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経済社会のモデルフレームワークと
シミュレーションプラットフォームの構築
Boxed Economy Project のアプローチ
井庭 崇
[email protected]
千葉商科大学政策情報学部 専任教員(助手)
フジタ未来経営研究所 リサーチフェロー
慶應義塾大学政策・メディア研究科
http://www.boxed-economy.org/
Agenda
1
出発点
2
動的で複雑なモデルを作成するための方法と戦略
3
シミュレーションの作成と共有のための仕組み
4
Boxed Economy Project の取り組み
「経済社会のモデルフレームワークと
シミュレーションプラットフォームの構築」
The Gap
相互作用
による社会
モデリングと分析の
新しい方法
社会科学
意思決定・
学習
エージェントベース
による社会・経済の
モデリングと
シミュレーション
具体的な
応用分野
マルチ
エージェント
システム
コンピュータ
サイエンス
コンピュータ
シミュレーション
エージェントベースによる社会・経済のモデリングとシミュレー
ションは、二つの側面をもっている。
これら二つの分野からのアプローチの融合が求められるが、
現状としては十分とはいえない。
The Gap
相互作用
による社会
モデリングと分析の
新しい方法
社会科学
意思決定・
学習
エージェントベース
による社会・経済の
モデリングと
シミュレーション
具体的な
応用分野
マルチ
エージェント
システム
コンピュータ
サイエンス
コンピュータ
シミュレーション
エージェントベースアプローチによって社会・経済を記
述するための基本語句 (primitive terms)とフレームワーク
の整備が必要。
The Gap
相互作用
による社会
モデリングと分析の
新しい方法
具体的な
応用分野
社会科学
意思決定・
学習
エージェントベース
による社会・経済の
モデリングと
シミュレーション
動的で複雑なモデルとシミュレーションを、効率的に
設計・実装・保守できる仕組みが必要。
マルチ
エージェント
システム
コンピュータ
サイエンス
コンピュータ
シミュレーション
The Gap → Our Solution
相互作用
による社会
モデリングと分析の
新しい方法
具体的な
応用分野
社会科学
意思決定・
学習
エージェントベース
による社会・経済の
モデリングと
シミュレーション
モデルフレームワーク
マルチ
エージェント
システム
コンピュータ
サイエンス
コンピュータ
シミュレーション
シミュレーションプラットフォーム
Agenda
1
出発点
2
動的で複雑なモデルを作成するための方法と戦略
3
シミュレーションの作成と共有のための仕組み
4
Boxed Economy Project の取り組み
「経済社会のモデルフレームワークと
シミュレーションプラットフォームの構築」
社会科学=社会諸科学の歩み
[高島 64] [Wallerstein 91, 96]
社会科学は、ヨーロッパの社会構造が老朽化した18世
紀になってから成立
15, 16世 紀:ルネサンスと宗教革命による近代の誕生→ 「個人の発見」
18世紀末: フランス革命と産業革命の元での社会科学の誕生
19世紀:知識の学問分野への細分化と専門職業化
哲学部において新講座がたくさん設けられ学科の原形となる
19世紀末までに、いくつかが「学問分野」として定着
20世紀:専門深化と、反動としてのインターディシプリ
ナリ, トランスディシプリナリ
「個別学問分野を超越した超学際的 (transdisciplinary) 研究」[Myrdal 75]
21世紀:・・・?
インターディシプリナリとトランスディシプリナリ
Trans-disciplinary
(超学的, 超領域的)
discipline
経
済
学
社
会
学
economics sociology
Inter-disciplinary
(学際的)
政
治
学
politics
社会諸科学は現実の一側面を抽出して理論化する
前提が異なるためにそのままでは融合できない
現実的構成の社会モデルに照射し、
そのレベルでの融合なら可能性はある。
トランスディシプリナリな社会科学の基礎論
「社会科学の全貌を見渡すことを可能にするような基礎論が
どうしても必要になってくる」 [西部 89]
「基礎論のもつべき最も基本的な性格は、各個別科学の根
底にある人間観・社会観をそれぞれ統一的な視野の下に相
対化するということ」 [西部 89]
↓
ホモ・ロクエンス(言語人)
「ホモ・ロクエンスという包括的な基礎をまずおいて、そのうえ
でこれまでの個別学問が採用してきた様々な人間観・社会
観を相対化するという論理の仕組みである」[西部 89]
エージェントベースモデル
=社会が人や組織の相互作用によって成り立っている
何を表現したいのか? → どう記述するのか?
