J-PARCにおける ストレンジネス核物理 谷田 聖(京都大学) 2008年6月25日 セミナー@筑波大学 ストレンジネスを持つ原子核 • 原子核: 核子(陽子と中性子)の多体系 – クォークのレベルで見ると、アップ(u)とダウン(d) → p(uud), n(udd) – クォークは実は6種類ある u d c s t b • ストレンジネスを持った粒子 =ハイペロン L=(uds), S+(uus), X0=(uss),... (注:s クォークはストレンジネス -1を持つ) • より広い原子核の世界へ 記法 A L Z • A: バリオン数(核子とハイペロン全部) • Z: 全電荷(陽子数ではない!) • L: ハイペロン(L, S, Xなど) • 例: 1. 3p + 3n + 1L 7LLi 2. 2p + 2n + 2L 6LLHe 3. 1p + 2n + 1X0 4 H (区別できない) X 2p + 1n + 1X• 普通ハイパー核と呼ばれる ハイパー核Chart まだまだ未踏の世界 どんな物理? • 新しい相互作用が現れる – 核力の拡張 [SU(3)対称性] – 核力も含めて、バリオン間に働く力を統一的に理解し、その起 源に迫りたい – 伝統的な中間子交換模型で十分か?クォーク・グルーオンの 自由度が現れるのでは? • ハイペロンの原子核中での性質は? – ハイペロンは混ざりやすい → よりダイナミックなシステムへ • 逆に原子核はどうなる?不純物効果? – Lが入った原子核が縮む効果は実験的に検証されている – 集団運動に変化?より高密度化? J-PARCとは? • J-PARC = Japan Proton Accelerator Research Complex • 50 GeVの陽子加速器を中心とした大強度加速器群 – 50 GeV×15 mA = 750 kW – KEK-PSの100倍、BNL-AGSの10倍の強度のビームを供給 – 世界で最も強力なK中間子のビームが得られる → 他の施設の追随を許さない研究が可能 • 現在茨城県東海村において建設中 – 2008年末には最初の50 GeV陽子ビームが出てくる予定 – 2009年からストレンジネス核物理の実験を行う予定 Tokai Site of JAEA Feb. 2008 Feb. 2008 June, 2007 June, 2007 J-PARCでのプロジェクト一覧 • 物性・生命(中性子・μ) • 核変換 • 原子核物理 – – – – – ストレンジネス核物理 ハドロン分光 新しいハドロンの探索 陽子構造 高密度原子核物質 不安定核 • 素粒子物理 – ニュートリノ振動 – K中間子崩壊 – μ稀崩壊 • 24の実験提案のうち、9つがストレンジネス核物理 – すべてScientific approval, 7つがフル採択、4つはDay-1 – その他にPentaquark Θ+探索実験(E19)がDay-1 S=-2の世界 • 初めてhyperon-hyperon 相互作用が現れる – ここがわからないとmulti strangeness系に行けない。 • 非常にdynamicな システムなのでは? – Large baryon mixing? 質量差に反比例 – XN-LL-SSが混ざった状態 としてのHダイバリオン? • ほとんどわかっていない J-PARCでの中心課題 B8B8 systems classified in the SU3 states with (l, m) S B8B8(I) 0 ‐1 ‐2 ‐3 ‐4 1E, 3O (P=symmetric) ― (22) NN(0) NN(1) LN SN(1/2) SN(3/2) LL XN(0) XN(1) SL SS(0) SS(1) SS(2) XL XS(1/2) XS(3/2) XX(0) XX(1) 3E, 1O (P=unsymmetric) 1 10 1 10 [(11)s+3(22)] [3(11)s‐(22)] (22) (11)s+ 2 930(22)+ 2 1 2 (00) 3 (11)s‐ 10 (22)+ 12 (00) 3 (11)s+ 52 (22) 5 2 3 ー 5(11)s+ 5 (22) 1 3 3 (11) - (22)- (00) s 2 10 8 5 ― (22) 1 5 1 5 1 10 1 10 [(11)s+3(22)] [3(11)s‐(22)] (22) ― (22) (03) ― 1 2 1 2 [‐(11)a+(03)] [(11)a+(03)] (30) ― (11)a 1 [‐(11)a+(30)+(03)] 3 1 [(30)‐(03)] 2 ― 1 [2(11)a+(30)+(03)] 6 ― 1 2 1 2 [‐(11)a+(30)] [(11)a+(30)] (03) (30) ― H-particle ( H-dibaryon ) flavor-singlet (00) state ( ストレンジネス-2, アイソスピン 0 すなわち ΛΛ-ΞN-ΣΣ系の 1S0-state ) におけるカラー磁気相互作用の振る舞い u u s s 短距離斥力は現れず、 代わりにかなり強い短 距離引力になる! d d u s s d d u コンパクトな6クォーク系の 新粒子が存在するのでは? ↓ 30年来,世界中の実験家が探索実験に奔走! → ・・・未だ発見されず。 