医療従事者向け認知症対応力向上研修 2014年12月17日水曜日 対応困難な 認知症をもつ人への看護 急性期病院での事例から考える 社会医療法人きつこう会 認知症看護認定看護師 仲由紀子 必要なこと 認知症に対する正しい知識はもちろん、 そのうえで・・・ • 病院、治療などの環境の変化が与える影響 が大きい。 • 自覚している症状をうまく伝えることが困難な 状況にある。 • 苦痛や不安はBPSD、せん妄として現れる。 入院中の認知症看護のポイント 急性期 • 治療が安全に受けられる環境調整 • 異常の早期発見と二次障害の予防 • BPSD、せん妄の予防と緩和 回復期(上記に加え) • その人のもっている力にアプローチ、ADLを支 援 • 退院調整 事例 Aさん 70歳台後半の女性 長女と入院中の夫との3人暮らし 入院までの経過:3年くらい前に物忘れが目立ちたびたび 家に帰れなくなることがあり、近隣の内科を受診。アルツ ハイマー型認知症の診断を受けた。 その後、週3回デイサービスを利用し、在宅にて療養生 活を送っていた。 3日前から、発熱・食欲不振、尿量減少が出現し、意識が もうろうとなってきたため救急外来を受診し、入院となった。 診断名:肺炎 既往歴:喘息、腰椎圧迫骨折、アルツハイマー型認知症 入院後の経過 入院直後より、輸液療法に加え抗生物質の投与 および酸素療法が開始された。膀胱留置カテーテル 挿入し、水分出納管理も行われた。 入院2日目、「家に帰る」と言って急にベッドから降りよ うとしたり、点滴を引っ張ったりしていた。 その日の夜間、酸素マスクをはずし、点滴を自己抜針 したり、膀胱留置カテーテルをはさみで切ろうとした り、ベッドに立ち上がっていることあった。説明しても すぐに忘れてしまい、危険を伴うことが多かった。 入院後の経過 入院3日目SPO2モニターのアラームが鳴り、部屋 に行くと酸素マスクを外し、頭の上にのせている。 「大事なものだから外さないでくださいね。外すと 息をするのにしんどくなってしまうんですよ」と説明 すると「そうなの。分かった。」と素直に応じてもら えるが、看護師が病室を2,3歩出たころにはすぐ に忘れているようで同じことを繰り返していた。 Aさんの顔色は悪く、SPO2が80%前半に下がっ ていたことが何度もあった。 入院後の経過 スタッフは、何度も本人が理解できるように言 い方を変えて説明するが、一瞬は「なるほど。 はいはい!」と言うが、治療に対して理解でき ない状態が続いていた。夜中には、大きな声で 叫びだす状況であった。 1、せん妄やBPSDの原因となる因子を 明らかにする • せん妄は症候群(多要因性)である。症候群 であるせん妄の成立機序は多要因性であり 3層に分けて考えると考えやすい。 Aさんのせん妄の原因となる準備因子は? 誘発因子は? 直接因子は? 対応力-40 せん妄の発症 準備因子 70歳以上、脳器質疾患、認知症 誘発因子 ● ● ● ● 過少・過剰な感覚刺激 睡眠障害 強制的安静臥床 身体拘束 直接原因 薬物、代謝性障害、敗血症、呼吸障害 せん妄 (平成25年度厚生労働科学研究費補助金 「急性期病院における認知症患者の入院・外来実態把握と医療者の 負担軽減を目指した支援プログラムの開発に関する研究」班より) Aさんのせん妄の原因となる要因で 着目したい視点 • 準備因子(脳自体の問題、認知症の既往など) 3年前にアルツハイマー型認知症の診断 • 誘発因子(それ自体直接せん妄を生じることは ないが、重症・遷延化を招く要因) 入院までは在宅で療養生活を送っていた • 直接因子(せん妄発症の主因となるもの) 既往歴に呼吸器疾患、診断名は肺炎 資料)せん妄をきたす認知症 血管性認知症 せん妄発 もっとも多い 現の比較 特徴 活動過剰型の 夜間せん妄が 多い 活動休止リズ ムや深部体温 リズムの障害 が関連する可 能性 アルツハイマー型 認知症 VaDに比較すると少 ないが、発症時期で の比較した場合、早 発性<晩発性 せん妄の発現には 促進因子が強く影響 ドネペジルがせん妄 の遷延化に関与して いたと考えられる報 告あり レビー小体型 認知症 せん妄が起こ りやすい 夜間せん妄と してみられやす いまた、治療薬 によるせん妄も みられやすい よくある間違い 老化による機能低下+せん妄による認知障害 中等度の認知症患者 軽度の認知症患者+せん妄による認知機能の悪化 重度の認知症患者 資料)BPSDが出現する頻度 • 認知症のうちBPSDが出現する頻度は 7~9割 認知症が悪化する原因 ①薬剤 37.7% ②身体合併症 23.0% ③家族・介護環境 10.7% Aさんの認知症が悪化する原因 • 看護・介護環境 認知症を持つ人には、ケアを行う際なじみの関係がよい とされるが、急性期病院の入院期間と看護体制より、受 け持ち看護師が日々変化する現状がある。 • 急性期病院の療養環境 高齢者に対応した物理的環境ではない。認知症をもつ患 者にとっては、普段の生活の場と大幅に変化し、それに対 する適応能力が低下しているため非常に混乱を招きやすい。 ①見慣れない巨大で複雑な空間②使い慣れないトイレや浴 室③慣れない物やその操作④いつもと違うスケジュール 人も環境 事例から「スタッフは、何度も本人が理解できる ように言い方を変えて説明するが」・・・ 言い方を変える⇒Aさんの言語理解レベルを見極めて コミュニケーションを図る○ 様々な言い方によって混乱を 招く可能性がある× 2、看護実践 優先すべき介入と 考えたこと 1、安全に治療が受けられる環境を整える • 環境調整 (物理的、人的) ベッド周囲の環境整備、関わりの統一 2、異常の早期発見と二次障害の予防 部屋の位置、リアリティオリエンテーション(R O) 3、BPSD,せん妄の緩和 • 苦痛や不快の軽減(チューブ類による拘束の最 小化、早期抜去を計画、ルートの固定工夫) • 腰痛の緩和(ふだん内服していた鎮痛剤の再 3、患者の反応に対しての 分析(結果と評価) ・スタッフの関わり方を統一したことで、伝わりやす くなり酸素マスクを外す行為が減り呼吸状態が 改善した。ルート類の抜去に対する工夫などで 肺炎の治療遂行や脱水改善ができた。 ・ベッド周囲をシンプルにし、Aさんの目線にあった 環境を提供したことで、事故を防ぐことができた。 ・腰痛による痛みを除去したことで夜間に叫ぶ行為 がなくなった。また、ROなどで生活リズムを見直 したことが、睡眠・覚醒パターンの改善にもつな がった。 認知症と並んでせん妄への対応も必要となる 認知症への対応についても、認知症の症状そ のものへの対応に加え、身体症状の評価・対 応が重要となる スタッフ間での情報共有(いい関わりの伝達) が鍵となる
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