モデルは、体系化された何らかの言語を用いて記述される。
モデルで表現したいものの特徴によって、適切な記述方法
は変わってくる。
モデルの記述や蓄積を考えると、そのドメインに合った語彙
や体系を整備する必要がある。
何を表現したいのか?
社会における制度・組織・知識・技術の生成
と進化を内生的に表現したい。
経済学のコンテクストでは「複雑系経済学」
や「進化経済学」といわれるカテゴリー。
①
=
②
そのようなモデルのためには、以下の4点が
組み込まれることが重要。
① 社会が、異質性と多様性のある主体から構成
されているということ。
② 主体が原子論的な意味でのアトムではなく、
内部状態をもっているということ。
③ 情報や知識が生成され、伝達され、解釈され
るということ。
④ 主体間の関係やその意味が動的に変化する
ということ。
③
④
内部状態
どう記述するか?
前述の①~④を実現するためには、適用する記述方法が
次の3つの要件を満たす必要がある。
モデルの構成要素それぞれが多様に状態を保持できること。
構成要素間の関係といった「構造的な側面」と、時間とともに変化す
るという「振舞い的な側面」をともに扱えること。
モデルの中で知識や情報を扱うための記号処理ができること。
+
モデル化の容易さや可読性の観点から、人間の経験的感覚との対
応が取りやすいということ。
モデルの操作が容易であり効率的であること。
ここでは、計算的モデル、その中でも特にオブジェクト指向パラダイムに注目。
どう記述するか?→ オブジェクト指向
オブジェクト指向では、世界を構成するもの(thing)のひとつ
ひとつを「オブジェクト」という基本単位で捉え、その状態変
化や関係変化によって現象を表現する。
それぞれ振舞い(機能)をもち自分の状態を保持しているオ
ブジェクトがたくさん存在し、それらが相互作用しているとい
う点が、オブジェクト指向のポイント。
複雑性に対処するメカニズムによって、効率的記述も可能
「クラス」による体系化や一括記述
汎化や集約といったクラス間関係の記述
オブジェクト指向の記法は、近年、UML(Unified Modeling
Language: 統一モデリング言語)として標準化されている。
プログラミング言語に置き換えて、コンピュータ・シミュレー
ションを行うことができる。
フレームワークの戦略的導入
現実世界を分析・体系化する際に、毎回白紙の状態から
行うのは大変な作業となる。
このような問題への戦略的なアプローチとしては、
科学的研究では、概念や用語、理論などを定義し、共有する。
ソフトウェア工学では、ドメインに特化したフレームワークを定義し、
共有するということが行われている。
「モデルフレームワーク」
モデルフレームワークの役割
現実世界の認識のための準拠枠
モデルを記述するための語彙
モデル作成者間のコミュニケーションのためのコード
モデルフレームワークの役割(ソフトウェアの側面)
モデルフレームワークに基づいたアーキテクチャのソフトウェ
アを作成することもできる。
私たちの提案するモデルフレームワーク:
Boxed Economy基礎モデル
現実の経済社会のもつ構造をオブジェクト指向分析によって抽
象化し作成したモデルフレームワーク
エージェントベースによる社会・経済のモデルのための基本デ
ザインを提供する
Boxed Economy 基礎モデルの中
心的なクラス図
Boxed Economy基礎モデルにおけるBehavior
外界のイベント(オブジェクトに影響を及ぼすさまざまな出来事)が発
生すると、現在の自分の状態に応じてエージェントの振舞いが決まる。
基礎モデルではエージェントの持つBehaviorを状態機械(state
machine)として定義している。
状態機械とは、何らかのトリガーとなるイベントを受け取って状態を遷
移させながら動くシステムである。
例: SendRequestBehaviorのステートチャート図
状態
遷移
イベント
(トリガー)
アクション
Agenda
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出発点
2
動的で複雑なモデルを作成するための方法と戦略
3
シミュレーションの作成と共有のための仕組み
4
Boxed Economy Project の取り組み
「経済社会のモデルフレームワークと
シミュレーションプラットフォームの構築」
シミュレーションによるモデル操作の課題
シミュレーションによる研究方法には特有の問題が存在する。
コンピュータ・シミュレーションが一種のコンピュータ・プログラ
ムであるため、モデルだけでなくプログラムについても注意を
払う必要があるということである。
シミュレーションによるモデル操作の前提
シミュレーションをコンピューター上で行うためには社会モデ
ルをプログラムに変換しなければならない。
社会モデル
プログラミ
ングによっ
て変換
コンピューター上のモデル
(プログラム)
シミュレーションの作成における「ソフトウェア危機」!?
