行
征矢野隆夫、樽沢賢一、土居守、中田好一、宮田隆志、諸隈智貴
概要
• 変光星による銀河系研究の背景
• 木曽超広視野カメラ(KWFC)の紹介
• 変光星探査プロジェクト(KISOGP)の紹介
INTRODUCTION-研究の背景・目的
科学的な動機・背景
• 銀河系の構造・運動・進化を探る。
• 理論:
– 新たな数値計算からの示唆(馬場さん講演)
• 観測:
– 広い範囲で構造がわかっていたのはガスだけ。
– 距離、年齢のわかる星をトレーサとする。
– 赤外では、特に円盤・バルジの埋もれた領域に注目。
銀河系トレーサとしての恒星
• 距離の測れることが重要
• (位置・速度・年齢・化学組成)で特徴づけられる。
• フィールドにある通常の星
– 年周視差が測れれば→Gaia、JASMINEに期待。
• 星団(球状星団、散開星団)
– HR図との比較で距離がわかる。
• レッドクランプ
– CHeB星がHR図で特定の明るさのクランプを作る。
• 脈動変光星
– 周期光度関係から距離がわかる。
脈動変光星
• 古典的セファイド
– Blue loop (4~10 Msun)
– 周期 3~50日程度
セファイド
• ミラ型変光星
– AGB (1~6 Msun)
– 周期 100~1000日程度
• RRライリ変光星
– HB (~1 Msun)
– 周期 0.5~1日程度
• Ⅱ型セファイド
– post-HB (~1 Msun)
– 周期 1~40日程度
ミラ
RRライリ
脈動変光星の応用
• 銀河系研究への4つの役割
– 銀河系構造のトレーサ
– 恒星種族のトレーサ
– 化学進化のトレーサ
– 星の運動のトレーサ
銀河系構造のトレーサ
• 周期光度関係を距離指標として利用できる。
– ひとつひとつの変光星の距離を求められる。
LMCにある変光星の周期光度関係
古典的セファイド
ミラ
Ⅱ型セファイド
Matsunaga et al. 2011, MNRAS, 413, 223 Ita & Matsunaga. 2011, MNRAS, 412, 2354
恒星種族のトレーサ
Type
Initial Mass
Age
古典的セファイド
4—10 Msun
20 –300 Myr
ミラ
1—6 Msun
100 Myr –10 Gyr
~1 Msun
~10 Gyr
Ⅱ型セファイド
RRライリ
log (Age/yr)
8.5 300Myr
8.0 100Myr
古典的セファイドの
周期と年齢の関係
(Bono et al. 2005)
7.5 30Myr
7.0
10Myr
0
1
log (Period/day)
2
化学進化のトレーサ
Pedicelli et al. (2009)
銀河中心(Rg<0.2kpc)に3個のセファイド
(Matsunaga
et al. 2011,
Nature, 477,
古典的セファイド
(20-300
Myr)188)
が
示す金属流の勾配
(Galactocentric distance)
• ディスク内側のサンプルが不十分
• ディスク外側はセファイドでどこまでトレースできる?
運動のトレーサ
• 距離(銀河系中での位置)と年齢のわかる
星の運動を調べられる。
太陽の運動を補正した後の銀経方向への速度 (km/s)
Hipparcosの固有運動による
セファイドの運動の研究。
→おおよそ銀河回転に従う。
±20 km/s 程度の分散
Feast & Whitelock (1997)
銀経 (deg)
変光星探査の現状
銀河面の探査は不完全
GC
Sun
既知の古典的セファイド約500個の分布(DDOデータベース)
http://www.astro.utronto.ca/DDO/research/cepheids/
背景: (c) GLIMPSE project (2008)
KWFC-木曽超広視野カメラ
木曽シュミット望遠鏡
• 1974年に東大と
Nikonが建設
• 補正板口径 105 cm
• 視野は6度角四方
(写真乾板使用時)
超広視野カメラ
開発メンバー
PI 酒向重行(東大)
他、木曽観測所と天文学教育研究
センターのメンバー
KWFCの現状
• 2012年4月に共同利用公開。
• ハードウェアの開発は、終了
– 気象監視システムの導入や望遠鏡のシステムの
改良については作業を継続中
• 解析ソフト、観測支援ソフトの開発を継続中。
– すでに2KCCDよりも快適・安定的な観測が可能。
– リモート観測の開始が次の目標
• さらに次世代の超広視野カメラを計画中
新しい観測の枠組み
KWFC公開に合わせ、2012年4月から
観測の枠組みを刷新
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•
通常観測課題
モニタリング観測課題
TOO観測課題
大学実習観測課題
• 大規模観測課題
• 観測所課題
共同利用課題
3か月に1度の公募
大規模観測課題
• 2012年度から2件開始
– 2件で100~150夜程度(全時間の2~3分の1)
• 超新星探査 KISS
– PI 諸隈(東大)
– 超新星(特に爆発初期)の探査、ハローの変光星も
• 銀河面探査 KISOGP
– PI 松永(東大)
– 銀河面変光天体(脈動星・新星・矮新星等)の探査
• 参加者を募集中。
– メーリングリスト発足。希望される方はPIまでご連絡を。
KISS (KIso Supernova Survey)
• 諸隈さん(PI)、田中雅臣さん、冨永望さん他
• 1晩3~5回の頻度で反復観測する超新星探査
• 4~6月の観測で3個の超新星を発見
– SN2012cm (CBET 3126)