ΛΛ系のすぐ上にある共鳴状態? ⇒ 依然としてストレンジネス-2の系における課題 採択された実験 E03: Measurement of X rays from X- atom Spokesperson – K. Tanida (Kyoto) E05: Spectroscopic study of X-hypernucleus, 12XE03 Be, E05 via the 12C(K-,K+) reaction (Day 1 – 1st priority) E07 Spokesperson – T. Nagae (Kyoto) E07: Systematic study of double strangeness system with an emulsion-counter hybrid method Spokespersons – K. Imai (Kyoto) K. Nakazawa (Gifu) H. Tamura (Tohoku) S=-2では3つの実験が採択された E05 X核分光 Missing mass spectroscopy of 12C(K-,K+)X 12XBe, 12LLBe 1.8 GeV/c K- ビーム 大強度 1.2x106 K- /spill (Phase-1) Proton beam 30GeV-9mA 高純度 K-/p- ~6.9 X 系の重要性 • XN (有効)相互作用 – 例: XN LL はどれだけ強いか? • H dibaryonの存在と関連 • LL-hypernucleiにおいて、どれだけXNは混ざるか? – One meson exchange 模型では交換相互作用が禁止 • 質量依存性はどうか? • 中性子星への影響 – X- は負の電荷を持つので、中性子星では早く現れるかも • XA 相互作用、特にその質量依存性が大事 – S- が重要であると考えられてきたが、核内で強い斥力を受け ることがわかってきた。 XN相互作用モデルと XA光学ポテンシャル • One boson exchange (NHC-D, Ehime) – odd state に引力 強いA依存性 • ESC04d* – 3S1(T=0)に強い引力 SksPlus Spectrometer PK+ ~1.3 GeV/c 40 ~30msr [msr] 30 20 10 2.7T(395A) 0 1.0 ~1.5T 1.2 p [GeV/c] 1.4 1.6 1.4 1.6 2.5 Dp/p=0.12% • • • 95°total bend ~7m flight path Dx=0.3 mm (RMS) 高分解能: DE~ 3 MeV dp [MeV/c] 2.0 1.5 1.0 0.5 1.0 1.2 p [GeV/c] 12C(K-,K+)12 XBe spectra calculated by W.S. potential VX0 [MeV] DEdet=0 MeV states -24 -20 -16 -12 s-state [nb/sr] 0p3/2g 0s1/2 p-states 0p3/2g0p3/2 0p3/2g0p1/2 sum P.Khaustov, et al. Phys. Rev. C61(2000)054603 1- 215 168 123 81 [nb/sr] 0+ 2+ 2+ 29 164 152 345 20 103 93 216 - - K.Ikeda, et al, Prog. Theor. Phys. 91 (1994) 747 ; Y.Yamamoto, et al, Prog. Theor. Phys. Suppl. 117 (1994) 281 Expected [counts/0.5MeV] pX 12 XBe Spectrum VX= -20MeV DE = 3 MeVFWHM ビームタイム 1ヶ月 sX 光学ポテンシャル の決定 VX= -14MeV -BX [MeV] E03 X原子のX線測定 • X-atom のX線を測る世界初の実験 – X-A の Optical Potential の直接測定 • Fe(K-,K+) 反応による X- 生成 → 静止 X- → X線測定 Fe target K- K+ XX ray • 方法の確立を目指す – 数多くのX線測定で、 XA相互作用の解明へ – ダブルL核のg線分光にもつなげていきたい 実験の原理 • 原子 – 波動関数を精確に計算可能 • 1次摂動 DE | X (r ) |2 U X (r )dr – Optical Potential の形を仮定 すれば、1つの測定でその強さ は決定可能。 – 数多くのデータがあれば、形も 決定できる。 – 1次摂動が良い近似でない場合 でもこれは成り立つ • 直接測定できる(ただし主に周辺部にのみ敏感) X 原子核のSpectroscopy • p-, K-,`p, S- に対して実績ある、強力な手法 Energy (arbitrary scale) ... l=n-3 l=n-1 (circular state) l=n-2 ... Z nuclear absorption ... ... X Z l (orbital angular momentum) X ray energy shift – real part Width, yield – imaginary part X ターゲットの選択 • Physics view: Batty et al. PRC59(1999)295 – あるX線に対して、最適なターゲットが存在する • 始状態での吸収は十分弱い • X線のエネルギーシフトと幅が最大 (~1 keV) – n=3,4,7,9のそれぞれに対して、9F, 17Cl, 53I, 82Pbを提案 n:43 54 65 76 87 98 109 F(Z=9) Cl(17) Co(27)? ? Y(39)? ? I(53) Ho(67)? ? Pb(82) 131 (keV) 223 314? ? 394? ? 475 518? ? 558 • 最適なターゲット: Optical Potentialによって決まる 最初の実験の前にはわからない 最初の実験では・・・ • 実験的な理由で決める 鉄を選択 – 生成率: A-0.62 (断面積がA0.38でスケール) – Xの静止確率: 高密度(r~10 g/cm3)のターゲットが必要 (X- range: 10-20 g/cm2, bgct ~ 2cm) – ターゲットによるX線の吸収: significant at large Z 小さなZ(A)、でも高密度が必要 • 小池さんによる計算: 鉄の n=6 5 遷移 – Woods-Saxon potential: -24 - 3i MeV – Energy shift: 4.4 keV, width: 3.9 keV – 静止 X- あたりの収量: 0.1 (核による吸収がなければ~0.4) 実験のセットアップ K1.8 beamline of J-PARC + (K ,K )反応の測定 K- K+ 1.8 GeV/c 1.4x106/spill (4s) • KEK-PS K2ビームラインで使われてきたもの • Large acceptance (~0.2 sr) X線測定: Hyperball-J • ゲルマニウム検出器~40台 • PWO anti-Compton • ピーク効率 – 16% at 284 keV • 高レート耐性 – < 50% deadtime • キャリブレーション – In-beam, frequent – 精度 ~ 0.05 keV • エネルギー分解能 – ~2 keV (FWHM) 予想X線スペクトル(1) n= 65 shift & width 4 keV エネルギーシフト: ~0.05 keV (systematic dominant) 予想されるシフトに 対して十分 予想X線スペクトル(2) n= 65 shift & width 0 keV 幅: ~ 1 keVくらいまで は直接測れる。 X線の収量から、さら に情報 E07 Hybrid Emulsion実験 ~10000個のX-を原子核乾板中に静止 100個のLL核の検出 LL相互作用 LL核の生成 Xp LL が運良く 核内に残る(~10%) エマルジョン中のイベントの例 • 各軌跡の長さ・太さ – 粒子の種類・エネルギー • 各バーテックスで何ができ たかを推定 • ハイパー核の束縛エネルギ ーを出す。 