動的で複雑なモデルを、いかに迅速に低コストで作れるか?
参考: 先行研究におけるエージェントと行動の種類
井庭崇, 「エージェントベース経済シミュレーションのためのエージェント設計論」, 『オペレー
ションズ・リサーチ:経営の科学』, 日本オペレーションズ・リサーチ学会, 10月号, 2001年10月
井庭崇, 「エージェントベース経済シミュレーションのためのエージェント設計論」, 『オペレー
ションズ・リサーチ:経営の科学』, 日本オペレーションズ・リサーチ学会, 10月号, 2001年10月
社会科学におけるシミュレーション利用促進の鍵
プログラミングの支援
プログラム部品の再利用のための仕組み
研究プロセスを一貫して支援する統合環境
私たちの提案するシミュレーション環境:
Boxed Economy Simulation Platform (BESP)
エージェントベース経済社会モデルのシミュレーション
を、作成・実行・分析するためのプラットフォーム
プログラミングを軽減する仕組みの提供
プログラム部品を再利用するための仕組みの提供
研究プロセスを支援する統合環境の提供
Boxed Economy Simulation Platformの基本構造
Boxed Economy
基礎モデル
BESPでは、コンポーネントとフレームワークの考え方に基づく設計
がなされている。シミュレーションのモデルや実行環境をコンポーネ
ントとして分割して定義するため、それらを組み替えることによって
ユーザー独自のシミュレーションを柔軟かつ容易に構築できる。
Model Components
Model Container
Presentation Components
Presentation Container
BESP
Operating
System (BOS)
Boxed Box
Economy
Simulation
Platform
Java VM
プログラミングを軽減する仕組み①
package SampleMarket;
BESP モデルコンポーネントビルダー
import
import
import
import
org.boxed_economy.foundationmodel.*;
org.boxed_economy.foundationmodel.behavior.*;
org.boxed_economy.besp.foundationmodelframework.*;
org.boxed_economy.besp.foundationmodelframework.behavior.*;
/**
* OrderBehavior
*/
public class OrderBehaviorB extends AbstractBehavior {
// decide order
Action action_id_13 = new anon();
public Action getAction_id_13(){
return action_id_13;
}
この部分はモデルコンポー
ネントビルダーが生成する。
public void start() {
// Setting the state machine
BehaviorState state_id_6 = new DefaultBehaviorState(this, "");
currectState = state_id_6; // This sets pseudo-initial state
BehaviorState state_id_8 = new DefaultBehaviorState(this, "waiting market opening");
BehaviorState state_id_11 = new DefaultBehaviorState(this, "order determined");
Transition trans_id_7 = new Transition();
((DefaultBehaviorState)state_id_6).addTransition( trans_id_7);
trans_id_7.setTransitionTo(state_id_8);
Transition trans_id_9 = new Transition();
モデルコンポーネントビルダーは、シミュレー
ションにおけるエージェントの行動を記述し実装
するための支援ツールである。ユーザがGUIに
よってこの行動モデルコンポーネントの「ステー
トチャート図」を記述することで、モデルコンポー
ネントのJavaコードが出力される。これにより、
シミュレーションの作成者が書かなければなら
ないソースコードの量を減らすことができる。
// receivedEvent
trans_id_9.setAcceptEvent(AutoTransitionEvent.class);
Transition trans_id_10 = new Transition();
}
public void exit() {
}
class anon extends Action{
/**
* decide order
*/
public void doAction(Event event){
// Write the code for custom action here.