– SN2012cq (CBET 3139)
– SN2012ct (CBET 3145)
SN2012cq (z=0.0256のIIn型超新星)
KISOGP-KWFC銀河面変光星探査
KISOGP
• KWFC Intensive Survey Of the Galactic Plane
• KWFC大規模観測プログラムのひとつ
– もうひとつは超新星探査(KISS、諸隈さんがPI)
• 銀河面に埋もれた変光星および新星・矮新星
などを探査して、銀河系の構造を調べる。
• 銀河面に沿って銀経60~210度を観測
KISOGPの探査領域
2度ごとのグリッド状に
KWFC75視野
3年間に約40回観測
α~21.2h
δ~+24deg
10kpc
4kpc
α~23.9h
δ~+48deg
背景はGLIMPSEに
よる銀河系の想像図
黄色の点が既知の
セファイドの分布
α~0.4h
δ~+63deg
α~4.1h
δ~+52deg
α~5.8h
δ~+29deg
α~6.8h
δ~+03deg
観測領域が銀河面をカバーする様子
銀経80度付近
30度×30度
チャート:前原さん(京大)作成
観測計画
• フィルター: Iバンド
• I =17 magの星をS/N~30で測光。
• 各領域各観測:10秒積分×1枚+60秒積分×3枚
• チップ間の隙間を埋める。
• なるべく冗長性を持たせて、1エポックにつき3回の計測。
• 60秒以上の積分は、銀河面の明るい星の飽和がひどい。
– 読出時間等のoverheadを入れて各視野 約15分
• 一晩10時間の観測で 40視野 (160平方度)。
• 3年間の観測で各視野 40回 の反復観測。
限界等級と変光星の等級
I バンド 17 等(@S/N=30) ⇔ 19等(@S/N=5)
KWFCでは1バンドにして発見に専念する。
変光星
の種類
絶対
等級
ミラ
I ~-4mag
セファイド
I ~-3.5mag
(周期5日)
RRライリ
I ~0mag
絶対等級
1kpc
5kpc
A(I)=1mag A(I)=2mag
20kpc
A(I)=3mag
7
11.5
15.5
7
12
16
11
15.5
19.5
KISOGPの現状
• 2012年4月から観測を開始
– 4~6月は銀河面が沈んでしまう時期
– 限界等級は予定通り。
– データの収集量はいまいち。効率を上げて行きたい。
– 8月下旬から本格的に観測開始。
• 少し解析すると、変光星はどんどん見つかりそう。
銀経120度あたり
(前原さん作成)
初期成果(1)
• KISOGP初の変光星候補天体を発見
– 銀経160度の方向
– これまでに変光星としての報告はない
– J=13.6、H=13.0、Ks=12.7 (2MASS)
– B=17.1、V=16.2、R=15.7 (USNO)
4日後
基準画像
初期成果(2)
• まだ、観測回数、解析を行える領域数も少ないが、
いくつかの領域を見たところ、それぞれに数個から
十数個の変光天体が出てくる。
target
reference
subtracted
rad. prof.
2012/04/08
2012/06/07
銀経+80度の方向
YSOの変光天体候補
Cyg OB2領域
V=14.47、R=14.38、J=12.77、H=12.01、Ks=11.82
X線での検出あり(ROSAT, XMM-Newton)
様々な研究へのデータ利用
• 変光星 →松永、坂本さん
• 新星・矮新星 →前原さん、今田さん
• 他にも
– 小惑星
– マイクロレンズ現象 →福井さん
– WR星・LBVなど大質量星 →田中さん、高橋さん
– 超新星:減光が小さめの領域なら十分可能。
星形成領域、若い星との関連
Uyanıker et al. 2001,
A&A, 371, 675
どれくらいのセファイドが見つかる?
• Metzger & Schechter (1998)
– 銀河面に沿って、銀経50~70°の領域(約6平方度)を
10日間に5~8回観測。
– 11 < I < 18mag (KPNO 0.9m望遠鏡)
– 578個の変光星候補(検出天体は約100万個)。10個が
セファイドと確認できた。
1平方度あたり2個 かそれ以
上のセファイドが期待できる。
※領域による変化有り
100~300個のセファイドを発見
できるだろう。
ミラはもっとたくさん。
RRライリはさらにたくさん。
プロジェクトの目標とタイムスケール
• 3年間の観測を行う。
– 銀河面にある脈動変光星
• VISTA/VVVサーベイなどが結果を出す2015年頃に目標を置く。
– 突発天体(新星・矮新星)
• 2012年度のシーズンで発見のシステムを確立させる
• 追観測できるコミュニティと連携(突発天体の観測者、大学間
連携ネットワーク)
– その他にも多様な天体(YSO、小惑星、トランジット)
• ひとつのサーベイのデータから、いろいろな人が
いろいろなテーマで論文を書く。
– 大量なデータの有効利用、なるべく早期の公開
まとめ
• KISOGP = KWFC Intensive Survey Of the Galactic Plane
• 銀河面の脈動変光星や新星・矮新星を探して、
銀河系の構造や運動を調べる。
• 観測領域: 銀河面300平方度(75視野)
• フィルター: I バンド
• 検出限界: I = 17 mag(@S/N=30)
– ~20kpcくらいのouter diskのセファイドが見られる。
– 有効的な新星・矮新星の探査が無かった範囲
• 観測頻度と観測回数:
– 平均して10日に一度、天気が良い時には連夜
– 3年間で40回の反復