DBLL = BLL - 2BL がLL相互作用による分 → 弱い引力? LL束縛エネルギーのsystematics • DBLLは原子核によって違うかも知れない – 例えば Hyperon mixing によって変わり得る 5 LLHe 6 LLHe p n L p n L p n X p n X Suppress される Enhance される S=-1の実験 • E10: Production of neutron-rich Lambda-hypernuclei with the double charge exchange reaction Spokespersons – A. Sakaguchi (Osaka), T. Fukuda (Osaka E. -C.) • E13: Gamma-ray spectroscopy of light hypernuclei Spokesperson – H. Tamura (Tohoku) • E15: A search for deeply-bound kaonic nuclear states by inflight 3He(K-,n) reaction Spokespersons – M. Iwasaki (RIKEN), T. Nagae (Kyoto) • E17: Precision spectroscopy of kaonic 3He 3d2p X-rays Spokesperson – R. S. Hayano (Tokyo), H. Outa (RIKEN) • E18: Coincidence measurement of the weak decay of 12LC and the three-body weak interaction process Spokespersons: H. C. Bhang (Seoul), H. Outa (RIKEN), H. Park (KRISS) • E22: Exclusive study on the LN weak interaction in A=4 L-Hypernuclei Spokespersons: S. Ajimura (Osaka), A. Sakaguchi (Osaka) S=+1の実験 • Pentaquark Θ+は S=+1を持つ – もし本当に存在するならば、S=+1での核物理ができる可能性 ? S=+1 Θハイパー核 • ハイペロンの相互作用をさらに拡大して、ΘN相互作用 を。 • Θとは何か、に対するヒントにもなる。 – 例えば、[D. Cabrera et al., nucl-th/0407007]によると、 Θ-KNのみを考慮したSelf-energy計算(早い話がK交換) では、弱すぎて束縛しない。 – Θ-KπNを考慮すると、強い引力(~100 MeV)が得られる。 (N(1710)がNππに強くcoupleすることを考慮) – 他にもいろいろなシナリオがあり得る。 • まあ、あるなら作ってみたい。 (K+,p)反応 • 素過程: d(K+,p)Θ • 運動量移行: 前方ではほぼ0にできる。 • 高分解能測定が可能 d(K+,p)Θ反応 • on-shell 近似 – ポストプレイによって、遅いKを供給。それが残りの核子と共鳴 を作るという2段階反応。 • 初段は pK+ pK+, nK+ pK0 の2種類 K n Θ p – 断面積 ∝ (quasi-free 反応の断面積) ×(フェルミ運動によって共鳴条件が満たされる確率) • 一方で、0.1-0.5 mbという見積もりもある[nucl-th/0705.3965] – K+ の原子核ターゲットによる吸収のデータをextrapolate – Θが KpN とカップルすることによって生じるΘNKNNという効 果によるものと考えることができる。 – 原子核ターゲットでは、より顕著な効果 on-shell 近似での計算例 ds/dW×2π(mb/sr) 永廣さんによる Γ=1 MeVだと、 ~1 mb/sr(重心系) cosθ(CM系) 実験セットアップ • 前方スペクトロメータ+横方向カウンター – 横方向の粒子に対しては、運動量分解能は不要、 – ただし、低エネルギー陽子を捕まえる工夫が必要。 to SKS+ 原子核ターゲットでは? • 核子による散乱、別の核子による吸収の両方とも増加 • s-shell核(4He)ならrecoillessで効率よく生成可能 dターゲットの場合と同じくらいの統計が得られる? • Fermi運動が大きくなるので注意が必要。 • 重い核は難しいかも。 – バックグラウンド増加 – 崩壊後のp/K0が抜けて来なくなる。 – ただし、ΘNKNNが効くような場合は断面積が増加。 • ハイパー核の状態幅は? – パウリ効果、phase spaceの減少によってfree-spaceよりも 細くなるはず。 – 逆に太くなったりすると面白い(ΘNKNNの効果?) まとめ • 現在建設中のJ-PARCにおいて、ストレンジネス核物理 はメインの研究テーマ – 9つの実験が提案・採択済み – 5つのDay-1実験 – さらに多くのアイデアが考えられている • 世界最強のKビームを活かして、S=-2から+1まで幅 広い実験が考えられている。 • 実験は2008年度末ごろから開始予定 • 今後もJ-PARCにおける発展が期待できる
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