}
}
この部分に必要なカスタム
のプログラムを書く。
プログラミングを軽減する仕組み②
BESP モデルコンポーザー
モデルコンポーザーは、GUIを用いてモ
デルコンポーネントを組み合わせること
によってシミュレートしたいモデルを構
成・設定するためのプレゼンテーションコ
ンポーネントである。プログラミングを
まったく行わずに、視覚的にモデルを作
成・設定することができる
プログラム部品の再利用のための仕組み
BESP
Boxed Economy Simulation Platform
Boxed Economy 基礎モデルに基
づいて作成されたモデル部品は粒
度やモデル化の基準が等しいた
め、研究者間のモデル部品の共
有や再利用が可能となる..
研究プロセスを支援する統合環境
「制御パネル」
「空間表示ウィンドウ」
「時刻表示ウィンドウ」
「データ登録ウィンドウ」、
「グラフ表示ウィンドウ」
「モデルコンポーザー」
「モデルコンポーネントビルダー」
など
Agenda
1
出発点
2
動的で複雑なモデルを作成するための方法と戦略
3
シミュレーションの作成と共有のための仕組み
4
Boxed Economy Project の取り組み
「経済社会のモデルフレームワークと
シミュレーションプラットフォームの構築」
Boxed Economy Project
慶應義塾大学
政策・メディア研究科
総合政策学部
環境情報学部
SFC研究所
千葉商科大学
政策情報学部
フジタ未来経営研究所
合資会社ニューメリック
井庭崇
中鉢欣秀
海保研
松澤芳昭
上橋賢一
山田悠
津屋隆之介
田中潤一郎
永見世央
森久保晴美
青山希
水鳥敬満
高部陽平
北野里美
廣兼賢治
浅加浩太郎
Boxed Economy Project への準備・立ち上げ
Sep. 1997
- Mar.1999
『複雑系入門』(NTT出版)の出版
市場シミュレーション研究
(井庭崇, 修士論文)
•家庭用VTRにおける規格競
争とWinner-Take-All現象
•株式市場におけるバブルの
生成と崩壊
Apr.1999
- Mar.2000
社会シミュレーションの部品の共
有化を目指した「 In-The-Boxプロ
ジェクト」を立ち上げる。
経済全体を組み込んだアドホック
なシミュレーションモデルを作成。
その結果、経済全体はあま
りにも複雑なので、ゼロから
作成することは困難であるこ
とを実感。
コンポーネントとフレーム
ワークの重要性を認識。
Apr.2000
- Aug.2000
「Boxed Economy Project」という
新しい名称のもとで再スタート
Boxed Economy 基礎モデルの初
期バージョンの開発
オブジェクト指向による分
析と設計
UML (Unified Modeling
Language: 統一モデリング言
語)の導入
Boxed Economy Projectによる研究開発
Sep. 2000
- Dec.2000
Boxed Economy 基礎モデルの
初期バージョンの整理・体系化
Boxed Economy Simulation
Platformのプロトタイピング
Java Beansによる実装
Boxed Economy 基礎モデ
ルの初期バージョン改良版の
実装
Jan.2001
- Jun.2001
Boxed Economy Simulation
Platformの初期バージョンの開発
Aug.2001
- Dec.2001
Boxed Economy Simulation
Platformの初期バージョンのリファ
クタリング。
デザインパターンの適用
ラショナル統一プロセス
(RUP)の一部導入
ユースケース駆動
• エクストリーム・プログラミン
グ(XP)の一部導入
• ペア・プログラミング
• ユニットテスト
Boxed Economy Simulation
Platform バージョン1.0βの開発
モデルコンポーザー
モデルコンポーネントビル
ダー
いくつかのプレゼンテーショ
ンコンポーネント
デザインパターン、RUP、
XPの導入
社会モデリングをめぐる2つの道
さらなる科学的進展へ
よりよい記述モデルの構築を目指す
現実を反映したいわゆる科学的モデル
科学の外へ
よりよいメンタルモデルの獲得を目指す
記述モデルは、あくまでメンタルモデルの修正・共有
のための表現・コミュニケーション手段
複雑系における「構成的理解」
シナリオ・プランニング
表現・コミュニケーション手段としての社会モデル
経済社会のモデルフレームワークと
シミュレーションプラットフォームの構築
Boxed Economy Project のアプローチ
1
出発点
2
動的で複雑なモデルを作成するための方法と戦略
3
シミュレーションの作成と共有のための仕組み
4
Boxed Economy Project の取り組み
井庭 崇
[email protected]
http://www.boxed-economy.org/